ありふれたフロンティアへ   作:友(ユウ)

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第5話 奈落の2人

 

 

 

 

 

ザァーっと水の流れる音がする。

薄暗い洞窟の中に流れる川。

その川の岸辺に2人の男女が抱き合うように流れ着いていた。

 

「…………うっ!」

 

身震いすると共に意識を取り戻した男―――ハジメ。

 

「痛っ~、ここは……僕は確か……」

 

ハジメは身を起こしつつ辺りを見回しながら、ズキズキと痛む頭を押さえながら記憶を掘り起こす。

 

「そうだ……確か、いきなり魔法を撃たれて、拓也が庇って橋から落ちかけて……それで……………ッ! 香織!? 拓也!?」

 

落ちる瞬間の記憶を取り戻した瞬間、共に落ちた2人の事を思い出した。

2人の名を叫びながら周りを見渡そうとして、目の前で倒れている香織に気付く。

 

「香織………! 香織………!!」

 

ハジメは彼女の肩に手を置いて揺さぶる。

 

「…………………う……………ん……………」

 

程なく香織が意識を取り戻した。

 

「香織!」

 

「あ……れ………? ハジメ君………?」

 

香織はボーっとしながら身を起こす。

 

「………………ッ!」

 

それから、少ししてハッとなると、

 

「ここは…………!」

 

香織は慌てて周りを見渡した。

 

「わからない………僕もついさっき目が覚めた所なんだ…………」

 

ハジメはそう言うと、辺りを見渡す。

 

「………そうだ! 拓也君は!?」

 

香織が思い出したようにそう言うと、

 

「近くには居ないみたいだ………無事だと良いけど………」

 

ハジメは心配そうにそう言った。

 

「そう………なんだ………」

 

香織も少し気落ちした雰囲気を見せる。

すると、

 

「ハックション!」

 

ハジメがクシャミをした。

 

「ううっ! 寒っ! 地下水は冷たすぎるや………暖を取らないと…………」

 

「あ、火なら私に任せて!」

 

香織がそう言った。

魔法に適性の無いハジメが火を起こそうとすると、1m以上の大きさの魔法陣を書かなければならないが、治癒師とは言え魔法適性の高い香織なら魔法陣は10cm以下で済む。

香織は手慣れた様子で2分と掛からずに魔法陣を地面に描くと、

 

「求めるは火―――〝火種〟」

 

一小節の詠唱で魔法を発動させた。

 

「………………………」

 

ハジメなら1m以上の魔法陣を書いた上で三小節は詠唱が必要な魔法だ。

改めて自分以外のチート持ちとの差を突き付けられた気分だった。

おまけにハジメだと拳大位の炎………松明程度の火が精々だが、今香織が発動した〝火種〟は、焚火程の炎が燃え上がっている。

その熱量も比べ物にならないだろう。

それはともかく、2人して火に当たるが、

 

「…………お、思ったよりも温まらないね…………」

 

服が塗れている所為で中々温まらない。

2人とも震えが止まらなかった。

 

「やっぱり、服が濡れてる所為かな………服を先に乾かさないと…………」

 

ハジメはそう言うが、ハジメと香織は男と女。

お互いに肌を晒すのは戸惑われた。

因みに、この2人に体の関係はまだ無い。

 

「ぼ、僕が向こうに行ってるから、香織は先に服を乾かしといて」

 

ハジメはそう言って立ち上がろうとした。

 

「だ、駄目だよ! ハジメ君が風邪ひいちゃう!」

 

香織は慌てて引き留める。

 

「だ、だけど、このままだと2人とも風邪ひいちゃうかもしれないし………」

 

ハジメがそう言うと、

 

「い………一緒に温まろ!」

 

香織は顔を赤くしながらそう言った。

 

「えっ? い、いや、でも………!」

 

ハジメは躊躇するが、

 

「私………ハジメ君になら裸を見られても大丈夫だから………」

 

香織の言葉に、今度はハジメが顔を真っ赤にした。

 

「それに、ここが何処か分からないから、単独行動は危ないと思うの」

 

更に続けられた言葉に、ハジメは遭難中だという事を思い出す。

緑光石のお陰で真っ暗ではないが、薄暗い洞窟内は未知の恐怖で一杯だ。

 

「…………わ、わかったよ………その………なるべく見ないようにするから…………」

 

ハジメがそう言うと、互いに背中を向け合いながら服を脱ぎ始めた。

服が擦れる音がハジメの耳に届き、否応なしに香織の姿を想像してしまう。

 

(ううっ……! 煩悩退散、煩悩退散!)

