何時ものナザリック
街道を行く5人と一匹の姿がある。
その空気は…悪い。
「
「もう少し語彙力ないわけぇー?見た目は若くても脳味噌老けてんのー?」
二人の女性が殺気を飛ばしあっている。
「…疲れた」
アインズがポツリと呟く。もう少し何とかならないのか…最初の薬草採取の依頼の時もそうだったが、相手が常識ある対応や大人の対応をしてくれればよい。
だが──売り言葉に買い言葉の状況では話が変わってくる。
深くため息を付き、下から聞こえる声に視線を向ける。
「引っ張らないでほしいでござるよ。それに触り方がちょっと怖いでござる」
「やっぱり、いい形の頭してるよねー」
ベロスに乗りたいとせがまれ、ハムスケに二人で乗っている。これがまたナーベラルの機嫌を損ねているのだが、当のアインズとしては思う所はない。
「妹の無理を聞いてくださり感謝します」
そう告げる姉に軽く答える。常識人が居て本当に助かる。
そんな気持ちを胸に探りを入れていく。
「いえ、ハムスケも喜んでいます。ところで…噂に聞くに…悪魔を探しておられるとか」
それにピクリと反応した姉が口を開く。
「はい、帽子──…山羊の頭を持つ悪魔を探しています。お心当たりが?」
「山羊…」
一瞬出た帽子と言う単語にアインズにシルクハットの古い友の姿が浮かぶ。アインズ・ウール・ゴウン最大の悪…ロールプレイの
「帽子…帽子とは…どの様な?」
それを受けオートスは思考する。つい出てしまった帽子と言う単語に何故興味を?更に情報を出すべきか否か。何か知っている?今までの人間とは違い、何故姿形や探す理由ではなく、ピンポイントで帽子という情報に対して興味を持つ?一度も顔も見せない妙な鎧…そしてあの女。それが彼女の警戒心を刺激し言葉を濁していく。
「──あまり見ない形…だと聞いています」
「あまり見ない…ほう…なぜお探しに?」
「父上を探してるんだー」
アインズの股の間から出た言葉で姉が固まっている。悪魔を探して?父?どういう事だ?悪魔が父親?この二人は人間だろ?父をさらった悪魔を探して?悪魔が仇?とアインズの困惑は口から出ていく。
「悪魔…父…?」
「……その」
オートスは少し言い淀み、続けて告げる。
「──我々は…色々と事情がありまして。ベロス、ちょっと来なさい」
ハムスケから降ろされ、少し離れた所で妹に何かきつく告げている姉の姿。それを眺めるアインズに古い記憶がふつふつと蘇る。茶釜さんとペロロンチーノさんみたいだな…。
…それにしても悪魔…帽子…山羊…。変わった帽子…?司祭の悪魔や
「失礼しました…妹は…思ったことを口にしやすいので」
少し困ったような、疲れたような表情でそう告げる姉に対しアインズに妙な親近感が湧いていく。この人絶対苦労してる。…今の所プレイヤー…っぽくはないが…。もう少し情報がいるな。次は実力や知識を確認して改めてプレイヤーかどうかについて確認する必要がある。
「素直なのは…いい事だと思います。ところで、これから共に戦う事になるでしょう。何でも第五位階魔法を使われるとか?」
我々は見ての通り戦士とマジックキャスターです。と最低限情報を出しながら話を振っていく。
「はい、行使できます。帝国には第六位階を行使できる方が居ると以前耳にしました。興味深いですね」
それを受けアインズは考える。隠す素振りはなしか。なるほど帝国には第六位階を使える奴が居るのか。…そいつもプレイヤーか?この世界だと凄いんだろう…。…全く判断がつかん。偶然を装ってユグドラシル金貨でも見せて反応を見るか?いや、危険か…。うーん…。
そんな考えの中、前方で声が上がる。
「
「そりゃこっちのセリフだよー。いい加減…殺す」
少し離れた所でヒートアップしていた二人の爆弾が爆発寸前となっている。今後の依頼で何かわかるだろうと、未来の自分に丸投げしつつ二人が仲裁に駆けていく。
・
「作戦完了。誰にも見られてない」
炎が立ち上る畑を遠目に一人が告げる。
「三人ともお疲れ様…これで少しでも八本指の力を削げればいいのだけど…」
第三王女ラナーの個人依頼にて、八本指の資金源となる黒粉の生産地となる畑を焼き払った5人の影がある。
