ありふれたフロンティアへ   作:友(ユウ)

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第4話 拓也死す!? 残された者達………

 

 

 

 

拓也達は奈落の闇の中を落下していた。

 

「くっ………!」

 

意識を取り戻した爆発の衝撃から意識を取り戻した拓也はハジメ達を見た。

ハジメと香織は、死ぬまで離れないというようにしっかりと抱き合っている。

既に気を失っているのか、動く様子は無い。

 

「如何すれば…………!?」

 

流石にステータスが上がっているとは言え、このスピードで地面に叩きつけられれば命は無いだろう。

 

「くぅぅ……!」

 

拓也は炎を発して辺りを照らす。

そこは両側が切り立った崖になった深い谷。

その崖の所々から地下水が鉄砲水の様に噴き出している。

まだ底は見えないが、時間はあまりないだろう。

 

「ヴリトラモンに進化出来れば………!」

 

かつて自分が進化した姿。

翼を持ち、自由に空が飛べるヴリトラモンになれれば、この状況も容易く乗り越えられる。

しかし、スピリットが無い今では進化する事は出来ない。

拓也がそれでも希望を捨てず、何かないかと目を凝らす。

その時、

 

「……………ッ!?」

 

『それ』が目に入ったのは全くの偶然だった。

拓也の炎が発した光と、拓也の上がったステータスによる動体視力の強化。

そして、死を間近にしたことで引き延ばされた意識の時間。

それらが合わさった事で見つけた僅かな希望。

 

(あれは横穴か!)

 

崖から噴き出した水が反対側の崖まで届いており、そこに横穴が空いていて水が流れ込んでいるようだった。

しかし、今の位置関係からだと、その水の流れに乗る事は出来ない。

 

「ッ…………!」

 

横穴の奥がどうなってるのかは分からない。

もしかしたら、魔物の巣窟かもしれない。

それでもこのまま落ちれば助かる可能性は限りなく低い。

 

「うぉおおおおおおおおおおっ!!」

 

拓也に迷いは無かった。

ハジメと香織の2人をその水の流れの方に押し出す。

ハジメ達がその水の流れの方に押し出されたが、逆に拓也はその反動で離れてしまった。

その直後、ハジメと香織は水の流れに突っ込み、そのまま横穴の奥に流されていく。

しかし、離れてしまった拓也は水の流れに乗る事は出来ず、そのまま崖下に落下してしまった。

 

「ハジメ………香織………無事でいろよ…………」

 

ハジメと香織が助かる可能性が出た事にホッとするのも束の間、拓也は意識を切り替える。

 

「後はこっちを何とかしないと………!」

 

残り時間がどれだけあるか分からないが、拓也は諦めるつもりは毛頭なかった。

 

「ぶっつけ本番だが………行けるか!?」

 

拓也は身体から炎を噴き出すと、背中に集め、あるモノを形作る。

それは翼だ。

ヴリトラモンの翼をイメージした炎の翼。

拓也の背中から炎が広がり、空気を掴もうとする。

しかし、

 

「くそっ! ヴリトラモンの様にはいかないな!」

 

自分自身がデジモンとなり、自分の身体の一部であったヴリトラモンの翼は当たり前の様に動かして飛べていたが、今の炎の翼は拓也のイメージが重要だ。

それ以前に炎自体には実体が無いため、風を掴むのは難しかった。

 

「それでも足掻くしかないだろ!!」

 

拓也は全力で炎を噴き出す。

心無し落下速度が緩くなった気がした。

 

「後は全力で耐えるだけだ!! 〝竜の本能〟全開!!」

 

技能で耐性を限界まで強化する。

理性は吹き飛ぶが、今は耐える事だけが重要だ。

それに、動物には『防衛本能』というものがある。

理性が吹き飛ぼうと自分の命を護ろうとするのは当然の事だ。

拓也の身体がから赤いオーラが噴出し、

 

―――ドゴォォォォォォォォォン!!!

