ありふれたフロンティアへ   作:友(ユウ)

4 / 51
第3話 大迷宮の罠! 悪意の矛先……!

 

 

 

 

『オルクス大迷宮』

それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。

クラスメイト達はメルド率いる騎士団員複数名と共に、『オルクス大迷宮』へ挑戦する冒険者達のための宿場町『ホルアド』に到着した。

新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。

次の日、『オルクス大迷宮』の入り口に来ていた。

迷宮と言うからには、もっと危険そうなイメージがあったが、実際は逆に観光名所のような賑わいだった。

その理由として、魔物達から取れる魔石が挙げられる。

魔石は地球で言う電池や燃料のような扱いが出来るもので、資源であり消耗品だ。

それを目当てに冒険者達が集まり、その周りにもその冒険者達を狙った武器防具屋、道具屋、宿屋などが集まるのだ。

とは言え、内部に入ってしまえばそこは予想通りの張り詰めた空気が流れている。

迷宮に入ってある程度進むと、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

メルドの言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

ラットマンはその名の通りねずみっぽい魔物だった。

光輝、龍太郎、雫の3人が前に出て、後で結界師の天職を持つ谷口 鈴と恵理が詠唱を始める。

何故恵理がこのパーティーに入っているのかと言えば、輝一は、拓也、輝二、優花、ハジメ、香織、幸利とパーティーを組んでおり、幸利の天職が闇術師で自分と役割が被る為、親友である鈴が所属するパーティーに入ったのだ。

光輝が居る事には心底嫌そうだったが。

 

「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」

 

光輝、龍太郎、雫の3人が前衛で食い止めている間に、鈴と恵理が詠唱を完了させた。

渦巻く炎がラットマンを包む。

 

「キィイイッ!?」

 

ラットマンは断末魔の悲鳴を上げながら、消し炭となった。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

消し炭となり、回収できる部分が無い事を見せつけながらそう注意するメルド。

その言葉に、鈴は恥ずかしくなったの顔を赤らめた。

 

 

 

 

その後も数回戦った後パーティーを交代すると言った具合で順番に戦っていった。

どのパーティーも問題無く戦えており、順調に階層を下げて行った。

そして、拓也達のパーティーの番になる。

拓也達の前に出てきたのは、10匹ほどの狼の魔物の群れだった。

 

「ッ………! 数が多い! 気を付けろお前達! 狼の魔物は連携して攻撃してくる! 危険だと思ったら〝本能〟の技能も出し惜しみせず使え! 無理だと判断したら助けに入る!」

 

メルドが叫ぶ。

メルドは一応拓也達に任せる気でいたが、経験の浅い者達では無傷で対処する事は不可能だと予想していた。

その為、腰の剣の柄を握り、いつでも抜剣出来る用意をしていた。

 

「よしっ! 行くぜ!」

 

拓也は気合を入れる様に叫ぶと、左右の拳を胸の前でぶつけ合う。

そして、

 

「はぁあああああああっ!!」

 

気合の入った声と共に、その腕に炎を纏う。

その腕を振り被り、

 

「バーニングサラマンダー!!」

 

右、左と拳を繰り出すと共に、その腕から炎が放たれた。

2発の火球は狼の群れに向かい、着弾。

 

「「「ギャォォォォォォッ!?」」」

 

爆発と共に3匹の狼の魔物を消し飛ばした。

更に炎が燃え盛り、狼の群れの行く手を阻む。

狼の群れは一瞬狼狽えたが、3匹と4匹のグループに分かれて炎の両側を迂回する。

すると、回り込んだ3匹のグループの前に、輝二が立ちはだかった。

狼の群れは、臆することなく輝二に向かって3匹が縦に並ぶように向かっていく。

それに対し、輝二は腰の後ろに携えていた2本の細身の剣の内、右手でそのうち1本の柄を逆手に持ち、抜き放つ。

そして、

 

「リヒト・ズィーガー!!」

 

構えたその剣が光に包まれる。

輝二は狼の群れに向かって飛びこむと、

 

「フッ! フッ! フッ!」

 

すれ違い様に1匹に一撃ずつ剣を叩き込み、群れを通り過ぎた後、

 

「ギャッ!?」

 

「ギッ!?」

 

「ギャンッ!?」

 

