ありふれたフロンティアへ   作:友(ユウ)

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第40話 過ちと向き合って

 

 

拓也とノイントが試練を突破した頃、ハジメもまた別の試練の場で自分の虚像と戦っていた。

だが、

 

「はぁ………はぁ………!」

 

ハジメは肩で息をしていた。

 

『如何したの? もう息が上がってるよ?』

 

一方、虚像のハジメは幾分か余裕が伺える。

 

「ッ!」

 

ハジメは両手に持っていたドンナーとシュラークを発砲。

しかし、即座に虚像のハジメも同じようにドンナーとシュラークを発砲し、両者の中央で弾丸が激突。

閃光が迸る。

ハジメは即座に横に走り出し、回り込みながら虚像を狙おうとするが、虚像もまた同じように駆け出しており、互いに円を描くように走りながら銃弾が飛び交う。

両者は拮抗しているように思えたが、

 

『何度も聞くけど、君は本当に許されていると思っているの?』

 

「ッ………!?」

 

その言葉にハジメは僅かに動揺を見せる。

虚像の放った弾丸がハジメの迎撃を潜り抜け、ハジメの頬に掠る。

 

『恋人になったばかりの香織を一方的に押し倒し、レイプした。香織は一体どれだけ傷付いたのかな?』

 

「そ、れは…………!」

 

虚像の言葉がハジメの心を抉る。

その影響で、ハジメの動きに精細さが欠き始める。

その隙を逃さなかった虚像がハジメの懐に飛び込み、豪脚を用いた蹴りがハジメの腹部に叩き込まれた。

 

「がはっ!?」

 

そのまま氷壁に叩きつけられるハジメ。

 

『表面上は気にしないと言っていたけど、香織は優しい。()が気負わない様に取り繕っているだけかもしれない』

 

「ッ…………!?」

 

すると虚像は腕を振り被り、風爪を放つ。

 

「うわぁっ!?」

 

ハジメは金剛で防御するが、それでも浅くない傷を負う。

 

『そんな優しい香織を、()は傷付けた』

 

「くぅっ………!」

 

そして再び香織を傷付けた事への罪悪感に悩まされる悪循環に陥る。

 

『ユエやシア、レミアの事だってそうだ。香織が承諾したとはいえ、香織以外の女性を()は受け入れた。香織の事を思うなら、最初に決心した通り、香織を安全な場所に送り届けたら香織の前から姿を消すべきだった。それを()は流れに身を任せ、ユエ達を受け入れてしまった。香織が望んでいると自分を騙して………』

 

「ぼ、僕は…………」

 

『あれ程までに自分を愛してくれた香織が、他の女を受け入れる事を許すなんて、いったいどれほど苦悩をしたのだろう?』

 

「ぁ…………」

 

『それも1人じゃない…………今で3人。最近じゃリリアーナ王女も怪しい所じゃないか?』

 

「ぅ……………」

 

『所詮君は香織に甘えているだけなんだ。『愛』? 笑わせないで欲しいな』

 

「っ……………」

 

『ステータスは化け物レベルになっても、()は昔と変わらない。『弱い』ままなんだよ、南雲 ハジメ』

 

「…………………」

 

ハジメは遂にドンナーとシュラークを手放して膝を着いてしまう。

心が折れてしまったのだ。

すると、虚像が歩み寄り、項垂れるハジメの頭にドンナーを押し付けた。

 

()は、死んで香織に詫びるべきだ』

 

そう言って虚像はドンナーの引き金に指を掛け………

 

「〝縛光鎖〟!!」

 

その腕が光の鎖に絡めとられた。

 

『これはっ!?』

 

虚像が驚愕の声を漏らした瞬間、

 

「ハジメ君っ!!」

 

『彼女』の声が響いた。

見れば、いつの間にか試練の場に新しい道が開いており、その入り口に杖を構えた香織が立っていた。

 

『香織っ………!?』

 

虚像のハジメがそう漏らした瞬間、凄い勢いで鎖が引っ張られ、繋がれた虚像が振り回された勢いのまま氷壁に激突する。

すると、香織はハジメの下に駆ける。

 

「ハジメ君!」

 

香織はハジメの下に辿り着くと、ハジメに呼びかける。

 

「……………」

 

しかし、ハジメは虚ろな目をしたまま反応しない。

 

