ウルベルトの贈り物   作:読み物好き

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前回のあらすじ
牧場の事忘れてたので回収したら酷い事になり始めた。(白目)


それぞれの思い

 宿屋の一室で大きな音が鳴り響く。

 振り下ろされた拳が机を真っ二つに砕いていく。

 

「──何故、何故何時も私の言う事を聞いてくれないのです。アレを許せと?」

「そうは言ってないよ…ただ、姉上のやり方だと無関係の人も沢山──」

 

 今までの情報をベロスに共有すると同時に今後の動きを話あっている。

 確実に殺す。その為の方策。それをベロスが受け入れない。

 

 自分に落ち着けと言い聞かせつつも拳に力が入りミシミシと音が響く。

 怒りに自然と食いしばり奥歯がギリギリと音を立てていく。

 絶対に殺す──確実性が必要だ。が、それをベロスが受け入れない。下等生物が何匹死んだところで何だというのだ。平行線の話が続いていく。

 

「私ちょっと出てくるね…」

 

 暫くの後にベロス小さく告げ、扉に向かって歩いていく。

 小さな体が普段以上に小さく見え、少し冷静になっていく。

 大人げなかった。その思いがその背に声をかけていく。

 

「──少し感情的でした。大丈夫ですか?」

「…うん、うん!大丈夫!また後でね!」

 

 空元気を目に胸が痛む。その感情が頭を冷やしていく。

 深く息を吐き、殺意を抑え込み、考えを整理していく。

 墳墓でも奴自身が出張ってきた。目立つ気がないなら墳墓でも死の騎士(デス・ナイト)で充分だったろう。あの大々的な宣戦布告の宣言。目立つ事、噂になる事が目的だ。

 

 であれば…必ず出てくる。それも──力を示すように、恐らく多くの僕を連れて。

 ならばそれを利用してやる。もし僕を連れて来なければ、そもそも人間を使えばいい、確実だ。

 ……そう考えるも小さく見えた妹の背に迷いが生まれていく。

 

「…ウルベルト様、この感情は…最早呪いです」

 

 暫くの沈黙の後に別の問題を先に考えていく。

 冒険者としての皮を捨てるか否か。

 暫く考えていると扉が叩かれる。

 

「オートスさん!居られますか!?組合長がお呼びです!至急都市長の屋敷までお越しください!」

 

 墳墓の情報を勝手に集め、提供してくれる。こうなれば組合は何とも便利だ。

 普段と全く違う街の様子を横目に今後の事を改めて思案していく。

 

 エ・ランテルには三重の城壁が存在する。外周となる第一区、中層を担う第二区、迎賓館や都市長の屋敷と行政区となる第三区。都市長、各組合長の判断の元、対アンデッドの為の施策により、第一区は完全に無人とするべく行動が起こっている。暴動が起こらず住民が従っているのは先触れを直接目にした事、そして悪魔の群れから都市を守った八咫烏、人類の英雄と呼ばれるモモンが居たからに他ならない。住民と入れ替わるように大量に樽が運び込まれている。

 そんな様子を横目に、都市長の屋敷へと歩みを進めていく。

 

 

 

「オートス嬢、療養中すまない…傷は…もう大丈夫かね?」

「知り合いに治癒魔法を使える者が居ますので」

「ほう!是非紹介…今はそれどころではないな。皆、よく集まってくれた」

 

 都市長の政務室に多くの者が神妙な面持ちで集まっている。

 都市長、魔術師組合長、(シルバー)(ゴールド)級冒険者、ミスリル級である虹、天狼、そして漆黒。

 アインザックが司会を務めていく。

 

「──例の件だ。改めて説明しよう。現在第一区を無人にすべく住民を誘導している。こんな事態になるとは夢にも思わなかったが…都市長達と協議を重ねた。もし…もし壁が突破されるような時は…第一区に侵入したアンデッドを区画と共に…焼く」

 

 初耳の者は驚愕を顔に表していく。

 と同時に小さく納得の声も上がる。皆が死の騎士(謎のアンデッド)の脅威を目にしている。モモンが居たからこそ撃破できたが、もし、もし居なかったら。そんな想像が顔を引き攣らせていく。

 そして先触れとなった、天候すら操るモンスター。

 それだけの脅威だと再認識し、顔を引き締める。

 

「クラルグラが戻らない所を見ると…ミスリルでも潜む脅威には歯が立たない、そして…エ・ランテルまで追ってきた死の騎士(例のアンデッド)だ。あれを知っている者は居るか?」

 

 アインズは口に出すか考える。

 死の騎士(デス・ナイト)の脅威を知ってもらえば諦め…降伏…してくれるのか?

