ウルベルトの贈り物   作:読み物好き

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前回までのあらすじ
頑張れ!エ・ランテル君!


思い出の部屋

 

「…アインズ・ウール・ゴウン」

 

 窓から空を見上げ、オートスがポツリと呟く。

 ──アインズ・ウール・ゴウン。

 聞き覚えがある。記憶違いでなければ──。

 ウルベルト様が探しておられた。まさかこんな形で…今まで一切無かった情報を得られるとは。ついに当たりを引いたか?だが…あの墳墓、そしてアインズ・ウール・ゴウンとはいったい…。

 ぼんやりとした記憶を眺めるも正解は出てこない。

 珍しく難しい顔をして共に空を眺めるベロスに視線を向ける。

 

「どう思います?」

「むかーし父上が探してたよね」

 

 それは分かってる。その言葉を飲み込み考える。

 問題なのは何故探していたのかだ。

 幾つか可能性を頭に浮かべていく。

 

 アインズ・ウール・ゴウン…物や組織…抽象的な何かだろうか?

 それはないか。死の支配者(オーバーロード)、奴が自分がそうだと言っていた。

 では可能性は絞られる。

 個人名だとすると、何故探しておられたのか。

 

 知人や友人といった友好的な存在だった可能性。

 ぼんやりと考える。ウルベルト様のご友人…?確か以前そんな話をされて──。

 揺れる記憶に問いかける。

 

 ──そうだ。遥か昔、ご友人がおられたと聞いた記憶がある。

 少し…寂しそうにこの世界には居ないと仰っていた。

 この世界には居ない。

 死なれたのか?死して蘇生も叶わぬとなれば…寿命か。

 

 実際はゲームから突然の異世界への転移なのだが。そもそも転移してきたと知らぬ彼女には、転移時にはナザリックが存在しなかった等、気付く事ができるわけもなかった。

 

 

 では──敵だった可能性。

 敵対的な存在だった?だから探し出されようと?

 ウルベルト様に匹敵する存在等居るはずが…。

 無詠唱の超位魔法が脳裏を過り眉を顰める。

 わからない。アインズ・ウール・ゴウン。一体何なのだ?

 答えの出ない問いに頭を捻る。

 

「それと、あの旗何だったと思う?」

 

 確かに。あの旗は──見た事もないが、妙な気持ちになった。

 何だったのだ?わからない。暫く頭を回転させるも答えが出ない。

 何か、何かヒントでもあれば…。ヒント…何でもいい。何か──。

 暫く考え一つの結論に辿り着く。

 

「一度──部屋へ戻りませんか?」

「父上の部屋?」

「そうです。何かヒントがあるかもしれません」

「いいね!久々に帰りたい!」

 

 何か手掛かりが…実際は何もないだろう。

 が、最近…疲れた。長く部屋も空けている。

 一度戻り…休みたい。

 

「では戻りましょう」

「あ、なら近くだし、バザーにも会いたいなぁ」

「…それはまたの機会に」

 

 幾つか会話を交わし転移門(ゲート)を唱えていく。

 門の中へ二人の姿が消えていく。

 

 

 

 ・

 

 

 

「………面を上げよ」

 

 ナザリック大墳墓、玉座の間に声が響く。

 守護者達の他に多くの主要な僕達も集まっている。

 

 アインズは状況が全く分からず、何から話せばと悩んでいく。

 暫くの後、一つが頭に浮かぶ。追ってきた死の騎士(デス・ナイト)

 アレを撃破したのは不味かったか…?

 

「まずは──私が滅ぼした死の騎士(デス・ナイト)だが…」

「流石はアインズ様!あれ程絶妙なタイミングでの撃破して頂けるとは、完璧とは正にこの事でございます!」

「う、うむ」

 

 心で安堵の息を吐く。倒した事自体は問題はなかったらしい。

 では──本題だ。あの宣言は何だ。一体何が起こっている。

 小さく深呼吸し、既視感を感じつつ告げていく。

 

「デミウルゴス…皆に分かりやすく……初めて聞く者にも分かりやすくだ。全てを説明せよ」

 

 ほんとに頼むぞ…そんな思いでデミウルゴスへ視線を送る。

 それを受けデミウルゴスが少し間を置き皆へと告げる。

 

「諸君!今回王国が不敬にもナザリックへと足を踏み入れた。許されざる事だ。だが──アインズ様がそれを利用される事で我等に道を標された!」

(うん…うん??)

