ありふれたフロンティアへ   作:友(ユウ)

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第2話 訓練開始! 拓也達の力!

 

 

 

翌日から訓練が始まった。

訓練の担当をするのは騎士団長のメルド・ロギンス。

まず、集まった生徒達に12cm×7cm位の銀色のプレートが配られた。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

非常に気楽な喋り方をするメルド。

なんでも「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」とのこと。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

 

「アーティファクト?」

 

生徒の1人が聞き慣れない言葉に質問をする。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

生徒達も納得したのか、それぞれが針を指に刺し、血を垂らしていく。

拓也達もそれに習ってステータスプレートに血を垂らした。

すると、カードの表面に文字が浮かび上がった。

 

神原 拓也 17歳 男 レベル:1

 

天職:炎の闘士

 

筋力:150

 

体力:140

 

耐性:150

 

敏捷:70

 

魔力:80

 

魔耐:80

 

技能:炎熱操作・竜の本能・火属性適性・火属性耐性・格闘術・大剣術・剛力・物理耐性・気配感知・言語理解

 

 

 

 

「お、何か出た」

 

それを見てそう漏らす拓也。

すると、メルドがステータスの説明を始める。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

つまりレベルが上がるからステータスが上がるわけではなく、ステータスの上限値のどの位置にいるかがレベルで表されるという事である。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ! 次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

(すると、炎の闘士って言うのが俺の天職か…………確かに、俺にぴったりの天職だ)

 

『炎の闘士』という言葉に懐かしさを覚える拓也は、内心笑みを零す。

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

メルドにそう言われ、一番に前に出たのは光輝だ。

光輝がメルドにステータスプレートを渡す。

その内容は、

 

 

 

 

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

 

天職:勇者

 

筋力:100

 

体力:100

 

耐性:100

 

敏捷:100

 

魔力:100

 

魔耐:100

 

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 

 

 

 

 

万能で隙の無いステータスだった。

ある意味完璧超人の光輝に相応しいステータスだろう。

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

 

「いや~、あはは……」

 

団長の称賛に照れたように頭を掻く光輝。

ちなみにメルドのレベルは62でステータス平均は300前後。

この世界でもトップレベルの強さだ。

光輝を皮切りにクラスメイト達がステータスを見せていく。

拓也は、もう少し人がはけるまで待っていたのだが、

 

「拓也………どうだった?」

 

優花が歩み寄ってきてそう尋ねる。

 

「因みに私はこんな感じね」

 

そう言いながら拓也にステータスプレートを見せる。

その内容は、

 

 

 

 

 

 

園部優花 17歳 女 レベル:1

 

天職:投術師

 

筋力:50

 

体力:50

 

耐性:50

 

敏捷:80

 

魔力:90

 

魔耐:90

 

技能:投擲術・火属性適性・雷属性適性・気配感知・言語理解

 

 

 

「投術師………って事は、優花は後衛タイプか。後ろからの援護攻撃が主になるのかな」

 

それを見て印象を口にする。

 

「拓也は?」

 

「俺はこんな感じ。バリバリの前衛向けだな」

 

「凄い………! 筋力、体力、耐性は天之河を超えてるし、一番低い俊敏でも70もある……! 総合力でも天之河より高い数値だし………」

 

拓也のステータスの高さに驚きの声を漏らす優花。

 

「これなら優花を護れそうだな?」

 

突然笑みを浮かべながらそう言う拓也。

 

「ッ………! バカ………」

 

不意打ちで言われた言葉に優花を顔を赤くして俯きながら呟いた。

そこへ、

 

「拓也」

 

輝二、輝一、恵理がやって来る。

 

「如何だった?」

 

輝二がそう聞くと、

 

「俺はこんな感じ。お前らは?」

 

拓也はステータスプレートを見える様に差し出す。

輝二達も同じように見える様に差し出してきた。

内容は、

 

 

 

 

 

源 輝二 17歳 男 レベル:1

 

天職:光の闘士

 

筋力:80

 

体力:100

 

耐性:70

 

敏捷:180

 

魔力:120

 

魔耐:120

 

技能:光力操作・狼の本能・光属性適性・光属性耐性・剣術・双剣術・縮地・先読・気配感知・言語理解

 

 

 

 

 

 

木村 輝一 17歳 男 レベル:1

 

天職:闇の闘士

 

筋力:120

 

体力:120

 

耐性:120

 