 

ハジメは心の中で念じながら服を脱ぐ。

すると、

 

「ハジメ君、こっち向いても大丈夫だよ?」

 

背中越しに投げかけられた香織の言葉にハッとなる。

ハジメは、遠慮気味に振り返ると、そこには火種の前で体育座りをして体を隠しながらも、恥ずかしそうに頬を染めた香織の姿があった。

 

「ッ………!」

 

下着は付けているが、丸見えの足や腕、肩。

そして、僅かに覗く胸の谷間がハジメの煩悩を刺激する。

 

「ハジメ君………?」

 

香織が不思議そうに首を傾げた。

ハジメはその言葉でハッとなり、

 

「あ、いや、何でも無いよ………」

 

笑ってごまかしながら、ハジメも火種の前に座り込んだ。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

暫く2人で炎を眺めながら黙り込んでいたが、

 

「…………ねえ………ここって何処なのかな………?」

 

香織が不安そうに口を開いた。

 

「多分、大分落ちたとは思うから、65階層よりは下なんだろうけど………」

 

ハジメは分かっている事実からそう言う。

それを聞くと、香織はますます不安そうになってしまった。

それを見て、

 

「大丈夫、きっと大丈夫だ!」

 

ハジメはそう声を掛ける。

 

「やるしかない。なんとか地上に戻ろう」

 

香織を元気づける為に、無理矢理明るい声でそう言った。

 

「ハジメ君………うん!」

 

香織もハジメの強がりだと分かっていたが、自分を励ますために気丈に振る舞っているハジメを見て、自分もしっかりしなきゃと握り拳を作った。

やがて服が乾き、十分に暖を取った2人は服を着ると、行動を開始する事にした。

この階層が何階層か分からないが、迷宮の中である事には間違いないため、魔物に注意しながら先に進む。

ハジメ達が進む通路は正しく洞窟だった。オルクス大迷宮の上層の石造りの四角い通路ではなく、自然のままの洞窟と言った風貌だ。

通路の幅は10mから20m。

上層部とは比べ物にならない。

障害物も沢山あるが、それは逆に隠れる場所も豊富にある為、2人は物陰に身を隠しながら少しずつ進んでいった。

やがて、初めての分かれ道に辿り着いた。

どちらに進むか2人が話し合っていた時、物陰で何かが動いた。

2人が慌てて隠れながら様子を伺うと、そこに居たのは1匹のウサギのような魔物だった。

耳が長く、足が異様に発達している。

赤黒い線がまるで血管のように幾本も体を走り、ドクンドクンと心臓のように脈打っていた。

見ただけでヤバいと判断したハジメは、

 

「あっちの道を行こう………」

 

「う、うん………」

 

ウサギのような魔物が居た方とは別の道に進もうとした。

しかしその時、ウサギのような魔物の耳がピクリと動いた。

2人は一瞬見つかったのかと思ったが、

 

「グルゥア!!」

 

獣の唸り声と共に、2匹の尻尾が2本ある狼のような魔物が現れ、ウサギのような魔物に襲い掛かる。

ハジメは狼に貪り食われるウサギを想像したが、

 

―――ドパンッ!

