ありふれたフロンティアへ   作:友(ユウ)

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第33話 ハウリアの戦争

 

カム達を救出した翌日。

光輝の勇者という名目を使い、正面から堂々と帝都へ入った俺達は、帝城にいるリリアーナの下を訪れていた。

そして何故かヘルシャー帝国の皇帝ガハルドと謁見することになった。

通された部屋は、30人くらいは座れる縦長のテーブルが置かれた、ほとんど装飾のない簡素な部屋だった。

そのテーブルの上座に頬杖を突いて不敵な笑みを浮かべる男がいた。

その男が皇帝ガハルドだった。

更にその背後には、腕が立つだろうと思わせる男が2人立っていた。

 

「お前が、南雲ハジメか?」

 

一行が部屋に入ると、間髪入れずガハルドがハジメにそう言った。

その言葉と同時にプレッシャーを叩きつけているのだろうが、大迷宮の魔物や試練に比べればぬるいので、ハジメや拓也達は動じない。

 

「ええ、僕が南雲ハジメです。御目に掛かれて光栄です、皇帝陛下」

 

胸に手を当て、軽くお辞儀をしながらそう言うハジメ。

基本的にハジメは空気が読める為、必要に応じて態度を変える事は出来る。

因みに言葉使いは創作小説等の真似だ。

 

「ククク……思ってもいないことを」

 

ガハルドはハジメの態度を見て面白そうに笑う。

それからガハルドに促され、拓也達は席に座る。

ガハルドはハジメだけではなく、周りを陣取る香織やユエ、シア、拓也、優花、ティオ、ノイント、輝一、恵理、幸利、輝二、ボコモン、ネーモンにも興味深そうな視線を向ける。

次いで雫に目を向けニヤリと楽しげな笑みを浮かべると、

 

「雫、久しいな。俺の妻になる決心は付いたか?」

 

「お、おい! 雫は、既に断っただろう!」

 

いきなりのガハルド皇帝の言葉に光輝が思わず突っ込む。

だが、ガハルドはあからさまに光輝は眼中にないという態度を取っている。

すると、

 

「前言を撤回する気は全くありません。陛下の申し出はお断りさせて頂きます」

 

「つれないな。だが、そうでなくては面白くない。元の世界より、俺がいいと言わせてやろう。その澄まし顔が俺への慕情で赤く染まる日が楽しみだ」

 

「そんな日は永遠に来ませんよ。……というか、皇后様がいらっしゃるでしょう?」

 

「それがどうした? 側室では不満か? ふむ、正妻にするとなると色々面倒が……」

 

「そういう意味ではありません! 皇后様がいるのに他の女に手を出すとか……」

 

「何を言っている? 俺は皇帝だぞ? 側室の十や二十、いて当たり前だろう」

 

「ぐっ……そうだったわ。と、とにかく、私は陛下のものにはなりません。諦めて下さい」

 

「まぁ、神による帰還が叶わない以上、まだまだこの世界にいるのだろうし、時間をかけて口説かせてもらうとしようか。クク、覚悟しろよ、雫」

 

そう言って笑うガハルドに対し、雫が口を開こうとした時、

 

「いくら皇帝とは言え、目の前で人の恋人を口説かれるのは、良い気分じゃないな………!」

 

輝二が横からそう口を出した。

その言葉に、雫が振り返り、ガハルドが目を細めて輝二を見る。

 

「ほう? 今、雫を『恋人』と言ったか?」

 

「ああ」

 

ガハルドの睨み付ける様な視線にも、輝二は平然と答える。

 

「面白くないな………だが、まずこれだけ聞かせろ」

 

「何だ?」

 

「お前、俺の雫はもう抱いたのか?」

 

「「「「ぶふぅーー!?」」」」

 

雫を始めとした何人かが噴き出す。

 

「陛下……最初に聞くのがそれですか……」

 

ガハルド皇帝の後ろにいる護衛達もそう呟いて頭を押さえていた。

 

「ちょっ、陛下! いきなり何をっ……」

 

「雫、お前は黙っていろ。俺は、コイツに聞いてんだよ」

 

顔を真っ赤にしている雫と、真剣な表情にガハルド皇帝。

輝二はその顔を見ると、目を伏せて軽く溜息を吐き、

 

「…………ああ。と、言ったら?」

 

肯定とも否定とも取れる答えを返した。

 

「こ、輝二!? 何言って………!?」

 

その答えに慌てたのは雫だ。

そして、そんな雫を見てガハルドはつまらなそうに舌打ちすると、

 

「チッ………雫のその様子を見るに本当の様だな………」

 

残念そうにそう呟いた。

 

「ガハルド皇帝、無駄話がしたいというだけなのであれば、僕達はお暇したいのですが?」

 

ハジメが呆れた様にそう言うと、

 

「無駄話とは心外だな。新たな側室……あるいは皇后が誕生するかもしれない話だぞ? 帝国の未来に関わるというのに……まぁ、話したかったのは確かに雫のことではない。わかっているだろう? お前らの異常性についてだ」

 

今までの話も本気ではあったのだろうが、本命はこちらの話だ。

 

「リリアーナ姫からある程度は聞いている。お前が、大迷宮攻略者であり、そこで得た力でアーティファクトを創り出せると……魔人族の軍を一蹴し、二ヶ月かかる道程を僅か二日足らずで走破する、そんなアーティファクトを。真か?」

 

「はい」

 

「そして、そのアーティファクトを王国や帝国に供与する意思がないというのも?」

 

「そうですね」

 

「ふん、一個人が、それだけの力を独占か……そんなことが許されると思っているのか?」

 

