ウルベルトの贈り物   作:読み物好き

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前回のあらすじ
貴族御一行出発
イクゾー! デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!


疑惑

「皆、どう考える」

 

 玉座の間にて問いが飛ぶ。

 スクロール生産の拠点、羊皮紙牧場が壊滅。

 遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を眺めるアインズに表情があれば渋い顔をしているであろう。

 大地そのものが抉れたような巨大な爪痕。どうすればここまで破壊出来るのかを考えるも難しい。

 

(十位階魔法…無理だ。超位魔法…失墜する天空(フォールンダウン)?…違う。これは無理だ)

 

 顎に手を当て考える。

 それにしても何故牧場を狙った?

 わからん。羊を飼っていたのだろう?

 羊の扱いが気に食わなかった?それだけでか?あり得るか?

 

「恐れながら、十位階魔法や超位魔法では難しいかと考えます」

 

 アルベドからの意見を耳に、アインズが同意を示す。

 そう。その程度では無理なのだ。では一体何が起こった?ガルガンチュアのような巨体による破壊…ありえん。それであれば流石に目撃情報がある。

 幾つかの考えが頭を過る。体格による破壊ではなく、超位魔法を超える破壊を行える方法。

 

 ──ワールドアイテム…!

 

 ワールドアイテムを持ち、我々に敵対する存在…。

 遂に姿を現したか…!

 

「プレイヤーによるワールドアイテムを用いた攻撃か」

 

 だがそうなると疑問が残る。一体何のためにワールドアイテムを使用して牧場を狙った?

 ナザリックに攻め入り、そこで使用したならまだわかる。だが牧場だろ?

 牧場にワールドアイテムを使用…ありえるか?間違いない事は一つ。使い切りタイプのワールドアイテムではないという事。使い切りのワールドアイテムで牧場を攻撃する…絶対にあり得ない。であれば…冷却時間(クールタイム)制のワールドアイテムか?それでもなければ…モモンガ玉(俺の持つ物)のように持ち主と相乗効果を発揮するタイプか?

 ──敵は最低2種のワールドアイテムを保持している。破壊に特化した物とシャルティアを洗脳した物。

 

「何か情報は出たのか?」

「申し訳ございませんアインズ様。残念ながら何も…」

 

 死体も残さず消し飛ばしたか、或いは生かして回収したか。警戒心が高いプレイヤーだ。

 であればこそ何故牧場を?全てがそこに集まっていく。

 

「デミウルゴス、一つ確認だが…以前、認識阻害の地下室を使用していると言っていたな?」

「はい、その通りです」

 

「本当にプレイヤーの影は無かったのだな?」

「間違いございません。調べた上でユグドラシル産のアイテムや力を持つ者は一切周囲にございませんでした」

 

 恐らく敵対プレイヤーが…いや、最早敵プレイヤーだと考えるべきだ。敵プレイヤーが宣戦布告と同時期に牧場を襲った。それもワールドアイテムを行使して。何故だ?

 

「我々への警告…と捉えるのが正解かしら?」

 

 アルベドの言葉を耳に閃く。

 成程、つまり──宣戦布告をした事を受け、プレイヤーが牧場を攻撃。こちらはワールドアイテムを持っているぞと警告してきたのか。

 何の警告だ?派手に動くな…か?それとも攻撃を止めろ…か?

 攻撃を止めさせたい理由……。

 ……王国にこそプレイヤーが潜んで居る?ついに見つけたか…!

 

「しかし…スクロール生産が出来なくなるのは不味い」

「はっ!今回建国の後に、より大規模な物を王国に作成しようかと計画しております!」

 

「ふむ?羊…聖王国両脚羊(アベリオンシープ)だったか?その羊は居るのか?牧場は壊滅してしまったのだろう?」

「ご安心ください、同種に近い羊が各地に点在しております」

 

 ほう?と首を傾げる。

 第三位階のスクロール生産に耐え得るキマイラが各地に??

 普及していない……つまり人間に狩るのは難しいんだろ?