 

「これを利用し、アインズ様の主なる目的…世界征服の足掛かりとする!」

(は??)

 

「分からなかった愚か者は居ないね?」

(えぇ…)

 

 集まる皆が、尊敬と敬意を込めてアインズへと視線を投げる。

 玉座に鎮座する骨の王は暫く発光し続ける事となる。

 

 

 

 

「──と、いうわけだ。その為にアインズ様が冒険者を率いて参られたのだよ!」

(ど、どういうわけですか!??)

 

 説明を進める度に抑制されながらも食らいついていくが、話が理解できていない。

 

「そこで計画を大幅に変更し、王国への宣戦布告を持ってナザリック大墳墓という国を作り上げる方向へ舵を切ったわけだ!」

(あぇえええええええ!??)

 

「無論これは全て──そう、カルネ村を支配された時からアインズ様が計画されていた事だ!」

(…は??カル??カルネ村??…デミ…デミウルゴス??)

 

 アインズの瞳の赤い光が消えていく。

 その後も何か色々話していたが最早頭に入ってこない。

 

「──以上だ!」

 

 説明が終わると共にその場の皆が深く頭を下げていく。

 …終わった。説明が終わってしまった。

 建国!?俺の導き!??大幅に計画を変更!???

 何の話をしていたんだデミウルゴスは!??

 混乱の中、アルベドが口を開く。

 

「これで後手に回る事はなくなるわ。アインズ様へ敵対した愚か者を国として…表舞台で調査できる。そして──アインズ・ウール・ゴウンの名の下に全てはアインズ様に跪く事でしょう」

 

 それを耳に考える。なるほど。確かに。

 今までは存在を隠すため、プレイヤーの情報収集等も極秘裏に動く必要があった。それを大規模に行える。それは素晴らしい!

 

 …素晴らしい…んだよな??

 そして同時にアインズ・ウール・ゴウンの名を広める事が出来る。

 もし、もし仲間達が居たらその耳に──。

 

 大部分はわからずもメリットを頭にアインズは話に流されていく。

 何だか分からないが計画…を大幅に変更したらしい。

 その上で何の話かわかりませんとは、皆が望む支配者として振舞うアインズが言えるわけもなく。普段通りに振舞う事を選択していく。

 

「うむ………デミウルゴス、アルベド。良くぞ気付いた」

「アインズ様のお導きあってこそでございます!」

「う…うむ。しかし…国か、国起こしとは…今後の動きは…どう考えているのだ?」

 

 アインズに国の事等分かるわけもなく。

 何をしたら良いのかすらわかっていない。

 それを受けアルベドが告げる。

 

「宣言通り10日後にエ・ランテルを攻め落とします。その後エ・ランテルを拠点とし、建国致します。この地は三国の主要な地、正にアインズ様に相応しいかと。また、正当性は我等にあると伝えるべく各国へと今回の録画(ムービー)を複製した物を用意し使者を派遣致します。本来ならば即座に攻め落とすべきですが、猶予を与える事で他国に正式な手段を踏んだと示します」

 

 なるほど…周囲に俺達は被害者だと言い回るわけか。

 ユグドラシルでも敵を作りすぎないように立ち回る事は重要だった。

 ………あれはゲーム……だけどさ…。

 アインズが話を続ける。

 

「建国……具体的にはどう考えているのだ」

 

 建国…ゲームくらいでしか…想像できん。

 いや、ゲームですらわからん。何をするんだ?

 ギルドみたいに最深部のボスを倒してダンジョン攻略して…ってわけでもないだろ?

 あぁ…わからん。ぷにっと萌えさんが居れば…最早そういう話じゃないか?

 

 そもそも建国ってしようと思って出来るのか?

 大量の疑問がアインズに沸き上がる。

 それを受けデミウルゴスが口を開く。

 

「実験台、素材、稀有な能力と必要に応じ生かします。王国での選別は済んでおりますので、エ・ランテルを攻め落とした暁にはアインズ様に相応しいアンデッドの国となるかと!」

 

(なるほど…なるほど?…アンデッドの国か。…アンデッドの国!?今聞き逃すのは不味い事口にしてなかったか!?)

