ウルベルトの贈り物   作:読み物好き

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前回までのあらすじ
ももんが:すまん!エントマ!今忙しい!(笑顔)


吸血鬼(ヴァンパイア)

 楽しい時間が過ぎていく。アインズにとっての至福の時間が流れていく。途中何度も抑制され、それに苛立ちを覚えるが、それ以上に積み上がる幸福は着実に心を満たしていく。輝かしい過去を思い起こしながら、そしてその輝きに同調してくれる存在。何と心地いい事か。

 

「楽しい会話中に悪いんだけどさー。そろそろ日も暮れるんだよねぇ」

 

 そんな時間に水を差すクレマンティーヌに少しの不快感を感じつつも話を切り上げる。

 

「いいね!父上の話みたいですっごく楽しかった!」

 

 そう告げたベロスにアインズは目を細め視線を向ける。

 

「姉上!私あのおじさんお気に入り!」

「やめてください」

「ハッハッハ!そうか?私も君の事は好きだぞ!」

 

 上機嫌にアインズはそう告げる。

 

「ほんと?じゃあ特別に私の友達にしてあげよっか?」

「ベロス!?」

「それは光栄だな!モモンと呼んでくれ!よろしく頼む!」

 

 眉間に皺を寄せる姉を横目にそう告げる。友達…友達か。どちらかと言えば娘か?ユグドラシルと違う世界…俺に出来た世界で初めての友達…初めてのフレンドか。

 初フレンドが人間か。やまいこさんも、あけみさんという妹エルフが居た。なら何時かナザリックに招待してもいいかもしれない。

 舞い上がり抑制される。ちょっと流石に浮かれ過ぎた。

 

「馬鹿力鎧さー、笑ってないでテント貼るの手伝ってくんない?」

「貴様…モモンさ──んに向って!!」

「ナーベよ…何度言えばわかるのだ」

「申し訳ありません」

 

 野営用のテントを組み立てながらふと思い出す。そういえばエントマから伝言(メッセージ)が来ていたな…。確かアルベドに…だったか?

 

「失礼、少々席を外します」

 

 ひらひらと手を振るクレマンティーヌを背に、三人と距離をとり伝言(メッセージ)をアルベドへと飛飛ばしていく。

 

<アルベドか?私だ。どうした?>

 

 

 

 

 

<…シャルティアが…何だと?>

 

 立ち尽くすアインズの心境の様に、夕日がその日の終わりを告げていく。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

「よく帰って来てくれた…活躍は聞いているよ。オートス嬢、モモン君」

 

 組合に入るとアインザックが少し難しい顔をしてそう告げる。ベロスとクレマンティーヌは宿屋へ、ナーベラルも同じくアインズが使用している宿屋へと先に戻っている。アインズとしては一刻も早くナザリックに戻りたいところだが、同行中の冒険者が煙の様に消えるわけにもいかない。

 

 そして同時に衝撃が大き過ぎた。姉妹と出会い、輝かしい過去を強く明確に思い出していたが故に、その報告はかつての仲間達に見限られたようでアインズを絶望の淵へ叩き落としていった。既に何度抑制されたかも覚えていない。

 アインズは考えも纏まらぬうちにエ・ランテルへと帰還した。

 

「まずは…これが報酬だ。そしてオートス嬢、君達は本日から…エ・ランテル初のアダマンタイト級となる。二度の大規模な悪魔の攻撃を防いだ事、そして第五位階の使い手である事、戦闘能力だけでなく、攫われた子供を悪魔の群れの中から迅速に見つけ出すという能力も多大な評価を君達に与えた」

 

「モモン君、君達はミスリル級への昇格だ。都市長も両者の事とこの昇格は認めている。二人共レエブン候のお墨付きでもあるよ。おめでとう」

 

 報酬とプレートを受け取り、アインズは早足で部屋を出ようとするも声がかかる。

 

「モモン君?何処に行くのだね?」

「組合長、申し訳ありませんが急用がありますので」

 

 そう告げると表情を引き締めアインザックが告げる。

 

「すまないが…こちらを優先して貰えないか?」

「申し訳ありませんが、外せぬ用があるので」

 

 扉に手をかけた時に背後の声に手が止まる。

 

「──吸血鬼(ヴァンパイア)が出たのだ…それも…強力な」

「…話を聞きましょう。組合長」

 

 私の部屋で話そう。そう告げ彼等は組合長の部屋へと足を踏み入れる。そこには5人の男が居る。武装した冒険者が3人、太った男が一人、痩せた男が一人。

 

「…遅いではないですが組合長」

 

 不機嫌そうに一人の男がそう告げる。

 