 エ・ランテルではキマイラ退治の依頼はされた事ないが…。

 ぼんやりと考えているとデミウルゴスが口を開く。

 

「ところでアインズ様、エ・ランテルの件で発言宜しいでしょうか」

 

 顎で許可を出すとデミウルゴスが続けていく。

 

「今回の攻勢でございますが、第三者が見ている可能性を考慮し死の騎士(デス・ナイト)100、ナザリック・オールドガーダー2000を以ち、威圧しつつ攻める予定でございましたが、敵対者を考えますとより高位の僕とした方が宜しいでしょうか?」

 

「そのままで良い。攻めに気を取られ、ナザリックがガラ空き等あってはならないだろう」

 

「承知致しました。現場のアンデッドの指揮官として守護者を1名、そして主人が誰かを伝えるべくアインズ様と護衛として守護者を1~2名程度。こちらはパンドラズ・アクターがアインズ様の形を取って頂ければ充分かと愚考致します。残りはナザリックの防衛に充てたいと考えますが、如何でしょうか」

 

(現地に俺と守護者が2~3名……モモンか俺としてパンドラが入って計4人から5人か。それだけ居れば…もしもの場合、撤退程度は間違いなくできるだろう)

 

 既にアインズの頭は対プレイヤーで一杯になり始めている。

 

「指揮官か…誰が適任だ?」

「わらわが!どうか汚名返上の機会を!!」

「はーい!命令は慣れてるし、あたしがやります!!」

「栄光アルナザリック初ノ戦イ!ドウカ私ニオ任セヲ!!」

 

 やる気に満ちた3名が声を上げる。

 シャルティア…不安だ。血の狂乱もそうだが、一度プレイヤーに操られている。操られている事自体は仕方がないが……手の内を知られている可能性がある。アウラは指揮する獣が居てこそ最大の力を発揮する。となるとコキュートスか。

 

「コキュートス、お前に任せる」

「必ズヤ!アインズ様ニ勝利ヲ!」

「いいなぁ…」

「そ…そんな……」

 

 アウラが少ししょぼくれ、シャルティアが崩れ落ちている。気まずい。

 暫く考え口を開く。

 

「──シャルティア、アウラ。私……パンドラかもしれぬが──の護衛を任せる。頼んだぞ」

「わ、わた…わらわがアインズ様の護衛を!?」

「アインズ様の護衛を!?あたしにお任せ下さい!!」

「アインズ様!護衛であれば最大の防御力を誇る私が!」

 

「アルベド、敵プレイヤーの襲撃があった場合……敵が複数居た場合、ナザリックと我等の襲撃、二手に分かれる可能性もある。信頼しているお前にだからこそ任せられる。ナザリックの事は任せたぞ」

「…承知致しました」

 

「ではその様に手配致します。ところでアインズ様、モモンとしての工作、敵対者を考慮致しますと…危険ではないかと愚考致しますが…」

 

 やっぱり俺がやる事になってたのか!?モモンがどうのと言っていたし…。

 あぁ、わからん。どうしたら…。プレイヤーに降伏と、同時進行できるか!!

 そんな中でアインズに天啓が降りてくる。これだ!!

 

「──パンドラズ・アクターよ。私はプレイヤーの情報収集及び、対策を練る必要がある。我が影となりモモンを演じ、我が意を成してみせよ」

「私にお任せくださるとっ!?お任せを!nach dem Willen meines Gottes(我が神の意のままに)!」

 

 鷹揚な動きと共に帽子を深く被り、高々に片手を掲げそう告げる。

 …何か守護者達引いてないか?引いてるだろ!

 やめろ!皆そんな目で俺の黒歴史を見ないでくれ!!

 心の中で叫び声を上げつつ、同時に不安が膨らんでいく。

 やっぱりきっつい。やっぱりこいつに頼むの止めようかな。

 いや待て、パンドラに任せたからこそ失敗したとすれば俺の評価は下がらないんじゃないか?

 …ダメだ!!失敗ってつまり…エ・ランテルがアンデッドの都市になってしまう…それに部下に責任を押し付けるとか上司として最低過ぎるぞ!

