―――リンゴォーン……! リンゴォーン……!
晴天の空の下に、鐘の音が響き渡る。
海沿いに建てられた純白に彩られた教会の鐘の音だ。
その教会では、現在結婚式が執り行われていた。
多くの参列者が礼拝堂の長椅子に参列している。
参列者の中には、ハジメや香織を始めとしたクラスメイトや愛子達。
輝二、輝一、ボコモンやネーモン。
果ては、友樹、純平、泉の姿もある。
そして、その結婚式の主役の片割れである新郎は、既に聖壇前で花嫁を待っていた。
その新郎とは、白いタキシードに身を包んだ拓也だ。
流石の拓也も緊張しているのか、その表情はやや硬い。
すると、1人の新婦が入場してきた。
ウェディングドレスに身を包み、ベールで顔を隠した栗色のセミロングの髪の女性。
確認するまでも無く優花だ。
優花は父親の博之と共にバージンロードを歩き、拓也の元まで辿り着く。
そして、優花が拓也の隣へ移動すると、博之は下がる。
すると、
教会である筈なのに、何故か白無垢に身を包んで入場してきたのは、ティオだ。
目を伏せながら、ゆっくりと歩みを進めるその姿は、白無垢の衣装も相まってある種の神聖さを感じさせる。
ティオは拓也の前に辿り着くと、目を開けてフッと笑みを浮かべる。
今度こそ聖壇の前に歩いて行くかと思われたが、更に
服装は優花と同じようにウェディングドレス。
ベールで顔を隠し、長い銀髪が揺れる。
その花嫁は拓也の前に辿り着くと、恭しく頭を下げた。
そして、拓也と3人目の花嫁は今度こそ揃って聖壇の前に歩みを進めた。
だが、その聖壇の前に本来いる筈の牧師の姿は無い。
しかし、ステンドグラスから光が差し込み、そこに現れる存在があった。
それは、金の10枚の翼に澄んだ翠の鎧を纏いし女性座天使型デジモンのオファニモン。
黄金の10枚の翼に白銀と青の鎧を纏った熾天使型デジモンのセラフィモン。
桃色と白の体色に、何処かウサギを思わせる風貌をした智天使型デジモンのケルビモン(善)。
デジタルワールドの三大天使デジモンが降り立った。
そして、
「園部 優花。あなたは彼の者を夫とし、変わらぬ愛を誓いますか?」
オファニモンが優花に問う。
「はい、誓います」
優花は頷き、肯定する。
次にセラフィモンがティオに問いかける。
「ティオ・クラルス。汝は神原 拓也を夫とし、永久の愛を誓うか?」
「うむ。もちろんじゃ」
ティオも迷いなく頷いた。
そして、最後の銀髪の花嫁に、ケルビモンが問いかけた。
「…………ノイント。そなたは神原 拓也を永遠の伴侶とする事を誓うか?」
「………誓います」
銀髪の花嫁………ノイントは静かに………
それでいてハッキリと肯定する。
そして最後にオファニモンが拓也に向き直ると、
「神原 拓也。あなたは園部 優花、ティオ・クラルス、ノイントの3人を妻とし、平等な変わらぬ愛を誓いますか?」
「はい、誓います……!」
拓也は頷きながら強く返事をした。
「………では、近いの口付けを…………」
オファニモンの言葉で、拓也は優花、ティオ、ノイントの順番で口付けを交わす。
「今ここに誓いは為されました。この者達に祝福を………!」
オファニモンの言葉と共に、盛大な拍手に包まれた。
やがて結婚式、披露宴と滞りなく終わり、拓也は新しい生活を始める為に、3人の妻が待つ所へ歩き出そうとした。
その時、
『それでいいのか? 拓也』
「ッ!?」
その声に拓也は振り返る。
そこに居たのは、
「アグニモン…………」
アグニモンだった。
「今の、如何いう………?」
『君はこれで満足なのかと聞いているんだ』
アグニモンが再び問いかける。
「何言って………そんなの当ぜ…………ッ!?」
