きぞく :ヒドゥイ!!
「ありえん…バロールだと……」
悪魔の中でも指折りの最悪な部類のモンスター。
召喚出来るなど聞いた事もない。
「<
悪鬼──バロールから立ち昇る、果てしない生命の量が本物だと告げている。
二人の悪魔も確認するも、その生命は揺らいでいる。
「
咆哮が上がりアインズの意識がそちらに向かう。
かなりの距離があるにも関わらず──バロールが炎の剣を振り上げている。
「あの距離で何をしている?……バロール…いかん!」
炎の剣を振り下ろすと共にコキュートスの姿が消える。
剣が振り下ろされる先へ、瞬く間に引き寄せられていく。
「ムッ!?ヌン!!」
コキュートスが剣で炎の剣を受け止め、返す刀で斬りかかる。
バロールの体に刀が触れると同時に、コキュートスの刀を持つ手が燃え上がる。
「ヌッ!?コレハ!!」
「コキュートス!バロールへの直接攻撃はよせ!!」
「アインズ様!!あたしのコレ、使いますか!?」
アウラが背負った巨大な巻物を指している。
ほんの一瞬山河社稷図を使うか悩み、選択肢から捨てていく。
アウラの背負う巨大な巻物──山河社稷図はワールドアイテムの保有者は隔離空間が展開された瞬間は入れない。
即座に入る事を選択したとしても、その間アウラが一人になる。だが、それで分断出来れば問題ない。
問題なのは、悪魔2名がワールドアイテムを所有している可能性だ。アインズの推測ではプレイヤーは最低二つ所持している。一人ずつが持っていた場合、アウラ一人が一時的に戦線離脱するという事になりかねない。
「使うな!リスクが──」
「<
「何!?」
大気を震わせ、轟音と共に最大まで強化された巨大な隕石が落下していく。
アレは不味い。あの
直接魔法を身に受けた二人は即座に判断を下していく。
直撃だけは絶対に避けなくてはならない。
「下がりなんし!<
「<
シャルティアがアウラの前に立ち塞がり、巨大な石壁を召喚していく。
ほぼ同時にアインズの前に骸骨の壁が3重に現れ、盾となる
「<
仮面を付けた小柄な悪魔──ベロスが唱え、
それに重ねるように仮面を付けた長身の悪魔──オートスが唱えていく。
「<
「なっ──」
アインズが口を開くと共に、悪魔が自爆し骸骨の壁を粉砕していく。
高レベルの悪魔による、生命力を使用した至近距離での自爆。
それは容易に三重の壁を打ち抜き、アインズにも多大な手傷を与えていく。
壁が打ち砕かれた光景を目に、迷いなく一つの影がアインズの元へ飛翔する。
轟音と共に落下していく隕石に向け、
「不浄衝撃盾!!」
落下と共に、土煙が立ち昇る景色をオートスが見下ろしている。
「…殺したか?」
それを考えると、もうそう何発も魔法は打てない。
少し様子を──いや、ダメだ。もう一発。確実に殺す。
「<
追撃の魔法の詠唱に合わせ、煙の中から飛来した矢が腕を射抜き、発動する事なく魔力のみが消えていく。
同時に白銀に光る槍が煙の中から飛来する。
「<
ベロスとオートスの位置が入れ替わり、槍が深々とベロスの腹部へ突き刺さり消えていく。
「痛ったい!<
ベロスから噴き出す血と傷が幻の様に消えていく。
煙の中に影が見える。──生きている。
「<
「清浄投擲槍!!」
「影縫いの矢!」
煙の中から魔法と
それを目にベロスが唱えていく。
「<
二人の姿が掻き消えると共に、攻撃が空を切る。
「
指示を出しかけたアインズの足に激痛が走る。
足元へ視線を投げると、炎で出来た鞭が巻き付いている。
鞭が引かれ、バロールの元へと引き寄せられる。
「ぐおっ!?<
バロールがアインズへと炎の剣を振り下ろす。
コキュートスがそれを剣で受け止める。先ほどからフロストオーラを発動してはいるものの、立ち昇る熱はオーラを貫き着実に外皮鎧を焼いている。
接近攻撃に対する手痛いカウンターを持つバロールを相手していたコキュートス自身も、全身が焼かれ酷い有様である。
「アインズ様!ゴ無事デ!」
「助かったぞコキュートス!アウラ!バロールには接近攻撃が出来ん!コキュートスと代われ!」
アウラに指示を飛ばすと同時に体に痛みを感じ、空を見上げていく。
「水…雨?」
「タダノ雨デハゴザイマセン!」
雨に打たれたコキュートスの外皮鎧が煙を上げ溶解している。
バロールも雨に打たれ、怒りの咆哮を上げている。
アインズのローブにも雨粒が穴を空けていく。
「装備にダメージ…酸…酸の雨……
巨大な竜巻が雨雲を払い、空を飲み込んでいく。
同時に空中に展開されていた
アインズが空の一角に指を指し、怒鳴るように指示を飛ばす。
「シャルティア!コキュートス!
