ありふれたフロンティアへ   作:友(ユウ)

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第38話 最後の大迷宮

 

 

フェアベルゲンで暫しの休息を取った後、一行は最後の大迷宮である【シュネー雪原】にある【氷雪洞窟】に向かっていた。

【シュネー雪原】は大陸を南北に分ける【ライセン大峡谷】の南側の東に位置する雪原だ。

本来は極寒の雪原を徒歩で越えなければならないのだが、拓也達はハジメの作った飛空艇フェルニルがあるのでそんな苦労はしなくていい。

眼下に【ライセン大峡谷】が望める今現在、

 

「それで結局拓也さんは、ノイントさんを受け入れてしまったんですね」

 

シアがソファに座りながら、右に優花、左にノイントに挟まれた拓也を見ながらそう言った。

 

「あ~………まあ………な…………」

 

拓也は歯切れ悪く頷く。

因みに拓也の背後にはティオが居て、その豊満な胸を拓也の後頭部に当てている。

 

「ご主人様程の男となれば、妻の2、3人を侍らすのは当然じゃろうて」

 

ティオがそう言うが、

 

「いえ、私が言っているのはそういう事ではなく…………」

 

シアが訝し気な視線をノイントに向ける。

そのノイントの表情は、穏やかな笑みを浮かべている。

少し前の無表情と比べれば、その変化は一目瞭然だ。

だが、シアが心配しているのは、ノイントは元々敵であり、今は記憶を失っているが故に敵対していないだけという事。

未だ敵対する可能性があるのに受け入れてしまって良いのだろうかという疑惑からだ。

 

「シア」

 

ハジメがシアに呼びかけて首を横に振る。

これ以上口を出さないようにという意思表示だ。

ハジメにそうされれば、シアは引き下がるしかない。

ハジメは拓也を信じている。

それがどんな結果になろうとも。

彼らの心情を他所に、フェルニルは氷の世界へと飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、ハジメが羅針盤を見つつフェルニルを操作し、高度を下げ始めた。

 

「……着いた?」

 

「うん。雲の下に降りるよ」

 

ユエの言葉にハジメが頷き、飛空艇が雲の中に突っ込む。

窓の外は一瞬真っ白になったが直ぐに雲を突き抜け、猛吹雪が吹き荒れる景色に変わった。

窓を見ていると、数秒もすると枠の方からピキピキと窓が凍り付いていく。

 

「確かに〝極寒〟というに相応しい有様じゃな。……妾、寒いのは余り得意ではないんじゃがのぅ」

 

ティオがそう漏らす。

 

「グリューエン大火山の時の轍は踏まないよ。全員、僕が渡した防寒用アーティファクトは無くさないでね。それがあれば常に快適な大迷宮の旅が約束されるから」

 

「……ん。ハジメのお手製。素敵」

 

「ですねぇ~、雪の結晶をモチーフにしてる辺りがなかなか憎いです」

 

「ハジメくんからの贈り物……えへへ」

 

ハジメの嫁とも言える3人は雪の結晶をモチーフにした意匠の凝ったアクセサリーだ。

しかし、

 

「恋人とそれ以外の差か?」

 

拓也達にはそこまで凝ったとは思えない何の変哲もない指輪やネックレスだ。

まあ、その辺の石ころに付加されていないだけマシだろうが。

そうしていると、眼下に大きな大地の割れ目が幾条にも広がっている場所が見えた。

【氷雪洞窟】に続く【氷雪の峡谷】であり、大迷宮の前座…………表の【オルクス大迷宮】や【ハルツィナ樹海】に相当する場所だろう。

まあ、飛空艇に乗っている拓也達は完全スルーだが。

暫く進むと峡谷の終わりが見えるが、ハジメは首を傾げた。

 

「あれ? ここで終わり? 羅針盤はもっと先だと示しているんだけど……」

 

「……ハジメ、見て」

 

「どうしたの?」

 