 

「…私の部屋に来い。お前がどの程度モモンを演じられるか…一度テストを行う」

「はっ!!ンァインズ様っ!必ずやご期待にお答え致します!」

 

 

 どうにも不安を覚えつつ、二人はアインズの部屋へと歩みを進めていく。

 扉を開き、アインズは机を挟み置かれた2つのソファの一つへと腰を下ろす。

 

「座るがよい」

「では失礼しまして!」

 

 そう告げアインズの隣に密着するよう腰を下ろしていく。

 

「な、何故横に座る?」

「は?座れと仰りましたので」

 

 いや…そうだけど…普通正面に座るだろ!

 え?正面に座るよな?いかん、早くも不安になってきた。

 正面に座るよう伝え、本題を口にしていく。

 

「さて──パンドラよ。ここで見聞きした事は他言無用だ。良いな?」

Wenn mein Gott es so will(我が神がそう望んでいるのであれば)!」

「ドイツ語は俺の前では止めろと言ったよなぁ!?」

「は…はぁ」

 

 思わず素が出て行くと共に抑制される。

 こんな事で抑制されていて本当に大丈夫なのだろうか。

 

「先ずは…モモンとしての振舞いだが…お前はモモンをどのような人物だと考えている?」

「はっ!ンァインズ様が作り上げた高潔であり、孤高の戦士(スェンシ)!正に理想的な英雄像を具現化したような存在かと!」

「う…む。そうだ」

 

 少し安堵の息を吐いていく。

 思ったより大丈夫そうか?

 

「では──そうだな、何問か問う。モモンであると考えて返答せよ」

「はっ!」

 

「ふむ…ではそうだな──モモンさん、何処に行かれていたのですか?」

「墳墓付近の調査だ。そう案ずるな、例えアンデッドが攻めて来ようと君達に指一本触れさせはしない」

 

 その後も何問か投げていく。迷いなく返していくパンドラズ・アクターに感心していく。

 思ったより…ずっとまともだ。

 

「問題なさそうだな。では──モモンとして何を行えばよいか分かっているか?」

 

 ぶっちゃけ俺が分かってないが。と心の中で呟いていく。

 

「はっ!エ・ランテルでの名声を利用し降伏の流れに持っていく事かとっ!恐らく都市長や組合と言った上層部に掛け合って無駄でございましょう。先ずは市民や兵と言った外堀を埋め、都市長や組合長を最終的に説得し、降伏させる流れになるかとっ!かと言って降伏を触れ回ればモモンとしての名声に傷が付きましょう!その絶妙な塩梅を演じられるとは流石はアインズ様でございます!」

「そ、そうだ。よく分かっているな」

 

 …そうだったんだ。…とパンドラズ・アクターをぼんやり眺める。

 あれ、こいつ賢くないか?そうか、一応デミウルゴスやアルベドと同等の知能を持つ…という設定なのか。こんなのじゃなければなぁ……設定したのも作ったのも俺だけどさ…いや、だって自我を持ってNPCが動くとか思わないじゃないか…と昔の自分を思い出す。

 

「ところでアインズ様、私からも質問が」

「何だ?」

「もう一つのアダマンタイトチームは如何様に?」

「八咫烏か…」

 

 今頃王都に向かっているんだろうか。或いはこれからか。

 ベロスに元気が無かったな…。

 大切な場所が留守の間に破壊されたと言っていた…当然か。

 一体何処のどいつが……。

 

 ふと、アインズに小さく疑問が湧く。

 …待てよ?父の部屋…故郷って事か?一体何処にあるんだ?

 墳墓調査までは普段通りだった。つまり、その後に知った事になる。

 

 俺がベロスと会ったのは先触れが現れて──その後…比較的直ぐだ。

 その間八咫烏が街を出たという話は聞いていない。

 彼女達は旅人だろ?街の噂でも黒髪は珍しいと聞く、ナーベラルもそのせいで余計に目立っていた。南方に多い…んだったか?旅人という事を考えてもエ・ランテルやその近郊が故郷だとは思えない。

 

 待て、何か妙だ。どうやって知ったんだ?

