おーとす:クソゲー
「……話を…聞いてくれ」
力なく告げる声が荒れ地と化した荒野に響く。
耳には届いたであろうが、向けられた敵意が揺らぐ事はない。
友の姿を形取った幻像が、抱擁するかのように両の手を広げていく。
オートスが見せた切り札と同じように。
待っていれば再び飛んでくるだろう──
今直ぐ対応をせねばならない。
頭では十分に理解しつつも感情がそれを否定する。
時間にして一瞬、しかしアインズにとってはとても、とても長い時間。
考えに考え、一つの賭けへと出て行く。
「…武器を下ろせ」
「アインズ様!?」
驚きの声が上がるも、それを無視して杖を手放し両手を開く。
今のアインズに出来る敵意はないとの精一杯のアピールである。
「シャルティア……彼女から手を放せ」
「え!?は、放すんで…ありんすか?」
無言の主人の背に困惑しつつも、シャルティアは拘束していた手を放す。
オートスは力なく、荒廃した大地へと倒れていく。
それを目に、ほんの少しベロスの敵意が弱まっていく。
「ベロス…ベロスなのだろう?」
「…誰?」
会話に答えてくれた事に心の底から安堵の息を吐いていく。
ベロスの性格なら話くらいは聞いてくれる…ハズだ。それに賭けたが正しかった。
問答無用で
幻像である以上、ワールドディザスターの
だが、多少威力が下がった所で
何より最早殺し合い所か、戦闘をする気もアインズにはない。
「私は……モモンだ」
それを耳に、眉を顰めつつも警戒が強くなる。
当然か。それはそうだろう。
戦っていた相手…それもアンデッドが突然名乗っても信用されるはずがない。
アインズは必死に考える。どうしたら信じて貰えるか。
あれは…ウルベルトさんだ。それに……戦う事は最早したくない。
「これは…悪い行き違いなんだ。頼む、話を聞いてくれ」
撃ってこないあたり、話を聞く気はあるのだろうと判断していく。
一体何を話せば信じて貰えるのか。
何を話せば──。
少しの沈黙の後に言葉を口にする。
「──ハムスケとよく遊んだろう?」
耳が小さく動く。
聞いてくれている。
それに安堵の息を吐き、言葉を続ける。
「聞いてくれ……ウルベルトさんは私の…親友なんだ」
「ぇ…」
「君達は…ウルベルトさんを探しているんだろう?」
アインズの口にした言葉に、明らかな動揺を示している。
幻像が形を歪ませているのが彼女の精神状況を顕著に表していく。
「私も…ずっと待っていた。彼が帰ってきてくれるのを」
真実を口にしていく。
そう、ずっと待っていたんだ。
ウルベルトさんだけじゃない。
来る日も来る日も、ただ皆が帰ってきてくれる日を。
「ただ……待つのは寂しいものだ…。ベロス、君も出会ったあの日、そう言っていたじゃないか」
驚きの表情と共に、彼女から徐々に敵意が抜けていく。
「オートスさんとベロスだと分かっていたら…戦う気はなかった……戦う気はなかったんだ…頼む、一度話をさせてくれ」
長い沈黙の後に、幻像が姿を歪ませ消えていく。
「……モモンな──」
モモンなの?