ユエが示す場所を拡大すると、そこには峡谷の幅が狭くなっていて、その上に雪がドーム状に降り積もって分かりづらくなっていた。

峡谷自体はもう少し奥まで続いている様だ。

 

「仕方ない。ここからは地上を行こう。洞窟までは1㎞もないようだし、問題ないでしょ」

 

「いよいよお外に出るんですね。私、雪って初めてです。ちょっと楽しみかもです」

 

シアはワクワクした様子を隠し切れない様だ。

今まで樹海で暮らしていたので、環境の変化はほぼ無かったのだろう。

ハジメは峡谷の上に飛空艇を着陸させる。

峡谷の幅が狭かったため、谷底には着陸出来なかったのだ。

下部ハッチを開けて外に出る一行。

すると、シアが外に出た途端はしゃぎ始めた。

 

「わぁ、これが雪ですかぁ。シャクシャクしますぅ! ふわっふわですぅ!」

 

シアは子供の様に新雪を踏み鳴らしたり雪を触ったりしている。

 

「シア、あんまりはしゃがないで。雪に埋もれて見えないけど、こういう氷河にはクレバスって言う割れ目が至る所に………」

 

「これはもう、ダイブするしかないですよぉ!」

 

「話を聞いてよ!」

 

ハジメの言葉が聞こえていなかったのか、雪が積もって膨らんでいる部分に向かってダイブした。

そして、そのまま奈落の底まで落ちていった。

そう、シアは、「あぁぁぁぁぁぁぁぁ~~」と悲鳴を上げながら大地の割れ目に落ちていっ

 

「言わんこっちゃない!!」

 

ハジメは思わず叫んだ。

ハジメの危惧した通り、シアはクレバス(氷河や雪渓に出来る割れ目)に落ちて行ったのだ。

 

「ひぃいい、シアシアぁ~~~~!!」

 

谷口さんが大慌てで叫ぶ。

 

「落ち着きなさい鈴。シアさんが崖から落ちた程度で如何こうなるわけないでしょう」

 

しかし、一緒に旅をしてきた雫はシアの頑丈さをよくわかっているので慌ててはいなかった。

 

「八重樫さんの言う通りだよ。それより、僕達も下に降りよう!」

 

ハジメもそこは心配して無いのか、特に動揺した素振りも見せずに渓谷の上から谷底に向かって飛び降りて行く。

続いて香織、ユエも躊躇なく飛び降りて行く。

一方、

 

「「「「スピリット……! エボリューション!!」」」」

 

拓也、優花、龍太郎、鈴がデジヴァイスで進化する。

 

「ヴリトラモン!!」

 

「フェアリモン!!」

 

「ブリッツモン!!」

 

「チャックモン!!」

 

4体の十闘士が現れると、

 

「乗れ」

 

ヴリトラモンが身を屈める。

すると、輝二、輝一、雫、恵理、幸利、ボコモン、ネーモンがその背に乗った。

 

「光輝、掴まれ」

 

ブリッツモンが光輝に手を差し出す。

 

「ああ、すまない。龍太郎」

 

光輝はそう言ってブリッツモンの手に捕まる。

ティオは部分竜化で背中から竜の翼を生やし、ノイントも白い翼を広げて自分で宙に浮く。

それぞれはハジメ達の後を追って降下を始めた。

 

 

 

谷底に降りて少しすると、横の壁の奥からドゴンドゴンと破砕音が連続で聞こえたかと思うと壁に罅が広がり、

 

「うりゃあああ!!」

 

と、シアが壁を破壊して現れた。

どうやら予想通り無事だったようだ。

 

「いやぁ~、参りました。狡猾な罠でしたね。まさか私の童心を弄び谷底に落とそうとするなんて………!」

 

笑って誤魔化そうとするシアだったが、ハジメはそんなシアに近付き、

 

「シア、初めての雪で興奮するのは分かるけど、ここはもう大迷宮の入り口なんだ。迂闊な行動が命取りになりかねない事を理解して」

 

「あぅ~、すみません。……ちょっと調子に乗りましたぁ」

 