敏捷:120

 

魔力:120

 

魔耐:120

 

技能:闇力操作・獅子の本能・闇属性適性・闇属性耐性・槍術・物理耐性・先読・隠業・気配感知・魔力感知・言語理解

 

 

 

 

 

 

輝二、輝一共に高いステータスだ。

輝二はスピードファイターで、輝一は万能タイプ。

というか、輝一は全ての値が光輝を超えている。

それと恵理は、降霊術師という天職で、輝一と同じく闇系統に適性を持つ天職だった。

それを知った恵理は、

 

「あっはっは! やっぱりボクと輝一はお似合いって事だね!」

 

喜びの笑いを上げながらそう言ったのだった。

 

 

やがて人もはけてきたので拓也達はメルドにステータスプレートを見せていく。

メルドの優花や恵理に対する反応は他のクラスメイトと同じだったのだが、拓也達のステータスプレートを見ると、

 

「こ、これは………!? 拓也は筋力、体力、耐性の数値が光輝以上!? その他は低いがそれでもクラスメイトの平均値でも高い方だ。輝二は敏捷が今までで一番だった雫より更に上だと!? 輝一に至っては全ての数値で勇者の光輝を上回っている!」

 

メルドが驚愕の声を上げる。

 

「天職は炎の闘士、光の闘士、闇の闘士………?」

 

次に天職の欄を見ると、メルドは不思議そうな声を漏らした。

 

「珍しい天職なんですか?」

 

輝一が尋ねると、

 

「あ、いや………闘士という天職はそこまで珍しいものではない。王宮の騎士にも闘士の天職持ちは何人かいる。しかし、お前達の様に『○の闘士』というように属性を持った闘士は今まで見た事が無かったからな………」

 

メルドは続けて技能欄に視線を移す。

 

「気になる技能は〝炎熱操作〟と〝竜の本能〟………他の2人にも似た技能があるな………同質の技能か?」

 

3人の技能を見比べながら色々と推測するが、

 

「とにかく、ステータスが高いのは頼もしい限りだ。3人とも期待しているぞ!」

 

一先ず考えるのを後にし、先に進むことにした。

次に来たのはハジメだったのだが、ハジメからステータスプレートを受け取ったメルドがぱちくりと眼を見開いた。

それから見間違いか、というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。

そしてもの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。

何故ならハジメのステータスプレートにかかれていた内容は、

 

 

 

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

 

天職:錬成師

 

筋力:10

 

体力:10

 

耐性:10

 

敏捷:10

 

魔力:10

 

魔耐:10

 

技能:錬成・言語理解

 

 

 

 

 

一般人と同等のステータスだったからだ。

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

 

ハジメの天職を説明するメルドだが歯切れが悪い。

それを聞いたクラスメイトの檜山 大介が、ニヤニヤとしながら声を張り上げる。

 

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

 

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

 

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

 

「さぁ、やってみないと分からないかな」

 

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」

 

ハジメはやれやれと溜息を吐きながら投げやり気味にステータスプレートを渡した。

 

「ぶっはははっ~、なんだこれ! 完全に一般人じゃねぇか!」

 

すると、檜山と良くつるむ男子達も笑い出した。

 

「ぎゃははは~、むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな~」

 

「ヒァハハハ~、無理無理! 直ぐ死ぬってコイツ! 肉壁にもならねぇよ!」

 

ハジメを馬鹿にする小悪党4人組だったが、そこに愛子が割り込んできた。

 

「こらー! 何を笑っているんですか! 仲間を笑うなんて先生許しませんよ! ええ、先生は絶対許しません! 早くプレートを南雲君に返しなさい!」

 

愛子が怒鳴る。

檜山達はへいへいと言わんばかりにプレートをハジメに返す。

愛子はハジメに向き直ると励はげますように肩を叩いた。

 

「南雲君、気にすることはありませんよ! 先生だって非戦系? とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。南雲君は一人じゃありませんからね! ほらっ!」

 

愛子ハジメに自分のステータスを見せた。

その内容は、

 

 

 

 

畑山愛子 25歳 女 レベル:1

 

天職:作農師

 

筋力:5

 

体力:10

 

耐性:10

 

敏捷:5

 

魔力:100

 

魔耐:10

 

技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解

 

 

 

 

 

立派な食料チートを持つ愛子のステータスが映っていた。

ハジメは死んだ魚のような目になる。

 

