あうら :その呼び方…やめない?(胃痛
しゃるてぃあ:アインズ・ウール・ゴウン魔導王様と呼びなんし(疲弊
まーれ :お菓子ポリポリ
「報告に間違いはないのだろうな?」
絢爛豪華。それを体現したような帝都の一室。
矢継ぎ早に届く報告書に目を通し、その眉目秀麗の顔に浮かべた不敵な笑みが消えていく。
今年も王国への開戦を考え、軍議の真っ只中に驚くべき報告が入った。
「間違いございません。陛下」
リ・エスティーゼ王国へとアンデッドが宣戦布告。討伐に出た王国貴族率いる約8万が壊滅。死体を始め、戦闘の痕跡は見受けられず。エ・ランテル陥落、アインズ・ウール・ゴウン魔道国建国。
エ・ランテルと言えば三国の要所、三重の壁を持つ城塞都市である。それがアンデッドの手に落ちるとは。状況から考えて墳墓から沸いたと考えるべきであろう。潜むは悪魔か。であれば刺激し、あわよくば王国の国力を削れるかもしれない。その考えが完全に裏目に出た結果となる。まさかエ・ランテルが陥落する等ジルクニフをもってしても想定外もいい所である。
「潜んでいたのは…アンデッドか。私はアンデッドにはそこまで詳しくない。アンデッドを用いて兵8万を──恐らく撃破、その上でエ・ランテルを陥落させる…そんな事が可能か?」
「普通じゃ考えられないですが…種類によりますかね」
「エルダーリッチを筆頭に知性ある者が混じっていれば…と言ったところでしょうか。他にもヴァンパイアや上位のヴァンパイアであれば──」
各々の知識と経験から次々と意見が上がる。
それを耳にジルクニフは考える。
アインズ・ウール・ゴウン魔道国…アインズ・ウール・ゴウン…何処かで聞いた名だ。
──
「──じい、どう考える」
「そうですな…私も報告書は目に致しましたが…大盾を持ち大剣を振るう強力なアンデッドが複数確認されたようです。殺した者を使役したとの報告もございます。俄には信じられませぬが、このアンデッドには心当たりがございますぞ」
「ほう?どのようなアンデッドだ?」
「エ・ランテルが陥落という状況を考えれば…このアンデッドの正体は
「
「以前カッツェ平野にも出現した事がございます。殺した者を使役し、使役された者が殺した者も
目を輝かせているフールーダを横目に、ジルクニフの脳裏には状況が作り出されていく。
兵士としては質が悪い、数を頼りとする王国軍。そんな中に殺した者を従者とする強力なアンデッドが複数突っ込んでいったらどうなるか。指揮すら取れず容易に瓦解するのは想像に安い。
「成程、数を頼りとする王国とは相性最悪…と言ったところか。じい、その
「無論脅威ではありますが、
「そうか、期待しているぞ」
倒せる相手であれば問題ない。
王国の脆さは想定外だったが、これは使える。アンデッドが建国したとなれば攻めるにも大義名分は十分。聖王国あたりであれば交渉次第で無償で力添えまで引き出すことも可能だろう。
アンデッドが相手となれば手段や風評に頭を悩ませる事もない。どのような手法で奪い取った所で、隣国、住民、王国民すら帝国を讃美する事だろう。
じいを筆頭に
再び不敵な笑みを浮かべ、冗談交じりに告げていく。
「エ・ランテルがアンデッドの都市となるとはな。王国民もアンデッドにされるとは思わなかっただろう」
「いえ、それが…先ほど届いた報告では死傷者は少ないとの事です」
「…何?住民は無事…という事か?」
「そのようです」
ジルクニフから笑みが消えていく。
アンデッドによる都市落とし。これだけであれば前例がないわけではない。
二十年ほど前、とある遺跡を占拠し、小さいながらも都市一つを滅ぼしたという事例もある。更に歴史を遡れば、大都市に突如現れた強力なアンデッドが住民全てをアンデッドに変えたという事例もある。共通しているのは所詮は力だけの者が行った所業という事だ。未来を考える頭がない。
エ・ランテルの陥落、少ない死傷者。この二つの情報でジルクニフは理解する。これは知性ある者の所業。
「厄介かもしれん…」
一つの意思の元に動く死の集団。それが──知性ある者に率いられていたとすれば。
アンデッドが、統率された軍隊となっているのであれば。
それは国家を揺るがす危機となりかねない。
「
「はっ、報告自体は上がっております」
