ミュウをレミアの元へ送り届けてから3日後。
準備を整えた拓也達は大迷宮のある『メルジーネ海底遺跡』へ出発することになった。
ハジメが世話になったレミア宅から出る際、
「パパ、いってらっしゃい!」
とミュウが叫ぶ。
その表情はもっと傍に居て欲しいが、パパの邪魔はしたくないという我慢をしているようだ。
更に、
「いってらっしゃい、あ・な・た♡」
と、微笑みながら手を振るレミア。
まるで仕事に行く夫を見送る妻と娘。
ハジメは苦笑しているが、満更でも無さそうだ。
それからハジメが作った潜水艦に乗り、大海原へ出航した。
大よその位置はミレディに聞いていたので、少し探せば見つかるかと思っていたが、いくら探してもそれらしい遺跡は見つからず、ミレディから聞いた『〝月〟と〝グリューエンの証〟に従え』というヒントに従い、夜を待つことにした。
やがて日が落ち、月が昇ってくると、ハジメはグリューエン大火山の攻略の証であるペンダントを取り出し、月に翳してみる。
ペンダントは、サークル内に女性がランタンを掲げている姿がデザインされており、ランタンの部分だけがくり抜かれていて、穴あきになっている。
暫くそうしていると、ペンダントに変化が訪れた。
「わぁ、ランタンに光が溜まっていきますぅ。綺麗ですねぇ」
「ホント……不思議ね。穴が空いているのに……」
シアが感嘆の声を上げ、香織が同調するように瞳を輝かせる。
「昨夜も、試してみたんだけど……」
「ふむ、ハジメよ。おそらく、この場所でなければならなかったのではないかの?」
ハジメが呟き、ティオがそう推測した。
ランタンに光を溜めきったペンダントは全体に光を帯びると、その直後、ランタンから一直線に光を放ち、海面のとある場所を指し示した。
「……なかなか粋な演出。ミレディとは大違い」
「本当。すんごいファンタジーっぽくて、僕、ちょっと感動してる」
「ミレディと比べたらダメじゃマキ」
「『おいでませ~』だからね~」
ユエ、ハジメ、ボコモン、ネーモンでそう評する。
「何か酷い言われようね………そのミレディって人…………」
「嫌な事でもされたの?」
何も知らない雫や優花がそう零すが、
「そりゃもう色々と………!」
拓也が凄まじく力の籠った声でそう言った。
「拓也がここまで嫌な顔をするとはな…………」
「逆に興味出てきたよ。そのミレディって人に」
輝二や輝一がそう漏らす。
それはともかく、手掛かりが出来たハジメは早速光が差す方向に潜水艇を進めた。
尚、恵理だがラーナモンなら水中でも自由に行動できるため、ラーナモンに進化し、潜水艇の外で素潜りしながら周辺の警戒に当たっている。
海の中を、ペンダントが示す光に従って進む潜水艇。
辿り着いた場所は、海底の岩壁地帯だった。
ハジメはさらに細かく潜水艇を動かし、光が差す場所へ進めると、ペンダントの光が海底の岩石の一点に当たった時、変化が起きた。
ゴゴゴッという音と共に岩盤が動き出し、新たに道が広がったのだ。
「なるほど……道理でいくら探しても見つからないわけだよ。あわよくば運良く見つかるかもなんてアホなこと考えるんじゃなかった」
「……暇だったし、楽しかった」
「そうだよ。異世界で海底遊覧なんて、貴重な体験だと思うよ?」
この場所は昼間にも探した場所だったので、無駄な徒労だったとガッカリするハジメにユエと香織がそう言った。
「う~む、海底遺跡と聞いた時から思っておったのだが、この〝せんすいてい〟? がなければ、まず、平凡な輩では、迷宮に入ることも出来なさそうじゃな」
「……強力な結界が使えないとダメ」
「他にも、空気と光、あと水流操作も最低限同時に使えないとダメだな」
「でも、ここにくるのに【グリューエン大火山】攻略が必須ですから、大迷宮を攻略している時点で普通じゃないですよね」
「もしかしたら、空間魔法を利用するのがセオリーなのかも」
それぞれが普通の人達がこの場所に来るためにどういう方法があるかと推理を始める。
と、そんな事を話していた時、突然潜水艇に衝撃が走った。