 

盛大な激突音と衝撃が瓦礫を巻き上げながら、谷底に激突した。

瓦礫と共に巻き上がった煙。

それが徐々に晴れて来ると、

岩盤の地面を砕きつつも、五体満足の拓也の姿があった。

しかし、ピクリとも動かない。

 

「……………………」

 

暫く反応は無かったが、

 

「…………ガハッ!? ハァ………ハァ…………!」

 

血を口から吐き出すと共に息を吹き返した。

 

「ぐっ………何とか………生きてたか………?」

 

拓也は気付かなかったが、先に落ちたベヒモスの死骸が衝撃を緩和するクッションになった事も、即死を免れた事の理由の1つだろう。

 

拓也は起き上がろうとしたが、

 

「あぐっ……!?」

 

身体中が悲鳴を上げた。

 

「くそっ………こりゃ骨が折れてるのは1本2本どころじゃないな………」

 

今分かるだけでも両脚、更に左腕もにも激痛が走っている。

他は何処が痛いのか分からない。

既に痛みを通り越している所もあるだろう。

拓也は何とか動く右腕で身体を反転させ、這い始める。

 

「諦めて………堪るかよ………!」

 

拓也は激突した時に出来た窪みから這い出る。

 

「ハジメ………香織………」

 

しかし、ある程度まで這った所で意識が朦朧とし出す。

 

「ッ………ぐっ!」

 

意識を失いかけ、支えていた上半身が地面に倒れる。

その際、拓也の懐からある物が転がり落ちた。

それは、古い携帯電話だった。

最近ではガラケーと呼ばれ、スマホが普及している現在では使う者は少数派だ。

拓也も、最近ではスマホに買い替えてはいるが、この携帯電話だけは使わずともずっと持ち歩いていた。

何故なら、この携帯電話はデジタルワールドの冒険の時、デジヴァイスとなっていた携帯電話だったからだ。

デジタルワールドの冒険は、拓也にとって大切な思い出であり、その思いでの象徴であるこの携帯電話を使わなくなっても捨てるのは忍びなく、お守りとしてずっと持ち歩いていた。

しかし、落下の衝撃の所為か、その携帯電話の液晶画面には罅が入っていた。

拓也はそれを見ると、

 

「………ああ、そうだな………こんな所で諦める訳にはいかない…………大切な『家族』の為にも……………」

 

拓也の脳裏に両親と弟の信也の顔が思い浮かぶ。

 

「……………『仲間』達の為にも……………!」

 

共にデジタルワールドを冒険した、輝二、輝一、泉、友樹、純平の顔が過る。

 

「……………『友達』の為にも…………」

 

ハジメ、香織、幸利らを始めとした、高校で仲良くなった者達の顔が過る。

 

「そして……………『優花』の為にも!」

 

高校に入って、恋人となった少女の顔が思い浮かぶ。

拓也は必死になってその携帯電話に手を伸ばした。

その携帯電話を掴んだ時、拓也の視界が急速に暗くなっていく。

 

「う………ぐ…………ハジメ………香織…………」

 

共に落ちた2人の無事を願う。

 

「輝二………輝一……………」

 

一番信頼している2人の仲間の名を呟き、

 

「………ゆう………か……………」

 

愛する女の名を呟いたのを最後に、拓也の意識は闇に堕ちていく………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、拓也の意識が眼前に闇に堕ちる寸前、拓也の握った電源が入らない筈の携帯電話の画面に、光が灯ったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り、拓也達が奈落に落ちた直後、

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!? 香織!? 香織ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 

雫の悲痛な叫びが響く。

 

「ま、待つんだ雫!? 君まで落ちてしまう!」

 

崖に手を伸ばし駆け出そうとする雫を、光輝が体を張って止める。

 

「邪魔しないで! 香織達が! 香織達がぁっ!?」

 

目の前の現実を信じたくなくて、雫は取り乱している。

 

「拓也ぁっ!」

 

「拓也っ!?」

 

「ハジメぇぇぇぇぇっ!?」

 

輝二や輝一、幸利も落ちていった者達の名を必死に叫ぶ。

そんな彼らの姿を、優花は現実感無くボーっと眺めていた。

 

(………………どうして………拓也が居ないの…………?)

