ありふれたフロンティアへ   作:友(ユウ)

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第7話 最後の試練

 

 

ユエを仲間に加えたハジメ達は、順調に迷宮の攻略を進めていた。

現在は、他の生物に花を寄生させ、意のままに操るという特性を持った、アルラウネのような植物型モンスターが居た階層だ。

ユエが寄生され、操られる事態になってしまったが、香織が一瞬のスキを突いて縛光鎖でユエを一本釣りの様に確保。

直後にハジメがエセアルラウネを撃ち抜いた。

断じて、何処かの誰かのように「私の事はいいから、撃って!」と言われて「え? いいのか? 助かるわ」と躊躇わずに撃てるような精神構造はしていない。

そのボスエリアでシェルターを作り、今日の寝床としていた。

しかし、やはりそのシェルターは男女別で区切られており、ハジメは1人で寝ている。

そして、香織はユエと2人きりで過ごしていたのだが、この日、香織はある事をユエに訊ねる事にした。

 

「……………ねえ、ユエ………?」

 

「ん………何、香織?」

 

香織の問いかけに、首を傾げて聞き返すユエ。

 

「……………………ハジメ君の事…………好き?」

 

「ッ…………!? それは………………」

 

ユエは一瞬目を見開き、申し訳なさそうに視線を落とす。

しかし、すぐに真っ直ぐに香織と見つめ合うと、

 

「………………好き」

 

頬を染めながらそう答えた。

 

「…………そう。やっぱり…………」

 

その答えに、香織は怒るでも驚くでもなく、淡々と現実を受け止めた。

 

「………………でも、ハジメは香織の事を………………」

 

ハジメはユエの前で香織を『恋人』とは言っていない。

しかし、ハジメが香織の事を大切に思っている事は、見ているだけで分かった。

 

「うん………そうだね。これでもハジメ君の『恋人』だから…………」

 

「……………やっぱり、そうなんだ…………」

 

香織の言葉に、納得はしても、悲しみの表情を浮かべるユエ。

 

「…………………………ねえユエ? もし私がハジメ君と一緒に居てもいい、って言ったらどうする?」

 

香織はそう問いかけた。

 

「ッ……!? 香織?」

 

その言葉にユエは驚いた表情をする。

 

「私は……………ユエなら構わないと思ってる。ユエならハジメ君を裏切らないから………!」

 

何かを決意した表情でそう言う香織。

 

「私がハジメを裏切るなんて事、絶対に無い………!」

 

改めて表明する様にそう口にするユエ。

すると、

 

「…………………だからユエにお願いがあるの……………ハジメ君を、私から離さないで……………」

 

切なる願いの様に、香織は声を絞り出した。

 

「? どういうこと?」

 

意味が分からなかったユエは首を傾げて聞き返す。

そこで香織は、今まで話していなかった所をユエに話した。

橋から落ちて奈落に流れ着いた後、魔物に襲われ、半死半生で逃げ延びたが、ハジメは極限状態の中で正気を失い、香織を襲ってレイプした事を。

 

「だからハジメ君は、この迷宮を脱出したら、私の前からいなくなるつもりだと思う…………私は別に気にしてないんだよ? ロマンチックな雰囲気からそうなる事を想像してたから、理想とは違っちゃったけど、ハジメ君が私を求めてくれた事は純粋に嬉しく思ってる。それに、あの時は身体能力も私の方が圧倒的に強かったから、拒絶しようと思えば簡単に出来た。でも、あの時のハジメ君は、本当に壊れそうだったから、私の体で慰められるなら、それでもいいって思った。だけど、それが逆にハジメ君に罪悪感を植え付けちゃって………」

 

香織は理由を話す。

 

「だから、ユエにはハジメ君を繋ぎ止める為の『鎖』になって欲しい。正妻だってユエの物でいい。ハジメ君を私から離さないで!」

 

懇願する様にそう言った。

ユエは香織をジッと見つめると、

 

「……………私が香織を置いてハジメについて行けばいい、とは考えないの?」

 

そう聞く。

すると、

 

「……………それは、ユエは私に負けを認めるって事で良いんだね?」

 

香織は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。

 

「ッ………? どういう……………」

 