突然潮の流れが変わり、潜水艇が振り回されたのだ。
「うわっ!?」
「んっ!」
「わわっ!」
「きゃっ!」
「何じゃっ!?」
「うぉわっ!?」
「くっ………!」
「うわっ!?」
「きゃぁあああっ!?」
「きゃあっ!?」
「うわぁっ!?」
「のわっ!?」
「わ~!?」
それぞれが潜水艇の中で悲鳴を上げる。
だが、その衝撃も一瞬ですぐに収まった。
なぜなら、
「皆、大丈夫だったかい?」
潜水艇の操縦席の窓からラーナモンが顔を覗かせながらそう言っていた。
窓から外を見れば、潜水艇から一定範囲内の水は穏やかだが、そこから先は目に見えて水流が渦巻いている。
ラーナモンが水を操って潜水艇周辺を安定させたのだろう。
ラーナモンのお陰で、何とか探索の余裕が出来た俺達は、海底洞窟を回り、5カ所あるメルジーネの紋章にグリューエンの証の光を灯すというギミックを解き明かして先へと進んだ。
出て来る魔物もラーナモンが水を操って圧殺したり水流で引き裂いたりと、潜水艇には全くと言っていい程被害は無かった。
「これなんてヌルゲー?」
ハジメが思わず呟く。
「本当なら凄い大変な試練なんだろうけど…………」
「ラーナモンのお陰で完璧なイージーモードになってる」
それぞれが呟く。
出て来る魔物を倒して進んでいると、空気のある洞窟の様な空間に出た。
俺達は警戒しながら潜水艇の外へ出ると、そこは大きな半球状の空間だった。
如何いう原理かは分からないが、上を見れば水面があり、水滴一つ落ちることなくユラユラと波打っていた。
「どうやら、ここからが本番みたいだね。海底遺跡っていうより洞窟だけど」
「……全部水中でなくて良かった」
ハジメは、潜水艇を〝宝物庫〟に戻しながら、洞窟の奥に見える通路に進もうと俺達を促す。
そこで進化できるメンバーは進化し、準備を終えた所で先に進み始めた。
すると、
「香織」
「うん、〝聖絶〟!」
ハジメの呼びかけに頷くと、香織は障壁を展開した。
その直後、頭上からレーザーのように水流が襲いかかってくる。
しかし、
「はっ! 『水』の闘士である僕に水で攻撃してくるなんて、バカ以外の何者でも無いよ!」
ラーナモンがフィンガースナップを打ち鳴らすと、レーザーの様に放たれた水流が向きを変え、その発射元であるフジツボのような魔物を貫いた。
「「「「「「「「「「…………………………」」」」」」」」」」
その様子を呆気にとられた様子で見る全員。
一通り片付けた後に先へ進むと、今度は手裏剣の様なヒトデ型の魔物が飛んでくる。
ハジメ達は今度こそ身構えようとしたが、
「ジェラシーレイン!」
ラーナモンが発生させた酸性の雲が一行を覆うように護る。
すると、飛んできたヒトデ型の魔物が酸性の雲に突っ込み、次々と溶けて消えていった。
「「「「「「「「「「……………………………」」」」」」」」」」
再び無言になる一同。
更に足元の水中からウミヘビのような魔物が襲い掛かってくるが、ラーナモンが操った水に空中に放り投げられた後、酸性の雲に溶かされて消えるだけだった。
「ラーナモンの独壇場だね~」
ネーモンが呟く。
「ここは海底洞窟じゃハラ………『水』の力に溢れておるから今のラーナモンには、アンカジのオアシスの時とは比べ物にならない位の力が出せるんじゃマキ」
ボコモンがそう説明する。
「じゃが逆に………」
ボコモンはアグニモンへと視線を向けた。
「ああ。今の俺は、成熟期にも苦戦するだろうな」
アグニモンはそういう。
『火』の属性を持つアグニモンは、『水』のフィールドでは力が半減してしまう。
力が落ちている事はアグニモン自身にも実感できていた。
やがて通路を進み、広い空間に出た。
その直後、入り口がゼリー状の物体で塞がれたのだ。
「ッ!? 何だ!?」
アグニモンは思わず叫ぶ。
「私がやります! うりゃあ!!」
最後尾のシアが入り口を塞いだゼリー状の物体にドリュッケンを振るう。
しかし、表面が飛び散っただけで壁は破れない。
「ひゃわ! 何ですか、これ!」
シアが突然声を上げる。