ハジメの言葉に、シアは反省する様にウサミミをだらんと下げる。

そして、

 

「それとシア」

 

「はい?」

 

「………無事でよかった」

 

安堵する様な笑みを浮かべてハジメは言った。

 

「ッ……! はい! 心配かけてすみませんでした! もう勝手な行動はしないですぅ!」

 

シアはハッとなって全力で頭を下げた。

それからハジメは羅針盤を確認すると、

 

「こっちだね。さあ皆、行こう」

 

いくつかに枝分かれしている道の一本に迷わず進んでいく。

先に進むにつれ、風が激しくなってくる。

冷気こそハジメのアーティファクトで無効化されているが、風は容赦なく吹き付けて来る。

 

「これはちと鬱陶しいのぅ」

 

ティオもこの風は鬱陶しかったのか顔を顰める。

すると、

 

「『風』なら私の出番ね」

 

フェアリモンがそう言うと、風を操ってパーティーメンバーから風が避ける様にその風の向きを変える。

 

「おっ! 風が来なくなった!」

 

幸利が感心する様に声を上げる。

 

「ありがとうフェアリモン」

 

チャックモンがそう言うと、先を目指す。

快適になった道程を進んでいくと、視界の先に渓谷の終わりが見え、そこに二等辺三角形に亀裂が入った洞窟があった。

 

「……あれかな?」

 

ハジメが羅針盤を確認すると、その針はその洞窟を指し示しており、それが目的の【氷雪洞窟】であると示していた。

 

「着いたみたいですね。それと………」

 

「うん。わかってる。何か来る。全員、備えて!」

 

シアがそう言った直後にハジメも警戒態勢に入る。

その直後、

 

「「「「ギギギギギィ!!」」」」

 

洞窟から4体のゴリラ型の魔物が飛び出してきた。

体長は3mほどあり、白い体毛に覆われている。

ただ、ゴリラの様に前傾姿勢では無く、人の様に背筋が伸びていて二足歩行タイプの様だ。

強いて言うなら、

 

「ビッグフット?」

 

「さ、流石、異世界だね。こんな所で雪山定番のUMAに出会うなんて……」

 

地球では割と有名(?)な雪山の未確認生物であるビッグフットを思わせた。

ハジメは少し嬉しそうに。

香織は顔を引きつらせながらそう言う。

ハジメがとりあえずドンナーを抜こうとした時、

 

「翔けろ、〝天翔剣・震〟!!」

 

光輝が聖剣に魔力を込めて輝かせ、それを渾身の力で振ると、光の斬撃が飛び出した。

横薙ぎに振るわれた斬撃は、横一直線の軌跡を描き、ビッグフットのような魔物に向かう。

光輝は4匹を一度に仕留める為に横薙ぎで放ったのだ。

だが、ビッグフットは4体同時にジャンプ。

光の斬撃を躱す。

しかし、

 

「読んでいたぞ!」

 

光輝が返す刀でもう一度光の斬撃を放つ。

空中で身動きが取れなかったビッグフットを同時に切り裂いた。

 

「おおっ! すげえじゃねえか光輝! 一度に仕留めるなんてよ!」

 

ブリッツモンとなっている龍太郎が感心した声を上げる。

 

「俺にかかればこんなものさ!」

 

光輝は気分良さげにそう言う。

 

「………………やっぱり変だ」

 

ハジメは訝し気に呟く。

 

「ハジメ君………?」

 

ハジメの様子に気付いた香織が問いかける。

ハジメは光輝に聞こえない様に声を抑え、

 

「天之河君の強さだよ。ここ最近の天之河君の成長速度が常軌を逸している。いくら天職が『勇者』だとしても、今までに比べると明らかに成長速度が違い過ぎる」

 

「そう言われると………前よりも強くなったとは思うけど………そんなに気にする事かな?」

 

香織は首を傾げる。

 

「わからない………だけど、何となく嫌な予感がする………」

 

ハジメは気がかりな様子で光輝を見た。

 

 