 

心の中で優花は問う。

 

(……………どうして…………拓也は戻って来たはずなのに…………?)

 

ベヒモスという絶望に拓也は立ち向かい、ハジメと共に闇に呑まれそうになるものの、拓也はハジメと共に戻って来た。

 

(その筈なのに……………どうして?)

 

答えは簡単だ。

彼らに向かって魔法を放った者が居たからだ。

 

(………誰が………魔法を撃ったの?)

 

それも優花は見ている。

ほの暗い笑みを浮かべ、詠唱していた『あの男』の顔を…………

 

(…………檜山…………そう檜山よ……………檜山が…………()()()()()()……!)

 

その答えに行きついた瞬間、優花は振り返り、

 

「檜山ァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

全力で檜山の所へ駆け出すと、

 

「ウワアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

感情のままに叫び声を上げながら、気が抜けて間抜け面を晒していた檜山の顔面に拳を叩き込んだ。

 

「ぶぺっ!?」

 

檜山は後ろに倒れ、尻餅を着く。

その行動にクラスメイト達が驚愕し、ざわついた。

 

「な、何すんだ………!?」

 

檜山が叫ぼうとしたが、その前に優花が檜山の胸倉を掴み。

 

「どうして………? どうして拓也達に魔法を撃ったのよ!?!?」

 

涙を流しながら怒りの形相で優花は叫んだ。

 

「な、何言って………?」

 

「私は見てたのよ!! アンタが拓也達に向かって魔法を撃とうとしてたのをっ!!」

 

「ッ!?」

 

優花の言葉に檜山は絶句する。

 

「何で………!? 何で拓也に魔法を撃ったのっ!?」

 

強い口調で問いかける優花。

 

「ひっ!? お、俺は神原を狙ったわけじゃ…………」

 

檜山は慌てて弁明しようとしたが、

 

「魔法を撃ったことは否定しないのね……………?」

 

それを聞いた優花が冷たい目で檜山を見下ろしながら呟いた。

次の瞬間、バァンという音と共に優花が檜山を張り倒した。

今度こそ地面に仰向けに倒れる檜山。

優花は檜山に馬乗りになると、

 

「殺してやる!!!」

 

投擲に使っていたナイフを右手で逆手に持ち、左手で支えながら頭上まで振り上げる。

 

「死ねっ!!!」

 

その手が振り下ろされ……………

 

―――ガッ!

 

横から伸びてきた手に止められた。

 

「ッ!? 邪魔しないで!!」

 

優花は振り下ろそうとした手を止めた人物………輝二に向かって叫ぶ。

 

「…………今は拙い」

 

輝二は落ち着いた声でそう言った。

 

「何で!? こいつが………こいつが拓也を……!!」

 

優花は涙を流しながら訴える。

 

「………気持ちは分かる………俺もすぐにでもこいつを殺してやりたいぐらいだ………!」

 

だが、輝二は優花と同じ気持ちながら、その気持ちを押し殺していた。

 

「じゃあどうして!?」

 

優花は更に問いかける。

 

「……………今ここでこいつを殺せば………皆の心が折れてしまう」

 

「ッ……………!」

 

優花はその言葉にハッとなる。

トラップに掛かり、ベヒモスやトラウムソルジャーの恐怖、更には『死』を間近に突き付けられ、クラスメイト達の心はもう限界ギリギリだ。

ここで更に目の前で実際に『死』を目の当たりにすれば、どうなるのかは想像に難くない。

その中に、優花と特に仲の良い奈々や妙子が居た事も、優花に歯止めをかける原因の1つとなった。

 

「ッ…………………」

 

優花は俯き、ギリッと歯を食いしばりながら振り上げた手を降ろし、ナイフを納めた。

それを見た檜山は、

 

「た、助かっ…………」

 

安堵の息を吐こうとして、

 

「ふんっ!」

 

「ぐぼっ!?」

 

輝二の拳がその腹に突き刺さった。

 

