超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

10 / 68
第五話 空虚な街

 突如発生した謎のエネルギーと、それに関連してると思われる攻撃。墜落を防ぐべく、手を尽くしていた中で艦の進路上に開いた巨大な門。そして、その門を潜った先にあったのは、天界だった。何かが微妙に違う次元の門が繋がっていたのは、信次元にあるもう一つの空間…けれど下界とは物理的な繋がりのない、謂わば存在そのものが特殊な空間だった。

 これまでも、想定外過ぎる事、訳の分からない事は、沢山あった。正直言えば、いきなり信じられない場所に飛ばされた経験だってあるし、そういう意味では今起こった事も、嘗てない…とまでの事じゃない。でも…だからといって、悠長に構えられる状況でもない。

 

「副長、損傷したエンジンの修繕状況は?」

「現在も急ピッチで進めていますが、やはり完全修復は困難です。時間を掛ければ、何とか通常航行は可能となりそうですが……」

 

 不時着したアヴァラスのブリッジで、モニター機能を備えたテーブルを囲みながら言葉を交わす。

 今は、不時着以降で行っていた各種確認、調査の報告を受けていたところ。私と共にテーブルを囲んでいるのは、艦長に副長、それにMG部隊であるオラクル中隊の隊長と副隊長の計四人で、ここまでにもエンジン以外の艦の被害状況や、周辺環境の調査で分かった事、艦のログから謎のエネルギーや攻撃、次元の門等のデータ解析を行った結果等の報告を受けた。

 

「ふー、む…大半の機能は無事とはいえ、やっぱり暫くは航行不能というのは痛いね。もしまた何かから攻撃を受けてもこの場からは動けないし、エンジンが万全じゃない以上、火器やシールドをフル活用し続けるのにも支障が出るだろうし……」

「それに関しては、我々で徹底的な警戒をする他ないでしょう。幸い不時着体勢が良好だったおかげで、各艦砲の射角も十分に取れる筈です。MGの側で接近する前に敵を捕捉出来れば、大概の相手は砲撃やミサイルで一方的に攻撃出来る筈です」

「まあ、あくまで通常の相手ならば、という話ですが。初めの攻撃が一体何者によるものなのか、どのような攻撃だったのか…まずはそれを判明させるべきでしょう」

 

 MG部隊を率いる隊長と副隊長それぞれの言葉に、私は頷く。元から長距離移動を想定しているルヴァゴ装備のマエリルハなら広域の警戒が出来るだろうし、アヴァラスの主砲や副砲、長距離ミサイル等ならかなりの距離が離れたいても高威力の攻撃を叩き込む事が出来る。その一方で、500mクラスの空中艦のエンジン二基を一撃で損傷させ、あっという間に姿をくらます事が出来るような存在が相手だと、そういう『普通の手段』がどこまで通用するかは分からない。その存在と次元の門が関わっているとしたら、尚更対応は難しくなる。

 どっちの言っている事も正しい。というか、二人の発言は別に相反するものじゃない。そして何れにせよ、この状況…艦が動けない状況は、早く解決しなくちゃいけない。

 

「うん、皆報告ありがとう。それと…ごめんね。何度も試したけど、やっぱり戻る事は出来ないみたい」

 

 一通り報告が終わったところで、私は皆に対して謝る。謝り、上手くいかなかった事を伝える。

 ここが天界だと分かって以降、私は下界…普段いる方の空間と繋げられないか複数回試した。女神には下界と天界とを行き来する扉を開く力があって、開いた経験なら私もあって…けれど、上手くいかなかった。通常は教会のシェアクリスタルの間と、天界の特定の位置とで開くもの…つまり、条件を揃えてやるのが普通で、それ無しにやるのは難易度も負担も増大するから、上手くいかない可能性は元々意識していたけど…今回は多分、そういう事じゃない。自分でも上手く言葉に出来ないけど、別の理由が…難易度云々じゃない何かによって、開けないようになっているような…そんな気が私はしていた。

 

「いえ、転移…と言えばいいのでしょうか。…は、私は勿論、他の者にとっても理解や想像の及ばない事柄です。完全にオリジンハート様に頼る他ない事なのですから、その結果に対しても内容を問わず我々は受け入れます」

「…すまない、ありがとう」

 

 自分達にはそもそもどうしようもない事なのだから。そう言って表情を緩める副長に、私は感謝の言葉を返す。

 私一人なら良い。いや、良くはないけど、ある程度こういう状況にも慣れているし、幸い女神化も出来るから、これからかなりの窮地に陥ったとしても対応出来る…と、思う。けど、皆は違う。精鋭とはいえあくまで人だし、こんな状況に慣れてる人なんてほぼいない筈。だから皆だけでも帰れるようにしたいと思ったけれど…それもまだ、今は叶わない。皆がそれを受け入れてくれるかどうか…問題は、そこじゃない。

 だけど、内容はどうであれ、その結果は受け入れなきゃいけない。出来ない事は、出来ないんだと受け入れ、これからの事を考えなきゃいけない。

 

「話を続けよう。最優先すべき事項は、エンジンの修繕と周辺の警戒、可能な範囲での安全確保として…私は『周辺』よりも外側の探索も、行うべきだと思っている」

「同感です。まずは身の回りを固めるべきですが、それはあくまで受け身の防衛体制。情報も戦力も限られている状況だからこそ、動く余裕のある間は動き、少しでも『今』を好転させられる要素を確保した方が良い筈です」

