進行おせぇな大丈夫!?ダメだ!問題しかない!
もうちょっとだけ続くんじゃ(ドラゴンボール感)
深夜に一つの音が屋敷に微かに響き渡る。
「…今の音は?」
手に持ったペンを止め、レエブン候はそう呟く。
夜の屋敷に小さく響いた窓が割れるような音。そして一瞬…悲鳴のような声。
「誰か居るか?」
護衛の一人を呼び、様子を見てくるよう告げる。
夜盗の類かとも考える。…私の屋敷に入るような愚か者は居ないだろう。
──まさか八本指の…いや、ないだろう。例え八本指であろうとこの王国に、私の屋敷に押し入り強盗のような真似をする愚か者は流石にいない。では今の音は何だ。
嫌な予感。それを突き付ける様に廊下を駆ける音がする。
「レ、レエブン候!!ご子息の姿がありません!」
何か他にも色々と報告しているが、最早レエブン候の頭には入ってこない。感情が抜け落ちたように暫く固まり、頭がその言葉の意味を再度認識するや否や駆け出していく。
「な…何が…」
愛する息子の部屋には切り裂かれ転がるメイドの姿がある。隅には絶望の表情を浮かべ、立ち尽くす妻の姿もある。切り裂かれたようにボロ布へと姿を変えたカーテン。息子が眠るはずのベッドには見るからに不潔な黄色の液体の跡がある。
「リーたん!?リーたん!!何処だ!?何処に居るんだ!!」
部下や固まる妻の目も気にせず、叫ぶ様に名を呼び部屋中を探し回る。
愛する息子が何者かに攫われた。メイドが死んでいる。あの爪痕のような切り傷、恐らく人間ではない。状況を理解はしたが、感情はそれを拒絶する。
「レエブン候!!」
背後からの力強いその声に顔を向ける。
「リーたんは何処だ!?私の!私のリーたんは!!」
「街に大量の悪魔が現れました!住民が襲われています!!」
「あの子が、あの子が攫われたわ!」
妻と部下から声で理性の色がレエブン候の瞳に戻る。そう、そうだ。今は、今はこの状況を何とかせねば。そして息子を必ず探し出さねば。
「部下のオリハルコンと雇った連中は何処にいる!?」
「オリハルコンの皆様と
「最低限の護衛を残し、兵を街の悪魔に差し向けろ!そしてミスリルの三人を今すぐに連れてこい!!」
怒鳴りつけるように出る声と共に、部下は跳ねる様に駆けていく。
・
暫くの後、扉が開かれ三人の姿が現れる。
「お呼びだとか?」
レエブン候が叫ぶように口にする。
「よく来てくれた!リーたん…!私の子供が攫われた!頼む!!見つけ出してくれ!」
「子供…?依頼内容は領内に出没した悪魔を退治のはずですが?」
凄まじい形相のレエブン候に冷やかにオートスはそう口にする。
「その悪魔に攫われたのだ!!頼む!救い出してくれ!!」
「気持ちはわかるけどさー、今頃食べられちゃってるんじゃないのかなー?」
ここぞとばかりに煽っているクレマンティーヌを横にオートスは思考を巡らせる。
攫われた?であれば、恐らく子供は生きている。殺す気ならわざわざ攫う必要が無い。
見つければ恩は売れる、見つける事自体も…近くに居れば可能だ。
だが下賜された物を使う価値があるかどうか。ない。
「何処に攫われたのか、目星はついているのですか?」
「見当もつかん!何とか見つける術はないのか!?」
無言で首を横に振る。ベロスがちらちらこちらを見てくるが、目を逸らす。
妹の頼みと言えど、下賜された物を使うほど価値がある人間だとは思えない。
「冒険者ってさー、何でも屋じゃないんだよねー。諦めなよ」
「では、我々は依頼通り悪魔の退治に向かいます」
そう告げ部屋の出口へ進む。
「どうか!!頼む!!」
大きな声に興味なく顔だけ振り返る。
「何でしょう?他にまだ何か?街の被害が増えますよ?」
「あの子に!!明日必ず遊ぶと約束したのだ!」
「そうですか。では遊ぶ為の土地が荒らされる前に依頼を行いたいと思います」
「待っていてくれと!!私はあの子に告げたのだ!」
その一言が彼女の足を止めた。
「あの子は私の全てなのだ!!こんな所で愛する我が子を失うわけにはいかんのだ!」