「ハジメ君は、私を大切に思っているからこそ私から離れようとしてるんだよ? 私を置いてハジメ君について行ったところで、ハジメ君の一番は私であることに変わりはないし。そんな状況でユエは満足できる? 一番近くにいるのは自分なのに、好きな男の人が遠くにいる女を想い続けているなんて…………」

 

香織は勝ち誇るような表情で言う。

 

「ッ………! 小娘がよく言う……!」

 

実際には相当年上なユエがムカッと来たのか軽く睨み付ける。

 

「ハジメ君との時間は、私の方が長いよ」

 

香織はニコニコと笑いながらその威圧を受け流した。

 

「面白い………お前の目の前でハジメを奪ってやる………!」

 

「出来るものならね………!」

 

2人の間に妙な絆が生まれた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから迷宮の攻略は続き、ハジメ達が流れ着いた場所から数えて100階層目。

現在のハジメと香織のステータスはこうなっている。

 

 

 

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:76

 

天職:錬成師

 

筋力:1560

 

体力:1780

 

耐性:1450

 

敏捷:1350

 

魔力:2860

 

魔耐:2860

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

 

 

 

 

 

 

白崎香織 17歳 女 レベル:76

 

天職:治癒師

 

筋力:1330

 

体力:1680

 

耐性:1410

 

敏捷:1230

 

魔力:3250

 

魔耐:3250

 

技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇] [+複数同時発動] [+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少] [+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・光属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇] [+持続時間上昇][+連続発動] [+複数同時発動][+遅延発動]・高速魔力回復[+瞑想] ・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地] [+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

 

 

 

 

 

 

 

順調にステータスを伸ばしていき、一階層目の頃とは比べ物にならないぐらい強くなった。

しかし、惜しむらくはハジメ、香織、ユエの3人とも魔法系の後衛が得意なようで、前衛が心許ない事だろうか?

一応近距離用の技能を持っているハジメが前に出ているが、ステータスの伸びからすると、後衛に立って援護するタイプの人間だろう。

ハジメ達が100階層に降りると、そこは今までとは雰囲気がまるで違っていた。

その階層は、規則正しく一定間隔で並んだ柱で支えられた広大な空間だった。

壁や床、天井もレンガのように長方形に切り出された石材で綺麗に舗装されていて、何処かの神殿の内部の様な雰囲気を感じさせる。

道なりに200mぐらい進むと、突き当りが見えて来て、そこに巨大な両開きの扉が見えた。

 

「……これはまた凄いな。もしかして……」

 

「……反逆者の住処?」

 

ハジメがその扉を眺めながら呟き、ユエがそう予想する。

 

「そうだとしたら、やっとゴールって事だね。だけど気を付けて。こういう場合は必ず最後の門番が居るのがお約束だから」

 

「……んっ!」

 

「わかったよ」

 

ユエも香織も覚悟を決めた表情で扉を睨みつける。

そして、3人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

その瞬間、扉とハジメ達の間30m程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

「この大きさ!? 予想以上だ!」

 

「……大丈夫……私達、負けない……」

 

魔法陣を見て戦慄するハジメに、ユエが表情を崩さずハジメの手を握った。

魔法陣が光を放ち、その中から魔物の姿が露になる。

それは、体長が約30m、色違いの6つの頭と長い首を持つ大蛇。

赤、青、緑、黒、黄、白の6色。

 

「「「「「「グルァァァァァァァ………!」」」」」」

 

唸り声を上げる6つの首。

すると、赤い鱗を持つ大蛇の頭が口を開き、その口から火を吹いてきた。

 

「“聖絶”!」

 

香織が結界でその炎を防ぐ。

続けて青、緑の頭がそれぞれ氷、風のブレスを放ってくるが、それも香織の結界を破ることはできない。

その時、両側からハジメとユエが飛び出し、

 

「はぁっ!」

 

お返しとばかりにハジメがドンナーを数発発砲。

赤と青の頭を怯ませる。

 

「“凍雨”………!」

 

ユエが氷の刃を無数に降らせ、翠の首に無数に突き刺さった。

 

「よし、攻撃は通じる!」

 

