ありふれたフロンティアへ   作:友(ユウ)

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第28話 復活の融合進化! アルダモン飛翔!!

 

 

銀髪の修道女に攫われた愛子は、神山の教会の塔の最上階に幽閉されていた。

狭い部屋に木製のベッドと机と椅子、そしてむき出しのトイレという不衛生極まりない場所で、愛子はベッドで壁に寄りかかりながら三角座りをして蹲っていた。

愛子の腕には魔法を封じるアーティファクトの腕輪が嵌められており、現在魔法が使えず、脱出できない状況であった。

 

「南雲君………神原君………」

 

気を失う前に銀髪の修道女が呟いていた『イレギュラー』という言葉が、ハジメや拓也達を指している事であるとしか思えず、思わずその名を呟く愛子。

すると、

 

「はい、何ですか先生?」

 

「はわっ!?」

 

返事が返って来たことに、思わず素っ頓狂な声を漏らす愛子。

声のした方に振り向けば、鉄格子に遮られた窓からハジメの顔が覗いていた。

 

「ななな……!? 南雲君!?」

 

ハジメがいた事に盛大に驚く愛子。

 

「俺もいるぞ」

 

続いてハジメが窓の上に動いたかと思うと、その下から炎の魔竜ヴリトラモンが顔を覗かせた。

 

「ほわっ!? その姿は神原君のっ!?」

 

再び驚く愛子。

ハジメがヴリトラモンの背に乗っている状態だったのだ。

すると、ハジメが錬成を使って壁を崩す。

 

「こんばんは、先生。どうやら無事のようですね」

 

ハジメは部屋の中に降り立つと、安堵した様にそう言った。

愛子はその姿にポカンとしていたが、すぐにハッとなり、

 

「お、お2人はどうしてここに!?」

 

思わずそう問いかけた。

 

「もちろん先生を助けに来たんですよ」

 

「王宮を抜け出してきた王女様にお願いされてな。先生が攫われる所を目撃してたんだ」

 

「王女……リリアーナ姫ですか」

 

「はい。それよりも、すぐに皆と合流します。それからこれからどうするのかを話し合いましょう」

 

「はい」

 

その時、

 

―――ドォオオオオオオオオオン!

 

遠くで爆発音のような音が響いた。

 

「な、何ですか今の音!? 遠くで何かが砕けた様な……!」

 

愛子が驚いていると、ハジメが念話石を取り出し仲間と連絡を取る。

 

「ハジメ、何があった?」

 

ヴリトラモンが問いかけると、

 

「王都の大結界が破られた。魔人族の襲撃みたい」

 

ハジメがそう答える。

 

「魔人族の襲撃!? それって……」

 

「はい。現在ハイリヒ王国は侵攻を受けているという事です。仲間から念話で報せが来ましたが、魔人族と魔物の大群だそうです。完全な不意打ちですね」

 

「そ、そんな……! 大変です!」

 

「先生はとりあえず天之河君達と合流させます。話はそれからです」

 

「は、はい!」

 

愛子が返事を返す。

そして、ハジメが愛子をヴリトラモンの背に乗せた時、ヴリトラモンの後方から銀色の光が迸った。

 

「「!?」」

 

ヴリトラモンとハジメが目を見開く。

その直後、その場を光が覆いつくした。

光が収まると、彼らがいた塔が跡形もなく崩れ去っていた。

 

「何……今の………轟音も無く莫大な熱量で消失したわけでもない………ただ砕けた………あれだけの質量が一瞬で…………」

 

塔だった場所の上空に退避したヴリトラモンの背から見下ろしていたハジメが驚愕しながら今の攻撃の正体を推測する。

そして、辿り着いた答えは、

 

「まさか………分解した?」

 

ハジメがそう呟くと、

 

「ご名答です。イレギュラー」

 