「あれっ、どうしたんですか! 南雲君!」

 

やらかした愛子がハジメの様子に戸惑い、

 

「あらあら、愛ちゃんったら止め刺しちゃったわね……」

 

「ハ、ハジメ君! 大丈夫!?」

 

雫が苦笑し、香織がハジメに駆け寄る。

こうして、戦闘訓練は本格的に始まる事となった。

 

 

 

 

 

 

数日後。

座学で魔法の知識を学んだクラスメイト一同は、本日から実技訓練に入る所だった。

訓練場のあちこちで、各属性ごとにグループを作り、それぞれ担当の騎士達が数名就いて訓練を行っている。

そんな訓練場の一角で、拓也、輝二、輝一の3人は、メルドの所に集まっていた。

この3人は、聞いた事のない技能を持っていたため、如何いう能力なのかを確認する為にメルドの監視の下で実際に使ってみる事にしたのだ。

 

「よし、では3人とも。それぞれ〝炎熱操作〟、〝光力操作〟、〝闇力操作〟を使ってみてくれ」

 

「いや、いきなり使えって言われても………」

 

メルドの言葉に困惑する拓也。

碌に魔法の実践もしていないのに、いきなり使えと言われても困ってしまうだろう。

 

「仕方ないだろう。俺もどうやって使うのかは分からんのだ。一先ず色々試してみろ。こういうのは勢いが大事だ!」

 

メルドの言葉に輝二は溜息を吐き、輝一は苦笑する。

拓也はゲンナリした表情になり、

 

「まあ、とりあえずやってみますよ」

 

やや投げ遣りにそう返す。

そして気を取り直すと、手を前に突き出し、

 

「炎よ出ろ!! なーんつって」

 

魔法の発動には魔法陣と詠唱が必要だと聞いていたので、こんなもので出るわけが無いと拓也は思っていた。

とりあえず何でもいいので試す序にやってみただけだ。

しかし、

 

―――ボウッ!

 

手の先に炎が灯った。

 

「おっ!? 本当に出た!?」

 

やった本人も驚く拓也。

メルドも目を丸くしている。

 

「お~!」

 

拓也は手を横に振ったり縦に動かしたりして感触を確かめる。

 

「これってもしかして………」

 

拓也は意識を集中すると、炎が集まって拳大の球状に変化した。

 

「おおっ! 思った通りに動かせる!」

 

拓也は炎の球を前後左右に動かし、ある程度感触を確かめると、

 

「よーし! 発射!」

 

勢い良く誰も居ない方向を指差す。

すると、かなりのスピードで炎の球が射出され、指した先の地面に着弾。小さな爆発を起こした。

 

「お~、こういう感じか!」

 

コツを掴んだ拓也は満足気に頷く。

輝二と輝一も、それぞれ光の球と闇の球を作り出し、自在に操作していた。

 

「……………………」

 

メルドは唖然とした後、突然難しい顔をし出した。

 

「おいお前達………まさか他の魔法も無詠唱で出来るとか言わんよな?」

 

そう問いかけるメルド。

そう言われて色々試したが、それぞれ一属性しか扱えない事が分かった。

 

「そうか………1つの属性だけか…………」

 

ホッと息を吐くメルド。

 

「何か拙い事でも?」

 

輝一がそう問いかけると、

 

「あ、ああ…………召喚されたお前達は知らないだろうが、魔法陣も詠唱も使わず魔法を使えるのは、魔物だけが持つ技能だ。下手をすれば、お前達に魔物の疑いがかけられる恐れがあったのだ。だが、仕える魔法は一属性。それも他の属性魔法はからきしときた。これならば、一点に特化したために他の魔法が使えないという口実が出来る。まあ、元々お前達は神の使徒だ。よっぽどの事が無い限り魔物の疑いがかけられることは無いと思うが………一応な」

 

本気で拓也達の事を心配するメルド。

 

「そうでしたか………」

 

輝一は納得した様に頷いた。

メルドは気を取り直すと、

 

「さて、気を取り直してもう1つの技能の検証に入ろう! 拓也から使ってみてくれ!」

 

メルドはそう指示する。

 

「わかりました」

 

拓也は一度深呼吸すると、

 

「…………〝竜の本能〟!」

 

眼を見開いて技能を発動させた。

その瞬間、拓也は赤いオーラを噴出させ、

 

「ぐがぁあああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

突如として獣のような咆哮を上げた。

 