そう口にした声は空からの怒号に消えていく。
「オンドリャアアアアアア!!!!」
「──は!?ア、アルベド!!?」
ナザリックから
既に満身創痍のベロスに不意の一撃の回避は難しく、頭部へと吸い込まれたハルバードの一撃はベロスの意識を刈り取っていく。
「べ…ベロ…」
声にならない言葉をアインズが口にする。
アルベドが容赦なく追撃にハルバードを振り上げる。
何となく空気を察していた、現場の守護者三名の行動は速かった。
話を聞き察するに、あの少女はアインズ様の知り合いであろう。
そしてあの幻影──あのお姿はウルベルト様。
見間違えたりはしない。ウルベルト様の関係者。
バネを弾く様にコキュートスが追撃の一撃を剣で防ぎ、シャルティアとアウラが倒れる体を拾い上げる。
「い、生きてはいます!」
「意識はないようでありんすが…し、死んではいんせん!」
「ア………アルベドォ!!!!」
少しの後に、巨大な怒号が荒野へと木霊する事となる。
・
ナザリックの玉座の間に多くの者の姿がある。
守護者だけではなく、一部を除く領域守護者や主な者達もそこに居る。
あれだけの戦場に姿を見せなかったプレイヤーが、この後に参戦するとは考え難い。
その判断でエ・ランテルの件はデミウルゴスとアルベド、現地のパンドラズ・アクターに一任した。
デミウルゴスが何か言い渋っていたが、アインズにそれ気に付く心の余裕はなかった。
何より──この場に牧場責任者のデミウルゴスと、不意打ちの形となったアルベドが居るのは不味い気がする。
そんなアインズの直感がそうさせた。
「よ、よろしいんですか?」
「ああ…。ペストーニャ、頼む」
「では治療致します、わん」
ペストーニャが魔法を唱えると、両名の傷が塞がっていく。
「治療は終えました。暫くすれば目を覚ますと思われます。あ、わん」
「あの…えっと…アインズ様…ど、どういう状況なんでしょう?」
マーレが困惑を顔に表し疑問を投げる。
戦っていた…と思ったら、
何か話──をしていた最中に加勢に向かったアルベドがとどめを刺した。
その後猛烈に叱咤され、敵を主人が抱えて戻ってきた。
ナザリックに居た者にとっては意味不明の状況である。
デミウルゴスが後半放心しながら眺めていたのもマーレ達の混乱に拍車をかけている。
実際、当の現場に居た3名も困惑しているのだ。
アインズは言葉を発さず、眠るような二人に視線を投げていく。
当のアインズも、何となく程度は頭にあるが未だ困惑と混乱の渦の中に居る。
「…アインズ様…今のうちに武装解除した方がよろしいでしょうか?」
「……いらん。最早どちらも魔力切れだ。MPのない
拘束すらされていない、強大な魔力を持つ敵対者…であろう者。
アインズが拘束を禁じたのだ。
当惑しつつも油断はしない。現場に居た者達は顕著である。
指の動き一本見逃さぬと警戒心だけは高まっていく。
暫くの後に姉に意識が戻っていく。
周囲を囲う異形と
「………残念だ」
正に彼女の感情通りの言葉が力なく口から出て行く。
生かされ捕らわれるとは。
「……オートスさん…」
眉間に皺を寄せ眺めていく。何故私の名を知っている。
意識がないうちに記憶でも読まれたか。
「私は──モモンです」
暫くの沈黙の後にポツリとアインズが告げていく。
それを耳に理解する。
そう──そうか。私の…最初の推測は間違っていなかったか。
あの鎧…あの鎧こそが──。
自傷気味に小さく笑い、告げていく。
「そう──そうですか。上手く化けたものですね」
「何故…何故なんです…」
様々な情報でアインズにも何となくは想像がついていた。
が、疑問が口から出て行く。
小さく投げた問いは怒りに油を注いでいく。
「何故…?何故?本気で…本気で聞いているのか?」
「…やはり…部屋の──」
「分かっていて聞くか!?いい性格をしているな!!?」
「動クナ」
コキュートスの剣が行く手を阻む。
振り上げた拳を下ろす先のない苛立ちに、嚙み締めた唇から血が滴っていく。
その光景を目に確信を得る。間違いない。
彼女達のナザリックを打ち壊した結果がこれだ。
「……謝る事で許されるとは思わないが…謝らせてくれ。すまなかった」
「アインズ様!?」
本心を口にする。深い謝罪。
アインズにはそれしか浮かばなかった。
深く頭を下げた
オートスからしても、まさかの謝罪に暫く呆然とその光景を眺めていく。
「そして…聞かせてほしい。君達が探しているのは──ウルベルトさん…ウルベルト・アレイン・オードルなのだろうか?」
続け様に出た言葉に彼女の脳も理解が追い付いて行かない。
今まで──ベロスにも、その名前は厳重に口に出す事を禁じてきた。
