乗り込めー!
ナザリック地下大墳墓、玉座の間。
べロスの告白を耳に、結果として長い静粛が流れている。
話は恐らく嘘ではないだろう。
至高なる御方のお一人が残した遥か昔の朧げな話。
ウルベルトを知るアインズにとっては思い当たる話もいくつかあった。
正にウルベルトらしい話もあれば、首を捻る話もあったが、この状況で嘘をつく理由もない。
話を聞き終えたアインズとしては、大きく分けて二つの感情が胸にある。
一つは歓喜。
かつての仲間達がこの世界に存在する。
ナザリックの名を広め、何時かその名を仲間達の元へ。
そうは考えていたものの、実際に仲間達がこの世界に存在するのかどうか。
現実問題、可能性は低いだろうとも考えていたが──。
存在する。それに対する歓喜の感情。
同時にもう一つ。
かつての仲間達が残した子。
シャルティアに起こった何者かによる洗脳。
結果としてアインズ自らが手を下すという結果となっている。
知らなかったとは言えど、同じ結果を招く所だった。
そして話に聞けば約500年前だという。
アインズ──鈴木悟という人間には想像もできぬ長い時間。
その間、ずっと待っていた者。
それも友となった者の約束の地をデミウルゴスが──自らが壊したという事実。
聞けば聞くほど詫びて済む話ではない。
同時に500年前にウルベルトが存在したという事実。
これがアインズに困惑を呼び込んでいく。
(…500年……どうなっているんだ…?)
顎に手を当て、暫く思考を巡らせていく。
(俺の仲間達がこの世界に存在した…が…500年前……俺はアンデッドだ…寿命はない。悪魔も…寿命はない。が、寿命のある種族はどうなるんだ…?)
もし他の友がこの世界に存在したら。
寿命のある種族であったらどうなるのか。
そんな不安が頭を過る。
例えばバードマン。もしも彼もこの世界に存在したら。
もし、800年前や1000年前の世界に居たら…。
そんな考えは投げかけられた言葉に消えていく。
「あ、あの…アインズ様…え、えと…この二人はどうするんですか?」
マーレが問いを投げていく。
話を聞けば至高なる御方の子だという。
今回彼女達はナザリックに敵対した。
守護者であろうが許される事ではない以上、無論彼女達とて許されない。
しかし、話を聞くに
彼らとしては、どうしたら良いかがわからない。
(どうするんですか…か。俺が…俺が聞きたい)
どうしたら良いか等、アインズ自身がわかっていない。
これが偶然出会った等であれば、嬉々として手を取り合っただろう。
アインズとしては最早戦う気もない以上、手を取り合いたい。
かつての仲間達の残した者であればなおさらである。
だが、今までの事は水に流して一緒に探そうと言ったところで、「はい、そうしましょう」と言ってくれるだろうか。
難しいだろう。
だが解放はできない。
解放した場合、今回と似た形でのすれ違いが発生するかもしれない。
或いは恨みを忘れず急襲してくる可能性とて、ないとは言い切れない。
彼女達はその辺のこの世界の者とは違う。
今回こそ勝利を収め、話を聞けたが敗北していた可能性とてある。
同格の──それも
かといって殺す等、出来ようはずもない。
拘束や監禁もダメだ。彼女達を知ってしまった以上、アインズの選択肢には上がらない。
何とか確実に目の届く範囲に置いておく必要がある。
アインズは存在しない脳を高速で回転させていく。
結果、何も浮かばない。
(無理だ…俺にこんな状況を綺麗に解決するような案は浮かばない…)
時間が──時間が必要だ。
こんな状況で、全てを丸く収める妙案が浮かぶ頭ならば苦労はしていない。
が、沈黙しているわけにもいかない。
少なくともアインズは立場上、トップなのだ。
存在しない唾を飲み込み、口を開く。
何とかなってくれと祈りを込めて。