 

 

 

足を踏み入れた【氷雪洞窟】はまるでミラーハウスの様だった。

磨き抜かれたガラスの様に氷の壁が光を反射して俺達の姿を無数に映し出している。

更に洞窟内にも拘らず、雪が常に舞っている。

そしてそれはただの雪では無く、かなりの低温で触れただけで凍傷を引き起こす程のものだ。

更に氷の壁の中には、この大迷宮攻略に失敗したであろう者たちの亡骸が冷凍保存されているのだ。

そんな雪の中を、香織が張った結界で防ぎつつ進んでいる一行。

しかし唯一、チャックモンだけはそんな雪の中を平然と歩いていた。

 

「チャックモン、本当に大丈夫なのか?」

 

結界の中からブリッツモンが声を掛ける。

 

「うん! 私が『氷』の闘士だからなのかな? 全然平気………っていうか、寧ろ絶好調! な感じだし」

 

「ここは言うなれば『氷』のフィールドじゃからのう。同じ属性であるチャックモンは相性がいいんじゃろう」

 

チャックモンに続いてボコモンがそう説明する。

 

「そうなると、アグニモンはまたお荷物だね~」

 

ネーモンが間延びした言葉ながら鋭いツッコミが入る。

 

「うぐっ………!」

 

図星を突かれたアグニモンは苦い顔をした。

一行は度々発見するトラップを躱しながら先へ進む。

暫く歩いた時、

 

「ん? ……まただ」

 

ハジメが氷の中に埋もれた亡骸を発見する。

 

「……これで50人。ほとんど魔人族」

 

「そうみたいだね。おそらくだけど、フリードが攻略したことで挑む人数も増えたんじゃないかな?」

 

「フリードが攻略する時に道半ばで倒れた奴らもいるんだろうな」

 

ユエの言葉にハジメが推測を言い、幸利は序に口を挟む。

 

「ふむ。攻略情報があれば行けると踏んだのじゃろうが……やはり、そう簡単にはいかなかったようじゃのう。他のルートのことも考えると、どれだけの者が挑んだのやら」

 

「でも、国を挙げて挑んだのなら、そのフリードっていう人以外にも攻略できた人がいる可能性はあるよね。もしかしたら、思ったよりも軍の再編が早く終わるかも」

 

香織がそう言う。

すると、

 

「リリィ達が心配だわ……………内通者の可能性は徹底的に潰したし、大結界も完全に修復されている。大結界を警備する兵士達も、一度内側から破られているせいで高い危機意識を持っている。それに向こうは、あのレーザー兵器が損壊していることを知らない。少なくとも直ぐに攻められることはないと思うけど…………」

 

雫がすぐの進軍は無いだろうと予測しつつも、リリアーナ王女の心配をする。

 

「……安心してくれ、雫。力を手に入れて狂った神を倒し、人間も魔人も皆、俺が救って見せる。ここに残ってリリアーナ達も俺が守る。全ての神代魔法を手に入れれば、いずれ自力で帰れるからな。俺は、誰も見捨てない」

 

「光輝……」

 

「おめでたい奴だ………」

 

光輝の言葉に、輝二が呆れた声で呟いた。

 

「なんだと………!?」

 

光輝が輝二を睨む。

 

「たった1人で全てを救えるものか………!」

 

「救えるさ! 力を手に入れ、狂った神を倒せば皆救われる!」

 

光輝の言葉に輝二は呆れた様に溜息を吐く。

 

「それだけで全てが救われると思っているのなら、お前は何も救えない」

 

輝二はそう言うと、光輝から興味を無くした様に視線を切った。

そのまま先へ進んでいくと、十字路に出た。

ハジメが羅針盤を確認しようとした時、

 

「ハジメさん……何か来ます」

 

ウサミミをピコピコと動かしながら、シアが警告を飛ばす。

 

「魔物? やっと出て来たね。どこから?」

 

「……4方向全部です」

 

「えっ? 後ろからも?」

 