 出る筈もない唾を飲み、口にする。

 

「あれは…死の騎士(デス・ナイト)と呼ばれるアンデッドです」

死の騎士(デス・ナイト)…?何故知っているのだ?詳しく教えてくれ」

「昔──この街に来る前に知ったのです。死の騎士(デス・ナイト)とは──」

 

 応えるように最低限の情報を出していく。

 耐久に優れたアンデッドである。殺した者を従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)に変える、従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)が殺した者は動死体(ゾンビ)に成る。充分な脅威であると皆が認識し青褪めていく。

 

「…モモン君、その死の騎士(デス・ナイト)だが……偵察に向かわせた者から情報が入った。例の墳墓前に…見た事のない金色の鎧を着用したアンデッド、それにその死の騎士(デス・ナイト)が無数に……確認されている」

 

 皆の顔色が青を超え、白く染まっていく。

 あれが、あれが複数…いや、都市長は無数と言った。つまり──。

 

「率直に聞かせてくれ。攻めてきた際に撃破……或いは…事前に撃破し、奥に潜むアンデッドを討てるかね?」

 

 沈黙を守るアインズへ視線が集まっていく。

 暫くの後に小さく告げる。

 

「難しいでしょう」

「…漆黒と…八咫烏と共にでもかね?」

 

 アインザックがオートスへと視線を投げる。

 それを受け考える。また理由を付けられモモン(疫病神)と組まされては、準備も考える時間も奪われる。

 暫く考え、冒険者としての地位を捨てる事を選択していく。冒険者としての姿と制約──第五位階縛り等して倒せる相手ではない。今の私には一枚カードがある。それを切り、一度身を隠すのが一番良いであろう。

 

「漆黒と同意見です。難しいでしょう、先ず我々には…今前衛が居りません」

「クレマンティーヌ嬢だったね…彼女は…どうしたのだね?今一体何処に…」

「所用で王都です。故に我々は先ず王都へ発ち、合流するつもりです。何をするにしても前衛なし…チームとして成立していないのでは、お力になれないでしょう」

 

 それを受け虹や天狼、他の冒険者達も渋い顔をしつつも頷いている。

 冒険者としてチームに欠員が居る状態、それがどれ程危険かは彼等こそが十分に承知している。

 難しい顔をし、都市長が口を開く。

 

「我らが戻るよう使いを出す。10日後…とは言っていたが、アンデッドが10日待つ保証もない。エ・ランテルに残っては貰えんかね」

 

 それを受けるもオートスは無言で首を横に振る。

 

「…そうか、なるべく……早くの帰還を待つよ」

 

 冒険者は本来縛る事が出来ない。それに彼女達は旅人だ。それを理解しているからこそ、都市長は強く引き留める事はしない。もし無理強いを願った結果、戻ってくれる可能性や戦う気を潰してしまうのでは。最悪なのは王国を出て行ってしまう事だ。

 合流後に戻って来るかもしれない、そして間に合うかもしれない。そう考えたからこそ首を力なく縦に振る。

 

 アインズとしては願ったり叶ったりである。最も危惧していた姉妹を戦闘に巻き込む事を回避できる。合流し戻ってくる可能性も勿論あるので油断はできないのだが。

 

 そんな様子を見ていた冒険者達の空気が重くなっていく。王都まで早駆けで駆け、合流し戻ってくる。それを10日以内に行わなくてはならない。ギリギリだろう。そして都市長が口にした通り、10日アンデッドが待つ保証もない。アダマンタイト級がこの事態に街を空ける事が何を意味するか、皆が分かっている。

 そんな空気の中でアインズが口を開く。

 

「都市長、組合長」

「何だね?」

「──アンデッド…墳墓の主は…会話が可能でした」

「そうだな…そう聞いているよ」

「話し合うという選択肢も視野に入れるべきではないでしょうか」

「馬鹿な!?」

 