ヴリトラモンより更に上空から澄んだ女性の声で答えが返って来た。

ヴリトラモンが見上げると、そこには1人の人影が空中に佇んでいた。

それは銀髪碧眼の女性だった。

ヴリトラモンやハジメは、その女がリリアーナの言っていた愛子を攫った女だと直感する。

だが、その服装は修道服ではなく、白を基調としたドレス甲冑のようなものを纏っていた。

ノースリーブの膝下まであるワンピースのドレスに、腕と足、そして頭に金属製の防具を身に付け、腰から両サイドに金属プレートを吊るしている。

まるで創作物に出て来るヴァルキリーの様だ。

すると、その背から銀色の光を放つ翼が広がる。

 

「ノイントと申します。〝神の使徒〟として、主の盤上より不要な駒を排除します」

 

言葉使いは丁寧だが、明らかな敵意を持って宣戦布告の様にそう言い放ったノイントと名乗る女。

手を広げると、翼の光が強まり、

 

「消えなさい。イレギュラー」

 

銀光を纏った羽根が嵐の様に射出された。

 

「チィ!」

 

「このっ!」

 

ヴリトラモンがコロナブラスターを。

ハジメが愛子を左腕で庇いながら、右手のドンナーを連射して羽根を相殺する。

 

「ひゃあ!」

 

余りの攻撃の激しさに愛子が悲鳴を零す。

 

「先生! もう少し我慢して! もうすぐ仲間が来るから! そうしたら地上に降りられる!」

 

ハジメがそう言う。

戦うだけならヴリトラモン単独で事足りるが、愛子が無防備になってしまえばそちらを狙われる可能性があり、ハジメが一緒でも攻撃を凌ぎきるには不安があった。

その為、先程ティオに連絡し、応援に駆けつけて貰うように言ったのだ。

 

「雑談とは余裕ですね、イレギュラー!」

 

ノイントの右手に鍔無しの大剣が現れ、それを振り被って突っ込んでくる。

 

「させるか!」

 

ヴリトラモンが左腕のルードリー・タルパナで大剣を防ぐ。

 

「ッ!」

 

その一撃に、傷一つ付かなかった事に、ノイントが無表情ながらも驚いた気がした。

だが、直後に左手にも同じ大剣を出現させると、大剣の二刀流で斬りかかって来た。

ステータスの低い愛子がいる為、あまり激しい動きをしない様に気を遣いながら戦っているので、上手く反撃できないが、ノイントの攻撃を的確に防いでいくヴリトラモン。

 

「……足手纏いを抱えて尚、これだけ凌ぐなど……やはり、あなた方は強すぎる。主の駒としては相応しくない」

 

そう言うノイント。

 

「『駒』ね………」

 

その言葉にヴリトラモンは腑に落ちた様にそう呟く。

その時、

 

「ご主人様達、待たせたの」

 

黒竜の姿のティオがこの場に到着した。

 

「ティオ! ナイスタイミングだ! 先生を頼む! ハジメ! ティオと一緒に先生を護ってくれ!」

 

「うん! 任せて!」

 

ハジメが愛子を抱えてティオの背に飛び乗る。

 

「か、神原君! お気をつけて!」

 

愛子はそう声を掛ける。

離れるティオを見送ると、ヴリトラモンはノイントに向き直る。

 

「待たせたな。ここからが本番だ」

 

「足手纏いがいなくなった程度で、この私に勝てるとでも?」

 

「試してみるか?」

 

ヴリトラモンが不敵に笑いながらそう言うと、ノイントは再び翼を広げて銀光に包まれた羽根を射出する。

先程までは、愛子やハジメに被害が及ぶため、撃ち落とす必要があった。

しかし今は、

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

ヴリトラモンはその銀の嵐の中に突っ込む。

あらゆるものを分解する力を持つ銀光。

しかし、ヴリトラモンはその銀光を受けても分解される事無く突き進んでいく。

 

「なっ………!?」

 

流石に銀光の中を突っ切ってくるのは予想外だったのか、ノイントは驚きの声を漏らす。

デジモンには直接作用する魔法は通用しない。

分解能力も要は魔力で物質に干渉し、分子結合を崩壊させる能力だ。

いくら強力な分解能力でも、魔力に影響を受けないデジモンには通用しなかった。

振るわれる腕の一振りをノイントは紙一重で躱す。

しかし、

 