今まで進んできた道からも魔物が近付いてきているという事実にハジメは驚きを見せる。

一先ず背中合わせとなって4方向全てに警戒していると、それは暗がりの向こうから現れた。

 

「「「「「ヴァアアアアアアアア…………!」」」」」

 

姿形は人だが、その肌は血色を失って青白くなっており、表面にも霜を貼り付かせている。

 

「こいつら……まさか氷壁の死体か?」

 

「……魔人族以外もいる。さっき見た奴」

 

「生きて……いたわけじゃないよね。まるでゾンビみたい」

 

それぞれが考察を巡らすが、

 

「考えるのは後だ! 一先ずこいつらを片付けるぞ!」

 

アグニモンが叫んだ。

 

「バーニングサラマンダー!!」

 

アグニモンは両拳に炎を発生させ、それを放つ。

しかし、相性の悪いフィールドの為、その威力は半減している。

だが、

 

「ブレッザ・ペタロ!!」

 

その炎をフェアリモンが放った竜巻が扇いで大きく燃え上がらせ、炎の竜巻となって1つの通路を飲み込んだ。

 

「カチカチコッチン!」

 

チャックモンが口から冷気の息を吐き出す。

相性の良いフィールドでパワーアップしているその必殺技は、瞬く間に1つの通路を埋め尽くし、ゾンビたちを凍り付かせた後、粉々になって砕け散る。

 

「ミョルニルサンダー!!」

 

ブリッツモンが拳を地面に叩きつけて放った雷撃が次々とゾンビ達に感電し、黒焦げにしていく。

残った通路も、ハジメ達の一斉攻撃で瞬く間にゾンビ達を全滅させた。

 

 

 

次の試練は所謂迷路だった。

天井は開けていたが、大迷宮がそんな単純なわけないと仲間内では思っていたが、ブリッツモンが脳筋宜しく即行動に移してトラップに引っかかったり、自力で閉じ込められた氷を砕いて脱出したという事以外は、とりわけ問題無く進んでいるように思えた。

だが、迷路を暫くすすんで、中間地点かチェックポイントと思われる扉を潜ってから変化が訪れた。

鏡と見間違うほどに光を反射する氷の道を進んでいた時、最初の異変は光輝だった。

突然立ち止まってキョロキョロし始めた。

 

「光輝? どうしたの?」

 

「あ、いや、今、何か聞こえなかったか? 人の声みたいな。こう囁く感じで……」

 

「ちょ、ちょっと、光輝くん、止めてよ。そういうのはメルジーネで十分だよ」

 

光輝の言葉にホラー系が苦手な香織が声を上げる。

 

「他に何か聞こえた人はいる? シアはどう?」

 

ハジメが念のために確認を取る。

 

「いいえ、私には何も聞こえませんでした。人の気配も、ここにいる皆さん以外には感じません」

 

シアがそう言う。

他の皆も何も聞こえなかったようだ。

 

「……確かに、聞こえたと思ったんだけどな……」

 

「ちょっと気を張り詰めすぎなんじゃねぇか?」

 

「……そうかもな」

 

誰も聞こえていないという事で、光輝は気の所為で済ます事にした様だ。

 

「……シア。頼むね」

 

「はいです」

 

念のために耳がいいシアに警戒を頼むハジメ。

そのまましばらく進んでいると、

 

「っ、まただ! やっぱり気のせいじゃない! また聞こえた!」

 

「こ、光輝?」

 

再び光輝が声を上げた。

 

「嘘じゃない! 今度ははっきり聞こえたじゃないか! 〝このままでいいのか?〟って!」

 

「いや、光輝。俺には何も聞こえなかったぜ?」

 

「くそっ! 誰だっ! どこにいる! コソコソしてないで姿を見せたらどうだっ!!」

 

「光輝、落ち着いて」

 

イラつきを抑えられない光輝。

 

「シア」

 

「いえ、私にも全く……」

 

ハジメは再びシアに確認を取るが、やはり聞こえていないという。

 

「……ハジメ。魔力反応は?」

 