全員がそちらを向くと、先程飛び散ったゼリー状の物体の一部がシアの胸元に付着しており、衣服が溶け出していた。
「シア、動くでない!」
咄嗟にティオが絶妙な火加減でゼリー状の飛沫だけを焼き尽くした。
少し皮膚にもついてしまったようでシアの胸元が赤く腫れている。
「溶解液か!?」
ヴォルフモンが叫んだ。
「っ! また来るぞ!」
レーベモンが叫ぶと、今度は天井から先程と同じゼリーの様な物で出来た触手が襲い掛かってくる。
「皆! 集まって!」
香織がそう言って障壁を展開する。
更に、ティオが炎を繰り出して、触手を焼き払いにかかった。
「香織の防御とティオの攻撃のコンボって、割と反則臭いね」
本場の結界師顔負けの展開速度と強度に、それに護られながら攻撃可能。
相手からしてみれば、ムリゲーの一言である。
「……ハジメ君。このゼリー、魔法も溶かすみたい」
香織の言葉に障壁を見ると、じわじわと溶かされている。
「ふむ、やはりか。先程から妙に炎が勢いを失うと思っておったのじゃ。どうやら、炎に込められた魔力すらも溶かしているらしいの」
ティオもそう言う。
すると、天井から液体の様なものが染み出し、空中に留まるように集まって形を成していく。
それは、
「クリオネ………?」
フェアリモンが呟く。
「全長10mのクリオネってただの化け物じゃない?」
雫がそう突っ込んだ。
その巨大クリオネは予備動作無しに全身から触手を伸ばし、更に頭部らしき場所から先程のゼリーの飛沫を飛ばす。
それを香織の障壁で防ぎつつ、ユエはティオと一緒に巨大クリオネに向けて火炎を繰り出した。
シアも、ドリュッケンを砲撃モードに切り替えて焼夷弾を撃ち放つ。
それらの攻撃は巨大クリオネに命中し、その身体を爆発四散させる。
それぞれは一丁上がりと言わんばかりにドヤ顔をするが、
「まだだよ! 反応が消えてない! 何これ………? 魔物の反応が部屋全体に……」
ハジメが警告を発する。
直後、爆発四散したはずの巨大クリオネが元通りに再生する。
更に、その体内には先程ハジメ達が倒した魔物があり、それが溶かされて吸収された。
「ふむ、どうやら弱いと思っておった魔物は本当にただの魔物で、こやつの食料だったみたいじゃな……ハジメよ。無限に再生されてはかなわん。魔石はどこじゃ?」
「そういえば、透明の癖に魔石が見当たりませんね?」
ティオをシアがそう言うが、ハジメは困惑した表情を浮かべている。
「……ハジメ?」
ユエが問いかけると、
「……ないんだ。あいつには、魔石がない」
ハジメが驚愕の事実を言い放った。
「ハ、ハジメくん? 魔石がないって……じゃあ、あれは魔物じゃないってこと?」
「わからない。けど、強いて言うなら、あのゼリー状の体、その全てが魔石みたい。僕の魔眼石には、あいつの体全てが赤黒い色一色に染まって見える。あと、部屋全体も同じ色だから注意して。あるいは、ここは既にあいつの腹の中だ!」
「それはつまり、奴を倒すには一遍も残さずに焼き尽くすなり消滅させないといけないという事か?」
レーベモンがそう問いかけると、
「そういうことになるね…………」
「厄介な………!」
そうこう言っている間にハジメが火炎放射器を取り出して、壁を焼き払う。
壁は擬態しているクリオネの一部らしく、ボロボロと剥がれていく。
しかし、半透明のゼリーは、燃やしても燃やしても壁の隙間や割れ目から際限なく出現し、遂には足元からも湧き出した。
「くっ! アグニモン! 焼き尽くせない!?」
ハジメはアグニモンに呼びかけた。
アグニモンは両拳を合わせ、炎を発生させ、
「バーニングサラマンダー!!」
両腕から火炎を放った。
炎が巨大クリオネを包み込んだが、表面の幾何かを焼き尽くしただけで、炎が消えてしまう。
「くっ! やっぱりこの場所じゃ力が出ない………」
アグニモンは悔しそうに歯噛みする。
「私の技じゃ、クリオネの身体を飛び散らせるだけよ」
フェアリモンがそう言い、
「俺の技も同じくだ」
グロットモンも答える。
「俺の技も斬撃と射撃だから相性が悪い……!」