「<
アインズの重力で空間が歪み、シャルティアの炎が包み込んでいく。
風景にヒビが入るように砕け、中から二人が姿を見せる。
「
コキュートスの背後に後光のように光が発生し、不動明王を形作る。
瞬きの一閃が二人に向け放たれる。
ベロスが庇うようにそれを受けていく。
「ゴホッ…痛ったいなぁ…」
傷は出来るも効果的とは言えない程度の軽傷に終わる。
それが軽傷…アインズが舌打ちしていく。
「悪魔の癖に…カルマ値プラスか…!!」
仮面の下で舌打ちしているのはオートスも同じ事であった。
バロールの召喚は良い意味で想定外だったが、一人を相手するので精一杯。
側近も個々の火力が高い上にタフだ。何を隠し持っているかもわからない。
切り札は──まだ切れない。
バロールが
一旦引くにしても、自ら発動した
「死ねやぁ!!」
声に反応し視線を投げる。
シャルティアがスポイトランスを抱えて突っ込んで来ている。
「
「不浄衝撃盾!!」
衝撃盾が光弾もろとも二人を吹き飛ばす。
その先にコキュートスが回り込む。
「モラッタ!!スマイト・フロストバーン!」
「離れて!<
オートスを蹴り飛ばし、姉との距離を空けると共にベロスが自分自身へ魔法をかけていく。
直後にコキュートスの刃がベロスの右腕を切り飛ばす。
「グッ…コレハッ!?」
ベロスの腕が宙を舞うと同時に、コキュートスの腕が一本宙を舞っていく。
至近距離での致命の一撃は、同時にコキュートスにも致命的な一撃を与えていく。
「…バロールといい…あの悪魔といい…コキュートスと相性最悪か」
それを目にしていたアインズが呟く。
同時に一つの光景に驚きの声を上げていく。
腕が飛んだ
正に脱皮したというような光景である。
「反射トハ…!イイ覚悟ダ!マカブル・スマイト・フロストバーン!!」
「<
ベロスから光の膜が小範囲に広がっていく。
膜に触れたコキュートが剣を振りかぶり、明後日の方角に盛大に振りぬく。
驚きと共に再度剣を振りかぶろうとするが、足が上がり盛大に転倒していく。
立ち上がろうとするも、体が思うとおりに動かない。
「使うからね!」
ベロスがオートスに告げると共に、足元から青紫の煙が噴き出していく。
煙と共にアインズの方へと突っ込んでいく。
急速に広がっていく煙にアインズが触れると同時に、魔力が煙の中へと大量に流れ出ていく。
「
思わず悪態をつき、アインズは
先ほどから観察していたが、小さい方はまともな攻撃を一度も繰り出してこない。
その分、手を出す…かかわると結果が最悪だ。
妨害に特化していると考えるべきか。
ならば先に倒すべきは
「シャルティア!コキュートス!小さい方に構うな!長身をまず戦闘不能にしろ!<
指示と同時に魔法を放つ。
アインズに合わせシャルティアが突っ込んでいく。
それに合わせるようにシャルティアへと魔法が放たれる。
「<
「ぎっ…──効くかぁ!!」
炎が身を焼くも、怯む事無く前へ前へと突き進む。
想定外の捨て身の攻撃に次の手が遅れるも、援護が入る。
「<
凄まじい激痛に耐え、炎に包まれながらもシャルティアは突っ込む。
スポイトランスの切っ先は入れ替わったベロスの体を通り抜けていく。
同時にアインズの
「シャルティア!!?非実体化か!?<
非実体と化しているベロスに致命の一撃が入り、吹き飛ばされる。
地表に叩きつけられ、巨大な土煙が上がる。
動けるうちにと切り札を切っていく。
「
光が分身体を作り出すと共に、眷属を呼び出していく。
スポイトランスでの回復に充てるための眷属達である。