 誰かがエ・ランテルまでやって来て伝えた?偶然にも俺とベロスが離れた一瞬の合間にか?それもあんな状況のエ・ランテルにか?流石に考えにくいぞ。では伝言(メッセージ)か?聞いた話では伝言(メッセージ)はこの世界ではかなり信憑性が低いらしい。信憑性が低い方法での連絡であそこまで変わるか?では…直接確認したと考えるべきだ。

 

 …転移魔法で帰ったのか?姉のオートスさんは第五位階の魔法を行使できる。

 上位転移(グレーター・テレポーテーション)転移門(ゲート)は第五位階では使えない。

 転移(テレポーテーション)か?知り合いに治癒魔法を使う者が居るとオートスさんが言っていた。転移(テレポーテーション)で家に帰還し判明した?その後に治療を受け戻ってきた…?

 だがそれも妙な話だ。転移の類は特定の場所にマーカー…この世界では場所を記憶して飛んでいく。では家に飛び、そこが何者かにより荒らされ…或いは破壊されていたら。村や街であれば、姉妹の家だけが壊滅しているとは考えにくい。都合よく治癒魔法を使える知り合いとやらの家が無事だったのか?そんな状況で治癒術師が家に居るのか?そもそもあの二人の家…出身は何処だ?

 それに、本当に大切な場所が壊されたのなら何故戻ってきた?もし俺だったら全てを捨ててでも血眼で探す。二人はエ・ランテルに居た。では何故動かないんだ?

 一つの疑問は雪玉のように徐々に大きくなっていく。

 

「──ズ様?」

 

「ンァインズ様?」

「ん?…少し考え事をしていた」

 

「──八咫烏だったな、近く王都に向かうはずだ。或いはもう向かっているかもしれん。もし戻ってくる事があれば…知らせよ」

「承知致しました!」

「それと…可能であれば──出身地や…故郷…何でも構わん。些細な事から彼女達についての情報を集め報告せよ」

Überlass es mir(お任せを)!!」

 

 それを耳にし、顔に手をやる。

 ナーベラルといい…もしかして二重の影(ドッペルゲンガー)って言っても治らないのか?

 そんなアインズに仰々しくも深く一礼し、モモンの姿となりパンドラズ・アクターがエ・ランテルへと入り込んでいく。

 

 

 

 ・

 

 

 

 エ・ランテルに続々と兵や物資が運び込まれていく。

 兵の表情は二極化している。元々エ・ランテルに居た者と、増援として着いた者。

 あの宣戦布告の日に居た者達は日が進む毎に、あのアンデッドを思い返し絶望の表情を浮かべていく。もう一つの理由は八咫烏がエ・ランテルを出ると噂が流れたからである。新たに来た者はアンデッド程度にこの忙しい収穫期にと、疲労と落胆の色を表している。

 そんなエ・ランテルの宿では会話を交わす姉妹の声が響く。

 姉は眉間に皺を寄せ妹を見つめている。

 

「…ベロス?何か変な物でも食べましたか?」

「それは流石に酷くない?」

 

 暫くの後に妹が帰ってきた。

 そして──暫く黙って話を聞き、私の計画を全面的に受け入れた。

 死の支配者(オーバーロード)一匹なら確実に殺せると言えど、性格からしてもベロスが受け入れ難いのは分かっていた計画を。

 一体何があれば意見を変えるというのだ。

 

「…もう一度説明した方が良いですか?」

「分かってるよ。儀式魔法使うんでしょ?…皆を使って」

 

 オートスが渋い顔になっていく。やはりベロスがおかしい。

 暫く沈黙していたベロスが口を開く。

 

「でも、一つだけ聞かせて?」

「何ですか?」

「姉上は間違ってないんだよね?」

 