拓也はすぐに頷こうとしたが、その言葉が途中で止まる。
「………………いや、違うな…………」
改めて出てきた言葉は否定の言葉だ。
すると、
「はぁ…………これも大迷宮の試練って奴か…………」
拓也は残念そうに溜息を吐くと、一度振り返る。
優花、ティオ、ノイントの3人が微笑みを浮かべながら拓也が来るのを待っていた。
「つ~か、優花とティオはともかくとして、何でノイントまで花嫁になってるんだよ………」
やや自己嫌悪気味に呟く拓也。
拓也は一度目を伏せる。
そして、何か吹っ切れた様に目を開けて顔を上げると、
「けど、ま………いい夢だったよ」
それだけは嘘偽りない本音だった。
拓也は若干後ろ髪惹かれながらも踵を返し、3人に背を向けた。
「俺は、夢で満足するような人間じゃ無いんでな………!」
不敵な笑みを浮かべる拓也。
そして歩き出し、アグニモンに並ぶと、
「行こう! アグニモン!!」
『ああ!』
共に駆け出した。
その瞬間、世界が砕け散った。
次に拓也が気が付いた時、
「おっ! 起きたか拓也はん!」
そこにはボコモンが居た。
「ボコモン………」
「おはよ~拓也。遅かったね」
続けてそう言ったのはネーモン。
拓也が体を起こすと、周りにはハジメ、香織、ユエ、シア、優花、ティオ、ノイント、輝二、雫、輝一、恵理、幸利が起きていた。
「おはよう拓也。随分グッスリだったわね。そんなにいい夢だった?」
優花が茶化す様に言ってくる。
「…………まあな」
拓也は夢の中の花嫁姿の優花を思い出し、少し顔を赤くしつつ下を向いて誤魔化す。
気を取り直して顔を上げると、
「ハジメ、ここは………?」
拓也がそう聞くと、
「多分、次の試練の間だと思う。見てよ」
ハジメはある方向を指差す。
そちらに視線を移すと、まるで琥珀の柩に納められたような姿の光輝、龍太郎、鈴の姿があった。
「拓也も見たと思うけど、この試練はその人が理想とする夢を見せられる類のモノなんだと思う。人は苦痛には耐えられるけど、幸せには抗えない、なんて話も聞くし」
「あ~、そう言う奴か…………」
拓也は内心、自分の理想が3人の嫁を持つ事だと言われ、若干自己嫌悪していた。
「それで、残ってるメンバーは如何するんだ?」
拓也は気を取り直してそう聞くと、
「暫くは待とうと思う。無理なら強引に柩を壊して目覚めさせる。試練は不合格だろうけど」
「それが妥当か…………」
拓也はハジメの案に頷いた。
「因みにワシとネーモンは試練には参加できんかったマキ。やはりデジモンはこの世界の魔法とは相性が悪いようじゃハラ」
ボコモンがそう言う。
「因みに一番早く起きたのはノイントだったね~。一時間もかかって無かったよ~」
続いてネーモンがそう言うと、
「ノイントが?」
拓也が意外そうに声を漏らす。
「はい。違和感しか無かったので、すぐに目覚める事ができました」
ノイントがそう言う。
「おそらく、今のノイントは感情が未発達じゃからのう。無意識下の望みというモノが薄く、夢の世界の違和感にいち早く勘付いたのじゃろう」
ティオがそう推測した。
それから半日近くが経ち、そろそろ残りの3人を強制的に目覚めさせようかと思い始めた頃、
「見てっ!」
雫が思わず声を上げた。
龍太郎の琥珀の棺が輝き始めたのだ。
それに少し遅れて、鈴の棺も輝き出す。
「おや、鈴も漸くお目覚めかい?」
恵理はやれやれと言わんばかりの声色だが、その表情は何処となくホッとしているように見えた。
琥珀の棺が溶け出し、5分と経たずに消えると、
「うっ………ここは………?」
「う~ん………戻って来れたの………?」
