ウルベルトの贈り物   作:読み物好き

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難産だった模様。
おかしいなぁ。もっとこう、ほんわか物語のハズだったんですけどね?


記憶の名前

「では、行きましょうか!」

 

 朝日が昇り始め、皆が野営地を後にしていく。

 道すがらアインズにベロスが問いかける。

 

「モモン、何処行ってたの?」

「墳墓の…様子を見にな」

「ふーん?どうだった?あ、ニニャ!一緒に行く?」

 

 目に入る者に興味を移すベロスを眺め、八咫烏と漆黒も足を進めていく。

 アインズの足取りは重い。

 

(頼むぞ…デミウルゴス)

 

 完全に人任せであるが、何とかしてくれる。

 デミウルゴスとアルベドならきっと。

 いや、頼む。何とかしてくれ。そんな気持ちで足を進める。

 

「おい…何だこりゃあ?」

 

 前方から疑問の声が上がる。

 一体何だとアインズが冒険者を掻き分け前へと進む。

 

「どうしまし──」

 

 "立ち入り禁止"

 

 新しい木の香りとペンキの香りが漂う看板がそこにある。

 掲げられた看板に皆不思議そうに立ち尽くしている。

 

(…うん……マーレ、頑張ったな)

 

 わざわざ加工して作ったのか…。

 何とも言えない気分でそれを眺めていく。

 後ろからやってきたオートス達がそれを目に渋い顔をしている。

 

「入っちゃダメだって」

「そう書いてありますね」

「馬鹿かお前等?はい、そうですかって帰れるか?」

 

 イグヴァルジが鼻で笑っている。

 それを無視し、オートスが続ける。

 

「この墳墓には間違いなく危険が潜んでいます」

「はい?」

 

 多くの者がそれを受け、首を傾げている。

 わからないか?と小さく息を付きアインズに問いを投げていく。

 

「昨日様子を見に行ったとか?その際に看板はありましたか?」

「なかったと思います」

 

 それを聞き、周りに説明していく。

 この看板は昨日は存在していなかった。つまり深夜から今朝までの間に用意された物。香る匂いからも新しく作られたのは間違いない。ならば知能があり、且つこちらの存在を把握した上で警告を飛ばす程度には知能が高い者が内部に潜んでいるという事。

 

(おぉ…成程。そういう見方もあるのか。マーレ、実はすごいアイディアだったんじゃないか?)

 

 説明を聞きアインズが関心していく。

 それを耳に、何人かは納得の表情を浮かべ警戒していく。

 

「下らねぇ。つまり臆病者か馬鹿じゃねぇか。それだけ知恵がある上にこちらを確認した上で用意するのが看板だ?」

 

 イグヴァルジが鼻で笑い、看板を蹴り倒し足を踏み入れていく。

 その光景に不快感を覚えつつ、アインズが告げる。

 

「──入りますか?」

「私は先に外を調べたいと思います」

「外を?」

「見れば分かると思いますが…これ程の規模の墳墓を作り上げたのは驚嘆に値します」

 

 それを耳に冒険者達も周囲を見渡していく。

 未発見の遺跡の調査として来ていたが、成程確かに見方を変えれば凄まじい作りだと驚きの声が上がっていく。

 

「確かに…よく見れば…巨大なだけでなく何と立派な…一体誰がこんなものを」

「この柱!よく見れば細かな細工が施されているのである!」

 

(そうなんだよ!皆で拘り抜いたんだ…懐かしい)

 

 墳墓を褒められアインズが嬉しさと懐かしさの記憶に入っていく。

 

(…何が居るかわからぬ墳墓に真っ先に足を踏み入れてたまるか)

 

 一方オートスは時間を稼ぐ。

 実際この墳墓は柱一本に至るまで造形に力が入っている。

 潜むは力ある者である事は間違いない、ならば先発に囮を送り込むのは必須。

 そんな中で様子を見ていたヘッケランが口を開く。

 

「あの…オートスさん、モモンさん」

「何ですか?」

「ベロスさんが見当たらないのですが」

「は?」

 

 周りを見渡すと先行する冒険者達の後を追い、墳墓の中に入っていく妹の後ろ姿がチラリと見える。

 

「……ベロス…」

 