『無駄だよ。()の心は折れた。結局()は弱いままだったんだ』

 

「違う! ハジメ君は弱くなんかない!」

 

その言葉に香織は反論した。

 

「ハジメ君は誰よりも優しくて、強い心を持ってる!」

 

『だけど、今の()を見てみなよ。彼はこの試練を超える事ができなかった』

 

虚像は諭すようにそう言うが、

 

「ハジメ君も人間だよ。弱気になっちゃう時や、自暴自棄になる時だってあるかもしれない。だけど、そうなったとしても、ハジメ君はきっと立ち上がる!」

 

香織はハジメへの信頼の言葉を口にする。

 

「立ち上がるまでに、少し時間はかかるかもしれない。だから、その時は私がハジメ君を護る!」

 

『何故そこまで()を護ろうとするの?』

 

虚像がそう問いかけると、

 

「大好きだから………! ハジメ君を愛しているから!!」

 

香織は躊躇わずそう口にする。

 

「…………ッ」

 

ハジメはその言葉に僅かに反応した。

 

「あの時から、私の誓いは変わらない! どんなことがあっても、私はハジメ君の傍にいる! どんな手を使っても、私はハジメ君の傍を離れない! たとえそれが、ハジメ君が望まなかった事だとしても!!」

 

香織はそう言い放つ。

 

「ッ……………!」

 

その言葉に呼応したかのように、ハジメの瞳に光が戻る。

 

『ん?』

 

虚像が軽く驚いた表情を見せる。

その視線の先では、ハジメが立ち上がろうとしていた。

 

「ハジメ君!」

 

それに気付いた香織が嬉しそうな声を上げる。

 

「香織………!」

 

ハジメも応えるように香織の名を呼ぶ。

 

『まだ立ち上がる気力が残っていたか………』

 

虚像はハジメを見据える。

 

「僕はずっと、君に負い目を感じていた…………奈落に落ちたあの日………君を穢してしまったあの時の事…………」

 

「私は、穢されたなんて思って無いよ?」

 

「うん………君はそう言ってくれた………だけど、それは君が優しいから………僕に気を遣ってそう言っているんだと思っていた………」

 

「…………ハジメ君。私、そこまでお人好しじゃないよ。やりたくない事は拒否するし、嫌な事は嫌って言うよ」

 

「そうだね………分かってたはずなのに……僕は………」

 

ハジメは一度目を伏せると、一度天を仰ぐ様に上を向く。

そして、顔を戻して目を開けると、虚像を見据えた。

 

「香織、そこで見てて。今度は負けないから!」

 

「うん。頑張って! ハジメ君」

 

そう言葉を交わすと、ハジメは歩き出して再び虚像と対峙する。

 

『………まだ自分の弱さを認められないのかい?』

 

「…………そうだね。僕は弱い………弱かった………だから、肝心な事を思い出したよ」

 

ハジメはそう言うと、ドンナーとシュラークを発砲。

虚像も同じように発砲し、弾丸を相殺する。

ハジメは空中へ跳び上がり、空力の足場を使って空中を跳び回りながら発砲する。

虚像も同じように空中戦に移行するが、

 

『…………ッ!? 何故……!?』

 

虚像のハジメが狼狽え始める。

先程まではハジメが押されていた筈なのに、今度は互角。

いや、僅かにハジメが優勢に戦い始めていた。

 

『何故僕の力が弱まって………!?』

 

その隙を逃さず、ハジメが先程のお返しとばかりに豪脚の蹴りで叩き落す。

 

『くっ………!?』

 

虚像はすぐに体勢を立て直すと、

 

『お前は自分の過ちを忘れたのか!? 香織を………愛する者を一方的に穢した時の事を……!』

 

「………覚えてるよ………よく覚えてる…………だけど同時に、もう1つ思い出した事がある」

 

『何っ……!?』

 

()は僕を弱いと言った………昔のままの『弱い』自分だと…………その通りだよ。僕は弱かった。本当に弱かった………………当時の香織にも()()()()()()()()()()()弱かった」

 

『ッ!?』

 

「香織が本気で拒絶したなら、そもそも僕が彼女を押し倒せるわけが無かったんだ………それは………曲がりなりにも彼女は僕を受け入れてくれたって事だ………!」

 

その事実に気付いたハジメに、迷いは無い。

撃ち放つ銃弾の連射速度が、ハジメが虚像を上回る。

 