 

次の瞬間、1匹の狼の頭が弾け飛んだ。

いつの間にか狼の眼前に移動したウサギが、その頭に蹴りを叩き込んでいたのだ。

その光景にゾッとするハジメと香織。

2匹目の二尾狼がバチバチと放電を始めた。

二尾狼の固有魔法だ。

放たれた雷撃を、ウサギは高速ステップで躱していく。

驚くことに、ウサギは空中でも透明な足場を作って跳ね回っていた。

2匹目の二尾狼に肉薄すると、1匹目と同じようにケリが叩き込まれ、二尾狼首の骨が折れた。

 

「マジか…………?」

 

その様子に呆然とする。

ウサギの強さはあのベヒモスですら凌ぐとハジメは直感した。

いくらチート持ちの香織が居ると言っても香織はヒーラーだ。

直接戦闘には向かない。

絶対に勝ち目が無い事を悟り、2人はそっとその場を離れようとした。

しかし、

 

―――カラン

 

そんな音が響いた。

足元の小石を蹴っ飛ばしてしまったのだ。

2人はそっと後ろを振り向く。

ウサギの魔物が2人を凝視していた。

ウサギは身体をハジメ達の方に向ける。

 

「ッ! 香織!」

 

ハジメは咄嗟に香織を押し倒しながらその場から全力で飛び退く。

次の瞬間、ウサギはハジメ達が居た場所に蹴りを叩き込んでいた。

蹴りが叩き込まれた地面が砕ける。

ハジメは咄嗟に石壁を錬成した。

しかし、次の瞬間呆気なく砕かれる。

左腕で咄嗟に顔面を庇い、ウサギの蹴りを受けてハジメは吹き飛ばされた。

岩壁に叩きつけられるハジメ。

 

「ハジメ君!?」

 

吹き飛ばされたハジメに香織が慌てて駆け寄る。

 

「ッ!?」

 

ハジメを見た香織が一瞬絶句した。

ハジメの左腕が、あらぬ方向に折れ曲がっていたからだ。

 

「ハ、ハジメ君ッ……!」

 

香織は咄嗟に治癒しようとしたが、ハジメが右腕で香織の腕を掴み、自分の後ろに引いた。

香織が目を見開く。

すぐそこにウサギの魔物が迫っていたからだ。

ハジメは咄嗟に香織を護ろうとしたのだ。

 

「ハ、ハジメくっ………!」

 

香織の脳裏に先程の二尾狼と同じように弾け飛ぶハジメのイメージが過る。

だが、

 

「…………………ッ?」

 

突如としてウサギは動きを止めた。

更にブルブルと身体を震わせている。

まるで怯えているように。

事実、ウサギの魔物は怯えていた。

右の通路から現れた存在に。

白い毛皮の熊のような魔物だった。

2m程の体躯に長い腕に鋭い爪を持っている。

 

「……グルルル」

 

その熊の魔物が唸り声を上げた瞬間、ウサギの魔物はその言葉通り、脱兎の如く逃げ出した。

先程の2尾狼の雷撃も躱し切ったスピード。

しかし、熊の魔物はその巨体に似合わないスピードでウサギの魔物に追随した。

長い腕と爪でウサギを切り裂かんと振るわれる。

ウサギの魔物は、その一撃をギリギリで躱したかに思えた。

しかし、結果はウサギの身体が斜めに切断された。

それは、熊の魔物の固有魔法。

爪の先から更に風の爪を発生させる魔法だ。

これにより、爪は届かなくとも、風の刃でウサギの魔物は切り裂かれたのだ。

爪熊はウサギの死骸に歩み寄ると、鋭い爪でウサギの死骸を突き刺し、口に運ぶ。

グチャグチャと生々しく響く咀嚼音が、ハジメと香織の恐怖を掻き立てた。

金縛りにあったように身体が動かない。

だが、ウサギを食べ終わった爪熊が、次はお前達だと言わんばかりに2人に振り返った時、

 

「うわぁああああああああああああっ!!」

 

ハジメは反射的に香織の手を掴むと、爪熊とは反対方向に駆け出した。

しかし、数メートルも進まない内にハジメの左側面に強烈な衝撃が襲った。

 

「うわぁっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

衝撃に吹き飛ばされる2人。

2人は壁際まで飛ばされた。

すると、爪熊は『何か』を拾い上げ咀嚼し始めた。

 

「え…………?」

 

ハジメは呆気にとられた声を漏らす。

 