それぞれの狼が血を噴き出し、倒れ伏した。

更にもう片方の4匹のグループの前には輝一が立ちはだかる。

こちらの狼達は輝一を扇状に囲み、一斉に飛び掛かった。

それに対し、輝一は手に持っていた槍を振りかざすと、

 

「エーヴィッヒ・シュラーフ!!」

 

その槍に闇が纏われ、薙ぎ払った一閃により、飛び掛かった狼が全て真っ二つとなり、同時に闇に呑まれて消え去った。

 

「な…………!?」

 

メルドは呆気にとられた。

確かにこの3人はステータスがトップクラスだが、経験が足りないため、もっと苦戦すると思っていたのだ。

それを苦戦する事無くあっさりと全滅させてしまった為に驚いたのだ。

 

「あ……ああ……お前達、よくやった………戦闘の内容には文句の付け所が無い……」

 

何とかそう言葉を絞り出すメルド。

 

「だが、もう少し手加減してくれ。お前達だけで全滅させてしまっては、他のパーティーメンバーの訓練にはならんからな……」

 

そう続けるが、メルドにはある疑念が生じていた。

 

(……………やはりあの3人の動きは、実戦経験がある者の動きだ………それも対人戦闘じゃない。魔物のような相手との戦闘だ………だが、召喚された者達の世界には、魔物が居ないと聞いた…………どういう事だ………?)

 

3人の戦いを見て、そう推測するメルド。

しかし、いくら考えても答えは出ないので、一先ず訓練を続ける事にした。

 

 

「てやっ!」

 

「ギャンッ!?」

 

優花が投げたナイフが狼の魔物の顔に刺さり、怯ませる。

そこに、

 

「はぁあああああっ!!」

 

大剣を振りかざした拓也が飛び込み、狼の魔物を真っ二つにした。

拓也の武器は身の丈ほどもあるバスタードソード。

拓也は格闘と大剣を使い分けて戦っていた。

 

「行ったぞ! ハジメ!」

 

輝二が狼に深手を負わせ、後のハジメにワザと逃がす。

すると、

 

「錬成!」

 

ハジメが錬成で地面を変形させて狼の足元の自由を奪うと、剣を持って確実に止めを刺した。

その様子にメルド達がおおっ、と驚きの声を漏らす。

錬成を戦闘に使う事など聞いた事が無かったからだ。

更に、突如として狼の魔物が同士討ちを始めた。

 

「おっ。上手くいったみたいだな」

 

幸利は上機嫌にそう言った。

闇魔法で魔物達に幻覚を見せて互いを敵と認知させたのだ。

当然ながら隙だらけの為、

 

「はっ!」

 

輝一の槍にあっさりと貫かれて絶命した。

香織も防御魔法でそれぞれを援護し、無傷で戦闘を終わらせている。

そのまま順調に迷宮を攻略していき、一流の冒険者か否かを分けると言われている20階層にたどり着いた。

因みに今現在の最高到達階層は65階層で、100年以上前の記録だそうだ。

そのまま迷宮を進んでいると、

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

メルドが立ち止まってそう警告した。

すると、突き出していた両側の壁が動き出し、ゴリラ型の魔物となってドラミングをする。

擬態能力を持つ魔物だった。

 

「ロックマウントだ! 2本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

メルドの声が響き、光輝達のパーティーが先頭を開始する。

飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。

光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。

龍太郎を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

そして、

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

部屋がビリビリと震える様な強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

咆哮による衝撃が走り、ダメージは無いが身体が硬直してしまう。

ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。

魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させてしまう技だ。

それを受けた前衛3人が一瞬硬直して動きを止めてしまう。

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた。

身体が硬直して動けない前衛組の頭上を越えて、岩が後ろに居た鈴と恵理、更には後ろで待機していた拓也達のパーティーへ迫る。

流石に巻き込まれては適わないと、鈴と恵理、更には香織や優花も迎撃の準備に入る。

しかし、発動しようとした瞬間、その岩がロックマウントに変貌したのだ。

実は投げられた岩もロックマウントであり、空中で擬態を解き、襲い掛かる。

更に擬態を解除した時の動きが前方一回転しつつ、両腕を広げる仕草だったので、某有名な3代目の泥棒のダイブにそっくりであり、更にはロックマウントの表情も目が血走って鼻息が荒い。

