超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown 作:シモツキ
街の外へと向かう最中で襲い掛かってきた、何かおかしいモンスター。戦闘中にも増援の如く現れ、しかもそれが状況からして一度や二度ではない…悪い想定ばかりが当たった場合、人の姿のままじゃ処理し切れない可能性を前に、私は女神化をしようとした。この街に入って以降、一度行おうとした際、明らかな違和感を覚えた女神化を、リスクを承知でやろうとした。
そんな中で現れた、三人の女性。一目で戦闘慣れしていると分かる彼女達の助けを受けて、私は女神化する事なく窮地を脱する事が出来た。何から何まで分からない事だらけだけど、一先ずモンスターを纏めて撃破する事に成功し…そこから街中へと離脱した事で、今に至る。
「この辺りまで来れば、倒し損ねた怪異も追ってはこない筈よ」
「うん。…うん?怪異?」
「あの怪物の仮称よ。仮でも名前がないと話す時に不便でしょう?」
初めは走っていた私達だけど、今は歩きで移動中。闇雲に歩いている訳じゃなく、向かう先があるみたいで、三人の歩みに迷いはない。
私を安心させようとしてくれたのか、水色の瞳の女性が声を掛けてくれる。それに私は頷き…モンスターの呼び方が気になった。言っている事は理解出来るけど、仮称って……。
「あぁ、そうだ。見たところ無事なようだけど、怪我はないかな?」
「おかげ様で、これといった怪我はないよ。…まあ、ちゃんと確認すれば、擦り傷位はあるかもだけど…」
「その程度であれはわたしも安心だ。だがもし不調になった時は、遠慮せず言ってほしい」
思考中の私へと、今度は黄緑の瞳の女性が問い掛けてくる。大丈夫だと返した私も、皆の方こそ怪我はないかな、と思ってちらりと見やる。
落ち着いた様子で、余裕を感じさせながら歩く三人。その姿にぱっと見で分かる外傷はなく、歩き方にも違和感はない。やっぱり三人共、それなり以上の実力や経験を有しているのは間違いない。
「ありがとう。…ところで、皆はどこに向かってるの?後、何気なく同行させてもらってるけど、私は着いていっていいものなの?」
「駄目ならそのまま同行をさせたりはしないわ。で、どこへかと言えば、私達の拠点ね。まあ、拠点と言う程設備が充実している訳ではないから、差し詰めセーフハウス…ってところだけど」
「よ、容赦のない言い方をするな…そう言われると、占領したわたし的には若干の申し訳なさが……」
「……?ただの建物なんだから設備が充実していないのは当然だし、むしろそこを使えるようにしてくれた貴女には凄く感謝しているわよ?」
「…えーっと……」
「…彼女は良くも悪くも飾らないのよ。だからこそ、発言や行動を信用出来るとも言えるけど…」
赤い瞳の女性と、黄緑の瞳の女性が言葉を交わす。複雑そうな顔を黄緑の瞳の女性が言えば、赤い瞳の女性はピンときていない様子の表情を浮かべて…そのやり取りに対し、水色の瞳の女性は小さく肩を竦めていた。
そしてそれから数分後、三人は足を止める。けど止まったのは、特別な何かがある訳じゃない普通の街中で…その中の一つ、多少大きい事を除けば普通の民家に見える建物に、三人は入っていく。
「ようこそ。見ての通り、普通の家だけどまずはゆっくりして頂戴」
「あ、ほんとに普通の家なんだね…さっき占領って言ってたけど、ここは皆の内の誰かの所有物…って訳じゃないの?…不法占拠…?」
「…まあ、うん…結論から言えばそうなる。尤も、わたし達以外人のいないこの街で、法が成立するのかという話でもあるが……」
「それは…確かに」
割とご尤もな黄緑の瞳の女性の返しに、それもそうかと思う私。無人だろうが法は法だけど、法は基本的に社会を成り立たせる為に存在するものであって、社会が成立しようのない無人の街では、ある意味守っても守らなくても変わらない…とも確かに言える。
それに、街の状態が大きく違うせいですぐには思い浮かばなかったけど、思い返せばうずめ達も同様の事をしていたし、そうして拠点化した建物を私も使わせてもらってたんだから、糾弾出来る立場じゃない。…後はまあ、私は女神だからね。ここは一つ私が良しとした、って事にしよう。
「それじゃあ、ゆっくりと…する前に、一ついいかな?」
「何かしら?」
「…あっ、ごめん。やっぱり一つに限定するのは無しでも良いかな…?先に一つって限定すると、自縄自縛になりそうだし…」
柔和な調子で訊き返してくる水色の瞳の女性に、目的の事…ではなく、言ってから気付いた事に対して撤回を頼む。彼女は「確かにそうね」って感じにすぐ了承してくれて、他の二人も別に構わないという風に頷いてくれる。これといって理由がないなら、別に一つに限定しなくていい。むしろ限定しない方がいい。某脱ぐと小さくなる服と、裏切らないスパッツを着た人の教えは大切にしないとね。
「こほん。じゃあ、改めて…貴女達は、何者?」
咳払いをし、仕切り直した私は問う。同じ状況なら、きっと誰もが思う事を。当然の事を。
「それは、私も気になっていたわ。貴女こそ、何者?」
「うん、お互い様…というところだな。だからここは一つ、自己紹介をするというのはどうだろうか」
「私もそれに賛成よ。そういう事なら……」
「そういう事なら、まずは私からかな?人に名前を尋ねる時は…なんて考えもあるしね」
じっと私の事を赤い瞳の女性が見つめ、黄緑の瞳の女性が自己紹介を提案してくれる。元々自分の事を話すつもりだった私としては好都合で、水色の瞳の女性の言葉を引き継ぐような形で、まずは私が…と申し出る。
「私はイリゼ。原初の女神の複製体であり、神生オデッセフィアの守護女神である、オリジンハート…って言えば、分かるかな?」
