にぐん:酷い目にあった
影ながら助かったガゼフ君。
なおカルネ村は予定通り焼かれた模様。
遠くに巨大な都市が見える。
三重の壁によって守られた人間たちが住む巨大な城塞都市エ・ランテル。
「──さて、この姿のままでは宜しくありません」
ちらりと妹に視線を投げる。
「まっかせてー!
元気よく詠唱を始める妹に何か嫌な予感を感じ口に手を当てる。
「…念のために確認ですが、どの様な形にするつもりでした?」
「え?前に会った人間だけど」
悪くはない。思っていたよりずっと。だが、あれらは組織に所属する者達。無用な混乱や面倒事を呼び込む可能性がある。そう判断し妹に告げる。
「悪くありません。ただ、今回はやめておきましょう。そうですね…今回は大きく変える必要はありません」
我々のベースはそのままに、服装もその辺の人間と同じようにと告げる。
「おっけー!<
「ありがとうベロス。多くの者が住む土地です。少し警戒していきましょう」
「警戒?」
「そうです。面倒事は避けなければ。余り目立つ行動は避けてください」
こうして城塞都市エ・ランテルに二人の悪魔が入り込んでいく。
・
「──以上が土の巫女姫からの報告となります。」
とある神殿の奥深くに声が響き渡る。
集まる複数の人影がある。共通して表情は皆暗い。
長い沈黙が明け、一人が口を開く。
「報告書に…間違いはないのか?」
「土の巫女姫の言を信じられるのであれば」
そう告げられた老人は深い溜息と共に力なく顔を落とす。
嘘を報告するわけがない。それは十分理解していた。
誤報であってほしい。そんな気持ちからの問いは儚くも消えていく。
深くため息をつき一人が告げる。
「これは忌々しき問題。第九席次の疾風走破は巫女姫の証を持ち、風花聖典に追わせるも未だに行方が知れず。
「一体何から手を付けるべきなのか…」
陽光聖典の壊滅。これの再建だけで一体何年に及ぶ被害なのか。そう考えるだけで皆から深い溜息が口を出る。
「真実であるとして…陽光聖典が壊滅。今まで陽光聖典が行っていた任務をどうするべきなのか…」
「今考えるべきはそこではないでしょう」
そう告げた者に皆が目線を向ける。
年齢は40代程、多くの戦場を駆けた者特有の鋭い視線を持つ男。
土の神官長。レイモン・ザーグ・ローランサンが語る。
「陽光聖典の任務。それは今論じる事ではありません。今論じるべきは新たな脅威と優先順位」
「土の巫女姫の言は真実。陽光聖典は壊滅した。問題はそこでもありません」
「問題なのは敵対した者達。報告には2名の人型の亜人とあります。多くの天使の攻撃を無力化し、魔法による攻撃も効果が見られない。天使共々人間を溶かしたという、残虐で攻撃的な雨を呼ぶ魔法。そして
皆の視線と理解の色を確認し続ける。
「雨を呼んだ。つまり最低でも第6位階魔法
ざわめきが走る。つまり第7位階クラスの魔法を行使する者だとレイモンは告げている。
第7位階を使用できる者…そんな事があり得るのか?と皆が顔を見合わせ一つの結論に行き着く。
「つまり…神に匹敵する…と?それが人類に害すると?そう考えているのか?」
「そう考えるのが自然でしょう」
「…神に匹敵する人類の敵に…勝てるのか?」
呟くようにそう告げた者の言葉に少し考える。
その沈黙を否と取ったのか、周りの者の表情は暗い。
「元漆黒聖典、第三席次として申し上げます。勝てるでしょう。神々の遺産、そして番外席次の存在が我らにはあります」
おお!と多くの喜びの声が上がる。
しかし
そんな中、沈黙を保ち長く間報告書を眺めていた者が口を開く。齢はおよそ50を過ぎたであろう女性の神官。
「この二人は今は放置でも問題なかろう。何より現在地を見失っているのであろう?」
土の巫女姫からの情報ではその後の足取りを見失ったとある。人と天使が溶けていくという衝撃的な映像にショックが大きかったようだが、これは皆が溜息をつく失態である。
「報告書が真実という前提であるが、陽光聖典に二人が先んじて攻撃を仕掛けたとは記載されておらぬ。二人に気づき接触した陽光聖典と後に戦闘。その後皆の知る経緯で壊滅とされている」
「それは…。では何故戦闘が起こった?」
「わからぬ。しかし元より襲う気であれば接触前に襲われているであろう。推定第七位階以上の使い手。それも人外であれば隠密行動を得意とするわけでもない陽光聖典の接近に気づくはず。無論…その残忍性、危険な力、無視はできぬ。だが今最優先すべきは復活した可能性のある
それを受け、暫くの間会議は続いていく。
長き話し合いの末に会議は一つの結論で決着を迎える。
「では、例の二人は引き続き土の巫女姫に探させよ。幸いにもニグンは生きているとの事。戻るまでに陽光聖典の再建計画を。
・
多くの人が行き来する街を様々な物に反応し、興味深そうに見まわしている小柄な女性、そして額に手を当てそれに付き合う長身の女性に視線が集まっていた。
