拓也達は、カム達の行方を調査する為、ヘルシャー帝国の帝都を訪れていた。
首都とは言え、その雰囲気は王国の王都とは違い、ホルアドの宿場町の様な張り詰めた緊張感がある。
ヘルシャー帝国は先の大戦で活躍した傭兵団が設立した新興の国で、実力至上主義を掲げる軍事国家だ。
要は荒くれ物の集まりである。
「おい、おまえ……………ぐぺっ!?」
「なぁねーちゃん…………ぶはっ!?」
なので、そんな所に見た目麗しい女性を何人も有する拓也達のパーティーは、絡まれる格好の的だ。
帝都に入ってからガラの悪い連中に絡まれる事10回近く。
今では既にガラ悪く声を掛けられた時点でぶちのめしていた。
しかし、周囲はそんな暴力沙汰を特にどうとも思っていないようで、ごく普通にスルーしている。
この程度は日常なのだろう。
「うぅ、話には聞いていましたが……帝国はやっぱり嫌なところですぅ」
「うん、私もあんまり肌に合わないかな。……ある意味、召喚された場所が王都でよかったよ」
「まぁ、軍事国家じゃからなぁ。軍備が充実しているどころか、住民でさえ、その多くが戦闘者なんじゃ。この程度の粗野な雰囲気は当たり前と言えば当たり前じゃろ。妾も住みたいとは全く思わんがの」
「ある意味分かりやすいと言えば分かりやすいけど、ここで暮らすのは遠慮したいわ」
「…………………」
女性陣にも不評の様だ。
最後のノイントは何も言わなかったが、微妙に表情を顰めているように見えた。
シアは、同じ亜人族が物のように扱われている事で、その心情の悪さは一押しだ。
「シア、余り見ない方が良い……」
「……はい、そうですね」
ハジメの言葉にシアは俯きながら応える。
「……許せないな。同じ人なのに……奴隷なんて」
光輝はいつもの様に義憤に駆られている。
帝国は使える物は何でも使うという考え方から亜人奴隷は多いが、王国では聖教教会の意向が強く、亜人自体を傍に置くことを嫌忌する為、亜人奴隷を見る事は無かった。
光輝は今にも突撃しそうな雰囲気だ。
それを八重樫さんが窘めてはいるがいつまで持つか。
「………………!」
拓也も拳を握りしめて我慢している。
その時、
「そう言えば、シズシズって皇帝陛下に求婚されたよね?」
唐突に鈴が驚くべき一言を言い放った。
「……そう言えば、そんな事もあったわね」
「ええっ!? 如何いう事雫ちゃん!?」
香織が驚きながら問いかける。
「どういう事も何も私だってわからないわよ! 早朝の訓練をしてたらいきなり愛人になれって言われたのよ! もちろん断ったけど」
女性陣が、どこかニヤついた表情で雫を見る。
雫は思い出したくないことを思い出したのか顔をしかめた。
「それは俺も初耳だな………?」
輝二が何処か不機嫌そうな雰囲気で雫に問いかけた。
「こ、輝二が畑山先生の護衛に行った後に皇帝が王都に来たのよ! 入れ違いだったから輝二は知らなかったんでしょ。その時は輝二とは恋人じゃ無かったし、断ったんだから態々伝える必要性も無いし!」
雫は何処か慌てた様子で弁明する。
「確かにそうだが…………面白くない事は確かだ」
「ッ~~~~~~~!」
珍しく嫉妬心を露にする輝二。
そんな輝二の心情を読み取り、嬉しさと恥ずかしさに悶絶する雫だったが、
「そんな事より、南雲君。具体的に何処に向かっているの?」
話の流れを変えようとハジメに話を振る。
「取り敢えず冒険者ギルドだね。〝金〟を利用すれば大抵の情報は聞き出せるとおもうし」
「……南雲君は彼等が捕まっていると考えているの?」
「それはわからない。捕まって奴隷に堕とされている可能性もあるし、何処かに潜伏している可能性もある。帝都の警備は厳戒態勢とまではいかないが異常なレベルでしょ? 入ったのはいいけど出られなくなったってこともあるだろうし……」
ハジメはそう言うが、十中八九捕らえられたと見ている。
シアもそれは何となく察しているのか不安そうな表情を浮かべた。
すると、ハジメがシアの頭に手を乗せ、