 

「より詳しく述べよ」

 

「今回の戦いは覗き見る者が居る可能性、そしてナザリック初の表舞台での戦いを考慮したいと考えております。無様な真似は晒せません。宣戦布告と共に多くの僕を持って迅速にエ・ランテルの王国民を殲滅、力を示すべきかと愚考致します。それにより周辺国への圧力をかける事と同時に財、労働力及び戦力素材の確保が行えます」

 

 アインズは存在しない眉を顰める。

 労働力に戦力素材……何を言いたいのか流石にわかる。死の騎士(デス・ナイト)や他のアンデッドの素材…死体を指しているのだろう。

 

 ナザリックに敬意を払った一部の人間達が脳裏に浮かぶ。

 小さく芽吹いた気持ちが提案を受け入れる事に疑問を浮かべる。

 

 それが…ナザリックにとって…良い事なのか?

 本当に……仲間達もそれを望んでくれるのか?

 そんな気持ちが口を出る。

 

「…意見や考えのある者は口にせよ」

 

 暫くの沈黙の後に一人の声が上がる。

 

「人間達に選択と猶予を与えるのは如何でしょうか。あ、わん」

「猶予なら与えたでしょう?10日もよ。それに──」

「ペストーニャ、詳しく話せ」

 

 アルベドを制止し続きを促す。

 

「デミウルゴス様の提案では多くの者が死んでします。アインズ様は慈愛に満ち友好的に振舞われたと聞きました。でしたら降伏を勧告し、戦わずとも良い道を示せば慈愛ある行動が真実だと周辺国が知るはずです。あ、わん」

 

 確かに。勧告が成功すれば犠牲は出ない。

 ダメでも…やらないよりずっとマシだろうと鷹揚に告げる。

 

「よくぞ考えを示した。死者と廃墟の都市ではナザリックの名が泣こう」

「何と慈悲深きお心……そういう事でございますか。成程、モモンは建国の為の駒であり、同時にその為にあったと」

「…そういう事ね!流石はアインズ様!」

 

(…え??モモン??こいつは何を言っているんだ??……ああ、あれか?アインズとかいう奴がまた何か指示したのか?ほんとに賢い奴だ。……じゃなくて!?ここで分かったふりは……ちょっと不味いぞ)

 

 現実逃避に片足を突っ込んだものの持ち直す。

 今デミウルゴスはモモンと言っていた。つまり──俺に何か期待している!?

 何もわからないのにこれはいかんと足を引き抜いていく。

 

「──デミウルゴス、理解した事を説明する事を許す」

「はっ!私程度の非才の身ではやはりアインズ様の叡智の一端にすら及びません。正にアインズ様こそ深淵なる叡智を持たれる唯一無二の存在かと!」

 

 違う。そうじゃない。

 何で何時もみたいに説明しないんだよ!?

 

「──アルベド」

「はい!流石は叡智極まる…いえ、叡智とは正にアインズ様を指す言葉!我らが王にして至高なる御方!」

 

 違う…そうじゃない……。

 わからん!ただの社会人にこんな状況がわかるわけないだろ!!

 心の底からそう叫び、心で拳を振り上げしょんぼりと下ろす。

 俺が絶対者のふりをしたからか…?あぁ…どうしよう。

 だがアインズとて引き下がれない時がある。ここで何時ものふりをすると…大変な事になる。今が、今こそが正に決戦の時だとその存在しない脳を回転させ、内容を知るべく戦いを挑んでいく。どうしたら良いんだよ本当に!?という意気込みと共に。

 

「──よくぞ我が意を察した。デミウルゴス、お前はどう動く事が最上だと考える?」

「はっ!既に全てはアインズ様の手中!アインズ様の意の通り行動くだされば、全て最上の成果となりましょう!」

 

 敗北。

 その意がわからないんだよ!!誰だよアインズって!??俺か??本当に俺が思った通りに動けば全て解決するのか??そんなわけあるか!!

 そんな中でコキュートスが口を開く。

 

「建国シ、王ヲ名乗ラレルノデアレバ、何カ称号ガ必要デハナイデショウカ」

「確かにそうね!ただの王では有象無象とアインズ様が同程度とされてしまうわ!」

 

 称号!?そんなの本当にいるか!?