「くっ……!?」

 

その時に巻き起こる衝撃がノイントを吹き飛ばす。

ノイントは翼を広げて制動を取り、舞い散る羽根で魔法陣を描いた。

そして、

 

「〝劫火浪〟」

 

辺り一帯が灼熱の炎に包まれた。

 

「神原君!」

 

ヴリトラモンが炎に包まれた瞬間を目撃した愛子が声を上げる。

しかし、

 

「安心するがよい、先生殿。ご主人に炎は通用せん」

 

そう言ったティオの言葉通り、炎の中から無傷のヴリトラモンが姿を見せる。

 

「これも耐えると言うのですか………」

 

それを見てノイントが冷静ながらも、何処か信じられないという雰囲気を感じさせる。

だが、それでもノイントは両手の大剣を上段に振り被りながらヴリトラモンに突っ込み、振り下ろす。

だが、

 

「むんっ!」

 

ヴリトラモンは、振り下ろされた2本の大剣を、左右それぞれの手で掴み取った。

 

「ッ……!?」

 

ノイントは目を見開く。

そして次の瞬間、ヴリトラモンが力を入れると、大剣がそれぞれ掴んでいる所から罅が入り、砕け散った。

ヴリトラモンが、握力だけで大剣を握り砕いたのだ。

 

「くっ……!」

 

距離を取るノイント。

すると、

 

「………まだ続けるのか? わかっているだろう。俺とあんたの力の差は歴然だ。アンタに勝ち目はない。降参しろ」

 

ヴリトラモンはそう言い放つ。

 

「…………却下です」

 

「理由を聞いても?」

 

「それが主が私に下した命だからです。イレギュラー、主はあなた方の死をお望みです。あらゆる困難を撥ね退け、巨大な力と心強い仲間を手に入れて……そして、目標半ばで潰える。主は、あなた方のそういう死をお望みなのです。私は、その望みを叶える為に行動するのみ」

 

「………さっきも言ったが、お前に勝ち目はないぞ」

 

「関係ありません。主がそれを望んでいる以上、それを叶えるのが私の役目」

 

「………………それが、お前の選んだ『選択』なのか?」

 

ヴリトラモンが問いかける。

 

「選択などありません。『主が望んだ』。それが絶対なのです」

 

淡々と答えるノイントの言葉に、ヴリトラモンは怒りを感じた。

 

「『選択肢』すら与えないとは………ふざけたヤローだな………!」

 

この場に居ない『エヒト』に対して。

 

「………お前には悪いが、その望みは絶たせてもらう……!」

 

そう言い放つヴリトラモン。

その言葉に、ノイントは目を伏せた。

確かにこのままでは勝ち目はない。

それはノイント自身にも分かっていた。

ノイントは再び目を開ける。

そして、自分の右手首に付けられている金色の腕輪に視線を落とした。

 

「………………あの者の力を借りるのは癪ですが…………」

 

ノイントはそう言うと、その金色の腕輪がついた右手を掲げる。

 

「主の望みを叶える為には、手段を選んではいられません…………」

 

「ッ!?」

 

ヴリトラモンは、その右手に付けられている金色の腕輪を見て、既視感を感じた。

 

「あの腕輪………何処かで………?」

 

ヴリトラモンはよく知らないが、それはホーリーリングと呼ばれ、聖なる力を持つデジモンがよく身に付けている物だ。

そのままノイントの様子を窺っていると、ホーリーリングが輝いた。

そのホーリーリングから青い光の帯―――デジコードが発生する。

 

「デジコード!?」

 

ヴリトラモンが驚愕の声を上げる。

そのデジコードがノイントを包み込んだ。

それはまるで、拓也達がスピリットを使って進化する光景に酷似している。

 

「まさか………ノイントが………!?」

 