「捕まっているなら助け出せばいいだけだよ。安心して、シア。いざとなれば、帝国に喧嘩売ってでも取り戻すから」
「ん……任せて、シア」
「いやいやいや、喧嘩売っちゃダメだよ? 目が笑っていないのだけど、冗談だよね? そうだよね!?」
鈴が必死に聞き返す。
「鈴ちゃん、ハジメ君は本気だよ」
「カオリン!?」
鈴が驚いた声を上げる。
「ハジメ君は、自分の『大切』の為なら誰にでも立ち向かうよ。国にも………世界にも…………『神』にだってね」
香織の言葉に驚く鈴。
その時、一行から少し離れたところで犬耳犬尻尾の10歳くらいの少年が瓦礫に躓いて派手に転び、手押し車に乗せていた瓦礫を盛大にぶちまけてしまった。
足を打ったのか蹲って痛みに耐えている犬耳少年に、監視役の帝国兵が剣呑な眼差しを向け、こん棒を片手に近寄り始めた。
体罰を与えるつもりなのだろう。
「ッ………!」
正義感が強い拓也が思わず止めようと足を踏み出そうとした時、その肩がガシッと掴まれた。
「落ち着け拓也……! ここで騒ぎを起こすのは拙い」
肩を掴んだのは輝二だ。
「ここで騒ぎを起こせば、お前が本当に助けたい相手を助けにくくなるぞ」
「ッ………!? あ、ああ………そうだな………!」
拓也は拳を握りしめ、歯を食いしばりながら目の前の出来事に耐える。
輝二とてこれから起こる悲劇を見て何とも思わないわけではない。
だが、正義感が強く、熱血な拓也に対し、どんな時でもクールで、冷静な判断を下せる輝二の意見は大局的に見れば正しい。
拓也はその事をデジタルワールドの冒険の時によくわかっている為、自分の感情を何とか抑え込んだ。
その様子にホッとするハジメ達だったが、ある意味拓也以上の正義の味方がここにはいる。
「おい! やめっ……」
やはりと言うべきか光輝が声を上げそうになった。
その瞬間、パスッと空気の抜ける様な音と共に帝国兵が勢いよくつんのめり顔面から瓦礫にダイブした。
帝国兵は気絶したようでピクリともしない。
周りの帝国兵が何事かと近寄って来るが、勝手に転んで気絶したと判断したのか、呆れた表情を浮かべて何処かへと運び去った。
犬耳少年は、何が起きたのかわからないといった様子でしばらく呆然としていたが、ハッとした表情で立ち上がると自分が散らかした瓦礫を急いでかき集めて、何事もなかったように手押し車で運搬を再開した。
出鼻を挫かれた光輝は呆然となっている。
「折角拓也が我慢したのに問題起こそうとしないでよ………」
ハジメが呆れる様に言った。
「っ……今のは南雲が?」
驚きながら光輝が振り返る。
ハジメが義手に内蔵されているギミックを使って非殺傷弾を飛ばしたのだ。
「問題って何だよ。……助けるのが悪いっていうのか? お前だって助けたじゃないか」
「どちらかというと、君が起こす面倒事を止めたという方が正しいけどね。こんなところで帝国兵に突っかかっていったら、わらわらとお仲間が現れて騒動になるでしょ。こっちは、人探しに来てるの。余計な騒ぎを起こさないで。どうしてもやるならバレないようにやるか、僕達から離れた場所で迷惑にならないようにやって」
ハジメはそう言って手をヒラヒラさせる。
光輝はそれが気に食わなかったのか顔を顰め、
「お前は、あの亜人族の人達を見て、何とも思わないのか! 見ろ、今、こうしている時だって、彼等は苦しんでいるんだぞ!」
そう叫ぶように言って来た。
「何も思わないわけじゃない。だけど、あれもこれも手を伸ばし過ぎて、本当に助けたい者を助けられなかったら本末転倒だって言ってるの」
「シアさんのことは大切にするのに、あんなに苦しんでいる亜人達は見捨てるのか!」
「その『大切』なシアの家族を助けに来ているから、確実を期すために余計な騒動は起こしたくないの!」
ハジメはそう言い返す。
それでも尚光輝が口を開こうとした時、
「あっはっは! 南雲君、この頭お花畑に何言っても無駄無駄!」
横から恵理が笑いながらそう言った。
「恵理? 何が可笑しんだ? 俺は人として真っ当な事を………」
