超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown 作:シモツキ
初めは、不安もあった。お姉ちゃんの事はいつだって頼りにしてるし、憧れてるし、本当は凄いんだって事もよく知ってるけど…やっぱり、お姉ちゃんはお姉ちゃんだから。良いところは沢山、ほんとに沢山あるけど、良いところばっかりじゃなくて、良くないところもあるのがお姉ちゃんだから。…わたしだって、それ位は分かってる。
でも、お姉ちゃんの…ひたむきに大博覧会の準備を進める姿を見て、今回は違うのかもって思うようになった。段々自分の中にある不安が、大丈夫かもって安心に、期待に変わっていった。
そしてそれはきっと、わたし以外も…いーすんさん達も、同じ事。お姉ちゃんが本気で、一生懸命に準備に奔走していたから、しかもそれが大変そうとかじゃなくて、充実しているようにも見えたから…忘れてしまっていた。仕事っていうのは、積み重ねだっていう事を。どんなにやる気や能力があっても、仕事の内容に見合うだけの経験がなくちゃ、万全とは言えない事を。何より…それがお姉ちゃんには、欠けていたって事を。
「んっ…ふぅ。やっぱり即興での対応って難しいな……」
ぐっ、と飲み物を一気に飲んで、一息吐く。自分の中にある、「余裕があるならすぐに次の場所に行った方が…」っていう気持ちを抑えて、心を落ち着かせる。…いや、落ち着けてるかどうかは分からないんだけど…形だけでも、冷静沈着にいようとする。
今わたしは、自分の元々の務めもやりつつ、出来る範囲で今起こっている問題の対応にも回っている。それがあるから、今は時間が惜しいんだけど、こういう時こそ落ち着くのが大事。焦ったって、ミスして状況を更に悪くする可能性が高くなるだけなんだから。…っていうのは分かってるけど、やっぱり気持ちは逸っちゃうもので…うぅ……。
「ネプギア、よく分からない顔になってるわよ」
「よ、よく分からない顔…!?…あ、ユニちゃん……」
「ネプギアちゃん、おつかれ…?(へろへろ)」
「へばってるの?」
突然掛けられた声に驚いて振り向けば、そこにいたのはユニちゃん。その後ろにはロムちゃんとラムちゃんがいて、二人共わたしをじーっと見ていた。
「あはは…別にへろへろだったり、へばってたりはしないよ。少し落ち着こうとしてただけ」
「あ、それならいいこと知ってるわ!落ちつきたい時は、手のひらに三回『PERFECT HUMAN』って書いてからのめばいいのよ!」
「へぇ、そうなんだね。じゃあ…ってそれ多分違うよ!?進化し過ぎっていうか、シンプルに『人』で良かったと思うよ!?」
「何をどう間違えたらそうなるのよ…後それを三回とか、地味に面倒じゃない……」
予想外過ぎるラムちゃんの返しに、わたしは思わずノリ突っ込み。でも、当のラムちゃんは「あれ?そうだっけ?」って感じの反応をしていて…ラムちゃんは時々、お姉ちゃんばりのぶっ飛んだボケをするよね…本人にそのつもりはないっていうか、単なる勘違いだと思うけど…。
「…あ。ネプギアちゃん、いつものお顔になった」
「へ?あ…ふふっ、今のがちょっとリラックスになったのかも。ありがとね、ラムちゃん」
「え?…うーん…よくわかんないけど、わたしすごい、ってことよね?」
「いやまぁ、ある意味ね」
ある意味でそうだ、とユニちゃんが言えば、ラムちゃんはご満悦そうに胸を張る。そんなラムちゃんを見て、ロムちゃんは柔らかく微笑む。そして、そんなやり取りをしている内に、もっと心の中に余裕っていうか、いつもの調子が戻ってきて…よーし。
「ユニちゃんとロムちゃんもありがと。今日はわたし、この後も色々やる事があるからもう行かなきゃいけないんだけど、大博覧会のプレオープンをまだまだ楽しんでいってね?」