『なっ!?』

 

ハジメの放った弾丸が、虚像の持つドンナーとシュラークを弾き飛ばす。

 

「チェックメイト」

 

最後に放った弾丸が、虚像の胴を撃ち抜いた。

虚像の姿が崩れ、消えていく。

 

「感謝するよ。お陰で大事な事を思い出せた………」

 

ハジメはそう言い残し、背を向けた。

ハジメは、何処か吹っ切れた表情で香織のことろへ歩いて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別の試練の場では、光輝もまた自分の虚像に苦戦していた。

 

『奪われた。だろ?』

 

「違う! 奪われたなんて……」

 

灰色の髪に黒い鎧を纏った虚像の光輝の嘲笑を、荒い息を吐きながら大量の汗を流す光輝が咄嗟に反論する。

 

「香織は最初から南雲のことが……だから、俺は……」

 

『誤魔化さなくていい。俺はお前だ。お前俺のことは誰よりよく分かっているさ。南雲が香織と付き合っているなんて何かの間違い。未だに香織は自分と共にあるべきだと、そう思っている。小学生の頃からずっと一緒だったんだ。中学で出会ったか何か知らないけど、自分の方が長く一緒にいたのに、これからもずっと一緒だと信じていたのに、香織はヒーローである自分のヒロイン()なのに……』

 

「黙れっ。俺は、そんなこと考えてない! 勝手なことを言うなっ。大迷宮の魔物め! 俺は惑わされないぞ!」

 

そう叫びながら光輝は聖剣を振り、無数の光刃を飛ばす。

しかし、虚像の光輝も黒い聖剣を振ると、同じ軌道で黒い光刃が飛ばされ、相殺。

いや、いくつかは黒い光刃が押し勝ち、光輝に襲い掛かった。

 

『動揺が酷いな。せっかく南雲が強化してくれた聖剣も、それじゃあ宝の持ち腐れだよ。それとも憎く妬ましい南雲だからこそ、まともに使いたくないってことかな?』

 

「そんなの関係ない! 俺は、南雲を憎んだりなんて……」

 

『ほらほら、そうやって直ぐに現実から目を背けるから……また俺が強化されてしまったじゃないか』

 

虚像の光輝が特大の黒い光の斬撃を放つ。

光輝は相殺できないと悟ったのか横っ飛びで回避した。

 

『香織だけじゃなくて、ユエ達が南雲を慕っているのも気に食わないんだよな? あんなに可愛くて強くて魅力的な女の子達はヒーローである自分俺と共にあるのが相応しいもんな? 『無能』の南雲なんかを慕うなんて認められないもんな? それに輝二もだ。昔から協調性が無い癖にいつの間にか雫を奪った』

 

「いい加減にしろ! 彼女達は本気で南雲や輝二を……それは彼女達が決めることで……だからっ」

 

『おいおい、一体、どれだけ俺を強化したら気が済むんだ?』

 

自分の闇をただ否定するだけの光輝。

2人の力の差は、最早圧倒的と言っていい。

ステータスで言うなら、既に倍近い差が出ているだろう。

 

「翔け巡れ、〝天翔剣・嵐〟!!」

 

光輝が無数の斬撃を虚像に向けて放つ。

 

『無駄だよ。集え、〝天爪流雨・震〟』

 

だが虚像が放った一条の黒い光の砲撃に全てが蹴散らされた。

そのまま黒い光の砲撃が光輝に向かって突き進む。

 

「っ、阻め、〝光鎧〟!!」

 

光輝は鎧の能力で目の前に障壁を発生させる。

だが、黒い砲撃はその障壁を打ち破って光輝を大きく吹き飛ばした。

 

「ぐわぁ!?」

 

氷壁に激突する光輝。

 

『圧倒したいんだろ? 南雲と輝二達をさ。あいつらを跪かせて許しを請わせたいんだ。それから、香織を取り戻して、ユエ達に好意を向けられて、世界を救って、皆を連れて帰って、称賛を浴びて……』

 

「黙れぇええええっ!!」

 

尚も虚像の言葉を否定する光輝。

その時だった。

 

―――ドクン!