「嘘…………」

 

香織は顔を青褪めさせた。

爪熊が咀嚼しているのは人の腕。

噛み砕かれる寸前に見えた手の向きから分かるのは左腕だという事。

その『何か』とは、ハジメの左腕だった。

 

「あっ……!? がぁああああああああああああああああっ!?!?!?」

 

ハジメが絶叫を上げる。

ハジメの左腕は、肘から先が無くなっていた。

先程の衝撃は、爪熊の風の爪で左腕が切断されたのだ。

 

「いやぁああああああああああっ!?!?」

 

続けて香織が悲鳴を上げる。

 

「ハジメ君!? ハジメ君!!」

 

香織はその左腕を治癒しようと試みた。

だが、

 

「れ、錬成ぇぇぇっ!!」

 

ハジメが後ろの壁に手をついて錬成を発動させる。

すると、後の壁に高さ50㎝程の穴が開いた。

ハジメは香織の手を掴んでその中に押し込むと自分も滑り込む。

 

「錬成! 錬成! 錬成ぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

ハジメは魔力の続く限り奥に奥にと穴を掘り続ける。

ハジメの魔力が尽きて錬成が発動しなくなった時、ほぼ同時にハジメも力尽きた。

 

「嫌っ! 嫌っ! ハジメ君! 死なないで!!」

 

香織はハジメの左腕から流れ出る血を止めようと回復魔法をかけ続ける。

しかし、ハジメは血を流し過ぎている。

ハジメの瞼が閉じられていく。

 

「か、香織…………助けられなくて………ゴメン…………」

 

その言葉を最後に、ハジメの意識が途切れた。

 

「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああっ!?!?!?」

 

香織はハジメの身体に縋り付いた。

暗く狭い洞窟の中に、香織の慟哭が響いた。

 

 

 

 

 

―――ピチョン、ピチョン

 

と、水滴が落ちる音が聞こえた。

 

(…………………生きてる? 助かったの………?)

 

信じられないことに、ハジメが意識を取り戻したのだ。

最初に感じるのは、胸に掛かる重み。

仰向けに倒れているハジメの胸に顔を埋める様に、香織が縋り付いていた。

気を失っているのか動く様子は無い。

 

「………………香織?」

 

ハジメが声を漏らす。

すると、香織がピクリと反応し、ハッと顔を上げた。

 

「……………ハジメ………君?」

 

まるで本物かと問いかける様に香織が声を漏らした。

 

「………うん………」

 

ハジメが頷くと、

 

「…………生き………てる…………?」

 

「そうみたい…………」

 

生きているのが自分でも信じられないハジメはそう答える。

 

「よかった…………でも、どうして………?」

 

香織は涙を浮かべながらホッとするが、同時に疑問も浮かぶ。

周りに流れ出たハジメの血は、明らかに致死量を超えている。

ふと見ると、切断された左腕は肉が盛り上がって血が止まっていた。

 

「傷も塞がってる………?」

 

ハジメもますます意味が分からなくなる。

ハジメが気を失ってまだそれほど時間は経っていない。

香織が回復魔法をかけたが、腕が切断する程の怪我は、今の香織ではそう簡単には治せない筈だ。

その時、天井から零れた水滴がハジメの口に入った。

偶然にもそれを飲み込むと、また少し体に力が戻った気がした。

それを見てハジメがハッとなる。

 

「もしかして、これが?」

 

ハジメは水滴が漏れ出て来る天井を錬成で広げた。

そこには、バスケットボール位の大きさの青白く発光する鉱石があった。

 

「綺麗…………」

 

香織が思わず呟く。

 

「これってまさか………『神結晶』?」

 

「神結晶………?」

 

ハジメの言葉に香織が首を傾げる。

 

「大地に流れる魔力が、千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りによって、その魔力そのものが結晶化したもの。内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出し、溢れ出した液体は『神水』と呼ばれ、これを飲んだ者はどんな怪我も病も治るっていうモノらしいよ………」

 

ハジメは、王宮の図書室で得た知識の中で該当するものを引っ張り出す。

 