「イグヴァルジ君、今回は緊急事態なのだ。近く帰還する事が分かっていたミスリル、アダマンタイト級の二人を待たない手はないだろう?」

 

 そう告げアインザックがモモンとオートスを紹介し、アインズ達に5人を一人ずつ紹介していく。都市長パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイア、魔術師組合長テオ・ラケシル、ミスリル級冒険者『クラルグラ』代表イグヴァルジ、『天狼』代表ベロテ、『虹』代表モックナック。

 

「では今回の件について話を──」

「その前に聞かせてほしい!アインザック組合長!私はそのモモンとオートスが行った偉業を正確に把握していない!ミスリル級に…アダマンタイト級だと!?何の偉業を成したというのだ!!」

 

 顔を真っ赤にして怒鳴るようにそう告げる。

 

「なぁ…耳に入ってないわけないだろう?」

「お前は黙っていてくれ!!私は組合長に話しているんだ!」

 

 モックナックがなだめるが、イグヴァルジには変わらず怒りと嫉妬の色が浮かんでいる。

 一瞬眉間に皺を寄せたアインザックが明るく告げる。

 

「モモン君は森の賢王と呼ばれる伝説の魔獣を服従させ、エ・レエブルにて起きた大規模な悪魔事件で驚くほどの悪魔を滅ぼすという偉業を成した。これはレエブン候のお墨付きだ」

 

「そしてオートス嬢、先日のエ・ランテルでの悪魔事件を解決し、更に第五位階の使い手。同じくエ・レエブルでの大規模な悪魔事件の解決、そしてレエブン候の攫われた、行方不明のご子息を多くの悪魔の中から助け出すという偉業を成した」

 

 虹と天狼から驚きの声が上がる。

 

「…行方不明の子供を悪魔の群れの中から…野伏(レンジャー)はチームに居ないんだろ!?魔法詠唱者(マジックキャスター)がどんな手を使って…!?」

 

 視線が集まっていく。

 

「それはお答えしかねます」

「チッ、隠し事かよ」

 

 都市長が険悪な空気を破るように告げていく。

 

「ぷひー。それだけのつよさとちからがあるんだろう?だからこそ、まっていたんだよ」

 

 そんな中で苦虫を嚙み潰したような顔をしたイグヴァルジが告げる。

 

「…その一件だけか!?…その女は二件か。たった一つや二つで!?森の賢王だったか?それを服従させた功績で白金(プラチナ)は…まだ理解できなくもない。だが貴族のお墨付きだからだと!?試験を受けた者達がそれをどう思う!!それにその女はアダマンタイト級だと!!?」

 

 エ・ランテルで最も早く伝説になってやる。そんな希望を打ち砕き、ぽっと出に追い抜かれたイグヴァルジの心境は穏やかではない。

 

「ぷひー。いぐうぁるじくん。くみあいちょうは、じっせきとじつりょくをおもんじる。ぷひー。れえぶんこうは、あくまでさんこうていどだよ」

「…都市長はそう言いますがね。…顔が良い女なら別の武器もあるんじゃないですか」

 

 そう口にしたイグヴァルジに虹と天狼の二人が眉間に皺を寄せる。

 思った所で口にしていい事と悪い事がある。

 眼前で悪魔との戦いを目にしていたアインザックは顕著だ。

 当のオートスは心中はさておき、涼しい顔をしている。

 

「組合長、はっきり言ってやれ。私も彼と同じようにこの二人…特にオートス嬢がアダマンタイト級等とは思えん」

 

 ラケシルが告げる。それを目にやはりそうかとイグヴァルジが告げる。

 

「魔術師組合長も同意見のようですな」

「そうだ、彼女はアダマンタイト…そんな括りが適用できると思えない」

「それはどういう──」

「あの夜を見ていない君にはわからんだろうな」

 

 そう吐き捨てるように告げる。第三位階がろくに通じず、(ゴールド)級の武技を纏った一撃を片手で防ぎ一撃で葬り去る。更には悪魔の召喚、率いていた無数の悪魔とて雑魚ではなかった。そんな悪魔を君達のチーム一つで殲滅できるのか?更に言えば無数の悪魔に攫われた、居場所すら掴めぬ子を君達は傷一つなく迅速に救助できるのか?そう言われ、言い淀む。

 

「では──」

「女の方は…もういい!だがモモンとかいう奴は!」

「いい加減にしてくれ。これ以上騒ぐならここを出て貰う」

 

 一向に話が進まぬ事と、ラケシルと同意見だったアインザックがそう告げる。

 

「…よろしいかな?では説明させて貰おう」

 