 アインザックが悲鳴の様に口にする。

 生を憎むアンデッドに対し話し合う。奴は宣戦布告と言った。話し合い、あれだけの力を示した者がわかりましたと手を引くとは到底思えない。つまり──降伏。アンデッドに生者が降伏したら何が起こるのか。そんな事は想像に易い。

 

「ですが会話が成立する以上、一つの選択肢として考えるべきです。戦えば犠牲が多く出る事だけは間違いありません」

 

 数々の依頼を容易く、それも尋常ならざる速度でこなしてきたモモンが口にする事で、普段であれば一笑に付すような選択肢も現実味を帯びていく。

 それを耳に都市長が目を閉じ考える。自分には都市を預かる責任がある。住民を死ぬと分かっている場に放り出す事だけは出来ない。死が待つのは──降伏なのか、戦いなのか。

 住民を逃がすにしても数が多すぎる。安全な地であるならば考えもする。が、小鬼(ゴブリン)を始め多くのモンスターが蔓延る世界。その上アンデッドが追撃を仕掛けない保証もない。そんな中に家や財、仕事を失った数万、数十万の住民が放り出されれば、どのような末路を辿るかは想像に易い。暫くの沈黙の後に重く口を開く。

 

「……それは…モモン君、ありがとう。だがそれは我々が決める事ではない。国王陛下がお決めになる事だ」

「そう………そうですか」

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

「──以上がエ・ランテル都市長からの報告です」

「アンデッドが宣戦布告だと?それに…エ・ランテルを焼く?馬鹿な」

「冗談も程々にして頂きたいですな」

「レッテンマイア都市長の暴走は見逃せませんな、私が代わりに治めてもよろしいが?」

 

 リ・エスティーゼ王国、王城に様々な声が上がる。

 最も豪華な服を身に纏う者、ブルムラシュー侯が整った髭を触りながら口を開く。

 

「アインズ・ウール・ゴウン…聞き覚えがありますな。確か…カルネ村とかいう村を守ったと戦士長が以前報告を上げていた者では?」

「私も覚えている。魔法詠唱者(マジックキャスター)だったか?魔術師風情が宣戦布告?ふざけた話だ」

「噂によればその者自身もアンデッドとの事。戦士長、どういう事ですかな?」

 

 黒髪に黒の瞳の王の側に仕える戦士──ガゼフが告げる。

 

「──以前にも報告した通りです。カルネ村を襲撃した者達を迎撃した、仮面を付けた御仁がアインズ・ウール・ゴウンと名乗られていました」

「報告によれば、その者が宣戦布告を宣言したと?」

「愚か者にも困ったものですな」

「アンデッドですぞ?脳も入っておりますまい」

 

 個人が国を相手に宣戦布告。狂人の戯言もいい所だ。

 その場に集う貴族達もそれを表情に浮かべている。

 

「同時に墳墓とやらには莫大な量の財宝が確認された…との事ですぞ」

「それはいい!あの地は王国の地、その上愚かなアンデッドが潜むのであれば奪い取るが国を豊かにしましょう!」

 

 顔に傷のある歴戦の戦士の風貌をした貴族──ボウロロープ候が一歩踏み出し告げる。

 

「陛下!私にお任せあれ!アンデッド如き、我が精鋭が瞬く間に撃ち滅ぼして御覧に入れましょう!」

 

 玉座に腰掛ける老王、ランポッサ三世が口を開く。

 

「…戦士長の報告では強大な力を持つ魔法詠唱者(マジックキャスター)だと耳にした。そうだな?戦士長」

「はい、その通りです陛下」

 

「魔術師風情に何ができましょう!愚かにも王国に矛を向け、子供騙しで宣戦布告とは笑わせてくれる!魔法を詠唱している間に我が騎兵が串刺しにして見せましょう!」

「それは勇ましいですな!少し魔術を齧ったアンデッド如き候の敵ではございませぬ!」

「アンデッドはアンデッドでも骸骨(スケルトン)であったかな?ならば砕くが正解かもしれませんな」

 

 小さく笑い声が上がり、多くの貴族がボウロロープ候に賛同していく。

 額に皺を寄せランポッサ三世が一人の貴族に声をかける。

 