 アインズは既にキャパオーバーもいい所である。

 そんなアインズへ皆の視線が集まっていく。

 

「…良い案がある者は発言を許す」

「ではわらわから!美しき我らが王!美貌王は如何でありんしょう!」

(…シャルティアよ…お前達も素晴らしいという視線を向けるんじゃない!)

 

「はーい!アインズ様はとっても強いので強王とかどうでしょうか!」

「その深淵なる智謀!正に賢王が相応しいかと!」

(それだけはやめろ!!)

 

 暫くの盛り上がりの後にコキュートスの提案、魔導王にて収まる事となる。

 それに続きシャルティアが手を上げる。

 もう、もうやめて。そんな気持ちを押し殺し顎で許可を出していく。

 

「建国という事は、国にも名前が必要でありんしょうか?」

 

 それを受け少しの沈黙の後に口にする。

 

「アインズ・ウール・ゴウン。それ以外にはないだろう」

 

 もし国を作るなら、ギルド名を掲げる。それ以外にはないだろう。

 僕達から歓喜の声が上がっていく。

 

「アインズ・ウール・ゴウン魔導国。魔導王アインズ様…という事でありんしょうか!ああ、何て甘美な響き!」

 

 集う皆が深く、深く頭を下げる。

 あぁ…どうしよう…パンドラが俺の姿で宣戦布告なんて言うから…。

 いや、あの先触れが……いや、よくわからん計画が……。

 …ここで考えていてもわからん…せめて現場を見なくては。

 先ずは…先ずはエ・ランテルの様子を見に行こう…。

 降伏…降伏してくれるのか?ダメそうなら、まずは姉妹を何とか遠ざける。冒険者達、住民にも…降伏がダメそうなら避難を呼びかけてみるしかない。

 

「私は…モモンへと戻る。皆の忠義と働きに期待する」

 

 そう告げアインズは玉座の間を後にする。

 

 

 

 ・

 

 

 

 ──エ・ランテルは蜂の巣を突いたような騒ぎとなっていた。

 墳墓への調査を行った結果、多くの冒険者達が戻らず強大なアンデッドが潜んでいたという事実。

 撤退してきた冒険者達を追ってきた巨大な剣と盾を持つアンデッドがその危険さの片鱗を垣間見せた。

 更にはそれが王国へ宣戦布告を宣言した。兵士、冒険者総出で厳戒態勢が引かれる事態となっている。

 

「八咫烏と漆黒は何処に居る!?」

 

 組合でアインザックが悲鳴に近い叫び声を上げている。

 

「どちらも見ておりません!」

「黄金の輝き亭まで使いを出せ!負傷中等と言ってられん!モモン君も宿に居るだろう!」

 

 それを受け冒険者達が駆けていく。

 アダマンタイト級の2チームが街に戻り、一度宿に戻りその後姿を見せないという事態が混乱に拍車をかけている。

 

「組合長、都市長と魔術師組合長がお越しです!」

「分かった!部屋へ通せ!お前達は席を外してくれ」

 

「墳墓の調査…藪蛇だった…だがこれでは蛇では済まん…」

 

 アインザックは力なく項垂れる。

 部屋へと二人が入室してくる。

 魔道組合長のラケシルは緊張の色を表に出し、都市長も何時もの少し気が抜けた面影はない。

 事態を重く見ているという事が伺える。

 都市長が椅子へと腰を下ろし告げる。

 

「話は聞いている。君はこの状況をどう見ているのだ?」

「受けた報告を整理しますと…未曾有の危機だと判断します」

「それには同意する。追ってきたアンデッドを私も見た。それにあの空の変化…雲操作(コントロール・クラウド)…違うな。寒さすら感じた……噂に聞いた事がある。天候操作(コントロール・ウェザー)…か?」

 

 顔を引きつらせ、ラケシルが告げる。

 それを受け、都市長が小さく問いかける。

 

「コントロール…?それ程に危険だったのか?」

雲操作(コントロール・クラウド)は第四位階魔法、天候操作(コントロール・ウェザー)は…噂では第六位階魔法です。つまり…都市長、最悪の場合…第六位階魔法を使うモンスターという事です」