「ハジメ君が助かったのも、この石のお陰なんだね…………」

 

香織は感謝する様に神結晶を見つめた。

その時だった。

 

「グォオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

爪熊の咆哮が響いた。

 

「ッ!?」

 

その声を聴いたハジメが、あの時の恐怖を思い出す。

 

「う、うわぁあああああああああっ!?!?」

 

錯乱状態に陥るハジメ。

 

「ハジメ君!?」

 

慌てて香織が寄り添い、宥めようとする。

 

「………あああ………だ、駄目だ………あの目は………僕らを食料としか見ていない……」

 

ハジメの心は折れていた。

ハジメはこう見えても、悪意や敵意に立ち向かう勇気は持っている。

しかし、捕食者が餌に向ける、食物連鎖が上位の者が下位の者に向ける視線。

それに立ち向かう事は出来なかった。

 

「落ち着いて………ハジメ君………ハジメ君ならきっと立ち上がれるから…………私が好きになった、強いハジメ君なら…………」

 

香織は怯えるハジメを包み込む様に抱きしめる。

 

「ああ………! 死ぬっ………殺される…………」

 

「ハジメ君……………」

 

怯え続けるハジメを香織は抱きしめ続ける。

一方、ハジメの心の内は酷く荒れていた。

明らかにハジメが敵わないであろう二尾狼。

その二尾狼を瞬殺し、ハジメの左腕を砕き、更に見下したウサギ。

そのウサギを歯牙にもかけず、更にハジメの左腕を食った爪熊。

その全てがハジメの心を折っていた。

本能が悟っている。

自分は唯の食われるモノだと。

そして今、いつ食われてもおかしくない状況だ。

そんな死を目前にした時、ハジメが………いや、生物が持つある本能が活性化する。

 

「はぁ………はぁ………」

 

(死ぬ………死ぬ…………間違いなく死ぬ………!)

 

(苦しい………! 体の奥が疼く………! この苦しみから逃れる為には如何すればいい?)

 

(何かが体の中で渦巻いて…………くそっ………吐き出さないと身体が破裂しそうだ……)

 

(どうすればいい? どうすれば『コレ』を吐き出せる?)

 

(いや、僕は知ってる…………どうすればいいのかを知っている…………丁度いい『穴』もここにある)

 

「えっ………? ……メ君…………? きゃっ!? ハジ……!? どう……!?」

 

(ああクソ………『穴』が布で隠されている…………全部はぎ取らないと…………)

 

「ハ………ん!? 待……! おね……! 正……戻って!」

 

(よし………邪魔な布ははぎ取れた…………後はさっきから昂っている『コレ』を『穴』に………)

 

「ハジ……!? ………待っ…! 私………こ…な形で……て………!」

 

(入れる!)

 

「あぐっ………!? あぁあああああああああああああああああああっ!?!?」

 

(ああ…………暖かくてホッとする…………もっと、もっとこの暖かさを感じたい)

 

「………………ひぐっ!? い、痛………! ………メ君っ!? も…………くり……!」

 

(もっとだ………もっと…………!)

 

「…………あっ!……………………………っく…………………ん……………激し…………………」

 

(もうすぐだ…………もうすぐで体の中の渦巻くモノを吐き出せる)

 

「あっ…………………ふ、膨らんで……………………ハ………………ま………………外に……………!」

 

(全部…………この『穴』の中に…………!)

 

「あっ………………あああああああああっ………………………な、中…………………出て………………熱……………………!」

 

(はぁ…………はぁ………………まだだ…………まだ出し足りない…………! この疼きが収まるまで、何度でも……………)

 

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「……………ハジメ…………君…………………」

 

唐突に、ハジメの耳に『彼女』声がの聞こえた。

 

「ッ!?」

 

その声で、ハジメは我を取り戻す。

 

「かお…………り……………?」

 

『彼女』はハジメの前で仰向けに倒れていた。

 

「よかった…………いつものハジメ君だ…………」

 

『彼女』はハジメを見上げながら、安心した様に微笑む。

ただし、一糸纏わぬ姿で……………

その肌を白濁に汚して……………

 

「あ……………うあっ………………」

 

ハジメは思い返す。

自分は一体何をしていた?