「…レエブン候はどう考えるのだ?」

 

 無表情に無言を貫いている貴族、レエブン候。

 部下に元オリハルコンが居る上に、今回の墳墓調査に向かった漆黒、八咫烏の両者を知る彼こそが集まりの中では最も事態を重く見ている。あの2チームでの調査失敗。これは下手をすれば取り返しが付かないような脅威であろう。その内心は王以上に穏やかではない。

 

「──報告ではミスリル級の冒険者を始め、多くが戻らなかったとされています。また、天候を操る魔法を行使したとか」

「たかが冒険者だろう?天候を操ったからどうしたというのだ」

 

「対モンスターに対して冒険者は特化しています。それこそ高位の冒険者は戦士長にも匹敵する活躍をする事でしょう。それにエ・ランテルまで追撃をかけてきたとされるアンデッド、容易に打ち滅ぼせるとは考えにくい──」

 

「──そしてカルネ村を救ったという報告がございます。会話が成立する相手かもしれません。私は先ずは…対話をと考えますが。戦うにしても10日後では準備も難しいでしょう。時期も時期です、帝国が戦争を仕掛けてくるやもしれません」

 

「対話!?相手はアンデッド…モンスターですぞ!?」

「随分と弱気ですな?レエブン候?」

「帝国が仕掛けてくるやもしれぬからこそ、今のうちにモンスターを討つのですぞ!」

「仕方ありますまい。候は領土がモンスターに荒らされております故」

 

 多くの貴族がレエブン候に疑問や不信の目を向けていく。

 レエブン候の事を高く評価するボウロロープ候が口調を正し告げる。

 

「レエブン候の意見はわかりました。確かに敵を侮るというのは愚かな行為でしょう。戦士長と…冒険者とやらの実力を買いましょう。1万5千の兵を集め、更に我が精鋭兵団5000も参戦させましょう。残り日数を考えても1万5千であればエ・ランテルまでの移動を考えても可能でしょう」

「おお!流石だ!それに精鋭とはボウロロープ候の噂の兵団か?」

 

 体格の良い男が声を上げる。

 それを受けボウロロープ候が親しげに告げていく。

 

「その通りですバルブロ殿下!1万5千であれば、もし帝国が仕掛けてきても予備兵で十分に対応できましょう!」

「それは素晴らしい!」

 

「殿下が指揮を取って頂いても構いませぬぞ!多くの財宝が眠るとも耳にします!自国を守る次期王として華々しい活躍となるでしょう!」

「流石はボウロロープ候!頼もしいお言葉です!我が領土からも6千の兵を出しましょうぞ!」

「我が領土からでも4千程度であれば期間内に集められましょう」

「し、私兵であれば700程度は用意できましょう!」

 

 ボウロロープ候に乗る形で領土を持つ貴族達が声を上げていく。

 それに続く様に、少数でも派兵出来る小貴族も貴族派閥に顔を売るチャンスだと次々と声を上げていく。帝国との戦争であれば御免被るが、今回は愚かなアンデッド退治。それを受けるだけで貴族派閥に顔を売れる機会等早々ない。調査に上がった驚くべき程の財という内容に強い興味を示し、そちらが目的の貴族も多く居る。

 

「おお!これが王国の頼もしき貴族達の姿よ!よろしいですかな!父上!」

 

 次期王という言葉に嬉々としバルブロが告げる。

 渋い顔で話を聞いていたランポッサ三世が小さく告げる。

 

「この時期だ…収穫もある。レエブン候の意見…まずは…話し合えないだろうか」

「父上!?」

 

 それを受けバルブロがレエブン候を睨み付ける。

 他の貴族達が言葉を投げていく。

 

「アンデッドと対話等、成立するはずがありません!」

「陛下、自国に湧いたアンデッド一匹に対応出来ぬと隣国に知らしめるようなものですぞ!」

「それも魔術師風情の宣戦布告を許し、対話ですと!?」

「左様です。王国弱しと判断し、帝国が調子づきましょう!」

「お優しさも美徳ですが、バルブロ殿下のように国民に勇気と力を示すのも王の役目ではありませんかな」

「それは仰る通りですな」

 