 

「それにあのアンデッド…殺された兵がその場でアンデッドとなっておりました。つまり…追ってきたアンデッドが人間を殺せば、その兵はアンデッドとなります。そして何より…強大な力を持っていました」

 

「生き残った冒険者からの報告では、墳墓に潜むアンデッドが人間の死体からそれを作り出したとされています」

 

 それを受け都市長が眉間に皺を寄せる。

 

「…つまり…強大なアンデッドを作り出せる者が居る。その者が作ったアンデッドに殺されると…アンデッドになる。更に…魔法には詳しくないが…第六位階魔法を使うモンスターすら使役している…そんな者が…宣戦布告をしたと?」

 

 力なくアインザックが首を縦に振る。

 

「…兵で言えば君達は──どの程度を想定しているのかね?」

「強大なアンデッドを作り出し──そのアンデッドが殺した者はアンデッドとなります。更にアンデッドは疲労を感じません。そして…第六位階魔法を使うモンスターすら控えているとなると……兵──という意味では…国総出で…何とかなれば良いかと…」

 

 都市長が一気に青褪めていく。

 

「──王都や各貴族…それに王都の冒険者組合にも既に緊急の連絡と…救援の要請を飛ばしているが……組合長…何とかなるのか?」

 

 それに答える声は上がらない。

 天井を見上げ、アインザックが小さく口にする。

 

「…何とか……するしかありません。先ずは虹、天狼、漆黒、八咫烏…エ・ランテルの最大戦力を集めて協議します」

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 アベリオン丘陵のとある地下室に声にならない悲鳴が木霊する。

 生きたまま皮膚を剥がれていくその悲鳴は止まることなく木霊していく。

 

「在庫が足りない。追加の羊は?」

「今輸送中。少しだけ時間を頂戴…」

「構わない。が、前任者と同じ末路を辿らないでほしいが」

 

 拷問の悪魔(トーチャー)が告げると顔色を青くした女淫魔(サキュバス)がブツブツ呟きながら報告書に記載を進める。

 

豚鬼(オーク)の交配は成功したわ!身籠ったはずよ!後は数を増やすだけ!」

「俺に報告されてもな」

 

 女淫魔(サキュバス)を背に、拷問の悪魔(トーチャー)は運ばれてきた羊に手をかける。悲鳴が止む事無く木霊していく。次の回収は三日後だ。それまでに指定量揃えなければ。

 剥いだ皮を溶液に浸しながら喜ぶ主人の姿を思い、丁寧に油を落としていく。残酷で残忍で慈愛に満ちるスーツの主人の姿を思い浮かべて。

 そんな中、半球体の闇の扉が空間に発生する。

 

転移門(ゲート)?」

 

 回収は三日後のはず。何かあったのか?何か我らに落ち度が?或いは新たな計画?その場に居た皆が一瞬不思議そうに転移門(ゲート)を見つめ、即座に臣下の礼を取る。

 その闇の扉から現れたのは見慣れた主人のそれではなかった。

 

「…は?」

 

 部屋へと足を踏み入れた長身の女性が口にする。

 感情が抜け落ちたような表情を浮かべている。

 

「…え?」

 

 少しの間の後に小柄な女性が足を踏み入れる。

 その表情には困惑の色が現れている。

 拷問の悪魔(トーチャー)女淫魔(サキュバス)は疑問と当惑を顔に表す。

 誰だ?あの姿…人間…か?新たな皮…な訳がない。転移門(ゲート)を使ってきた人間?デミウルゴス様の新たな使い…?分からない。何も聞いていない。そんな疑問を破るように声が響く。

 

「姉上…場所間違ってない?転移門(ゲート)の失敗?」

「そ、そんな筈は…」

 

 拷問の悪魔(トーチャー)達以上に混乱と困惑の中に居たのはオートスとベロスの二人であった。

 少し長く留守にした。久々に戻ってきた。そこまではいい。

 だが目に飛び込んできた光景は、懐かしき記憶のそれではなかった。

 転移門(ゲート)の転移が失敗…するはずがないが。失敗したか、目的地が間違っていたと考える方がまだ納得がいく。

 

「………あぁ!?」

 