 口を少し開き、閉じていく。

 間違いはない…ないのだろうか。

 奴は敵、敵だ。あれは、あの旗は奴の墳墓のにあった物。

 ──だが、あの時一匹でも生かしておけば確実な情報を得られた。

 あれは…私のミスだ。憤怒の感情…私怨に駆られた間違った行動だった。

 私は──間違っているのか?正しいのか。

 そんな小さな迷いが心に生まれていく。

 長い沈黙の後に小さく告げる。

 

「…どうしたいのです?」

「戦わない人は関係ないと私は思うんだ」

 

 都市を巻き込むな。目がそう告げている。

 暫く眺めて溜息を吐く。上手く使えば監獄ともなり得るこの街を捨ててか。

 ──が、計画時には頭に血が上っていたのも否めない。一度怒りに任せ失敗している。

 …街を使わずともよい。そう自分に言い聞かせる。理性は間違いなく使った方が良いと叫んでいるが、感情でねじ伏せる。

 元々2対1であれば──死の騎士(デス・ナイト)の100や200居た所で何の問題もないのだ。

 暫くの後に小さく告げる。

 

「その分の協力はしてください。先ずは──王都へ向かう…と言う口実で身を隠します。事が済むまでは冒険者としての姿は不要です」

 

 そう告げて街を後に二人は歩み出す。

 王都の方角へ暫く進み、本来の姿へ戻り翼を羽ばたかせ空へ駆けていく。

 エ・ランテルからナザリックの方角へ進んだ先、開けた平原の地。

 

「この地、ここで事は起こるでしょう」

 

 墳墓に居るらしき大量のアンデッド、そして…エ・ランテルに来た兵を連れた貴族。

 三つの壁を持つエ・ランテルにおいて、籠城が防衛として最も効果を発揮する事は誰でも分かる。が、人間はそれを選ばない。選べない。

 アンデッドは疲労しない、食事も不要。それが籠城という前提を覆す。包囲されれば何カ月だろうが何年だろうがアンデッドは待つ事ができる。それに気付かぬ者は居ないであろう。

 ならば数が集まった人間達は必ず一度ここで決戦を考える。間違いなく。

 

「場所は此処です。お願いします」

 

 それに答えベロスが特殊能力(スキル)を発動させていく。

 ベロスの魔力(MP)がオートスへ運ばれていく。

 オートスの足元からゆっくりと、少しずつ円陣が広がっていく。

 

「姉上、何で考え変えてくれたの?」

「…本気で聞いていますか?」

「姉上って優しいよね」

「…私は何時でも優しいですよ」

 

 呟き墳墓のある方角を見つめていく。

 魔法には幾つかの種類がある。そんな中で今回オートスが選択したのはある儀式魔法。

 儀式魔法も複数の種類に分かれるが、共通して使い勝手が良いと言える物は多くない。

 

 先ず、準備に時間がかかる。これは超位魔法と同じだが、規模や効果を求めれば求める程に超位魔法を遥かに凌ぐ時間がかかる。そのリターンが威力や効果に現れるが、現実的ではない。攻撃魔法であれば、敵が準備をしているのを目に突っ込む事はない。召喚魔法であればもっと効率よく、戦闘中に召喚した方が確実にその場に合った者を呼び出せる。ギルドの防衛等に使えるかと問われれば、詠唱者が大きく動く事もできない。そんな理由もあり、プレイヤーにはロールプレイや雰囲気用の魔法だと考えられる傾向にある。

 

 が、今回に至ってはマイナスをプラスにするのに十分だと彼女は判断した。

 今回選択した儀式魔法。注ぐ魔力の量とかけた時間で範囲と威力が徐々に増していく。が、準備に非常に時間がかかる上に、魔力の消費は膨大になっていく。

 

 メリットは幾つかある。一つは準備さえ終えれば後は発動するまでの微量な維持コストのみで済むという事。

 そして今回の儀式魔法には生贄が必要となる事。正確に言えば発動時に死亡した数により、僕が召喚される。本来であれば最終戦争・悪(アーマゲドン・イビル)等を使用し生贄としていく。

 