「はて? 自分の作った道具を自分で使って何が悪いんですかね? こちらとしては自己防衛、もしくはその時に居た街や知り合いを助ける以上の事はした記憶は無いのですが? そもそも、許されないとして誰が許さないんですか?」

 

ガハルドの睨みをハジメは平然と受け流す。

 

「ところで…………」

 

すると、ハジメは一旦言葉を区切り、視線を天井、壁、扉の3ヶ所に順番に移していくと、

 

「最初から気になっていたのですが、この部屋を覗く狼藉者が居る様なのですが、そちらについては対処されないので?」

 

最後にガハルドの背後の2人に〝威圧〟を放ちながら問いかけた。

 

「……………………………」

 

その視線を向けられたガハルドは、少しの間その視線に真っ向から対峙していたが、

 

「…………フッ」

 

突然口元を吊り上げ、

 

「はっはっは、止めだ止め。ばっちりバレてやがる。こいつらは正真正銘の化け物だ。今やり合えば皆殺しにされちまうな!」

 

ガハルドが豪快に笑いながら、覇気を収めた。

それに合わせて周囲の者達も剣呑な空気を収めていく。

 

「なんで、そんな楽しそうなんです?」

 

「おいおい、俺は〝帝国〟の頭だぞ? 強い奴を見て、心が踊らなきゃ嘘ってもんだろ?」

 

ガハルドはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「それにしても、お前らが侍らしている女達もとんでもないな。おい、どこで見つけてきた? こんな女共がいるとわかってりゃあ、俺が直接口説きに行ったってぇのに……一人ぐらい寄越せよ、南雲 ハジメ」

 

「何ふざけたこと言ってるんですか? ダメに決まってるでしょう? それに、香織とユエとシアは僕のですけど、他は拓也、輝二、輝一のですからね」

 

「俺としては、そちらの兎人族が気になるがね? そんな髪色の兎人族など見た事がない上に、俺の気当たりにもまるで動じない。その気構え、最近捕まえた玩具を思い起こさせるんだが、そこのところどうよ?」

 

ガハルドはまるで神経を逆撫でするかのように〝玩具〟という言葉を強調する。

それにシアはピクリとしたが、隣のユエに手を握られて落ち着かされた。

 

「玩具なんて言われても……」

 

「心当たりがないってか? 何なら、後で見るか? 実は、何匹かまだいてな、女と子供なんだが、これが中々――」

 

「興味ないです」

 

掴まったハウリア族が全員救出された事はカムを通じて確認済みである。

明らかなカマかけだ。

予めそう言うハッタリをきかせてくることは予想済みなのでシア以外に反応する者はいない。

 

「ほぉ。そいつらは、超一流レベルの特殊なショートソードや装備も持っていたんだが、それでも興味ないか、錬成師?」

 

「ありません」

 

「……そうかい。ところで、昨日、地下牢から脱獄した奴等がいるんだが、この帝城へ易々と侵入し脱出する、そんな真似が出来るアーティファクトや特殊な魔法は知らないか?」

 

「知りません」

 

「……はぁ……ならいい。聞きたい事はこれで最後だ……神についてどう思う?」

 

「特に興味ありません………ですが、僕達に必要以上に干渉してくるのなら、それ相応の対処をするつもりです」

 

「あ~、もう、わかったわかった。ったく、愛想のねぇガキめ」

 

ガハルドの言葉に全く動じずに答えていくハジメ。

ガハルドは恐らくハウリアを逃がしたのもハジメだと気付いている様だが、敵対することは避けたいのだろう。

すると、時間が来たのか護衛の1人がガハルドにそっと耳打ちする。

ガハルドは席を立つと、

 

「まぁ、最低限、聞きたいことは聞けた……というより分かったからよしとしよう。ああ、そうだ。今夜、リリアーナ姫の歓迎パーティーを開く。是非、出席してくれ。姫と息子の婚約パーティーも兼ねているからな。真実は異なっていても、それを知らないのなら、〝勇者〟や〝神の使徒〟の祝福は外聞がいい。頼んだぞ? 形だけの勇者君?」

 

ガハルドは明らかに光輝を馬鹿にするような物言いで爆弾発言を残して部屋を出た。

その言葉に一瞬固まっていた光輝だが、ハッとなってリリアーナに問いかける。

 

「リリィ、婚約ってどういうことだ! 一体、何があったんだ!」

 

「それは……たとえ、狂った神の遊戯でも、魔人族が攻めてくれば戦わざるを得ません。我が国の王が亡くなり、その後継が未だ十歳と若く、国の舵取りが十全でない以上、同盟国との関係強化は必要なことです」

 

「それが、リリィと皇子の結婚ということなのね?」

 

「はい。お相手は皇太子様ですね。ずっと以前から皇太子様との婚約の話はありました。事実上の婚約者でしたが、今回のパーティーで正式なものとするのです。魔人の侵攻で揺らいでいる今だからこそ、というわけです」

 

「王国には? 協議が必要ではないの?」

 

「事後承諾ではありますが、反対はないでしょう。元々、そういう話だったわけですし。それに、今の王国の実質的なトップは私です。ランデルは未だ形だけですし、お母様も前には出ない人ですから。なので、問題ありません。今は何事も迅速さが必要な時なのです」

 

王女としてそう言うリリアーナ。

光輝は苦虫を噛み潰したような表情して口を開いた。

 

「……リリィは、その人の事が好きなのか?」

 

「好き嫌いの話ではないのです。国同士の繋がりのための結婚ですから。ただ、皇太子様には既に幾人もの愛人がいらっしゃるので、その方達の機嫌を損ねることにならないか胃の痛いところです。私の立場上、他の皇子との結婚というのは釣り合いが取れませんから、仕方がないのですが……」