「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」

 

その咆哮に訓練場に居た全員が驚愕して其方に視線を向ける。

拓也の瞳が赤く染まり、妖しく輝いている。

そして、

 

「グゥゥッ………!」

 

唸り声を上げたかと思うと、

 

「ガァッ!」

 

最初に目に着いたメルドに飛び掛かった。

 

「なっ!?」

 

メルドは驚愕しつつも冷静に対処する。

身体を逸らして飛び掛かって来た拓也を躱すと、後に回り込んで拓也の胴を腕ごと両腕でで抱え込んで、ガッチリとロックする。

 

「落ち着け! どうしたんだ拓也!?」

 

メルドは呼びかけるが、

 

「ガァァァァァァァァッ!!」

 

拓也は獣の様な叫び声を上げるだけで聞く耳を持たない。

 

「くっ! 完全に理性を失っている!」

 

メルドは焦りを覚えた。

 

「拓也! 如何した!? しっかりしろ!」

 

「拓也!」

 

「グガァァァァァァッ!!」

 

輝二と輝一が呼びかけるが、拓也は尚も暴れ続ける。

だが、輝二は同時に既視感も感じていた。

 

「これは………まるでビーストスピリットを制御できなかった時にそっくりだ………!」

 

輝二には、今の拓也の姿が記憶にある暴走したヴリトラモンと重なって見えた。

拓也の叫び声は、竜の咆哮そのもの。

すると、

 

「グガァァァ…………!」

 

拓也は力を溜める様に唸ると、自分を抑え付けているメルドの腕を、無理矢理こじ開け始めた。

 

「なっ!? バ、バカな………!?」

 

これにはメルドも驚愕する。

いくらクラスメイトの中で筋力が一番高いとはいえ、現状ではメルドの方が倍以上のステータスを持っている筈だからだ。

 

「ガァァッ!!」

 

遂に拓也がメルドの拘束を振りほどいた。

 

「くっ!」

 

メルドは一旦飛び退き、体勢を立て直す。

 

「ゥゥゥッ………!」

 

解放された拓也は唸り声を上げながらメルドを注視する。

その時、

 

「メルドさん!」

 

光輝達が駆け寄って来る。

 

「来るなお前達! 今の拓也は危険だ! 技能の影響で理性を失ってしまっている!」

 

メルドはそう叫ぶ。

 

「神原!?」

 

光輝は拓也を見て驚愕するが、

 

「神原を止めるんですよね!? 俺も協力します!」

 

そう名乗り出る。

 

「バカ者! 下がっていろ! 今の拓也はお前が敵う相手ではない!」

 

メルドは叫ぶが光輝は拓也に向かって行ってしまう。

だが、

 

「ガアァッ!!」

 

拓也が一声上げると赤いオーラが噴出し、衝撃波となって周りに襲い掛かる。

 

「うわっ!?」

 

光輝はその衝撃波でバランスを崩し、転倒した。

拓也は再びメルドに視線を向け、襲い掛かろうと前傾姿勢になる。

そして地面を蹴ろうとしたその瞬間、

 

「やめて拓也!!」

 

拓也の背後から腰に抱き着くように止めたものが居た。

それは優花だ。

 

「危険だ! 離れろ!」

 

メルドはそう言うが、優花は抱き着いた腰を離さず、

 

「拓也お願い! 正気に戻って!」

 

そう呼びかけた。

 

「危ない園部さん! 早く離れるんだ! 今の神原は危険だ!」

 

光輝も呼びかける。

 

「グゥゥッ!」

 

拓也は自分の腰に抱き着く優花を見下ろし、威嚇する様に唸り声を上げる。

しかし、優花も拓也を見上げて目を合わせると、

 

「大丈夫………! 怖くない………怖くないから………!」

 

まるであやす様にそう呼びかける優花。

 

「ゥゥゥ……………ウオォッ!」

 

一瞬躊躇した後、拓也は右腕を振り上げる。

力付くで叩き落そうと言うのだろう。

しかしその時、

 

「やめろ拓也!」

 

「お前が優花を傷付けるのか!?」

 

輝二と輝一が叫んだ。

 

「ッ!?」

 

ピタリと振り下ろそうとした手が止まる。

 

「今のお前はあの時と同じだ! 友樹から貰った『勇気』を忘れたのか!?」

 

更に輝二が叫んだ。

 

「グ………ゥ…………」

 