『彼女』に何をしていた?

いや、全て分かっている。

自分がさっきまでやっていた事なのだから。

即ち、

 

―――自分(ハジメ)が、『彼女(香織)』を『汚し』た

 

「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

ハジメの叫びが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………」

 

「…………………………………」

 

暫くして、2人は背中を向けながら身形を整えていた。

 

「…………………ごめん」

 

ハジメは唐突に謝罪の言葉を口にする。

 

「ッ…………気にしないでハジメ君。ちょっと理想とは違っちゃったけど………嫌じゃなかったから…………」

 

香織は紛う事なき本音で答える。

 

「ッ………………!」

 

それでもハジメは自分を許せなかった。

彼女を護らなければいけない自分が、あろうことか彼女を傷付けた。

それも、極限状態の性欲に呑まれたという最低な理由で。

 

(………………どうすればいい? どうすれば彼女に償える………?)

 

ハジメは考えを巡らす。

 

(………………そうだ。彼女を安全な場所まで連れて行こう。それから…………)

 

そしてハジメが出した答えは、

 

(彼女の前から消えればいい…………!)

 

悲痛な決意だった。

 

「………………ハジメ君?」

 

黙り込んだハジメに、香織が心配そうに声を掛けた。

すると、ハジメが笑みを浮かべて振り返り、

 

「…………大丈夫だよ、香織………………君は必ず…………安全な場所に送り届けるから………………」

 

安心させるような優しい声で………

しかし香織には、その言葉が自分を突き放す様に聞こえた。

 

「ハ、ハジメ………君…………?」

 

困惑する香織。

すると、

 

「まずはこの飢餓感を何とかしないと…………神水のお陰で死にはしないと言っても空腹で頭が回らない…………!」

 

そう考えをめぐらす様に呟くハジメ。

それから窪みを作って溜めてある神水に目をやると、

 

「一か八かだけど…………これしかないかな…………?」

 

ハジメは1つの方法を思いついた。

 

 

 

 

ハジメが考えた方法とは、魔物を食べる事だった。

座学で魔物を食べると身体がバラバラになって死ぬという話を聞いたが、神水があればワンチャン可能かもしれないと思い至ったのだ。

ハジメは自分を囮に二尾狼を誘い込み、錬成で作った落とし穴に落として何とか仕留める事に成功する。

もちろん香織には危険すぎるという事でお叱りを受けたが。

二尾狼の生肉を前にする2人。

 

「ねえ、ハジメ君………本当に食べるの………?」

 

「……………うん。どちらにしても、食べなければその内気が狂って終わるだろうしね」

 

ハジメはそう推測する。

神水のお陰で生き永らえてはいるが、空腹感と飢餓感を何とかしなければ、その内精神が限界に達するだろう。

 

「僕が先に食べるから、香織は僕の様子を見てから…………」

 

「ううん。私も一緒に食べるよ。ハジメ君が死んだら、私も生きていられない。生きる時も、死ぬ時も、一緒だよ!」

 

「…………………………」

 

その言葉にハジメは気まずそうに目を逸らす事しか出来なかった。

しかし、香織が本気だという事は分かる。

いい出したら聞かないという事も。

ハジメは溜息を吐き、

 

「分かったよ………一緒に食べよう………」

 

ハジメが折れた。

すると、香織が火の魔法を唱える。

 

「酷い臭いだけど………生で食べるよりはマシだと思うから………」

 

血生臭い臭いが辺りに充満する。

ハジメが錬成で作ったコップで神水を掬い、それぞれの肉の横に準備する。

 

「じゃあ、いただきます」

 

ハジメがパンッと手を合わせ、肉を掴んで被り付く。

香織も一瞬躊躇したが、思い切って被り付いた。

 

「うっ……! やっぱり不味いな………!」

 

肉を咀嚼しながら顔を顰めるハジメ。

ある程度噛んだところで、神水で無理矢理流し込んだ。

香織も口に手を当てながら飲み込む。

そして神水を飲んだ。

すると、

 