 その生贄に率いて来るであろうアンデッドを使っていく事で、無数にいるらしいアンデッドの排除と共に僕を呼び出せる。可能であれば、出陣するであろう人間も巻き込み量を稼ぎたい所だが。

 問題は10日と宣言した上で、より早く攻め入ってきた場合だが。あれだけ大々的に宣言し、それはないであろうと判断していく。

 後は前日ギリギリまで魔力を注ぎ込む。最後の一日は魔力の回復に徹する。これで魔力を保ったままに初撃で雑魚の排除、僕の召喚。運があれば死の支配者(オーバーロード)にも一撃入れる事ができるだろう。

 

「では、隠して貰えますか」

「あのさ」

「何です?」

「何時もありがとう!」

「…それよりこれを被ってください」

 

 小さく息を吐き、空間から面を二つ取り出していく。

 パナソレイの屋敷から拝借してきた面。仮面舞踏会等で貴族が顔を隠す為に使われる。

 一つを被り、一つを手渡していく。

 

「何これ?お面?顔隠すなら幻術で良くない?」

「念のため、と言う奴です。それより気付かれる前に隠してください」

「うん!<幻の景色(イリュージョン・オブ・シーナリー)>!」

 

 広がっていく魔法陣の光や形が風景に溶けていくと共に、姉妹の姿も風景に掻き消えていく。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 コツコツとナザリックの第九階層を杖を突く音が響く。

 メイド達が深く頭を下げていく。

 

 パンドラに任せた結果、思った以上に事細かに報告を上げて来る。降伏に関し大分上手く誘導出来ていたが、増援として来た貴族、及び王族の介入で難しくなったとの事だった。

 姉妹に関してもエ・ランテルにて目撃情報がないとの話に安堵したアインズは、対プレイヤーに集中すべく、自室で思案に明け暮れていく。と、言っても対策等あって無い様な物なのだが。

 

 元々アインズの戦術は初戦は捨て、敵の情報を収集し、確実に倒すというものである。

 姿形も接近タイプか遠距離タイプか、数すらも分からぬ今では戦術の立てようがない。分かっている事と言えば、以前の悪夢の蝿蜂(ナイトメアフライビー)を考慮すれば恐らく遠距離型の悪魔系統の種族であろう事くらいか。

 

(悪魔系統ってだけで対策打てるわけないんだよなぁ…聖属性が基本的に効果的だろうけど…無論例外も居るし、取得職業によっても変わるし…プレイヤーが対策してないわけがないし……)

 

 結局対策らしい対策としては洗脳除けにワールドアイテムを皆が所有する程度である。

 長く部屋に籠っていたが、ただ考え事をしていても気が滅入っていく。

 そんな訳で開戦が迫る中、気晴らしに第九階層を徘徊しているのだが──

 

(…ダメだ。気分転換のつもりだったが…何処に行っても気まずい)

 

 気分転換のつもりが、結果的に皆の仕事を邪魔してるんじゃないかという気になっていく。

 そりゃ…そうだよな…。俺は会社で言う社長みたいなもんだろうし…社長がいきなり社内を徘徊して、気にするなと言った所で…気になるし、正直邪魔だろうしなぁ…。

 暫く歩き、とある扉が目に入る。

 

(バー…あぁ…そういえば作ったな…)

 

 扉を開き中に入っていく。

 

「これはアインズ様。足を運んで下さり光栄でございます」

「よい。私は…ただの客だ。とは言っても何も飲めんがな」

 

 そう言い肩を竦ませる。

 深く頭を下げる副料理長を目に、ここもダメかと踵を返そうとすると声が掛かる。

 

「酒は味覚だけでなく、視覚や嗅覚でも楽しめます。何か如何でしょうか」

「ほう?そういう物なのか?」

 

 思いもよらぬ声がかかり、興味を示し席へと座る。

 

「では──何か頼む。私は酒には詳しくないのでな。任せる」

 

 酒意外にも詳しくないけどな!と心で続けていく。

 副料理長が頭を下げ、複数の瓶を手に取りカクテルを用意していく。

 