拓也が動揺した声を漏らし、

 

『本当の勇気って、いじめっ子に仕返しする事じゃなく、逃げずに面と向かっていじめっ子に、『やめて!』という事じゃないかって!』

 

脳裏にその言葉が蘇った。

 

「ガ………ァ…………」

 

「拓也!」

 

更に優花が呼びかける。

 

「ゆ………ゆう………か………」

 

拓也の口から優花の名が零れた。

拓也の怪しい赤に輝いていた瞳の輝きが徐々に収まっていく。

それに伴い、拓也が纏っていた赤いオーラも収束していく。

 

「くっ………」

 

赤いオーラが完全に消えると、拓也は膝を着く。

 

「拓也……!? 大丈夫?」

 

優花が心配そうに声を掛けると、

 

「あ、ああ………ありがとう、優花………お陰で誰も傷付けずに済んだ………」

 

拓也は精神的に疲れた表情をしながらお礼を言う。

 

「正気に戻ったか、拓也」

 

メルドがやれやれと言いたげに歩み寄って来る。

 

「ご迷惑をおかけしました」

 

拓也は立ち上がって頭を下げた。

 

「いや、いきなり技能を使わせた俺にも責任はある。気に病む必要は無い」

 

メルドはそう言って気にしない様に言う。

 

「しかし、こうなるとその技能は危険だな。使わないよう封印するしか………」

 

メルドはそう言うが、

 

「いや、多分大丈夫です」

 

拓也はそう言うと、目を伏せて深呼吸し、

 

「〝竜の本能〟………!」

 

再び技能を発動させた。

再び赤いオーラを纏う。

 

「お、おい!」

 

メルドは驚愕しつつ身構えたが、

 

「……………大丈夫です。今度は制御できます」

 

拓也は暴れる様子を見せず、言葉を話した。

そう言って拓也が目を開けると、その瞳が金色となっていた。

 

「…………今度は大丈夫なのか………? しかし何故………?」

 

拓也が暴走しなかった事にメルドは安堵したが、同時に疑問を覚えた。

 

「この能力は、ステータスを強化すればするほど、俺の『闘争本能』を昂らせるみたいです。今は最低限の発動しかしていないので、闘争本能もそれほどでもありません。さっきは、初めて使ったので全開で発動した所為で、闘争本能に理性が呑み込まれてしまったんです」

 

拓也の言う通り、拓也の纏うオーラは先程の様に噴出したりせず、身の回りに少し纏う程度だ。

 

「そうか…………それについてはもう少し検証が必要だな…………危険もあるがモノに出来ればこれほど心強いものは無い」

 

レベル1の状態ですらメルドを超える力を発揮したのだ。

しっかりと鍛えて制御できればどれほどのものになるのかと期待を膨らませる。

 

「輝二と輝一の技能もおそらく似たようなものだろう。最初の発動には注意してくれ」

 

「「はい!」」

 

メルドの言葉に2人は返事を返した。

 

 

 

 

 

 

 

一週間後。

今日は実戦訓練があり、王都の外で弱い魔物と実際に戦うという事があった。

その夜、輝二が自主鍛錬を行った帰り道、中庭を横切っている時だった。

 

「ッ………ぐすっ…………!」

 

すすり泣く様な声が聞こえた。

 

「ッ………今のは…………」

 

輝二はその声が聞こえた方に歩み寄る。

すると、周りから目立たない中庭の一角に1人の人影が立っていた。

その黒髪ポニーテールの後ろ姿は………

 

「…………雫か?」

 

輝二はそう声を掛ける。

声を掛けられた雫はハッとなって一瞬振り向くが、すぐに顔を逸らした。

 

「な、何かしら輝二……!? こんな時間にこんな所に居るなんて………!」

 

雫は顔を逸らしたまま慌てた様に言葉を並べる。

だが、輝二は先程振り向いた時、一瞬だが見えていた。

その頬に涙が伝っていた事に。

 

「…………………泣いていたのか?」

 

輝二がそう問いかえると、

 

「な、何の事……!? 私が泣く訳ないじゃない!」

 

雫は慌てた様子で目を袖で拭うと振り返った。

しかし、涙は拭えても目元の腫れは誤魔化せない。

 

「ッ……………!」

 

輝二は無言で歩み寄ると、

 

「な、何…………ッ!?」

 

何も言わずに雫を抱きしめた。

 