 ランポッサ三世がレエブン候に助け舟を求め視線を移す。

 レエブン候もその意図と視線を感じているが、強く出る事ができない。

 自領を大きく荒らされた事、そしてあの夜の決意。

 王国を何とかせねば。その思いと行動はレエブン候の巧みなやり口で貴族達から敵意までは向けられない物の、今では少しずつ反感や疑心を買ってしまっている。

 

 そして王、ランポッサ三世もエ・ランテル、エ・レエブルと続いた事件の影響を受けている。結果的にはであるが、冒険者達と貴族に任せきりという形となった。貴族達からはより風当たりが強くなり、少なからず以前より権威が弱くなっている。

 暫くの論争を経て一つの結論となる。

 

「──では、エ・ランテルに兵を集めます。今回は身の程知らずの魔術師退治、陛下にご足労頂く必要もございませぬ。全体の指揮権はボウロロープ候が取られます。更にバルブロ殿下が従軍され、件のアンデッド…魔術師を滅ぼします。宜しいですかな?陛下」

 

 ランポッサ三世が力なく小さく頷く。それを受け方針が確定されていく。

 貴族派閥からの風当たりがまた少し強くなり、王派閥の力がまた少し弱くなっていく。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 エ・ランテルの第一区画を人々が早足で走り回っている。

 避難する者、財産を運び出そうとする者、備品を運び込む者と様々だ。

 そんな中を一人歩いていく小柄な姿がある。

 

「時計の特殊能力(スキル)…」

 

 頭に浮かぶ言葉を小さく吐き出す。

 姉から共有された情報をベロスなりに解釈していく。

 

「父上の昔話にも──」

 

 ウルベルトがベロスを一人連れて向かった、異種族の里へのお出かけ──実際の所は情報収集なのだが。その際にベロスにせがまれ話した昔話。

 ユグドラシルでの昔話。仲間達と様々なダンジョンを攻略した話から、小さな喧嘩話に至るまで。ベロスが特に好んだのは仲間達と逆境を超えていくような冒険譚。

 仲の良かったバードマンが得意としたという超長距離の狙撃。そして同じく仲の良かった死の支配者(オーバーロード)の特定の魔法と組み合わせる切り札。まるで時計の様だと話してくれた特殊能力(スキル)の名。

 

「──The  goal  of  all  (あらゆる生あるものの目指)life  is  death(すところは死である)?」

 

 小さく口から出ると共に風に乗って消えていく。

 暫く考え首を振る。友達の…死の支配者(オーバーロード)…もし──。そんな気持ちが少し湧き、同時に否定の気持ちが起こる。父上の友達があんな事をする筈がない。

 

 暫く空を見上げて考える。あれは許せない、でも姉上の考えはよくない。

 同時に先の姉の言葉が頭を過る。

 

『何故何時も私の言う事を聞いてくれないのです──』

 

 姉上の考えも理解はできる。許せなかった。でも姉上が全部殺してくれた。

 確かに元凶が居るなら思う所はある。確実に倒す、その為にというのも理解はできる。

 それでも…ある日突然、無関係な人が、逃げる事も出来ない人達が、何も知らず大勢生贄にされ死んでいく。そんな不公平で理不尽な事は…許されてはいけない。

 勿論あの部屋は特別だし大切。許せない。だけど──本当に大切なのは部屋じゃない。

 大切なのは──父上と、姉上の思い出。

 

「姉上、私はそう思うんだ」

 

 小さく呟く声は誰に届くでもなく消えていく。

 空を眺めてぼんやりと立ち尽くす。

 

「ベロス、こんな所に居たのか」

 

 背にかけられた声に力なく振り返る。

 大きな荷物を持った見慣れた黒い鎧がそこに居る。

 

「元気がないな……こんな状況じゃ仕方がないか」

 

 アインズが少し小さく告げる。

 まぁ…そうだよな。遺跡調査をしたと思ったらアンデッドが宣戦布告……理解しろという方が無理だ。というか俺なら無理だ。当事者としても無理だったぞ。

 荷物を下ろし小柄な体に告げていく。

 

「少し──話をしないか?」

「うん、いいよ」

 

 王都に向かうとオートスさんは言っていた。

 だが戻ってきたら…困る。この二人を何とか…何とか今回の戦いの場から引き離す。

 傷を負ったと聞いた。また傷付けてたまるか、それだけは絶対に避けるんだ。

 全て落ち着くまで、戻らぬように釘を刺さねば。

 どう切り出すか。そんな考えを巡らせる中、先に問いが飛んでくる。

 

「モモンはさ、大切な場所ってある?」

「うん?勿論あるぞ」

「それを壊されたら──どうする?」

 

 大切な場所──ナザリックを破壊されたらか?