そのデジコードが順に消えていくと、その中から現れたのはノイントとは全く違う姿をしていた。

色こそ金色だが、その形は悪魔の翼とも言うべき2対4枚の翼。

ほの暗い翠の鎧。

身の丈ほどの炎を纏う大鎌。

そして鉄色の顔と紅の瞳の女性の姿。

 

「………デジモンに………進化した………!?」

 

ヴリトラモンは驚愕すると同時に、その姿が何故かあるデジモンと重なった。

 

「………………オファニモン?」

 

姿は全く違うはず。

強いて言うなら共通点は女性型のデジモンである事と金色の髪ぐらいだろうか。

それでも何故かヴリトラモンにはその姿がオファニモンに見えた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【Digimon Analyzer】

 

 

 

オファニモン:フォールダウンモード:究極体 堕天使型 ワクチン種

 

必殺技:フレイムヘルサイズ デモンズクリスタル

 

 

備考: 怒りのあまり自らの感情を殺し、狂気に落ちたオファニモンの姿。

正義の弊害になると判断した相手は誰であろうと狩り、自分が認める正義の世界を築き上げようとする。必殺技は、炎を纏う大鎌『フレイムヘルサイズ』と暗黒のエネルギーを込めた宝石を召喚し撃ち出す『デモンズクリスタル』。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

オファニモン:フォールダウンモードとなったノイントは紅の瞳でヴリトラモンを見据える。

そして、

 

「ッ!?」

 

一瞬でヴリトラモンの懐に飛び込んできた。

ヴリトラモンは咄嗟に腹部をガードするが、

 

「ッ!」

 

オファニモンFMは構わずに拳を繰り出した。

その一撃は、ガードごとヴリトラモンを吹き飛ばす。

 

「ぐぅぅっ……!?」

 

予想以上の一撃の威力に、ヴリトラモンは堪らず声を漏らす。

すると、オファニモンFMはその殴った手を確かめるように握ったり開いたりする。

 

「…………なるほど。確かにこれはすさまじい力です」

 

オファニモンFMはそう漏らす。

 

「………何故、お前がデジモンの力を………!?」

 

ヴリトラモンが問いかけると、

 

「………………これから死ぬあなたには知る必要のない事です」

 

オファニモンFMは淡々とそう告げると、手を前に翳し、十の黒い宝石を出現させた。

そして、

 

「デモンズクリスタル………!」

 

その黒い宝石が発射させる。

 

「くっ!?」

 

ヴリトラモンは咄嗟にそれを躱した。

狙いを外した十の宝石はそのまま神山の頂上付近に着弾し、轟音と共に頂上周辺を吹き飛ばした。

 

「………何て威力だ………」

 

その威力に戦慄するヴリトラモン。

しかし、ある物を見て目を細める。

それは、着弾地点から離れた場所にあったにもかかわらず、余波により結界ごと吹き飛んでしまった教会だ。

 

「…………なあ、1つ聞きたいんだが………」

 

ヴリトラモンは言葉を投げかける。

 

「何でしょう?」

 

「今の一撃で教会が吹き飛んだぞ? お前のご主人様を崇め称える信者の総本山だ。それはいいのか?」

 

「………………確かに教会を巻き込んでしまったのは予想外でしたが主の命を遂行する為には些細な事です」

 

「…………つまり、エヒトとやらは信者………延いては人間族が死んでも何も困ることは無いって事か」

 

ヴリトラモンは、解放者達から聞いた話に信憑性があると感じた。

そしてオファニモンFMを再び見据えると、

 

「行くぞ!」

 

腕のルードリー・タルパナを反転させ、銃口を向け、

 

「コロナブラスター!!」

 

熱線を連続で放つ。

その熱線は、通常のノイントならあっという間にハチの巣に出来る威力なのだが、

 

「…………………………」

 

オファニモンFMとなった今のノイントは、左手を前に出すだけでその熱線を全て防いでいく。

 

「チッ!」

 

ヴリトラモンは、攻撃が効いていないことに舌打ちする。

 

「それで終わりですか?」

 

オファニモンFMはそう問うと、

 

「それでは今度はこちらから行きます」

 