「ッ………!? こ、輝二!?」

 

いきなり抱きしめられた雫は顔を赤くしながら慌てるが、

 

「………無理をするな」

 

「ッ………!」

 

その言葉に身体を強張らせる。

 

「む、無理なんて………」

 

「お前が無理をしている事ぐらい一目でわかる。長い付き合いなんだ」

 

雫は否定しようとしたが、輝二はそう言い切る。

 

「ッ…………」

 

雫はその言葉に一瞬躊躇した。

そのまま視線を落とし、

 

「………ダメよ………私がしっかりしないと…………」

 

「お前が責任感が強いのは知ってる………毎回のように光輝の尻拭いをしている事もな……………それでも、誰かに頼る事は必要だ」

 

「私に………頼れる人なんて…………」

 

雫はいつも助ける側であり、頼られる事はあれど頼る相手は居ない。

 

「なら、俺に頼ればいい………」

 

その言葉にハッとなって顔を上げる。

 

「輝二………?」

 

「こうやって泣いている所を見てしまったんだ。俺の前では弱さを見せてくれたっていい…………話を聞くぐらいはできる……………」

 

「輝二……………」

 

輝二の不器用な優しさを見て、雫は抱きしめられている輝二の胸に額を当て、顔を見られない様に下を向く。

 

「……………怖かった」

 

雫が呟く。

 

「異世界召喚なんてわけわかんない事に巻き込まれて、魔人族と戦えって言われて不安でしかたなかった………」

 

「…………………………」

 

「生き物を殺すのも怖かった……………肉を切り裂く感触がまだ手に残ってる…………手にこびり付いた血が、洗っても洗っても落ちないような気がして仕方ないの………!」

 

雫の口から溢れ出す不安と恐怖。

 

「そうか…………」

 

輝二は余計な事は言わず、抱きしめ続ける。

中庭に、小さな泣き声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

更に一週間後。

ハジメを除いたクラスメイト達は順調に戦闘経験を積んでいき、ステータスを伸ばしていった。

それは拓也達も同じである。

現在の拓也のステータスは、

 

 

 

 

神原 拓也 17歳 男 レベル:10

 

天職:炎の闘士

 

筋力:450

 

体力:400

 

耐性:450

 

敏捷:140

 

魔力:160

 

魔耐:160

 

技能:炎熱操作・竜の本能・火属性適性・火属性耐性・格闘術・大剣術・剛力・物理耐性・気配感知・言語理解

 

 

 

 

現状この通りである。

拓也は筋力、体力、耐性のステータスが伸びやすい様で、他の3つと比べてもその差は明らかだ。

その3つだけなら既にメルドを超えており、拓也自身の戦闘経験も含め、模擬戦の勝率も同等以上だ。

そして技能の〝炎熱操作〟、〝竜の本能〟だが、2週間の訓練である程度内容が分かってきた。

〝炎熱操作〟は、炎を自由に操る事ができ、魔法に本来必要な魔法陣や詠唱が必要無く、イメージだけで拓也の思い通りに炎を形作れる。

輝二の〝光力操作〟や輝一の〝闇力操作〟も同様で、それぞれ光と闇を自由に操る事ができた。

そして〝竜の本能〟だが、メルドの考察ではこれは〝限界突破〟の技能と同質の技能であり、ステータスを飛躍的にアップさせるものだという結論に達した。

しかし、もちろんノーリスクという訳ではなく、強化段階に応じて『本能』の名の通り、使用者の闘争本能を昂らせ、思考力を奪っていく制御の難しい技能だったのだ。

もし何も考えずに全開で強化を施してしまうと、使用者が自身の闘争本能に呑まれ、本能のままに暴れまわる暴走状態に陥ってしまう危険性がある。

そして、拓也、輝二、輝一の技能には、それぞれ特徴があった。

拓也の〝竜の本能〟は筋力を飛躍的にアップさせ、輝二の〝狼の本能〟は俊敏を中心に、輝一の〝獅子の本能〟は全てを平均的にアップさせるものだと判明した。

そして、拓也は今日も訓練場に向かっていると、

 

「ぐぁ!?」

 

苦しそうなハジメの声が聞こえた。

 

「ほら、なに寝てんだよ? 焦げるぞ~。ここに焼撃を望む――〝火球〟」

 

続けて聞こえてきたのは檜山の声。

しかも魔法の詠唱をしている。

 

「ッ!」

 