『……?』
(あ…っと、この反応は……)
名前と立場に関する自己紹介に対し、ピンときていない顔をする三人。それを見て、私は気付く。これは、これまでにも経験した事のある反応だと。様子からして、私や神生オデッセフィアを知らないだけ…って訳じゃなさそうだと。…いや、国である神生オデッセフィアすら知らないのは、『だけ』で片付けていいレベルかどうか怪しいけども。
「…三人共、国のトップに当たる立場といえば何になる?」
「評議会議長ね。けど、どうしてそんな質問を?」
「何か意味がありそうね。国によっても違うけど、総理や大統領、首相…といったところかしら」
「女王、という場合もあるな。実質的な指導者か、象徴的な存在かにもよってまた少し変わってくるが…」
唐突な質問に怪訝な顔をするも、すぐに三人は答えてくれる。それぞれ答え、特に水色の瞳の女性と黄緑の瞳の女性は互いの答えに対して頷き合う。
でも、聞けた回答は全て私にとって馴染みのないもの。少なくとも、現代の信次元において、今上がった名前がトップの名称として使われている国を私は知らない。…と、いう事はつまり……
「…ひょっとして皆、信次元とは違う次元…或いは世界から来たの?」
自己紹介はまだ序盤。けど、自己紹介はお互いの常識、認識が違えばさっきみたいに困惑が生まれるばかりだから、一旦自己紹介よりもその『違っているであろう常識、認識』について確かめる。
私からの問いに対し、三人は顔を見合わせ合う。そして、私の方へ視線を戻し…頷く。
「そうだな。わたしもはっきりした事は言えないが、ここは私の知る世界とは大きく違うようだ」
「私もよ。ここには、私の知る…あるのが当たり前だと思っていたものが色々とない。少なくとも、知らない場所だっていう事は確かよ」
「今の二人の発言から分かると思うけど、私達は皆、昔からここにいた訳じゃないわ。私達が出会ったのも、つい最近だから」
各々の返答を受けて、やっぱりか…と納得する。モンスターの事を仮称で呼んでいたのも、違う次元や世界から来たから、元いた場所にモンスターがいなかったからだとすれば合点がいく。更に言えば、さっきのトップに関する質問の答えからして、三人共同じ場所から来た…って訳でもないらしい。
そうなると今度は、何故別次元か別世界の住民である三人がここに?…って疑問が浮かんでくる。けどそれは、意図的に訪れたとかでないならすぐに答えを得られそうもないから、一旦保留。
「それじゃあ、さっきの自己紹介に補足をさせてもらうね。原初の女神とその複製体っていうのは、ちょっと事情が込み入ってるっていうか、ゲイムギョウ界に関する知識が必要になるから置いとくとして…守護女神っていうのは国の長の事で、オリジンハートは女神の名前。そして女神っていうのは、えぇっと…人の思いによって生まれた、願いの体現者…って言ったら、理解出来る…?」
別次元の人は勿論、別世界…女神が存在しなければ、常識も大きく異なっているって世界の人と出会うのも私は初めてじゃない。だからこれまでの経験を踏まえて、私は自分の自己紹介を補足する。
自分としては、単純に、分かり易く伝えたつもり。そして、補足を聞いた三人はといえば……反応に、困っていた。
「守護女神に、オリジンハート…これ等の言葉の意味は分かったけど……」
「女神については、説明されてもすぐに『そういうものか』とは思えないな…ここが別の世界で、尋常ならざる存在…怪異を見ている以上、あり得ないとまでは言わないが……」
「説明からして、貴女は女神…って事よね?…………」
((あぁ、自分を女神だと言い出す人は信用ならない…って顔を……))
なんだかちょっと冷たくなった気がする赤い瞳に、私は若干ショックを受ける。前はそもそも知名度が全然なかったし、特に初めての旅をしていた頃は、自分が女神なんだっていう自覚も今より薄かったから、こういう反応をされても「まぁ、そうだよねぇ」で流せていたと思うけど、今は少し辛いものがある。後多分、水色の瞳の女性と、黄緑の瞳の女性も彼女の顔には似たような事を思っていたんじゃないかと思う。
「はは…こういう時、普段なら女神化…本来の女神の姿を見せて、理解してもらったりするんだけど…」
『だけど?』
「ごめん、実は今事情があって女神の姿になる事は控えてるの。だからちょっと、女神だって事を証明するのは難しいんだけど…一旦は、女神なんだって思ってくれると嬉しいな。…最悪、自称女神って認識でもいいから……」
「それはまた、悲しい申し出だな…というか、女神のインパクトが強くて普通に受け入れてしまったが、君は国の長でもあると?」
「そうだよ。神生オデッセフィアっていうのが、私の統治する国の名前。まだ成立したばかりの国で、他国を必死に追い掛けてる状態なんだけどね」
「そ、そうか。…やはり、すんなりとは信じ難い…が……」
「話し方に余裕があるわね。嘘や見栄らしさはないというか……」
「なんであれ、一つ確かな事はあるわ。自称女神、自称国の長だとしても、彼女の実力は本物よ。さっきの身のこなしに、疑う余地はないもの」
「…ありがと。信用はこれから自分で築くとして、今はそう思ってもらえるだけでもありがたい…って、自称国の長!?そ、そっちは自称を付けた覚えないんだけど!?」
まるで違う世界から来た相手に、初めから信じてもらおうだなんて思っていない。そもそも信用も信頼も普通は交流を重ねる事で掴むものなんだから、ちゃんと話を聞いてくれただけでも私はありがたかった。…まあ、しれっと国の長まで自称扱いされた事にはびっくりしたけどね!よく考えたらそっちだってすんなりとは信じられないだろうし理解は出来るけど、それにしても容赦ない…とは思ったけどね!