 疲労。そんな物感じぬ体だ。

 そうだと思っていた。間違っていた。これは疲労だ。

 疲れた。一度…休みたい。

 小さく頭痛を感じつも、妹を追い彼女達も墳墓へと足を踏み入れる。

 

 

 

 ・

 

 

 

「こりゃ…大当たりじゃねぇか…」

「遺跡の探索はした事があるが…これは凄い」

「素晴らしい!これだけあれば…!」

 

 最初の部屋の棺を開いた者達が口々に歓喜の声を上げている。

 棺の中からは溢れんばかりの金銀財宝が姿を見せている。

 

「この旗…見た事ない模様だが、誰か知っている者はいるか?」

「見た事ないな」

「それよか貴金属で編まれてるぞ…引っぺがして持っていくか?」

「やめとけ、一応発見物は回収されるルールだ。細かいものにしとけよ」

 

 一掬いで暫く遊んで暮らせるであろう財宝、王族貴族であれど用意するのは難しいであろう貴金属の装飾の旗。

 それを目に皆が浮かれている。大量に金貨をポケット一杯まで入れている者も居る。

 そんな会話と光景を眺めるアインズの機嫌が悪くなっていく。

 

(…期待した俺が馬鹿だった)

 

 出来れば殺したくない。小さく生まれた気持ちの種は芽吹く事なく深く沈んでいく。

 当然と言えば当然だ。何故俺は…無礼を働かないかもと期待した?

 財宝を前にしたらこうなるのは当然だ。分かり切っていた事だろう。

 仲間達と集めた宝を懐に入れる者達の姿に、アインズの怒りが膨れ上がっていく。

 

「行くぞ!これは先が楽しみだ!」

 

 そう告げイグヴァルジを先頭に多くの冒険者が進んでいく。

 それを目に、ヘッケランが一向に動かない姉妹へと声をかける。

 

「行かないんですか?」

 

 姉妹は長くの間一つの旗に視線を向けている。

 貴金属で編まれた細かな装飾の美しい旗。

 旗に印された記憶にはない一つの紋章。

 妙な事に、それを前に姉妹に似た感情が生まれていた。

 言葉にできない不思議な感覚を覚えていく。

 

 偉大な父の背を前にしたような、古き知り合いに出会ったような妙な感覚。

 胸に湧く不思議な気持ちと共に、二人は自然と小さく頭を下げていく。

 

 それを目にしていた漆黒の剣がそれに習う。

 アダマンタイトがする事だ、何か意味があるのだろうと。

 その様子を眺めていたアインズが小さな驚きと共に問いを投げる。

 

「──何を?」

 

 そう問われ姉妹は顔を見合わせ考える。

 何だろうか。何故我々は頭を下げたのか。

 暫く考えるが答えが出る事はない。

 

「何だろ。わかんないや」

 

 そう口にしているベロスを傍目に、オートスは漁られ散らばった金貨を一枚手に取る。

 金貨に刻印された模様に目を向ける。

 精巧な作りの金貨に少し驚き考える。

 

(この模様に見覚えはない)

 

 一枚貰って調べるのも良いかもしれない。

 そんな気持ちが一瞬湧くが、棺へと戻していく。

 元より金銭には興味がない。

 

 何より──この妙な旗の前ではそのような事をしたくない。

 そんな不思議な気持ちがそうさせた。

 その行動に不思議そうにヘッケランが告げる。

 

「戻すんですか?」

「──敬意を」

 

 小さくそう口にし、自らの発言に困惑していく。

 ──敬意?私は敬意と言ったのか?敬意を払う相手等、ウルベルト様以外に一体何があろうというのだ。やはり…少し疲れている。

 小さく溜息を吐き出したオートスを眺め、暫く何か考えていたロバーデイクがポケットから金貨を棺に戻しアルシェに告げる。

 

「──そうですね、アルシェ。戻しましょう」

「え!?」

「我々には莫大な報酬が約束されているのですよ。死者に敬意を払う。忘れていましたが、これは誰かが亡き方に向けた物です。それに発見物には手を付けない契約です」

 

 ロバーデイクに諭されアルシェは渋々ポケットに居れた金貨を棺へ戻していく。

 その様子を見ていた森祭司(ドルイド)が続く。

 

「…確かに…これ程の物を逃すは惜しいではあるが、契約は契約である!」

「おいマジかダイン?」

「拾ったら、漆黒の剣が盗人の剣になっちまうぜ?」

「それは…ちょっと嫌です」

 