光輝はそう言うが、恵理はそれをスルーし、
「この頭お花畑は『本当に大切なモノ』を持ってないんだ。だからあれもこれも手を伸ばそうとして失敗するのさ」
「何を言うんだ!? 大切なモノならあるさ!」
「ほう? それは何だい?」
「皆だ! 今までった人達やこれから出会う人たち……! 俺は皆が大切なんだ!」
自信に満ちた声でそう言う光輝。
だが、恵理は呆れた表情をして、
「………だろ?」
皆に同意を求める様に目配せした。
ハジメや拓也は唖然として輝二は肩を竦め、輝一は苦笑い。
龍太郎や鈴はそういう事じゃないんじゃと困惑し、雫に至っては頭を抱えていた。
「…………天之河君。勘違いしてるから言っておくけど、僕達は、先生の頼みで君が同行することを『許可』しただけなんだ。僕達の行動に君の意見を挟む余地は無い。君の行動が僕達の邪魔になると判断したら、力尽くで黙らせるよ………!」
ハジメが〝威圧〟を発動させながらそう言う。
「うっ………」
その威圧に言葉に詰まる光輝。
「僕も君に干渉するつもりはないんだ。だから、僕達に迷惑にならない範囲でなら好きにして。僕達は、ここにカム達を探しに来たんだ。安否もわからない状態で要らない騒ぎを起こしたくはないんだ」
ハジメはそれだけ言うと先に進んだ。
微妙な雰囲気のなか、辿り着いた帝都の冒険者ギルドは、まんま酒場という様子だった。
カウンターの受付嬢も気怠そうで、他の街の受付嬢の様なやる気が感じられない。
「情報をもらいたい。ここ最近、帝都内で騒動を起こした亜人がいたりしなかった?」
ハジメはその受付嬢にそう問いかける。
「……」
すると、受付嬢はもう1つのカウンターの方を指差す。
そちらは完全に酒場のバーカウンターだった。
「……そういう情報はあっちで聞いて」
受付嬢はそれだけ言うと、視線を外す。
ハジメは肩を竦めながらももう1つのカウンターの方へ向かう。
そこにはマスターと思わしき人物がテンプレの様にグラスを磨いていた。
「マスター、情報をもらいたい。ここ最近、帝都内で騒動を起こした亜人がいたりしなかった?」
先程と同じ質問をマスターへ投げかける。
しかし、マスターは相手は無視するようにグラスを磨き続けているだけだった。
そして、
「ここは酒場だ。ガキが遠足に来る場所じゃない。酒も飲まない奴を相手にする気もない。さっさと出て行け」
とまあ、よくありそうなお言葉を貰った。
ハジメはその言葉を聞いても特に怒らず…………というか、ちょっぴり嬉しそうな顔を一瞬した。
ハジメはそのままカウンターの上にお金を置くと、
「ごもっとも。マスター、この店で一番キツくて質の悪い酒をボトルでお願い」
まるで楽しむ様にそう発言した。
「……吐いたら、叩き出すぞ」
マスターは特に断るでもなく背後の棚から一升瓶を取り出しカウンターにゴトリと置く。
ハジメは、ボトルを手に取ると指先でスッと撫でるように先端を切断する。
封の空いたボトルからは強烈なアルコール臭が漂い、傍にいたシアや香織が思わず鼻を覆ってむせてしまった。
「な、南雲君? そ、それを飲む気なの? 絶対、やめた方がいいと思うわよ?」
「そ、そうだよ。絶対、吐いちゃうって。鈴なんか既に吐きそうだよ」
「っていうかハジメくん、どうせ飲むならもっといいお酒にしようよ」
「香織さんの言う通りですよ、ハジメさん。どうしてわざわざ質の悪いのを……」
皆が次々と制止の言葉をかける。
ユエですらも裾を引っ張って止めるように促していた。
そんな皆に対し、
「だって味わう気もないのに、いい酒をがぶ飲みなんて……酒に対する冒涜でしょ?」
ハジメはそんな事を言う。
その時、マスターの口元が僅かに微笑んだのをハジメは見逃さなかった。
ハジメはそのままボトルを煽り、その中身をラッパ飲みでゴキュゴキュと呑み込んでいく。
そのまま数秒で全て飲み干すと、空瓶をガンと叩きつけるようにカウンターに置いた。
ハジメの目は『これで文句ある?』と物語っている。