オファニモンFMは背中に背負っていた大鎌を手に取ると、それを振り被りながら突っ込んでくる。

 

「ぐっ!」

 

ヴリトラモンは咄嗟にルードリー・タルパナで防御したが、かなりの防御力がある筈のルードリー・タルパナには深い傷が付いた。

ヴリトラモンは一旦距離を取ると、全身から炎を噴き出し、

 

「フレイムッ……ストーム!!」

 

回転しながら尾を振って、炎の竜巻でオファニモンFMを飲み込む。

 

「どうだっ!?」

 

ヴリトラモンは叫ぶ。

炎は少しの間燃え盛っていたが、次の瞬間切り裂かれるように炎が四散し、

 

「この程度ですか?」

 

その中から無傷のオファニモンFMが姿を見せた。

 

「くっ………」

 

ヴリトラモンは悔しそうに歯噛みする。

 

「先程と同じ言葉を返しましょう。あなたに勝ち目はありません。降参しなさい」

 

「…………降参したら見逃してくれるのか?」

 

オファニモンFMの言葉に、ヴリトラモンは返って来る答えを確信しながらそう問い返す。

 

「それはありません。あなた方の死を主はお望みなのですから」

 

「それなら諦める訳にはいかないな! ここで諦めたら俺だけでなく、仲間達も死ぬことになる!」

 

ヴリトラモンはそう叫ぶ。

 

「愚かですね………抗えばそれだけ苦しむことになるというのに………」

 

「何とでも言え! それが俺の選ぶ『選択』だ!」

 

オファニモンFMの言葉にヴリトラモンは咆える様に言った。

 

「では、望み通り終わらせて差し上げましょう」

 

オファニモンFMは手を前に翳すと、再び十の黒い宝石を召喚する。

 

「そう簡単に行くと思うなよ!」

 

それに対し、ヴリトラモンは身構える。

だが、

 

「いいえ、終わりです」

 

オファニモンFMはそう言うと、狙いをヴリトラモンではなく、ヴリトラモンの斜め後方に居た黒竜の姿のティオに定めた。

 

「ッ!?」

 

ヴリトラモンがそれに気付いた次の瞬間、

 

「デモンズクリスタル!」

 

十の黒い宝石が撃ち放たれた。

 

「なっ!?」

 

攻撃がこちらに来たことに、驚愕の声を漏らすティオ。

ティオがその攻撃を受ければ塵一つ残らずに消し飛ぶ。

しかし、

 

「させるかぁっ!!」

 

ヴリトラモンが全力で飛行してその射線軸上に割り込み、ティオの前に立ちはだかった。

デモンズクリスタルがヴリトラモンに直撃する。

 

「ぐぁあああああああああああああああああああああああああっ!?!?」

 

身が引き裂かれるようなエネルギーの奔流に呑み込まれ、ヴリトラモンは悲鳴を上げる。

 

「ご主人様!?」

 

「ヴリトラモン!?」

 

「神原君!?」

 

ティオと、その背に乗っていたハジメ、愛子が叫ぶ。

そのエネルギーの奔流が収まった時、ボロボロの姿になったヴリトラモンが現れる。

 

「うっ…………」

 

そして、余りのダメージにヴリトラモンはデジコードに包まれ、拓也に退化してしまった。

そのまま拓也は力無く落下していく。

 

「ご主人様!」

 

ティオは慌てて拓也の落下先に回り込み、その背で受け止めようとする。

 

「拓也!」

 

ティオの背で、ハジメが拓也をキャッチする。

その際、拓也の手からデジヴァイスが零れ落ち、ティオの背に転がった。

 

「ハジメ! 早くご主人様に神水を!」

 

「うん!」

 

ティオの言葉に、ハジメは宝物庫から神水が入ったアンプル管を取り出す。

しかし、相手は拓也を回復させる時間を、悠長に待ってはくれない。

オファニモンFMは大鎌を振り被りながら突っ込んでくる。

 

「させぬぞ!」

 