 

「な、なんで、そんな平然としているんだよ! 好きでもない上に、そんな奴と結婚なんて、おかしいだろ!」

 

「光輝さん達から見れば、そうなのかもしれませんが、私は王族で王女ですから。生まれた時から、これが普通のことです」

 

「普通って……リリィだって、女の子なんだ。ちゃんと好きになった人と結婚したいんじゃないのか?」

 

納得できない光輝に対し、リリアーナ王女はただ困ったような笑みを浮かべる。

すると、

 

「あ~あ~! やだやだ! 頭お花畑には、その言葉が逆に王女サマを苦しめているって分からないのかなぁ~!?」

 

恵理が呆れた様に声を上げた。

 

「恵理? どういう事だ? 俺の言葉がリリィを苦しめているだって?」

 

光輝は理解不能と言いたげな声を漏らす。

 

「王女サマは、『王女』としての義務を果たす『覚悟』を決めているんだ。君の言葉はその『覚悟』を態々揺らがせているだけだよ」

 

「何を言ってるんだ!? 結婚は『覚悟』してするものじゃないだろ!」

 

「普通の結婚ならそうだけど、王女サマがするのは『政略結婚』なんだ。そこに本人達の好き嫌いは関係無いよ」

 

「そもそも政略結婚なんてものが間違ってるんだ! 結婚は本人達が幸せになるためにするものだ!」

 

「どこまでも頭お花畑だねお前。王女サマは今まで国民の汗水流して働いた税金で優雅な暮らしや英才教育を受ける事ができたんだ。今度は国民達の為に王女サマがその身を捧げる。そうしなきゃフェアじゃない」

 

「くっ…………」

 

光輝は言葉に詰まる。

正直、あのガハルドが政略結婚をどれだけ重要に見てるか分からないが。

 

 

 

 

その後、応接室を出てお付のメイドに部屋へ案内された一行。

メイドを追い返したあと、ハジメが何かに集中するようにずっと目を瞑っていた。

やがて、スッと目を開けたハジメに気付いたユエが問いかけた。

 

「……どう? ハジメ」

 

「……うん、上々だね。……途中、ちょっと面倒事があったけど……予定の六割は完了したよ」

 

「面倒事って何だ?」

 

ハジメの答えに拓也が問いかける。

 

「………まあ、大したことじゃないよ」

 

ハジメが何でもないようにそう言うと、

 

「早いね。やっぱりトラップは多いのかな?」

 

香織がそう聞く。

 

「……そうだね。でも、全てを解除する必要はないから」

 

「ふむ、今夜がパーティーというのは幸いじゃの。人が固まれば、色々動きやすいのじゃ」

 

「最終的にはパーティー会場に集まることになりそうですね。……上手くいくでしょうか?」

 

シアが少し不安そうな表情をみせる。

そんなシアをハジメ達がウサ耳をモフモフしたり、頭を撫でたり、頬をムニムニしたり、手を握ったりしている。

シアは感極まったのか、目が潤んできた。

それでも涙は流さず、代わりにニッコリと笑みを浮かべた。

 

「さて、主役達のために舞台を整えようか」

 

ハジメのその言葉に皆は笑みを浮かべて力強く頷いた。

 

 

 

 

 

煌びやかなパーティー会場で、一行は注目を集めていた。

〝神の使徒〟にして〝勇者一行〟と認識されているので、実力主義の帝国貴族からすれば、興味をそそられる存在だ。

更に周りにいる女性達は全員見た目麗しい美女美少女ばかりだ。

ダンスのお相手やお近付きになりたい男はいくらでもいるだろう。

ただ、その全員は意中の男以外と踊る気は無く、にべもなく断られているのだが。

ハジメの周りには、香織、ユエ、シアが寄り添っており、香織は、肩口が完全に露出したタイプのスレンダーラインのドレスを着ており、チャイナドレスのように深いスリットが入った裾からふとした拍子にチラリと覗く美脚が色っぽい。

シアはムーンライト色のミニスカートドレスを纏っており、そのスラリと長く引き締まった美脚を惜しげもなく晒している。

そしてユエは、日本で言う純白のウエディングドレスのようなドレスを纏っていた。

光沢のある生地で、肩口が露出しており、裾はフリルが何段も重ねられ大きく広がっている。髪はポニーテールにしていて上品な白い花を模した髪飾りで纏められていた。

因みに、このドレスを巡って香織との激しい争奪戦があったらしく、最終的にユエが勝ち取ったのだ。

そんな彼女達を見て、帝国貴族達は目を奪われていた。

そんな中、拓也、輝二、輝一は、壁の方に集まっていた。

その周りには、もちろん優花、ティオ、ノイント、雫、恵理の姿もある。

しかし、

 

「………………なあ?」

 

拓也が思わず疑問の声を漏らす。

 

「何?」

 

優花が聞き返すと、

 

「何で全員ドレスが赤なんだ?」

 

そう、拓也の言葉通り、5人の女性達は多少の差はあれど、全員が赤系統のドレスを纏っていた。

すると、優花は含み笑いをして、

 

「何でも、帝国では花嫁衣装に使う色が『赤』らしいわよ」

 

「ブッ!?」

 

優花の言葉に思わず吹き出す拓也。

 

「…………えっと………つまりこういう場で赤色のドレスを着て男の傍にいるという事は………」

 

「既に意中の男が居るから他の男からの誘いは断る、という意味合いになるのじゃろうな」

 

ティオも楽しそうに言う。

 