「鬼ボス、さっさと離れるべき。あの煙を吸い込むのは不味い」
「そうだぜ。それに最近きな臭いだろ?聞いたか?悪魔の群れの話」
燃え上がる畑を背に彼女達、蒼の薔薇は最近耳にする不穏な噂を口々に話していく。エ・ランテルで起こったとされる無数の悪魔の都市強襲事件。エ・レエブル近郊で起こっている悪魔による人さらいの事件。八本指の仕業とは思えない。一体王国に何が起こっているのかと。
「気になるのは悪魔を倒した連中。一人は第五位階を使うらしい。信じられない」
双子の一人が口にする。
「それは確かにな。イビルアイはどう思ってんだ?」
仮面の少女は考える。第五位階。自分と同格だと?そんな者が今まで無名だった?馬鹿な。あり得ないだろうそんな事。そんな思いが沸き上がる。
「ふん、噂に尾ひれはつきものだ。帝国のパラダイン。奴は英知を極め第七位階に片足を突っ込んでいるという者もいる。だが実際は第六位階だ」
「そりゃわかるけどよ。実際に見たやつが多いんだぜ?」
「そう。それも冒険者組合長が見てる。現に一気にミスリルまで上がってる」
仮面の下で眉をひそめる。それは…そうだが。そうおいそれと使われてたまるか。だが同時に何より気になるのはそこだ。無名の者が急に現れ第五位階を行使して大活躍。そんな馬鹿な話があってたまるか。
「あと軽戦士が居るらしい」
「ふーん、前衛1、後衛2か?まぁ…バランスはいいんじゃねぇのか?」
「気になるのはもう一組。森の賢王と呼ばれる魔獣を従える
「第五位階のチームに…魔獣を従えるチーム…近いうちにアダマンタイトになるんじゃねぇのか?」
そんな話を聞きながらイビルアイは考える。出来すぎている。そんな強者がぽんぽん現れるのは吟遊詩人が歌う話か絵本の世界の話だ。現実ではありえない。が、あり得ている。
「ラキュースはどう思うんだ?」
「そうね…一度会ってみたいわね。悪魔を探しているとも聞いたわ」
悪魔を探し悪魔を滅ぼす…暗黒の
「そういや出立前に俺達に依頼が来てたな」
「エ・レエブルの悪魔事件ね……」
「鬼ボス。その考えは流石に却下。今は戻って報告すべき」
「何も言ってないじゃない!」
「エ・レエブルは通らない。タダ働きはしない」
「誰が寄るって言ったのよ!」
そんな話をしながら彼女達は夜道に消えていく。
・
パチパチと燃える焚火の近くに5人と一匹の姿がある。
「ナーベ、少しは学習しろ。何度言えばわかるんだ」
「申し訳ありません」
その後も続いた修羅場に疲れ果てたアインズが告げる。向こうも似た感じか。部下が本当に申し訳ないという気持ちがヒシヒシと沸き上がる。これが管理職か…?いや…なんか違うな。
「…一度謝ってこい。あのクレマンティーヌとか言う奴…ではなく、オートスという姉の方にだ」
向こうも向こうで何とも言えない表情を浮かべて一人空を眺めている。せめて本人に詫びさせるべきだろう。それにあの姉は出来た人間だ。面倒事も起こらないだろう。いや、起こらないでくれとの願いを込める。
不満そうに承諾し、離れていくナーベラルの背を眺める。頼むぞ。間違っても何も起こすなよ。素直に謝ってこいと念を送りながら見送る。
「モモンさ──んに言われたので、詫びに来ました」
一人空を眺めていたオートスに近寄り、詫びる気ゼロの発言が口を出ていく。
「そうですか。気にしませんとは言いませんが」
「もう少しあの
「そうですね、もう少し言い聞かせるべきでしょうね」
特に何も感じずそう告げる。
少しの沈黙の後にナーベラルが口を開く。
「何故あのような不快な愚者を連れているのです?」
「貴女に兄弟姉妹は居ますか?」
「は?」
ナーベラルは妙な質問に眉をひそめる。
「私には妹が居ます。妹が気に入っているなら、何であれそれを…可能な限り受け入れる、それが私の考えです。それに…彼女なりに駆け回るのは可愛いものですよ」
そんなやり取りをしている二人の姿を少し離れて見ていたアインズはホッとする。あれ?何かいい雰囲気か?珍しい、ナーベラルと気が会うのか?何を話しているのか気になるな。