『ここで俺を待っていてくれ』そう告げた一人の敬愛する者の姿が脳裏に浮かぶ。
煙の様に揺らいでいたその姿が、少しずつ明確な形へと戻っていく。
──私達は待ちました。待ち続けました。ウルベルト様、私達は……。
何故理由も告げて頂けなかったのですか。何かご無礼を働いてしまいましたか。
我々は──捨てられたのでしょうか。
少しの間立ち尽くし、私は何を考えていると首を振る。
「…行きますよ。…ベロス?」
似た事を考えていたのだろう、妹のその瞳には何時もの元気の色はなかった。
暫くの沈黙の後に、ベロスが姉へと問いを投げる。
「私達の事、父上は愛してくれてたのかな」
遠くを眺めそう呟いた妹に、何と答えればいいのかわからなかった。
・
無言で立ち尽くす二人に後ろから声が飛ぶ。
「頼む!!確かに依頼に子の救出等はない!だが…頼む!!」
返事が返らぬ背中に言葉をかけ続ける。
「私の唯一の子なのだ!!どうか!探してくれ!!」
「私にできる事なら何でもする!頼む!!」
暫くの沈黙の後に小さく声が帰ってくる。
「何故拘るのです…子ならまた作ればいいではないですか」
「馬鹿な!!」
この女は何を言っているのだ。また作ればいい?一体何を考えている。
困惑と怒りが口を出て行く。
「私はあの子を愛している!替えなどきくものか!!」
レエブン候がはっきりと告げたその言葉に振り返り口を開く。
「何故拘りを?その子は特別な才や何かを持っているのですか?」
「親は子を愛すものだ!!才など関係あるか!」
うちは違ったけどねー…と呟いているクレマンティーヌを横目に、それは裕福で何不自由なく、余裕ある人間が口にする言葉です。と口を出かけ、先ほどのベロスの問いが頭に浮かび口を閉じる。
暫くの沈黙の後に口を開く。
「──何故そう言い切れるのです?何故そう思うのです?」
「何故?…君達の親は一度たりとも愛情を……供に居る事に幸せを感じた事が…一度たりともないのか?君達を一度たりとも…大切にする事はなかったのか?」
古い記憶が波の様に様々な思い出を彼女の中に運び込む。
畏れ多くも私達への気遣い。日々の小さな幸せ。
朧げに色褪せ古びた遠い遠い記憶。
言葉と共にほんの少しずつ明確な形となり、輝きが胸を少しずつ満たしていく。
共に居る幸せ…あの部屋に、ウルベルト様の御側に居る事ができる。
私達はただ、ただそれだけで──。
「……そう…そうですね」
屋敷の一室で子共が身に付けた物の情報と、借り受けた地図を広げるオートス達の姿がある。
「え、えっと…どう探すんですか?」
そう告げるクレマンティーヌを無視してオートスは思考を巡らせる。悪魔の襲撃、遊びのような円形、貴族の子供を攫う行動。奴らには目的がある。何らかの目的あっての行動。
町の外まで連れ出されていたら範囲外…そうなったら厄介だが…。そう考え、空間から1本のスクロールを引っ張り出し、手を止める。
…私は何をやっている?…人間如きに…数少ない下賜された貴重なスクロールを使う?範囲外であれば確実に見つかる保証すらない…正気か?感情的になるなど私らしくもない。感情的…?何故だ?
待っていてくれ。そう告げた人間の言葉が脳裏に焼き付き離れない。
不敬だと充分に理解しているが、それに重なる一つの姿も脳裏に浮かぶ。
姉妹にしてはベロスは少し優しすぎる。
…私は…少し甘すぎる。
口を出て行く溜息と共にスクロールが青い炎を放ち消えていく。
──
「…どうやら範囲内に居たようですね、街外れの倉庫に居ます」
「生きてると思いますか?」
「攫うという事は価値があるとわかっているはず、まず殺される心配はないでしょう。問題なのは衣服を剥され…服のみが放置されている事ですが…可能性は低いでしょう」
そう告げ夜の街へと駆けていく。
・
「ふんっ!」
「
「殿の役に立つでござるよ!!」
街中の少し開けた広場で巨大な二振りの剣が
「俺達も続け!!市民を避難させろ!」
兵や雇われた冒険者達も三人の奮闘に続く様に刃を振るう。
(多いな……所々に湧いた悪魔全てが集まった結果か?)