拓也は反射的にそちらに駆け出した。

訓練場に駆け込むと、そこにはあろうことか 檜山、中野、斎藤、近藤の四人がハジメを取り囲んで魔法を放っていたのだ。

ハジメは放たれた火球を転がりながらなんとか避ける。

だが、

 

「ここに風撃を望む――〝風球〟」

 

斎藤が魔法を放ち、風の塊がハジメの腹部に直撃して仰向けに吹き飛ばされる。

ハジメはオエッと胃液を吐きながら蹲った。

 

「ハジメッ!!」

 

拓也はハジメの名を叫びながら駆ける。

上がったステータスで即座にハジメの下に辿り着くと、

 

「何をしている!? 檜山、中野、斎藤、近藤!」

 

拓也は睨み付けながら低い声でそう問いかける。

 

「ゲッ!? 神原………!」

 

近藤は一瞬動揺したが、

 

「俺達は南雲の特訓に付き合ってやってるだけだぜぇ?」

 

「そうそう。こんな役立たずの錬成師の特訓に付き合ってやってる俺達って優しー!」

 

檜山達はゲラゲラと笑っている。

 

「……………何が特訓だ………! お前達は手に入れた力に酔って力の弱いハジメを痛めつけて優越感に浸っているだけだろう……!?」

 

拓也は拳を握りしめる。

 

「な、何だよ………? そいつみたいな役立たずを庇ったって………」

 

「もう黙れ………!」

 

檜山の言葉に拓也は我慢が出来なくなった。

 

「俺は………友達が理不尽に傷付けられて黙っていられるほど、出来た性格じゃないからな………!」

 

そう言うと一呼吸置き、

 

「〝竜の本能〟………!」

 

〝竜の本能〟を発動させる。

怒りの所為か、纏っている赤いオーラが普段の2割増しだ。

金色になった瞳で檜山達を射抜く。

 

「「「「ヒッ!?」」」」

 

短い悲鳴を漏らす檜山達。

 

「な、何だよ……やる気か……!?」

 

「い、いくらステータスが俺達より高くても、4人掛かりなら!」

 

檜山達は狼狽えながら手を前に出し、

 

「「ここに焼撃を望む――〝火球〟」」

 

「「ここに風撃を望む――〝風球〟」」

 

火と風の魔法を放った。

拓也は動かず、その魔法に直撃し、爆煙に包まれる。

 

「は……ははは……! どうだ!? 調子に乗ってるからそんな目に遭うんだ! 思い知ったか!」

 

檜山は魔法が直撃したことで勝ったと思ったのか、そう捲し立てる。

しかし、風が吹いて煙が吹き飛ばされると、

 

「「「「なっ!?」」」」

 

服は多少破れているが、殆ど無傷と言っていい拓也がそこに立ち続けていた。

 

「この程度で良く威張れたもんだな………?」

 

拓也はそう言って歩き出す。

 

「く、くそ!」

 

檜山は再び手を前に出し、再び魔法を唱え始める。

火の魔法や風の魔法が放たれ、拓也に直撃していくが、拓也の歩みは止まらない。

 

「く、来るな………! 来るなぁっ!」

 

溜まらず叫ぶ檜山。

それでも拓也は止まらない。

 

「ヒッ!」

 

檜山は後退りしようとして、足をもつれさせて尻餅を着く。

 

「あだっ! ッ!?」

 

目の前で拓也が立ち止まった。

金色の眼で睨み付けられ、檜山は委縮する。

 

「………………」

 

拓也は無言で右腕を振り被り、

 

「や、やめっ!?」

 

その拳を繰り出した。

 

「ひぃぃぃっ!?」

 

檜山は頭を抱えて情けない声を上げる。

そして、

 

―――ドゴォッ!