「私は、皆様が同じ色を選んでいたので、それが普通だと………」

 

ノイントは周りに合わせて選んだだけの様だ。

 

「ユエが来ている純白のドレスは?」

 

輝二が聞くと、

 

「純白一色の衣装は、子供服らしいわ。純白は純真無垢の証だそうよ」

 

雫が答える。

 

「…………だれも教えなかったのか?」

 

輝一がそう言うと、

 

「だってユエも香織も人の話そっちのけでドレスの奪い合いをしてたんだぜ。一応メイドさん達がやめるよう進言してたけど、どっちも聞く耳持たずさ。まあ、僕達はちゃんとメイドさん達の話を聞いて選んだけどね。まあ、ユエは見た目もあんなんだし、純白でもさほど違和感は無いだろうさ。ま、南雲君が子供すら守備範囲のヤベー奴と認識されるぐらいかな」

 

恵理はケタケタと笑いながらそう答えた。

 

「お前らなぁ…………」

 

拓也は呆れた様に声を漏らす。

そんなこんなしている内に、パーティーの主役であるリリアーナ王女と、その婚約者でありガハルドの息子で皇太子のバイアスが入場してくる。

ザワッとどよめきが広がるが、それは祝福する様なものではなく、逆に困惑する様なざわめきだった。

何故なら、リリアーナ王女は婚約発表のパーティーには似つかわしくない漆黒のドレスを身に纏っていたからだ。

こちらの世界でもこういった祝い事には明るい色が好まれる。

しかし、リリアーナ王女はそれとは真逆の漆黒のドレスを選び、更には義務としてここに居ますと言わんばかりのすまし顔だ。

バイアスは苦虫をかみつぶしたような表情をしており、これから夫婦になる2人にはとても見えなかった。

 

「リリアーナ王女…………何かあったのか?」

 

「公の場であんな態度を取るような人には見えなかったけど…………王族として割り切っていたみたいだし………」

 

その後のダンスでも、バイアスが強引に抱き寄せてもいつの間にかリリアーナ王女が音楽に合わせて離れると言った事の繰り返しで終わり、すぐに挨拶回りへと進む。

バイアスは完全にイラついている表情だ。

因みにリリアーナのこの態度には理由がある。

それは、このパーティーが始まる前に、リリアーナはバイアスにレイプされそうになったのだ。

偶々通りかかったハジメの蜘蛛型ゴーレムによってバイアスが気絶させられ、未遂に終わったが、リリアーナの心は完全にバイアスから離れていた。

よく見ると、リリアーナの視線はチラチラとハジメに向けられている。

すると、そんな彼女の前でハジメがユエとダンスを始めた。

元王族であるユエはダンスの嗜みもあったのか、うまい具合にハジメをリードしていく。

因みに、何故庶民である筈のハジメがユエについて行けるのかと言えば、〝瞬光〟を使っていたからだったりする。

何という最終派生技能の無駄遣い、である。

それを拓也が見ていると、

 

「ね、ねえ拓也………」

 

優花がおずおずと話しかけてきた。

 

「ん?」

 

「その………私達も踊らない?」

 

優花からのダンスのお誘いだった。

 

「えっ!? あ、いや、ダンスなんて踊れないぞ」

 

拓也は思わずそう言う。

 

「それは私も一緒よ! ただ、一度ぐらいこういう所で踊ってみたくて………」

 

優花は恥ずかしそうにそう言う。

優花にも、このようなパーティーでダンスを踊ってみたいという憧れがあったのだろう。

 

「あ~、じゃあ………上手く踊れるとは思わないけど、俺で良ければ…………」

 

拓也も自信無さげに手を差し出す。

 

「………うん、ありがとう」

 

優花はお礼を言ってその手を取った。

2人は揃ってホールに向かい、周りの見様見真似で踊り始める。

そのダンスは、お世辞にも上手いものでは無かったが、楽し気に踊る2人には関係無かった。

やがて一曲が終わり、ハジメは次に香織とペアを組む。

拓也も優花と一緒に戻ってくると、

 

「ご主人様。次は妾と踊ってくれんかのう?」

 

ティオがそう言って手を差し出した。

拓也は優花の様子を伺うと、優花は仕方なさげに頷く。

 

「わかった。いいぞ」

 

拓也はそう言ってティオの手を取った。

それを見て、

 

「輝一。僕達も踊ろうか」

 

恵理が輝一の手を取って引っ張る。

 

「ちょ、恵理!」

 

輝一はそのまま恵理に連れていかれた。

それを見て、雫はチラチラと輝二を見る。

その顔は赤く、誘おうか誘うまいか迷っているように見えた。

それに気付いた輝二は、軽く息を吐いて雫に向き直ると、

 

「俺と踊ってくれませんか? レディ」

 

手を差し出しながらそう言った。

 

「えっ!? あっ………」

 

雫は顔を真っ赤にして狼狽えたが、

 

「あ、うう………よ、喜んで………」

 

恥ずかしさで言葉が尻すぼみになりながらも、その手を取った。

そのまま2人揃ってホールへ向かう。

リリアーナとバイアスのダンスで微妙な空気となっていた会場が、彼ら彼女らのお陰で随分と明るい空気を取り戻した。

拓也がティオとのダンスを終えて戻ってくると、

 

「ぁ…………………」

 

ノイントが一瞬何か言いたげな声を漏らす。

しかし、すぐに口を噤んだ。

しかし、拓也はその違和感に気付き、

 

「どうした? ノイント」

 

「あ、いえ………何でもありません………」

 

言葉でそう否定するノイント。

しかし、拓也は何となく察した。

 