突如襲ってきた悪魔にアインズは剣を振るい、兜の中で幻影の顔を顰める。想像より遥かに数が多い。あの三人は何処だ?敵対する気はないにせよ、可能であれば一度戦いを見ておきたい。
「ば、バケモンが!はなせ!」
悲鳴が聞こえ振り返る。巨体の悪魔に兵が捕食されていく姿が目に入る。その腹には捕食された男の悲痛な顔が浮かびあがる。
「ぬぅん!」
モモンが一振りの剣を投擲すると眉間を貫きその巨体は崩れ落ちていく。
<
離れた路地から現れた悪魔が魔法を放つ。頭部に添えられた人間の生首が魔法を詠唱し、多くの兵や市民が吹き飛んでいく。枯れ木の様な体を持った悪魔がのそりのそりと兵達に近寄っていく。
(頭のない悪魔の正体は
「私はこちらをやる!ナーベ、お前は向こうだ!ハムスケ!傷付いた者や市民を守れ!」
──<
詠唱と共に火球が悪魔を打ち払っていく。
「何故…いえ、お待たせしました」
魔法と共に姿を見せた3人にアインズは剣を振るいながら、無事だったか!と心で叫ぶ。そして同時に疑問を懐く。
そんなアインズ──モモンを目にし、魔法を撃ち込んだオートスは眉間に皺を寄せる。何故倉庫への最短距離にこの鎧と女が居る?偶然か?まさか…いや、考えすぎか。あの女のあれは…
──こうして互いが相手を観察しながら、少しでも多くの情報が欲しいと考え、互いが手を抜き監視しつつ戦闘を行うという、奇妙な状況が完成する事となる。
尤もそんな状況を把握していないハムスケ、ナーベラル、クレマンティーヌが競うようにガンガン数を減らしていく。ベロスは私は出来る事ないからーと、逃げる市民と傷付いた者の誘導を行っている。
多くの悪魔が倒れていく。その様子を目にオートスが口を開く。
「…数は減らせました、ここはお任せします」
アインズにそう告げ彼女は街の外れへ駆けていく。ここでこれ以上時間は使えない。ある程度の情報は得た。ここでこれ以上時間をとられ子供を連れ去られては意味がない。
スクロールを無駄にする事はできないと街の闇へと消えていく。
・
悪夢の夜が明けた数日後、落ち着きが戻り始めたエ・レエブルで一つの声があがる。
「本当に、本当によくやってくれた」
そう告げて頭を下げるレエブン候の姿がある。
それを目にした部下が頭を下げる主人の姿に驚きの声を上げている。
「あの量には驚きましたが…撃退できた事は何よりです」
アインズがそう告げる。
「君の噂も聞いた。多くを倒してくれたのだな、本当に感謝する。組合には私から既に連絡を出してある。そして──愛する我が子を助けてくれた事には感謝の言葉もない。本当に感謝する」
そう告げレエブン候はオートスを目に考える。
賢いだけでなく、一人攫われた子を探し出し、助け出す…。
力もある、状況に対する判断力もある…私の息子を救ってくれたように──。
…それは安易な考えというものか。
今後も力を貸してほしいと、皆が軽く挨拶を交わし彼等はエ・レエブルを後にする。
勇者の凱旋か…その姿を見送るレエブン候は一つの思いを胸に、部下に告げる。
「──私は王都に行く、暫くは戻らん。エ・レエブルは任せたぞ」
帰路を行く中でベロスが姉へと声をかける。
「姉上が優しいって珍しいよね」
「一つ贈り物を貰いましたから。今回だけです」
「何貰ったの?私は優しい姉上の方が好きだけどなー」
「やめてください」
そう告げ会話を打ち切り、オートスは一人思考の海へと漕ぎ出していく。
力を持った貴族…それでも何も情報を持っていなかった。一体何処を探せばいいのだろうか。王国…帝国…聖王国…王や皇帝と呼ばれる者なら何か知っているのだろうか。…それに期待するしかないか。亜人はダメだった。
敬愛すべき父の姿を明確に思い出したが故に気持ちが強くなっていく。
もし王や皇帝も情報を持たなければ…。一体どうすれば見つける事が……見つけて貰う?名を世界へと広め、ウルベルト様に私達を見つけて貰う。名声でも…悪名でも。世界中へ名を広めて見つけて貰うのはどうか?
或いは組織を持つのはどうだろうか?数多くを従え、大規模に捜索をかける?悪くはないか?この世界に、敵となり得る同格者が居なければそれも考慮すべきか?
そんな思考を止めるように後ろから声がかかる。
「お願いでござる!!姉殿!助けてほしいでござる!」
「…何ですか」
「殿がもう助けてくれないのでござる!」
ハムスケを見つめ、手をわきわきと動かすベロスの姿が見える。
考えを邪魔され、露骨に不機嫌そうな表情を浮かべたオートスへアインズが詫びを入れていく。
「…ハムスケが申し訳ない」
──この鎧も筋力こそ人間を凌駕していたが…最低限確認できたのは筋力が常人離れしている程度。あの女も結局第三位階までしか使わなかった。
別の方法で調べるしかない…そもそも強者ではないのか?私は少し考えすぎか?私と似た思考と行動から擬態だと判断したが…。我々と似た存在…それがそもそも考えすぎか?