この町では見ない顔。旅人か?それにしては女性二人とは。整った顔立ち、染み一つない肌を見るに良い育ちだろうか?それにしては…黒い旅装束?…護衛の姿も見えないのも気になる。と皆首を捻っている。
「お嬢さん何かお探しかい?」
露店の商品を眺めていたベロスに店主が声をかける。
「このアクセサリーいいね!?」
キラキラ光る石がはめ込まれたブローチに興味を示し手に取っている。
「そうだろう?銀貨1枚…お嬢さんは可愛いから銅貨7枚におまけしてやるよ、買うかい?」
ちらちらとこちらを見てくる妹に溜息をつきながらオートスが口を開く。
「不要です。それよりもお聞きしたい事が。この町で情報が…亜人や異種族の情報が最も集まるところは何処でしょうか?」
「そりゃ…そうだなぁ。心当たりはないわけじゃないが──ここは露店だぜ?このブローチ、姉さんにも似合うかもなぁ?お嬢さんと二つセットで銀貨1枚でいいぜ?」
何か買え。その強い意志を感じてまた一つ溜息をつく。これだから非効率な行動は嫌いだ。やはり素直に私のやり方で情報を引き出さないか?そう告げるようにベロスに視線を向ける。
「姉上に似合う似合う!」
──ダメか。少し項垂れ、無言で懐から袋を取り出し、中から銀貨を1枚取り出す。あの無礼な連中の死体から硬貨を少し拝借してきて正解だった。
「お、まいどあり」
「支払う前に、先に心当たりとやらをお聞きしても?」
遠くから来たのか?亜人や異種族、モンスターの情報なら冒険者組合が一番だろうよ。と肩をすくめ、当然のように店主が告げる。この通りを進んで右手に見える大きな建物が冒険者組合。場所も確認した所で硬貨を渡す。
店主に手を振る妹を連れて冒険者組合へ歩みを進めていく。あまり期待できそうにないが今はこれしか当てがない。
冒険者組合に辿り着き、扉を開くと一斉に視線がこちらに向くのを感じる。女?二人組?見た事ないが冒険者か?と多くの者が視線を向け、首元にプレートがない事に気が付き、新たな依頼かと聞き耳を立て始める。
受付へと足を運び、ふと考える。どこまで情報を出すべきか。姿形、名、どの程度出すのが正解か。名を出した場合、名をそのままに人間に溶け込まれていたら?姿形を伝え、ウルベルト様に敵対するような存在が居り、それに気づいた場合は?リスクや問題を考え思考をしていく。ウルベルト様にご迷惑がかかる事だけは避けなければ。そして結論を口に出す。
「山羊の頭を持つ…悪魔を探しています。何か情報はありますか?」
「山羊頭を持つの悪魔…ですか?探している?討伐依頼…という事でしょうか?」
その言葉に不快感を感じながらもそうではない旨を告げ、情報はないかと問うも言葉を濁される。組合の規定により、情報は一般人に開示は難しい。より危険を伴う可能性がある情報は高位の冒険者にのみ提供されるとの事だった。ああ…本当に面倒だ。砂時計の砂のように少しずつイラつきが積もっていく。
「姉上ー。私これやってみたいなぁ」
「…は?」
なんか面白そう!そう告げる妹に眩暈を覚える。勘弁してほしい。ただでさえ遅々として進まないというのに。そんな目でこちらを見ないでください。
「え、えー…冒険者とは…危険な仕事ですので…」
受付嬢も困惑気味にそう告げる。登録自体は…可能ですが、危険な仕事を小柄な女性に振りたがる依頼者は…と。
「姉上、ダメ?」
黙っている姉にそう問いかける。ダメです。そう言えれば何と楽だったか。私は妹に甘すぎる。こんな事ではいつまで経っても…理性で十分理解しつつも感情がそれを否定する。ウルベルト様、この気持ちは呪いに近いです。不敬だと知りつつも心の中でそうぼやく。
長い沈黙の末に口に出す。
「…わかりました。登録とはどのように?」
「え、えぇと…ではこちらのご確認を…。あの…黒髪とは余り見かけませんが…旅の方でしょうか…?失礼ですが戦闘経験等は…」
受付嬢がそう告げ一枚の紙を用意する。冒険者としての規約等が書かれた紙。遥か昔ウルベルト様がお持ちになった書物で文字を覚えた事がこんなところで生きるとは。
「確認しました。問題ありません。戦闘経験ですか…私と妹は第三位階の魔法を行使できます」
ニグンという男の記憶。第四位階以降はかなりの高位と記憶されていた。ならばこの程度と告げるが良いだろう。そう判断したのだが──失敗だった。
聞くや否や盗み聞きしていた冒険者や受付嬢にどよめきが走る。姉妹揃って
「ほ、本当でしょうか?お二人ともですか?」
「姉上?私10──」
「本当です」
妹の口を手で塞ぎそう告げる。お願いですからやめてください。思ったままを口にし、これ以上面倒事を起こさないで下さいと願いを込めて。
「で、では…お名前を教えて頂けますか?登録致しますので」
「私はベロス、姉上はオートスだよ」
それを聞いた姉上が頭を抱えている。なんでだろう?