全員が「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

ロックマウントはそのまま向かってくるが、その前に拓也が飛び出し、炎を纏いつつ回転しながら跳び上がり、

 

「サラマンダァァァァァァッ………ブレイクッ!!」

 

見事な後ろ回し蹴りをロックマウントの顔面に叩き込んだ。

炎のエネルギーがロックマウントの身体を駆け巡り、爆発となってロックマウントの背中から噴き出す。

そのまま粉微塵と化すロックマウント。

 

「大丈夫か?」

 

拓也が確認すると、

 

「ありがとう!」

 

「ありがとう拓也君!」

 

それぞれが泣きそうな顔でお礼を言った。

余りにも気持ち悪かったのか、その顔はまだ青褪めている。

すると、

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

香織達が気持ち悪さから青褪めさせた表情を見て、死の恐怖に怯えていると勘違いした光輝が聖剣を振り被る。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

 

 

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

メルドが制止の声を上げるが、光輝はそれを無視して聖剣を振り下ろす。

光の斬撃がロックマウントを真っ二つにし、光の斬撃はそのまま背後の壁にぶつかり、壁を崩した。

光輝は爽やかな笑みを浮かべながら、「もう大丈夫!」と香織達に声を掛けようと振り返り、

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

メルドの拳骨が振り下ろされた。

 

「へぶっ!?」

 

言われて気付いたのか、気まずそうな顔をする光輝。

すると、

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

香織が崩れた壁を指差しながら呟いた。

その壁には、綺麗な宝石の原石と思わしき鉱物が露出している。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

メルドがそう言う。

グランツ鉱石とは、見た通り宝石の原石みたいなもので、特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。

求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ3に入るとか。

 

「素敵……」

 

それを聞いた香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりしつつ、チラリとハジメに視線を向ける。

ハジメは苦笑し、

 

「ま、まだトラップの確認が残ってるから………」

 

答えに困ってそう返す。

それでも罠でなければペンダントか何か作ってプレゼントしようとも思っていたが。

すると、

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

いきなり檜山が言い出した。

香織がハジメに向けていた視線に気付いたんだろう。

自分が先に回収して香織にプレゼントすると考えたのだ。

壁をひょいひょいと昇っていく。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

メルドが警告するが、檜山は聞こえないふりをしてグランツ鉱石に手を伸ばす。

 

「団長! トラップです!」

 

トラップを見破るフェアスコープで鉱石の辺りを確認していた騎士が叫んだ。

そして檜山の手がグランツ鉱石に触れた瞬間、その鉱石を中心に魔法陣が広がる。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

メルドがそう叫ぶが、全員が行動に移す前に、光が部屋中を包み込んでいった。

その直後、浮遊感が身体を包み込み、そのすぐ後に空中に放り出された。

尻餅を着く生徒達。

先程のトラップは転移系だったようで、今生徒達がいる場所は巨大な石橋の上。

橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

その橋の中央に俺達は転移させられたらしい。

生徒達の殆どは突然別の場所に飛ばされた事もあり、困惑もしくは混乱している。

すると、

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

メルドが叫ぶと、生徒達がわたわたと動き出した。

だがその時、階段側の橋の入り口に魔法陣が現れて、大量の骸骨の魔物が現れる。

更に、奥へ続く入り口の前にも巨大な魔法陣が発生し、そこからは巨大な1体の魔物が現れた。

その黒い魔獣をメルドは呆然と見つめ、

 

「まさか…………ベヒモス………なのか…………?」

 

そう呟いた。

その瞬間、

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

「ッ!?」

 

ベヒモスと呼んだ魔物の咆哮によってメルドは我に返り、

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

 

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

 

メルドは撤退する様に言ったが光輝が食い下がった。

 

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

鬼気迫るメルド団長の怒号に天之河は一瞬怯むが、

 

「見捨ててなど行けません!」

 

光輝は尚も食い下がった。

しかし、

 

「輝二! 輝一!」

 

拓也が叫びながら駆け出す。

 

「ああ!」

 

「分かっている!」

 

拓也と輝二、輝一の3人は一直線にトラウムソルジャーの大軍に向かっていく。

 

「ファイアダーツ!!」

 

拓也は炎を手裏剣の様に飛ばし、トラウムソルジャーを焼き尽くしていく。

 