「こ、こほん。初めから色々話しても覚えるのが大変になっちゃうだろうし、他の事はおいおい知っていってもらうとして……あ、いや…この後も、私は皆といて良いのかな…?もし良いのなら、私はそうさせてほしいけども……」
「それについては、また後で話しましょ。一方的に自己紹介させておいて、私達は語らず別の話を…なんて、お互い良い気分じゃないし」
「同感だ。…で、誰から話すとしようか。わたしは何番目でも構わないが、二人はどうだろうか」
どう?という問いに、二人共「自分も何番目でも構わない」と返答。結果、「じゃあ誰からが良い?」という私への質問が飛んできたけど、私としても別に順番はどうでも良かった。でもそうなると、どうでも良い部分で話が詰まっちゃう訳で……安易ではあるけど、私が認識した順、つまり赤い瞳の女性、水色の瞳の女性、黄緑の瞳の女性の順で自己紹介をしてもらう事にした。
能力や技術の方向性は違えど、三人共モンスターを…それも複数を相手取っても優位に立ち回れるだけの強さを持っている。少ししか見ていなくても、それは分かる。その事を抜きにしても、三人は全く違う次元や世界の住人で、何故かこの街にいてと、気になる事は沢山ある。となれば、興味を抱くのも当然の事で…私が視線を向ける中、三人の自己紹介が始まる。
「私から、ね。…私はスカーレットネクサス。自分の世界では、怪異…私の世界における化物の対処を行う組織に所属しているわ。この世界…次元?…にいる理由は、私にも分からないわ」
「怪異…もしやと思ってたけど、やっぱりその名前は自分の知ってる存在に似てるから仮称として付けたんだね」
「そういう事よ、実際に仮称として挙げたのは私じゃないけど。…他に、真っ先に話しておくべき事としては…これ、かしらね」
赤い瞳の女性…スカーレットネクサスは、クールな調子で自分の事を話してくれる。…といっても、深くは語らない。私の時と同じように、初めに伝えておくべきだと考えた事だけを話していく。…いや、厳密には聞いた私が「初めに伝えておくべき事だけ言ってるのかな」って思っただけだけど。
それから他に伝えるべき事は…と少考したスカーレットネクサスは、すっ…と軽く手を上げる。すると彼女の武器である小型の刃が浮き上がり、スカーレットネクサスが掌を上に向ければ、その上で刃がゆっくりと漂う。
「これが私の力、念力よ。どういうものかは…説明不要でしょう?」
「物を触れずに動かす…って事だよね?結構汎用性の高い能力だと思うんだけど…それは、自分の武器に限定されるの?」
「そんな事はないし、何でも、幾らでも…とはいかないけど、車両みたいに重い物や水の様に固形じゃないものも動かせるわ。使い慣れてる物の方がより緻密に、より自在に動かせるから、基本はこれと刀を使っているけど」
「固形じゃないものも、っていうのは凄いね…。……因みにそれ、瞳に宿った瞳術とかじゃ…」
「ないわよ?」
「だ、だよねー…」
スカーレットネクサスの力は、シンプルながら…ううん、シンプルだからこそ、聞いてすぐにその強力が理解出来る。彼女の能力は、謂わば「動かせるのであればその場にある物が全て武器や攻防の手段になる」というものなんだから弱い筈がないし、離れた場所の物を取るとか、直接触れるのは危険な物を安全に移動させるとか、戦闘以外でもかなり活用出来ると思う。そして聞いたばかりの私でもこれだけ思い付くんだから、実際にはもっと色んな使い方が出来る筈。
それに、さっきの戦闘で補給車両を爆裂させたのも恐らく彼女。タンクを強引に凹ませて圧力を掛けたのか、潰す中で火花を発生させて引火させたのか、具体的な事は分からないけど、単に物を動かす以外の事も出来る…そう思うと、ほんと汎用性が凄まじい。
「こんなところで良いかしら。質問があれば答えるけど」
「質問…あ、それならちょっと気になったんだけど、スカーレットネクサスの念力って、説明を聞いた限りだとわざわざ相手と距離を詰める必要はない…むしろ色々物を動かす事を考えたら、距離を取って広い視野で戦う方が適してる感じだよね?…なのにどうして、さっきは私の所に突っ込んできてくれたの?」
「力は使い過ぎれば負担になるし、当然近い方が相手も動かす物もよく見えるから、状況に応じてそのまま刀を振ったり、近距離で操作したりもするわ。…けど、さっきのは別にそういう事じゃない。さっきは単に、そうするのがベストだと思っただけ」
「そっか、答えてくれてありがと」
こくり、と私は回答に頷き、答えてくれた事へ感謝を伝える。細々した事、踏み入った事であれば、他にも気になる部分はあるけど、今は置いておく。だって、まだ全員の自己紹介を聞いた訳じゃないんだから。…けど、そっか…そうするのがベストだと思ったから、か…うん。スカーレットネクサスはクールな感じだけど、なんだか仲良くなれそうかも。
「それじゃあ次は私ね。私は東亰ザナドゥ。私もスカーレットネクサスとは違うけど、超常の存在…異界とそこに住む化物に対処する組織の人間よ。だから最初は、ここも特殊な異界なんじゃないかと思っていたけど…ここまでの事やイリゼの話からして、どうやら違うみたいね」
「異界…別次元や別世界とはまた違うの?…って、別次元や別世界の説明なしに違うの?って訊いても分からないよね…えっと、別次元っていうのは……」
「大丈夫、何となく分かるわ。それで、違うかどうかだけど…私の知っている範囲では、全然違うわ。異界っていうのは…そうね、ゲームで言うダンジョンみたいなもの、って言ったら分かるかしら?」
二人目として話してくれる、水色の瞳の女性…東亰ザナドゥは、自分の元いた次元又は世界にも、異界という空間があるのだと教えてくれる。…あ、いや、この表現は変だよね。異界なんて表現をする以上、信次元から見た別次元に近い存在の可能性が高いし。