「わかりました。ベロスさん、オートスさんですね。登録致します。こちら、
ベロスはそれを受け取り首へかけ、一つを力なく項垂れる姉の手に握らせる。
「姉上ありがと!次はどうするの?」
「…今日はもう休みましょう。疲れました」
受付嬢から安宿を教えてもらい、オートスはふらふらと妹と共に歩き出す。特に睡眠など必要ないが、酷い疲労感だ。今は少し休みたい…。本来ならば都市を出たいが…もう夜が近い。冒険者として登録した以上、その間は人間として目立たぬよう振舞わなければ…。
──人の社会に目立たず…目立たずでは最早ないが…溶け込む。そういう意味では成功した。したか?と疲れる頭でぼんやり考えながら夕焼けを背に歩みを進める。
・
小さな看板の酒場兼宿屋。そこに二人の姿があった。
この世界での通貨の持ち合わせがあまり残っていない。それに低位の冒険者と呼ばれる人間が高級宿等ないであろう。これ以上目立ちたくない。その判断がこちらに足を向かわせた。
扉を開いてから…正確には店を目にしてから予感はしていたが、居心地が悪い。小汚い店内、床に落ちた何かの食いカス、床に溜まる何かの液体、隅に転がるカビの生えた何か。
それ以上に不愉快なのが、何卓かあるテーブルに座る男達からの目線。値踏みをし、何か品定めしているような、下心あるねっとりとした視線。
オートスは深くため息を付く。これなら路上に居た方がまだマシだ。そんな中でモップを持った男がずかずかとやってくる。プレートを目にし告げる。
「宿だな。何泊だ?」
力なく一本指を立てる。
「相部屋1日銅貨5枚。飯は追加で1枚だ」
「二人…個室は無いのですか?」
力なくそう告げる。人に溶け込みこつこつ情報を集める。それがベロスの希望とはいえ…この上人間と相部屋だと?冗談ではない。そろそろ我慢も限界に近い。二人部屋が無いようならば多少目立とうが、もうどうでもいい。都市を出てゆっくりとしたい。
「何で相部屋かわからねぇのか?お前等は顔がいい、ちょいと愛想振りまけば今後上手くやれるだろうよ」
「個室はあるのですか?ないのですか?」
男を無視するように問いかける。
「人の親切がわからねぇのか?今のうちに顔を売って他のチームと交流を作っとけって話だ」
「そうだぜ姉ちゃん、俺の部屋が空いてるぜ?よろしくやろうぜ?」
首に
……下等生物が…我が身に触れ……ああ…ダメだ…もう…我慢の…限界だ。
オートスは虚ろな目をして呟く様に妹に告げる。
「…ベロスには……悪いとは思います。が…限界です。……防いでください」
「え?」
<
消えゆく様に詠唱を始めた時、背後の扉から妙な気配を感じ感情が一気に鎮火する。
この場における異物。それを感じ取り振り返る。
「──宿屋はここで間違いないかな?」
扉を開き入ってきた男が告げる。
そこには漆黒の全身鎧を身に着けた一人の男と、美しい顔立ちの黒髪の女性の姿があった。
ももんが :どうも。
二人 :ダウト
え・らんてる:何か危なかった気がする