50階層に出てきた巨大蠍の様に理不尽な防御力を持っていないことに安心し、続けて攻撃を仕掛けようとした。

しかし、

 

「グルァァァッ!」

 

白い頭が鳴くと、白い光が傷付いた頭達を包み、傷付いた頭を癒していく。

 

「白は回復役!?」

 

ハジメが叫ぶ。

 

「だったら! 白いのを先にやれば!」

 

ハジメは狙いを白い頭に変更し、引き金を引く。

所が、その前に黄色の頭が立ちはだかり、コブラの様に横幅を広げ、ハジメの攻撃を受け切った。

その傷も、他の頭の傷よりも小さい。

 

「黄色は盾役ってこと!? 攻撃に盾に回復ってバランスが良すぎるでしょ!」

 

ズルイと言いたくなるような隙の無い能力にハジメは愚痴る。

しかし、文句を言ってもやるしかない。

 

「ユエ! 援護をお願い!」

 

ハジメは盾役を掻い潜って白を仕留める為にユエに援護を頼んだ。

 

「んっ!」

 

ユエは頷いて魔法を放とうとして…………

黒の頭の眼が怪しく輝いた。

その瞬間、

 

「……あっ……ああぁぁあ………」

 

ユエの様子がおかしくなり、

 

「嫌ぁあああああああああああああっ!?!?」

 

悲痛な悲鳴を上げた。

 

「ユエッ!?」

 

ハジメがユエに喰らい付こうとした黒い頭にドンナーを放ってそれを止める。

見るからに様子がおかしいユエを見て、

 

「香織! ユエをお願い! 多分、何かしらのバッドステータスを受けてる!」

 

ハジメはそう直感して香織に呼びかけた。

 

「うん!」

 

ハジメの援護を受けながら香織が縮地でユエの下へ辿り着く。

 

「ユエッ!」

 

香織が呼びかけても、ユエは正気に戻らない。

 

「ッ………〝万天〟!」

 

香織は、状態異常を回復させる魔法をユエに掛けた。

 

「ッ……!? はっ!」

 

ユエの瞳に光が戻り、我を取り戻した。

 

「ユエ! 大丈夫? 私が分かる?」

 

「か……香織………?」

 

「一体何があったの………?」

 

香織が問いかけると、

 

「……よかった……見捨てられたと……また暗闇に一人で……」

 

ユエが安心した様に目に涙を浮かべた。

 

「私達に見捨てられる幻覚を見せられたって事?」

 

ユエがコクッと頷く。

その表情は、泣きそうで不安そうだ。

それを見て、

 

「………ユエ、そんなんじゃ私からハジメ君は奪えないよ」

 

「ッ!?」

 

ユエはハッと顔を上げた。

 

「前に私の目の前でハジメ君を奪ってやるって言った気概は何処に行ったの?」

 

更に香織は呼びかけた。

 

「香織………」

 

「幻覚位で落ち込んでるユエに私は負ける気はしないよ」

 

「ッ…………!」

 

その言葉でユエの瞳に力が戻る。

 

「……………舐めるな………!」

 

ユエが口を開く。

 

「みっともない所を見せた。もう大丈夫」

 

ユエは不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。

それを見て、香織は微笑みを浮かべた。

ユエは駆け出す。

 

「ハジメ! もう大丈夫!」

 

ハジメに向かって叫びながら、ヒュドラに向かって魔法を放つ。

それを確認したハジメは頷き、

 

「シュラーゲンを使う! 援護をお願い!」

 

「任せて!」

 

そう言って戦う前に脇に置いておいた新しい武器を取りに行く。

 

「〝緋槍〟! 〝嵐帝〟! 〝凍雨〟!」

 

ユエは次々と上級魔法を放つ。

苦しむ声を上げるヒュドラ。

すると、再び黒い頭の眼が怪しく光った。

ユエの視界に再び独りぼっちになる光景が映る。

だが、

 

「………この程度の幻覚は、もう効かない!」

 

ユエは自らの精神力でその幻覚を振り払った。

攻撃を続け、黒い頭を吹き飛ばす。

しかし、その黒い頭が今度はハジメに向いた。

ハジメの心に不安が沸き上がり、

 

「〝万天〟!」

 