「もしかして、ノイントも踊りたいのか?」

 

「えっ…………?」

 

ノイントは意外そうな声を漏らした。

すると、

 

「その………わかりません……………ただ、皆様の踊っている所を見ていると、何と言えばいいのか………胸が疼くと言いますか…………すみません、上手く言葉に出来ません………」

 

ノイントは申し訳なさそうにそう言う。

優花はそれを聞いて溜息を吐くと、

 

「それって踊りたいって事じゃない。そうならそうと言いなさいよ」

 

優花はやややけっぱちにそう言うと、

 

「拓也、ノイントと踊ってあげなさい!」

 

「……って、俺!?」

 

「拓也以外に誰が居るのよ!? ノイントの面倒はあなたが見るんでしょ!? いいから早く行きなさい!」

 

まるで叱る様にそう言う優花。

 

「あ、ああ………」

 

拓也は困惑しつつも、ノイントに手を差し出し、

 

「じゃ、じゃあノイント………俺で良ければ踊ろうか……」

 

「ぁ………は、はい……」

 

ノイントも困惑気味にその手を取った。

ホールに向かう拓也とノイント。

その2人の背中を見て、

 

「意外じゃのう………まさかお主がご主人様とノイントが踊る事を許すとは…………」

 

「ノイントは今、子供みたいなものよ。記憶を失ったせいかもしれないけど、何の裏表もなく、純粋にやりたい事を望んでいるだけ。その願いをかなえてあげようと思うのはおかしい事かしら?」

 

「純粋な願い………か。確かにのぅ。今のあ奴のやりたい事を否定する気にはならんのぅ。いや、妾はてっきり…………」

 

「てっきり何よ?」

 

「…………ノイントをご主人様の2人目の側室にするのかと」

 

「ッ!? な、何でそうなるのよ!?」

 

「いや、ご主人様の様子を見るに、ノイントに対して保護者以上の感情を向けているのは明らかじゃろう?」

 

「ッ…………………」

 

「本人は気付いておらんようじゃがの」

 

ティオは肩を竦める。

 

「…………ティオは如何なのよ?」

 

「妾は前も言ったがもう1人位増やすべきじゃと思っておる。2人では体がもたんしの。ノイントに関しては、今の人柄なら問題無いじゃろうが、もし記憶が戻った時にどうなるか………それだけじゃな」

 

「……………………」

 

優花は何とも言えない表情で踊り始める2人を見つめた。

尚、龍太郎と鈴も2人で踊っており、ボコモンとネーモンは料理に夢中だったりする。

 

 

 

 

 

ダンスが終わって少しすると、ガハルドが壇上に上り、スピーチを始めた。

 

「さて、まずは、リリアーナ姫の我が国訪問と息子との正式な婚約を祝うパーティーに集まってもらったことを感謝させてもらおう。色々とサプライズがあって実に面白い催しとなった」

 

ガハルドは楽し気な視線をハジメへ向ける。

ハジメは知った事かとばかりに視線を合わせない。

 

「パーティーはまだまだ始まったばかりだ。今宵は、大いに食べ、大いに飲み、大いに踊って心ゆくまで楽しんでくれ。それが、息子と義理の娘の門出に対する何よりの祝福となる。さぁ、杯を掲げろ!」

 

ガハルドの言葉にパーティー会場の人々がグラスを掲げる。

 

「この婚姻により人間族の結束はより強固となった! 恐れるものなど何もない! 我等、人間族に栄光あれ!」

 

「「「「「「「「「「栄光あれ!!」」」」」」」」」」

 

唱和したその瞬間、パーティー会場が闇に呑まれた。

 

「なんだ!? なにが起こった!?」

 

「いやぁ! なに、なんなのぉ!?」 

 

パーティーが最高潮に達した瞬間に暗闇に落とされた貴族達が悲鳴を上げる。

 

「狼狽えるな! 魔法で光をつくっがぁ!?」

 

「どうしたっギャァ!?」

 

「何が起こっていっあぐっ!?」

 

その暗闇の中で響く切り裂く様な音と悲鳴。

 

「落ち着けぇ! 貴様等それでも帝国の軍人かぁ!」

 

ガハルドが叫ぶが、ヒュンヒュンと何かが空気を切り裂く音がしたかと思うと、

 

「っ!? ちっ! こそこそと鬱陶しい!」

 

ギンッギンッと金属がぶつかり合う音が響く。

突如起こった出来事。

それは、ハウリア族が『戦争』を仕掛けたのだ。

 

「ッ!? 何者っげぶっ!?」

 

運良く火球を作り出した者が1人いたが、その直後に意識を飛ばされる。

その際に発生した僅かな明かりで、一瞬だが黒装束を着たウサ耳が見えた。

 

「ひっ、ば、化け物ぉ~!」

 

「し、死にたくないぃ~、誰かぁ!」

 

情けなく悲鳴を上げて逃げようとする者も、直後には切り裂かれる音と共に床に倒れ伏す。

因みに気絶したり、痺れ薬で麻痺しているだけで、今の所死人は出ていない。

それでも実力主義の帝国の底力と言うべきか、襲撃を切り抜けた者が何人もいる様だ。

魔法の詠唱や金属音が聞こえてくる。

その直後、瞼越しにも分かる強烈な光と、塞いでも耳が痛いと感じるほどの高周波の音がパーティー会場を襲った。

 

「ぐぁあ!?」

 

「ぐぅうう!」

 

「何がァ!?」

 

何人もの悲鳴が響く。

その中で切り裂く音や金属がぶつかり合う音がしばらく続く。

 