 本題に入り皆の顔色が悪くなっていく。エ・ランテルから約3時間程度の近郊に推定上位吸血鬼(ヴァンパイア)が出現。野盗の溜まり場と化した、洞窟の調査に向かった冒険者が遭遇し5名が死亡、情報によると巨大な口を持ち第三位階魔法を行使。黙って情報収集に徹していたアインズの存在しない顔色が悪くなっていく。アルベドからの報告内容と合わせて考えればシャルティアと考えるべきだろう。

 

「ではまずは洞窟の調査…が良いのではないか」

 

 その意見が出ると皆が賛同する。不味い。シャルティアの現状もわかっておらず、ナザリックにも戻れていない。シャルティアは何故反逆を?誰かに唆されたのか?待遇が気に食わず?状況がわからない。だが情報が渡る事の不味さはユグドラシルでも身に染みている。この吸血鬼(ヴァンパイア)がシャルティアだった場合、外見や情報を知られる事は今後に多大な影響が出る可能性がある。

 アインズは必死に考える。どうする。どうしたら阻止できる?どう話を持っていけば…。

 考えた所でシャルティアの情報流出を防ぐ答えは結局一つしかないのだが。

 成功してくれ…その思いから出もしない唾を飲み込み、言葉を口にする。

 

「…その吸血鬼(ヴァンパイア)の事は良く知っている。何故なら私が追ってきた吸血鬼(ヴァンパイア)だからだ」

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 ナザリックの個室で言い争うような声が長く響いていた。

 

「──ではアインズ様から…その後の連絡はないのかね?アルベド」

「ええ、報告以降ないわ。"情報を集め、ナザリックの警戒態勢を最大限に引き上げよ"それが最後のお言葉よ」

 

 暫く考えデミウルゴスが口を開く。

 

「君の言い分も理解できる。確かに以前任せるとアインズ様は申されたが…これは我々の判断で動ける範囲を超えていると思うのだがね」

「そうかしら?」

 

 冷たい視線でデミウルゴスを睨み、アルベドが続ける。

 

「アインズ様は私とデミウルゴスに任せると仰ったのよ?その意味は理解しているわよね?」

「何が言いたいのかねアルベド」

「私は守護者統括。ナザリックにおける責任者。貴方はナザリックの外を一任されているわ。つまり外部の責任者。内部で反逆者が出たのよ?統括である私には迅速に対処する責任があるでしょう?」

 

 彼女の言も一理はある。責任者が現場を任されている以上、問題を放置する事こそが問題だという見方もできるが…。とデミウルゴスは少し考え口を開く。

 

「それは間違いだアルベド。アインズ様の言を正確に復唱するなら、"細かな事は任せる"が正しい。守護者の処分等、細かな事とは言えないと思うがね」

「だからこそ、真っ先にアインズ様へご報告したでしょう?」

 

「報告後、どのように対処されるのか、それに対しての明確なお返事はなかったわ。貴方ならこれをどう捉えるのかしら?」

 

「──我々に対応出来るのかどうかを見ておられる。"ナザリックの警戒を引き上げよ"これはシャルティアが攻め入る危険を考慮しての事だろう。"情報を集めよ"これはシャルティアに同調した者や敵対的な外的存在が潜んで居ないかを調べよとの事だと思うがね」

 

「だからこそよ。攻めて来る可能性の者を放置しろと?」

 

「原因も分からず処分するのかい?何故か。それを確認しなければならないと思うんだが」

「理由を知る必要が?ナザリック…アインズ様を裏切り…弓を引いた…!それだけで十分死に値する。死でも生温い」

 

 そう告げるアルベドの瞳には憤怒の炎が燃え上がっている。

 

「それにデミウルゴス。アインズ様は報告以降伝言(メッセージ)を送られてこないのよ?それこそが私達に判断できるのかを見られているのでしょう?」

 

「それは…そうだね、であれば動くのは理解できる。アインズ様は情報を重視されるお方、であればシャルティアの情報流出こそ最も嫌われるだろう」

「であれば即座に処分して回収するわ」

 

「だが…どうやって処分するのかね?シャルティアは強い。戦闘を考慮すべきだろう?」

「コキュートス、マーレを連れて私が出るわ。準備を整えてなくては」

 

 そう言い残し、アルベドは部屋を去っていく。

 

 

 

 

 

 一人残されたデミウルゴスが独り言のように口にする。

 

「私にはシャルティアの反逆…というのがしっくりこないのだがね」

 

 正妻争いをしていたシャルティアの姿がデミウルゴスの脳裏に浮かぶ。あの同僚がアインズ様に弓を引くだろうか。良くも悪くも心酔しているように私には見えたが。

 

「同僚と共に…」

 

 デミウルゴスの脳裏に創造主の姿が浮かぶ。共に何かを成せ。

 確かにあの御方はそう告げられた。その同僚が…裏切るとは。

 仮に…支配(ドミネート)魅了(チャーム)のような…それこそあり得ない。シャルティアはアンデッド、精神支配が効果を発揮する事はない。では仮に記憶操作(コントロール・アムネジア)等で我らを敵と認識されたら?