その効果を発揮する前に香織によって無効化された。

そのままハジメはドンナーを発砲して黒頭を吹き飛ばす。

そして、布で包んであるシュラーゲンを手にし、その布をはぎ取った。

対物ライフル『シュラーゲン』。

理論上はドンナーの10倍の威力を誇る武器。

ハジメは銃口を白頭に向ける。

すると、黄頭が白頭を庇うように横幅を広げた。

だが、

 

「無駄だよ。纏めて撃ち抜くから!」

 

ハジメは引き金を引いた。

その弾丸は一直線に黄頭に向かい直撃。

破裂させるように粉砕した。

しかも、弾の威力はまだ生きている。

黄頭を貫いた弾丸は、そのまま白頭を。

更についでとばかりに黒頭をも粉砕した。

3つの頭を同時に失ったヒュドラは動揺したかのように鳴き声を上げる。

そして、

 

「〝天灼〟」

 

ユエが放ったのは雷系の最上級魔法。

6つの放電する雷球がヒュドラを取り囲み、それぞれの球体を繋ぐ様に放電し、その中央に巨大な雷球を作り出した。

中央の雷球が弾け、6つの雷球が取り囲んだ範囲内に雷撃を撒き散らした。

断続的に焼かれ続けるヒュドラ。

もし白頭が無事であれば、何とか回復が追い付いて耐えきる事が可能だっただろう。

しかし、白頭が居ない今、それに耐えきる事は不可能だった。

10秒以上続いた最上級魔法に為すすべもなく、残った3つの頭は断末魔の悲鳴を上げながら遂に消し炭となった。

すると、ユエが魔力枯渇で座り込む。

流石に最上級を発動し続けるのは辛かった様だ。

それでも右手を上げ、ハジメにサムズアップする。

ハジメもそれ見て微笑んだ。

しかし、

 

「ハジメ君っ!?」

 

最初に気付いたのは香織。

 

「ッ!?」

 

ハジメもその声で気付いた。

6つの首を失ったヒュドラの身体から7本目の首………銀の頭が現れた事に。

新たに現れた銀の頭は、他の頭とは違う威圧感があった。

その目が一度ハジメを捉え、続けてユエに視線を移したかと思うと、その口からいきなり極光を放った。

ユエは魔力枯渇で動けない。

 

「ユエッ!?」

 

ハジメは咄嗟に動こうとするが、僅差で間に合わない。

だが、

 

「〝聖絶〟っ!!」

 

縮地で間一髪ユエの前に立ちはだかり、聖絶で極光を防ぐ。

しかし、

 

「防ぎっ………切れないっ………!?」

 

極光の威力は今までのヒュドラのブレスとは威力が桁違いだった。

香織の聖絶に見る見るうちに罅が広がっていく。

 

「香織っ! ユエッ!」

 

2人の前にハジメが立ちはだかる。

その直後に聖絶が破られた。

ハジメは咄嗟にシュラーゲンを盾にする。

極光に飲み込まれるハジメ達。

少しして極光が収まると、そこには全身を焼け爛れさせたハジメの姿があった。

力尽きて倒れるハジメ。

 

「「ハジメッ(君っ)!?」」

 

香織とユエは無事だ。

ハジメが盾になった事で直撃は受けなかったのだ。

すると、銀の頭のヒュドラは、今度は光弾を無数に放って来る。

 

「くっ! 〝聖絶〟!」

 

香織はもう一度聖絶を張り直した。

その光弾には極光の程の威力は無く、聖絶で防げている。

だが、その代わりに隙が無い。

ハジメの治療をしようにも、片手間で防げる威力ではない。

香織が焦り始めた時、

 

「香織、ハジメをお願い……!」

 

「ユエッ!?」

 

ユエがハジメのドンナーを持って飛び出した。

先程の天灼でユエの魔力は尽きかけているため、最低限の身体強化と雷魔法を応用する事で、レールガンを発射する。

それは銀頭に直撃したが、大したダメージは与えられなかった。

どうやら銀頭は、先程の黄頭以上の防御力を持っているらしい。

 

「ッ……!?」

 

全く効かなかった事に目を見開くユエだったが、それでもユエは立ち向かっていった。

 