「……わかった、わかった。お前は客だ」
マスターは降参と言うように両手を挙げる。
「…………ハジメ、よく飲めたな。あんな酒………」
輝一が唖然としている。
普通なら急性アルコール中毒でも起こしそうな程の強烈なアルコール臭だったのだが、ハジメは平然としている。
すると、
「ああ。そう言えばハジメは毒耐性持ってたか」
拓也が思い当たった様にそう言った。
「ああ、そう………アルコールも『毒物』なのね………」
優花が呆れる様にそう言った。
「……で? さっきの質問に対する情報はある? もちろん、相応の対価は払うよ」
ハジメは話を続ける。
「いや、対価ならさっきの酒代で構わん。……お前が聞きたいのは兎人族のことか?」
「! ……情報があるみたいですね。詳しく頼みます」
マスターの話では、数日前に大捕物があったそうで、その時、兎人族でありながら帝国兵を蹴散らし逃亡を図ったとんでもない集団がいたのだとか。
しかし、流石に十数人で百人以上の帝国兵に帝都内で完全包囲されてしまっては逃げ切ることはやはり出来ず、全員捕まり城に連行されたそうだ。
「へぇ、城にね……」
ハジメは呟きながらシアを見る。
シアの表情はやはり曇っていた。
しかし、連行されたという事は、何かしらの理由で生かす価値があると判断されたという事だ。
生かす価値が無ければその場で殺されてるはずだからな。
「マスター、言い値を払うといったら、帝城の情報、どこまで出せる?」
「! ……冗談でしていい質問じゃないが……その様子を見る限り冗談というわけじゃなさそうだな……」
ハジメの顔を見て本気だという事を悟ったマスターは、あらゆる考えを巡らせたのだろう。
そして出来た答えは、
「……警邏隊の第四隊にネディルという男がいる。元牢番だ」
「ネディル………わかった、訪ねてみます。お世話になりました、マスター」
ハジメの知りたい情報を知っている人間を教えることだった。
ハジメはそれを聞くとあっさり引き下がる。
いくらギルド所属とは言え、あっさりと捕虜の居場所を教えてくれるとは思わなかったのだろう。
一行は冒険者ギルドを出てメインストリートを歩く。
すると、シアが先程のやりとりが気になったのかハジメに尋ねた。
「あの、ハジメさん。さっき元牢番の人を紹介してもらったのは、もしかして……」
「うん。詳しい場所を聞いて、今晩にでも侵入するつもり。そこで恵理さんに協力して欲しいんだけど………」
「なるほど。ボクの魂魄魔法の力が必要って事だね」
ハジメの言葉で恵理がそう察する。
恵理は魂魄魔法の適性がパーティー内で一番だった。
ハジメやユエの適性レベルと現在の熟練度では、情報を引き出す事は難しかっただろうが、恵理の適性レベルならそれも可能だ。
「もちろん、輝一が一緒なら行っても良いぜ」
いつも通りな恵理に苦笑するハジメ。
「輝一、頼める?」
「ああ」
ハジメの言葉に輝一も苦笑しながら頷いた。
それからさほど時間もかからずにハジメ達が情報を仕入れてくると、
「欲しい情報は得られたよ。今晩、カム達がいる可能性の高い場所に潜入する。警備は厳重そうみたいだけど、カム達を見つけさえすれば、あとは空間転移で逃げればいいから、特に難しくもないかな。潜入するのは僕と香織、ユエとシアだけで。万一に備えて、気配遮断や転移が使える方がいいし。拓也達は帝都の外にいるパル達のところにいて欲しい」
「まあ、仕方ないか」
拓也が何もする事が無いと不満げだが、自分に隠密行動など向かないと分かっているので文句は言わない。
「なぁ、南雲……今更だが、シアさんの家族が帝城に捕まっているんなら、普通に返してくれって頼めばいいんじゃないか? 今ならリリィもいるはずだし、俺は勇者だし……話せば何とかなると思うんだが……」
光輝が今更な事を言う。
だが、
「対価に何を払う気?」
ハジメはそう聞き返した。
「え?」
「カム達は不法入国者。しかも、兎人族でありながら包囲されて尚、帝国側にダメージを与えられるという異質な存在。それを、まさか頼んだからって無償で引き渡してくれると思うの?」