「──二人は…この後はどうするつもりなんですか?」
それを受け、床に視線を落としたままのオートスが小さく告げる。
「…どうもこうもない。今の私達には選択肢はない」
敵対し捕らえられた以上、どうするつもりかと聞かれても答えようがない。
そんな諦めの言葉である。
「結果的に私が…故郷を壊してしまった事は紛れもない事実だ。今一度謝らせてほしい。すまなかった」
今一度謝罪を告げ、続けていく。
「そして…贖罪をさせてほしい」
そう告げたアインズへと眉を顰め、オートスは視線を投げていく。
少し間を開けアインズが続けていく。
「我々はウルベルトさんを探す。総力を挙げてだ。君達の為にも、私自身の為にも」
「必ず…見つけ出す。何をしようとも、必ず。だから…そう……そうだな…」
少しの間を置き、掲げられた旗の一つへと視線を投げる。
二人に言い聞かせるように、記憶の彼に告げるようにと口にする。
「どうか…待っていてくれ」
それが彼女達にはどう聞こえたかはわからない。
姉妹は一度顔を見合わせ、沈黙を保ちアインズを見つめている。
不安を感じつつもアインズが続けていく。
「…また、同じ事の…繰り返しは起こしたくないんだ。怒りも尤もだ、そう簡単に許せもしないだろう。だが……どうかナザリックに滞在してほしい。無論、捕虜としてではなく、客人としてだ」
今は時間が必要だ。
そんな気持ちが口を出ていく。
長い沈黙の後にオートスが小さく告げていく。
「……今の我々には選択肢はないのです。そうしろと…そう言うのであれば従いましょう」
そう告げた彼女の瞳には、長く浮かべていた諦めの色ではなく、どこか懐かしい者を見るような。
ほんの少しだけ、小さな希望を見つけた光が宿っていた。
・
ぼんやりと空を眺める男の姿がある。
普段の雰囲気とは少し違い、その表情には曇りの色が見て取れる。
「──ス?」
「デミウルゴス?聞いているの?」
「──少し考え事をしていました」
共に進むアルベドから声をかけられ現実へと戻ってくる。
「…貴方、大丈夫?」
「勿論…とは言い難いね」
先の戦いを見ていたデミウルゴスは様々な感情が頭を巡っている。
二人の悪魔。そして、召喚された己の創造主たる姿。
ウルベルト様の仰っていた共に成すべき者。
まさか──。
「それで、この後は予定通り…とは既に言えないけれど…エ・ランテルへ向かうという事でいいのね?」
アンデッドの群れに軽く視線を投げつつアルベドが告げていく。
ナザリック・オールドガーダー、デスナイトの想定外の損失。
とは言えど、その程度であれば大きな問題もなく。
「アインズ様からは任せる…と申し付かっております。それで良いでしょう」
ナザリックから新たにナザリック・エルダーガーダー、ナザリック・マスターガーダーを引き連れ、エ・ランテルへと歩を進めていく。
「ところで…貴方はあの二匹の事をどう考えているの?」
「二匹?」
「畏れ多くもアインズ様を襲ってきた者達よ」
推測では──恐らくは同胞。それもウルベルト様からの。
だが、確かにこれはどういう状況なのか。
「あの二人は──……やめておこう。確証がないのでね」
「エ・ランテルでのアダマンタイト…八咫烏。恐らくアレの正体ね」
現場で近く顔を見たアルベドがそう告げる。
それを耳にデミウルゴスは考える。
八咫烏があの二人の正体…逆ですね。
冒険者として擬態していたのですか…何故。
──そういえば…アインズ様はあの二人に常に注意を払われていた。
確かに人間としての最高位冒険者は高い利用価値がある。
それにしても何故あそこまで執着されるのかと疑問だったが…。
「──まさか」
まさか、まさかあの絶対なる主人は全て知っておられたのか。
最初から全て気づいていた?
では…では何故敵対するような形に?