「ないよ。ゾンビの時もそうだったけど、この迷宮の氷壁はどうも魔力反応を隠蔽する能力でもあるみたいだ。あまり魔眼石はあてにならない」

 

「ふむ。大迷宮のプレッシャーにでも負けて精神を病んでいる可能性もあるが……それにしては唐突すぎるのぅ。何らかの干渉を受けていると考えるのが妥当じゃろう」

 

「でも、シアの耳でも聞こえない上に、ハジメくんも感知できないなら防ぎようがないね」

 

「そもそも音として耳で聞いてるわけじゃなさそうだ」

 

仲間内で話し合う一行。

 

「天之河君、取り敢えず落ち着いて」

 

「っ、南雲。本当なんだ。確かに、俺は……」

 

「わかってる。君の気のせいで片付けるつもりはないよ」

 

「えっ?」

 

自分の言葉をあっさりと肯定したハジメの言葉に、光輝は呆けた声を漏らす。

 

「何らかの干渉を受けている、そう考えておくべきだ。それが、この迷路の試練の一つだと言うなら、天之河君だけでなく、ここにいる全員が干渉を受ける可能性が高い。今のところ、防ぐ手立てが思いつかないからね。全員、十分に注意して」

 

「いよいよこの迷宮の本格的な試練が始まったって事か」

 

ハジメの言葉に全員は頷き、警戒を更に上げて先を目指す。

 

「っ、また……」

 

光輝は再び声が聞こえたのか声を漏らす。

しかし、迷宮の試練と結論付けているので、取り乱すことは無かった。

 

「……聞き覚えがある?」

 

「光輝。大丈夫か?」

 

「あ、ああ。大丈夫だ。ただ、どこかで聞いたような声だと思って……」

 

「……ハルツィナでは擬態能力を持った魔物もいたし、知っている誰かを真似ているのかもしれないよ」

 

「ありがとう、龍太郎、鈴。2人こそ気を付けろよ。南雲の言う通りなら、皆にもその内、聞こえるようになるかもしれない」

 

「おう」

 

「うん。注意するね」

 

光輝とブリッツモン、チャックモンはそう言葉を交わす。

すると、今度は輝一の表情も強張った。

 

「輝一……」

 

「……ああ、俺にも聞こえた。男の声で、〝いつまで続けるつもりだ?〟って」

 

「……俺は男の声で〝気がついているんだろう?〟だった。どうやら、聞く相手によって言葉は変わるみたいだな」

 

すると、

 

「………あっ、アグニモン。それにフェアリモン、チャックモン、ブリッツモンも。ここからは進化は解いておいた方が良いかもしれない。知っての通り、デジモンには魔法が直接作用しない。もしかしたら、試練の影響を受けずに進んだら、試練を突破したとはみなされないかもしれないから」

 

ハジメが気付いた様にそう言う。

 

「なるほど」

 

その言葉に納得したアグニモン達は進化を解く。

すると、程なく拓也も慌てて周りを見渡す素振りを見せたので聞こえるようになったらしい。

 

「拓也は何て言われたの?」

 

「ああ。〝本当にこれでいいのか?〟だってよ」

 

「……何か抽象的だね。惑わすには間接的に過ぎるような気がするけど……」

 

拓也の言葉にハジメが首を傾げる。

そのまま先に進んでいくと、次々と他のメンバーにも声が聞こえるようになっていく。

そして、

 

「あ、そうか。これ自分の声だ」

 

囁き声に意識を割かれそうになっていた面々は、唐突に上がったハジメの声にハッと我を取り戻した。

 

「……ハジメ?」

 

視線で問うユエに、ハジメが答える。

 

「みんな、囁き声に聞き覚えがあるって言ってでしょ? 僕もそうだったんだけど、この声、僕の声だ。父さんの手伝いでゲーム制作に関わった時に、ボイステストで何度も自分の声を聞く機会があって。自分の声って自分で聞くと意外に違和感があるもんだから気がつきにくいけど、確かに、その時何度も聞いた僕自身の声だよ、これ」