ヴォルフモンがそう言うと、
「俺ならば可能性は無くは無いだろうが…………奴を倒す前に洞窟が崩落する可能性が高いだろう」
クリオネを消し飛ばす威力で攻撃すれば、クリオネを貫いて洞窟にダメージを与えてしまうだろう。
「ブリッツモンやチャックモンだったら、こういう相手は得意なんだろうけど………」
アグニモンはそう言いながらクリオネが繰り出してくる触手を躱す。
「じゃあやっぱり、ここも僕の出番だね!」
ラーナモンがそう言いながらクリオネの前に進み出た。
「ラーナモン!」
レーベモンが叫ぶ。
「大丈夫だって! 『水』のフィールドなら僕は負けないからさ!」
ラーナモンがそう言うと、デジコードに包まれた。
「ラーナモン! スライドエボリューション!」
ラーナモンは使用スピリットをビーストスピリットに変更する。
デジコードが消えた時、そこに居たのはクリオネに負けない大きさの逆さまのイカだ。
すると、その足が広げられていき、その中から現れたのは、
「カルマ―ラモン!!」
女性の上半身だった。
しかし、
「んんっ………!?」
アグニモンが怪訝な声を漏らす。
「如何したの?」
フェアリモンが尋ねると、
「いや………何か記憶よりカルマ―ラモンの人間部分が違う様な………」
アグニモンが首を傾げる様に考え込んだ。
アグニモンの記憶では、カルマ―ラモンの女性の上半身は、控えめに言っても性悪で、言っては悪いがオバサンのような姿だった筈だ。
しかし、今のカルマ―ラモンはどちらかと言えば、妖艶さが伺える熟女のような印象を受ける。
「カルマ―ラモンって、もうちょっとオバサン臭かったよね?」
ネーモンがドストレートにそう言う。
「ワシにも分からん。もしかしたら、これも恵理はんの影響かもしれんマキ」
ボコモンも首を傾げる。
すると、クリオネがカルマ―ラモンに向かって触手を伸ばす。
だが、
「はっ! 手数なら負けないよ!」
カルマ―ラモンは襲い来る無数の触手を、10本の足で次々と叩き落していく。
更に息を吸い込む仕草をすると、
「ネーロコルソ!」
その口から墨を噴いた。
その墨がクリオネや周辺の岩に掛かると、ジュウジュウという音と共に溶けていく。
岩すらあっという間に溶かす溶解性の墨。
それがこの技だ。
巨大クリオネがどんどん形を崩していく。
「ハジメ! どうだ!?」
アグニモンが呼びかけると、
「魔力反応はどんどん減って来てる! でも周りの壁や床にまだ残ってる! 逃がさないで!」
「分かった!」
アグニモンやユエ、ティオが炎を放って焼き尽くしていく。
ハジメも火炎放射器でクリオネの一部を焼き払って行く。
やがて目に見える範囲を焼き尽くすと、
「……………魔眼石にも反応は無いね。完全に焼き尽くしたか、もしくは感知できないレベルまで弱らせたか…………もし後者だったとしても、元のあの大きさに戻るには、時間が必要になると思うよ」
ハジメはそう判断して警戒を解いた。
倒した巨大クリオネ以外に厄介な敵は存在せず、拓也達は順調に先へ進んでいくと岩石地帯に出た。
そこにはおびただしい数の帆船が半ば朽ちた状態で横たわっていた。
そのどれもが100mはありそうな帆船ばかりで、遠目に見える一際大きな船は300mはありそうだ。
「これは……船の墓場ってやつか?」
「すごい……帆船なのに、なんて大きさ……」
拓也達はその中を警戒しながら先へ進む。
「それにしても……戦艦ばっかだな」
「うん。でも、あの一番大きな船だけは客船っぽいよね。装飾とか見ても豪華だし……」
それらの戦艦は、映画などで見る海賊船の様に、船の側面に大砲が並んでいる物は無い。
この世界では今現在でも大砲や銃の様な銃器機器は発明されておらず、過去に無いのも当然だろう。
その為、魔法使いが砲台代わりとなって砲撃戦を繰り広げたのだろうと予想する。
その予想は、予想外の出来事によって証明された。
――うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
――ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
「何だ!?」
「見て! 周りがっ!」
俺が思わず声を漏らすと、周りの景色がぐにゃりと歪み、気が付けば一行は大海原の上に浮かぶ船の甲板に立っていた。
そして、周囲に視線を巡らせば、そこには船の墓場などなく、何百隻という帆船が二組に分かれて相対し、その上で武器を手に雄叫びを上げる人々の姿があった。
「な、なんだこれは……」
「私達………夢でも見てるの…………?」
輝二と雫が呆然と呟く。
「でもこの迫力………ただの映像とは思えないわ。雄叫びによる空気の震えがビリビリ来るもの…………」
その言葉に対して優花がそう言う。
そうこうしている内に、大きな火花が上空に上がり、花火のように大きな音と共に弾けると、何百隻という船が一斉に進み出した。
拓也達が乗る船と相対している側の船団も花火を打ち上げると一斉に進み出す。
そして、一定の距離まで近づくと、そのまま体当たりでもする勢いで突貫しながら、両者とも魔法を撃ち合いだした。
無数の魔法が交差し合い、それぞれの船、乗組員を吹き飛ばしていく。
その時、1発の火球が拓也の傍に着弾する。
「あちっ!?」
拓也は紛れもなく熱を感じる。
「拓也!?」
優花が声を上げる。
すると、再び火球が迫ってくる。
「このっ!」
優花が投げナイフを火球に投げつけた。
ナイフは逸れる事無くその火球に直撃…………するかに思われたが、するりとすり抜けた。
「えっ!?」
優花が驚いた声を漏らす。
その火球を咄嗟に避けるが、やはり熱を感じる。
「どういう事? 向こうの攻撃は通じるのにこっちの攻撃はすり抜ける!」
ハジメもドンナーで撃ち落とそうとしたが、その弾丸もすり抜ける。
「ハジメ君!」
ハジメに向かって来た火球に対し、香織は障壁を展開する。
「香織!?」
ハジメは障壁をすり抜ける事を危惧したのか、〝金剛〟を発動させながら香織の前に立ちはだかる。
しかし、ハジメの心配を他所に、その火球は障壁によって防がれた。
「防いだ………?」
ハジメが怪訝な声を漏らす。
ナイフやドンナーによる攻撃はすり抜けたのに、香織の障壁はすり抜けなかった。
「はぁあっ!!」
拓也が向かって来た火球に炎を放つ。
すると、炎が火球を飲み込み、掻き消した。
そこでハジメが気付いた。
「皆! 魔力を使った攻撃を!」
ハジメはそう叫ぶ。
「ッ! そうか!」
輝二が光の魔力を収束してレーザーを放つ。
飛んできた火球を撃ち抜き、四散させる。
「皆! おそらくこれは魔力を使わないと影響を与えられない! 魔力を伴う攻撃を!」
ハジメは皆にそう叫ぶ。
ハジメは〝風爪〟を発動して飛んでくる火球を切り裂く。
「〝凍雨〟」
ユエが氷の刃を降らせて火球を撃ち落とす。
「ここじゃ!」
ティオも炎魔法で火球を撃墜していく。
その時、拓也達と同じ船に乗っていた乗組員の1人が負傷し、近くに倒れる。
「大丈夫ですか………!?」
香織は放っておくことは出来なかったのか、回復魔法を行使する。
すると、傷が治るどころかその乗組員は光の粒子となって消えてしまった。
「え? えっ? ど、どうして……」
「魔力さえ伴っていれば、攻撃魔法に限定する必要は無いって事かな?」
ハジメが、乗組員が消えてしまった理由を推測する。
その理由に納得したのか、皆も頷く。
すると、
「全ては神の御為にぃ!」
「エヒト様ぁ! 万歳ぃ!」
「異教徒めぇ! 我が神の為に死ねぇ!」
血走った目に涎を垂らしながら叫ぶその姿はまさしく狂人だ。
「気持ち悪いわね…………」
優花が顔を顰めながらそう呟く。
「狂信者という奴かのう?」
「この全員が?」
ハジメはやれやれと肩を竦めると、
「さて、どうすれば、この気持ち悪い空間から抜け出せるのかな?」
とりあえずこの場の解決策を模索する。
「一番分かり易いのは全員倒す事か?」
「ま、それが妥当だろうね。これだけの数を殲滅するのは面倒だけど、回復魔法も効果があるならやりようはある。ね、香織」
「うん、分かってる」