デミウルゴスは頭を軽く振り、次々頭に浮かぶ考えを追い出していく。
あの二人はアインズ様直々に回収された。
真意は主の中にある。
であれば、今すべきことは任せられた任務を遂行する事。
エ・ランテルを確実に手中に収める事が第一。
絶対的な主人が必要だと判断すれば説明があるはずだ。
「上の空のようだけど…本当に大丈夫かしら?」
「貴女こそ大丈夫ですか?随分とお叱りを受けていたようですが」
「アインズ様の身に迫った危機。僕として当然の事をしたのよ。アインズ様はあのように仰ったけれど、間違った事だとは思っていないわ」
そう告げるアルベドの目には冷たい光が宿っている。
それを耳にデミウルゴスの口からは、アインズ様は何時であれ正しい。であれば間違っているのは我らでしょう。と、喉から出かけて飲み込んでいく。
これ以上、触れぬ方が良いであろうと直感が告げている。
そんな視線を受けつつもアルベドは思案する。
殺し損ねた事は…最大の失態だった。
あの場で少し話を聞いただけだが、彼女の聡明な頭脳は理解した。
よりにもよってあの二人は偉大なる御方…と呼ばれる連中の関係者らしい。
「機を見て消したい所だけど…」
「何です?聞き取れなかったのですが」
「何でもないわ、独り言よ」
我々を捨てた者共の残り香。
アインズ様は元々執着されていた。
あの二人のせいで、よりご執着されるだろう。
「どうにか…忘れてもらえないものかしらね…」
誰に言うでもなく告げた言葉は、空へと消えていく。
・
エ・ランテルは正に混沌とした状況だった。
大地そのものを大きく揺らす地震が起こり、遠く遠景に見えた炎や爆発。
恐らく戦いであったのであろうが、それは正に神々の戦いという言葉が相応しいだろう。
まさに吟遊詩人の歌う神の戦い、絵本の中での神話の戦いであろうという事。
その少しの後に、バルブロに従軍していたと思われる兵がちらほらと壊走してきた。
8万という大群の姿はなく、生きて戻ったのは数百名が良い所である。
皆が皆、狂乱状態に陥っており、まともな報告すら出来ぬ有様であった。
それを目に都市長やアインザックといった者たちは確信を得る。
あのアンデッドは人が抗える相手ではなかったのだ。
そんなエ・ランテルの一室で都市長は力なく項垂れる。
最早出来ることは何もないであろうと。
そんな中、扉が開かれ見慣れた顔が入室してくる。
「アインザック組合長…どうかね。何か…分かったかね…?」
「確実な事は一つです、都市長。バルブロ殿下率いる8万の軍はほぼ壊滅との事です」
「そうかね…では…8万のゾンビが加わったのかね…」
「それは…少し違うようですな」
少し不思議そうな表情を浮かべた都市長へアインザックが説明していく。
その表情は苦虫を嚙み潰したような表情である。
兵から何とか聞き取った情報によると、王国軍はアンデッドとの闘いに敗れたわけではないという。
平原で相対した後、アンデッドへの全軍による突撃を敢行。
同時に大地が大きく揺れた…と思った次の瞬間、眼前にいた者達が焼け死んでいったという。
問題なのは、侵攻してきたアンデッド軍も同時に焼き払われたとの話である。
その後、巨大な悪魔と思われる、炎と煙を纏った巨大な翼を持つモンスターが出現。
例のアンデッド及び、それが率いてきた者達と戦闘が起こったというのだ。
最も、逃げ出した生き残り達が知るのはそこまでなのだが。
「炎で焼け死んだ…アンデッドの軍共々…?」
「報告としては…そのようです」
小さく息を吐き問いかける。
「聞かせてくれ、組合長。例の
「………ありえ…いえ、わかりません」
予想通りの返答に都市長が苦笑いを浮かべる。
都市からも時折見えた、遠方での爆発や大地を揺らした地震。
そんな魔法等聞いた事もない。魔法に精通しているわけではないが、常識という範囲からはかけ離れているであろう事くらいは理解できる。
「悪魔…悪魔か。その悪魔が…アンデッドを滅ぼしてくれたのか?」
そんな都合の良い話があるわけはないだろう。
頭では分かっていても、その希望を抱かずにはいられない。
そんな中、部屋の扉が勢いよく開かれる。
「組合長!!ついにアンデッドが、アンデッドが来ました!!」
それを受け、皆が室外へと駆けていく。
目に入ったその光景に皆が目を見開く。
数千は居るであろう、アンデッドの軍勢。
彼らの知るアンデッドとは知性のない者が多い。
が、エ・ランテルを取り囲むそれは統率された軍隊そのものである。
金色の鎧に深紅のマント、そして手には光る武器が見て取れる。
「こんな…終わりだ…」
誰かが絶望を口にする。
そんな中、空を覆いつくすような暗雲と共に、10日前に現れた先触れとも言えるモンスターが空より姿を見せる。
怨嗟の声は一つの言葉となり、エ・ランテルに響き渡っていく。
『偉大なる御方に代わり告げる。偉大なる御方は最後の機会をお与えになられる。降伏せよ。服従し、膝を折るものには生を。なおも抗う愚か者には死を』
「……組合長、あれに…勝てるかね」
「…残念ですが」
こうしてエ・ランテルは勧告を受け入れる事となる。
エ・ランテル陥落、アンデッドの国が建国。
アインズ・ウール・ゴウン魔道国。その名が周辺諸国へと響き渡っていく。
あとがき。
やーっと建国しましたよコイツァ!
今回は本編関係ない後書きです。
何時も関係ないと言えばないです。はい。
少々忙しい時期というのもあり、更新ペースが落ちます。
春だしね‥うん。
読んでくれる方には感謝を込めて、ではまた!