 

ハジメの言葉に、全員が「ああ、そういえば」と納得のいった表情となった。

 

「でも、だとすると、この声が言っていることって……」

 

「……あるいは、己の心の声……かもしれんの。色々と嫌な記憶が蘇って来るのじゃ」

 

「……ですねぇ。心の中を土足で踏み荒らされているみたいで凄く気持ち悪いです」

 

すると、

 

「自分の………心の声………」

 

輝一が何かに気付いた様に僅かに表情を顰めた。

しばらく進み、広い空間に出ると、やがて大きな扉が見えた。

 

「ふぅ、ようやく着いたみたい。あの門がゴールだよ。でも……」

 

「ん……見るからに怪しい」

 

「ですねぇ。大きい空間に出たら大抵は襲われますもんねぇ」

 

「そこだけは何処の迷宮も一緒だよね」

 

ハジメ、ユエ、シア、香織がそう言う。

 

「どっちにしろ、行くしかないだろ?」

 

拓也がそう言うと、先陣を切って進み始める。

しばらくは何事もなく進めたのだが、部屋の中央辺りまで来た時、

 

「ん? ……太陽?」

 

輝二の言葉に全員が上を見上げると、そこには強く輝く光の球が存在した。

輝二の言う通り太陽と言っても過言ではない。

しかし、ここは迷宮内で雪煙に包まれている。

あれが太陽でないことは明白だ。

 

「……ハジメ。周りが」

 

ユエの言葉に周りを見渡すと、ダイヤモンドダストの様に舞う氷の粒がキラキラと輝いている。

それだけなら綺麗な光景で済むのだが、どう見てもそのキラキラが強く輝き出しているのだ。

そして同時に、背筋に悪寒が走る。

 

「皆! 防御を!!」

 

ハジメは咄嗟に叫んだ。

 

「ッ! 〝聖絶〟!!」

 

その声に応えて香織が障壁を張る。

その瞬間、周りの氷の粒からレーザーの様に光線が発射された。

氷の粒の動きに会わせてそのレーザーが縦横無尽に駆け回る。

更に上空にあった雪煙が降りて来ていた。

 

「くっ、煙に包まれるのは面倒だ。一気に駆け抜ける!」

 

ハジメの言葉で香織は聖絶を変化させ、複数の盾状にすると、周囲に展開させてパーティーの動きに会わせて移動できるようにした。

 

「行くよ!」

 

ハジメの言葉に合わせて全員が駆け出す。

レーザーが障壁に当たると障壁が削られるが、香織は即座に修復して決して破らせない。

そのまま扉に辿り着けるかと思ったが、そうは甘くなかった。

巨大な氷塊が目の前に落ちてきたと思ったら、人型に形を変えた。

言うなればフロストゴーレムだろう。

 

「チッ、本命か」

 

落ちてきたフロストゴーレムは15体。

デジモンを除いた人数と同じ数だ。

出口を塞ぐ様に並んでいるので戦闘は免れないだろう。

 

「蹴散らすよ!」

 

ハジメの言葉で全員が戦闘態勢に入る。

ハジメが先制攻撃としてドンナーとシュラークによる攻撃を行う。

フロストゴーレムは盾を構えると銃弾を受ける。

銃弾によって盾は粉々になったが、本体には届いていなかった。

耐久力はすさまじいものがある。

 

「だが、問題ない」

 

「その通りですぅ!」

 

「蹴散らしてくれるのじゃ!」

 

ハジメに続いてシアとティオが攻撃を行う。

続いて光輝が攻撃を行った。

ハジメに向かって。

 

「っ!?」

 

「え?」

 

光輝は自分のした行動が理解できないといった顔をした。

 

「ちょっと!? 何やってるのよ光輝! いくら南雲君の事が気に入らないからって、何もこんな時に………!」

 

光輝の行動に雫が声を上げる。

 

「ち、違う! 俺は、そんなつもりなくて……気がついたら……ホントなんだっ!」

 