「ユエッ………!」

 

ユエの方も気になるが、今はハジメが先決だと香織は思い直し、一先ず攻撃の届かない柱の影へハジメを移動させる。

ハジメのダメージは酷く、特に右目に至っては完全に消失している。

 

「酷い怪我………特に右目が………これじゃあ、もう元には………」

 

影の容態を見て悲観するが、まずはハジメの命を救う事を最優先にする。

香織はまず神水を飲ませようとした。

しかし、意識が無いため上手く飲んでくれない。

 

「ハジメ君…………ッ!」

 

香織は神水を煽り、自分の口に含むと、ハジメに口付け、口移しで神水を飲ませる。

 

(ハジメ君………死なないで………!)

 

そう心の中で祈りながら神水を飲ませた。

しかし、様子がおかしい事に気付く。

いつもなら神水を飲ませればすぐに回復するはずなのに、明らかに傷の治りが遅いのだ。

 

「何で……!?」

 

一瞬困惑する香織だったが、

 

「もしかして、毒の一種!?」

 

香織はそう判断すると万天を掛ける。

すると、傷の治りは早くなったが、それでもまだ不完全だ。

 

「何て毒………私じゃ完全には浄化しきれない………!」

 

残された手は神水と回復魔法の併用で傷の治りを早くするだけ。

ユエもヒュドラに立ち向かい続けてはいるが、有効なダメージを与えられていない。

 

「ユエッ………!」

 

再生能力があるとはいえ、所詮は魔力頼み。

魔力が尽きかけている今、再生能力は十分に機能しない。

度々光弾を受けて、苦しそうな表情をするユエ。

香織は我慢できずにもう一度ハジメに口移しで神水を飲ませると、ユエの下へ向かった。

 

「〝聖絶〟!!」

 

傷だらけのユエの前に立ちはだかり、聖絶を使ってユエを護る。

 

「香織……! どうして………」

 

「………だって、ほっとけないんだもん、ユエの事………」

 

香織はそう言って微笑む。

 

「香織………」

 

香織に護られた事で余裕ができ、ユエは身体を回復させる。

すると、光弾では埒が明かないと判断したのか、ヒュドラは息を吸い込み、再び極光を放った。

 

「っう…………!」

 

極光が聖絶に罅を入れていく。

香織も魔力を込めるが、聖絶の防御力を極光の攻撃力が完全に上回っている。

やがて罅が聖絶全体に行きわたり、

 

「………………ハジメ君…………ごめん………!」

 

香織は涙を流し、そう謝罪の言葉を漏らした瞬間、聖絶が破られた。

極光の滅びの光が香織とユエを飲み込む………………

 

「ぁぁぁああああああああああああああああああっ!!!」

 

その寸前、咆哮のような叫び声と共に、香織とユエはその場から消えていた。

2人は、極光が撃ち込まれた場所から少し離れた場所に居た。

そこに立つハジメと共に。

 

「ハジメ君!」

 

「ハジメ!」

 

2人は嬉しそうな声を上げた。

ハジメはこの時、天歩の最終派生『瞬光』に目覚めていた。

そのお陰で2人を極光から救い出す事が出来たのだ。

だが、

 

「はぁ……はぁ……」

 

ハジメの消耗は激しく、肩で息をしている。

ダメージはある程度回復しているが、毒の影響がまだ抜けきっていないのか辛そうだ。

それでもハジメはユエからドンナーを受け取ると、弾を装填し、ヒュドラに向かって構える。

 

「ハジメ君………!」

 

「ハジメ………!」

 

香織とユエもハジメを支える様に寄り添う。

 

「香織………ユエ………」

 

「前にも言ったよ、ハジメ君。生きる時も、死ぬ時も、一緒だよ!」

 

「私達は、最後まで一緒………!」

 

「ッ…………!」

 

2人の姿にハジメは強く思う。

 

(2人を死なせたくない!)

 

と。

その時、ヒュドラが口を開け、その口に極光の光が溢れ出す。

 

(けど、如何すればいい!? 僕達の攻撃は有効打にならない………シュラーゲンも、もう使えない………せめて、強力な前衛でも居れば…………!)