では何故報告書には記載がないのだ。
そう口に出しかけ引っ込める。報告書に記載がない。つまり公に出せぬ情報があるという事か。
ロウネへ近くへ寄るよう告げ、小声での報告を受けていく。
口頭での説明と共に渡された書類に目を通す。
墳墓にて、
ジルクニフは高速で情報を整理していく。
天武は王国のガゼフ・ストロノーフに近い実力を持つと耳にした事がある。尤も自分を大きく見せる為の誇張はよくある事だ。鵜吞みにはできんが、実力者である事は確かだろう。だが、じいとガゼフでは勝負にならん。魔法とはそれだけの力を持つ。強力な力を持つ
それだけの力を持った
問題なのはここだ。これをどう捉えるか。
多くの死者が集まる地には、より強大なアンデッドが生まれると聞いた事がある。であれば、強者を元にすれば強大なアンデッドが生まれるという事か?それであれば納得出来る。問題なのは全ての死体を
それは状況を考えてもありえまい。それだけの力があれば当の昔に世界にはアンデッド以外存在していないであろう。
そして王国のアダマンタイト、漆黒と八咫烏。これをどう見るか。
強大なアンデッドを単騎で屠る戦士…。一級品である事に疑いの余地はない。
じい以上の魔力を持つ八咫烏…姉妹…だったか。聞くにまだ年若い、伸びしろも十分ある。報告書に挙げなかったのは正解だ。これをじいが知れば、文字通り八咫烏を探しに飛んでいきかねない。
「陥落という事は…八咫烏と漆黒は逃げたか?死亡か?消息は?」
「漆黒はエ・ランテルにて住民を守り残っているとの事です。八咫烏は所在不明、エ・ランテル陥落前に街を出たとの事です」
「生きている…のは喜ばしいが、住民を守り残った?冒険者がか?」
引っかかる。何だこの違和感は。
嫌というほど人間という物を見てきたからこそ分かる事がある。そんな高潔な人間が存在するか?赤の他人の命を守る為、自身を危険に晒しアンデッド蔓延る都市に残る。生まれ故郷や家族が居るというのならばまだ理解できるが、噂を聞くに奴は旅人だ。
ジルクニフは高速で頭に入っているモモンという人物の情報をかき集めていく。聞こえる噂に浮かぶモモンという人物像。二匹の
──無欲。これに関しては理解できる面もある。
これから見えてくる
モモンは──復讐者か。家族か故郷か知らんが、復讐の為に他の事に興味がない。であれば周囲から見れば無欲とも捉えられるし、金銭などに興味がないのも納得できる。
復讐者の事は良く知っている。何人も見てきた。家を潰した、家族を殺した、それに対する復讐。復讐に一度取りつかれた者は首を跳ねぬ限り何を犠牲にしても成そうとする。それ故の禍根を断ち、周囲へ警告等も含めた親族郎党打ち首だ。だからこそ違和感がある。
そんな人間が自分の目的を捨て、赤の他人……立ち寄った都市住民の命を優先するか?
──高潔。自身の目的を捨て住民の為に窮地に残る。これが事実ならば、旅の道すがら目につく者は助けて来たはず。であれば旅する力を持った漆黒のフルプレートアーマーが噂にならないはずがない。そんな噂は上がってきていない。奴の出現はこの最近だ。……アインズ・ウール・ゴウンを名乗るマジックキャスターの出現と同時期に…。
奴は
偶然現れた、それも同時期に。一つであれば偶然だが重なればそれは必然。
「……まさか…仕込み」
ジルクニフの頬を冷や汗が落ちていく。
思い違いならばいい。考えすぎであれば。だがもし、もしもこの推測が当たっていれば。何かしらの理由があり、住民を生かしておく必要があったとすれば。アンデッドが都市を占領すれば住民が素直に指示を聞くはずがない。それを見越して事前に、愚かな民を操る為に作り出した者が英雄モモンだとしたら。
入念に練った計画を用意し、力を持ったアンデッドの集団が動き出したのだとすれば…。
──では八咫烏。あちらはどうだ。
アレの出現も漆黒と同時期だと聞いている。
では奴らも仕込みか。落ち着け。結論を急ぐな。
心の中で息を深く吐き出し、ロウネに小さく告げる。
「…八咫烏は何故エ・ランテルを出た?理由は分かっているのか?」
「報告ではチームが欠けていたとか。墳墓調査は漆黒を前衛に行ったとの事です。推測ですが、合流する為でしょうか」
チームが欠けていた…想像以上のアンデッドを前に合流を優先した?