 金貨を拾い集めて棺へ戻しているベロスに続き、散らばる金貨を漆黒の剣が共に拾って棺に戻していく。それを眺める他の冒険者達が顔を見合わせる。

 

 発見物はブルムラシュー候の私物となる…確かにその契約もある。

 が、多くの者が考えていた事はそこではなかった。アダマンタイトが手を付けない上、その前で我々が手を付ける…と言うのは不味い。見ていた所、何故か分からないがこの墳墓に敬意を払っている。古い貴重な遺跡なのか、はたまた何かあるのか。アダマンタイト級の心証を損ねて良い事等ないであろう。彼等が何か口にした場合──金の為に取り返しのつかない物を失う方がよっぽど恐ろしい。

 冷静な判断を下せたのは彼等が日頃からモモンやベロスと交流を持っていたせいか、はたまた偶然か。そして小柄な少女の前で墓泥棒の真似事は…何とも気分が悪いと、皆が金貨を棺へ戻していく。

 

(この者達は…帰してやりたい)

 

 冒険者達の心中は別として、その光景はアインズに小さな好感を運んでいく。

 沈んでいった心の種が、ほんの小さく芽吹いていく。

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

「スケルトン?冗談だろ?」

 

 先行していくイグヴァルジ達が笑いながらそう告げる。

 徘徊していたスケルトンを撃破しながら機嫌よく道を進んでいく。

 分かれ道に辿り着き、皆が思い思いの方向へと散っていく。

 

 イグヴァルジが部屋の一つを蹴り開ける。

 そこには目を見開くような調度品の数々が飾られている。

 椅子一つ取っても貴族や王族が使うような物だろうか。

 

「ほんと…すっげぇ…」

「これが貴族の懐行きってのは許せねぇ…」

 

 皆が口々にそう告げ、手ごろな物を鞄やポケットに詰め込んでいく。

 歩みを進めていくと大きな部屋と扉が見えてくる。

 左右には松明が焚かれ、今までとは少しだけ雰囲気が違う。何か特別な部屋であろうという事が伺える。

 

「どうする?他のチーム…アダマンタイトを待つか?」

「何を見てきた?スケルトンだらけだぞ?俺が踏破してやる!」

 

 怒鳴る様に告げる。

 何がアダマンタイトだ。墳墓一つ調査しきれないとはいいネタになる。

 どう噂にするかと考えながら扉を開く。

 

 到着を祝福するかのように、扉の中から輝く光が皆を包み込んでいく。

 眩い光を放つ一つの光景を目に、皆が手に持つ財宝を思わず落としていく。

 

 絨毯が敷かれた、他国の使者を迎え入れる宮殿かのような広い部屋。その中央には巨大な鉢植えが置かれており、一本の木が生えている。

 その木は様々な実をつけ、その実は光を放ち光り輝いている。

 

「…あ……あれ…全部マジックアイテムだ」

 

 誰かが気付き震えながら口にする。

 実に見えたそれは見た事もないマジックアイテム。

 首飾りの様な物から小さな指輪のような物まで、様々な物が飾り付けられている。

 木の上部からの光はマジックアイテムが放つ光。

 恐らく王族だろうがこれ程の物は何一つとして持っていないだろう。

 

 根の近くには今までの財がちっぽけに見える程の、驚くべき装飾のされた剣や盾が飾られている。装飾一つに目を向けても、王族であろうが手が届く事はないであろう。

 仮に買えるだけの大金があっても現物がないであろう。手に入れる事すら出来ぬであろう幻の一品。他にも土の上には様々な巨大な宝石や、光を放つ未知の鉱物が美しく並んでいる。

 

 正にこの木こそが絵本の世界の富を生む木。

 この木一本で国すら買えるのではないか。そんな予感すらする。

 唖然と立ち尽くし、誰かが唾を飲む音が大きく響く。

 そんな中、飾り付けられたその木から声がする。

 

「え、えーと…こんにちは…」

 

 木が人の形を取ったと言うべき姿がそこにある。

 女性の様にも見えるがその体は木で出来ている。

 その身にも驚くべき細工のアクセサリーや数多の宝でドレスアップされている。

 身動ぎしないよう細心の注意を払いながら口を動かしている。

 

「…ド、森精霊(ドライアード)…?」

 

 墳墓の鉢植えに森精霊(ドライアード)