それを目にアインズも察する。シャルティアは限界だ。
会話は──成立しない。
もし…もしも──その考えが一瞬過るが、今それを考えている場合ではない。
確実に片方だけでも…仕留める。
その為にアインズも切り札を切っていく。
──
「<
アインズの背に時計が姿を現す。
それを目にオートスは思考を巡らせる。
以前目にしたThe goal of all life is deathに対しての対策は大きく分けて三つ。
一つは12秒以内に蘇生魔法や蘇生手段を講じる──私には蘇生手段がない。
一つは12秒以内に範囲外まで逃走する──
一つは12秒以内に──本体を倒し、発動を阻止する。
ベロス──何とか防いでください。そう願い、彼女も切り札を切っていく。
オートスの両の手の間に、全身の魔力が集まっていく。
「発動前に…殺す。──
「何だと!!?」
強大な魔力が膨れ上がり巨大な球となっていく。
圧縮するように、徐々に小さくなっていく。
アインズはその
アインズ・ウール・ゴウン最大級の火力。それを前に、アインズの決断は誰よりも早かった。
「アウラ!!山河社稷図を使え!!何処でもいい!今すぐバロールと飛べ!」
「え!?は、はい!!」
「コキュートス!!シャルティア!!山河社稷図の中へと急げ!!死ぬぞ!」
巨大な巻物が開くとアウラとバロールの姿が消える。
それと同時に、アインズも山河社稷図の中へと消えていく。
コキュートスとシャルティアも続き消えていく。
「何を…!何処へ…!?」
転移は封じたはずだ。一体どうやって。何処に──。
想定外もいい所の光景に悲鳴のような声が上がる。
最早今更中止もできず、
・
時計の針が一周し、その場に連れられたバロールの生命が終わりを告げる。
「私の背後に隠れよ!<
バロールの生命の終焉と共に、巨大な爆発が巻き起こる。
その爆発は骸骨の壁を容易に突き抜け、4人に多大な被害を与えていく。
「…防ぎきれないか…本当に……こいつ…糞モンスターだ…」
「あ、ありがとうございます!アインズ様!この程度へっちゃらです!」
「そ…そうでありんす!アインズ様のお陰でわらわも生きていんす!」
「オ役ニ立テズ…」
守護者達は生きている。その様子を見つめ、一度安堵の息を吐く。
ワールドディザスター…ワールドディザスターの
あの二人…長身が山河社稷図の中に
もし直撃を受けようものなら。
──生命を削られていたシャルティアと俺は…。
蘇生の指輪は付けている。だが、この世界で…死んだらどうなるのか。
頭を過った死という恐怖がアインズを抑制していく。
冷静になると共に疑問が頭を過る。
「何故…入ってこなかった?」
「え?どうしました?アインズ様?」
「奴ら、山河社稷図の中に何故入ってこないんだ?」
「ワールドアイテムを持ってないか…効果を知らないからじゃないですか?」
アウラが不思議そうに答えていく。
持っていない…?馬鹿な。
シャルティアを洗脳したアイテムと…破壊型のワールドアイテムを持っているはずだ。
置いて来た?ありえないだろう。確実に殺す気ならありえない。
少なくとも──長身には確実な殺意があった。
だが…確かに使われなかった。何故…。
使ってきたのはあくまで魔法と
何故だ?…洗脳のアイテムがあるなら開戦と同時に使うべきだ。
バロール、洗脳された守護者、そして悪魔二人なら人数差が逆転する。
何なら
何故…そうしなかった?こちらがワールドアイテムを持って対策をしていると知っていたか?
それは…ないだろう。
シャルティアを洗脳したプレイヤーではない…?