「お前はもう喋るな…………」

 

檜山の余計な一言で優花の殺意が再燃しかねないと判断した輝二は、檜山を殴って気絶させた。

輝二自身の憂さ晴らしも多分に含まれていたが。

その時、メルドが歩み寄って来る。

その後ろでは、気を失った雫を光輝が抱きかかえていた。

雫は先程メルドによって気絶させられたのだ。

光輝は唖然とした表情で輝二達を見ている。

 

「輝二!? 何故檜山を……!?」

 

光輝が問い詰めようとした所をメルドに遮られ、

 

「すまん…………」

 

その一言に色々な意味が込められていた事は輝二も理解できる。

 

「檜山には厳重な処罰を頼む」

 

「……そうだな。こいつのした事は明らかな裏切りだ」

 

残念そうにそう告げるメルド。

それから光輝に向き直ると、

 

「今は脱出が先決だ。いろいろ言いたい事もあるだろうが、皆を引っ張るのがお前の役目だ」

 

光輝は少し迷ったが、

 

「そう………ですね………」

 

何とか自分の役割を全うしようと頷いた。

 

「皆! 今は、生き残ることだけ考えるんだ! 撤退するぞ!」

 

光輝が声を張り上げる。

その言葉に、クラスメイト達はノロノロと動き出した。

気絶している雫を除き、一番ショックを受けているだろう優花は奈々と妙子に支えられながら歩き出す。

クラスメイト達は、長い長い階段を登り切り、そこにあった魔法陣から元の20階層の部屋へ戻る事ができた。

 

「帰ってきたの?」

 

「戻ったのか!」

 

「帰れた……帰れたよぉ……」

 

多くのクラスメイト達はその場で安堵し、座り込もうとするものまで出て来る。

しかし、ここで緊張の糸を切ってしまえば危険は増すだけ。

 

「お前達! 座り込むな! ここで気が抜けたら帰れなくなるぞ! 魔物との戦闘はなるべく避けて最短距離で脱出する! ほら、もう少しだ、踏ん張れ!」

 

メルドは休ませてやりたい気持ちを押し殺して全員に脱出を促す。

全員は必死になって動き続け、何とか全員が無事に脱出する事が出来た。

 

 

 

 

 

その後、ホルアドで一泊した後、一向は王国へ帰還する事となった。

生徒達の心のケアも必要な上、神の使徒の内3人が死亡した事の報告もしなければいけなかった。

メルドが3人の死亡を報告した時、王国側の人間達が愕然とした。

『無能』のハジメはともかく、優秀な治癒師であった香織と、現時点で勇者と同等以上の強さを持っていた拓也が死亡したことは、決して捨て置けることではなかった。

しかも、その最もたる原因が同じ神の使徒である檜山であったことも、王国の人間達を悩ませた。

神の使徒たる勇者パーティーは無敵でなければならない。

迷宮から生還できない者が魔人族に勝てるのかと不安が広がっては困る。

更に内から裏切者が出たという噂が立てば、不信感は募るばかりであろう。

そこでイシュタルや国王を始めとした国の上層部は、暴挙とも言える策に出た。

香織、拓也が死亡したのは、『無能』のハジメが足を引っ張ったからであり、ハジメが無謀にもベヒモスに戦いを挑み、そのハジメを救うために心優しき香織と、勇敢な拓也が命懸けで助けに向かい、橋の崩落に巻き込まれてしまった、という事になったのだ。

檜山の事は、完全に無かったことにされている。

それを聞いて、真っ先に憤慨したのは幸利だった。

 

「ふざけんな!!! 俺達が無事に帰ってこられたのは誰のお陰だ!? ハジメと拓也が2人で必死にベヒモスを食い止めてくれたからだろうが!! 何でハジメが全部悪いみたいな話になってんだ!?!?」

 

それに対し光輝は、

 

「落ち着いてくれ清水。確かに言い過ぎかもしれないが、彼らの言い分も間違いじゃない」

 

そんな事を言ったのだ。

 