「自分もイリゼ様、それに艦長に同意します。…が、具体的にはどうするつもりですか?当然艦内要員も必要ですし、警戒と安全確保にも人員を割くとなると、外部探索に多くの人を割く事は出来ません。探索を行う場合、場所を限定せざるを得ないかと自分は思います」

 

 MG部隊長、サクリスタン特務中佐の言葉に私はこくりと首肯を返す。私もそれは理解している。だからこそ、私は四人を見回し考えを伝える。

 

「うん、その通りだね。だから…探索に関しては、例の場所に、私一人で行こうと思う」

『それは……』

「…それはまた、思い切った事を言いますね。して、その理由は?」

「私一人で、って事に関しては、今サクリスタン特務中佐が言った通り、探索に割ける人数は限られているからだよ。重要度で言えば艦の防備を固める事の方が上だし、少人数での探索は当然危険性も高くなる。加えて皆は、天界の事をほぼ知らない。となれば、可能な限り艦の防備に重点を置く事と、探索側の安全性も高いレベルで確保する事の両立が出来るのは……」

「最高戦力である女神様の、単独調査…という訳ですか。成る程、筋は通っていますね」

 

 女神様を一人で行かせるなんて…そんな風には言わず、成る程、と端的に理解を示してくれたチュイル特務中佐の返答に、私は小さく笑みを浮かべる。他の三人も、私が単独で動く事そのものを止めたりはせず、一つの案として考えてくれる。

 この理解の早さが、ありがたい。軍人の中には私やセイツの安全を確保する事、その為に尽力する事を最優先に考える人もいるし、その気持ちは嬉しいけど、他国同様私にとって『国防軍』っていうのは文字通り国を、国民を守る為に必要な力であって、自分が守ってもらいたい訳じゃない。そもそも私は『守護』女神であり、軍人の皆も私が守るべき『国民』なんだから、ここでこの選択を…女神を半端な護衛なんて必要としない、強大な戦力として捉える選択を考えられる皆だからこそ、この部隊でも統率者としての立場を有しているのだと、改めて私は実感する。

 そして、今ので私の発言の半分…私一人で、という部分に関しては理解を得られたと思う。だからもう一つの部分…『例の場所』についても、私の考えを皆へと話す。

 

「例の場所…レーダーやセンサーで正確な情報を得られなかった地域、そこに何かありそう…っていうのは、当然皆も考えているところでしょう?」

「えぇ、それは勿論。全体的にジャミングの様なものが展開されているのなら、そうなっているのが自然な、正常な『そういう空間』と考える事も出来ますが、局地的にとなると、人為的かそうでないのかは別にしても、それを発生させている…尚且つ本来は存在しない何かしらのものがある…と考えるべきでしょう」

「だよね。で、私の知る限り、天界にそんな場所はなかった筈。謎の攻撃、次元の門、その先の天界にあった怪しい場所…少しあからさまな気もするけど、これは全て繋がってると思わない?」

「罠…としては少々回りくどいですし、警戒は必要だとしても、確かに真っ先に調べる価値は感じますね。私も、オリジンハート様の考えに賛成です」

 

 艦長と副長の、それぞれの見解。特に副長の言う、罠の可能性は本当に考えるべきで…でも、だとしても私が行くべきだという考えは変わらない。むしろ罠の可能性もあるからこそ、まず私が行ってみた方が良いと思う。

 賛成を明言した副長に、艦長が頷く。私は元々反対していなかったと、副隊長も続く。最後は隊長で…けど隊長だけはまだ思うところがあるのか、少し黙り、それから言う。

 

「…自分も、イリゼ様が向かう事は良いと思います。ただ、如何に女神様と言えど、一人で出来る事には限りがあります。恐らく通信も出来ない以上、何か緊急事態が起こったとしても、我々はそれを知る由もありません。ですので、自分としては連絡要員兼一人では対応し切れない事態となった際の人員として、数名、或いはMG数機が同行する事を提案します」

「…そうだね。物理的な問題として私は一人だけなんだから、その点での限界は確かにある。けど…こうやって連れてきておいてこんな事を言うのはおかしな話だけど、皆には自分達の安全を最優先にしてほしいの。何もなく、普通に当初の目的地へ着けていたなら、もう少し大胆に動いても良かったけど、今は状況がイレギュラー過ぎる以上、私は極力皆に危険を冒させたくない。それに、チュイル特務中佐も言った通り、今の状態で『普通じゃない相手』に襲われた場合は全戦力でも不安が残る訳だから、そこから更に戦力を減らすのは、それが例え僅かだとしても避けておきたい…それが私の考えだよ。だから、もう少し話そうか」

 

 一人でも誰かいた方がいい…というのは、本当にそうだと思う。目の前の事に対処しつつ、その状況を艦に伝える…たったそれだけの事も、一人じゃやる事が出来ないんだから。

 だけど、それが合理的だとしても、今回は皆の安全を優先したい。艦がまだまともに動けない…何があっても離脱の選択肢が取れない以上、艦の防衛戦力はMG一機であろうと減らしたくない。私とウィークエンド特務中佐との考えは平行線で、だから私はもう少し話そうと言う。平行線というのは今現在の話で、ここから更に話す事で、皆の意見を聞く事で、お互い納得出来る第三の選択肢、或いは妥協点を見つけられるかもしれないから。ここにいるのは全員味方なんだから、一刻を争う状況でもないんだから、じっくり話して……そう思っていた私だけど、隊長は首を横に振った。