では
女性の悪魔…ワールドディザスター…。
異様な威力の
あの二人は──………やはり、一度会話が必要だ。
少し考え、口を開く。
「…これより外に出る」
それを受け皆が首を縦に振る。
「──私が出て…そうだな、少ししたら、お前達も出てこい」
「何を!?アインズ様お一人で奴らの前に出られると申されるんでありんすか!?」
「そうだ。あの小さい方は──恐らく妨害に特化している。そして攻撃能力のある長身は最早カラッポだろう」
「ソウカモシレマセン。シカシ、ソウデナイカモシレマセン、危険デス」
「そうです!あたし達が先に出ます!」
「ダメだ。確認…確認しなければならない事が出来た」
──会話が成立しないなら、成立させるようにする必要がある。
砂時計を片手にアインズは空間から外へと姿を消していく。
・
「この破壊後──牧場の跡とそっくりだ…」
姿を現したアインズが呟く。
牧場を破壊したのは
あの破壊は跡は──彼女達自身が行ったのだとしたら。
…俺の想像通りだと…あの悪魔二名は…。
「<
離れた所から詠唱が響く。
「待て!!話を!糞!<
「<
光弾の着弾と同時に壁が砕け、
やはり相手に会話をする気が全くない。
魔法も…後何発撃てるのかもわからない。
低位魔法であっても
一撃入れ、会話できる状況に持ち込むしかない。
アインズに表情があれば苦悶の表情をしているのかもしれない。
一発で死ぬ事は…恐らく同等のレベル。まずありえない。
「──超位魔法、
握りしめた砂時計が砕け、詠唱が短縮される。
超高熱源体によって生じた絶熱が一気に膨れ上がり、炸裂していく。
彼女の残った魔力を込めた
「……糞が…」
オートスが小さく呟き、肩で呼吸し膝をつく。
魔力も尽きた。切り札も…どうやったか知らぬが躱された。
元々生命力や身体能力はお世辞にも高い方ではない。
拳であの
この世界の、防具とも呼べぬ仮面程度が超位魔法に耐える等出来るわけもなく。
消し飛んだ仮面の下の素顔を目に、アインズに確信が宿っていく。
肌の色や耳こそ違えど、その顔付きには見覚えがある。
少しの後に小さく呟く。
「……オートスさん…」
「今度こそ終わりなんし!!!」
オートスの頭上から声が上がる。
彼女が視線を向ける先には、山河社稷図から姿を現したシャルティアがスポイトランスを構え突っ込んでくる。
…終わった。魔力が尽きた今、私には何も出来ない。
「……父上」
小さく呟き、近寄る死を受け入れていく。
「シャルティア!殺すな!!」
「あえ!?」
主人からの命が飛ぶも、最早直撃する。
心臓を狙った渾身の突き。それを無理やりずらしていく。
ただの突進にも近い一撃。それを身に受け、オートスは吹き飛ばされていく。
致命傷とはかけ離れた一撃ではあったが、驚く程の生命を吸い上げたスポイトランスにシャルティアが驚愕しつつも口を開く。
「も、脆……死、死んでないとは思うでありんす…」
即座に近寄り生きている事を確認し、虚ろな目をしたオートスをシャルティアが拘束していく。
少しの後にアウラとコキュートスも姿を現していく。
「あ!流石はアインズ様!捕らえたんですね!」
「…あぁ」
「あの小さい方は何処ですか?」
そうだ。長身の彼女がオートスさんなら…小柄な方は…。
立ち昇る砂煙の中に小さな影が目に入る。
祈るように両手を合わせる、小柄な姿。
同様に肌の色や耳等は違えど、こちらの顔こそアインズには見覚えがある。
日々共に過ごしたその顔に。
「……………ベロス…」
アインズが小さく呟く。
やるせない感情と共に力が抜けていく。
アインズに最早戦う気力は微塵も残っていない。
「アインズ様!!オ下ガリヲ!アレハ土煙デハアリマセン!」
コキュートスが警戒を飛ばし、アウラが弓を構える。
土煙だと思っていたそれが、徐々にとある形を作り出す。
それを目に守護者達が驚愕と共に言葉を口にする。
「アレハ…」
「え…何で…」
「どういう事でありんすの…」
ベロスが使用した
幻像は指定された対象を模倣する。模倣するには模倣対象の情報をある程度、
異なる点は、消費された魔力の分強化される事、模倣した者と同等の力を振るう事。
そして、実態を持たない為、幻像自体を倒す事が出来ない事。
ユグドラシルでは煙の様な姿形で、対象の職業に近い見た目のモンスターとして描写される。
現実となった世界では、使用者の記憶通りの姿となって降臨していく。
ベロスの祈りに応えるように煙が集まり、とある姿を形作る。
アインズと守護者達には見覚えのある、羊の頭部を持つ帽子を被った悪魔の姿を。
「………頼む…少しでいい…話を…させてくれ…」
力なく口にしたアインズの声は、焦土と化した大地に小さく響いていく。
しゃるてぃあ:脆すぎィ!!
うるべると :物理防御なんざ知らねぇ!近寄られたら負けだオラァ!
ぺろろん :遠距離物理と言う手段もあるんだが?
うるべると :ちょっとそれは…やめて貰っても?
♦
傷を治癒する幻術系統の魔法。
病や毒は治療できない。微妙!
♦
移動や
現実だと神経の出力先がバラバラに入れ替わる。
最悪やんけェ…。なお神経の無いアンデッドには無効。