「…………は? 何言ってんだお前……?」

 

幸利は、信じられないものを見る様な目で光輝を見た。

 

「だってそうだろう? 南雲が『無能』だったのは確かなんだ。それなのに、南雲は身の程を弁えずにベヒモスに立ち向かっていってしまった。それは事実だ」

 

光輝のその言葉にもう何度目かも分からないカチンと来る幸利。

 

「テメエの目は腐ってんのか!? 俺らの中で一番力のある拓也が、暴走の危険のある技能をギリギリまで開放しても力負けしてた相手なんだぞ!? ハジメの錬成で足を止めて無けりゃ、もっと早く押し切られてたはずだ!! そもそもだ! どうしてあいつらが落ちた最大の原因の檜山がお咎め無しなんだ!? 俺はそれが一番理解できねぇ!!」

 

ドゴンと机を殴りつけながら叫ぶ幸利。

 

「あれは事故だったんだ。ベヒモスが這い上がってくる可能性を考慮して魔法を準備していた檜山の魔法が暴発して偶々拓也に当たってしまっただけなんだ」

 

「そんな言い逃れの戯言を信じたのかよ!? お前は!?!?」

 

「あんなにも必死に土下座して何度も謝ってたじゃないか! 『すまない』、『ワザとじゃないんだ』って………!」

 

「あんな奴の土下座なんて、100万回されても一円の価値もねえよ!! そもそも! 仮にワザとじゃ無いとしても、あいつは3人を崖から落としたんだぞ!? それ相応の罰を与えなきゃおかしいだろ!?」

 

「何て事を言うんだ清水! 同じクラスの仲間じゃないか」

 

「クラスメイトなのは百歩譲って認めるとしても、俺はあいつを『仲間』や『友達』と思った事は一度もねえよ!! 普段のあいつの様子を見てれば、故意にハジメを殺そうとしても不思議じゃねえ!」

 

「今は困難を皆で一緒に乗り越える時なんだ! 『多少』の失敗には目を瞑って………」

 

その瞬間、

 

―――ドゴンッ!!

 

幸利が机を破壊する程の強さで殴りつけたのだ。

 

「………もういい」

 

幸利はそう言って踵を返す。

 

「テメエにとって、ハジメや拓也……白崎が殺された事は『多少』で済む事なんだな………? 俺はそんな奴と一緒に戦う気はねえし、裏切者に背中を預ける気も無い……! 俺はもう勝手にやらせてもらう!」

 

そう言い残すと部屋を出ていく。

 

「清水!?」

 

光輝は声を掛けるが清水は無視して行ってしまった。

 

 

 

 

幸利は、優花の部屋の前に来ていた。

結果を伝えに来たのだ。

優花は戻ってきてからふさぎ込んでおり、奈々と妙子に寄り添われながらこの数日をボーっと過ごしていた。

幸利は、話の結果を伝えるのに躊躇していたが、遅かれ早かれ耳に入る。

ならば自分が伝えた方が良いだろうと判断したのだ。

その話を伝えると、

 

「…………………天之河は………檜山を許したの…………?」

 

「………………ああ」

 

優花の言葉に幸利は頷く。

 

「………何で………? 何で拓也を殺したあいつを許すのよ………!?」

 

「………………」

 

その言葉に幸利は何も言えない。

正確には幸利でも理解できないからだ。

 

「何で……何で…………拓也が居ないのに…………あいつが…………!」

 

優花がギリッと歯を食いしばる。

すると、次の瞬間、フッと優花の表情が抜け落ちた。

 

「…………………もう、如何でもいいわ」

 

そう呟く。

 

「優花っち…………?」

 

奈々が呟くと、

 

「もう、何もかもどうでもいい…………拓也が居ない世界に、未練なんて無いわ………」

 

すると、戦闘で使っていたナイフを取り出す。

 

「拓也………今会いに行くから………」

 

優花がそう言いながら手首にナイフを当て…………

 

「優花っち!?」

 

「やめて!?」

 

「おいっ!?」

 

奈々、妙子、幸利が制止の声を掛けようとして、

 