ティオは口を開いてブレスを放つ。

その炎にオファニモンFMは飲み込まれるが、大鎌の一振りであっさりと四散した。

 

「おのれ……妾の竜の息吹をこうも容易く………」

 

ティオは歯噛みする。

 

「拓也! 早く飲んで!」

 

「………ぐっ! はぁ、はぁ……!」

 

ハジメが拓也に神水を飲ませようとするが、拓也は大きなダメージから漸く意識がハッキリしてきた所だった。

尚も近付いてくるオファニモンFM。

 

「ご主人様はやらせはせぬぞ!」

 

ティオはオファニモンFMに立ち向かおうとする。

 

「くっ………! だ、駄目だっ……! ティオッ………!」

 

意識を取り戻した拓也が、オファニモンFMに立ち向かおうとするティオに気付き、声を上げる。

だが、ティオは視線だけを背中の拓也に向けると、

 

「フッ………ご主人様の為ならば、この命、惜しくは無いのじゃ!」

 

僅かに嬉しそうに笑みを零すと、オファニモンFMに向き直った。

オファニモンFMが大鎌を振り被る。

その一撃は、ティオの黒麟と言えど、紙の様に切り裂くだろう。

 

「やめろぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

拓也が全力で叫んだ。

その瞬間、ティオの背中に転がった拓也のデジヴァイスの画面にオファニモンの紋章が浮かび上がり、光を放った。

そして、その画面から一筋の光が伸びて向かってくるオファニモンFMの額に当たった。

 

「ッ!?」

 

すると、突然オファニモンFMが動きを止めた。

 

「な、なんじゃ!?」

 

突然の事態にティオは驚愕の声を漏らす。

その時、

 

『…………心を知るのです』

 

声が響いた。

 

「オファニモン………?」

 

その声に聞き覚えのあった拓也が声を漏らす。

 

『心を知るのです。心を持たぬ人形として生み出された、悲しき存在よ』

 

「くっ………あっ……!? こ……心……だと…?」

 

オファニモンFM………いや、ノイントは困惑の声を漏らす。

 

『心を知るのです………心を知るのです……………』

 

すると、額に当たっていた光が途切れる。

拓也はデジヴァイスを拾い上げた。

 

「オファニモン…………………ありがとう。オファニモンが助けてくれたんだな」

 

拓也は笑みを浮かべてお礼を言う。

すると、

 

『あの者が使っている力は、かつての私の力。その為、何とか干渉する事が出来ました』

 

そのデジヴァイスからオファニモンの声が響く。

 

「オファニモンの力………」

 

以前のオファニモンは、デジタルワールドの冒険の途中で、ケルビモンを止めようとしてその命を散らしている。

 

「その時の力が何故………?」

 

『わかりません…………ですが、その力に干渉した時、同時にあの者の記憶………いえ、記録を垣間見る事ができました……………』

 

オファニモンは哀れみを感じさせる声で続けた。

 

『あの者のこれまでの生は、創造主により生み出された時からその命に従うだけの操り人形としての生…………心を持たぬ人形という、悲しい存在なのです』

 

「人形……………」

 

『神原 拓也君…………出来る事なら、あの者にも心を与えてください』

 

「心を?」

 

『かつて、あなた方がスピリットに心を与えた様に、あの者にも心を…………他者を愛する心を………………』

 

そこまで言うと、デジヴァイスから光が失われ、オファニモンの紋章が消えて、通信も途絶えた。

 

「……………オファニモン…………」

 

拓也が呟く。

すると、オファニモンFMが首を振って気を取り直した。

 

「い、今のは…………?」

 

拓也はそれを見ると、

 

「ハジメ、神水を………」

 

「うん」

 

拓也は差し出されたアンプル管の蓋を折って中身を煽る。

拓也のダメージが見る見るうちに回復し、拓也は自分の足で立ち上がった。

それと同時に、気を取り直したオファニモンFMがこちらを見据える。

 

「どんな手を使ったのかは分かりませんが、所詮単なる時間稼ぎに過ぎませんでしたね」

 