「もっちろん!行ってみたいところ、まだたくさんあるもんね!」
「うん。…でも、ネプギアちゃんといっしょに回ってみたかったな…」
「ロムちゃん…うん。それじゃあ、本番の時は皆と一緒に回る時間も作れるように調整してみるね。わたしも、皆と回ってみたいもん」
「ほんと?じゃあ、楽しみにしてる…ね(にこにこ)」
「事情は知らないけど…その様子だと、何かあったんでしょ?プラネテューヌの威信の掛かったイベントな訳だし、下手に手伝うとは言えないけど…頑張りなさい。気張らない程度に、ね」
心の調子は良くなったけど、状況は変わってないし、のんびりしている訳にもいかない。だからわたしはプレオープンに来てくれた三人と別れて、次の目的地へと向かう。本当に、本番の時は皆と一緒に回りたいな、と心の中で思いながら。
*
予定の都合でどうしても動けない、起こった問題の対応に回れないお姉ちゃんの代わりに、皆で動いた。いーすんさんは勿論、コンパさんやアイエフさんも問題の把握と確認に奔走してくれて、どこかから聞き付けた…っていうより何か起きてるなと察してくれたらしい、今日見に来てくれていたパーティーの皆さんもそれぞれに協力をしてくれて、何とか持ち堪えていった。
ただでも、わたしやいーすんさんも元々やらなきゃいけない事、外せない予定が色々とあって、皆さんは当然女神でも教祖でもない訳だから、どうしても対応出来ない、対応しようのない事がある。これまでは何とか、そういう事態を回避出来ていたし、そこまでの事もほぼ起こらずに済んでいたけど……最後の最後で、それは起こった。
「そんな…幾らお姉ちゃんでも、それは……」
「えぇ、流石に無理でしょうね。距離といい時間といい、それこそねぷ子が二人いるとかじゃなきゃ出来ない話よ」
「この件、お姉ちゃんはなんて言ってるんですか…?」
「それが、何とかするって言ってから通信を切っちゃって、それからずっと繋がらないんです…」
お二人から伝えられたのは、間に合いそうもない対談の予定。『お姉ちゃんが』対談をする以上、お姉ちゃん以外の人じゃ誰であっても「あれ?」ってなるし、わたしもわたしの予定と一部重なっているから、仮にわたしが代役で出ても、途中で退席する事になってしまう。加えて対談の相手となる人もその後に予定があるみたいだから、時間を後にずらす事も出来ない。だからどうしたって、中止にするか、開始を遅らせた上で、残りの時間でやるだけやるかの二択にしかならない。
しかも、今はお姉ちゃんに連絡が繋がらない。多分、焦ってインカムの電源を落としちゃってたり、携帯端末の着信にも気付かないとか、そういう事なんだと思う。…不味い、凄く不味い。
「ど、どうしましょう…連絡が繋がらない以上、こっちで判断するしかないですけど、お姉ちゃんは自分で何とかするつもりみたいですし…そうだ、運転手さんと連絡が付けば……」
「それはさっきしたです。でも、もうねぷねぷは降りた後で…多分今はブースで活動中ですから、そこのブースに連絡を入れてもすぐには伝えられないと思うです…」
「もう、何やってるのよねぷ子は…。…ネプギア、貴女もまだやる事があるでしょ?この件は私達で何とか…出来るかどうかは分からないけど、出来る限りの事をするから、ネプギアは自分の予定に戻って頂戴」
「大丈夫ですよ、ギアちゃん。わたしもあいちゃんも、ねぷねぷの考えてる事は何となく分かるですから、ねぷねぷならこうしそう…って考えながら、頑張ってみるです」
「アイエフさん、コンパさん…」
