ありふれたフロンティアへ   作:友(ユウ)

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第39話 己との戦い

 

 

拓也がフロストゴーレムを倒し、雪煙のトンネルを潜り抜けると、丁度別のトンネルからハジメが現れた。

 

「あっ、拓也!」

 

ハジメが声を上げる。

 

「ハジメも終わらせたか………まあ当然か」

 

進化前ならば、自分よりも遥かに高いステータスを持つハジメに対し、拓也はそう言う。

すると、次々と雪煙の中にトンネルが出来上がる。

 

「優花! ティオ! ノイント! 輝二! 輝一!」

 

「香織! ユエ! シア! 八重樫さんに恵理さんも!」

 

次々にトンネルを潜って出て来る仲間達を見て、拓也もハジメも嬉しそうな声を漏らす。

 

「そっらも無事だったようだな」

 

輝二がそう言うと、

 

「当然だろ」

 

拓也は得意げに言う。

 

「まあ、私は進化して倒したけどね」

 

優花は生身では勝てないと判断し、フェアリモンに進化してフロストゴーレムを倒したようだ。

 

「右に同じ」

 

恵理も同様だった。

 

「ん~………少し遅れたか?」

 

新しくできたトンネルから幸利が姿を見せ、

 

「あ、皆~!」

 

「おめえらも無事だったか!」

 

更に少し遅れて龍太郎と鈴も姿を見せた。

更に、

 

「ぶへぇ~!? やっと抜けられたハラ……!」

 

「酷い目に遭った~!」

 

ボコモンとネーモンは試練を受けなかったようで、雪煙の中から直接現れた。

 

「後は光輝か………」

 

輝二が呟く。

その時、雪煙の中から光の斬撃が飛び出す。

 

「……っと!」

 

その矛先はハジメだったが、ハジメは義手である左腕を軽く振ってその斬撃を掻き消した。

さらに次から次へと斬撃が飛び出してくる。

 

「よっ……ほっ……!」

 

「俺もか……」

 

その矛先は主にハジメ。

そして稀に輝二にも斬撃が襲い掛かる。

 

「あ~あ。あの正義君は、この迷宮の影響を諸に受けちゃってるや」

 

恵理が呆れた様にそう言う。

やがて、光の斬撃が収まったかと思うとトンネルが現れ、それなりに消耗した光輝が姿を見せた。

今回の試練も中々堪えた様だ。

全員の回復が終わった後、一行は門に現れた光の膜に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと、拓也は1人となって2m四方のミラーハウスのような通路に居た。

 

「皆は居ない…………分断されたか…………」

 

今度の試練は、どうやらそれぞれ1人で受ける試練の様だ。

拓也は通路を歩き出す。

そのまま10分ほど歩くと、広い部屋に出た。

その部屋の中央には床と天井を繋ぐ太い柱が立っており、その柱も氷で出来ていて、拓也の姿を映し出す。

 

「ん~………この柱が試練に関係してるのか?」

 

拓也は氷の柱の周りをグルグルと回りながら一通り調べる。

氷の周りを一周すると、拓也は足を止めて氷の柱を眺め始めた。

氷の柱には、拓也の姿が映っている。

まるで、氷の柱の中に、もう1人拓也がいる様に………

すると、

 

『………フッ』

 

「ッ!?」

 

氷の柱に映し出された拓也が笑みを浮かべ、拓也は咄嗟に飛び退いた。

着地すると同時に大剣を抜き放つ。

拓也が警戒していると、その氷の中の拓也の姿が前に歩き出し、氷の中から実体を持って現れた。

その姿は拓也と瓜二つ。

しかし、髪の毛は白く、服装の色も拓也が赤を基調にしているのに対し、氷の中から現れた拓也は青を基調としていた。

まるで色を逆転させたような姿だった。

 

『よう、俺』

 

「お前は………?」

 

『俺はお前さ』

 

「俺………?」

 

『そう。お前の持つ負の心………言わば心の闇。それが俺だ』

 

「つまり、この試練は自分に打ち勝てという事か……!」

 

『その通りだ。自分が目を背けていた汚い部分、不都合な部分。それらと向き合い、乗り越えるのがこの迷宮のコンセプトだ』

 

「なるほどな………なら、さっさと始めようじゃねえか!」

 