 何でそんな事を聞くんだ?と首を捻りながらも考えていく。

 もしも俺が留守の間に…そう、例えばシャルティアを洗脳したプレイヤーがナザリックに攻め入り…破壊の限りを尽くしたら。守護者達が犠牲になったら。徐々にシャルティアを手にかけた日の事を思い出し、怒りの炎が燃え上がる。

 

「絶対に見つけ出して…ころ…許さないだろう」

「そっか」

「何故そんな事を聞くんだ?」

 

「姉上と私の部屋──父上の部屋がね、壊されちゃったんだ」

 

 遠くを見つめるベロスの視線に以前の力強さは感じられない。

 何度となく話を聞いているアインズには何となくわかる。自分にすればナザリックであろう。

 息を吸う必要もないはずの身に、息苦しさを感じていく。同情や励ましは…俺だったら逆効果になる。俺は…何かあっても抑制されるがベロスはされない。何と声を掛けたら良いかがアインズにはわからない。

 

「姉上がね、絶対に殺すんだって。手段を選ばないって言うんだよね」

「…そうか…オートスさんの気持ちはわかる」

 

 俺だったら…俺だったらそうするだろう。

 もし…もしナザリックを破壊されようものなら、俺に出来る全てを用いて絶対に殺すだろう。

 

「私は、姉上の考えは──モモンは姉上は正しいと思う?」

 

 正しい。そう言いかけて言葉を飲み込む。

 俺にはそんな無責任な事は言えない。

 だが一つだけ分かる事もある。

 

「正しいかどうか、それはわからない。が、辛い時にこそ支え合う事がきっと大切だ」

 

 本当に心から辛い時にも仲間達が居たからやって来れた。

 そんな仲間達が居たからこそ俺は…。

 そんな正直な気持ちを口に出していく。

 

「辛い時…そうだよね。姉上も──そうだね。うん、ありがとモモン」

 

 暫く何かを考えていたベロスの表情が少し変わっていく。

 良かった。少しでも元気になってくれたか。俺の判断は間違ってなかったか。

 安堵の息を吐き出していく。

 

「私姉上の所に行ってくる!」

 

 そう告げ走り出していく。

 …しまった。話せなかった。

 

 しかし…そんな事があったのか……。

 全てが一度落ち着いたら、俺も探す事に協力すると申し出てみるか?余計なお世話か?

 そんな事を考えながら荷物を持ち上げていると、アインズに伝言(メッセージ)が届く。

 

<<アインズ様、お話したい事が>>

<エントマか。どうした?>

 

 このやり取り、前もした事ある気がするぞ。

 そんな嫌な記憶と共に問うていく。

 

<<デミウルゴス様の羊皮紙牧場が何者かの攻撃により壊滅しました。生き残りなしです>>

<そうか……何だと!?>

 

 牧場が壊滅!?生き残りなし!?どういう状況だ!?

 デミウルゴスは確か護衛の悪魔に影の悪魔(シャドウ・デーモン)も配置していると…。

 それが生き残りすら出せないとなると…。

 プレイヤー…!ついに、ついに来たか!!

 だが…何故ナザリックではなく牧場を狙った!?牧場だろ!?

 混乱しつつも告げてゆく。

 

<直ぐに戻る。守護者達を集めておけ>

 

 アインズは足早に荷物を運び、転移門(ゲート)の中へ姿を消していく。

 宣戦布告の宣言を受け、エ・ランテルに様々な者達が集まり始める。




ももんが :許せねぇ…酷い事したの誰だよ…(姉妹の部屋感)
デミえもん:ホントですよね!?(牧場感)
ぱんどら :ちょっとお二人共、鈍すぎませんかね

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