この事はこっちに任せて。そんな風に、お二人は言う。コンパさんもアイエフさんも断言はしてなくて…っていうか、何とかならないかもしれない、って雰囲気も若干ある言い方ではあったけど…それでも、頼もしさがあった。ずっとお世話になっているお二人は、やっぱり頼もしい人だった。
それもあって、わたしは頷く。一応今は時間に余裕があるけど、お二人がそう言ってくれるなら、わたしは少しだけ休憩して、それから早めに移動をしておこうと思う。
(…けど、何とかも何も、早めに中止か時間短縮の決定をして、それを必要な相手に伝えて、何とかお姉ちゃんにもそれを伝える位しかないよね…歯痒いな、こういうのって……)
これまでは『問題』を『解決』する為の対応をしてきた。何とか支障が出ないようにしてきた。でも、これは違う。これは解決じゃなくて、『処理』。どうにもならないけど、何もしない訳にはいかないから、必要な事をするっていう対応。仕方ない事だけど…やっぱり、歯痒い。何とかしたかったし、何とかなってほしかった。
だけど本当に、無理なものは無理だし、仕方ないものは仕方ない。どうしたって開始時間には間に合わない以上、それこそアイエフさんが言った通り、お姉ちゃんが二人いるとかでもない限りは……
「……二人…?」
その瞬間、ふっ…とある思考がわたしの頭の中に浮かぶ。足が止まり、浮かんだ思考が段々と噛み砕かれていく。
今、わたしの頭に浮かんだのは、かなりの無茶。相当な無茶振り。でも、もしかしたら…ひょっとしたら……。
「あの、コンパさん、アイエフさん。変な事を言うみたいですが……」
くるりと踵を返し、わたしはお二人の所に戻る。何かあった?って顔をしているお二人に、わたしはわたしの思い付きを、大きな賭けの提案をする。
思い付いたのは、無茶だし賭け。仮に実現出来たとしても、上手くいくかどうかは分からないプラン。無難さとはかけ離れた案だって事は、わたし自身自覚していて…お二人は予想通り、目を丸くする。
「いや、それは…幾ら何でも、流石に無理があるんじゃ……」
「…けど、ギアちゃんのひょっとしたら…って気持ちは、ちょっと分かるです…」
困惑した様子の強いアイエフさんと、けど…と理解も示してくれるコンパさん。自分の案を推したくはあるけど、わたしとしても不安のある案だから、もしお二人が反対なら止めておこう…それ位にわたしは考えていた。そしてわたしがお二人の次の言葉を待つ中、お二人は少しの間黙って、顔を見合わせ…それから言う。
「…ネプギア、この案はもう少し考えさせて頂戴。でも、結論が出てから動き出すんじゃきっと間に合わなくなる。だから…先に動いていてもらってもいい?」
「はい!任せて下さい!」
「ギアちゃん、お願いしますですっ」
それがベストだ、と思ったわたしは即移動開始。まずは電話を掛け、場所を訊き、合流する為に動く。
わたしの案を実現させるには、三つの課題がある。一つ目は、比較的低いハードルかもしれないけど…同時にここをクリアしなきゃ、話にならない。
「来たよ、ネプギア!急用って事で走ってきたよ!ダッシュで、それはもう全力のダッシュで!…ぜぇ、ぜぇ…はぁ、はぁ……」
「あ、う、うん…まずはありがとうございます、大きいお姉ちゃん……」
びしぃ!…といい顔でサムズアップをした後、途端に大きいお姉ちゃんの息が上がる。多分…というか間違いなく、大きいお姉ちゃんは見栄を張る為に我慢をしていたんだと思う。…あはは…。
「…ふぅ。それで、何をすればいいのかな?」
「それは…って、あれ?ここは普通、今がどういう状況で、なんで呼ばれたのか訊くのが先では?」
「訊かなくても、一刻を争う事態だって事は通話の段階で伝わってきてたからね。…急いでるんでしょ?今は話を進めよ?」
