ウルベルトの贈り物   作:読み物好き

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前回までのあらすじ
苦労人同士の交流。


机上の会話

 エ・レエブル領の豪華で巨大な屋敷に5人の姿がある。

 

「遠路ご苦労。よく引き受けてくれた。感謝する」

 

 長身痩躯で金髪をオールバックにし、切れ長の碧眼貴族の男。エリアス・ブラント・デイル・レエブンがそう告げる。軽い会釈を交わしながら早速だが、と依頼の話に入る。

 

「最近我が領地に悪魔が出現しているのは聞いているね?」

 

 皆が軽く頷くのを確認し会話を進めていく。事は少し前。無数の悪魔達が領地を強襲し、多くの物資と人を攫って行ったという。被害は徐々に増えており、住民も怯えている。これの討伐を願いたいという話だ。

 

「各地に同時に出たと聞いていますが」

「その通りだ。それが頭を悩ませる要因だ」

 

 部下の元オリハルコン級冒険者チームに調べさせた所、最低2ヵ所に同時に出現しているという。近隣の地図を開き襲撃地点に駒を置いていく。全体的に出現ヵ所が広まっている。

 

「…同時に…それも場所は規則性が無い」

 アインズがそう呟く。

 

「そうだ…モモン君だったかな?見ての通りだが、次に何処が襲われるのか予想はできるか?」

 

 アインズが首を横に振る。次に…って言われても。クレマンティーヌとナーベラルも興味なさそうに見ている。ベロスは駒に興味を示している。

 

「…君はどうかな?予想はできるか?」

 

 駒が置かれてから興味なさそうにしていたオートスにレエブン候が声をかける。

 少しの間が空き口を開く。

 

「次に現れるのは恐らくこの地でしょう」

 

 そう告げるとレエブン候が少し驚き、問いを投げる。

 

「説明をして貰えるかな?」

「駒を線で繋げば円形です。他にも目ぼしい町村もありますが、その中央にはエ・レエブル、つまりこの地です。何かのお遊びでしょうか」

「…理解が早いな…。そうだ、我々もその結論に至った。故に依頼をしたのだ」

 

 レエブン候は見抜いた女に鋭い視線を投げる。理解が早い。いや、早すぎる。一目見ただけで気付く事か?気味が悪い。…一つ調べておくのが良いか。

 

「…そういうわけだ。実力は階級以上だと噂される君達、白金(プラチナ)とミスリルの2チーム、王都からの複数の(ゴールド)冒険者チーム、そして部下の元オリハルコンと私兵で確実にここで殲滅しようと考えている」

 

 理解の色を示したアインズが口を開く。

 

「なるほど、了解しました。悪魔の特徴や見た目に情報はありますか?」

 

 アインズの問いにレエブン候が情報を語り出す。

 その情報を元にアインズが知識に検索をかけていく。

 地獄の猟犬(ヘルハウンド)極小悪魔の群集体(デーモン・スォーム)は確定か。

 蛙と人を混ぜ腹に顔のある大型の悪魔…魂食の悪魔(オーバーイーティング)か。人型で頭部がなく枯れ木のような外見…?頭飾りの悪魔(シルクハット)…?花冠の悪魔(カローラ)?既に魔法詠唱者(マジックキャスター)を殺していたら少し面倒だ…。

 戦うならこの街の地形や情報を知っておく必要もあるか。

 

「我々は街を見てきても?街の作りを把握しておきたいと思います」

「わかった。モモン君、行ってきたまえ。活躍を期待しているよ」

「ありがとうございます。ナーベ、行くぞ」

 

 そう言い残しアインズ達は部屋を後にする。

 

「姉上、私達はどうするー?」

「そうですね…」

「オートス嬢、このような時になのだが…予定が無ければどうかな?一つ軍棋でも」

 

 そう口にしたレエブン候が机の地図を片付け、駒へと目を向ける。

 少し不思議そうな顔をしたオートスが口を開く。

 

「軍棋?」

 

 見た事がないが…盤面遊戯か?