拓也が大剣を振り被りながら一足飛びで突撃する。

すると、虚像の拓也も大剣を抜いて、同じように大剣を振り被りながら突進した。

 

「『はぁああああああああああっ!!』」

 

互いの中央で大剣がぶつかり合う。

その時に巻き起こった衝撃が、地面に罅を入れた。

 

「くっ………力は互角か……!」

 

『当然だ。俺はお前()だからな』

 

そう言う虚像に拓也は一旦飛び退いて距離を取る。

すると、

 

『お前は………本当にこのままでいいと思っているのか?』

 

「何………?」

 

突然の虚像からの問いかけに拓也は声を漏らす。

その瞬間、虚像が手から炎を発してその炎を手裏剣の様に飛ばす。

 

「チッ! ファイアダーツ!!」

 

拓也も同じように手から炎を発し、それを手裏剣の様に飛ばして相殺する。

 

『彼女達との関係さ。優花だけならまだいい。元々恋人だったわけだしな。だが、あろうことかお前はティオと、更には敵である筈のノイントにまで手を出した』

 

「ッ………」

 

その言葉に、拓也は僅かに顔を顰めた。

 

『最初はハジメに対して呆れていたみたいだが、お前も人の事は言えないな』

 

「…………何が言いたい………!?」

 

斬りかかって来る虚像の一撃を受け止める拓也。

しかし、拓也の言葉にやや粗さが混じる。

 

『ハジメに対して、お前は少なからず女誑しやハーレム野郎という侮蔑の感情を持っていた筈だ。今のお前は、それと一緒だ』

 

「ぐっ………!」

 

『そんな(お前)が、スピリットに相応しい人間なのかな!?』

 

「ッ!?」

 

その言葉に、拓也は明らかな動揺を見せた。

虚像からの大剣の一撃が放たれ、拓也は防御するものの大きく後退する。

 

『デジタルワールドを冒険していた頃はまだ子供だったから良かった。子供は良くも悪くも純粋だ。性欲というモノも薄く、おままごとのような恋愛感情を持つことが精々だった。だが、今の(お前)は色欲というモノに溺れ、女を3人も侍らせている! そんな汚れてしまった自分(お前)がスピリットに相応しい人間なのか!?』

 

虚像がその言葉と共にバーニングサラマンダーを放つ。

 

「ぐぁああああああっ!?」

 

拓也は防御するが、その身を焼かれ、膝を着く。

 

『今の(お前)は昔の俺とは違う………ただの薄汚れた大人になりかけの子供だ』

 

虚像がそう言い放った。

すると、

 

「……………ああ、そうだな」

 

膝を着いた拓也がポツリと零した。

 

「今の俺は………昔の俺とは違う…………」

 

拓也は虚像の言葉を肯定した。

 

『認める気になったか?』

 

虚像が薄い笑みを浮かべる。

しかし、

 

「そんなのは当然だ………! 俺は、『成長』してるんだからな……!」

 

顔を上げ、そうはっきりと言い放つ拓也。

 

『何っ………?』

 

「少なくとも、スピリットの心は俺の心から生まれた言わばもう1人の俺自身。俺が俺を否定するなどありえない!」

 

『くっ………力が弱まる………!? 何故だ! スピリットの心は確かに(お前)から生まれた! しかしそれは昔の(お前)だ!』

 

「例えそうだとしても、『俺が俺である部分』は変わっていない!!」

 

拓也が立ち上がり、虚像に向かって大剣を振り下ろした。

 

『ぐぅっ!?』

 

大きく吹き飛ぶ虚像。

 

「『俺が俺である』限り、スピリットは俺を否定することは無い。確かにお前に言われた事に納得できる部分もあった! だがそれでも、俺は『俺が俺である』事を止めたつもりはない!」

 

拓也は大剣を真っすぐ前に突き出す。

 

『ッ!』

 

虚像も同じように大剣を真っすぐに突き出した。

 

「『炎龍撃!!』」

 

大剣に炎の魔力が集中し、砲撃として放たれた。

中央でぶつかり合う魔力砲撃。

しかし、

 

『お、押される……!? こんな一方的に!?』

 

拮抗は一瞬。

威力の天秤は明らかに拓也に傾いていた。

 

「消し飛べぇっ!!」

 

『ぐぁああああああああああああああああっ!?!?』

 

魔力砲撃が虚像を飲み込み、消し飛ばした。

すると、部屋の奥の壁に通路が現れた。

 