「で、次は…私も戦い方について話した方がいいわよね。と言っても、私の戦い方はさっきの通りで、他にも色々出来る事はあるけど、基本は遠距離攻撃を交えつつの近接戦闘…って感じよ」
「武器は片手剣…だったよね。結構軽快な動きだったし、あの青白い遠距離攻撃も一撃の威力を重視した感じではなかったし、他にも色々出来るなら…うん、私の友達の妹に近い戦闘スタイルなのかも」
「貴女…イリゼの武器は片手半剣?…って呼ばれるものよね。存在は知っていたけど、実際に使う人を見るのは初めてだわ。…あ、でも…貴女が女神なら、『人』って言うのは語弊があるのかしら…」
「ううん、それは別に気にしなくていいよ。まぁ、私も時々気になったりはするけど…いちいち『女神』って言い換える方が、言葉として不自然だしさ」
「そう言ってもらえると助かるわ。イリゼは神様って事だけど、凄く気さくで安心したわ」
「人と共に歩むのが、今の時代の女神だからね。第一いばったり威圧したりするよりも、仲良くする方がお互い気分も良い…し……(うん…?)」
安心した、と言って柔和な笑みを浮かべる東亰ザナドゥに、私も笑みを浮かべて返す。クールな性格っぽいスカーレットネクサスや、堂々とした感じの黄緑の瞳の女性と違って、東亰ザナドゥは人当たりが良いというか、それこそ気さくで話し易い感じがある。
そういう意味でも、彼女はネプギアと似ている。もう少しネプギアが成長して、今より更に心に余裕を持てるようになったら、こんな感じになるのかな…そんな風に、私は東亰ザナドゥと話しながら思っていた……んだけど、そこでふと私は、東亰ザナドゥを見る二人の視線に気が付いた。なんというか、若干半眼気味な、二人の視線に。…なんだろう…何か、思うところがあるのかな……。
「イリゼ、私にも何か質問はある?」
「異界関連の事は色々気になるけど…そうだ、もしかして怪異って仮称を付けたのは東亰ザナドゥ?というか、異界にいるのが怪異だったり?」
「ふふっ、正解よ。でも厳密には、私の世界の場合『怪異』と書いて『グリード』と読むの。話を聞く限り、スカーレットネクサスの世界の怪異とは似てる面もあるとはいえ、全体的には異なる部分の方が多いし、同じ呼称なのは偶然なんだと思うわ」
ここまでの話からの予想を口にすると、東亰ザナドゥはそうだと頷いてくれた。
異なる世界なのに、化物に対する名前が(読み方は違うとはいえ)同じになる事なんてあるのだろうか。…そう訊かれたら、多分そういう事もあるよ、と私は答える。だって実際、ゲイムギョウ界じゃない世界でも、超常の存在を『モンスター』って呼んだりする事があるのは、実体験として知ってるからね。
という訳で、二人目の自己紹介も一先ず終了。残りは後一人で、私は最後の一人に向けて視線を合わせる。
「こほん。わたしは出撃‼︎乙女たちの戦場だ。先の二人と同じように、私も化物と戦う組織の人間…と言いたいところだが、わたしに関しては、というかわたしの住む世界において、そのような存在は見た事も聞いた事もない、…勿論、わたしが知らないだけ、という可能性もなくはないが……」
「そうなんだ。でも、戦闘慣れはしてるんだよね?」
「誇れる事ではないが、わたしの世界では世界大戦と呼ばれる、二度の大きな戦争があり、それからも色々と問題が起こったんだ。そして大国同士の激突による大規模な戦を避けるべく、各国で民間軍事会社が国の、正規軍の代理として幅広く活動するようになった…そしてわたしも、その民間軍事会社の一つに所属する従業員という訳さ」
自分は民間軍事会社の人間だと、黄緑の瞳の女性…出撃‼︎乙女たちの戦場は言う。ここまでと同じ、堂々とした雰囲気のまま…けれどほんの少し、自嘲気味の表情を浮かべて。
民間軍事会社。本来なら軍が行う戦闘やそれに関連する行為を、依頼や委託によって引き受け実行する、企業という形態を持つ組織。傭兵があくまで個人、或いは小規模集団によって行われるものであるのに対して、民間軍事会社は企業としてのルールや社会的立場を持つ存在。現代の…というか、昔から信次元ではギルドが超大規模且つ国際的な傭兵派遣組織みたいな存在となっている関係で、『組織』という点で長所も短所も被っている、それでいて国が大々的に後押しでもしない限りはギルドより小規模にならざるを得ない民間軍事会社は環境的に発展出来る訳もなくて、実際どの国にも名の通った民間軍事会社はなかったりする。…国の長としては、民間軍事会社って形式は、中々便利なものだと思うけどね。
「そういう訳で、銃器や近接格闘戦の心得はそれなりにある。他にも航空機や戦闘車両、艦船の扱いも出来るが…ここではないものねだりにしかならないな」
「へぇ…えと、さっきやってた分身?…も出撃‼︎乙女たちの戦場の力なんだよね?(…うん?というか、航空機も戦闘車両も艦船もって、さらっと凄まじい事言ってない…?)」
「分身なんて大層なものじゃないさ。緻密な命令を出せば細かい事も出来るが、戦闘中にいちいち緻密な指示を出す事は出来ないし、わたしに追従させるようにしておけば自動で動いてくれるが、その場合は本当にわたしと同じ動きしか出来ない。勿論使い方次第ではあるが、基本は火力増強位しか出来ない能力だよ」
「それでも凄いと思うな。さっきの場合は、単純に考えて火力が四倍になってる訳だし」