「リヒト・クーゲル!!」

 

輝二が伸ばした左腕からレーザーのような光線が放たれ、トラウムソルジャーを貫く。

 

「エントリヒ・メテオール!!」

 

輝一が闇のエネルギーを集中させ、それをビームの様に放ちながらトラウムソルジャーを薙ぎ払う。

 

「皆落ち着け! メルド団長の指示通りに!」

 

拓也は叫ぶ。

その声で各々は戦い始めるが、焦りと恐怖で動きに精彩を欠いており、上手く敵を倒す事が出来ない。

 

「皆落ち着け! 奴らは38階層の魔物、『トラウムソルジャー』! 皆で力を合わせれば望みはある! メルド団長が後ろを守っているうちに早く!」

 

騎士であるアランが生徒達を奮い立たせようと声を掛ける。

後方では、足止めに残った騎士達が結界を張ってベヒモスの突進を受け止めている。

だが、長くは持ちそうにない。

そして、こんな命の懸かった修羅場に遭遇したことの無い殆どの生徒達は混乱の渦に居た。

所謂パニック状態だ。

 

「くっ!」

 

拓也が歯噛みした時、

 

「きゃあっ!?」

 

優花がパニックになった所為との1人に背後から突き飛ばされて転倒する。

 

「う………」

 

優花が起き上がろうと顔を上げると、そこには剣を振り上げたトラウムソルジャーの姿。

 

「あ………」

 

優花の脳裏に過ったのは『死』。

そのトラウムソルジャーの剣が振り下ろされようとした時、

 

「優花!」

 

その声と共にトラウムソルジャーを炎が包んで灰と化した。

 

「大丈夫か! 優花!?」

 

拓也が駆け寄り、手を貸しながら立ち上がらせる。

 

「う、うん……ありがとう拓也」

 

お礼を言う優花だったが、拓也は険しい表情のままだ。

 

「くそっ! 皆混乱してて訓練の成果を全然出せていない……どうすれば………」

 

このままでは犠牲者が出かねない。

拓也がそう考えていると、

 

「なんとかしないと……必要なのは……強力なリーダー……道を切り開く火力……天之河くん!」

 

ハジメがぼそぼそと呟いた後、光輝の名を叫んで走り出した。

ベヒモスの方に向かって。

 

「あっ! ハジメ君!?」

 

それに気付いた香織も後を追う。

 

「ハジメ!? あいつ、光輝を呼びに!?」

 

拓也は一瞬躊躇したが、

 

「優花は輝二達とこっちを頼む。 輝二! 輝一! こっちは任せるぞ!」

 

拓也はそう言うとベヒモスの方に駆け出した。

 

「あっ! 拓也!」

 

優花は手を伸ばそうとしたが、拓也はそのまま行ってしまう。

一方、ベヒモスの方では、

 

「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」

 

ベヒモスを止めていた障壁は罅だらけで今にも砕けそうだ。

多分、あと数回も持たないだろう。

 

「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」

 

「くっ、こんな時にわがままを……」

 

「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

雫はメルドの言う通り撤退を促す。

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」

 

「龍太郎……ありがとな」

 

しかし、龍太郎の言葉に更にやる気を見せる光輝。

雫が舌打ちする。

 

「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」

 

雫がそう叫んだ時、

 

「天之河くん!」

 

ハジメが叫びながら駆け込んできた。

 

「なっ、南雲!?」

 

「南雲くん!?」

 

驚く一同にハジメは必死の形相でまくし立てる。

 

「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」

 

「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」

 

「そんなこと言っている場合かっ!」

 

光輝はハジメを戦力外だと決めつけ、逃げるよう促そうとしたが、その前にハジメの今までにない乱暴な口調に止められた。

 

「あれが見えないの!? みんなパニックになってる! リーダーがいないからだ!」

 

光輝に詰め寄り、皆の方に指を差すハジメ。

その先には混乱の渦に居るクラスメイト達の姿。

訓練の成果を全く生かせず、それぞれが勝手に戦っている状態の為、トラウムソルジャーを突破できないでいる。

輝二と輝一が2人で支えているお陰で何とか犠牲者は出ていないが、このままではじり貧だ。

 

「一撃で切り抜ける力が必要なんだ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」

 