再び大鎌を構えるオファニモンFM。

その姿を臆さずに見上げる拓也。

すると、

 

「神原君………大丈夫なんですか?」

 

愛子が心配そうに声を掛ける。

 

「大丈夫です。今度は負けません!」

 

拓也はハッキリと返事を返した。

 

「強がりもそこまでです」

 

オファニモンFMが再び大鎌を振り被り、突っ込んで来ようとする。

その瞬間、拓也はデジヴァイスを突き出した。

デジヴァイスの画面に、獣の顔のシルエットが浮かび上がり、咆えると同時に光が走る。

ヒューマンスピリットとビーストスピリットが重なって描かれた。

そして突き出した左手に、ビースト進化と同じく球状となったデジコードが発生する。

そのデジコードに右手に持ったデジヴァイスをなぞるように滑らせる。

 

「ダブルスピリット………! エボリューション!!」

 

拓也の身体をデジコードが包んだ。

 

「ぐっ………ああああああああああああああっ!!」

 

叫び声を上げる拓也。

デジコードの中で、2つのスピリットを同時に纏っていく。

手。

体。

足。

そして頭部に2つのスピリットが重なる。

アグニモンの技とヴリトラモンの力。

まさに柔と剛を兼ね備えた闘士。

その名は、

 

「アルダモン!!」

 

その姿は、アグニモンの人型をベースに、ヴリトラモンの各部から出来ていた。

頭部や手、肩などの間接部分はアグニモン。

体や足、尾、翼、そして腕のルードリー・タルパナはヴリトラモン。

その姿から感じられる威圧感は、アグニモンやヴリトラモンの比ではない。

 

「これがアルダモン…………拓也と輝二だけが使えるっていう2つのスピリットを同時に使って進化する融合進化……!」

 

ハジメが以前聞いていた話を思い出しながら、驚いた表情で口にする。

 

「ご主人様………まだ上の姿があったのじゃな…………」

 

ティオも驚きながら呟く。

背中の翼で空を飛び、アルダモンはオファニモンFMの前に立ちはだかる。

 

「くっ………少し位姿が変わった所で………!」

 

オファニモンFMは、アルダモンから感じる威圧感に少し気圧されるものの、すぐに大鎌を振り被って斬りかかって来た。

 

「フレイムヘルサイズ!!」

 

大鎌が炎を纏い、アルダモンの命を刈り取らんと迫る。

だが、

 

「……………」

 

アルダモンは左手を上げると、事も無げにその切っ先を掴み取ってその一撃を止めた。

 

「なっ!?」

 

驚愕の声を上げるオファニモンFM。

オファニモンFMは、力を込めて押したり引いたりするが、アルダモンの力の前にはビクともしない。

 

「ッ!」

 

オファニモンFMは、大鎌の柄から手を離すと後ろに飛び退り、手を前に翳した。

 

「デモンズクリスタル!!」

 

暗黒の力が籠った宝石を撃ち出す。

それはアルダモンに直撃するが、アルダモンを覆う灼熱のエネルギーがその威力を打ち消し、爆発も小さく、アルダモンは微動だにしない。

 

「デモンズクリスタル! デモンズクリスタル!!」

 

オファニモンFMは、これでもかと必殺技を連射するが、その全てを受けてもアルダモンは無傷だった。

 

「…………………」

 

アルダモンは黙ってオファニモンFMを見据える。

 

「私は………主の望みの為に、負けるわけには………!」

 

オファニモンFMは狼狽えながらも戦意を失わない。

アグニモンは一度目を伏せると目を見開く。

すると、両腕のルードリー・タルパナが反転。

更に中央から二つに分かれ、二又の槍の矛先の様になる。

そして、

 

「ブラフマストラ!!」

 

両腕を交互に連続で繰り出す。

腕を繰り出すごとに圧縮された炎弾が放たれ、それが腕を繰り出した数だけ放たれる。

無数の炎弾がオファニモンFMに襲い掛かり、

 

「あぁあああああああああああああっ!?!?」

 