 それも驚きを通り越すような財宝に囲まれて。

 それが侵入者へ襲い掛かるわけでもなく声をかける。

 そんな妙な光景に皆が首を捻る。

 

「あのー……出来れば…あ、いや…えっと…帰ってほしいんだけど…」

「…お前がここの支配者か?」

「え!!?いや!!いや!ありえないから!!ありえませんから!!!」

 

 天井に目をやりながら森精霊(ドライアード)が悲鳴の様に告げる。

 大声と共に少し揺れ、実のように飾られたマジックアイテムの一つが地面に落ちる。

 

「あ…」

 

 森精霊(ドライアード)の顔が見る見る青くなっていく。

 そんな光景に首を捻りながら一人の冒険者が告げる。

 

「おい、このマジックアイテム……やべぇ…」

 

 それを受け皆が落ちたマジックアイテムに目を向ける。

 怪しく紫色の光を放つ一つのネックレス。多くの事は調べねば分からない。

 だが一つだけ分かっている事がある。

 

 この場に居る誰もが一度たりとも目にした事すらないであろう一品。

 

 視線が上に上がっていく。

 一目で最高級品、それも絶対に手が出ないであろうと理解できる程の物を実らせる森精霊(ドライアード)

 そんな森精霊(ドライアード)等聞いた事もないが、現実に目の前に居る以上信じないわけにもいかない。

 つまりあの光は全て最上級のマジックアイテム。

 

「…殺した魔物の戦利品なら持ち帰ってもいいよな?」

「あぁ…」

 

 剣を抜き口々に告げる。

 

「ちょ、ちょっと待って!戦う気はないんだって!帰ってほしいんだって!!」

「そうかよ!大人しくしてりゃ一瞬だ!」

 

 敵意はないと身振り手振りでアピールしている森精霊(ドライアード)へ一人の冒険者が飛び掛かる。

 武技を纏った一撃が頭部を狙う。

 

「ひー!?アウラ様!!もう!もう無理!!無理です!!!」

 

 悲鳴のような叫び声と共に、飛び掛かった冒険者の頭部が吹き飛ばされる。

 吹き出る血と共に転がっていく光景に何が起こったと冒険者達は立ち尽くす。

 

「デミウルゴス、これでいいわけ?」

 

 その声の出所に皆の視線が一斉に向かっていく。

 何時からそこに居たのか、鞭を持った一人のダークエルフとスーツを着た男が部屋に居る。

 

「素晴らしい!まさに野蛮な襲撃者だ!録画(ムービー)による録画も出来た!別の手段も用意していたが、取り越し苦労だったようだね。残りは捕えてくれたまえ、次の段階に移行する」

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

「──悲鳴?」

 

 入口付近で奥へ入る事を渋っていたオートスが口を開く。

 

「何かあったようです。様子を見に行きましょう」

 

 ヘッケランが剣を抜く。

 それを受けアインズが口を開く。

 

「待て。地上に戻るべきじゃないか?」

 

 アインズは悲鳴を耳に何が起こったか、何となく想像がついていた。

 探索のみで帰る者には手を出すなと命じた以上、恐らくは。

 正直アインズとしても、先行した連中は何があろうがどうでもいい。

 

 ──今は第一に姉妹を連れて進みたくない。

 それにこの場に居る者も出来れば傷付けず帰したい。

 

「何か起こったのは間違いない!今こそアダマンタイトの出番でしょう!?」

 

 そう言われると困る。

 ヘッケランとしては依頼通り、戦闘を見ておきたい。

 多少危険だろうがアダマンタイト級が3名。問題ないだろう。

 オートスとしては予想通り危機が潜んでいたと分かった以上、余計に進む気が起こらない。

 

「だからこそ、退路を確保する事も重要では?」

「その通りだ!」

 

 アインズが力強く同意を示す。

 ヘッケラン達は進むべきだと告げ、押し問答となっていると遠くから悲鳴が近寄ってくる。

 墳墓の奥から冒険者達が死に物狂いで駆けてくる。

 

「化け物だ!逃げろ!!」

「冗談じゃない!こんな所で死ねるものか!」

 

 ──<心臓掌握(グラスプ・ハート)>

 

 声と共に逃げて来た切れ目の男が崩れ落ちる。

 

「天武!?」

 

 ヘッケランが驚愕と共に倒れた男へ言葉を投げる。

 性格はさて置き、実力は間違いない男だとヘッケランは知っている。

 どういう状況だと当惑していると、一体のアンデッドが姿を現す。

 手にするそれは黄金の七つの蛇が模られた杖。身に付けるは漆黒のローブ。瞳は赤く揺らめき、正に死支配者と言えるべき存在感を放っている。

 圧倒的な威圧感に多くの者が固まっていく。

 特にアインズとオートスがその姿に硬直していく。

 

(は!?俺!?俺が居る!?)