八咫烏は悪魔を探していると耳にした。漆黒は
では…墳墓と無関係で街を出た?目的がある人間が厄介事に巻き込まれかけたのだ、それが普通の判断だ。では無関係か?だとすれば…接触して引き込む。無関係であれば遊ばせるにも、死なれるにも惜しい……だが今は情報が足りん。
考えを保留し、渋い顔をしつつも報告書を読み進める。
エ・ランテルに千を超えるアンデッドが入城…推定魔法の武具を身に着けたアンデッドだと!?魔法の武具を持った………帝国の最精鋭に近い…恐らく精鋭中の精鋭だ。となれば…例の墳墓からエ・ランテルに拠点を移したと見るべきか。
であれば墳墓は捨てたか?どちらにしても精鋭を動かした今は手薄。
報告では八咫烏、漆黒以外にも
「バジウッド──」
一つの予感に発しかけた言葉を止める。
──本当に手薄か?相手はアンデッドだ。仮に…何十年、何百年と潜み続け、機会を伺い続けた者だとしたら?精鋭は不在だとしても
「陛下?」
首を捻るバジウッドを横目に思考を働かせていく。
敵はアンデッド。この情報を使うべきだ。墳墓に確認されたとされる山のような財、この情報も使わぬ手はない。帝国の被害を最も抑え、敵の戦力や手の内を知る方法…。
暫くの沈黙の後に続けて告げていく。
「──王国への侵攻は白紙に戻す。帝国はアインズ・ウール・ゴウン魔導国に対し中立としての立場とする」
「本気ですかい?相手はアンデッドですぜ?」
視線をロウネに移し告げていく。
「我々帝国は一切関与せず静観する。が…──例の墳墓は兵が出払い、恐らく今は手薄な上に目の眩む様な財宝の山らしい。近く貴族共にも噂が広まるだろう」
理解の色を示し、ロウネは軽く頭を下げ退室していく。
「最低限を残し、全諜報員をエ・ランテルへ向け派遣。アンデッドの動向と共に漆黒と八咫烏に関して洗い出せ。聖王国へも一つ、噂を流す事としよう。アインズ・ウール・ゴウン…お手並み拝見といこう」
・
力強い足音と革靴のような小気味良い音が廊下に響く。
歩みを進める事暫く、目的の扉を軽くノックする。
暫くの後に扉が開かれ、小柄な姿が中から現れる。
「誰?」
「ベロスだったかな?少しよいかね?」
ベロスは部屋の中へと視線を投げ、顎を引く。
それを目に部屋の中へと二人の守護者が足を踏み入れていく。
丸机を囲うように椅子が5つ。その一つにオートスが座り、ぼんやりと壁に視線を投げている。
「少し話でも…と思ったのだが。お邪魔かい?」
「──世話焼きが多いのですね」
ここ暫く、
主に会話をしているのはベロスだが、彼女達には共通となる話題が一つある。主な会話の内容は至高なる御方であるウルベルト、その話題が大きな所を占めている。ナザリックの守護者としては当然、至高なる御方は心から崇拝している。その本心から紡がれる言葉は、二人の凍りついた心をほんの少しずつ溶かしていく。
「座っても?コキュートス、君にはこの椅子では少し小さいね」
「不要ダ」
少しのやり取りの後に椅子へと腰を下ろしていく。
「改めて軽く自己紹介をしておこう。ナザリック地下大墳墓、第七階層守護者の地位を与えられている。デミウルゴスだ」
「第五階層守護者、コキュートス」
「閉じ込めるような形となりすまないね。色々と……何かね?」
デミウルゴスは視線を感じ問うていく。
「……ううん。何でもない」
口ではそう言うものの、こうも視線を感じていては何ともやり難い。
「何かあるのかね?」
「…兄上?」
「…………好きに呼んでくれて構わないが」
想像の斜め上の発言に一拍置き、別の話題を振っていく。
「──ところで、私もあの戦いは見ていてね。コキュートスの腕を落とすとはね。驚いたよ」
「…私がやったんじゃないよ」
「捨テ身ニヨル反射。相当ノ覚悟ガ無ケレバデキヌ芸当ダ」
戦闘の話題を振った事でコキュートスが反応していく。
ぽつぽつとベロスと会話を始めたのを横目にオートスへと視線を投げていく。
向けられた視線を受け、小さく告げる。
「──それで、何の用です」
「冒険者、八咫烏としての姿を使いたいのだがね」
それを耳にオートスの頭にはデミウルゴスの意図が浮かぶ。