気難しい年頃の娘が友人を見つけたような感覚でその様子を眺めていると声がする。
「殿!助けてほしいでござるよ!」
「何で逃げるのさ!」
ベロスに追い掛け回されているハムスケがアインズの背に隠れ…られていないが身を隠す。手には一本抜かれた髭の姿がある。ハムスケの髭…どうでもいいが一応助け船と共に情報収集でもするかと口を開く。
「あー…ベロス嬢…だったかな?ハムスケが脅えているのでその辺にしてやってくれ。代わりに私と少し話をしないか?」
「おじさんと?うーん…いいけど。嬢はいらないよ、ベロスでいいよ」
おじさん…と思いつつ考える。情報を集めるならあの姉よりこちらだろう。
「君の姉は第五位階を使えると聞いた。凄いじゃないか」
「姉上は凄いよ!」
「ほう…どんな魔法を使うんだ?」
「色々使えるよ!」
「…そうか」
隠すのが上手いのか…素なのか…。
プレイヤーかどうか、どう探りを入れるべきかとアインズは頭を捻る。
「…そういえば父を探しているとか?」
「そうだよ。ずっと前に…帰ってこなくなっちゃったんだ…姉上とずっと、ずーっと待ってたんだけど…」
「どんな父だ?」
「すっごいカッコよくていい人!でも…待ってるのは寂しかったんだ…だから探してるんだー」
「……そうか」
「それにね──」
話を聞いていくうちに、アインズには似ても似つかぬその姿に昔の自分が重なって見えていた。今日は誰かログインしてくれるかも。今日帰ったら誰かいるかも。そんな淡い期待を胸にログインしていた昔の自分。ずっとずっと待っていた。一人寂しくとても長い時間を待っていた。
気が付くとその気持ちは口を出る。
「…私もずっと…待っていた…」
「そうなの?誰を?」
「昔…居なくなってしまった…最高の仲間達だ」
「仲間?どんな仲間?」
気づくと口を出ていく。懐かしい思い出が。この姉妹にあの二人の姉弟の影が重なったせいか、或いは昔の自分を思い出したからか。輝かしい記憶の数々が口を流れ出ていく。
「──すっっごい良い友達だね!」
「友達……そうだ。………最高の友達だ」
「諦めなければきっとまた会えるよ!私も絶対父上見つけるから!」
そう言い切った彼女の瞳には強い意思の輝きがある。
…強い目だ。…憧れるよ、その強い意思を持った目に。
アインズはプレイヤーという疑念を少しずつ捨てていく。
親がこの世界に居るのであればプレイヤーではないだろうと。
それと共に姉妹に、特にベロスに向けて一つの感情が生まれていた。それは好意という感情。
自分と少し似た状況で、記憶に残る姉弟を思い出させるこの姉妹。何より俺の最高の仲間を、まるで自分の仲間ように褒め称える。きっと会える…か。そうだ…絶対に…見つけ出す。
「出来たよー」
焚火で煮えた鍋を叩く金属音が夜空に響く。
ご飯だよー。お前は来るな黒髪。クレマンティーヌがそう告げている。…しまった。何と言って誤魔化すか。
「姉上これあげるよ」
「いりません。そもそも…何でもないです。出された物は食べてください」
「ベロス様…何か…苦手な物入ってました…?」
そんな姉妹の姿を目に、二人の姉弟を重ねてアインズは目を細める。
きっと会える…か。大切なのは…諦めない事か……希望を貰ったな……ありがとう。
パチパチと燃える焚火に視線を移し、アインズは暫く古い記憶に落ちていく。
・
深夜に一人、空を眺める女性の姿が小さく呟く。
「あの女…妙だ」
オートスはナーベとの会話を思い起こす。ナーベと名乗るあの女…少しの会話で見えてきた人物像、人間を下等生物と見なす言動。──私と思考が遠からず似ている。本当に…人間か?第三位階を使うと鎧が言っていたが…それこそまるで──。
擬態…人間に擬態している?初めて出会う強者…その可能性がある。本来の力を隠し、何らかの理由で人に溶け込んでいる可能性が。ではあの鎧は?あれも擬態か?何故だ?何のために?敵対する可能性があるかは別として、情報として実力を調べておく必要がある。あの本で記憶を…ダメだ、危険だ。何か…いい方法は…。
それぞれの思惑が混じり合う中、夜は更けていく。
モモンガ兄貴は記憶を踏み抜かれると何時でもちょろイン!