出来る事の説明でも、分身…っぽい能力の説明でも、彼女は謙遜するようにして肩を竦める。でも、そんな事ないと私が言えば、ありがとうと言って素直に受け取ってくれる。そんな出撃‼︎乙女たちの戦場から感じるのは、人の良さで…それも東亰ザナドゥが親しみ易いタイプであれば、出撃‼︎乙女たちの戦場は品があるタイプの「良い人」だって、私は思う。…いや、東亰ザナドゥだって品がない訳じゃないよ?それにスカーレットネクサスも社交的なタイプではなさそうだけど、きっと…いや間違いなく、優しい人だよ?だって一番危険になるであろう役を、ベストだと思ったから…って理由だけで実行してくれた訳なんだから。
「さて、じゃあわたしにも何か質問はあるだろうか」
「あるよ。移動中も少し出てきた話だけど、占領…っていうのはどういう事?あの時の口振りからして、単にここに入って確保しただけ…ではないよね?」
「あぁ、それに関しては少し説明が難しいが…早い話が、わたしはここを『使える』ようにしたんだ。イリゼ、他の建物に入ろうとした経験は?」
「うん?…あ、そうか…私が調べた建物は、どれも入る事が出来なかった。それも鍵が掛かってるって感じじゃなくて、扉とか窓の形をした壁、って感じだったから…ここもそういう状態だったのを、出撃‼︎乙女たちの戦場が住居として使えるようにした…って事かな?」
「察しが良いな、イリゼは。わたしは少し前に二人と出会った。同じ境遇の二人と協力体制を取る事にして、何にせよ休める場所がなければという話になり、そんな経緯でわたしはここを占領した…という訳だよ」
少しは理解してもらえたかな?と言うように小さく笑みを浮かべる出撃‼︎乙女たちの戦場に、私は首肯をして返す。占領というのがそういう意味なら理解出来るし、街中じゃ休むに休めないだろうから、こうして住居を確保したのも頷ける。…まぁ、それはいい。それはいいんだけど…中に入れない、そもそも入る事が出来ないような建物を使用可能にするとか、やっぱり凄まじい事をさらっと語ってくるね、出撃‼︎乙女たちの戦場は…。
因みにここを選んだのは、地理的に便利な位置なのと、然程大きい建物じゃなかったから、なんだとか。どうもその占領は、より大規模だったり特殊だったりする建物程完了するまでに時間がかかるらしい。更には、あの分身っぽい存在の有無(と数)も影響するんだとか。
「これで全員、自己紹介は終わったわね。となると次は……」
「今後の事ね」
「うん。それに三人が知ってる範囲での、この街や怪異…信次元ではモンスター、っていうんだけど…の情報を聞かせてもらえると助かるな。例えばさっき東亰ザナドゥは、ここまで来ればって言ってたけど…あー……」
『……?』
信次元の事は私の方が間違いなく詳しいけど、この空間内に限っては別。モンスターに関しても通常のそれとは少し違うようだから、三人からの情報がほしい。そう思って私は言い…そこで一つ、思った事を口にする。
「あのさ、もし皆が良いなら、だけど…呼び方、変えても良いかな…?」
「呼び方?…ああ、そういう事か。確かにわたしの名前は普通に呼ぶと長いし、略される事も多いから、構わないよ」
「そういう話なら、私も大丈夫よ。勿論、あんまりな呼び方だったら、流石に困っちゃうけど…」
「好きに呼んでくれて構わないわ、私も好きなように呼ばせてもらうから」
「ありがとう、三人共。じゃあ、三人の事は、スカネク、東ザナちゃん、乙戦ちゃんって呼ばせてもらうね」
「……え、私だけ呼び捨て…?」
「いや、ほら、東ザナと乙戦はそのままだと女の子の愛称っぽくないし、逆にスカネクはちゃん付けすると、貴女のクールな感じとちょっと合わない感じがするかな…と思って。…けど、一人だけ呼び捨てっていうのは、やっぱりちょっと嫌?」
「嫌という訳じゃないわ。流石に少し驚きはしたけど…」
呼ぶにはちょっとばかり長いから、という理由で私は三人を愛称で呼ばせてもらえないか頼み、許可を得る。そうして私が、三人をどう呼ぶかが決定する。
愛称で呼ばせてもらいたいと提案した一番の理由は、勿論そのままだと少し長いから。でも実は、内心ちょっと「自分から愛称を提案して呼びたい」って気持ちもあった。あったというか、呼び易い風に呼ばせてもらえたら…と思った時点で、愛称で呼ばせてほしいという気持ちが芽生えて…だから全員から了承をもらえて、凄く嬉しかった。スカネク、東ザナちゃん、乙戦ちゃん…ふふふっ、やっぱり愛称って友達とか仲間の証明みたいな感じあるよね。勿論愛称で呼んだりしなくたって、友達は友達だし、仲間は仲間だけどっ。
「えと、じゃあ改めて…東ザナちゃんが言ってたのは、何か根拠があるの?」
「根拠…というか、経験則よ。怪異…じゃなくてモンスターは、私達が離れれば襲ってこない。単に見失うだけなのか、何かしらのルールがあるのかは分からないけど…多分、両方なんだと思うわ」
「ルール?」
「えぇ。モンスターが現れる場所…というか、条件は二つ。その内の一つが、街の外…もっと言えば、街の外に出ようとした時なの」
訊き返す私に対し、東ザナちゃんは更に答えてくれる。やっぱりモンスターは偶然じゃなく、私が街の外へ出ようとしたから現れたっぽくて…そうなると、ある事が思い浮かぶ。何かしらの存在が、私を…街の中にいる人を街に留まらせようとしているんじゃないかという、可能性が。
「街の外…って事は、三人も街から出ようとはしたんだね」
「ほぼほぼ形だけの街では情報収集も一筋縄ではいかないからな。ここがどういう世界なのか調べる為に、三人で出る事を試みはしたが……」
「モンスターは街の外に近付けば近付く程、出てくる頻度も一度に現れる数も増えていったわ。それでも強引に、一点突破で一気に進めば、モンスターの現れる地点を越えられるかもしれないけど、それはあまりにもリスクが大き過ぎるって事で、途中まで強行突破を試した上で断念したのが前回の事よ」
「前回?」