 

「いいえ。イリゼ様が同行の選択肢も考慮された上でその考えに至ったというのであれば、自分もイリゼ様の考えに従います。オラクル中隊…いえ、枢機部隊(カーディナル)はその為の組織ですから」

「…感謝するよ、サクリスタン特務中佐。けど…これからも、私に意見を言う姿勢は続けてほしい。君の…ううん、君達の意見はどれも参考になる。だから、今後もどうか私に知恵を貸してくれるかな」

「当然です。他の者がどうかは分かりませんが、私は間違った考えに従うつもりはありませんし、今後も誤りは正させて頂きます」

 

 相変わらず遠慮のない副隊長の発言に、私は肩を竦めつつ頷く。彼は勿論、他の三人もしっかりと意見を言ってくれるからこそ、指揮を担う者として信頼が出来る。

 四人全員の賛成を得て、これからの方針は決まった。皆は艦の状態回復と警戒を第一とし、そこから少しずつ周辺の調査を行っていく。私はレーダーやセンサーでの確認が効かない場所へと単独で向かい、その地域を調べる。そして必ず、下界に…神生オデッセフィアに帰還する。

 

「じゃあ、最後に一つ。もしかしたら、私は暫く戻らないかもしれない。戻れない状況になるかもしれない。でも絶対に、何があろうと戻ってくる。だから皆は、枢機部隊(カーディナル)は、私が戻ってくる前提でいてほしい」

 

 私の言葉に返ってくるのは、無言の首肯。言われるまでもない…そんな風に感じさせてくれる、皆からの頷き。それを私は受け取って…天界へと不時着した私達は、次の段階へと行動を開始した。

 

 

 

 

 天界について知っている…と言っても、別段私は熟知をしている訳じゃない。実のところ、ある程度来た事がある…というだけでしかない。それだけでも、何も知らない、初めて来たって段階に比べれば、遥かに知識も知っているが故の精神的余裕もある訳だけど、知っているから大丈夫…と思える程ではない。

 そんな私も、不時着後に一度、艦の周囲を飛び回って分かった事がある。ここが天界である事は間違いないけど…これまでに来た事のある場所では、ない。

 

「皆、送ってくれてありがとう。私が戻ってくるまでの間、艦は任せたよ?」

 

 軍用車両から降り、その車両で送ってくれた皆に笑みを浮かべる。こっちは大丈夫だから、そっちも頑張って…そんなエールを含めた笑みを。

 敬礼を返答とし、車両は艦に戻っていく。ここに残ったのは、私と食糧を始めとする物資だけ。シェアエナジーの供給が途切れていない(から、ここが別次元じゃなく、信次元の天界だって事は間違いない)訳だから、食糧やら何やらは必須ではないんだけど、持てるものは持っておく方が良い。それに越した事はない。…身一つで見知らぬ場所に、ってなった時の大変さは、もう幾度となく経験してるしね…。

 

「…よし、行くか」

 

 見送った後、私は振り返る。電子的な調査が一切効かない場所の方へと向き直る。

 近付く事で何か起こるかもしれない、という事で、私はその場所の少し前で降ろしてもらった。だからここからは、後少しの距離を歩いていく。

 

「…何もなければ、快適に歩いていられるんだけどなぁ…」

 

 穏やかな気候と、上にも下にも横にも…どこまでも広がっている空。綺麗だ、と感じる自然のある無数の土地に、それ等を繋ぐ虹の橋。もし今しているのが散歩なら、ここは絶好の散歩コースで…でも今は、そんな楽観的な気分になっていられる状況じゃない。

 皆は優秀だからきっと大丈夫だとは思うけど、孤立無援な事には変わりない。そうでなくても今は恐らく、何者かに『嵌められた』状況なんだから、悠長に構えていられる訳がない。

 

「…………」

 

 今は私一人だから、当然私が何も言わなければ静かになる。聞こえるのは風の音、風に吹かれて枝や葉を揺らす草木の音だけで…本当に、ここは穏やか。少なくとも、表面上はそう。

 私は考えていた。これが、何者かによって嵌められた結果の状況なら、その存在はどこまで把握、計画、計算しているのかを。今の私の行動は、どの程度その存在が考えた通りのものなのかを。

 

(順番やタイミングはともかく、調べに行く、って事自体は流石に想定している筈。その想定の通りに動くのは、少し癪だけど…今はそんな事気にしてる場合じゃない)

 

 想定通りだとしても、今は動くしかない。現実的な選択肢は多くないし、癪だからといってまだ分かっている事が碌にない、そもそも『何者か』や『嵌められた』という事すら確定した訳じゃない中で相手の意表を突く為だけの行動をしたって、無駄に時間を浪費するだけ。

 だから今は、見えていない部分…相手の狙いや計画の事は頭の片隅に置いておきつつも、まずは目の前の事を考える。一つ一つ取り組んで、対処して、進む。

 

「…ここ、だよね」

 

 そうして歩いていった私は、件の場所のすぐ前で止まる。データの通りなら、本当にもうすぐ側まで来てるんだけど…景色の上では、特に何も変わらない。何もないようにしか見えない。