「終わったか……」

 

拓也は大剣を背中に納めると、新しくできた道を進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

拓也と同じように1人で別の試練の場所に飛ばされたノイントは、今まさに氷の柱から現れた虚像と相対した所であった。

虚像のノイントは、灰色の髪を持ち、黒を基調としたドレスアーマーを纏っている。

 

「……………私ですか………」

 

ノイントは落ち着いた表情で虚像の自分を見据える。

 

『…………まさか、『神の使徒』がこの試練を受けに来るとは思いませんでした』

 

虚像のノイントが口を開く。

 

『本来、心無き人形には、この試練を受ける資格するら無いのですが………こうやって試練の間が反応したという事は、(貴女)には『心』があると…………そういう事なのでしょう。信じられない事ですが』

 

「……………私の『心』は、拓也様達によって育まれました。拓也様達が、喜びを、楽しさを………そして愛を教えてくれました。そして、ハルツィナの迷宮の感情の反転の試練により、私は負の心を知りました。それによって、私は確かな『心』を持つことが出来たのです」

 

『人形に心を与えるなど俄かには信じられない事ですが………(貴女)の記憶を見る限りは、本当の事なのでしょうね………』

 

虚像のノイントは静かにそう言うと、

 

『では、試練を始めましょう。見事この(自分)を打ち倒してみなさい』

 

そう言って虚像が横に手を翳すと、そこに大剣が現れる。

 

「ッ!」

 

ノイントもその手に大剣を具現させた。

そして、

 

「『はぁああああああああああっ!!』」

 

2人同時に飛び出し、中央で激突する。

大剣のぶつかり合いで火花が散った。

すぐに互いに弾き合うと、ノイントは白い翼を。

虚像は黒い翼を出現させて空中へ舞い上がる。

空中で何度も交差し、その度に甲高い音と火花が散る。

それを何度か繰り返すと、

 

『…………もう気付いているのでしょう?』

 

突然虚像が問いかけてきた。

 

「何の事です?」

 

ノイントが問い返すと、

 

『分かっている筈です。記憶を失ったとは言え、今までの天之河 光輝を始めとした皆の反応…………時折(貴女)を警戒する眼差し…………それらの意味する事』

 

「ッ………!」

 

虚像の言葉に、ノイントの表情が僅かに揺らぐ。

 

『そう………記憶を失う前の(貴女)は………ノイントは…………彼らの…………拓也様の『敵』だったと………!!』

 

「あぐっ………!」

 

その言葉と共に放たれた大剣の一撃を防ぎきれず、ノイントは吹き飛ばされて壁に激突する。

 

(貴女)は恐れている! 記憶が戻った時、自分は再び拓也様達の『敵』になるのではないかと! もし(貴女)自身が拓也様を敵と認識しなくとも、敵と認識されてしまうのではないかと!』

 

虚像は黒い翼を広げ、黒い光に包まれた羽根を無数に射出する。

 

「くっ………!」

 

ノイントは翼に銀光を纏わせ、身を護る様に自分を包み込む。

ノイントとその周辺に黒い光弾が着弾し、氷壁を分解する。

しかし、翼で防御したノイントは無事だ。

 

「ッ!」

 

ノイントは攻撃が途切れた瞬間にその場を飛び退いて脱出する。

 

「このっ………!」

 

ノイントはもう1本大剣を出現させて虚像に向かう。

 

「はっ! せやっ!」

 

『フッ………太刀筋が乱れていますよ』

 

虚像は涼しい顔で同じようにもう1本の大剣を出現させてノイントの攻撃を捌く。

 

『ですが、ますます驚きですね。人形である筈の(貴女)がここまで取り乱すとは………』

 

「私は………人形などでは…………!」

 

『いいえ。(貴女)は人形です。狂った神に作られた心を持たぬ人形なのです………』

 

「ッ……………」

 

ノイントは苦悶の表情を浮かべる。

 

『いずれ彼らの『敵』になるかもしれない。それならいっその事、ここで死んだ方が彼らの………拓也様の為になると思いませんか?』

 

「それは…………」

 

ノイントはその言葉をハッキリと否定する事は出来なかった。

確かに虚像の言う言葉はノイント自身も懸念していた事だ。

愛する拓也の為になるのなら、ここで死んだ方が良いのかもしれないと、ノイントは思い始めていた。

その瞬間、黒い光弾がノイントに殺到する。

虚像が翼を広げて羽根を射出したのだ。

だが、着弾した場所ではノイントは再び翼で黒い光弾を防いでいた。

 