 

ハジメはそう考えてしまう。

この3人のパーティーは全員が後衛タイプ。

前に出て攻撃を引き付ける前衛が居なければ、実力を十全に発揮できない。

 

「…………………拓也」

 

自然とその名が出てきた。

 

(拓也が……居てくれれば…………)

 

別れたその時の拓也と比べれば、自分の方がステータスは大いに上回っている。

それでも、拓也には頼りたくなる『何か』があった。

 

(一緒にパーティーを組んでたから分かる……拓也には天之河君とは違うリーダーシップがある。拓也は感じさせてくれるんだ。天之河君の仮初の希望じゃない………どんな絶望でも跳ね除ける、本当の『希望』を!)

 

実際にベヒモスとの戦いでも、拓也は絶望的状況でも決して諦めず、結果的に全員生還を果たしている。

裏切り者の魔法が無ければ、無事に帰れていただろう。

しかし、奈落に落ちた時に拓也とは逸れてしまった。

ハジメ達は神結晶を見つけ、神水によって魔物肉を食べる事ができたが、拓也にはその方法は無理だ。

拓也と逸れて既に1カ月以上が経過している。

拓也の生存は絶望的だろう。

 

「ッ…………………!」

 

ハジメは目の前の現実に意識を切り替える。

銀の頭のヒュドラは、聖絶で防がれても確実にハジメ達を消し飛ばす為か、溜めの時間が長い。

 

(…………………拓也!)

 

ハジメが拓也の名を心の中で叫ぶ。

そして、勢いをつける様にヒュドラが銀の頭を仰け反らせ…………

 

 

 

 

 

 

 

「ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

叫び声とも汽笛とも聞こえる様な音と共に、ヒュドラの側面の空間が歪む。

それと同時にヒュドラの真下に1本のレールが浮かび上がり、空間の歪みから丸みを帯びた茶色い何かが突進してきた。

『それ』は側面からヒュドラにぶち当たり、その巨体を横倒しにする。

それと同時にヒュドラの口から極光が放たれるも、それはハジメ達とは全く違う方向に放たれた。

ヒュドラに突進した茶色いそれは、ハジメ達の前を少し通り過ぎた所で停止する。

 

「な、何これ………? 電車………?」

 

ハジメは驚いた声と表情でそう漏らした。

目の前に現れた茶色い『それ』は電車に酷似しており、その後方に数両の客車をけん引していた。

 

「な、何で電車がこんな所に………?」

 

香織も驚いている。

 

「ハジメ? 香織? これが何か知ってるの?」

 

ハジメや香織とは違い、(300年前の)トータスの住人であるユエは疑問の声を漏らす。

すると、

 

「到着~! 到着~!」

 

アナウンスのような声が響くと、客車のドアが勝手に開いた。

すると、客車の中に居た人影が立ち上がるのが窓から見えた。

その人影は客車の通路を歩き出し、近くのドア…………ハジメ達の真正面のドアに近付いていく。

そして、そのドアからその人影の姿が露になる。

それは…………

 

「………………拓也…………」

 

ハジメが呆然と呟いた。

そこに現れたのは、共にトータスに召喚され、奈落に落ちる時に逸れてしまった、神原 拓也の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

 

トレイルモンに乗ってハジメ達の前に現れた拓也。

再会を喜ぶ彼らにヒュドラが再び襲い掛かる。

ハジメ達すら追い込んだ強敵を相手に、かつてデジタルワールドを救った十闘士の伝説が、今、異世界で蘇る!

 

 

次回、ありふれたフロンティアへ

 

 

第8話 拓也復活! 蘇る炎の闘士!

 

 

今、ありふれた伝説が進化する。

 

 

 

 







はい、第7話です。
スタートダッシュ4です。
やっと拓也が出てきたよ。
最後の方にちょろっとですけど。
さて、いきなりトレイルモンに乗って現れた拓也の経緯とは如何に!?
因みにこのハジメは、原作よりも直接的な戦闘能力は弱いです。
その代わり、錬成の腕や物作りは原作よりも上って事で。
では、次もお楽しみに。



ボコモンとネーモンが仲間になりたそうにこちらを見ています。同行しますか? しませんか?

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