龍太郎と鈴が起き上がり、お互いの視線が交わると、
「「…………………ッ!?」」
次の瞬間には同時に顔を赤くして顔を逸らした。
その反応で、如何いう夢だったのかは大体想像がつくだろう。
「2人とも、おはよう。漸く起きたわね」
雫が声を掛ける。
「し、雫か……それに皆も…………随分待たせちまったみてぇだな?」
「シ、シズシズ………う、うん! おはよう!」
やや動揺を見せるが挨拶を返す2人。
「本当よ。そろそろ無理矢理起こそうかと思っていた所だわ」
雫はやや呆れる様にそう言うと、龍太郎は辺りを見回し、
「残るは…………光輝だけか………」
光輝が目覚めていないことに、残念そうに表情を曇らせる龍太郎。
「ハッキリ言うが、光輝にこの試練の突破は不可能だ」
そう言ったのは輝二。
輝二は壁に背を預けながら腕を組んで目を伏せている。
「輝二………!? そんな事…………」
龍太郎は輝二の言葉を否定しようとするが、
「悪いけど、私も輝二の意見に同意するわ。自分が試練を受けた上で、ハッキリとそう言える」
雫がその言葉を肯定する。
「雫!?」
「光輝は自分が正しいという事を信じて疑わない。逆に言えば、どんなことでも自分の都合の良い様に解釈する。そんなあいつが自分の理想通りの夢を見せられてるんだ。夢に違和感を感じる事もなく、ただ幸せを享受するだけだろうさ」
輝二がそう言うと、龍太郎は俯いた。
「ッ~~~~~!」
龍太郎は反論できないのか、声にならない声を上げると、ドカッとその場に座り込んだ。
「結論は出たみたいだね?」
ハジメがそう言うと、光輝が入っている琥珀の棺に近付く。
「う~ん………物理的に壊すと天之河君にも影響が出そうだし……………ノイント、琥珀の棺だけ『分解』できない? 精密なコントロールが出来ないって言うのなら別の手を考えるけど」
ハジメは少し棺を眺めて考えると、ノイントに向き直ってそう言った。
「おそらく大丈夫です。この力の使い方は体が覚えているようで、コントロールも問題ありません」
ノイントはそう言って棺に手を振れると、分解の能力を発動。
三分もかからないうちに完全に全ての琥珀は分解され虚空へと消え、規則正しい呼吸を繰り返す光輝が現れた。
すると、
「……あ? あれ、香織? 雫? ここは? 俺は、二人と……」
どうやら光輝は理想の世界にどっぷりと浸かっていて、一瞬夢と現実の区別がつかなくなっている様だ。
これでは試練を突破する確率は、ほぼゼロに等しかっただろう。
暫くして光輝が現実を認識すると、悔し気に唇を噛み締めた。
すると、地面に魔法陣が現れた。
全員の試練が終わったことで、次のエリアに飛ばされるのだろう。
「天之河君、落ち込んでいる暇は無いよ。備えて。でないと、君の望みは本当の意味で潰えることになる」
「っ……ああ、わかってる」
ハジメが、夢の内容を引き摺っている光輝に声を掛けると、再び転移の光が視界を埋め尽くした。
気が付くと、一行は再び樹海の中にいた。
今度はメンバーは全員いる。
「今回は全員いるみたいだな」
輝一がそう言う。
「……ハジメ、偽物は?」
ユエがそう聞いた。
「いや、大丈夫みたいだ。魔眼石も全員本物だと認識してる」
「ハジメさんがそう言うなら大丈夫ですね」
シアが安堵したように言う。
その言葉からは、ハジメへの絶対の信頼が伺える。
「自分でも気をつけてね?」
と肩を竦めていた。
それから、全員に出発の号令をかける。
目標は、明らかに目立つ大きな樹だ。
おそらく次のエリアへの入り口だろう。
しかし、そのハジメの号令に応えない者がいた。
光輝だ。