香織はハジメの言葉に頷いて手を天に掲げると、
「〝聖典〟」
上級範囲回復魔法を発動させた。
普通の魔法使いなら10数人がかりで、その上長時間の詠唱とバカでかい魔法陣が必要になり、半径500m以内の全員を纏めて回復させるものだ。
しかし、それを白崎さんは詠唱、魔法陣無しのノータイムで行使し、その上その効果範囲は半径数キロに及ぶ。
チートにも程があった。
効果範囲内にいた船の兵士達は全員が消え去る。
この大海原の大艦隊はたった1人の治癒師によって、30分と掛からずに全滅した。
最後の兵士を倒した時、再び景色が歪んで俺達は元の場所にいた。
「今の、何だったのかな?」
香織が疑問を口にする。
ハジメは、少し考えたあと推測を話した。
「おそらくだけど、昔あった戦争を幻術か何かで再現したんだと思う……迷宮の挑戦者を襲うという改良は加えられているみたいだけど……あるいは、これがこの迷宮のコンセプトなのかもしれない」
「コンセプト?」
「うん。大迷宮にはそれぞれ、〝解放者〟達が用意したコンセプトがあるんじゃないか? って。それが当たっているとすれば、ここは……」
「……狂った神がもたらすものの悲惨さを知れ……かな?」
「うん、そんな気がする」
別の世界の住人である拓也達だから狂った奴らだなと他人事で済んだが、この世界の人間からすれば自殺ものだ。
拓也達がさらに進むとこの船の墓場で一番目立つ300mほどもある船の残骸の下へ辿り着いた。
残骸と言っても、原型は留めている。
「こいつだけ他の船とは違うな………」
幸利はその船を見上げながら呟く。
「そうね………他は戦艦だけど…………これは豪華客船みたいな感じがあるわ………」
雫が頷く。
明らかに怪しいという事で、一行はその船を調べることにした。
それぞれの方法で豪華客船の最上部にあるテラスへと降り立つ。
すると案の定、周囲の空間が歪み始めた。
「またか……皆、気をしっかり持って。どうせ碌な光景じゃないよ」
ハジメの推測に皆はさっきよりもエグイ光景を予想していた。
しかし、景色が完全に変わると、そこは煌びやかなパーティー会場だったことに、全員は呆気にとられた。
時刻は夜で、満月が夜天に輝いており、テラスから見える眼下の甲板は豪華な料理と着飾った人々で賑わっていた。
「パーティー……だよね?」
「うん。随分と煌びやかだ……メルジーネのコンセプトは勘違いだったかな?」
ハジメは肩透かしを食らった気分になっている。
すると、背後の扉が開いて数人の乗組員が談笑しながら一服し始めた。
その話の内容によると、この海上パーティーは、終戦を祝う為のものらしい。
長年続いていた戦争が、敵国の殲滅や侵略という形ではなく、和平条約を結ぶという形で終わらせることが出来たのだという。
「こんな時代があったんですね…………亜人族も居ますよ」
「ん…………あそこに居るのは魔人族」
シアやユエが甲板を見下ろしながら指差し、各種族が種族の壁を越えて談笑している。
「終戦のために奔走した人達の、まさに偉業だな。終戦からどれくらい経っているのか分からないが……全てのわだかまりが消えたわけでもないだろうに……あれだけ笑い合えるなんてな……」
「きっと、あそこに居るのは、その頑張った人達なのね………皆が皆、直ぐに笑い合えるわけじゃないだろうし……」
輝二の言葉に雫もそう言う。
「そうだな……」
輝一も頷く。
眼下のパーティーを眺めていると、甲板に用意されていた壇上に初老の男が登り、周囲に手を振り始めた。
それに気がついた人々が、即座におしゃべりを止めて男に注目する。
どうやらよほどこの男性は敬われている様だ。
ふとその近くには側近と思われる人物とは別に、いかにも怪しげなフードを被った人物が控えている。
「諸君、平和を願い、そのために身命を賭して戦乱を駆け抜けた勇猛なる諸君、平和の使者達よ。今日、この場所で、一同に会す事が出来たことを誠に嬉しく思う。この長きに渡る戦争を、私の代で、しかも和平を結ぶという形で終わらせる事が出来たこと、そして、この夢のような光景を目に出来たこと……私の心は震えるばかりだ」