「うっ…………ぐっ…………!? ぐあああああああああああああああっ!?!?」

 

ハジメが苦しみの声を上げた。

 

「ハ、ハジメくっ………!? いぎっ……!? あがぁあああああああああああああああっ!?!?」

 

慌ててハジメを支えようとした香織だが、香織にも激痛が襲い掛かる。

 

「あがっ!? お、治まらな…………がぁああああああああああああああああああっ!?!?」

 

追加で神水を飲むが、一向にハジメは収まらない。

 

「ハ、ハジメくっ…………!?」

 

すると、香織が激痛の中這ってハジメに近付いてきた。

そして、ハジメに魔法をかけ始めた。

痛みを和らげる魔法だ。

神水を飲んでも治らないなら、香織の回復魔法でも結果は同じだと判断し、ハジメの苦しみを少しでも和らげようとしたのだ。

 

「か、かおり……………僕じゃなく………自分を…………」

 

ハジメは少し痛みが軽くなった事による僅かな余裕でそう口にする。

しかし、香織はハジメに魔法をかけ続けた。

 

(…………やっぱり、香織は強いな…………)

 

ハジメはそう思った。

やがて、2人に変化が訪れた。

まず、髪が白くなった。

更にハジメは背が少し伸び、175cm程に。

香織は体付きがより女らしく、胸が大きく、腰が括れ、臀部も大きすぎず小さすぎないバランスの良い肉付きになる。

暫くして、静寂が訪れた。

2人は地面に倒れている。

 

「…………ハジメ君………生きてるよね…………?」

 

確かめる様にそう問いかける香織。

 

「………うん…………何とかね……………」

 

ハジメが頷くと、2人はゆっくりと身体を起こし始めた。

そしてお互いに顔を合わせあうと、お互いの変化に目を見開く。

 

「ハジメ君………?」

 

「香織………?」

 

互いに髪が白く、眼が赤い。

 

「魔物肉を食べた影響かな………?」

 

香織が首を傾げ、

 

「そうだ。ステータスプレート………!」

 

ハジメは自分のステータスプレートを取り出し、確認した。

その内容は、

 

 

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:8

 

天職:錬成師

 

筋力:90

 

体力:250

 

耐性:90

 

敏捷:180

 

魔力:400

 

魔耐:400

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解

 

 

 

 

ステータスが爆上がりしていた。

 

「なんでやねん」

 

思わずツッコミを入れるハジメ。

香織もハジメに倣ってステータスプレートを確認した。

 

 

白崎香織 17歳 女 レベル:20

 

天職:治癒師

 

筋力:150 

 

体力:200

 

耐性:300

 

敏捷:200

 

魔力:600

 

魔耐:600

 

技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇] [+複数同時発動]・光属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇]・高速魔力回復[+瞑想] ・魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解

 

 

 

 

 

こちらもステータスが上がっている。

 

「すごい…………ステータスが倍以上になってる…………」

 

香織が驚きの声を漏らした。

 

「魔力操作…………」

 

ハジメが呟き、手を地面に置く。

すると、詠唱せずに錬成が発動し、地面が変形を始める。

 

「ハジメ君………それって…………」

 

「………魔物を食べたから………魔物の特性を手に入れたって事かな………?」

 

試しに香織も魔法を発動してみると、詠唱無しで魔法が発動した。

 

「それに、〝纏雷〟…………二尾狼の固有魔法かな?」

 

ハジメは二尾狼の雷撃をイメージすると、その手にバチバチと電撃が奔る。

 

「ッ……出来た! この感じだと、イメージが大事って事みたい」

 

ハジメは更に〝胃酸強化〟に視線を移した。

 

「……………これが僕の思った通りなら…………」

 

ハジメは、残っていた二尾狼の肉に齧りつく。

 

「ハジメ君!?」

 

もう一度あの激痛に苦しむのかと香織は驚いたが、ハジメは痛みに苦しむ様子は見られない。

 

「……………どうやら大丈夫みたいだね」

 