「バカな事は止めろ!」

 

いつの間にか部屋に入ってきていた輝二が、そのナイフの刃を直に掴んで止めていた。

その手から血が滲む。

 

「…………邪魔………しないでよ………」

 

顔を上げた優花は、その目から涙が止め処なく流れ出ている。

しかし、輝二はそのナイフを離さず、

 

「拓也がそんな事を望むと思っているのか!?」

 

そう強く問いかける。

 

「………………その拓也が居ないの……………怒られてもいい………拓也に会いたい………」

 

優花の切なる願い。

『拓也に会いたい』。

ただそれだけを願っていた。

すると、輝二は息を吸い込み、

 

「俺は拓也が死んだとは思っていない!!」

 

そう強く口に出した。

 

「ッ!?」

 

その言葉に、優花は驚いた様に目を見開く。

 

「あいつが………拓也があの程度で死ぬものか!!」

 

そう叫ぶ輝二の表情は、決して強がりを言っている表情では無かった。

『拓也は生きている』、そう信じている表情だ。

 

「だからお前も生きろ! 拓也が戻って来た時、お前が死んでいたら拓也は悲しむからな」

 

輝二はそれだけ言うとナイフから手を離し、踵を返す。

そしてそのまま部屋を出て行った。

優花は再び視線を落とし、

 

「たく………や…………」

 

再びその目に涙を滲ませた。

 

 

 

 

 

 

 

輝二は手の治療を終えた後、雫の様子を見る為に彼女が眠っている部屋へ向かっていた。

雫は王都のに戻ってきてからの数日間眠り続けている。

医者の話では体に異常はなく、おそらく精神的ショックから心を守るため防衛措置として深い眠りについているのだろうということだった。

輝二はこの数日間、毎日様子を伺いに来ている。

雫の部屋に向かう廊下の、最後の曲がり角を曲がろうとした時だった。

 

―――ガシャーン!

 

「出てって!!!」

 

「お、落ち着くんだ雫……!」

 

何かが割れる音と、雫の怒声。

慌てた光輝の声が聞こえた。

 

「ッ!?」

 

輝二は咄嗟に曲がり角の壁で息を潜め、様子を伺う。

 

「ふざけないで!! 何で香織が崖から落ちたのが南雲君の所為なのよ!? 明らかに悪いのは檜山でしょ!?」

 

「雫……! あれは事故なんだ………!」

 

「事故!? 事故だから何!? ワザとじゃないからお咎め無し? ふざけないでよ!?」

 

悲痛とも言える雫の声。

 

「し、雫……!」

 

「出てって! 出ていきなさいよ!!」

 

―――ガシャーン!

 

再び何かが割れる音が響いた。

すると、雫の部屋の扉が開いて光輝が後ろ髪引かれる表情をしながら出て来る。

扉を閉める前に一度部屋の中の様子を伺うが、仕方なさげに俯いて扉を閉めた。

光輝は輝二が居る方とは反対方向に向かって歩き出す。

しかし、振り向く際に僅かに見えた光輝の表情は、『何で理解してくれないんだ?』と物語っているように輝二には思えた。

 

「…………………………」

 

光輝が完全に立ち去った事を確認して、輝二は雫の部屋の前に歩いてくる。

そして、コンコンと扉をノックした。

 

「出ていきなさいって言ったでしょ!?」

 

光輝と勘違いしたのか、部屋の中から雫の叫び声が響く。

 

「雫、俺だ」

 

輝二は、部屋の中の雫に聞こえる程度の声量で呼びかけた。

 

「ッ………! 輝二…………?」

 

雫は驚いたように声を詰まらせる。

 

「入るぞ」

 

「………………………」

 

返事は無かったが輝二は扉を開け、部屋の中に入る。

そこには、ベッドの上で上半身を起こした雫の姿があった。

部屋の床には食器や花瓶の破片が散乱している。

 

「雫…………」

 

輝二は雫に歩み寄った。

 

「輝二………」

 