男性の演説に、パーティーの参加者たちは涙ぐんだり、遠い目をしたりしている。
話を聞いていると、どうやら演説している男は人間の国の王様のようだ。
相当初期から和平の為に取り組んでいたようで、各種族問わず敬意の視線を向けられている。
だが、演説が終盤に差し掛かるにつれ熱に浮かされた様に盛り上がる………と言うより、何かに取り憑かれたように声に力が入っている。
そして、
「――こうして和平条約を結び終え、一年経って思うのだ………………実に、愚かだったと」
その言葉に一瞬パーティー会場が静まり返る。
拓也達も同時に声を失った。
「そう、実に愚かだった。獣風情と杯を交わすことも、異教徒共と未来を語ることも……愚かの極みだった。わかるかね、諸君。そう、君達のことだ」
「い、一体、何を言っているのだ! アレイストよ! 一体、どうしたと言うッがはっ!?」
王様である男に魔人族の男性が問い詰めようとして、背中から人間族の男に剣で貫かれた。
振り返った魔人族の男は、何故お前がと言わんばかりの表情で崩れ落ちた。
「陛下ぁっ!」
どうやら刺された魔人族の男は魔人族の国の国王の様だ。
側近と思われる男女が駆け寄る。
「さて、諸君、最初に言った通り、私は、諸君が一同に会してくれ本当に嬉しい。我が神から見放された悪しき種族ごときが国を作り、我ら人間と対等のつもりでいるという耐え難い状況も、創世神にして唯一神たる〝エヒト様〟に背を向け、下らぬ異教の神を崇める愚か者共を放置せねばならん苦痛も、今日この日に終わる! 全てを滅ぼす以外に平和などありえんのだ! それ故に、各国の重鎮を一度に片付けられる今日この日が、私は、堪らなく嬉しいのだよ! さぁ、神の忠実な下僕達よ! 獣共と異教徒共に裁きの鉄槌を下せぇ! ああ、エヒト様! 見ておられますかぁ!!!」
膝を付き天を仰いで哄笑を上げる。
その直後、おそらく乗組員に扮していたであろう兵士達がパーティーの参加者たちを囲う様に現れ、魔法を容赦なく撃ち込んだ。
殆どは甲板で、魔法によって殺され、海に飛び込んだ者も、予め予想していたのか兵士達が乗った小舟が船を囲む様に配置されており、1人も逃がさないとばかりに容赦なく魔法を撃ちこまれて息絶えていった。
「酷い………どうして…………?」
雫が口を押さえながらそう零す。
すると、再び景色が歪んで俺達は元の場所に戻っていた。
「今ので終わりかな? 私達、何もしてないけど……」
「この船の墓場は、ここが終着点。結界を超えて海中を探索して行くことは出来るけど……普通に考えれば、深部に進みたければ船内に進めという意味なんじゃないかな? あの光景は、見せることそのものが目的だったのかも。神の凄惨さを記憶に焼き付けて、その上でこの船を探索させる……中々、嫌らしい趣向だよ。特に、この世界の連中にとってはね」
ハジメが推測を口にする。
見れば、船内へ続く通路が、一行を誘うように闇を抱えて待ち構えていた。
次回予告
船の探索を進める一行。
次々に襲い来る亡霊達。
拓也達は無事神代魔法を手に入れる事ができるのか!?
次回、ありふれたフロンティアへ
第26話 恐怖! 異世界の幽霊船探索!
今、ありふれた伝説が進化する。
はい、第25話の投稿です。
休日出勤+FFⅦ REVERSEで執筆時間削られまくってコピペ利用で投稿です。
メルジーネ攻略まで行きたかったけど時間が無かったです。
とりあえずラーナモン無双な回でした。
次回は………どうすっかな………
ともかく次も頑張ります。
PS.今週の返信はお休みします。
『鋼』のスピリットの形態はどうする?
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メルキューレモン、セフィロトモンのまま
-
既存の別デジモンを引っ張って来る
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オリジナルデジモンで!