ハジメの思った通り、〝胃酸強化〟は魔物の肉を食べても平気になるようだ。

ハジメは残りの肉を平らげ、腹を満たす。

それを見て香織も肉を食べる事にした。

 

 

 

 

それからハジメは、新たに派生技能として出た[+鉱物系鑑定]で、周辺の鉱物を片っ端から鑑定し始めた。

その中で見つけた燃焼石という鉱物を見た瞬間、ハジメは閃いた。

鉱物鑑定で見た燃焼石の説明は、

 

 

燃焼石

 

可燃性の鉱石。点火すると構成成分を燃料に燃焼する。燃焼を続けると次第に小さくなり、やがて燃え尽きる。密閉した場所で大量の燃焼石を一度に燃やすと爆発する可能性があり、その威力は量と圧縮率次第で上位の火属性魔法に匹敵する。

 

 

 

つまり火薬の代わりが出来るのではないか、と。

火薬があるのなら、『アレ』が作れるかもしれない。

ハジメは早速作成に取り掛かった。

何百回、何千回と試行錯誤を繰り返す。

香織も鉱物を運ぶ手伝い位しか出来ないが、懸命にハジメを支えようとした。

そしてついにその努力が実を結び、ハジメはとある一つの傑作を作り出した。

それはリボルバー式の大型拳銃。

しかも、〝纏雷〟を使用する事でレールガンとなって桁違いの威力を発揮する。

その威力は、あの蹴りウサギの頭を破裂させるほどだ。

ハジメ達は、その蹴りウサギの肉を食べ、更なるステータス強化と持っていた天歩と派生技能の取得に成功する。

そしてハジメ達は、爪熊と戦う事を決意した。

一度心を折られた相手。

ハジメは、爪熊を倒さなければ前には進めないと判断したのだ。

 

「グォオオオオオオオッ!!」

 

ハジメ達の目の前で爪熊が咆える。

 

「やあ、僕の腕は美味しかったかい………? お代を頂きに来たよ…………君の命を!」

 

ハジメは『ドンナー』と名付けたリボルバー式拳銃を向ける。

爪熊は、ハジメに向かって腕の爪を振るおうとして、

 

「〝縛光鎖〟!!」

 

両腕、両脚、更に首に光の鎖が巻き付いた。

 

「ハジメ君は私が護る! 今度こそ!」

 

香織が叫んだ。

香織のステータスが上がった事で、魔法の威力も上がっている。

それでも爪熊の方が格上で、本気を出せば数秒も持たない拘束だが、それだけで十分だった。

 

「油断し過ぎだよ」

 

ハジメがドンナーを向ける。

 

「さよならだ」

 

引き金を引いた。

電磁加速された弾丸が放たれ、爪熊の額を貫く。

あれ程までにハジメ達に恐怖を植え付けた爪熊はあっさりと倒された。

 

「……………これでやっと進める…………脱出への第一歩を…………」

 

それを見て、ハジメはそう呟く。

その言葉は、希望に満ちたものの筈だ。

しかし、

 

「……………ハジメ君………………」

 

ハジメを見ていた香織には、どうしようもない不安感が過るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

 

奈落の迷宮を進むハジメと香織………

上へ戻る道は無く、下へ下へと進んでいく。

しかし、2人が地下50階に辿り着いた時、そこには運命とも言える出会いが待っていた!

 

 

 

次回、ありふれたフロンティアへ

 

 

第6話 金色の吸血姫

 

 

今、ありふれた伝説が進化する。

 

 

 

 






はい、第5話の投稿です。
スタートダッシュ2です。
ハジメが魔王化しない理由はこんな感じになりました。(理由になってない?)
ハジメが香織を○○○してその罪悪感で………って感じです。
まあ、曲がりなりにも孤独じゃ無かったので。
にしても爪熊を瞬殺してしまった。
でも、拘束系の援護があればこんなもんじゃないかなぁ?
因みに拓也の行方はまだ秘密です。
お楽しみに。

ボコモンとネーモンが仲間になりたそうにこちらを見ています。同行しますか? しませんか?

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