ふっ、と真剣な顔に変わった大きいお姉ちゃんの言葉に、わたしは頷く。大きいお姉ちゃんの言う通りだし、大きいお姉ちゃん自身がそう言ってくれるなら、躊躇う理由はない。
真っ直ぐに、大きいお姉ちゃんへと向き直る。大きいお姉ちゃんもじっとわたしを見つめる中、わたしは言い…頭を、下げる。
「大きいお姉ちゃん、お願いがあります!お姉ちゃんのフリをして、対談に出て下さい!」
「よーし任され…って…ち、ちっちゃいわたしのフリ?…それって、人の姿のちっちゃいわたし…じゃ、ないよね…?」
「違います!女神の姿のお姉ちゃん、パープルハートとしてのお姉ちゃんです!」
「や、やっぱりかぁ…いやいやいやいや無理だよ!?さ、流石にそれは無理だって!」
無理無理ムリムリ!と思い切り首を横に振る大きいお姉ちゃん。でもそれは当然の反応。分かっていた事。だからわたしはもう一度頭を下げて、更に頼む。
「そこをどうか、お願いします!これが出来るのは、大きいお姉ちゃんだけで…大きいお姉ちゃんだけが頼りなんです!」
「うっ…ネプギアにそんな事言われたら、断り辛い…というか断れない…。…と、取り敢えず頭上げて?ね?」
「無茶は承知です。上手くいかなくても、責任は全部わたしが取ります。だから……」
「す、ストップストップ!ネプギアの気持ちはもう分かったから、十分伝わってるから!…けど、無理だって…気持ちの問題とかじゃなくて、明らかにわたしと女神化したちっちゃいわたしじゃ、顔が違うでしょ?」
ちょっとズルい、とは思いながらも、頼み倒す形でわたしは押す。すると大きいお姉ちゃんは、気持ちは分かったと言って…その上で、やりたくないんじゃなくて出来ないんだと返してくる。
それも、当然の反応。そもそも人の姿と女神の姿じゃ容姿が違うんだから、そこを『同一人物だから』だけで乗り切ろうとするのは無理な話。だからこの話には、まだ続きがある。
「分かっています。だから、変装するんです」
「変装?変装するにしたって、大勢の人の前じゃ流石に……」
「大丈夫です。普通なら無理でも、それを可能にする…事が出来るかもしれない人に、当てがあります」
断言は出来ない。でも、可能性はある。そう伝えると、大きいお姉ちゃんは黙り込む。実際には十秒位だけど、それよりも長い間、じっくりゆっくり考えるように口元へ手を当てて…その手が口から離れた時、大きいお姉ちゃんの瞳に浮かんでいたのは決心の色。
「…分かった。ネプギアがこういう時にその場凌ぎの出任せを言ったりする子じゃないのは知ってるし、ちっちゃいわたしのフリ…それも女神の姿のフリだなんて、それこそわたしにしか出来ない役目だろうしね。何より…可愛いネプギアの頼みを断れるわたしじゃないよっ!」
「大きいお姉ちゃん…ありがとうございますっ!」
「ふふん、どう致しまして!…で、どうするの?何とかしてくれそうな人を呼ぶの?」
「そうです。えと、ちょっと待っててもらえますか?」
にっこりと笑って引き受けてくれた大きいお姉ちゃんに、わたしはもう一度深く頭を下げる。それから大きいお姉ちゃんの問いに答えて、ある人物へと連絡を掛ける。
一つ目の課題はクリア。でも難しいのはここから。特に二つ目が最難関で…だけどこの無茶を実現出来るのは、あの人しかいない。
もし出てくれれば、久し振りに話す事になる。どんな反応をされるか分からないし、即断られる可能性もあるから、少し不安だし緊張もする。ただでも、この人ならって思いも、きっとって気持ちも確かにあって……そして何度目かのコールの末、その人はわたしからの電話に出る。
「…メイクアップアーティストのリ…こほん、Rです。本日はどのようなご用件で?」
「突然すみません、Rさん。…マネージャーさんじゃなくて、直接出てくれるなんて、少し驚きです」