 

脈打つような感覚が光輝の内から感じられた。

その瞬間飛び出す光輝。

 

『何ッ……!?』

 

繰り出された聖剣の一撃を、虚像は黒い聖剣で受け止めるが、その表情には僅かな驚愕が浮かんでいた。

 

「はぁあああああああああああっ!!」

 

再び繰り出される光輝の聖剣の一撃。

 

『くぅぅっ………!?』

 

虚像はその一撃を防ぐが、その時の衝撃で10m近く後退する。

 

『何だ? 俺の力が弱まっている様子は無い………何故……?』

 

虚像が疑問に思う前に、光輝が追撃する。

 

「大迷宮の魔物め! さっきから俺を惑わそうとする言葉を次々と! 俺にはそんなまやかしは通用しない!!」

 

『くっ! 何故だ!? 何故力の差が縮まっている!?』

 

「それは俺が勇者だからだ! 俺は絶対に屈しない! 俺が全てを救って見せる!!」

 

先程まで倍近くあった2人の力の差は既に互角。

いや、僅かに光輝が上回り始める。

 

『馬鹿な!? こんな短時間でこれほどまでの力を!? あり得ない!!』

 

「消えろ! 偽物め!! 俺の心に闇なんか存在しない!!」

 

光輝が限界突破を発動すると共に、聖剣に光が宿る。

聖剣を掲げ、詠唱を開始。

同時に虚像も同じ詠唱を開始した。

 

「『神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!』」

 

長文詠唱による光輝の持つ最大威力攻撃。

 

「『――〝神威〟!!』」

 

同時に放たれる金と黒の魔力砲撃。

それらは互いの中央でぶつかり合い、せめぎ合う。

 

『ぐぐぐ…………!』

 

虚像は余裕のない表情。

だが、

 

「これが俺の…………正義の力だぁああああああああああああっ!!!」

 

光輝の叫びと共に再びドクンと脈動する様な感覚と共に光輝の力が倍増。

黒い閃光を金の閃光が一気に飲み込んだ。

 

『そんな………馬鹿な………!?』

 

虚像は信じられないという表情と共に魔力砲撃に呑み込まれ、消え去った。

砲撃を撃ち終えた光輝は、聖剣を振って鞘に納めると、

 

「そうだ………俺が間違えるはず無い………俺は正義の味方だ………ヒーローなんだ……!」

 

まるで、自分がそうであることを確かめるようにそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

また別の場所では、無事に試練をクリアした輝二と雫が合流していた。

輝二は現在の母親と実の母親との間にある僅かな負い目を。

雫は自分を押し殺して剣術を学んでいた事をそれぞれ虚像に突かれたが、今の2人にその程度の揺さぶりは通用せず、さほど時間を置かずに試練を突破していた。

その2人は共に新たに出来た通路を進む。

その先にある試練の間に辿り着いた2人が見たものは、

 

「な、何……これ………?」

 

雫が思わず呟く。

2人の目の前にあったのは部屋の中央で渦巻く巨大な闇。

そして、その闇の中央に立つ1つの人影。

それを見た瞬間、輝二の表情が驚愕に染まった。

 

「バカな………あれは………!?」

 

そして輝二は口にする。

その存在の名を。

 

「…………ダ……………ダスクモン…………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

 

 

自分の闇と対峙する輝一。

しかし、虚像の言葉で今まで隠してきた事実を告げられた輝一は酷く狼狽える。

そして、彼が闇に呑まれた時、『奴』が再び現れた!

 

 

次回、ありふれたフロンティアへ

 

 

 

第41話 輝一の闇。ダスクモン再び!

 

 

 

今、ありふれた伝説が進化する。

 

 

 

 





はい、第40話です。
休日出勤と消防の走法大会で執筆時間削られて辛いです。
今回はハジメと光輝の試練でした。
ハジメはともかく光輝が勝つとは誰が予想したでしょうか!?
そんでおそらく最後にすべて持っていくであろうダスクモン出現。
実は、メッセージの方でダスクモンの登場を熱望する方がいらっしゃいまして。
どうせなら出してみるかと思い切ってみた次第です。
因みにこれによって輝一には後付け設定が追加されてますので、もしかしたら何処かで矛盾を感じる所が出てくるかもしれませんが、そこの所はご了承を。
まあハルツィナの試練で若干匂わせておいたのが明らかになるのでどうなるかはお楽しみに。
では、次も頑張ります。



P.S:本日は疲れているので返信はお休みします。申し訳ない。
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