「天之河君、やる気が無いなら攻略は諦めて。大迷宮は、足手纏いはともかくとして、やる気も無い人を気にかけながら攻略できるような所じゃないんだ」
ハジメが光輝にそう言う。
「なっ、あ、あるに決まってるだろ!」
光輝はそう反発するが、
「僕にはそう見えない。終わった事をズルズルと引き摺って、後悔してるだけだ」
「ま、まて、俺は……」
「何をどう言い訳したところで、さっきの試練を君がクリアできなかったという事実は変わらない。なら、最低でも必要なのは残りの試練を乗り越えてやるという決意だ。今の君にはそれが見えない。気概のない人はただの足手纏いより質が悪い」
「……俺は」
「出来そうなら大迷宮の外までゲートを開くし、使えなくても結界くらいは敷く。進むか引くか、今決めて。惰性で進んでも無駄死にするだけだから」
追い打ちとも思えるハジメの言葉。
しかし、それは全て事実であり、そんな心情で進んだとしても確実に命が無い。
すると、その言葉に気力を取り戻したのか、何度か深呼吸し、
「南雲。もう大丈夫だ。俺は先に進む!」
「そう。ならいいよ。集中して」
光輝の言葉にハジメはそれだけ言うと先に進んだ。
しばらく目的の樹に向かって歩いているが、おかしなことにトラップ所か魔物の1体にも遭遇していない。
「う~む、何だか嫌な感じじゃの」
「うん。何だか、オルクスで待ち伏せされた時みたい」
「確かに……魔物の気配も全くないものね」
現状を訝しむティオの言葉に鈴が呟き、雫も同意する。
それから少しして、
「……ん? 雨か?」
「ほんとだ。ポツポツ来てるね」
光輝と鈴がそんな事を言い出した。
「いや、ここは迷宮内だぜ? 雨なんか降るわけが………」
拓也がそう言い掛けた瞬間、頬に水滴が落ちるのを感じた。
「冷たっ!?」
拓也は驚いた様に叫んだ。
「ッ! 香織! 結界!」
「うん! 〝聖絶〟!」
ハジメの言葉で即座にドーム状の結界を張る香織。
その直後、にわか雨の様に土砂降りとなり、結界の表面をドロリと粘り気のある液体が垂れて行く。
「ハジメ君、周りがッ」
香織が気付いたように叫ぶ。
その声に従って周りを見渡すと、樹々、草、地面、あらゆる場所から乳白色の何かが滲み出てきた。
「スライム!? 気配遮断タイプにしても、魔眼石にすら感知されないなんてどんな隠密性してるの!?」
ハジメが思わず叫ぶ。
「気を付けろ! 地面からも出て来るぞ!」
輝二の言葉通り地面を見ると、結界内の地面からも乳白色のスライムが滲み出ていた。
直後、そのスライムが風呂敷の様に体積を広げて襲い掛かってくる。
「このやろ……!」
拓也が咄嗟に大剣を抜き、スライムを真っ二つにした。
その瞬間、スライムの体液が辺りに飛び散る。
「きゃっ!?」
「ッ……!」
真っ二つにした際に分かれた体液のそれぞれが、優花とノイントに降りかかった。
「あっ! 悪い!」
拓也は咄嗟に謝る。
「仕方ないわよ………でも、気持ち悪いわ………」
優花はゲンナリとした声を漏らす。
「………………」
ノイントは無反応だが、何処か顔を顰めている様な気がした。
また、別の場所でも、龍太郎が殴り飛ばしたスライムが飛び散り、
「ちょっ、バカ、龍太郎! こっちにも飛び散って来ただろう!」
「この脳筋! 思いっきり掛かったじゃない!」
「お? すまん、すまん!」
「うぇ~、ドロドロしてて気持ち悪いよぉ」
雫や光輝、鈴に振りかかった。
「全く、大丈夫か、しず……」
「ええ、大丈夫よ、光輝。こいつら案外簡単に死ぬわ……ってどうしたの?」
「えっ、いや、何でもないぞ! ああ、何でもない!」
「?」
光輝が慌てた様に雫から視線を逸らす。
要は絵面がヤバいのだ。
