齢14にして、自死によってこの世を去ったとある少年がいた。
小中学校ともに凄惨ないじめに遭っていたことが後に判明し、その苦痛が彼の限界を超えた結果だと推察された。
彼は自らの手で、命を捨てることを選んだのだった。
___そして僕は、猫耳と尻尾を生やした無垢な少女へと転生した。
▽
薄暗い森の中を、一人孤独に彷徨う。
僕...じゃなくて私は、気が付くと見知らぬ場所で眠っていた。背中を朽ちた大木に預けて寝ていたみたい。
衣服は血や泥に塗れていて、体中が痛かった。今もあちこちがズキズキと痛む。
私はこの痛みに見覚えがあった。というより、この痛みをきっかけに思い出したくもない記憶が蘇ってしまった。
結論から言うと、私は前世の記憶を引き継いだ転生者だった。しかも前世が男だったものだから、この女の子の体にぜんっぜん慣れない。
おまけに食べ物や飲み物だって無いし、私が乗り移る前に何があったのか全身ケガだらけだし。
「誰かいませんかぁ〜...助けてぇ〜...痛いよぉ...」
もう声を張る気力もない。藁にも縋る思いで、目の前に迫った背の高い草をどけた。
「あっ、やっと見つけた!」
「ふぇっ」
手で雑草をかき分けてみてびっくり。なんと正面からお姉さんが出てきたではありませんか。
私は腰を抜かして動けなくなった。ピンチ、ピンチだよ。
「たまたま通りかかったら声が聞こえたんだ、もう大丈夫だよ〜」
「ひっ」
お姉さんが私に手を伸ばしてくる。とても優しい声色だけど、私は怖くて叫びたい気分だった。
(あの人たちと...おんなじだ...)
前世で私を虐げてきた彼らだって、甘い言葉で私のことを騙して、殴って盗んで楽しんでいた。
どうせこのお姉さんも、私をいじめるんだ。
(早くっ...逃げないと...!)
なのに、体が言うことを聞いてくれない。腰が抜けていて、足にも力が入らない。ただジタバタして抵抗することしかできない。
そうこうしているうちに、お姉さんの綺麗な手が目と鼻の先まで近づいてきていた。
(こっ...怖いっ...!)
恐怖から目をギュッと瞑り、次に来るであろう痛みに備えた。
「よ〜しよ〜し...怖かったね、辛かったね...よしよ〜し...」
「あっ...ぇ...?」
私の予想は外れた。次にこの体に飛び込んできたのは痛みなんかではなく、頭を優しく撫でられる心地よい感覚だけだった。
「君、お名前はなぁに?」
「ぅ...えっと...」
私の長い髪の毛を手櫛で梳きながら、お姉さんが尋ねる。と、ここで返答に困ってしまった。
私は確かに前世の記憶を引き継いでいるけれど、名前までは覚えていない。この子の名前だって分かるはずもない。
それに、まだ恐怖心が抜けきれていなかったから、結局私は口をつぐんで黙りこくることにした。
「あー...そうだよね、急に出てきた変な人に名前なんて教えられないよね」
「んぅ...」
本当はそういうわけじゃないし弁明しようと思ったんだけど、うまく誤魔化せたし、いっか。
「どうしようかなぁ...私、今なにも手元にないんだよねぇ...」
「あ...」
しゃがんで私に目線を合わせ、頭を撫でてくれていたお姉さんが、いきなり手を離して立ち上がった。私は頭からいなくなった幸福感にどうしようもない寂しさを感じ、声を漏らす。
「ひどい怪我をしてるし、何とかしてあげたいんだけど...うーん...」
顎に手を置いて唸るお姉さん。その声を聞く限り、お姉さんに私をどうこうしようとする悪い気はないみたい。むしろ助けようとしてくれていることに驚いてしまった。
「仕方ないかぁ...ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね...よいしょっ!」
「んっ!?」
何を思ったのか、突然立膝をしたお姉さん。流れるようにそこへ私を座らせ、足と腰に手を回して私の体を軽々と持ち上げた。
(え!ええっ!?...こっこれって、おっ、おひ...!?)