 

「へぇー…私は見た事ないけどクレマンティーヌは知ってるー?」

「見た事はありますが、ルールまではわからないですねー」

 

 相手の考えとか、知能が透けて見えるとか、誰かが言ってたっけなーと口にしているクレマンティーヌを横目に考える。

 この貴族は賢いと聞く。一度試してみるのも面白いか。

 それに頭を使うゲームは嫌いではない。

 

「──構いませんよ、レエブン候。二人はどうしますか?」

 

「面白そうだから見てるー」

「では私も御側におります」

 

 そうですかと告げ、レエブン候へ向き直る。

 

「ではレエブン候、まずはルールをお聞きしても?」

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

「──では、定例会議を行う」

 

 とある地下から声が室内に木霊する。

 

「前回の皮だが、第三位階のスクロールとして合格だと結果が出た」

「おめでとうございます、デミウルゴス様」

 

 腕が長く、体に黒い革の前掛けを着け、頭に黒い革のマスクをかぶった者。

 拷問の悪魔(トーチャー)の一体がデミウルゴスに声をかける。

 

「素晴らしい成果だ、司書長も喜んでいたよ。今後は通達通り、巨大図書館(アッシュールバニパル)へ定期的に運び込む事になる」

 

「承知致しました。お力になれるとは光栄です」

「君達の働きは本当に素晴らしいね。ところで、亜人はどうかね」

 

山羊人(バフォルク)藍蛆(ゼルン)豚鬼(オーク)と実験しておりますが、羊に比べ…好戦的です。治癒魔法をかけようにも大きく暴れ、そのまま死ぬ者が多くおります。量産という意味では不向きです」

 

「そうかね。では引き続き羊を使いたまえ」

 

 深く頭を下げる拷問の悪魔(トーチャー)に満足気に頷く。

 続けて黒い翼を持つ人間の女性に似た悪魔──女淫魔(サキュバス)達の一人に歩み寄る。

 

「君の方は順調かね?」

 

 声をかけられた一人の女淫魔(サキュバス)の肩が跳ねる。

 その様子を見ていた周囲の女淫魔(サキュバス)拷問の悪魔(トーチャー)が少し距離を取っていく。

 

「はっ!勿論順調でございます!」

「そうかね?交配実験の報告が届いていなかったが。羊も指示した量に比べ少ないようだが?」

 

 女性の悪魔(サキュバス)の翼が固まり、体は強張っていく。

 

「く、組み合わせに関しましては、オ、豚鬼(オーク)魅了(チャーム)をかける事で無理矢理に進行しております!そして羊の確保に関しましては…そ、その…」

魅了(チャーム)!それは素晴らしい!だが私が聞いたのは順調なのかどうか。君は勿論だと言ったね?」

 

 女性の悪魔(サキュバス)の顔が青くなり、背と顔に大量の汗が流れ出る。

 何といえば…何と言えばこの場を切り抜けられるのか、それだけが頭の中を巡っていく。

 

「羊の確保に関しては?続けたまえ」

「あ、亜人との抗争で警戒心が強く…」

「強く?強く…なんだね?」

 

 優しく響く声音が女性の悪魔(サキュバス)に不安を駆り立てていく。

 どうにか自分の有用性を。前任者のそれを目にした恐怖が言葉を震わせ、萎縮していく。

 

「予定数の…確保が…まだできておりません……」

「それは残念だ」

「こ、交配実験!こ、こちらは!!交尾自体は成立しております!」

「先ほども聞いたよ。それで?交尾自体はとは?問題でもあるのかね?」

「…思った以上に人間の精神が脆く…」

「脆く…何だね?」

 

「こ、交尾後に…自傷行為を…よ、よって雄は人間を!そして雌に亜人を使用する実験を行っております!亜人と亜人による交配実験も行っております!近く必ずやデミウルゴス様のご期待に添えるかと!」

 

「そうかね。種族差による美意識という物があるからね。良い報告を期待しているよ」

 

 そう告げ背を向けたデミウルゴスを見て安堵する。生き残った。その安堵が体の力を抜いていく。安堵の息が心の奥底から流れ出ていく。

 

「では良い報告を次の責任者には期待しよう。楽しみだね、より良い素材が手に入るかもしれない。君を教訓として、皆がより力を入れる事だろう」

「え?」

 

 それを合図に大型の悪魔に女淫魔(サキュバス)は部屋を連れ出されていく。デミウルゴス様!!お待ちください!私は必ずや!!その悲鳴のような声が徐々に遠くに離れていく。

 

「君が引き継ぎたまえ、同じような失敗はしないように。間違っても虚偽や問題を隠すような愚かな真似はしないように。羊に関しては今回は私の方で工面しよう」

 

 優しく女淫魔(サキュバス)の一人にそう告げる。

 

「拡張作業も引き続き継続したまえ。これからより多く、より品質の良い皮が必要となるだろう」

 

「さて諸君、引き続きアインズ様の為に誠心誠意働いてくれたまえ」

 

 部屋の中央の王座のように作られた骨の椅子へとデミウルゴスは深く優雅に頭を下げる。

 