「偶々です、偶々。…どのようなご用件で?」
改めて訊いてくる声。繰り返された同じ言葉から感じるのは、わたしの意図を探ろうとする、訝しむ感情。でもその反応は大きいお姉ちゃんの時と同じで意外でも何でもなかったから、今度はすぐに問いへ答える。
「単刀直入に言います。今からある人をお姉ちゃん…パープルハートに変装させてほしいんです」
「……はァ?…じゃなくて、はい…?」
「今どこにいますか?教えて頂ければ、すぐに向かいます。それか集合場所を決めても……」
「ちょ、ちょっと待っ…て下さい。まだわたしは受けるとは一言も……」
「報酬は通常の倍…いえ、三倍でも四倍でも出します!前払いでも構いません!宜しくお願いします!」
「さ、三倍でも四倍でも…!?…それなら…ってうっせェ!儲け話にすぐ乗ろうとするなも何も、まだ話の途中じゃねェか!てか、電話中に話しかけてくんな!」
畳み掛けるわたしの言葉にRさんの反応が変わっ…たと思いきや、多分マネージャーさんに横から声を掛けられたのか、素の反応で言い返す。…がっつり聞こえてる、って言うのは言わない方が良さそうかな……。
「こ、こほん!女神…様なら、わたし以外でも頼める相手は沢山いるのでは?」
「わたしが知っている中で、一番上手なのは…一番凄いのは、貴女なんです。そして今回頼みたいのは、さっきも言った通り、メイクじゃなくて変装です。それが出来るのは、頼めるのは…貴女だけなんです」
「……っ…」
「…ネプギアさっき、わたしにも似たような感じの事言ってたよね…頼る内容が違うんだから、似たような事言ったって問題はないだろうけど…うーん、なんかちょっと複雑……」
通話の向こう側から聞こえたのは、息を飲んだような音。わたしはRさんからの返答を待ち…その最中、大きいお姉ちゃんから何とも言えない視線を向けられた。…わたしも何とも言えなかった。
「…本気で、そう思っていますか?」
「はいっ!」
「嘘じゃないと、断言出来ますか?」
「出来ますっ!」
「…即答しやがって、ちょっと位躊躇えっての…ったく…報酬は五倍!経費もそちら持ち!それでよろしくて?」
「勿論ですっ!」
呆れたような、むしろ逆に困ったような…そんな声の後、RさんはRさん側から条件を出してくる。それにわたしはすぐさま答え、彼女への依頼が成立する。
そうと決まれば次は合流。Rさんは近くにあるというカフェを上げてくれて、わたしはすぐに行くと伝える。通話を切り、大きいお姉ちゃんの方を向く。
「話が付いたみたいだね。早速行くの?」
「行きますっ!だからちょっと、失礼しますっ!」
「わっ!?行くってもしや、これで…!?」
もう自分でも言い切ったか言い切らないか分からない位のタイミングで大きいお姉ちゃんの首元と脚に手を回して、お姫様抱っこをするわたし。そのままわたしが飛び立つと、流石に大きいお姉ちゃんも目を白黒させて、それから落ちないようにとわたしの首に腕を回す。
「くぅっ、妹にお姫様抱っこされて空を飛ぶ…なんかこう、響くものがあるね!後、さっきからネプギアの勢いすっごいね!」
「あはは、ちょっと自覚はあります…!」
「テンション高いネプギアも素敵だと思うなっ!よぉし…メイクをしに行きますよ〜!ネプギアのお姫様抱っこ、サイコー!」
「大きいお姉ちゃんはいつも通りですね」
「急に素のテンションにならないで…!?滑ったみたいでお姉ちゃん悲しくなっちゃうよ…!?」
自分的には少し落ち着こうとしただけ、タイミングが重なってしまっただけなんだけど、まるで冷めた反応を返したみたいになってしまった。…ごめんなさい、大きいお姉ちゃん。
…ともかく、大きいお姉ちゃんを連れて待ち合わせ地点へとわたしは飛ぶ。今はドレス姿で髪飾りなんかも付けているから、全速力を出す訳にはいかないけど、焦る事なく出せるギリギリの速度で向かっていく。