小さく息を吐き妹に向け口を開く。
「ベロス、いい加減にしておきなさい」
「えぇ?だって可愛いから…」
妹に小言を言っている妹、そんな風景にアインズから小さな笑いが出る。
「…何か?」
「失礼、少し…仲間を思い出していたもので」
「仲間?」
「すっごい良い友達が居たんだって!また聞かせてよおじさん!」
「……昔…いや…」
アインズは口に出かけた言葉を止める。
やはりこの姉妹を見ていると茶釜さん達を思い出す。その思い出が口を出かけ…ふと浮かんだ一つの考えが言葉を止める、少し深く関わり過ぎた。
確かにこの姉妹は好きだ。だがこれ以上関わってはダメだ。プレイヤーでは恐らくない。それを知れたんだ、十分じゃないか。
…それに、この二人は人間だ。この妹も良い子だが、それは人間として話を聞いてくれたからだ。俺の仲間達とは相容れない。俺の仲間達は──
「──皆人間ではない」
呟く様に記憶の姿と考えがアインズの口を出る。
しまった!と思うが一度出た言葉は戻らない。
…これでいいのかもしれない、これで妙な目で見られる事だろう。そうすれば妙な感情も懐かない。だが…どうしよう…冒険者モモンに人間ではない友が居る…言いふらされると不味い。どうする、どうしよう…。
そんな不安を露知らずベロスが口を開く。
「そうなの?私にもバザーって亜人の友達いるよー!亜人も異形もいいよねー!」
その一言は大きくアインズの思考を揺らしていく。
「…
皆、下等種ですから。そう心の中で付け加える。
ベロスは固まっているアインズに続けて声をかけていく。
「バザーって
所々で姉に口を塞がれつつ、話をしていく。
暫く話を聞いていたアインズが口を開く。
「君達は…他種をどうとも思わないのか?」
「見た目でどうこうは酷いと思うよ?」
そう告げるベロスにアインズの心の壁が崩れていく。
「異形だから、亜人だから、そんな理由酷くない?それに父上も…望まれないと思う」
気味が悪いから、ポイントの為とPKされ続けた記憶が蘇る。
それを救ってくれた聖騎士の姿と一人の
あけみさん…。ああ、そうか…。そうだった。人間だから…か?俺だって元は…俺は…何を考えていたんだ。…やまいこさんにぶっ飛ばされるな。この姉妹には…貰ってばかりだな。
巨大な腕を振り上げる、かつての友を思い出し、小さく笑う。
「だから関係ないと思うんだ!おじさんの友達の話も聞かせてよ!いい人達だったんでしょ?」
「ああ、そうだ。最高の仲間達だ」
自然と今度は輝かしい過去が口を出て行く。
話を聞いていたベロスが告げる。
「ね?姉上、いい友達でしょー?」
「そうですね、素敵ですね」
オートスからすると興味がないが、表に出さずベロスに付き合い適度に相槌を入れていく。
その様子を見ていたアインズは一つ判断を下す。この二人はプレイヤーとは関係ない。もしかしたらプレイヤーなんか居ないんじゃないか?戦闘も見ていたが、姉は多くの市民を守り、妹は傷付いた兵と市民を誘導していた。軽戦士は武技を使っていた…武技を使うという事こそ現地人の証明だろう。…何より、この二人をもう疑いたくない。
「他にはー?友達とどんな冒険したの?」
「──そうだな…あれは──」
話を催促され気分よく思い出を語り出す。
そんな中、アインズに一本の糸が繋がるような感覚が走る。
アインズへ向けた
<<アインズ様、お話したい事が>>
輝かしい思い出話に水を差され、ムッとしつつも周りに聞こえぬよう小声で告げる。
<…エントマか?今は──少し忙しい。後で連絡する>
<<わかりました。ではその際はアルベド様にお願いします>>
「…失礼。そう、仲間に特に仲が良い弓使いが居てな──」
楽しく輝かしい仲間の思い出がアインズの心を満たしていく。
遠く離れた地で弓使いの娘が一人、意識を手放し佇んでいる事をアインズはまだ知らない。
ももんが :ちょろイン!?
おーとす :おまいう
くれまん :君達さぁ…