死の支配者(オーバーロード)!やはりここは…!)

 

 その姿を目にアルシェが口を抑えている。

 オートス達を事前に見たからか、嘔吐する事を堪えている。

 そんな一行を目に、少しの沈黙の後にアンデッドが口を開く。

 

「──まだこれ程居たのか」

 

 鷹揚に杖を突き続ける。

 

「大人しく暮らしていてもこれか…お前達は…王国とやらが寄こしたのか」

 

(何だ!?どういう状況だ!?俺??俺が居るぞ!?)

 

 余りの想定外の状況に抑制される。

 

(…パンドラズ・アクターか!これはどういう状況だ!?)

 

「──大人しく友好的に過ごしても結果がこれか。…よくわかった。──このアインズ・ウール・ゴウンの治める地へ踏み入った事を後悔せよ。戻って伝えるがいい。我々は──王国へ対し、宣戦を布告する」

 

(は??せん…?今何て??)

 

「貴様らは生き証人として生かしてやる。生き残れば…だがな。──中位アンデッド創造」

 

 転がる天武の死体が蠢き巨大な剣と盾を持つアンデッド──死の騎士(デス・ナイト)へと姿を変えていく。

 一連の光景に呆然としていた冒険者の一人が悲鳴を上げる。

 見ただけで分かる。あの剣と盾を持つアンデッドは雑魚ではない。

 ではそれを作り出したアンデッド。奴は──。

 死の騎士(デス・ナイト)の咆哮と共に誰かが叫ぶ。

 

「──逃げろ!!」

 

 それを合図に地上へと皆が死に物狂いで駆けていく。

 そんな中にポツンと残る姉妹と鎧の姿がある。

 姉妹の片方は驚きの表情を浮かべ、片方は不思議そうに死の支配者(オーバーロード)を見つめている。

 

「今──」

 

 オートスが小さく口を開くと同時に杖で床を付く音が墳墓に響く。

 話は無用とパンドラズ・アクターが魔法を詠唱していく。

 

「──<魔法三重化(トリプレットマジック)黒曜石の剣(オブシダント・ソード)>」

 

 黒く輝く黒曜石の三つの剣が宙に現れる。

 その光景に我に返り妹の手を引き駆けていく。

 

「逃げますよ」

「姉上、今あいつ──」

 

 逃がすと言うなら好き好んで戦う気はない。

 本来ならばさっさと逃げるべきだった。

 それを引き留めたのはあの骨が口にした名。

 

(──アインズ…アインズ・ウール・ゴウン?)

 

 二人の脳裏に古い記憶が小さく蘇る。

 遥か昔に父が探していた一つの名。

 何故探してたのか。一体何なのか。

 全てを思い出す事は叶わずとも、父が語った名だけは記憶にある。

 ──アインズ・ウール・ゴウン

 何故その名を?奴は?一体何が?と混乱しながらも駆けていく。

 

 一方で一人ポツンと残されたアインズが何度も抑制されている。

 不思議そうに首を傾げるパンドラズ・アクターがアインズを見つめ、問いかける。

 

「ンァインズ様?そろそろ動かれませんと次の段階に移れませんが」

 

 死の騎士(デス・ナイト)が追っていいのかと、顔をアインズと冒険者達の逃げた先に交互に動かしている。

 暫くの抑制でようやく落ち着きを取り戻し、絞り出すようにアインズが口にする。

 

「……これは…どういう状況だ?」

「今の所、指示通り全て順調に運んでおります。後はンァインズ様がエ・ランテルへお戻りになれば!全てはご計画通りかと」

「……計画?」

 

 絞り出した声が普段通り出た事にアインズ自身が驚いていく。

 今まで時間を見つけて繰り返した訓練の成果だろうか。

 

「はぁ…参謀殿…デミウルゴス様を導かれたアインズ様の計画でございますが…何か問題が?」

 

(…は??俺が導…何を言ってるんだこいつは??)