何故この
混乱と疑問、様々な憶測が体を支配し動きを止める。
「ウルベルト様…!?」
「アインズ様、一体何を…」
周囲からのざわめきも徐々に大きくなっていく。
そんな喧騒に妹が目を覚ます。
「…あれ…姉上…生きてたんだ」
「ベロス………まだ…今は生きていますよ」
ぼんやりと周囲に目を配り、ベロスも状況を理解していく。
何とも言えない表情でアインズに視線を投げて口を開く。
「……不意打ち…酷いな…モモン…」
言葉がアインズの心を抉っていく。
あれは俺が指示したんじゃ…いや…ベロスからしたら…そうだよな…。
会話させてくれ、戦う気がないと申し出て、戦う気を削いだ上での不意打ち。
……PVPに汚いも何も無いとも言えるが……糞野郎もいい所だ…。
友に対する余りと言えば余りの所業。
自己嫌悪が抑制に次ぐ抑制をアインズに与え続けていく。
「すまなかった…」
アインズには謝る事しか出来ない。
「……姉上は…見逃してほしいな」
ポツリと呟く
様々な感情がアインズを巡り、抑制されていく。
冷静になり、確実に確かめねばならぬ事がある事が脳裏を過る。
暫くの沈黙の後に、明確にしなければと口を開いていく。
「教えてほしい。シャルティアを洗脳したのは…二人なのか?」
それを耳に守護者達から殺気が膨れ上がっていく。
刺すような殺気の中、オートスが小さく告げていく。
「シャルティア…誰です?」
「オートスさんに一撃入れた
視線をシャルティアへと投げる。
憤怒の色がその表情には見て取れる。
「…そうですか。洗脳…だからあの時…争っていたのですか。アンデッドにも精神支配が効くのですか」
「死にたくなければ聞かれた事にだけ答えなんし!」
シャルティア自身が最も穏やかではない。
もし、この二人のせいで主人に弓を引かされたなら。
その感情は抑え込む事は最早難しい。
「知りません…あの戦いの場に、私は居た事は居ましたが」
「…
「そうです。私の眷属です」
「…何故?」
「同程度の脅威が争っていたら…どちらも潰れるのが一番の安全となるではないですか」
隠す事もなく口にしていく。
ここで隠しても最早意味がない。諦めの境地に近い。
先ほどの
そんな様子をアインズはジッと見つめている。
見つめた所でアインズに隠し事や嘘を見破れるわけもないが。
嘘はついていない。そんな気がする。
「殺される前に…私からも質問を」
「そんな立場だと思うわけ?」
「よせ、アウラ…何だろうか」
アウラを制し、続きをと告げていく。
「お前は──何なんだ?」
それを受け、アインズは言い淀む。
シンプルな質問。私は──。
私は…何だ…か。モモンか?アインズ・ウール・ゴウン…。
プレイヤー…?何と答えればいいんだ。
姉妹にはモモンと名乗った。アインズ・ウール・ゴウンと名乗った。
──オートスさんが聞きたいのは名前か?
暫くの沈黙の後に、一つの答えを口にする。
「…ウルベルトさんの…友人の一人だよ」
それを耳に表情に怒りが戻っていく。
「貴様如きがよくも──!」
「アインズ・ウール・ゴウン。それは輝かしい仲間達と共に作り上げたギルドの名だ。今では──私一人となってしまった」
怒鳴り声も気にせずアインズが続けていく。
「何時か、きっと何時か。皆は戻って来てくれる。その為にも戻るべき場所を──この世界に皆で作り上げた名を広げ、必ずや皆の耳に届ける。その為に私は名乗った。アインズ・ウール・ゴウンと」
続けて昔の話を口にしていく。
輝かしい時代の話を。
何時かの夜に、彼女達にも焚火を囲んでした話。
今度は濁す事なく明確に。
周囲の者達も皆、偉大なる御方の話に耳を傾けていく。
一通り話を聞いていたオートスが小さく呟く。
「…アインズ・ウール・ゴウン」
元々聞き覚えはあった。
ウルベルト様が探しておられた。ずっと。長い間。
もし、この
「…ウルベルト様…私は──」
様々な感情が彼女から気力を奪っていく。
力なく項垂れた彼女の口から、小さく声が出て行く。
暫くの沈黙を破りアインズが問いを投げる。
「どうか…教えてほしい。ウルベルトさんと…どういう関係なんだ?」
長い沈黙の後にベロスが小さく告げていく。
「………父上だよ」
それを耳に、皆が驚愕の表情を作った事は言うまでもない事である。
床を眺めるオートスを横に、ベロスがポツリポツリと口にしていく。
500年前。彼女にとっては大切ながらも、朧げな思い出話を。
べろす :かくかくしかじか
おーとす:初耳なんだけど
べろす :姉上は引き籠ってたからね(目を逸らしながら
良かったな死人ゼロだぞゼロォ!(人間から目を逸らしながら)
各方位に精神的な死亡は多い模様。