「それにしても本当に素晴らしい。まさかこのような──アインズ様もお喜びになるだろう」

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

「レエブン候、そろそろ失礼します。近場に宿はありますか?出来れば静かな所が良いのですが」

 

 

「…空き部屋がある。屋敷を使ってくれて構わない。使用人に聞いてくれ」

「そうですか?ありがとうございます」

 

 軽く頭を下げ三人が部屋を出て行く。

 残された男は盤上を暫く見つめポツリと告げる。

 

「怪物…」

 

 ──智謀には自信がある。

 智謀、政治共に王国で右に出る者は居ないであろうとの自負もある。

 王派閥と貴族派閥の両派閥の間で様々な手を打ち、国の崩壊を阻止してきた。

 自分を上回っているのは王国では誰一人居ないだろうと自負がある。

 賢い強者なら将来的に部下にしたい。一つ軍棋で確かめてやろう、部下が難しければ協力的な存在に。そんな思いで行った軍棋だが、ルールを知らぬとは…と期待もしなかった。

 

 

「一勝すら…」

 

 

 あれは化け物だ。簡単に口頭で説明し、ルールの書かれた本をパラパラと開いていた。

 そんな相手に度重なる敗北。いい勝負だと思うが気付けば負けている。

 …これは遊ばれている。こんな事が出来るのは…怪物。

 それにあの目、興味なく付き合っているような…。

 まるで子供のままごとに付き合うような…あの目…どこかで…。

 …あの目は一度見た事がある。……昔…一度あの目をした人物を見た事がある。

 

「第三王女……」

 

 一人の姿が脳裏に浮かぶ。

 聡く賢く、その美しさから黄金と呼ばれる第三王女。

 黄金の持つもう一つの意味。革新的な提案と考えを持つ事からもそう呼ばれるが…。

 

「所詮は政治を知らぬ小娘だ…確かに案その物は革新的だが…」

 

 だが根回しもせずに通るはずもない…賢ければそれくらい気付くはずだ。

 籠の鳥と言えど、多くの貴族が反対する事も多少の知恵があればわかるはず。

 …そうだ。わかるはずだ。

 

「まさか元より通らぬことを分かって…」

 

 何故だ。そんな事をする必要が何処にある。だがもし──。

 思考の海から引き戻す様に扉をノックする音がする。

 

「誰だ?」

「パパ?」

 

 その声に破顔し扉を開く。

 そこには世界で一番愛らしい子供の姿がある。

 

「リーたん~~!どうしたんでちゅか~?」

「おやすみしにきたの」

「そうなんでちゅか~!リーたんは優しいでちゅね~!!」

「あなた…その言葉遣いは…」

 

 呆れてそう告げる妻に目で何だ?と告げる。

 

「パパも一緒にねよ?」

 

「リーたん…ごめんなちゃいねー、パパんもう少し起きてないとダメなんでちゅ」

「あなた?」

 

 何時もなら即座に付いて行くレエブン候の様子に怪訝そうに妻が視線を投げている。

 

「えー?パパと一緒がいいー」

「ごめんなちゃいね~。そうだ!明日は一緒に遊びまちょうね!約束しまちゅ!だから明日まで待っててくだちゃいね~!」

「わかったー!約束ー!」

 

 扉から出て行く妻と愛する息子の姿を見送り、先ほどの思考の海へ舞い戻る。

 あの智謀、味方につける事ができればまだ王国は助かるかもしれない。

 最早諦めかけていた。我が愛しい子に領土をそのまま渡せればそれでよい。

 近頃はそう考えていたが、まだ遅くないかもしれない。この絶望的な状況を変えうる鍵になり得るかもしれない。変える事は難しくとも、せめて少しでも良い方向に向かうかもしれない。

 弱者が食い物にされ、貴族は腐敗し民草は搾取され続け、瘦せこけ薬に逃げ死んでいく…。

 そんな腐りきった未来無き理不尽で不公平な国を。あの女に第三王女………私の推測が正しければ。怪物の様な智謀が二つもあれば、或いは今からでも。

 

「…あの子に…未来無き国を背負わせるわけにはいかん」

 

 そう一つ呟き、国の未来を変えるべくペンを走らせる。

 その姿を嘲笑うかのように無数の影がエ・レエブルへと忍び寄る。

 




デミえもん:こ↑こ↓が新しい職場です↑
さきゅばす:ああぁ↓↓↓
あくま  :新入りか?朝は6時から自由休憩2時間16時退勤だ(ニコォ)
さきゅばす:ああぁ↑↑↑
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