 加えて、近付いた事によって何かが起きた…って事もなかった。これは機器の側が何かおかしかったんじゃない?…と思わず思ってしまう程、本当にここには何もなくて……

 

「…って、うん?」

 

 そこで私は、ある物を…看板らしき物を発見した。こんな場所に看板?…と思ったけど…確かに看板で間違いない。

 気になって近付く私。取り敢えず読んでみる私。ふむふむ、書かれているのは『危険』『入るな』『立入禁止』…か…。

 

…………。

 

「……え、えぇー…?」

 

 反応に、困った。まあ困った。いや、なんというか…わざとらしいというか、わざとらし過ぎて逆に「別の意図があるんじゃ?」とすら思ってしまうような…そんな看板だった。

 

「どうしよう…これを見た上で進むのは流石に癪過ぎる…後、誰も見てないのかもしれないけど、『駄目だと言われるとむしろやりたくなるタイプ』だって思われるのも嫌過ぎる…気付かなかったフリして、某緑の勇者みたいに看板叩き斬っちゃおうかな……」

 

 我ながら馬鹿な事を…とは思うけど、これは看板が悪い。そんな風に思わせた看板が悪いのであって、私は悪くない。うん、そうだ。これは侵入者を阻む、精神的な壁なんだ。……なんて、更に馬鹿な事考えてる場合じゃないよね…。

 

「あー、アヴァラス聞こえる?」

「聞こえております。何かありましたか?」

「これから突入する。ギリギリの地点に妙な看板があるから、一応覚えておいて。多分、覚えておいても何の役にも立たないだろうけど」

「は、はい?…あ…了解です」

 

 元々突入直前に入れる予定だった通信に、ほんと一応伝えるだけの情報を加えて、私は通信を切…らずに、再び歩き出す。このまま進めば、きっと何か起こる。いや…何か起きてくれなきゃ困る。それが例え悪い事でも、今必要なのは変化だから。

 歩んでいく。真っ直ぐに、そこにある筈の境界へ向けて。その先にある筈の、何かが違う場所へ。そして私は、電子的な調査の出来ない場所へと、直接足を踏み入れる。

 

「……っ…!」

 

 そこへ入った瞬間、踏み入れた瞬間、景色が一変した。明るく見晴らしの良かった天界が、一瞬で…本当に一瞬で、全く違う光景へと変貌した。

 目の前に広がっているのは、どこかの街並み。見覚えのあるような…でもすぐに「ここだ」っていうのは出てこない、そんな街の一角に私はいた。

 

「アヴァラス、こちらオリジンハート。…アヴァラス?」

 

 驚き立ち止まった数秒後、我に返った私は再度艦への通信を掛ける。でも、さっきと違って返答はない。何度か交信を試みるけど、反応はゼロ。…やっぱり、通信も出来ないか…。

 

(…裏天界とも違う…ここは、一体……)

 

 思い出すのは、嘗て天界に存在していた…まだ敵だった頃のマジェコンヌさんが作り出した空間、裏天界。天界の中に作られた、入ってみないと分からない空間という意味では、ここと裏天界は共通していて…だけど内側はまるで違う。裏天界は負のシェアエナジーに汚染された天界って感じで、あくまで状態の変わった天界って感じだったけど、今回の場合もう天界らしさはどこにもない。別の場所に転移でもしたんじゃないかと思う位に、全く違う景色が広がっている。

 ただ何にせよ、ここがどうなっているかは分かった。通信出来ない事も判明した。となれば次にやる事、その選択肢は二つ。調査を進めるか、それとも一旦引き返すか。

 

「…って言っても、実質一択…だよね」

 

 奥深くまで進んだならともかく、入ったばかりなら即出て今得た情報を連絡した方が堅実だし無駄がない。それは間違いない事だけど…残念ながら無理だよね、と私は肩を落とす。

 この空間に入った時点での私が背にしていたもの、それは街外れではなく、街中の道路だった。試しに数歩動いてみたけど、天界(いやここも転移してなきゃ天界だろうけど)には戻れなかった。つまり、外の天界と、中の街はそのまま繋がってる訳じゃない。街外れではない場所と繋がっていたようで…こうなると、連絡の為に引き返すにも、まず探索をしなくちゃならない。

 

(まあ、仕方ないよね。それならそれで、出口を探しつつ調査をするまで。まずは女神化出来るか確認して、出来るなら空からぐるっと……)

 

 駄目そうならばさっさと切り替えるのが大事。私は思考を調査兼出口探しへと移行し、取り敢えずは空から調べてみようと考える。そして周囲をぐるりと見回し確認した後、女神化をして……

 

「……っ!?」

 

──その瞬間、私の中に何かが流れ込んだ。いや、何かが流れ込もうとした。正に女神化をしようとした瞬間に、その感覚が身体を走り…咄嗟に、反射的に、私は女神化するのを止める。

 これまでに経験した事のない感覚。だけど、分かる。未知の感覚だけど、正常なものじゃない。女神化をする…人の姿から女神の姿に戻る中で、そこに流れ込もうとするような何かが、通常のものである筈がない。

 

「…女神化は、控えた方が良さそう…かな…」

 