「散らせぇ! 〝風壁〟!」

 

「撃ち抜けぇ! 〝炎弾〟!」

 

「おぉおおお! 爆ぜろぉ、〝炎弾〟!」

 

「舞い踊る風よ! 我が意思を疾く運べ、〝風音〟!」

 

ガハルドが魔法を連発する。

ハウリアと激しい攻防を繰り広げているのだろう。

 

「らぁああ!!」

 

「ッ――!!」

 

「くぅう!」

 

おそらくガハルドが1人で奮闘しているのだろう。

ハウリア族にも苦悶の声が聞こえる。

 

「ククク、心地いい殺気を放つじゃねぇか! なぁ、ハウリアぁ!」

 

ガハルドは楽しそうに叫ぶ。

 

「あぁ? ビビって声も出せねぇのか!?」

 

「戦場に言葉は無粋。切り抜けてみろ」

 

「っ! はっ、上等ぉ!」

 

カムの言葉にガハルドは逆に闘志を漲らせる。

そのまま暫く剣戟の音が鳴り響いたかと思うと、

 

「っ! なんだっ? 体が……」

 

ガハルドが困惑の声を漏らした。

 

「ぐぁ!」

 

ガハルドの苦悶の声。

続いて、ドシャッと地面に倒れる音が響く。

 

「ふん、魔物用の麻痺毒を散布してここまで保つとはな」

 

「くそがっ、最初からそれが狙いだったか……」

 

そんな声が響いたかと思うと、スポットライトの様に光がガハルドを照らした。

ガハルドは手足の腱を切り裂かれ、地に伏せられている。

その姿に帝国貴族達は困惑と恐怖に陥った。

 

「さて、ガハルド・D・ヘルシャーよ。今生かされている理由は分かるな?」

 

「ふん、要求があるんだろ? 言ってみろ、聞いてやる」

 

「……減点だ。ガハルド。立場を弁えろ」

 

地に伏せられても攻撃的な姿勢を変えないガハルドにカムは冷たく言い放つ。

 

「お前達の命運は我々が握っている。我々の機嫌を損ねる度に減点だ。その減点がある程度まで達すれば………言わずとも分かるだろう?」

 

「………チッ」

 

ガハルドは思わず舌打ちするが、

 

「減点」

 

カムは舌打ちすら減点対象に入れた。

 

「……」

 

ガハルドは歯を食いしばりながら押し黙った。

 

「そうだ、自分が地を舐めている意味を理解しろ。判断は素早く、言葉は慎重に選べ。今、この会場で生き残っている者達の命は、お前の言動一つにかかっている」

 

カムはそう言うとガハルドの首にネックレスを掛けた。

 

「それは〝誓約の首輪〟。ガハルド、貴様が口にした誓約を、命を持って遵守させるアーティファクトだ。一度発動すれば貴様だけでなく、貴様に連なる魂を持つ者は生涯身に着けていなければ死ぬ。誓いを違えても、当然、死ぬ」

 

それは言外に帝室の人間は全て確保しているという事なのだろう。

 

「誓約……だと?」

 

「誓約の内容は四つだ。一つ、現奴隷の解放、二つ、樹海への不可侵・不干渉の確約、三つ、亜人族の奴隷化・迫害の禁止、四つ、その法定化と法の遵守。わかったか? わかったのなら、〝ヘルシャーを代表してここに誓う〟と言え。それで発動する」

 

「呑まなければ?」

 

「今日を以て帝室は終わり、帝国が体制を整えるまで将校の首が飛び続け、その後においても泥沼の暗殺劇が延々と繰り返される。我等ハウリア族が全滅するまで、帝国の夜に安全の二文字はなくなる。帝国の将校達は、帰宅したとき妻子の首に出迎えられることになるだろう」

 

「帝国を舐めるなよ。俺達が死んでも、そう簡単に瓦解などするものか。確実に万軍を率いて樹海へ侵攻し、今度こそフェアベルゲンを滅ぼすだろう。わかっているはずだ。奴隷を使えば樹海の霧を抜けることは難しくない。戦闘は難しいが、それも数で押すか、樹海そのものを端から潰して行けば問題ない。今まで、フェアベルゲンを落とさなかったのは……」

 

「畑を潰しては収穫が出来なくなるから……か?」

 

「わかってるじゃねぇか。今なら、まだ間に合う。たとえ、奴の力を借りたのだとしても、この短時間で帝城を落とした手際、そしてさっきの戦闘……やはり貴様等を失うのは惜しい。奴隷が不満なら俺直属の一部隊として優遇してやるぞ?」

 

「論外。貴様等が今まで亜人にしてきた所業を思えば信じるに値しない。それこそ〝誓約〟してもらわねばな」

 

「だったら、戦争だな。俺は絶対、誓約など口にしない」

 

ガハルドはそれでも頷かなかった。

 

「そうか。……減点だ、ガハルド」

 

カムの言葉が再び冷たくなる。

そして別のスポットライトが照らされ、浮かび上がったのは、

 

「離せェ! 俺を誰だと思ってやがる! この薄汚い獣風情がァ! 皆殺しだァ! お前ら全員殺してやる! 一人一人、家族の目の前で拷問して殺し尽くしてやるぞ! 女は全員、ぶっ壊れるまでぇぐぇ――」

 

リリアーナの婚約者でもある皇太子のバイアスだった。

しかし、直後にあっさりと首を斬り飛ばされる。

リリアーナが嫌悪感を露にするぐらいに嫌っていた相手はあっさりと命を落とした。

 

「……」

 