そう、悩んだ末、お姉さんが最終的に取った行為はお姫様抱っこ。これが最も運びやすいと判断したゆえの、何の邪心もない行動だった。
「まっ、待って...どこに、連れてくのっ...」
しかし私にはどうしても刺激が強すぎた。心は男のままだし、まして前世は人との関わりを極端に避けてたわけだから、こんな経験したこともない。
「近くに宿屋があるはず!そこなら治療してもらえると思うから、それまでの辛抱だよ!」
「や、やどっ!?」
ちなみに無駄な知識かもしれないけれど、お姫様抱っこ
現に、私もお姉さんの首に腕を置いて、お姉さんの身体に抱きついている状態だった。
「大丈夫?痛くない?嫌だったら遠慮せずに言ってね?」
「あっうぅ......にゃぁ〜...//」
さっきまで感じていたお姉さんへの恐怖心は、完全に羞恥心へと塗り替えられていた。
▽
溢れ出る数多の感情と戦うこと数十分。今は宿屋の一室、そこの椅子にちょこんと座ってお姉さんを待っているところです。
(は、恥ずかしさで顔が沸騰するかと思った...ううぅ...)
それにお姉さん、宿屋に入ってすぐに「緊急です!救急道具ありますか!?」なんて叫ぶんだもの。周りにいっぱい人いたし、絶対変に思われてるよ...。
私だけ部屋に移されて、お姉さんは応急処置できる道具を取りに戻っている。それまでお姉さんに待機を命じられたから、こうして律儀に座っているのだ。
「...それにしても、あんな森の近くに宿屋があるなんてね」
この宿屋の付近にも色々な建物が並んでいるようで、どうやらあの森だけが極端に危ない場所だそう。部屋に担ぎ込まれる前に、お姉さんと受付の人の会話を盗み聞きした。
「助かったのは幸運、なんだ...」
これも盗み聞き。あの森はこの世界にいくつか存在する
「要は...禁足地みたいなもの」
封印されているそれらは、私レベルが立ち向かって敵う相手じゃない。もし一度でも目をつけられたら、それは命が尽きることを意味する。
(お姉さんは、なんで僕を助けてくれたのかな...)
私の声を頼りに助けてくれたお姉さんだって、命懸けだったはず。一歩間違えていれば、お姉さんも危なかったのに。
「...僕は前世、自分で自分を殺した」
そして私が乗り移った肉体は、惨いほどにズタボロだった。きっと、何も知らずに森に迷い込み...
「魂を失った肉体に、たまたま僕が入り込んだ」
おそらくは、そう考えるのが自然。私は前の体の持ち主に対し、ひどくいたたまれない気持ちに駆られていた。
「僕なんかよりよっぽど痛い思いをしたんだ、この子は...」
名も知らないその子を思うと、悲しくなってしまった。私だって自ら命を絶った身なのに、不思議な話だ。
ただ、私が置いてきてしまった家族も、こんな辛い心境だったのかと考えると___
「ごめんっ!お待たせ!......ってわぁぁぁ!?大丈夫!?」
「うぅっ......ぐすっ...おねーさ、ううぅ...」
涙が溢れて仕方がなかった。
▽
「よ〜しよ〜し...私はここに居るから、大丈夫だよ〜...」
「ん...んんっ......」
目を真っ赤にして泣き出した私を見て、お姉さんは大慌てで私を抱き寄せ、頭を撫でてくれた。
すぐに落ち着いたのだけれど、今度はお姉さんの...その、豊満な......が、私を苦しめている。
「お、おねーさん...苦しっ...」
顔をばふっと埋める形になっているため、心も休まらないし息もできない...結構大きくて...。
「...ん...んぅ......ひぁっ!?」