「………………」

 

ハジメは訝し気に光輝を見る。

その反応から、光輝が嘘を言っている可能性は低いと判断する。

すると、

 

「ッ!? ハジメ! 攻撃する瞬間に精神干渉のような感じがした! 俺の使う洗脳魔法に感じが似てた! 多分、意識誘導かなんかが働いてる!」

 

幸利がそう叫んだ。

本人も洗脳魔法を使うので、それに近い干渉を受けた事に敏感だったのだろう。

 

「……厄介。無意識領域に干渉されるのは解除が難しい」

 

ユエが顔を顰める。

その時、降りて来ていた雪煙が地面に到達してしまう。

 

「もうっ、結局、どうするの!」

 

鈴が叫ぶ。

雪煙は隣り合う仲間の姿すら認識できなくさせようとしていた。

その瞬間、

 

「全員、遠慮せず襲って来たゴーレムをぶっ壊すんだ!」

 

ハジメの声が聞こえた。

拓也の目の前に、フロストゴーレムが立ちはだかる。

 

「なるほど、一対一って事か!」

 

拓也がそう言うや否や、フロストゴーレムがハルバードを振り被った。

 

「フッ!!」

 

拓也も大剣の柄に手を掛ける。

次の瞬間、

 

―――ガァンッ!!

 

フロストゴーレムの振り下ろしたハルバードを、抜き放った拓也の大剣が弾いた。

更に、

 

「うぉおおおおおおおっ!!」

 

後に大きく弾かれ、体勢の崩れたフロストゴーレムに拓也が追撃を加えようとする。

しかし、フロストゴーレムは反対側の腕に持っていた盾で拓也の一撃を防いだ。

 

「っと……! そういやハジメのドンナーもギリギリだけど防いでたな……!」

 

フロストゴーレムがハルバードをもう一度振り被ったので、拓也は一旦飛び退く。

それから再びフロストゴーレムを見据えると、

 

「なら、アレを試してみるか!」

 

拓也は叫ぶと、大剣を逆手に持ち替え、大きく振り上げると、地面に勢いよく突き刺した。

更に拓也は魔力を大剣を伝って地面に流し込む。

すると、地面のヒビが八方向に大きく広がり、

 

「九頭龍陣!!」

 

その罅のそれぞれから、龍を象った炎が立ち昇った。

8匹の炎の龍はフロストゴーレムに襲い掛かる。

両腕、両足、両肩、両腰に炎の龍が喰らい付き、動きを封じる。

 

「はぁああああああああああああっ!!」

 

拓也が気合の入った声を上げながら大剣を引き抜くと、一際大きな9匹目の炎の龍が現れた。

拓也はその炎の竜を纏いながら跳び上がり、大剣を大きく振りかぶる。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

9匹目の龍がフロストゴーレムを飲み込むが如くその咢を広げながら襲い掛かり、同時に拓也が大剣を振り下ろした。

そして、拓也がフロストゴーレムの後ろに着地すると、フロストゴーレム炎に包まれながらが斜めにズレ、崩れ落ちた。

拓也が一度大剣を振って背中に納めると、雪煙が渦を巻いてトンネルを作り出した。

その先には扉が見える。

 

「これで合格って事かな」

 

拓也はそう言うと、その扉に向かって足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

 

 

大迷宮の次なる試練は、自分の心の闇との戦いだった。

彼らは自分の心の闇に打ち勝てるのか!?

 

 

 

次回、ありふれたフロンティアへ

 

 

 

第39話 己との戦い

 

 

 

今、ありふれた伝説が進化する。

 

 

 

 






はい、第58話です。
いきなりごめんなさい。
氷雪洞穴は変えると言っときながらここまでは大きな変更点は無いです。
変えるのは次からです。
まあ、上司の釣りのお付き合いやら地域の消防団の分団大会やらで執筆時間が大きく削られてしまったというのもありますが…………
一先ず次もお楽しみに。

P.S 今週の返信はお休みします。

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