「あれが次期皇帝。お前の後釜か……見るに堪えん、聞くに堪えん、全く酷いものだ。お前は、我々は殺しはしないと思っていたようだがそれは間違いだ。確かに我らは本来温厚な種族。殺しは嫌忌するものであったし、それは今も変わりない。しかし、家族を失ってまで不殺を貫くつもりはない」

 

「……言ったはずだ。皆殺しにされても、誓約などしねぇ。怒り狂った帝国に押し潰されろ」

 

「息子が死んでもその態度か。まぁ、元より、貴様に子への愛情などないのだろうな。何せ、皇帝の座すら実力で決め、その為なら身内同士の殺し合いを推奨するくらいだ」

 

実の息子が死んだというのに全く冷静さを失わないガハルド。

それは、一族の者なら血が繋がらなくとも家族同然と言うハウリア族とは全く真逆に位置する者だろう。

 

「わかってんなら無駄なことは止めるんだな」

 

「そう焦るな。どうしても誓約はしないか? これからも亜人を苦しめ続けるか? 我等ハウリア族を追い続けるか?」

 

「くどい」

 

「そうか……“デルタワン、こちらアルファワン、やれ”」

 

カムの言葉と共に、遠くで爆発音が響き渡る。

 

「っ。なんだ、今のは!」

 

「大したことではない。帝城に続く跳ね橋を落としただけだ。もっとも軍の設備はもちろん、一般の治療院、宿、娼館、住宅街、先の魔人族襲撃で住宅を失った者達の仮設住宅区にも仕掛けはしてあるが、リクエストはあるか?」

 

「一般人に手を出してんじゃねぇぞ! 堕ちるところまで堕ちたかハウリア!」

 

「……おかしなことを言う。貴様らが攫い、誘拐した亜人の殆どは一般人だぞ? 立場が変われど貴様らがやって来たこととさほど変わりはない。さらに言えば、貴様の言う一般人とて我々亜人を奴隷として扱い、虐げている。何もしていない者達が攫われてきた我々に比べれば、罰を受ける資格は十分にある。“デルタ、やれ”」

 

「まてっ!」

 

ガハルドの制止も空しく再びの爆発音が響き渡る。

ガハルドは一般人が犠牲になったと思ったのだろう。

しかし、ハウリアは予め一般人は巻き込まないと決めていた。

故にこれはハッタリだ。

 

「貴様が誓約しないというのなら、仕方あるまい。帝都に仕掛けた全ての爆弾を発動させ、貴様等帝室とこの場の重鎮達への手向けとしてやろう。数千人規模の民が死出の旅に付き合うのだ。悪くない最後だろう?」

 

言い方が完全にテロリストなわけだが、それだけのことをガハルドは、そして帝国はやってきたので同情することも出来ない。

 

「“デルタへ、こちらアルファワン……や”」

 

「まてっ!」 

 

再びカムが爆破の指令を出そうとした瞬間、今までよりも強い制止の声がかかった。

それから数回ガハルドは悔しそうに床に頭を打ち付けると、

 

「かぁーー、ちくしょうが! わーたよっ! 俺の負けだ! 要求を呑む! だから、これ以上、無差別に爆破すんのは止めろ!」

 

「それは重畳。では誓約の言葉を」

 

要求が通ってもカムは淡々とした言葉で促す。

最後まで隙は見せないという事なのだろう。

 

「はぁ、くそ、お前等、すまんな。今回ばかりはしてやられた。……帝国は強さこそが至上。こいつら兎人族ハウリアは、それを“帝城を落とす”ことで示した。民の命も握られている。故に、“ヘルシャーを代表してここに誓う! 全ての亜人奴隷を解放する! ハルツィナ樹海には一切干渉しない! 今、この時より亜人に対する奴隷化と迫害を禁止する! これを破った者には帝国が厳罰に処す! その旨を帝国の新たな法として制定する!”文句がある奴は、俺の所に来い! 俺に勝てば、あとは好きにしろ!」

 

その言葉と共にネックレスが輝く。

 

「ふむ、正しく発動したようだ」

 

それを見てカムが呟く。

 

「ヘルシャーの血を絶やしたくなければ、誓約は違えないことだ」

 

「わかっている」

 

「明日には誓約の内容を公表し、少なくとも帝都にいる奴隷は明日中に全て解放しろ」

 

「明日中だと? 一体、帝都にどれだけの奴隷がいると思って……」

 

「やれ」

 

「くそったれ! やりゃあいいんだろう、やりゃあ!」

 

「解放した奴隷は樹海へ向かわせる。ガハルド。貴様はフェアベルゲンまで同行しろ。そして、長老衆の眼前にて誓約を復唱しろ」

 

「一人でか? 普通に殺されるんじゃねぇのか?」

 

「我等が無事に送り返す。貴様が死んでは色々と面倒だろう?」

 

「はぁ~、わかったよ。お前等が脱獄したときから何となく嫌な予感はしてたんだ。それが、ここまでいいようにやられるとはな。…………なぁ、俺に、あるいは帝国に、何か恨みでもあったのかよ、南雲ハジメ」

 

ハジメはガハルドの言葉には答えない。

最後まで傍観者を貫き通すためだろう。

 

「ガハルド、警告しておこう。確かに我等は、我等を変えてくれた恩人から助力を得た。しかし、その力は既に我等専用として掌握している。やろうと思えば、いつでも帝城内の情報を探れるし侵入もできる。寝首を掻くことなど容易い。法の網を掻い潜ろうものなら、御仁の力なくとも我等の刃が貴様等の首を刈ると思え」

 

「専用かよ。羨ましいこって。魔力のない亜人にどうやって大層なアーティファクトを使わせてんだか……」

 