なんとか脱出しようとモゾモゾもがき始めたところで、私は背中...特に尻尾の付け根あたりに違和感を覚えた。なんだか、ビリビリする感じ。
「とん、とん...猫はこうされると嬉しいって、本で読んだことあるんだ〜...」
「あっ...んっ...にゃぁっ...」
抱きしめたまま、お姉さんが私の尻尾の付け根を優しく叩いている。一定のリズムで、トン、トンと。恥ずかしいのに、自然と声が漏れてしまう。
「とん、とん...嫌なこと、ぜーんぶ忘れちゃおうね?...今は私に甘えて大丈夫だから」
「あぅ...ひぅっ...んぁっ...//」
恥ずかしい、とっても恥ずかしいけれど、でも嫌じゃない。むしろ、どこか気持ちいい感じ。
(おねーさんっ...おねーさんっ...もっと、もっとしてほしいっ...♡)
声が出せないから、心の中で懇願する。でも、その思いは自然と体に出てしまっていたみたい。
「とん、とん...んふふ、尻尾ぶんぶん振ってて、なんだか可愛いねぇ」
「あっあっ...んっ...//」
我慢できない何かが、じわりじわりと込み上げてくる感覚がする。これ以上されてしまうと、体がおかしくなりそう。分かっているのに、心は続きを求めてしまう。
(もうちょっと...もうちょっとだけっ...おねーさんっ...♡)
しかし、私の願いは良くも悪くも叶わずに終わった。
「とん、とん...ちょっとは落ち着いた、かな?もう夜も更けちゃうし、一旦応急処置しよっか」
「んっ...ふぇ...?もう、終わっちゃうの...?」
思わず声に出てしまった。体はまだビクビクしているし、呼吸も落ち着かない。その場にへなへなと座り込み、とろけた上目遣いでお姉さんを見つめる。
「ふふっ、そんなに良かった?本の知識は蓄えておいて損はないね〜...あとでしてあげるから、ほら、まずはその傷なんとかしないと!」
少し不満げな表情をしていたものの、お姉さんの「あとでしてあげる」という一言にぱぁっと笑顔になる。分かりやすいと自覚してはいるけれど、それくらい良かったんだもの、しょうがない。
「消毒して包帯巻くから、服、全部脱げる?」
「えっ」
そして次に続いた言葉に、私は思考を失った。
(服を...脱ぐ?......お姉さんの前で!?)
ここで私は、自分の肉体が男のものではないことを思い出した。つまりお姉さんは私を女の子だと思っているから、裸を見ても特に何も思わないのだろう。
(えっえっ、うそっ、どうしよう、むり)
でも残念なことに、中身はれっきとした男。いくら体が女の子といえど、お姉さんの前で裸になるのは恥ずかしいのだ。恥ずかしいのだ。
脳内でパニックに陥る私に、お姉さんが苦笑を浮かべて言う。
「体、痛いもんね。腕もうまく動かないだろうし、自分じゃまだ脱げないか」
「う、うんっ...できない...」
これは好都合。服が脱げないことにして、なんとかこの場を切り抜けてしまおう。
「じゃあ私が脱がせてあげるね、はい、腕上げて〜」
「えっ」
事態が悪化してしまった。ピンチ、ピンチだよ。
「おっ、お風呂...先にお風呂入りたいっ...!」
咄嗟に機転を利かせ、私はお姉さんに「お風呂に入る」という選択肢を提案した。これなら大丈夫なはず、私の尊厳も保たれる。
「そっか、全身洗っちゃった方が早いね...じゃ、温泉行こっか、一緒に」
「えっ」
___ピンチ、ピンチだよ。
お姉さんの心は純真そのものです。
ロリ猫ちゃんの心も純真そのものです。
故にこれは純愛(横着)
※「」や()内が僕、それ以外が私なのは仕様です。