年頃の少女達に乳白色のスライムの体液………つまり白濁液塗れになっている。
つまりそう言う事である。
因みに光輝がそんな雫を見た時、輝二から殺気が飛んだのは本人だけしか知らない秘密である。
一番悲惨なのはティオで、シアがドリュッケンで殴り飛ばしたスライムを、顔面にぶつけられたパイよろしく直撃を受けたのだ。
「おらあっ!」
拓也は炎を放ってスライムを焼き尽くし、
「はっ!」
輝一が闇を纏った槍でスライムを飛び散らせる事無く消滅させる。
どうやらこの2人の攻撃が、一番被害が少ない様である。
やがて結界内のスライムは全滅させるが、結界の外はまるで海の様に乳白色で染まっていた。
「さて、どうしよう…………」
ハジメが外を眺めながら呟く。
スライムの雨は未だに降り続いており、止む気配は無い。
天井から次から次へと染み出してきているのだ。
ハジメが幾つか案をピックアップしていると、
「………仕方ない。俺が焼き尽くすか」
拓也がそう言った。
「拓也?」
ハジメが怪訝な声を漏らすと、
「あ、鈴。チャックモンに進化して、結界内を冷やせるようにしといてくれ。香織とユエは全力で結界の維持を頼む」
「へっ?」
「え? う、うん。いいけど………」
「どうするの………?」
拓也の言葉に鈴は素っ頓狂な声を漏らし、香織は戸惑いながらも頷き、ユエは問い返す。
「如何するって………こうする」
拓也はデジヴァイスを取り出し、
「ダブルスピリット……! エボリューション!!」
拓也は2つのスピリットで進化する。
「アルダモン!!」
拓也はアルダモンに融合進化すると、結界から飛び出す。
スライムの雨がアルダモンに降りかかろうとするが、その身に纏う灼熱のエネルギーの前に蒸発している。
そしてアルダモンは、力を込める様に腹部の前あたりで両手を向かい合わせにすると、その手の間に火球が生み出され、
「はぁああああああああああああああああああああっ!!」
アルダモンはその火球にエネルギーを注ぎ込み、火球を巨大化させていく。
それは、まるで小さな太陽の様だった。
その火球の直径が5m程にまで膨れ上がると、
「ブラフマシル!!」
その火球を放った。
その火球は、射線軸上を蒸発させていき、やがてその熱量を解放。
このエリア内を灼熱に包んだ。
アルダモンはかつて、セフィロトモンの体内の鋼のエリアでメルキューレモンと戦った時、直径1km程の空間を灼熱のエネルギーで包み込み、空間内の金属すべてを融解、蒸発させている。
現在の空間の広さはあの時より広いとはいえ、生物が耐えれる熱量では無い。
スライム達は次々と蒸発していく。
因みに、
「わぁああああっ! カチカチコッチン! カチカチコッチン!!」
仲間達は香織とユエが全力で結界を支えており、チャックモンに進化した鈴が慌てて結界を冷やしていた。
やがて、その熱が収まると、木々は炭化して真っ黒になり、僅かな原型をとどめている物は半分以下しかなく。
も食料であった巨大な樹木も真っ黒な墨と化し、元々の大きさの3分の2は焼失していた。
「…………先に進めるのかな、アレ」
ハジメはそんなズレた事を考えていた。
アルダモンが皆の下に戻り、進化を解く。
皆はタオルなどで身体に付いた粘液を拭きとっていたので、拓也も進化する前に付いた粘液を拭きとっていく。
その視線は、自然と優花やティオ、ノイントに向く。
拓也から見ても、この絵面はヤバいと思っている。
(つーか、この試練は一体何なんだ? このスライムも、まるで狙ったような色だし………見ているだけで、こう、ムラムラと………って、こんな時に俺は一体何を考えている!?)