「それは……」
「対価を要求するに決まってるよ。それも思いっきり足元を見た、ドでかい対価を。帝国にだって面子はある。タダで済ますことは出来ないだろうし。あるいは、リリアーナ姫の交渉にも影響が出るかも知れない? それでもいいのか?」
ハジメは光輝に警告する。
光輝はそれを聞くと、考え込む様な仕草をする。
その時、ハジメが八重樫さんをチラッと見た。
そちらには八重樫さんが困ったような苦い顔をしている。
それはつまり、光輝は、『善意』と言う名の大きなお世話で、余計な行動をする可能性が高いという事だ。
「…………彼が余計な事をしない様に見張っておいて」
拓也達に小さく付け足すハジメ。
その視線は光輝に向いている。
「ああ………了解」
拓也はその意味を察し、輝二と輝一も頷いた。
そして案の定、救出に向かったハジメをコッソリ追おうとした光輝が居たわけだが、グロットモンに進化した幸利が落とし穴を掘って落とした上でハジメから預かっておいたスタングレネード+催涙弾で行動不能にする羽目になった。
そして、ハジメ達に救出されて戻って来たカム達は、案の定拷問を受けてボロボロだった。
何でも、どんな拷問を受けても決して口を割らず、沈黙を貫いたらしい。
そしてその理由だが、『忍者とは忍び耐える者の事である』という以前のハジメの教えを忠実に守った故の事だったそうだ。
そして、
「お頭、宜しいですか?」
カムがハジメにそう進言する。
ハジメは錬成で手早く椅子を作り出すとそれに腰かけ、話すように態度で促す。
「まず、何があったのかということですが、簡単に言えば、我々は少々やり過ぎたようです……」
カムが話し出す。
亜人奴隷補充の為に樹海に侵入してきた帝国兵を、ハウリアはかなりの数を撃破したらしい。
しかも、ほぼ誰にも正体を悟られない見事な無力化であったため、帝国側も正体不明の集団の正体を掴むため、カム達を帝都に誘い込み、そこで包囲網が敷かれ、多勢に無勢で捕らえられてしまったとの事。
しかし、カム達もただでは転ばず、包囲してきた帝国兵と対等以上に渡り合ったというのだ。
だが、逆にそれが帝国上層部の興味を引く事となった。
「その結果、我等は生け捕りにされ、連日、取り調べを受けていたわけです。あちらさんの興味は主に、ハウリア族が豹変した原因と所持していた装備の出所、そして、フェアベルゲンの意図というところです。どうやら、我等をフェアベルゲンの隠し玉か何かと勘違いしているようで……実は、危うく一族郎党処刑されかけた上、追放処分を受けた関係だとは思いもしないでしょうなぁ」
「…………で? 捕虜になった言い訳がしたいわけじゃないんでしょ? 本題は?」
「失礼しました、お頭。では、本題ですが、我々ハウリア族と新たに家族として向かえ入れた者を合わせた新生ハウリア族は……帝国に戦争を仕掛けます」
その言葉が紡がれた瞬間、辺りに静寂が満ちた。
「……………………………何を、何を言っているんですか、父様? 私の聞き間違いでしょうか? 今、私の家族が帝国と戦争をすると言ったように聞こえたんですが……」
長い沈黙の後、静寂を破ったのはシアだった。
「シア、聞き間違いではない。我等ハウリア族は、帝国に戦争を仕掛ける。確かにそう言った」
「ばっ、ばっ、馬鹿な事を言わないで下さいっ! 何を考えているのですかっ! 確かに、父様達は強くなりましたけど、たった百人とちょっとなんですよ? それで帝国と戦争? 血迷いましたか! 同族を奪われた恨みで、まともな判断も出来なくなったんですね!?」
「シア、そうではない。我等は正気だ。話を……」
「聞くウサミミを持ちません! 復讐でないなら、調子に乗ってるんですね? だったら、今すぐ武器を手に取って下さい! 帝国の前に私が相手になります。その伸びきった鼻っ柱を叩き折ってくれます!」
シアは宝物庫から戦槌であるドリュッケンを取り出すと、砂煙が舞うほどの勢いで振り回し、ビシッと突き付けた。