 不味いな…と思いつつ、自分の身体に異常がないか確認する。感覚的には何もないとはいえ、絶対大丈夫って確信はない。目で見たり、触ったり、目を閉じて神経を集中させたりして確かめ…多分、異常はないという結論に至る。

 とはいえ、何も解決していない。さっきの感覚も、あのまま女神化し、その状態を維持したらどうなるか分からない以上、安易に女神化する事は出来ない。そして女神化出来ないってなると、飛び回って調べる事も、素早く移動する事も出来なくなる。……まぁ、女神の身体能力を持ってすれば、今の姿でもまあまあな速度で走ったり、屋上から屋上へ跳び回る事で道を無視した移動をする事も出来るけど…。

 

「…まあ、切り替えるしかないよね」

 

 いきなり本領発揮が封じられたのは、結構ショック。別次元に飛ばされた時なんかとは違って、さっきまでは出来てたからこそ、どうしよう…って思いが渦巻く。

 でも、自分で言う事ではないけど、私だって色んな経験をしている。女神化出来ない中での活動も、沢山してきた。これまでの事を思えば、今は悪い状況だけど、まだ最悪じゃない。

 そうして私は切り替え、探索を開始する。…と、言ってもここは街中。建物や裏道なんかも一つ一つ調べていたら途方もない時間がかかっちゃうから、一先ずは街の中心を目指す。

 

「よっ、ほっ…よいしょ、っと」

 

 近くにある中で、一番高い建物の非常階段を登る。一番高い所まで来た後は、跳んで屋上まで移る。

 屋上に登ったのは、この街の作りを知る為。ざっくりとでもそれを理解していなきゃ、どっちが中心なのかも分からないんだから。

 

(…やっぱ、何となく既視感があるなぁ…前にネプテューヌと次元移動した時の感覚に似てるっていうか…あ、いや、待った…似てるのは『状況』の可能性もあるよね……)

 

 ぐるりと街を見回しながら、考える。前にネプテューヌとうずめやウィード君のいた次元に飛んだ時も、まずは街に向かったし、その時と同じように、今回も街の中には誰もいない。一番の特徴であった崩壊はしてないし、その時点で全然違うとも言える訳だけど…うーん、もやもやする。もし誰か一人でも着いてきてくれたら、その人と話し合えただろうし、自分の中のもやもやを話すだけでもちょっとはすっきりしたんだろうなぁ…。……って、駄目駄目。女神として私は私の考えを通して、それを皆に理解もしてもらったんだから、自分の選択を後悔するような事は考えちゃいけないよね。

 

「あっち…かな。よし、ここは景気良く翔んで街中…なーんて……」

 

 にやっと笑いながら冗談を一つ言う私。でも言うまでもなく、ここに私以外はいない訳で…ぴゅー、と肌寒い風が一つ、どこからか吹いた。…い、いや、ここ屋上だし!元から風が吹く場所だしっ!後まあ、今の私の場合「翔ぶ」じゃなくて「跳ぶ」だしね!そういう意味じゃ、冗談としての完成度が低かったのが問題かなぁ!

 

「…うぅ、寂しくなってきた…止めよう、一人だからって変に盛り上げようとするのは止めよう……」

 

 無意味に心のダメージを受けた私は、地上へと降りる。それから私は本当に意識を切り替え、中心に向けて移動し始める。

 屋上を跳んでの移動をしなかったのは、中心に向かいつつも探索をする為。女神の姿での飛行であれば下を見回しながらでも移動出来るし、何ならその場に留まってじっくり見る事も出来るけど、跳躍じゃそうもいかない。建物を飛び移る度に下を眺める…なんて中途半端な事をするんだったら、普通に地上を歩いて見て回る方が情報を得られる。そう判断して、私は降りた。

 多くは望まない。成果を望めるような状況じゃない。とにかく今は、中心を目指す。その先の事は、まず目の前の目標を果たしてからだ。

 

 

 

 

 時間を掛けて歩き、私はこの街の中心付近まで辿り着いた。…と、言っても、これはほんとにざっくりとした表現でしかない。だって、そうでしょ?真の意味で中心っていうなら、それは一ヶ所、一点であり、多少意味に余裕を持たせたとしても、中心地点を内包する建物や敷地の事を指す筈だもん。中心に当たる地域…って表現も出来るだろうけど、そこまでいくとちょっと範囲が広過ぎるし。

 それに、街っていうのは綺麗な円形になっている訳じゃない事もある。というより、そうじゃない場合の方が普通に多い。だから、『中心ってどこ?』っていう問題も発生する。更に中心を物理的な意味じゃなく、政治や経済において中枢を担う場所を指して中心と呼ぶ場合もある訳で…つまり、何が言いたいかと言うと……私は今、「まずは中心に向かう」という目標を達成出来たのかどうか、迷っていた。

 

「どうするかな…達成したって事にして、次の目標に向かおうかな…」

 

 目標の達成状況をどう判断するべきか、と私は後頭部を軽く掻く。達成したって事にしてもいいんだけど、雑にクリアって事にするのはもにょっとした感じがあるし、かといって厳密なクリアを目指すとなると、その中心はどこよ?というかこの辺りが中心って認識で合ってるの?…って問題が浮かび上がる。

 

「むむむ…ふー、む……」

 