「案ずるな、ガハルド。ハウリア族以外の亜人族にアーティファクトが渡ることはない。お前が誓約を宣誓したところで、調子に乗って帝国を攻めることなど有り得んよ。もしそうなったら、我等ハウリア族の刃はフェアベルゲンの愚か者に振るわれるだろう」

 

「そうかい。よーくわかったよ。だから、いい加減解放しやがれ。明日中なんて無茶な要求してくれたんだ。直ぐにでも動かなきゃ間に合わねぇだろうが」

 

「……いいだろう。我等ハウリア族はいつでも貴様等を見ている。そのことをゆめゆめ忘れるな」

 

その言葉を最後にハウリア族達が闇に消える。

 

「くそっ、アイツ等、放置して行きやがったな。……誰か、光を……あぁ、そうだ誰もいねぇ……って、ゴラァ! 南雲ハジメ! てめぇ、いつまで知らんふりしてやがる! どうせ、無傷なんだろうが! この状況、何とかしやがれ!」

 

ハジメはめんどくさそうに宝物庫から発光する鉱石を取り出し、それを天井に飛ばす。

あっという間にパーティー会場に明かりがもたらされた

床に倒れている十数人が露になる。

しかし、全員腕や足を斬られたり、毒で動けなくなっているだけで生きてはいる様だ。

首を飛ばされたバイアスを除いて。

 

「おい、こら、南雲ハジメ。いい加減、いちゃついてないで手を貸せよ。この状況で女、しかも兎人族の女を愛でるって、どんだけ図太い神経してんだよ」

 

「いや、ほら、シアはか弱いウサギだから、さっきの襲撃で怯えてるんだ。可哀想に。ほんと恐ろしい奴等だった。僕も、身を守るので精一杯だったよ」

 

完全にワザとらしい態度で震えて見せるハジメ。

 

「いけしゃあしゃあと……とにかく、無傷であることに変わりねぇだろ。お前等に帝国に対する害意がないってんなら、治療するなり、人を呼ぶなりしてくれてもいいんじゃねぇか?」

 

「でも、あなたの部下達が、治療した瞬間に襲いかかってきそうな殺気を放っているんだけど……その場合、反撃していいの?」

 

「いいわけ無いだろ! おい、お前ら! そこの化け物には絶対手を出すなよ! たとえ、クソ生意気で、確実にハウリア族とグルで、いい女ばっか侍らしてるいけすかねぇクソガキでも無駄死には許さねぇぞ!」

 

ガハルドの言葉に部下たちは悔しそうに表情を歪める。

 

「ほれ、お前のことを殺したくても、実際に化け物の顎門に飛び込むような馬鹿は、ここにはいねぇ。俺がさせねぇ。そろそろ出血がヤバイ奴もいるんだ。頼むぜ、南雲ハジメ」

 

「まぁ、向かってこないなら別にいいけど。……香織、お願い」

 

「うんっ、任せて……〝回天〟、〝万天〟!」

 

香織の回復魔法がパーティー会場全体を一気に癒していく。

 

「回復まで化け物クラスかよ。……やってられねぇな」

 

中級の回復魔法で上級以上の効果範囲と回復力を見せるその凄まじさにガハルドは悪態を吐く。

傷が癒えたガハルドの側近たちは、即座にガハルドの傍に集まってハジメに警戒の眼差しを向けた。

 

「だから、よせっての。殺気なんか叩きつけて反撃くらったらマジで全滅すんぞ」

 

「しかし、陛下! アイツ等は明らかに手引きを!」

 

「そうです! 皇太子殿下まで……放ってはおけません!」

 

「このままでは帝国の威信は地に落ちますぞ!」

 

側近たちはそう言って警戒を緩めようとしなかったが、

 

「ガタガタ騒ぐな! 言ったはずだぞ、お前等を無駄死にさせるつもりはないと。いいか、あの白髪眼帯の野郎は正真正銘の化け物だ。ただ一人で万軍を歯牙にもかけず滅ぼせる、そういう手合いだ。……強ぇんだよ、その影すら踏めない程な。奴に従えとは言わねぇが、力こそ至上と掲げる帝国人なら実力差に駄々を捏ねるような無様は晒すな!」

 

ガハルドの一喝がそれらを黙らせる。

 

「それはハウリア族に対しても同じだ。最弱のはずの奴等が力をつけて、帝国の本丸に挑みやがったんだ。いいようにしてやられたのは、それだけ俺達が弱く間抜けだったってだけの話だろう? このままで済ますつもりはねぇし、奴等もそうは思っていないだろうが……まずは認めろ。俺達は敗けたんだ。敗者は勝者に従う。それが帝国のルールだ! それでもまだ、文句があるなら俺に言え! 力で俺を屈服させ、従わせてみろ! 奴等がそうしたようにな!」

 

ハウリアは力を示し、ガハルドはそれに屈した。

それが全てだ。

 

 

 

こうしてハウリアが起こした『戦争』はハウリアの勝利で幕を下ろすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

 

 

再びハルツィナ樹海を訪れ、大迷宮に挑む拓也達。

大迷宮における試練とは!?

 

 

 

次回、ありふれたフロンティアへ

 

 

 

第34話 絆の試練

 

 

 

今、ありふれた伝説が進化する。

 

 

 

 

 






第33話です。
所々変えながら大筋は前作通りです。
優花達はちゃっかり赤いドレスを着ちゃってます。
香織やユエ達は………まあ。
唯一犠牲になったバイアスは、リリィの為に死んでいただきました。
ノイントは順調に感情生まれて来てますね。
では、次も頑張ります。

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