「今回は、モンスターの現れない地点があるんじゃないかと思って、街の外縁を回っていたの。そうしたら、モンスターに襲われている女の子を見つけたから……」
後は知っての通りよ、とばかりに東ザナちゃんは肩を竦める。そういう訳だったんだ、と私は三人の話しに頷きを返す。
リスクを考えて断念した、というのはよく分かる。モンスターの現れる位置を越えたところで、越えればもう襲われないなんて保証は全くないし、むしろ「越えた先には第二の出現地点があった。越えた地点からもモンスターが追い掛けてきて、挟撃される羽目になった)」…的な事になってしまう可能性も十分にある。それにそもそも三人は、恐らくここが天界の中にある空間だって事を知らない訳だから、「街の外に行けば天界に出られるかもしれない」っていう希望すら持っていない。そんな状態で、大きなリスクを背負うのは、確かに避けて然るべき事。
「それじゃ、更に質問。さっき東ザナちゃん、モンスターが現れる条件は二つって言ったよね?なら、もう一つの条件は何なの?」
「あ、ごめんなさい。二つって言ってたのに一つしか言ってなかったわね。…で、そのもう一つの条件だけど……」
さっきは流れ的に訊かなかったもう一つの条件。でも気にならなかった訳じゃなくて、先に一つ目の内容を深掘りしただけ。だからそれが済んだ事で、今度は二つ目の条件を訊き、東ザナちゃんは答えようとしてくれて……けれどその時、ぐぅ…という音が鳴った。
突然鳴った奇妙な音に、三人は目を瞬かせる。一方私は、段々頬が熱くなっていくのを感じる。…ぅ…い、今のは……。
「…もしかして、イリゼのお腹の──」
「ち、違うよ!?今のは…えっと、某流行語大賞になった言葉をちょっと言いたくなっただけだからっ!」
『ええぇ……?』
「…うぅ…嘘です、ごめんなさい……」
恥ずかしさのあまり、咄嗟にスカネクの言葉に対して変な嘘を吐いてしまう私。当然そんな事を言ったものだから、三人からは困惑され…余計恥ずかしくなった私は、お腹が鳴った事を認めるのだった。
「そうだった…今気付いたけど、暫く何も食べてなかったし、動き回ったり戦闘したりもしてるんだから、そりゃ空腹にもなるよね……」
「空腹自体を忘れていたのか…まあ、こんな場所では気が張ってしまうのも当然の事だ。別段恥じる事でもないさ」
「私達も結構歩き回ったし、そろそろ食事にするのはどうかしら。イリゼも一緒にどう?」
「う、うん…あ、でも食料ってあるの?」
「あるにはあるわ。…一応は、ね……」
こんな場所でも食料は確保出来るのかな、と思って訊くと、スカネクが答えてくれた…んだけど、何やら微妙そうな顔。それに頷く東ザナちゃんと乙戦ちゃんも、似たような顔。一体どういう事?と思って私が首を傾げると、東ザナちゃんが頬を掻きつつ教えてくれる。
「ちゃんと食べ物自体はあるの。食べられる野草とかじゃない、ちゃんとしたものがね。…ただ、味が……」
「…不味いの?」
「不味いどころか、無なのよ」
「…味なし?」
「えぇ」
「全くの無味?」
「えぇ」
「…某異世界でメニュー画面から料理を選択してそのまま作った時ばりに?」
「それは、まぁ…多分、そうかも…?」
まさかの味無しという想定外の情報に、私はおおぅ…となる。食事の最たる目的は栄養の確保で、様子からしてその点での問題はないっぽいけど…だとしても、味が薄いどころか全くない食事というのは、それこそあまりにも味気なさ過ぎる。多分殆どの人が多かれ少なかれ食事を楽しみにするものなんだから、そこから味という要素が抜けているのは、実際問題かなり大きい。
「有事に贅沢は言っていられない…と思っていたけど、毎回の食事に味がないというのは、中々辛いものがあるわ…」
「嘗ては携帯性と保存性ばかりが重んじられていたレーションも、作戦行動中の兵にとっての数少ない娯楽、ストレス解消手段として、味や内容の改良が重ねられてきた歴史があるからな。これはあくまで、わたしの世界での話だが……」
「けど、他にない以上は仕方ないわ。…あのレーションでも欲しいと思う日が来るとは思わなかったけど…」
どうもこれまでその味のない食事をする他なかった様子の三人は全員、浮かない顔。更にレーションへの言及からして、乙戦ちゃんだけじゃなく、スカネクも軍事に関わっているか、関わっていた事があるっぽい。
ただまあ、そんな様子の三人も食べる気ではあるらしい。スカネクの言う通り、他にないのであれば、気が乗らなくてもそうするしかないのであれば…それこそ、仕方ない。
という訳で、食事の準備を始めようとする三人。そんな三人に向け……私は、言う。
「あのー…ちょっと、いいかな?」
「何かな?」
「そんなに多くはないんだけど…私、持ち合わせの食料があってね…」
『……!?』
「で、なんだけど…良かったら、食べる?」
そう言って、私が取り出したのは艦から持ってきた携帯食。それこそ、国防軍でも採用をされているレーション。ついでに私が私的に持ち込んできた物の中からも、保存が効く食べ物をチョイスしてあって…おまけに言うと、まだ食べてなかったお弁当(食器が不要な方が良いよね、と思って用意したのはサンドイッチ)もある。決して大量ではないけど、私一人ならそこそこの期間…ここにいる四人で食べても、物足りないとは感じない位の食べ物を、私は持ち合わせている。そして、私はその事を明かすと三人は目を見開き、私からの提案に顔を見合わせ……食い気味に、とても食い気味に、深く強く頷くのだった。
*
「ふぅ…美味しいものはいつ食べても大概美味しいものだけど、やっぱり誰かと一緒に食べると、より美味しいというか、楽しい食事になるよね」