 手近な場所にあったベンチに腰掛けて、私は熟考。のんびりしていられる状況ではないけど、速断即決が求められる程切羽詰まってる訳でもないし、どうするべきかとじっくり考える。ここに至るまでに見てきたもの、そこから分かった事、次の目標…そういう事を色々と考え、思考し…立ち上がる。立ち上がり、今通ってきた道を引き返す。

 

(考えてみれば、こっちの方が明確な目標だったもんね)

 

 私は中心に向かう、という目標を一旦クリアしたという事にした。そういう事にして、次に予定していた目標…この空間からの脱出を目指して、街の端に向かう事を開始した。

 一旦クリアという事にした一番の理由は、目標としての意味が薄い事に気付いたから。取り敢えず中心に、と決めた訳だけど、決めていたのはそこまでで、そこから先…中心に行ってどうするのか、の部分は全く決めていなかったどころか考えてすらいなかった。逆に言うと、今のところ街の中心に対する、はっきりとした価値を私は感じていなかった。

 一方で、次の目標、街外れに向かう事は違う。こっちはこの空間から出る、連絡を取るっていう明確な目標がある。であれば、仮に納得出来る場所に辿り着いたとしても「あ、うん。ここが中心なんだね」で終わりかねない最初の目標に固執するよりも、さっさと切り替えて街外れを目指した方がずっと良い。

 

「にしても、ほんとにここはどういう街なんだろう…」

 

 何を以ってどこをそうだと言うのか曖昧な中心と違って、街外れはとにかく分かり易い。何せ、とにかく外側に向かえば良いんだから。極論一点しかない中心と違って、街外れはぐるっと一周全てがそうなんだから。そういう意味でも、やっぱり中心探しに固執するのは悪手だったと思う。

 だけど、仮に街外れに着いて、そこから脱出出来たとしても、元々の目的達成には程遠い。結局再度ここは調査の為に入る必要があるだろうし…調査を深める上では、中心に向かわなきゃいけない理由が出来るかもしれない。私の中で中心に向かう事を『一旦』クリアって扱いにしたのは、つまりそういう事。

 

(無人の街…捨てられた、にしては状態が良いし、大規模な戦闘があった形跡も今のところない。…まさか、オリゼが浮遊大陸を改変した時に、一緒にここにも街を作っていた?……は、流石に飛躍が過ぎるか…)

 

 歩きながら考える。色々思い浮かびはするけど、どれもしっくり来ないし、そもそも思い付くものの多くは「そうではなさそうな理由」は出てきても、「その可能性に信憑性を持たせる要素」はいまいち出てこないし、見つからない。こういう時、一人でもこの街の住民がいれば、その人からの情報で一気に思考が進むものだけど…ほんと、誰もいない。

 ここはまるで、くろめ達によって信次元の皆が眠りに着いた後の街のよう。ただそれも、意識がないだけで物理的に消えてしまった訳ではないあの時の場合と、この街とじゃ全く違う。

 

「……あ、そうだ」

 

 そこでふと、私は「ここなら案外下界との扉を開けたりして…」と思い試してみる。…けど、結果はここでも開けずに失敗。やっぱりかぁ、と思いつつ歩みを進め、段々と建物の数が減ってくる。視界が開け、街の外が見えてくる。

 もうすぐ目的の場所に到達する。そう思いながら更に歩みを進めて、遂に私は最後の建物も通り過ぎる。正確な位置は分からないけど、恐らくこの辺りが街の外れ。街、と呼ばれる範囲の端っこ辺りで…街の外は、もう目の前。

 

(入った時と同様なら、今見えている街の外の景色は本物じゃない。仮にこの空間を出られても、出た先は足場のない場所でした…ってなる可能性は普通にあるし、気を付けないと…)

 

 一度立ち止まり、気を引き締めている中で、そういえばこの街の中にあるものは、少なくとも私が触れた物に関しては全て本物だったな、と気付く。もし幻影、幻覚なのであれば、天界の地形的にどこかしらで足を踏み外して転落…って事になってた筈だし、そういう意味でもやっぱり、ここは特殊な空間らしい。

 ともかく、街外れに着いただけじゃ意味はない。普通に出られるのか、出られないのか、それを確かめる為にも、街の外に出てみなきゃ分からない。そしてそれを確かめるべく、私は……やっぱり、歩く。まあ、それはそうだよね。だって別に、特別な事をする訳じゃないし。街から出るだけなんだから、歩くか走るか跳ぶ位しかやる事は……

 

「…うん?あれ、何か出てき……、──っ!?」

 

 反射的に、私はその場を飛び退く。地面を蹴り、大きく後ろに跳んで、下がりながらバスタードソードを取り出し掴む。

 着地と共に、街の外を見やる。見て、はっきりと認識する。今、私が飛び退いた理由を。街の外、外の景色から突然現れた、モンスターの存在を。

 

(どういう事?天界のモンスターがこの空間に迷い込んだ?…いや、それにしてはタイミングが良過ぎる…!)