 

 暫くの間を置いた後に絞り出す。

 

「……………そうか。順調か」

「アインズ様?」

 

 不思議そうに眺めるパンドラズ・アクターを目に…わかりません。と言える訳もなく、鷹揚に頷き混乱しながらも冒険者達を追っていく。

 

(──何がどうなってる!?計画!?追い返し計画って事か!?わからん!これでいいんだな!?デミウルゴス!?)

 

 最早何が正解なのか、何が起こっているかも分からずアインズは駆けていく。

 少し間を空け追いつかぬ程度の速度でアインズ達を追い、死の騎士(デス・ナイト)もエ・ランテルに向け駆けていく。

 

 

 

 ・

 

 

 

 殿を務める形となったアインズとエ・ランテルへと距離が徐々に近寄っていく。

 走りながらも息を切らせた冒険者達に追い付かぬ程度に何度か戦う…戦う雰囲気を醸し出し、時間を稼ぎながらアインズは考える。

 

(この死の騎士(デス・ナイト)どうしたらいいんだ!?倒していいのか!?何処まで追って来るんだよ!?)

 

 以前エ・レエブルでデミウルゴスの計画と知らずに悪魔を撃破した事が脳裏に浮かぶ。結果的には…悪くはなかったらしいが。今回も倒していいのか、それとも倒さぬ方が良いのか。暫くの後に責任を未来の自分へ投げ、保留という選択肢を取る事を選択する。

 

(本当にどういう状況だよ!?)

 

 暫くの後にエ・ランテル近郊に多くの人影が見えてくる。

 馬を乗り潰し、一足先に戻った冒険者の報告。

 墳墓に強大なアンデッドが出現、漆黒が殿を務めるもエ・ランテルに接近中。多くの調査チームが消息不明。

 それを受け、アインザックとラケシルに指揮された多くの兵、魔法詠唱者(マジックキャスター)、そして残っていた手の空いている全ての冒険者達が門の外へと集まっている。

 

「モモン君!無事かね!?」

「組合長、これは──」

 

 アインズの言葉は獲物を目にした死の騎士(デス・ナイト)の歓喜の咆哮にかき消されていく。

 

「あれが…確かに見た事もないアンデッドだ。近寄せるな!やれ!」

 

 それを合図に魔法詠唱者(マジックキャスター)達から無数の魔法が飛んでいく。

 多種多様な魔法が雨の様に降り注ぐが、大楯が容易に防いでいく。

 

 大楯を構え、兵士の群れの中に死の騎士(デス・ナイト)が突っ込んでいく。

 巨大な剣の一振りは兵士達を紙屑のように千切っていく。

 少しの間を置き、死んだ兵達が蠢きはじめる。

 従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)と成り他の生者に襲い掛かっていく。

 農民に近い王国兵。兵士として鎧兜を付けただけに近い存在。しっかりとした訓練等も受けていない者達に太刀打ち出来るわけもなく、瞬く間に被害が拡大していく。

 

「殺した者を従者にするだと!?」

「近寄るな!!遠巻きから魔法で仕留めろ!」

 

 指示が飛ぶも混乱した兵の群れには響く事もなかった。

 恐怖に支配され我先にと逃げ出していく。隊列は崩れ、人が人を押し倒す。

 その一種の冗談のような光景をアインズも眺めている。何だこれは。全部デミウルゴスの計画なのか?こんな状況…いや、最初から何一つわからん。

 出来上がっていく死体の山に少しの嫌悪感が胸に過っていく。

 

「八咫烏が居れば…!」

 

 口惜しそうにラケシルが唇を噛み締める。

 それにアインズが反応していく。

 

「そういえば姉妹は?何かあったのですか?」

「負傷し…一時下がっているのだ…」

「何!?」

 

 ──実際の所は負傷等していない。

 昨日から続いた数多の出来事。感じぬはずの極度の疲労感に頭の整理が追い付かず、ベロスに頼み幻術で適当に偽りの傷を作り上げた。後に適当に理由をでっち上げ、速やかに場を離脱しただけなのだが。アインズがそれを知る由もない。

 暫く立ち尽くし、巻き起こる惨状を目に小さく呟き歩き出す。

 

「だから…嫌だったんだ……結局傷付けてしまったのか」

 

 人の群れを掻き分け死の騎士(デス・ナイト)へ向け進んでいく。

 

「…本当に、どうなってるんだ」

 

 足元に転がる死体を目に、存在せぬ眉を顰める。

 これが…デミウルゴスの言う計画なのか?わからん。

 必要なのか?手を出さない方がいいのか?