『何故拒むのです? (貴女)は死んだ方が、愛する人の為になるというのに』

 

「わ、私は………」

 

虚像が再び羽根を射出する。

ノイントはその場飛び退き、高速で飛行しながら光弾を回避していく。

 

『みっともなく生にしがみ付くより、潔く散りなさい!』

 

虚像の言葉に、ノイントは何かに耐える様に目を強く瞑った後、

 

「私は…………死にたくありません!」

 

カッと目を見開き、身体を反転させて虚像の方を向きながら上昇。

同時に翼を広げて銀光に包まれた羽根を射出した。

銀と黒の光弾がぶつかり合い、相殺していく。

 

「私は『心』を得る事ができました! あの人を愛する事が出来るようになりました! その折角得た物を、簡単に手放したくありません!」

 

ノイントは光に包まれ、疑似限界突破を発動する。

 

『ッ!?』

 

虚像も同じように光に包まれた。

先程よりも強烈な剣戟が繰り広げられる。

 

『何故ですか!? (貴女)が生きている事で、愛する人を苦しませるかもしれないのですよ!?』

 

「それでもっ………それでも私は………!」

 

ノイントは片方の大剣を投げ捨て、両手で1本の大剣を持つと、一直線に突撃した。

突撃と共に突き出された大剣。

虚像は大剣を横に構えてそれを防ぐ。

ギャリギャリと火花が散る。

しかし、

 

「私はあの人と共に生きたいっ!!」

 

ノイントの言葉と共に、虚像の大剣が砕け散った。

 

『ッ!?』

 

そのまま虚像の胸が大剣に貫かれる。

 

『それで……いいのですか………? (貴女)は所詮………人形なのですよ?』

 

虚像が最後のあがきとばかりにノイントの心を乱しにかかる。

 

「………それを決めるのは………あなたではありません………! 少なくともあの人は、私を一度たりとも『人形』として見た事はありませんでした!」

 

『ッ………………』

 

ノイントがそう言い返すと、虚像が消滅する。

それを確認してノイントが大きく息を吐くと、

 

「あれ? ノイントか?」

 

その声にノイントは思わず振り向いた。

 

「拓也様………」

 

そこには、先程まで無かった通路が現れており、そこから拓也が歩いてくる所だった。

 

「もしかして、ここはノイントの試練の場だったのか?」

 

「はい………先程まで自分と戦っていました」

 

「そうか、お疲れ様」

 

「いえ………」

 

自分を気遣う拓也の言葉に、ノイントは嬉しそうに頬を染める。

すると、ノイントは顔を上げ、

 

「拓也様、1つよろしいでしょうか?」

 

「ん? 何だ?」

 

ノイントの言葉に拓也が答えると、

 

「私は………『人形』なのでしょうか?」

 

ノイントは、そう問いかけた。

 

「………………」

 

拓也はそう問いかけてきたノイントを少しの間黙って見つめていたが、

 

「…………それを決めるのは、自分だ」

 

「えっ?」

 

「自分が人形かそうでないかは、お前自身が決める事だ」

 

「拓也様…………」

 

「けど、ま…………俺はお前の事を『大切な(ひと)』だと思っているけどな」

 

拓也は誤魔化す様に背を向けた。

因みにその顔は照れたのか真っ赤だ。

そんな背中を見て、ノイントは笑みを零す。

拓也は新しく開いた道へ向かい、ノイントも嬉しそうにその後を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

 

 

自分と戦うハジメと光輝。

過去の過ちを持つハジメは、己の正義を信じて疑わない光輝は、

この試練を突破する事ができるのだろうか?

 

 

 

次回、ありふれたフロンティアへ

 

 

 

第40話 過ちと向き合って

 

 

 

今、ありふれた伝説が進化する。

 

 

 

 





はい、第三十九話です。
手始めに拓也とノイントの試練でした。
ぶっちゃけ全員の試練を書く気力は無いので、今回の拓也とノイント。
次回のハジメと光輝。
そして、最後のもう1人をメインに書くつもりです。
誰なのかはお楽しみに。
では、次も頑張ります。




P.S 今週の返信もお休みします。
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