食事を終え、美味しかったと思いながら一息吐く。それから水を飲んで…食料同様味が完全にゼロな水に、何とも言えない感情を抱く。まあ元々、水ってはっきりとした味がする訳じゃないというか、成分によっては味を感じる事もあるって程度の存在ではあるんだけど…こうまで完全に『無』だと、頭がちょっと混乱する。
「私もそう思うわ。…けど、本当に良かったの?これは貴女にとっても大切な食料でしょ?」
「それは勿論、ね。けど、三人には助けてもらった恩があるし、神生オデッセフィアや信次元の住民じゃなくても、人は人。困っているのであれば、例えそれが急を要する事でなくとも、何とかしたい…そう思って、その為に動くのが、女神というものだから」
「立派だな。わたしはまだ、イリゼの事を少ししか知らないが…君はきっと、良い為政者なんだろう」
「そう思ってもらえるのは、嬉しいな。…にしても、スカネクってほんとに料理上手だったね。少し意外だったよ」
良かったの?と訊いてくる東ザナちゃんに答え、乙戦ちゃんの称賛を私は受け取る。それから視線を、スカネクへと移す。
実はこの食事で食べたのは、私が持ってきた物だけじゃない。私の食料だけを食べるのは流石に申し訳ない…って事で、ここにある味のしない食料…を使って調理した食べ物と、私の持ってきた物とを、半々にして食事をした。調理をした(これまでもしていたとの事)のは、そのまま食べられる訳じゃない食材も当然あるって事と、例え味がなくとも、食材をそのまま食べるよりは、ちゃんと『料理』の見た目をしている食べ物の方が、まだ精神的には良いだろうからって事で…その時見せてくれたスカネクの料理の腕は、かなりのものだった。スカネク程ではないけど(本人曰く得手不得手があるらしい)、東ザナちゃんもちゃんと料理が出来る人で、何なら一品アレンジ料理を披露してくれたりもした。…アレンジしてもやっぱり無味は無味なんだけど…。
「自分の事は自分で出来るように、って教わってきたのと、家庭環境の関係で、料理は前々からしているの。だからまあ…確かに、多少の自信はあるわ」
「多少というか、私より上手なんじゃないかな。あ、けど、スイーツ系だけなら私も負けないよ?」
「そういうイリゼも、十分上手だと思うわ。手付きも慣れているのが感じられたし」
「…すまない…皆それなりに料理が出来るというのに、わたしだけ役立たずで本当にすまない……」
私達が料理の話でちょっぴり盛り上がる中、乙戦ちゃんは一人、どんよりとした顔をしていて…彼女の言葉に、私達は苦笑。何でも、乙戦ちゃんは料理…というか、家事全般が苦手なんだとか。
まあそれはともかく、食事を終えた私達は食器を片付ける。そうしてまた、食事をした、自己紹介もしたリビングへと戻り、先程の会話を再開する。
「さっきはモンスターが出てくる条件の話をしたところで終わっていたわね。…ここで説明しても良いとは思うけど…実際にその場に行く方が、場所も分かっていいんじゃないかしら」
「確かにそれはそうだな。直接行き、ここだと認識しておいた方が、うっかり近付いてしまう事を避けられるだろう」
今度こそもう一つの条件を…と思っていたけど、話は思っていたのとは違う流れに。でも、その場所まで案内してくれるのなら、私としてはありがたい。そう思って私は賛成し、東ザナちゃんも同意をした事により、その場所へ向かう事に決定。道中私は三人の細かい経緯…この街に何故か来てしまってから、出会うまでのそれぞれの行動を、さらっとだけど聞き、逆に私も話していく。
「そっか、三人が出会えたのはほんとに偶然だったんだね。まあ、広いとはいえ各々街の探索をしていた訳だし、他に人もいなければ基本建物には入れない訳だから、普通に街で生活しているよりは、遥かに出会える確率は高いんだろうけど…」
「それでも、割と早くに出会えたのは助かったわ。やっぱり、普通は一人だと心細いものだし、出会えた二人は凄く心強い存在だもの」
『…………』
(うーん…?)
再び東ザナちゃんへと向けられる、二人からの謎の視線。東ザナちゃんは気付いていないのか、気付いた上でスルーしているのは分からないけど、特に反応する事はなくて…暫く歩いた先にて、三人は足を止める。
「着いたな。ここだ、イリゼ」
「ここ…って、街の中心付近だよね。実は私、街の外に向かう前にまず、中心を目指して探索してたんだ。その時は特にモンスターに襲われる事はなかったんだけど、運が悪かったらその時襲われてた可能性も…って、ここは……」
まさか私が初めに決めた二つの目標、その両方でモンスターと遭遇する可能性があっただなんて夢にも思わず、さっきは襲われずに済んで良かった…と安堵。もし襲われていたら、街の外縁を回っていた三人に助けられる事はまずなかっただろうし、さっきの私は実は幸運だったのか、なんて思い……それから私は、気付く。三人が見ている先の存在に。そこにある、私にとっては…いや、女神にとっては恐らく街の中で最も馴染み深い建物の事に。
「…教、会……?」
「やっぱりあれは教会だったのね。…教会、女神…ひょっとしてあれは、イリゼに関わりがある場所なの?」
「う、うん…あの教会とは無関係だと思うけど、女神にとって自国の教会は、家であり仕事場の一つな訳だから…」
思いもしなかった…でも、街の中心としてはある意味当然の施設に、私は驚く。東ザナちゃんの問いに答えつつ、教会へと視線を走らせる。…うん、やっぱり間違いない。どこの国のかは分からないけど、あれは教会だ。
「街の外に向かうのと同じように、あの建物…教会に近付こうとした場合も、モンスターは現れる。逆に言うと、その二つ以外でモンスターとの遭遇に見舞われた場所やタイミングは、今のところない。だからここと街の外にさえ行こうとしなければ、取り敢えず安全とは言えるが……」