ハジメの言葉に、漸く現実が見えてきた光輝は頷き、

 

「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ――」

 

「下がれぇーー!」

 

漸くクラスメイトの方に向かおうとした瞬間、メルド達の結界が破られた。

その巨体が持つ超重量が彼らに襲い掛かり………

 

「炎龍撃!!」

 

強烈な閃光と共にベヒモスの左の角の付け根辺りが爆発。

襲い掛かろうとした勢いを殺され、たたらを踏む様に後退した。

その直後、ヒュンヒュンと宙を舞っていた何かが石橋に突き刺さる。

それは、ベヒモスの角であった。

見れば、ベヒモスの左の角があった部分が抉られている。

メルドが振り向くと、そこには赤いオーラを纏い、大剣を真っすぐに突き出した拓也の姿。

だが、その直後に拓也の持っていた大剣がサラサラと灰になって消滅していく。

 

「くっ! 未完成の技だったから、剣が耐え切れなかったのか!」

 

拓也は歯噛みする。

それに拓也自身も今の一撃で相当に魔力を消費していた。

 

「光輝! お前達はさっさと皆を助けに行け!」

 

拓也がそう言いながら前に出る。

 

「拓也! お前……!」

 

「早く行け! 勇者の役目は皆を護る事だろ!」

 

「くっ……! すまん!」

 

光輝は一言謝ると皆の方に駆け出そうとする。

しかし、その時ベヒモスが頭の角を掲げる様に仰け反ると、その角が赤熱化していく。

ベヒモスが突進を始め、跳躍して赤熱化した角を向けて突っ込んでくる。

 

「〝竜の本能〟!!」

 

すると、拓也が今まで以上のオーラを纏い、

 

「ぐぁああああああああああああああっ!!!」

 

苦しそうな声を上げながら拓也はその突進を受け止めた。

凄まじい衝撃と共に、ベヒモスの動きが止まる。

ベヒモスの足が地に着く。

 

「ぐぐぐっ………!」

 

拓也はギリギリだが耐えていた。

しかし、

 

「グルルルッ………!」

 

ベヒモスが唸り声を上げて一歩踏み出す。

 

「ぐっ!」

 

拓也が押され、後にずり下がって行く。

拓也が正気を保てるレベルの強化では、ベヒモスの方が力は上回っていた。

ベヒモスがもう一歩踏み出そうとした時、

 

「錬成!!」

 

その足を変形した石橋が絡めとる。

 

「ハジメッ!?」

 

拓也のすぐ横で、ハジメが手を地面につけ、錬成を行っていた。

 

「拓也っ! 皆が階段まで辿り着いたらっ……! 魔法の一斉攻撃が来る………! その時にっ………!」

 

ハジメの言わんとしていた事を察した拓也は頷く。

拓也が時間を稼いでいる内に、ハジメがメルドに作戦を立案したのだ。

メルドは渋ったが、それ以外に方法が無く、ハジメと拓也に託すことに決めたのだ。

追いかけていた香織は、メルドや騎士達の回復をしつつ、何とか下がって貰った。

 

すると、

 

「――〝天翔閃〟!」

 

皆の所に到着した光輝の一撃がトラウムソルジャーの群れを吹き飛ばす。

 

「皆! 諦めるな! 道は俺が切り開く!」

 

その声に生徒達のパニックが見る見るうちに収まっていくのが分かる。

更に、

 

「お前達! 今まで何をやってきた! 訓練を思い出せ! さっさと連携をとらんか! 馬鹿者共が!」

 

頼れるメルドの声により、沈んでいた気持ちが活気付く。

頼れる存在が2人も戻って来たとあって、生徒達は生きる希望を取り戻した。

光輝とメルドが加わり、どんどん出口である階段に近付いている。

 

「行けるぞ! もう少しだ!」

 

光輝の声に、皆の勢いが増す。

そしてついに、トラウムソルジャーの群れを突破して階段に辿り着いた。

クラスメイト達は、我先にと階段を駆け上がろうとしたが、

 

「皆、待って! ハジメ君と拓也君を助けなきゃ! ハジメ君達がたった2人であの怪物を抑えてるの!」

 

香織が叫んで皆を止める。

 