 そもそもこいつが…こいつ等が墳墓に来なければ。

 様々な感情と共に浮かんだ苛立ちの感情が、剣を握る手に力を入れる。

 暫く考え一つの結論に辿り着く。

 

「──今の俺は冒険者モモンだ」

 

 デミウルゴスならきっと上手くやってくれるだろう。

 信頼という名の責任を投げていく。

 今の俺は冒険者モモン。ならば冒険者モモンとして振舞うべきだ。

 そう決断を下していく。最早どうしたら良いか等わからん。

 

 何より以前では気にもならぬ死体の山。

 何か妙にその光景が不愉快だった。

 

「行くぞ」

 

 声と共に漆黒の大剣が振るわれる。

 大楯が受け、返しの大剣──フランベルジュが振るわれる。

 それを二対の漆黒の剣の一本が受けていく。

 

 盾を弾く様に横振りに大剣を振るい、胴へともう一本が入っていく。

 痛みなど感じぬとフランベルジュが肩を掠め鎧に傷をつけていく。

 暫くの攻防戦の後に死の騎士(デス・ナイト)の首へと大剣が入り込む。

 高く飛んでいく首と共にその光景に歓声と歓喜の声が木霊する。

 

「モモン君!!君は…!やはり人類の──」

 

 アインズを称える歓喜の声は一つの光景にしぼんでいく。

 死の騎士(デス・ナイト)の死が引き金のように、空が曇り暗雲が立ち込めていく。

 冬が来たと錯覚するような寒気を含む風と共に、エ・ランテルを包み込むような巨大な暗雲から無数の影が降りてくる。

 

 黒い靄の様なモンスター。

 

 靄の中におぞましい無数の顔が浮かび、直ぐに形を崩していく。

 様々な種族の顔が苦痛を訴えるような表情を浮かべ消えていく。

 風の中にすすり泣く声、怨嗟の声、苦痛の悲鳴が輪唱となり響いていく。

 徐々に幾つもの声が重なり合い、一つの声となっていく。

 

『──聞け。我は偉大なる御方に仕えし者。至高なる地、ナザリック地下大墳墓より先触れとして来た』

 

 ざわめきが波の様に起こっていく。

 エ・ランテル内でも悲鳴や驚愕の声が上がっていく。

 

『──本日、リ・エスティーゼ王国は偉大なる御方の治めし地に足を踏み入れ、多数の人間を用い攻撃を仕掛け、略奪行為を行った。それを受け偉大なる御方は一つの決断を下された』

 

 ざわめきが大きくなっていく。

 

『──偉大なる御方、アインズ・ウール・ゴウンの意思を伝える。我等はリ・エスティーゼ王国への宣戦を布告する。手始めにエ・ランテルの地を支配下に治めるべく軍を起こされた』

 

「…は??」

 

 黒い鎧から声が一つ上がる。

 一体何を言ってるんだこいつは??

 最早考える事も諦めその光景を眺めていく。

 モンスターが歪に形を変えつつ高く浮き上がり告げていく。

 

『──偉大なる御方は時間をお与えになられた。軍を動かすは本日より数えて十日後。ゆめ忘れるな。十日後を──』

 

 そう告げ空を墳墓の方角へ向け飛行していく。

 強大なアンデッドを使役するアインズ・ウール・ゴウンと名乗る者の宣戦布告宣言。

 未曾有の脅威の出現の噂が王国中に伝わっていく。




『クラルグラ』イグヴァルジ君ご一行
生き証人と実験台として手厚くもてなされている模様(真実の部屋)
良かったな生きてるぞ!

『天武』
ナザリックの栄光ある先兵として大活躍した模様
兵士や冒険者を大勢倒し、最後はモモンに打ち取られるという大活躍
デミウルゴスもニッコリ。

『漆黒の剣』
アダマンタイトに習った結果好感度を獲得。ついてるぜ!
『フォーサイト』
ロバーデイクの勘違いにより好感度を獲得。ついてるぜ!
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