 暫く唖然と見渡していたオートスが一つに気付く。

 書類が山積みになっている机に見覚えがある。

 あれは私の机だ。見渡す事で見覚えのある物がちらほら目につく。

 書類が入れられているアレは本棚だ。

 あの血塗れの机は──ウルベルト様が紅茶を飲まれていた──。

 

 暫く唖然と眺めて脳が理解していく。ここは──我等の部屋だ。

 美しかった部屋は血と油と汚物の汚れと臭いが充満し、床板と壁は崩され、より広く、より深くと拡張されている。地下深くから悲鳴が鳴り響く中、多くの悪魔がこちらを不思議そうに眺めている。

 オートスが崩れるように部屋の中央へと歩み寄る。中央に添えられたウルベルト様の椅子。椅子があった場所には骨で作り上げられた玉座の様な物が代わりに鎮座している。

 

「何が…何…何が……」

「デミウルゴス様の使いの方でしょうか?順調ですがまだ所定の量には達しておりません」

 

 声の元に目をやると同時に背後に一つの物が目に入る。

 最近目にした不思議な旗。それと同じ物がそこに掲げられている。

 

「…あの、あの紋章は──」

 

 この地を。この神聖な地を汚したのはあいつか。

 俺を待っていてくれ。その命を破りこの地を空けた愚かな自分への怒り。

 そして何より素晴らしい日々の記憶への侮辱。もう二度と元へ戻る事はなくなってしまった思い出の部屋。

 

 様々な感情が一つに集約していくと共に放たれていく。

 氷の様に冷たい殺気に悪魔の群れが固まっていく。背や顔に大量の汗が流れ出る。

 守護者に向けられたような殺意の気配に指一本動かす事ができない。

 

 呆然と部屋だった場所を目にしていたベロスも似た感情を抱いていた。

 何が起こったの?どういう事?父上の思い出の部屋が。

 最早見る影も形もなくなった大切な部屋だった場所。これは許されない。

 父上を、私達の思い出を壊したこいつ等は許せない。絶対に。

 ──だが私は…完璧な盾として在れ。そう願われた。

 こんな力の使い方はきっと望まれない。そんな気持ちが力の行使を躊躇する。

 

「──殺す」

 

 姉が小さく呟いた。そうだ。姉上なら。

 姉上なら全部──全部壊してくれる。

 

「…<虚ろな実体(ホロウ・エンティティ)>」

 

 そう呟く妹を横目に冷たい怒りが木霊する。

 

 

 

 ──大災厄(グランドカタストロフ) 

 

 

 

 その日、アベリオン丘陵全域を巨大な地震が襲った。

 大地そのものが裂け、大きく抉れた大地は正に大災厄と呼べる爪痕を大地に残す事となる。

 

 遠い過去を眺めるように寂しそうにベロスが大地を眺めている。

 失った帰るべき場所、待つべき場所だった地を。

 

 そんな妹を横に憤怒の感情が燃え上がる。

 ──確かに見た。あの紋章は…あの墳墓の旗。

 

 ──あの墳墓、奴の拠点に潜るには…は不確定要素が多すぎる。

 宣戦布告…奴はそう言っていた。10日後奴が──姿を現すならば。

 急ぎ戻り準備を整える。姿を見せれば確実に、確実にその場で──殺す。

 怒りと殺意が吹き上がり、言葉となり小さく口を出る。

 

「アインズ・ウール・ゴウン。我等の──ウルベルト様の……敵か」

 

 同じ創造主から生み出された者により、運命の歯車は小さく狂っていく。




デミえもん:私の↓牧場が…↓↓↓
しまい  :何してんじゃオラァ!!
ももんが :俺の知らぬ所で修羅場の気配を感じる
うるべると:おっ?兄妹喧嘩か?仲良くしろよ


【挿絵表示】

モチベ維持の為に作ってみた原作風のアレ。

虚ろな実体(ホロウ・エンティティ)
一時的に非実体化し全ての物理、魔法は体を通り抜ける。
非実体化に特化した魔法による攻撃は通常以上の効果を発揮する。
星幽界の一撃(アストラル・スマイト)等の特化術等が入るとヤベェダメージが通る模様。
多分ガゼフに不意打ちのハムスケパンチ並みのダメージ。ヤベェ。
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