「そうだ! あいつらが2人であの化け物を抑えているから撤退できたんだ! 前衛組! ソルジャーどもを寄せ付けるな! 後衛組は遠距離魔法準備! もうすぐ坊主の魔力が尽きる。2人が離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

 

メルドが矢継早に指示を出した。

 

「拓也!」

 

その様子を窺っていたハジメが、そろそろだと拓也に呼びかける。

拓也は頷き、

 

「いいかハジメ!」

 

「うん!」

 

拓也からも声を掛ける。

そして、

 

「一!」

 

「二の!」

 

2人は声を掛け合い息を合わせ、

 

「「三!!」」

 

2人同時に一目散に駆け出した。

その瞬間、

 

「撃てぇ!!」

 

メルドの号令と共に、あらゆる属性の魔法が雨あられとベヒモスに降り注ぐ。

 

「ハジメ!」

 

拓也はステータスの低いハジメの腕を取って肩に担ぐと、一気に地面を蹴って加速する。

ハジメにスピードを合わせるより、こちらの方が速いからだ。

ベヒモスは撃ち込まれる魔法ではダメージは受けてない様だが、足止めは出来ている。

拓也のステータスもあり、余裕をもって皆の所まで逃げ切る事ができる。

そう思っていた。

しかし、

 

「ッ!? 何ッ!?」

 

拓也が驚愕の声を上げる。

ベヒモスに撃ち込まれていた魔法の内の1発が軌道を変え、拓也達に向かって来たのだ。

拓也は一足飛びで移動していたため、空中に跳んでいる途中であり、避ける事は出来なかった。

魔法が拓也に直撃する。

 

「うわっ!?」

 

「なっ!?」

 

拓也が吹き飛ばされ、ハジメも同時に驚愕の声を上げる。

 

「ど、どうして……?」

 

ハジメが疑問の声を漏らす。

だが、今はそんな事を考えている暇はない。

拓也がすぐに立ち上がる。

唯一の救いは、今の魔法が火属性であり、拓也は火属性に対して耐性を持っていた事だろう。

そのためダメージが少なく、すぐに体勢を立て直す事が出来た。

 

「ハジメ!」

 

拓也は再びハジメを担いで脱出しようとする。

しかし、ベヒモスが咆哮を上げ、再び角を赤熱化させて飛び掛かって来たのだ。

 

「くっ!」

 

拓也は全力でその場を飛び退く。

直後、ベヒモスがその場に着弾した。

凄まじい衝撃を石橋全体に響かせ、ひび割れが奔る。

そしてついに、石橋が崩壊を始めた。

 

「グウァアアア!?」

 

崩壊に巻き込まれ、ベヒモスが奈落に落ちていく。

だが、橋の崩壊は止まらず、すぐに拓也の足元に達した。

 

「うわっ!?」

 

崩壊を始めた足場に足を取られ、止まってしまう拓也。

遂に足場そのものが崩落し、空中に投げ出されようとする。

 

「拓也!」

 

「ハジメ君!」

 

2人の視線の先で、優花と香織が悲痛な表情でこちらに手を伸ばすように飛び出そうとして、他の皆に止められている。

 

「ッ!」

 

その瞬間、拓也はハジメを抱え直すと、

 

「受け取れ! 香織ぃ!」

 

ハジメを思いきり香織の方に投げ飛ばした。

 

「拓也!?」

 

その行動に、ハジメは驚愕の声を上げる。

 

「ハジメ君!」

 

ハジメが放り投げられた先で香織が手を広げ、身体全体でハジメを受け止めた。

そのまま勢いで倒れる2人。

しかし、ハジメはすぐに身を起こすと、

 

「拓也!?」

 

すぐに橋の崩落したギリギリまで這い寄るとその先を覗き込む。

そこには、

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

拓也がまるで漫画やアニメの様に崩落しかける瓦礫を足場にし、跳躍を繰り返して皆の方に向かってきて来た。

 

「拓也!」

 

ハジメが呼びかける。

 

「拓也!!」

 

優花も、

 

「拓也!」

 

輝二も、

 

「もう少しだ!」

 

輝一も、

 

「根性見せろ!」

 

そして幸利も。

次々に拓也に呼びかける。

そして、最後の瓦礫に足を掛け、

 

「届けぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

渾身の力で跳躍した。

その結果は、

 

(拙いっ! 届かない!)