シアの身体強化は、今までの戦いの中で派生技能の〝効率変換Ⅲ〟を得たことで更に高まっており、ステータスプレートの数値だけで言えば、筋力はハジメすらも超える。
ただ、ハジメ達には魔物から得た大量の技能や限界突破があるので、まだまだ単純な力押しでも負けないが。
そんなシアを前にしても、カム達は全く動じずに静かにシアを見つめ返していた。
すると、
「シア、少し落ち着いて? カムの話はまだ終わっていないんだよ? 少なくとも、カムは何の考えも無しにそう言う事を言い出す程愚かじゃない筈だ」
ハジメがシアにそう言った。
「うっ……そうですね……すいません。ちょっと頭に血が上りました。もう大丈夫です。父様もごめんなさい」
「家族を心配することの何が悪い? 謝る必要などない。こっちこそ、もう少し言葉に配慮すべきだったな」
カムはそう言って笑みを浮かべた。
「カム、まさかと思うけどその話をしたのは、僕達に参戦を促す為じゃないんでしょ?」
「ははっ、それこそまさかですよ。ただ、こんな決断が出来たのも、全てはお頭に鍛えられたおかげです。なので、せめて決意表明だけでもと、そう思っただけですよ」
カムはあっさりとハジメの言葉を否定した。
「理由は?」
ハジメがそう聞き返す。
「意外ですな、聞いてくれるのですか? 興味ないかと思いましたが……」
カムが軽く驚いたように口にした。
「少なくとも、シアの事は大切に思ってるからね。その家族を心配するのは当然の事だよ」
ハジメにとって『大切』なシアが暗い顔をしている。
それだけでハジメが関わろうとする理由には十分だろう。
「先程も言った通り、我等兎人族は皇帝の興味を引いてしまいました。それも極めて強い興味を。帝国は実力至上主義を掲げる強欲な者達が集う国で、皇帝も例には漏れません。そして、弱い者は強い者に従うのが当然であるという価値観が性根に染み付いている」
「つまり、皇帝が兎人族狩りでも始めるって事? 殺すんじゃなくて、自分のものにするために?」
「肯定です。尋問を受けているとき、皇帝自らやって来て、〝飼ってやる〟と言われました。もちろん、その場で拒絶いたしましたが………しかし、逆に気に入られてしまいまして。全ての兎人族を捕らえて調教してみるのも面白そうだなどと、それは強欲そうな顔で笑っていました。断言しますが、あの顔は本気です。再び樹海に進撃して、今度はより多くの兎人族を襲うでしょう。また、未だ立て直しきれていないフェアベルゲンでは、次の襲撃には耐え切れない。そこで、もし帝国から見逃す代わりに兎人族の引渡しでも要求されれば……」
「なるほどな。受身に回れば手が回らず、文字通り同族の全てを奪われる……か」
「肯定です。ハウリア族が生き残るだけなら、それほど難しくはない。しかし、我等のせいで、他の兎人族の未来が奪われるのは……耐え難い」
「だが、まさか本気で百人ちょいなんて数で帝国軍と殺り合えるとは思っていないだろう?」
「もちろんです。平原で相対して雄叫び上げながら正面衝突など有り得ません。我等は兎人族、気配の扱いだけはどんな種族にも負けやしません」
「つまり、暗殺?」
「はい。お頭の教えを破る事にはなりますが、それしかないかと。我等に牙を剥けば、気を抜いた瞬間、闇から刃が翻り首が飛ぶ……それを実践し奴らに恐怖と危機感を植え付けます。いつ、どこから襲われるかわからない、兎人族はそれが出来る種族なのだと力を示します。弱者でも格下でもなく、敵に回すには死を覚悟する必要がある脅威だと認識させさます」
「皇帝の一族が、暗殺者に対する対策をしていないと思う?」
「もちろんしているでしょうな。しかし、我等が狙うのは皇帝一族ではなく、彼等の周囲の人間です。流石に、周囲の人間全てにまで厳重な守りなどないでしょう。昨日、今日、親しくしていた人間が、一人、また一人と消えていく。我等に出来るのは、今のところこれくらいですが、十分効果的かと思います。最終的に、我等に対する不干渉の方針を取らせることが出来れば十全ですな」