オファニモンFMは悲鳴を上げ、デジコードを浮かび上がらせた。

アルダモンがその前に進み出る。

 

「汚れた悪の魂を」

 

言霊を告げると共に、アルダモンの手にデジヴァイスが握られた。

 

「このデジヴァイスが浄化する!」

 

そのデジヴァイスを前に突き出し、側面のボタンを押し込むと、デジヴァイスの上面から光が迸る。

 

「デジコード……! スキャン!!」

 

その光を浮かび上がったデジコードになぞる様に滑らせると、デジヴァイスにデジコードが吸い込まれていく。

デジコードを吸い込みきると、オファニモンFMの姿が消え、元のノイントの姿に戻った。

しかし、ノイントは意識を失っているのかそのまま力無く落下していく。

 

「ッ!」

 

アルダモンは咄嗟に回り込んでノイントを横抱きで受け止めた。

すると、デジコードに包まれて拓也の姿に戻る。

拓也は炎の翼を発生させて空中に留まった。

 

「…………思わず助けちまったけど、どうするか……」

 

意識を取り戻せば、再び敵として向かってくるだろうノイントの処遇に困った表情をする拓也。

 

「それにしても…………」

 

拓也は気を失っているノイントの顔を見つめる。

 

「ホント綺麗な顔してるよな、コイツ」

 

敵対している時は無表情で、あまり意識はしていなかったが、気を失っている今は穏やかな表情だ。

その整った容姿が目を引く。

すると、

 

「…………うっ」

 

ノイントが声を漏らし、ゆっくりと瞼が開く。

拓也は、如何するかも決めていないのに意識を取り戻したノイントに若干焦るが、その場で放り出す事は出来なかった。

その為、

 

「…………気が付いたが?」

 

とりあえず普通に声を掛けてみる事にした。

拓也は、即座に突き飛ばされたり、攻撃を受ける事も視野に入れていた。

しかし、ノイントは首を動かして視線を拓也に合わせても、暴れる様な仕草は見せなかった。

それどころか、

 

「……………あな……たは………?」

 

拓也が誰かも分からない様な様子で問いかけてきた。

 

「えっ?」

 

拓也は思わず声を漏らす。

ノイントはゆっくりと辺りを見渡す。

 

「ここ………は…………? それ……に………私……は……………?」

 

その言葉を聞いて、拓也はまさかと思った。

 

「お前……! 記憶が………!?」

 

拓也はそう叫ぶ。

 

「…………はい…………何も思い出せません…………自分の名前も………自分が何をしていたのかも………」

 

ノイントは記憶を失っていた。

進化した影響か、それとも倒した時の衝撃か、はたまた浄化した時の副作用か。

何が原因かは分からないが、今のノイントに記憶は無かった。

 

「……………マジかよ」

 

思い掛けない事態に、拓也は困惑するしかないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

 

 

記憶を失ったノイントを連れ、神山の神代魔法を手に入れる拓也達。

一方、王宮では檜山がデジモンの力でメルドや騎士達を操り、生徒達を危機に陥らせる。

そこに駆けつけた輝二達だったが、一瞬の隙を突かれ、ヴォルフモンが操られてしまう。

だが、輝二を救おうとする雫が戦いへの迷いを捨てた時、真の『鋼』の力が目を覚ます。

 

 

次回、ありふれたフロンティアへ

 

 

第29話 『鋼』の意志

 

 

今、ありふれた伝説が進化する。

 

 

 

 





はい、第28話です。
そんで、予想してた方も多いと思いますが、前に言ってた拓也の3人目のヒロインはノイントです。
とりあえず仲間に引き入れる為に、一時的に記憶喪失にさせるという暴挙に出ました。
まあ、この位しないと、あのノイントが仲間になるとは思えないし。
次回はいよいよ彼女が進化します。
お楽しみに。

『鋼』のスピリットの形態はどうする?

  • メルキューレモン、セフィロトモンのまま
  • 既存の別デジモンを引っ張って来る
  • オリジナルデジモンで!
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