 

拓也は直感してしまう。

これでは届かないと。

 

(あと1m……いや、50cm………届かない………!)

 

拓也の不運は最後に足場にした瓦礫が小さく、跳躍する為の力が逃げてしまった事だろう。

もし十分な質量のある足場であれば、間違いなく届いていた。

それでも拓也は必死に手を伸ばす。

しかし、無情にもその50cmという距離は如何ともしがたく………

 

「錬成ぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

ハジメがなけなしの魔力を振り絞った錬成が、その距離を埋めた。

拓也の指先がハジメの錬成した足場の先に掛かる。

 

「ハジメ!」

 

拓也が驚愕しながら声を上げる。

 

「た、拓也、早く! 長くは持たない……!」

 

ベヒモスの足止めの為に、ハジメの魔力は既にほぼ空だった。

それでも、錬成を維持する為に魔力を絞り出す。

 

「ッ! ふっ!」

 

拓也を勢いをつけ、片手の逆上がりの要領で足場の上に立つと、崩れずに残っていた橋の淵にしがみ付いた。

その直後にハジメが錬成で作った足場が崩れていく。

 

「ふぅ………」

 

拓也は安堵の息を吐くと、崖をよじ登り、

 

「ん?」

 

差し出された手に気付いた。

それはハジメだ。

ハジメも疲れた表情ながらも笑みを浮かべて手を差し出している。

それを見た拓也も笑みを浮かべてその手を取った。

無事足場へ引っ張り上げられた拓也に、その場にいた者達は安堵の息を吐いたり、ホッとした表情になる。

それは優花も同じだった。

無事に拓也が戻って来た事に安堵し、彼の下に駆け寄ろうとした。

しかし、

 

「ここに焼撃を望む――」

 

微かに耳に届いたその声に気付く。

 

(詠唱………?)

 

優花は気になった優花はそちらに振り向く。

その先には、

 

(……檜山?)

 

やや引き攣りながらほの暗い笑みを浮かべた檜山の姿。

 

「ッ………!」

 

その瞬間、優花の中で先程の光景が蘇る。

狙ったように拓也達を危機に陥らせた魔法。

そして現在の檜山の笑み。

それが示すものは、

 

「逃げてぇぇぇぇぇっ!!」

 

優花は振り返りながら咄嗟に叫んだ。

その瞬間、檜山から放たれる火球。

その矛先はハジメ。

だが、

 

「ハジメ!」

 

優花の声で一瞬早く気付いた拓也がハジメを押し退ける様に前に出る。

しかし、その火球に直撃する拓也。

いくら拓也が火属性に耐性があるとはいえ、衝撃までは殺せない。

火球が爆発した衝撃で拓也の足が地面から離れ、崖の方に投げ出される。

 

「拓也!」

 

そんな拓也の手に、ハジメが反射的に手を伸ばす。

しかし、ハジメの力ではその勢いを殺す事が出来ず、ハジメも一緒に投げ出される。

 

「ハジメ君!!」

 

そんなハジメに今度こそ離れないようにと抱き着くように後を追う香織。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、3人はそのまま重力に引かれ………………

 

 

 

 

 

 

奈落の闇に消えていった……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

 

 

 

奈落に消えた拓也達。

大切な者を失い、傷付いた者達。

『死』を間近で感じた事で、心折れる者達。

悪意を持って魔法を撃った檜山に対し、光輝が選んだ選択とは!?

 

次回、ありふれたフロンティアへ

 

第4話 拓也死す!? 残された者達………

 

今、ありふれた伝説は進化する。

 

 

 

 

 






はい、新作の投稿です。
とりあえず最初の山場のベヒモス戦まで書きあげました。
一気に3.5話分は疲れますね………
拓也達の強さはこんなもんで如何でしょう?
さて、前情報通り拓也、ハジメ、香織の3人が橋から落ちました。
この先一体どうなるのかお楽しみに。
まあ、前作のありふれた転生者はデジモンテイマーに比べると、ハジメが魔王化しない事も相まって甘く感じるかもしれません。
そんで次回予告もやってみました。
ノリはアドベンチャーです。
次回予告はあった方が良いですかね?
それでは次回をお楽しみに。

次回予告はあった方が良い?

  • あった方が良い
  • 無くても構わない
  • どっちでもいい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。