 

 立て続けに何体も現れ、私の方へ向かってくるモンスター。何故モンスターが現れたのか、どうして現れた直後から一直線に私へと向かってくるのか、瞬時に幾つもの疑問が浮かぶ…けど、今はそれをじっくり考えている場合じゃない。

 得物を構え、待ち構える。突っ込んでくるモンスターの戦闘を見据え、ゆっくりと息を吐き…間合いに入った瞬間、袈裟懸けで一刀両断。

 

「囲まれる前に、倒す…ッ!」

 

 周囲に障害物はなく、カウンター主体で戦おうとするとすぐに囲まれる事は明白。だから先頭の個体を倒すと同時に私は走り、自分からモンスターに向かっていく。一番近い個体に横薙ぎを仕掛け、逆側から突っ込んできたモンスターは蹴り飛ばし、すぐに数度のサイドステップとバックステップで位置を切り替え刺突を放つ。前転するように跳び、モンスターをスレスレで飛び越えると同時に背中へと掌底を打ち付け、その反応で素早く回ってモンスターの後方に着地。そこからの回転斬りで仕留め、また走る。

 一体一体確実に仕留める…という事はしない。撃破出来たかどうかにか関わらず、目まぐるしく動く事でモンスターを翻弄し続ける。

 

(…このモンスター、何かおかしい…汚染モンスターに近いけど、汚染モンスターじゃないこの感じは、一体……)

 

 姿はどれも見た事のあるモンスターだけど、体色がおかしいし、動きも少し変。この差異は、汚染モンスターのそれと似ていて…でも似ているだけで、違う。違う気がする。

 それにこの暗色主体の色合いは、最近見た事がある…というか、オラクル中隊やアヴァラスが迎撃したモンスターも、似たような色だった。…って、事は…あの時のモンスターと、このモンスターの群れとは関連性があるの…?

 

「(まぁ、それ含めて今は撃破を優先しないと。取り敢えずこれで、ある程度の数は…)って、あれ!?モンスター、減ってるどころか増えてない!?」

 

 着実な撃破より向こうのペースにさせない事を優先していたとはいえ、もう半分以上撃破した筈。その筈なのに、モンスターは減っているどころか増えているという現実に、流石に私も愕然とする。減ってないだけなら仕留め損なったか再生したかの可能性もあるけど、増えている以上、どこかから追加で現れた可能性が高い。そして、どこから現れたのかって言えば……

 

(やっぱりか…!けど、ほんとにどうして……!)

 

 一度全力疾走をし、モンスターを振り切る。向かう先は街の外側で…案の定、走っている間にも外の景色からふっとモンスターが現れた。それも初めより沢山、どんどん次々現れては私の方へ向かってくる。…って不味い!これ挟撃される…!

 

「くっ…そう簡単に、やられるものか…ッ!」

 

 数は新たに現れたモンスターの方が多い。だから私は急反転し、一度振り切ったモンスターの方へ突っ込む。いきなり戻ってきた私の存在には、流石にモンスターも驚き…跳躍でその中央へと飛び込む。そこから片手でバスタードソードを全方位へ振るい、一気にモンスターへダメージを与える。

 けど、足りない。威力も、速度も、反応速度も、モンスターを群れ単位で圧倒する事は出来ても、瞬殺するには至らない。人の『普通』を大きく超える力があっても、人の姿のままじゃ、次元の違う強さを持つ『女神』の領域には程遠い。

 

(逃げるにしても、状況も情報も分からな過ぎる。逃げた先でも別のモンスターに出てこられたら、逃げる為に無駄な体力を消耗するだけ。…こうなったら、女神化するしか……)

 

 今し方現れた群れも、何とかなる。今いる数だけなら、人の姿のままでも倒し切れる。けど、どこぞのカオスの狭間宜しく無限に出てくるって事はない…と思うけども、同時に更に増えない保証もない。そもそもモンスターが現れるのはこの付近だけなのか、他の場所でも同様に現れるのかすら分からない。そんな状況で、『分かっている範囲の今』だけ何とかなったって仕方がない。その今だって、不変のものじゃない。

 そしてこの状況を打開出来るのは、状況を真っ向から崩せる手札は、女神化しかない。リスクのある選択肢ではあるけど、このままなのはそれ以上に不味い。例えリスクがあったとしても、やるしかない。

 とはいえ、そのままリスクを受け入れるつもりもない。リスクは最小限に済ませる、女神化する時間は極力減らす。それを実現させる為、私は牽制をしつつも引き付け、意図的に囲まれ、一気に一網打尽にする為に、自分をギリギリまで窮地に追い詰め……

 

「──そこの人!その場を動かないで!」

「……──!?」

 

 その時だった。後ろ…いや、後ろ上方から声が聞こえたのは。間違いない、人の声が。

 言われた通りに足を止めた瞬間、空から複数の刃が飛来する。それ等は私を囲っていたモンスターの群れの最前線を襲い、動きを止めさせる。更にその直後、一人の女性が私の前に降り立ち、彼女と私を中心とするように刀が飛ぶ。一回転し、回転斬りが足を止めたモンスターを斬り裂く。

 

「貴女、は……」

「説明は後よ!走れる?走れるなら、私達が道を切り開くから……」

「私達?…いや…助けてもらっておいてあれだけど、それには及ばないよッ!」

 

 こちらへと振り向く女性。右側でサイドテールに結んだ銀色の髪と、芯の強さを感じる赤い瞳を持つ女性は、私を逃がしてくれようとし…その言葉の一部に疑問を抱きつつも、私は言葉を返す。続けて女性の横をすり抜け、彼女の背後から襲おうとしていたモンスターを両手持ちのバスタードソードで斬り上げる。

 

「…確かにそうみたいね。なら、私の味方の援護に合わせて下がるわよ!」

 