 

拓也の拳が、檜山の顔のすぐ横の地面に突き刺さった。

拓也が拳を振り下ろした地面が抉れている。

 

「ひっ……………」

 

檜山は絶句して放心状態だった。

 

「フン………お前らなんか、殴る価値も無い」

 

そう言って拓也は拳を引く。

その時、

 

「何をしているんだ!?」

 

光輝の声が響いた。

 

「神原! 檜山達に何をしているんだ!?」

 

そう言って拓也に詰め寄って来る。

拓也は面倒くさい奴が来たと溜息を吐く。

 

「た、助けてくれ! 俺達、こいつにいきなり暴力を振るわれて……!」

 

檜山が光輝に縋る様に助けを求めた。

 

「何だと………!? それは本当か!?」

 

「あ、ああ………!」

 

光輝の言葉に檜山達は頷く。

 

「神原! 何で檜山達にそんな事を!?」

 

檜山達の言葉を信じ、拓也に詰め寄る光輝。

 

「言いがかりだ。そいつらが訓練と称してハジメにリンチを行ってたから、やめさせるために多少脅かしただけだ」

 

拓也は冷静にそう返した。

しかし、

 

「言い逃れなんて男らしくないぞ! 神原!」

 

「その状況のハジメを見て、同じことが言えるのか?」

 

拓也はそう言いながら背後に居るハジメを見る様に促す。

ハジメはボロボロであちこちから出血もしている。

 

「ハジメ君!!」

 

その時、惨状に気付いた香織がハジメに駆け寄る。

 

「ハジメ君!? 大丈夫!? 酷い怪我……!」

 

「か、香織………」

 

香織はハジメの状態に悲鳴を上げそうな表情になる。

 

「ッ…………! だが、檜山達は南雲に特訓していただけなんだろう………?」

 

「そ、そうだ! 俺達は南雲に特訓してやっただけだ! ちょっと当たり所が悪くてケガさせちまったけど、ちゃんと手当するつもりだったんだ!」

 

檜山はそう叫んだ。

 

「檜山もこう言っている。君の早とちりだ! 檜山達に謝れ!」

 

光輝は一方的に捲し立てる。

 

「そいつの言ってることはデタラメだ」

 

拓也はそう言うが、

 

「見苦しいぞ! いいから謝るんだ!」

 

「そ、そうだ! 謝れ! 俺達が言ってることがデタラメだって言うのなら証拠を見せてみろ!」

 

光輝に続いて檜山が叫び、薄ら笑いを浮かべる。

「ざまあみろ」とでも思っているのだろう。

すると、

 

「証拠ならあるぜ!」

 

少女の声が響いた。

全員がそちらの方に振り向くと、メガネをかけた少女、恵理が何かを突き出すように手に持っていた。

それはスマホだった。

そこには、檜山達がハジメに向かって次々と魔法を放つところが映っている。

ご丁寧に明らかに特訓では無いと分かるセリフまで入っていた。

それを見て、檜山達が顔を蒼白にする。

 

「な、何でスマホが………」

 

なぜ2週間も経った今でもスマホを使えるのかと疑問が浮かぶ。

檜山達が持っていたスマホは既に電池切れだ。

しかし、恵理の持つスマホの充電はほぼ満タン。

異世界であるトータスには、コンセントなどあるわけが無い。

それなのに何故と思っていると、

 

「おやぁ? 知らないのかい? 最近の充電器には、ソーラー充電器っていう便利なものがあるんだぜ?」

 

恵理は檜山の心の内を読んだかのようにそう答える。

 

「ハジメが虐められてたのはすぐに気付いたけど、流石にボクは4人を同時に相手に出来る実力は無いからね。こうやって証拠を残して後で吊るし上げようと思ったわけさ。まあその前に拓也が割って入った訳だけど」

 

動画が進むと拓也が現れ、魔法を連続で浴びながらも動じず、檜山達に迫り、拳をワザと外す所まで映っていた。

 

「この通り、拓也はハジメがリンチされてる所に割って入って、檜山達から何度も攻撃を受けたのに、一度も殴らずに場を納めたんだ。十分に優しい措置だと思うけどね」

 

恵理はケタケタと笑うようにそう言った。

 

「ッ…………」

 

余りにも明確な証拠に、光輝や檜山は何も言えなくなってしまった。

その時、香織がハジメの治療を終え、立ち上がって檜山達に向き直ると、

 

「………………最低」

 

心底軽蔑したような目でそう告げた。

 

「あ……………」

 

檜山達は何とか弁明をしようとしたが、香織はすぐに視線を切ってハジメを気に掛ける。

 

「行こ、ハジメ君」

 

「あ、うん………」

 

香織はハジメを連れてその場を離れてしまった。

檜山達はそんなハジメを憎々し気に眺め、光輝も何処か気に食わない表情で見つめ続けるのだった。

 

 

 

 

その日の訓練が終了した後、メルド団長が言った。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

このクラスの殆どが初めて体験するであろう、『実戦』の幕開けだった。

 

 

 

 

 

 

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