「…なんというか…あからさま、だよね…」
私の呟きに、三人は頷く。教会と街の外へ向かおうとした時だけ現れるモンスター。機能面で街の中心と言える教会と、街の外…この街じゃない場所へ近付くのを阻む存在。こんなの、何かあると思わない方がおかしい。街の中に留めようとする何かしらの存在を、より一層感じさせる。
じゃあ、それは何か。何故留まらせようとするか。それが気になり始める中、スカネクは何かを思案するような顔になる。そのまま数秒程黙り込み…それからスカネクは、言う。
「…二人共。私はやっぱり、イリゼにも手を貸してほしいと思うわ」
「へ?」
「イリゼ。私達は街の調査や探索を進めつつ、ある計画を練っていたわ。モンスターを退けて、この教会を占領する計画をね。…貴女の力、この計画に貸してはくれないかしら」
唐突なスカネクからの申し出に、私は一瞬ぽかんとする。流石にこれは意外過ぎて、すぐには理解が追い付かない。そしてこれは、三人の相違ではないようで…彼女の発言に対し、東ザナちゃんが言葉を返す。
「待ちなさい、スカネク。確かに彼女の実力は間違いないわ。けど、さっき会ったばかりのイリゼにそれを言うのは……」
「長い付き合いじゃないのは私達も同じでしょう?それにイリゼと私達とで利害は一致しているんだから、協力した方が互いの為になる筈よ」
「それはそうだけど、だとしても戦いに…それも危険な計画への協力を頼むのは、些か早計だと私は思うわ」
「東ザナの言う事も一理あるな。だが、現実としてこの街にいるのは現状イリゼ含めても四人だけだ。加えて先程わたしは教会と街の外にさえ行こうとしなければ安全と言ったが、それも今わたし達が分かっている、今のところの安全でしかない。真に安全を考えるなら、出来るだけ早めに脱出する方が良いというのも、また一つの考え方ではないかとわたしは思う」
協力を、と言うスカネクに東ザナちゃんが異を唱え、乙戦ちゃんはその意見に理解を示しつつも、スカネク寄りの立場を示す。スカネクは私に協力してもらった方が良いと考え、乙戦ちゃんもその方が最終的には安全に繋がるのではないかと言い、東ザナちゃんはもう少し判断を慎重にと反対をする。二対一だから協力してもらうに決定…みたいな流れには、当然ならない。
当たり前だけど、そのやり取りは全て聞こえていた。同じ場所にいるんだから、聞こえるに決まっていて…私は三人の言葉が、どれ一つとして間違っていないと感じていた。多分三人も、明確に誰かの意見を間違っているとは考えていないんじゃないかと思う。だから私は、三人を見て…しっかりと見やって、言った。
「ありがとね、東ザナちゃん。私の事を、気遣ってくれて。でも…そういう事なら、協力させて。皆に…皆の計画に」
「イリゼ、貴女……」
「…そう言ってくれるのは、ありがたい。…が、だからこそその理由を聞かせてほしいんだが…いいだろうか」
「勿論。…って言っても、理由は幾つかあるよ?第一に、私には待っている人達がいるから、悠長にはしていられないし、スカネクの言う利害の一致っていうのに同意出来るから…っていうのもあれば、乙戦の言った『今のところの安全』に対して、その通りだよねって思ったからっていうのもある。けど、それだけじゃない。それだけじゃなくて、皆の力になりたいって気持ちもあるからだよ」
「…それも、『女神』の考え方なの?」
「半分正解。女神としてそう在るべきだとも思ってるし…個人として、イリゼとして、今は皆の力になりたいの。皆と力を合わせたいの。皆の事を、私はもう…友達だって、思ってるから」
女神としてそう思ったのか、と問うスカネクに対し、それもあるけど、それだけじゃないんだと返す。理由に優劣なんかなくて、合理的な判断だとか、女神としての選択だとかと同じように、まだ短い時間ではあるけど、一緒に戦って、一緒に街を歩いて、少しだけど互いを知って、一緒にご飯を食べた三人と共に、この状況を乗り越えたい…そういう気持ちもあるから、全部引っくるめてこの答えを選んだ。それが私の選択であり…私の意思。
言い切り、私はそのまま皆を見つめる。躊躇いはない。微塵もない。だって建前でも何でもなく…私にとって、皆は友達だから。そして、皆が共に歩んでくれるのなら…紛れもなくそれは、仲間だから。
今回のパロディ解説
・某脱ぐと〜〜スパッツを着た人
お笑いタレント、アキこと荒木良明さんの、よしもと新喜劇におけるキャラの一つの事。一つだけいい?…と言ったら追加の質問をしたくなった時に困る…喜劇中の台詞ですが、確かにそれはそうですよね。
・「〜〜瞳に宿った瞳術とかじゃ…」
NARUTOシリーズにおける瞳術の一つ、万華鏡写輪眼やそれによる術の事。丁度スカーレットネクサスは赤い瞳なんですよね。まあ、元ネタ的に言うなら、瞳術ではなく超脳力ですが。
・「〜〜某流行語大賞になった言葉〜〜」
2008年の流行語大賞となった、「グー!」の事。エドはるみさんのネタですね。ただ勿論、グー!…とがっつりなったのではありません。そこまでイリゼのお腹の音は豪快じゃないです。
・「〜〜某異世界で〜〜作った時ばりに?」
ログ・ホライズン及び、作中世界であるセルデシアにおける食事事情の事。ずっと味のない食事というのは、ずっと同じものだけ食べるより辛いかもですね。どちらも経験ないですが。
前話より登場した三人(スカーレットネクサス、東亰ザナドゥ、出撃‼︎乙女たちの戦場)は、名前から理解している方も多いとは思いますが、全員実在するゲーム(乙戦は半分シリーズみたいなものですが)をモチーフにしたキャラ…所謂オリジナルの「メーカーキャラ」となります。