雫は今にも泣きそうな声で目に涙を滲ませ、輝二を見上げる。

 

「香織が………香織がぁ…………!」

 

雫にとって香織は一番の親友であり、心の支えでもあった。

その香織を失った雫の心は、今にも砕けてしまいそうだ。

 

「…………………俺は、拓也達は生きていると思っている」

 

輝二はそう口にする。

 

「……………あなたも気休めを口にするの? 光輝も似たような事を言ったわ。光輝の場合は、香織だけは生きていて、神原君と南雲君は死んでたけど……………」

 

雫はふてくされた様にそう言う。

 

「…………そうだな。俺が、拓也達が生きていると思っているのは、拓也への信頼からだ………お前にとっては気休めにもならないだろう」

 

「……………………」

 

雫はその言葉を聞いて俯く。

 

「ならば、気休め程度の俺の考えを教えよう。確かにあの3人は崖から落ちた………その時点で生存率はかなり低いと言っていいだろう」

 

「ッ……………」

 

その言葉で、雫は悲痛な表情になり、

 

「だが、ゼロじゃない」

 

「ッ!?」

 

その言葉でハッと顔を上げた。

 

「谷底に水が溜まっていたり深い川になっていたりして助かったかもしれない。木々が密集していてクッションになって助かったかもしれない」

 

「ッ…………だけど、下に落ちたのならあのベヒモス以上の魔物だっているかもしれない………そうなったら…………」

 

再び顔を俯かせる雫。

 

「俺達の中で近接最強の拓也と、優秀な治癒師の香織が居る。勝てはしなくとも、逃げ延びる事は出来るかもしれない」

 

「逃げ続けたって、体力が尽きたらそれまでよ。迷宮内に安全な場所なんて無いわ………」

 

「安全な場所が無いなら作ればいい。ハジメの錬成ならそれも可能だ」

 

「ッ!?」

 

雫は今度こそ顔を上げた。

 

「迷宮の壁に錬成で穴をあけ、空間を作り、空気の通り道以外の穴を塞ぐ。これだけで安全なシェルターの出来上がりだ」

 

「あ…………可能性は………ある?」

 

「水は魔法で確保できるとして、食糧なんかの問題もあるから、確率はかなり低いと言わざるを得ないが…………必ずしもあり得ない確率じゃ無いと思っている」

 

「ッ…………!」

 

雫の眼に力が戻って来る。

 

「………だったら、こんな所でふさぎ込んでる場合じゃないわね!」

 

雫はベッドから出ると立ち上がろうとした。

しかし、数日間眠りっぱなしだった雫の身体が訛っており、足元がふらつく。

 

「あっ……!」

 

雫が倒れそうになり、

 

「っと!」

 

それを輝二が支えた。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ……ありがとう………」

 

輝二に抱き着く様な形になってしまった雫は顔を赤らめた。

 

「…………輝二は、神原君を探しに行くの?」

 

雫はそう訊ねた。

すると、

 

「………いや、そっちは輝一達に任せようと思っている」

 

「えっ?」

 

輝二の意外な言葉に、雫は軽く驚いた声を漏らした。

 

「お前が眠っている間に決まった事だが、クラスメイト達が無理矢理戦わせられないように畑山先生が、農地改革に全面的に協力する代わりに、戦いに出るのは希望者のみという約束を取り付けた。だが、幸利曰く、畑山先生は敵からすれば勇者以上に厄介な存在なんだそうだ。今後狙われる可能性が高いから、幸利と一緒に畑山先生の護衛に着こうと思っている。そこに優花も連れて行く」

 

「そう。護衛をするついでに優花を檜山や光輝から引き離す事が目的なのね」

 

雫は輝二の考えている事を理解したと言わんばかりに頷く。

 

「ああ。それに、今のあいつから目を離す訳にはいかない」

 

「そうね………優花の場合、私以上にショック受けてるだろうし………」

 

雫は一度俯くと顔を上げ、

 

「私は香織と南雲君、神原君を探すわ。先生と優花の事はお願いね」

 

「そのつもりだ」

 