 …それもない。シャルティアを瀕死に追い込み、必死の抵抗をするであろう彼女の記憶を操作できるような者等存在しない。

 

「至高の叡智であらせられるアインズ様であれば、既に答えを出されているのでしょうが…」

 

 デミウルゴスは思考を回転させていく。外的要因の有無、シャルティアに共謀している者は居るのか否か。アルベドがニグレドに調べさせた所、シャルティアに動く気配はなかった。人形の様に棒立ちするあの姿は妙だ。身動ぎ一つせずに棒立ちとは。では一体何故あのように立っている?まるで注目でも集めるように。

 暫く天井を見上げ、小さく呟く。

 

 

「アルベド、少し…性急ではないかな」

 

 

 

「………<伝言(メッセージ)>」

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

「ではその…ホニョ…ホニョ……吸血鬼(ヴァンパイア)の偵察を君達だけで行うと?」

「そうです。もしその場に居たのなら吸血鬼(ヴァンパイア)を滅ぼします」

 

 そう断言するモモンを横目に見る女の姿がある。

 …先ほどからこの鎧…。旅路で感じた印象と違う。

 

「お前の強さを信じられない!その吸血鬼(ヴァンパイア)が強いかもわからんではないか!それに仮にだ!!強いならば複数で当たるべきだ!!俺達は付いて行く!アダマンタイトも当然同行すべきだろう!!!」

 

 イグヴァルジが怒鳴るように告げる。彼の意見も尤もだと言える。強い敵なら確実に複数で滅ぼす。本当に強いならば最上位を当てる。当然と言えば当然でもあるが、彼の思惑は別の所にある。何か蹴落とす材料、彼は今それが欲しい。

 

 アインズは考える。この男が同行した所で邪魔になれば最悪殺せばいい、それに対し…全く思う所がないわけでもないが、シャルティアに比べれば何も感じない。

 だが…三人はダメだ、特にベロスには絶対に手を出したくない。一度であっても友だと思った者を殺す?それは絶対に許されない。そんな思いが頭を巡る。

 三人に手は出したくない。だが断れる理由が…今は思い浮かばない。どうしたらいいんだ。シャルティアはどういう状況なんだ。そんな思いが入り交じり、怒りとなって口を出る。

 

「…構わない。ただし…確実に死ぬぞ。全滅かは…わからないがな」

 

 死ぬぞと口を出たと同時に抑制され冷静に戻る。それが余計に周りを震え上がらせた。

 まるで巨大な猛獣を前にしたような、恐怖を含む憤怒の一言。直後に消えゆくその憤怒。過去に一体何があったのかと多くの者が凍り付く。

 唾を飲んだイグヴァルジがそれに対しても食い下がっていくが、それを無視してアインザックが告げる。

 

「…モモン君、何か確実な根拠や勝算はあるのか?」

「切り札はある」

 

 そう告げてアインズは一つのマジックアイテムを懐から取り出す。

 

「それはまさか!?信じられない!!」

 

 ラケシルが大声を出しざわめきが起こる中、一人一連の光景を観察する者がいる。

 

(──魔封じの水晶)

 

 …やはりこの鎧の男…何かおかしい。

 ニグンは国という機関から与えられたから持っていた。ウルベルト様が下賜してくださったからこそ、私も持っている。では個人で持っているこの鎧は何だ?遠くの遺跡で見つけただと?都合がいい話だ。やはりこの鎧…それにあの女…一度徹底的に調べる必要がある。

 

 ではどう考え動くべきか。吸血鬼(ヴァンパイア)の偵察をあの女と二人で行う、追ってきたら確実に死ぬと言い切った。一度共に旅路を共にし、戦ったからこそわかる。この男は慎重で、情報を重視する傾向にある。

 

 そんな男が二人で吸血鬼(ヴァンパイア)を滅ぼしに行く?そして同行すれば確実に死ぬ?何故言い切れる?言葉選びに失敗したか?いや…違う、あの言葉に込められたのは怒り。吸血鬼(ヴァンパイア)が強いからか?エ・レエブルの戦いでは多くを守っていた。守る余裕がないほど吸血鬼(ヴァンパイア)が強いからか?