そんな自分に呆れてしまう。間違った行動をとり続けた愚か者。考える事は……もう辞める。そう決めたというのに。私は…知者で在れ。そう望まれたからだろうか。
同時に一つ気付く。考える事を辞める……また…ご期待を裏切っていたのか。知者で在れと望まれた…ウルベルト様の望み。それを自ら裏切ろうと。本当に…。
そんな沈黙を前にデミウルゴスが続けていく。
「言葉が足りなかったようだね。君達が使った八咫烏。その姿を用い幾つか頼みたい事がある」
暫くの沈黙の後に、オートスは小さな溜息と共に口を開いていく。
「知名度でも集めろと?」
「話が早くて助かるよ。エ・ランテルの住民感情を抑える為にも漆黒は動けないのでね」
「そうでしょうね」
「隣国にも情報が伝わった頃合いだ、そろそろ動くだろうからね」
「皇帝は賢い者だとか。表立っては動かないでしょう」
「そうだろうね。帝国に関しては既に弱みを握っている」
「墳墓調査の件ですか。帝国が関わっているのでしょうね」
その後も幾つか会話を交わしていく中で、デミウルゴスの中に生まれた小さな驚きと関心。この女は聡い。
似た感情がオートスにも小さく生まれていく。過去にまともに会話が成立しそうだった者と言えば、レエブン候とかいう人間。とは言えあくまで有象無象と比べればといった所だ。会話が成立する相手という意味では初の出会いである。
「──興味深い。もう少し君の考えを聞きたい所だ」
「……冒険者の姿でしたか?
少し喋り過ぎた。本題への回答を持ち、オートスは口を閉ざす。
その様子を目にデミウルゴスは思考する。アインズ様が警戒なされる敵の存在、今後確実に拡大していく魔道国。知性が高い者は幾ら居ても今後足りる事はない。アインズ様も迎え入れると仰っていたが、確かにこれは…大いに納得できる。更にはウルベルト様が創造された者となれば、何としても引き入れる必要がある。
「君達自身に…自ら協力願いたいね」
オートスは答える事なく視線を外す。
そもそも囚われの身。協力?命令の間違いだろう。
暫くの沈黙の後にデミウルゴスが言葉を発していく。
「私はこの世界を。宝石箱をアインズ様に捧げたいと考えていてね」
「それが──ウルベルト様の望みでもある」
眉間に皺を寄せデミウルゴスへと視線を戻す。
気付けばコキュートスとベロスも視線をデミウルゴスへと向けている。
「──吐いた唾は吞めませんよ」
「嘘は何一つない。私はウルベルト様に創造された。それは聞いているね?」
小さく顎を引いたのを確認し続けていく。
「ウルベルト様は最後に私に仰った。同僚と共に──世界の一つくらい征服してみせろ…とね。必ずや見つけ出し、ウルベルト様へ、アインズ様へとこの宝石箱を捧げるつもりだ」
「君達には──何も仰らなかったのかね」
その言葉に記憶を辿るも、朧げな記憶は正しい道を示さない。
ここ数日、耳にしてきた話からナザリックという全体像は掴めている。
ウルベルト様と多くのご友人が共に作り上げた地がこのナザリックと呼ばれる地。
事実であればこの男の口にした事は間違ってはいないのだろう。
だが──例の件は許し難い。
この男はその
そんな長い沈黙を破ったのはデミウルゴスである。
「強要する気はない。思う所があるのであれば、この部屋で待つ事も良いかもしれないがね。ウルベルト様をお探しなのだろう?私は必ずや見つけ出すつもりだ」
その言葉は彼女の背を押していく。
部屋で待つ。それだけは耐えられない。
私は何のために命を破りあの部屋を出た。
必ずや見つけ出す。その為に最後に与えられた命をも破り、部屋を出たのだ。
「話は以上だ、検討してくれたまえ。コキュートス、行こうか」
デミウルゴスはそう告げ部屋を後にしていく。
暫くの沈黙の後にぽつりと告げる。
「ベロスは…どう思いますか」
「もう待つのは嫌だよ」
「──そうですね」
同じ創造主に作られた者の手で狂った歯車。
それは元凶となる者の手により、再度動き出していく。
あとがき
年末に向け、ちょーっと忙しくなってきたので投稿ペース君が落ちます。
同時に話をどう持っていくのかの迷路に片足を突っ込んでいます。
まぁ何とかなるでしょう、ガハハ。
なるかな?なる筈。多分!