「こちらを。ナザリックの中でも特に香りが強い物をご用意致しました。アインズ様にも楽しんで頂けるかと」

 

 それを受け顔に近づける。

 美しい琥珀色、濃厚で芳醇な香りに目を細めていく。

 良い香りだ。もし──もし皆が居たら。きっと楽しかったんだろう。あ、でも結局俺だけ飲めないじゃないか。それはちょっと寂しいな。

 

「如何でしょうか」

「酒には詳しくないが、これは良いな…皆で楽しみたかったものだ」

 

 もし、もし建国したら誰かが。誰かが気付いてくれるだろうか。

 そんな小さな気持ちを乗せ、無意識に口から出て行く。

 

「それはさぞ素晴らしい光景でございましょう」

「そう…そうだな。副料理長…ここではマスターと呼んだ方が良いのか?」

 

 それを受け副料理長──ピッキーが小さく頭を下げていく。

 暫くグラスを回し疑問を投げる。

 

「ここには誰か来るのか?」

「デミウルゴス様、コキュートス様が来られます。アルベド様やシャルティア様も来られましたね…アウラ様も一度お二人に無理に…いえ、お二人と共に来られましたが」

「ほう?面白い面々だな」

「まぁ…そうでございますね」

 

 二度と来るな!と言いたくなるような惨状を思い出しピッキーが小さく告げる。

 

「ふむ?気になるな。皆どんな話をしているんだ?」

「あまり口にするのは宜しくないのですが…そうでございますね──」

 

 確かに、少し不味い事を聞いた。

 酒の場で話していた事を社長が聞いたと知ったら、二度とその店に来れなくなる。

 

「忘れ──」

「──ウルベルト様にお会いされたとか」

 

 忘れてくれ。そう告げようとして言葉が止まり、グラスが手から落ちていく。

 聞き逃せない一言を耳にして。

 

「………何だと?今…今何と言ったのだ?」

「はい?アインズ様もご存知かと思っておりましたが」

「今何と言ったのだ!?」

 

 机に拳が叩きつけられピッキーが固まっていく。

 余りに興奮したせいで抑制されていく。

 

「…すまなかった。もう一度聞かせてくれ。誰に会っただと?」

 

 暫くの沈黙の後にピッキーが小さく告げる。

 

「デ、デミウルゴス様がウルベルト様にお会いされたと申されておりましたが…」

「デミウルゴスが!?ウルベルトさんに!!?何処でだ!?ナザリックか!?それとも外でか!?」

「お、落ち着いてくださいアインズ様。あの語りは過去の話でございました」

 

 それを耳に力が抜けていく。

 そう…そうか。昔話をしていたのか。

 

「そうか…昔話か…どんな話だったんだ?」

「はい、ウルベルト様がデミウルゴス様に世界の一つくらいは征服してみせよと命じられたと」

「世界の一つくらい征服してみせろ…か。そうか…ウルベルトさんらしい」

 

 ユグドラシルでそんなロールプレイしてたのか…。

 と言うかNPC達って昔の記憶持ってたんだな…。

 …ん?待てよ。って事は今俺がこんな目にあってるのはまさかウルベルトさんのせいか!?

 笑顔で目を細め、親指を立てている山羊の姿が脳裏に浮かぶ。

 

「ただ…何度か来られた際にデミウルゴス様が悩んでおりました」

「悩んで?デミウルゴスが?」

「どうやら同僚と共に世界を征服せよとお命じになられたそうですが、守護者様方とはまた違う気がするのだそうです」

「同僚と共に?」

「正確に申し上げるなら、最後にお前に新たな同僚を用意してやる。俺達が居なくなっても世界の一つくらい征服してみせろ。だそうでございますが」

「最後に…?新たな同僚…?」

 

 アインズが首を傾げる。

 一体何の話だ?新たな同僚?NPCは限界まで作ってあるし……どういう事だ?