拓也は気を取り直そうとしたが、その時、
「た、拓也………」
優花が荒い息を吐き、顔を上気させながら四つん這いで近付いてきた。
「ゆ、優花!?」
「拓也………私、何かヘンなの…………そんな場合じゃ無いって分かってるのに、拓也が欲しくて堪らない………!」
「お、おまっ………! こんな時に何言って………!?」
拓也は優花の行動に驚くが、同時にその要求にすぐに応えたくなるような衝動に襲われた。
「ッ!? や、やっぱり何か変だ………!」
拓也は自分の異常にも気付く。
その時、
「くそっ! もしかしてこれがさっきのスライムの真髄!?」
ハジメが切羽詰まった声で叫んだ。
見れば、ハジメにもユエとシアが抱き着いている。
輝二と雫は正座して精神統一をしており、龍太郎と鈴は、まるで耐える様に強く抱きしめ合っている。
光輝はハジメによって磔にされ、動きを封じられていた。
幸利は、
「俺にはアリサが居る……! 俺にはアリサが居る……! 俺にはアリサが居る……!」
ウルの町に残してきた恋人を思い出しながら何とか耐えている。
「輝一~? 野外プレイも良くない?」
「恵理、そこは自重しような?」
割と欲望に素直な恵理を、輝一が宥めている。
「んっ………一体何なのですか………これは………!?」
ノイントは顔を上気させながらも、どうしていいのか分からず体をモジモジさせているだけだ。
無事なのはハジメと香織。
デジモンであるボコモンとネーモン。
そして、
「どうやら、あの魔物の粘液が強力な媚薬になっておったようじゃな」
そう言って何故か平然としているティオだ。
ハジメも目を丸くしている。
ハジメと香織は魔物肉を食べたときに『毒耐性』等の耐性を得ているので、スライムの効果が効かないのも頷ける。
しかしティオは、
「強烈な快楽で魔法行使すら阻害しておる。時間が経てば経つほど正気を失って快楽のまま性に溺れることになるじゃろうな。厄介なこと極まりないのぅ。あの物量で襲われては、全く飛沫を浴びないなど不可能じゃろう。戦闘が長引けばそれだけで全滅じゃ。生き残っても仲間がおれば交わらずにはおられんじゃろうから、その後の関係はかなり危うくなりそうじゃしの」
「う、うん、そうだね……」
「うむ。おそらく、それが狙いじゃろう。快楽に耐えて仲間と共に困難を乗り越えられるか……あるいは快楽に負けても絆を保てるか……いずれにしろ性格の悪いことじゃ。〝解放者〟というのは本当に厄介な連中じゃの。もっとも、それもハジメや香織の毒耐性には敵わんかったようじゃが」
「……ね、ねぇティオ」
「む? なんじゃ、ハジメ」
「あの粘液がこの事態を引き起こしているという推測は納得できる。僕もそう思うし……だけど……何でティオは平然としてるの? 僕の記憶が確かなら、ティオが一番あの粘液を浴びていたと思うんだけど」
「確かに、妾の体も粘液の効果が発揮されておる。事実、体を駆け巡る快楽に邪魔されて魔法がまともに使えんからの。じゃがのぅ、舐めてくれるなよ、ハジメ。妾を誰だと思っておる」
ティオはそこで一息つくと、
「妾は誇り高き竜人族、ティオ・クラルスなるぞ! この程度の快楽に流されるような小娘と侮ってくれるなよ!」
そう言い放った。
「お~……!」
ハジメは感心したような声を上げる。
すると、ティオは優花に近付き、
「さて優花よ。この程度の快楽に流されてご主人様を襲うようでは、正妻の名が泣くぞ?」
「ッ……!? うっさい! 誰がこんなものに負けるもんですか………!」
ティオの挑発に優花の瞳に力が戻り、歯を食いしばって衝動に耐える。
そして、光輝以外は各々の精神力で耐える事を決めたのだった。
次回予告
快楽の試練を乗り越えた一行は次の試練へと向かう。
だがそこは、感情を反転させるものだった。
絆が深ければ深いほど、その絆が憎悪へと変わる。
今、彼らの絆が試される。
次回、ありふれたフロンティアへ
第36話 大乱闘! アルダモンVSベオウルフモン
今、ありふれた伝説が進化する。
はい、第35話の完成です。
久々に落ち着いて書けました。
拓也の理想世界は3人の嫁との結婚でした(笑)
そして意外にも試練をクリアした龍太郎と鈴。
光輝は順当。
序に快楽の試練も終わらせました。
まさかスライムを全滅させる為にアルダモンに進化するとは思うまい。
そして次回は何と………
お楽しみに。