輝二と雫は見つめ合い、微笑んだ。

それぞれの役目を全力で取り組むために。

 

 

 

 

 

 

一方、恵理は鈴の部屋を訪れていた。

 

「ねえ鈴? ホントに天之河のパーティーを続けるの?」

 

「……………うん。龍君は情に厚いから、多分最後まで光輝君を見捨てないと思うから。だったら私位は傍にいてあげないと」

 

「……………今更だけど、鈴が龍太郎と付き合ってるって聞いたときには、青天の霹靂だったけど、未だに信じられないねぇ………あの脳筋と………」

 

「確かに龍君が脳筋なのは否定できないけど、優しい脳筋だから」

 

「彼氏を脳筋って認めちゃう鈴も鈴だね」

 

「ヤンデレ一直線の恵理ほどじゃないよ。恵理のクソ重い愛を受け止める木村君の懐が深すぎる件について、鈴は戦慄を感じずにはいられないよ」

 

「はっはっは。言うじゃないか?」

 

「恵理の親友だからね」

 

バチバチと火花が散ってもおかしくない言葉の応酬だが、2人は妙に楽しそうだった。

今更だが、龍太郎と鈴は付き合っていたりする。

召喚される少し前に付き合いだしたのだが、それを知るのは恵理を始めとした極僅かだ。

当然光輝も知る由もない。

因みに付き合いだした切っ掛けなのだが、拓也と優花、輝一と恵理、ハジメと香織という身近な人物が次々と恋人同士になり、その甘い空気に当てられ続け、胸やけを起こしそうになった2人が意気投合した事が始まりだったりする。

 

「ははは。それじゃあ親友としては鈴を放っておくわけには行かないなぁ」

 

「えっ………恵理?」

 

鈴は意外そうな声を漏らした。

 

「ボクも一緒に迷宮に潜ると言っているんだ」

 

「で、でも………恵理は光輝君の事嫌いじゃ………」

 

「確かに悪人のボクからすれば、善人の塊とも言える天之河には極力関わりたくないけどね。それを差し引いても鈴を放っておくなんて選択肢はボクの中には無いんだよ。悪人には悪人なりの矜持ってものがあるのさ」

 

「悪人に矜持なんて関係あるの?」

 

「大有りだね。矜持の無い悪人は単なる小悪党さ。檜山を見て見なよ。小悪党の代表みたいな男じゃないか」

 

「あ~、何か納得できるかも?」

 

「だろ?」

 

恵理のセリフに、妙に頷ける鈴。

 

「それに、輝一は拓也達を探すつもりだからね。そのお手伝いも兼ねてさ」

 

「恵理…………カオリン達は生きてると思う?」

 

「さあね。だけど、輝一は生きてるって信じてるよ。だったら、ボクは妻として夫を支えるだけさ」

 

「恵理………」

 

いつもと変わらぬ恵理に、呆れと頼もしさを半分ずつ感じる鈴なのだった。

 

 

 

 

次回予告

 

 

 

奇跡的に助かり、奈落の底で目を覚ましたハジメと香織。

しかし、その場所は凶悪な魔物の跋扈する危険地帯だった。

次々に襲い掛かる危機。

ハジメと香織の運命は!?

 

 

 

次回、ありふれたフロンティアへ

 

 

第5話 奈落の2人

 

 

今、ありふれた伝説が進化する。

 

 

 

 







はい、第4話の投稿です。
スタートダッシュで短期投稿です。
このペースがいつまで続くか分かりません。(これで止まる可能性も無きにしも非ず)
というわけで橋から落ちた拓也達と、クラスメイトサイドのお話でした。
さて、拓也が死んだ? 主人公なのに?
とまあこの先どうなるかはお楽しみに。


あと、唐突に思いついた事なんですけど、ボコモンとネーモンが出ると言ったらどうしますか?
旅について来る同行者として。
という訳で毎度恒例のアンケートです。
投票よろしくお願いします。




ボコモンとネーモンが仲間になりたそうにこちらを見ています。同行しますか? しませんか?

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