 それに最後に…最後…?俺達が居なくなっても……まさかユグドラシルの最終日に居たのか…?まさか…まさかこの世界に…。

 そんな中で伝言(メッセージ)が届く。

 

<<ンァインズ様、宜しいでしょうか>>

<…パンドラか。何だ>

<<開戦まで残り僅かとなりました。皆々様、玉座の間にてお待ちでございます!また、私がこのままモモンの担当でよろしいのか等の最終的なすり合わせをしたく!>>

<わかった。今から向かおう>

 

「邪魔をしたな。また来ても良いかな?」

「勿論でございます。また来てくださる事を楽しみにしております」

 

 色々と気になる事ができた。だがそれも…全て片付いてからだ。

 開戦間近となり、アインズは玉座の間へと歩みを進めていく。

 

 

 玉座の間にてパンドラズ・アクターが報告を上げていく。

 

「──といった形でございまして、増援に来た貴族を排除せぬ限りは降伏は難しいでしょう!」

「そうか。わかった」

「ですが、あの様子!恐らく率いる兵と共に出撃をするのではないかと!貴族を排除した上で威圧する事で降伏させる事は可能かと思われます!」

 

 顎に手をやりパンドラズ・アクターを見つめていく。

 そうなの?ホントか?ホントに?ホントに大丈夫か?そんな気持ちと共に。

 ちらりと周囲に目をやると皆当然の如く頷いている。

 デミウルゴスとアルベドも頷いてる……なら大丈夫なのか?

 

「成程…わかった。引き続きモモンを担当せよ。プレイヤーが襲い掛かってくるとしたら、本体である私だろう。そちらの対応は経験も考慮し私が行う」

「承知致しました!」

 

「コキュートス、シャルティア、アウラ、準備に抜かりはないな?」

「勿論デゴザイマス」

「抜かりありんせん!」

「バッチリです!」

 

 現地にはコキュートス、シャルティア、アウラ、それに俺か…。

 最悪パンドラも援護に来させれば5人…問題ないだろう。

 

「アルベド、デミウルゴス、マーレ、緊急時には伝言(メッセージ)を飛ばす。それまではナザリック襲撃に備え待機せよ」

「はっ!」

 

 これで抜かりはない…ないよな?ないはずだ。

 プレイヤーが居れば、可能であれば殺す。

 俺達に喧嘩を売った事を後悔させてやる。

 

「──明朝…日の出と共に軍を動かす。皆、準備を怠るな」

 

 それを受け皆が深く頭を下げていく。

 そんな中、パンドラズ・アクターが告げる。

 

「ところでアインズ様」

「何だ?」

「こちら、八咫烏についての報告書でございます…興味深い点もございました。是非とも必ずや!最後まで目を通して頂ければと!」

 

 そう告げ、百科事典のような分厚さの束を差し出していく。

 ズッシリとしたそれを受け取りパラパラと捲っていく。

 

「よ、よくやったパンドラ……何だこの…行きつけの店というのは」

「些細な事から報告せよとの事でございましたので!」

(いや…そうは言ったけど……交流関係…好きな食べ物…本人達も居ないのにどうやって調べ出したんだよ…)

 

 違う。そうじゃない。いや、間違ってはいないけど。

 姉は本に強い興味を示し好んでいると思われる…それで?

 噴水前で本を読んでいる事何度か目撃されている…だから!?

 ──以上の様々な方向性からの推測、及び行動と噂から本や読書を好むと考えられる。

 この情報いるか!?恐らく本が好き。だから!?

 確かに些細な点からだけど些細すぎるだろ!?

 まだ救いがあるのは結論から書かれてる事くらいだぞ!!

 何とも言えない気持ちでパラパラ捲っていくと、ある一文で目が止まる。

 

「パンドラよ、この報告に間違いはないのか?」

「100%間違いがないとは申し上げられません。当人が不在でございます。あくまで住民や組合、噂からの調査、及び推測でございますので」

 

「アベリオン丘陵出身…?」

 

 小さく口を出た疑問の声は玉座の間に消えていく。




ぱんどら :いやぁいい仕事しました!
ももんが :何だこのハイレベルストーカー…
デミえもん:流↑石↑はアインズ様直々の守護者↑命令通りの働き↑↑
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