 今の動きで私の力を理解してくれた女性は、小さく首肯し片手を振るう。すると初めに飛んできた小型の刃が彼女の側へと移って舞い、同時に戻ってきた刀の柄を掴む。

 二種類の刃を使う女性と共に、包囲を崩していく。包囲の為になまじ集まっていた分、モンスターの群れの動きは鈍く、次々と私達は蹴散らしていく。

 ところで、さっきの『私達』というのはどういう事か。今の「私の味方」と同じ対象を指しているのか。そんな私の疑問に対する答えは、すぐに示される事となった。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 もう少しで包囲から抜けられる。そのタイミングで、包囲が外からも崩される。視界の中に捉えていたモンスターが斬り伏せられ…その向こうから、今共闘しているのとは別の女性が姿を現す。少しロールのかかった、もう一人の女性とは逆に飴色のサイドテールを左側で靡かせる女性が、澄んだ水色の瞳を私達に向けてくる。

 彼女と、赤い瞳の女性は頷き合う。直後、赤い瞳の女性は小型の刃で開いた包囲の穴付近のモンスターを牽制し、水色の瞳の女性は後ろに跳ぶ。彼女の左右に青白い光が現れ、それ等が飛ぶ。

 

「よ、っとぉ!」

 

 気配だけでモンスターの位置を把握し、後ろに片足を突き出して蹴る。続けてその脚を前に振り出し、走る。私も得物で牽制しつつ包囲を抜け、同じく赤い瞳の女性も脱出をする。

 包囲から脱出し、その外が見えた事で、私は水色の瞳の女性がついさっきしていた事を理解する。それは遠距離攻撃だった。私達が脱出する中、彼女は遠距離攻撃で包囲の外側のモンスターを攻撃し、私達による中からの攻撃と合わせて穴の修復を阻んでくれていた。

 

「今の動き…彼女も只者じゃなさそうね」

「えぇ。後は……」

 

 私はバスタードソードで、赤い瞳の女性は刀で、水色の瞳の女性は両刃の片手剣で追い掛けてきたモンスターを斬り付ける。そこで赤い瞳の女性は別方向をちらりと見やり…小さく笑みを浮かべる。一体何かと思って私もそちらを見れば…その方向からは、一台の車両が走ってきていた。それも普通の車両ではない…大型のタンクを積んだ、補給車両が。

 

「…ひょっとして、あれも……」

「そういう事、着いてきて頂戴」

 

 こくり、と頷き答えてくれた水色の瞳の女性と共に街の方へと走る。殿は赤い瞳の女性が務めてくれて…車両は私達とモンスターとの間に、勢い良く突っ込んだ。エンジン音を響かせながら、ドリフトで強引に割って入った。その大胆且つ大質量の横槍には、モンスターの群れもたじろぎ、威嚇をし…地面にドリフトの跡を残した車両から、女性が飛び出してくる。右肩にその端の一部を載せたセミロングの金髪と、凛とした雰囲気を持つ黄緑の瞳を有する女性は軽やかに着地し、立ち上がると共に銃器を構える。すると次の瞬間、戦闘用の装備らしきものを纏った人…らしき存在が彼女の周囲に三人現れ、四人同時に銃器を斉射。放たれた射撃は車両の反対側から回り込んできたモンスターを押し返し、直後に彼女も私達の方へ走ってくる。

 

「丁度良いのがあった!これならいける?」

「十分よ、これで一気に仕留めるわ!」

 

 走りながらの彼女の言葉に、反転した赤い瞳の女性は頷く。そして黄緑の瞳の女性とすれ違ったタイミングで、彼女は両手を車両へと向ける。

 その瞬間から、何やら軋むような音を立て始める車両。訳が分からず私が見つめる中、水色の瞳の女性と、合流した黄緑の瞳の女性はそれぞれの遠距離攻撃で再び車両を回り込んで来た、或いは車両を飛び越えてきたモンスターを押し留める。そうしている間も車両の軋む音は続き、段々と車両のタンク部分がひしゃげていき……

 

「…うっそぉ……」

 

……そして、車両は爆発した。一際激しくタンクがひしゃげたかと思った直後、中に入っていたのであろう燃料が大爆発を引き起こした。

 爆炎が車両周辺にいたモンスターを丸ごと飲み込み、爆風がその周囲のモンスターも吹き飛ばす中、ふぅ…と赤い瞳の女性は一息吐く。水色の瞳の女性と、黄緑の瞳の女性も、狙い通りだとばかりの顔をしていて……私への声から始まった急展開の連続に、思わずぽかんとしてしまう私だった。




今回のパロディ解説

・「〜〜某緑の勇者みたいに〜〜」
ゼルダの伝説シリーズの主人公、リンクの事。このシリーズだと、看板を叩き斬る事が出来るんですよね。そして斬ると消滅して、読めなくなってしまうんですよね。…場面変えれば復活しますが。

・「〜〜翔んで街中〜〜」
翔んで埼玉シリーズのパロディ。勿論今回出てきた街が埼玉、という訳ではありません。それはそうですよね。そしてこの場面、イリゼは一人で何を言っているんでしょうね。

・どこぞのカオスの狭間
新・光神話 パルテナの鏡に登場するステージ(章)の一つ、混沌の狭間の事。地の文の表現的にややこしいかもですが、このステージも別に、無限に敵が出てくる訳ではありません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。