 色々な可能性を考慮して思考が一つの結論へとたどり着く。

 

 ──殺す気か?

 

 前に見たあの筋力。不愉快な男(イグヴァルジ)を殺す程度、不意を打てば造作もないだろう。そして例の吸血鬼(ヴァンパイア)…何らかの理由で情報遮断を行いたいとしたら?首を突っ込んでくる虫けらにイラつきが湧くのも理解できる。

 

 ──私の悪い癖か。それは私と同じような異なる存在であればこそだ。

 自分で気付いたはずだ。この男は多くを守っていた。人間がそう簡単に同族を殺すか?

 …まぁ…中にはクレマンティーヌ(嬉々として殺す者)もいるが。

 あれは例外だ。ではあの怒りは何だ?昔守れなかった者でも居たか?

 だが…人間に擬態している。それであれば…これ以上考えても無駄か、答えがない。

 個人で魔封じの水晶を持つ者が言い切る程、その吸血鬼(ヴァンパイア)が強いか。であれば…お手並み拝見といこう。

 

「組合長、都市長、提案が」

 皆の視線が集まると続けて告げる。

 

「先日の悪魔に続き、吸血鬼(ヴァンパイア)。ここで全ての力ある者が街を出るのは危険だと判断します。そのマジックアイテムを持つモモンさんの力を信じ、我らは街の護衛に当たります」

 

 それを受け一人から怒涛の反対意見が出るが、アインザックに退出させらる。

 最終的にモモンとオートスの意見が一致した事で纏まりとなる。

 オートスは街を出るモモンを背に宿へと戻る。

 

「おっかえりー!」

「オートス様!お帰りなさいませ!」

 

 出迎える二人を軽くあしらい考える。吸血鬼(ヴァンパイア)の位置は組合から聞き、ある程度把握している。問題なのはどう確認するかだ。

 雑魚であればいい。だが…仮に吸血鬼(ヴァンパイア)や、あの鎧が弱者の皮を被った強者だった時が問題だ。エ・レエブルでも判断しきれなかった。舐めて様子を見に行って発見される等論外だ、今までの苦労で作り上げたアダマンタイトの地位を捨てる事になる。その上、敵が強者で戦闘に巻き込まれる等あってはならない。

 

 強者だと仮定すれば…探知系の対策はしていると考えるべきか?ならば肉眼。影の悪魔(シャドウ・デーモン)との視界の共有…ダメだ。強者が相手では気付かれる可能性がある。では上位影の悪魔(グレーター・シャドウ・デーモン)…そういう話ではないか。

 

 考えていくが、彼女には推定強者を相手とするには経験がない。どうすれば気付かれずに情報を仕入れられる?この期を逃すわけにはいかない。

 完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)で問題ないか?

 悩むオートスを背に、布で何かを磨く妹の姿が目に入る。

 

「ベロス様、何ですか?それ」

「父上の時計。レーブンおじさん見てたら思い出しちゃって」

「ベロス…!そうか!」

「え?うん?」

 

 そうだ。私にはウルベルト様の知識がある。

 空間に手を突っ込み、遥か昔に書き留めた一冊の本を取り出し捲っていく。お言葉をメモに取り、それは何時しか一冊の本となった。

 

 1を語れば10の質問が飛ぶ。自分を尊敬する、自分より遥かに賢い者に永遠に質問されるという、ウルベルトにとって生き地獄の末に出来た本。ウルベルトの戦いにおける生き写しとも言える戦略、戦術に関した全てをオートスが書き残した一冊。

 

 ページを捲り、考える。完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)があれば十分だと思っていたが…見直して実感していく。甘すぎた。惜しむな、全てが無くなるわけではない。ウルベルト様も常々仰っていた。惜しんで過ちを犯すのは愚か者のする事だ。ご教授頂いた戦術、油断せずに相手の情報を得る。そして虚偽を掴ませる。気付かれれば致命的だ。

 強者である者がこの世界に存在するのかどうか、どの程度がこの世界での強者であるか、一度は確認する必要がある。

 期待外れであればそれでもいい。自由に動けるようになる。

 

「ベロス、留守をお願いします」

「え?姉上?どっか行くの?」

「お出かけですか?お供しますか?」

「二人は決して動かぬように。何かあれば…緊急であれば伝言(メッセージ)を」

 

 そう言い残し一つ魔法を唱え消えていく。

 この世界に強者が存在する可能性、その真偽を確かめる為に。

 




『クラルグラ』イグヴァルジ君
退出という屈辱と引き換えに寿命が伸びた模様。よかったやんけぇ!
追い出された事が噂になり名声は地に落ちた模様。命の方が大事だなァ!?
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