ただ、皇室がハウリア族を脅威と思って交渉のテーブルに着くか、それとも樹海全てに攻勢を掛けるかは賭けだろう。
「……父様……みんな……」
カム達の覚悟を目の当たりにしてシアは何も言えなくなって肩を落とす。
シア自身にもこれしか無いと分かっているのだろう。
「シア、そんな顔をするな。以前のようにただ怯えて逃げて蔑まれて、結局蹂躙されて、それを仕方ないと甘受することの何と無様なことか……今、こうして戦える、その意志を持てることが、我等はこの上なく嬉しいのだ」
「でも!」
「シア、我等は生存の権利を勝ち取るために戦う。ただ、生きるためではない。ハウリアと
しての矜持をもって生きるためだ。どんなに力を持とうとも、ここで引けば、結局、我等は以前と同じ敗者となる。それだけは断じて許容できない」
「父様……」
「前を見るのだ、シア。これ以上、我等を振り返るな。お前は決意したはずだ。ボスと共に外へ出て前へ進むのだと。その決意のまま、真っ直ぐ進め」
すると、シアが何か言いたげにハジメを方を振り向いた。
おそらくハジメに助けを求めようとしたのだろう。
だがその瞬間、
「シア!」
シアを叱咤する様に叫んだのはカム自身だった。
カムは先程の言葉通りハジメの力を借りる気など毛頭無いのだ。
シアもそれを感じたのか口を噤む。
「シア」
「ハジメさん……」
シアを呼んだハジメの声に、シアは僅かばかり期待を膨らませる。
しかし、
「今回の件で僕が戦うことはない」
「っ……そう、ですよね」
その言葉に明らかに落胆した仕草を見せる。
「南雲! お前には血も涙も無い………もがっ!?」
「お前は黙ってろ!」
口を出そうとした光輝の口を拓也が塞ぎ、無理矢理引かせる。
「早とちりしないで。戦わないけど、手伝わないとは言ってないでしょ?」
「ふぇ?」
ハジメは光輝をまるで居ないようにスルーしてシアに優しく声をながらシアの頬に手を添える。
「今回の件は、ハウリア族が強さを示さなきゃならない。容易ならざる相手はハウリア族なのだと思わせなきゃならない。この世界において亜人差別が常識である以上、僕達が戦って守ったんじゃあ、僕達がいなくなった後に同じことが起きるだけ。何より、カム達の意志がある。だから、僕は一切、戦うつもりはない」
あくまでもカム達の意志を尊重するというハジメ。
「けど、『大切』なシアがこんな顔してるんだ。それを見て僕が黙って引き下がると思った?」
「し、しかし、お頭……なら、一体……」
カム達は困惑しているが、ハジメはスッと真剣な表情になると、
「カム、そしてハウリア族。シアを泣かせるような作戦なんて全て却下。君等は直接、皇帝の首にその刃を突きつけろ。髪を掴んで引きずり倒し、親族、友人、部下の全てを奴の前で組み伏せろ。帝城を制圧し、助けなど来ないと、一夜で帝国は終わったのだと知らしめてやるんだ! ハウリア族にはそれが出来るのだと骨の髄に刻み込んでやれ! この世のどこにも、安全な場所などないのだと、ハウリア族を敵に回せば、首刈りの蹂躙劇が始まるのだと、帝国の歴史にその証を立ててやれ!」
ハジメの言葉に流石のハウリア族も硬直している。
ハジメはカム達があえて避けていた皇帝を直接狙えと言ったからだ。
「……………返事は?」
ハジメが再度聞き返す。
「「「「「「「「「は……はっ! 承知しました!!」」」」」」」」」」
カム達は、その言葉に一斉に跪くのだった。
次回予告
帝城を訪れた拓也達。
そこでリリアーナ王女と帝国の皇子バイアスとの婚約披露パーティーに出席する事になる。
そのパーティーで起こる出来事とは!?
次回、ありふれたフロンティアへ
第33話 ハウリアの戦争
今、ありふれた伝説が進化する。
第32話です………
今回も過去作のコピペが大半です…………
この辺ネタが無いので………
それと今週は仕事の所為で精神不安定。
なので今週も返信はお休みします。
申し訳ない。