「あそこ、だったよね…よっ、と…!」
目的地のカフェ上空まで来たわたしは、裏手に降りる。女神の姿のまま街を歩くのは人目を集める事になっちゃうけど、今だけはそれも気にしない。そしてカフェの正面に出たところで、わたしは彼女と…Rさんと対面する。
「すみません、お待たせしました!」
「い、いえ、対して待ってな…い……?」
「へぇ、この人がメイクさん?宜しくね!」
待っていない…と言い掛けて、Rさんの顔は怪訝なものへと変わる。その視線は隣の大きいお姉ちゃんの方へと向けられていて…数秒後、視線はわたしの方へ返ってくる。変装ってか、普通に本人じゃねェか!…という、唖然とした視線が。
「Rさん、説明は…ちょっとややこしいし長くなるので、省略させて下さい。後、時間がないのでメイクは五分でお願いします!五分で、出来る限りそれっぽく!」
「いや、これを省略は無理が…ってはァ!?五分!?」
「お願いしますっ!わたしも手伝いますから!」
「おまっ、契約の後に追加の条件出してくるとかタチ悪過ぎんだろ!それが女神のする事かよ!」
「おおぅ…メイクさん、滅茶苦茶素が出てるよー…?」
我ながら酷いとは思うけど、Rさんの言う通りではあるけど、もう時間がないんだから仕方ない。
大きいお姉ちゃん、Rさんの了承に続く、三つ目の課題…それが、実際に実現可能かどうか。特に時間は、今は一秒一秒が大切で…このやり取りも、出来る限り減らしたい。だから、とにかくお願いする他ない。
「今はどうしても、それしか時間が取れないんです!先に言っておくべきだったのに伝えていなかった事はお詫びします!その上で、どうかお願いしますRさん!」
「わたしからもお願い、藤本さん!」
「藤本は付かねェよ!あんな格好してねェだろうが!…あ…ごほんっ!五分で出来ると思っ……」
「思ってますっ!たった五分でも、変装するのが大きいお姉ちゃんで、メイクをするのが貴女なら…きっといけるって、信じてます!」
「…あー……くそッ!もう演技なんて知るか!ほんっとテメェは変わらねェな!そういうとこ、アタイは嫌いだ!今も前も大嫌いだからな!……完成度に直結しない下準備は全部すっ飛ばす。後で肌荒れしても知らねェからな?」
言うが早いか大きいお姉ちゃんを裏手に引っ張っていき、メイク道具を取り出すRさん。鏡を渡されたわたしは片手でそれを持ち、更に他の道具も可能な限り持って化粧台の代わりを努める。
運が良かった、としか言えない。もしRさんが他国にいたら、或いはプラネテューヌでももっと遠い場所にいたら時間の問題はどうにもならなかったし、Rさんの技術は知っていても、五分でのメイクなんて見た事も頼んだ事もなかったから、本当に出来るかどうかは分からなかった。わたしの案は、徹頭徹尾綱渡りで、運が味方してくれなきゃ絶対に無理だった。…でも、きっと…不満だらけだろうけど、それでもRさんがやろうと思ってくれたのは、偶々だとか、運が良かったとか、そういう事じゃない…わたしはそう、信じている。彼女が凄いんだって事と同じように、心から思っている。
「な、なんて早い手捌き…なのに丁寧で細かい…こ、これ凄いよネプギア…!」
「ほんとに凄い…あの、他にも何か手伝う事は……」
「集中してェから黙ってろ、後テメェは動くな。修正してる時間もねェんだからよ」
『は、はい…』
これまでとは違う、プロの…職人の目になったRさんの言葉に、わたしも大きいお姉ちゃんも気圧される。一流の人だからこそ出せる雰囲気、鬼気迫る表情で大きいお姉ちゃんにメイクを施していく。
凄まじい集中力と消耗なのか、Rさんの額には大粒の汗が浮かぶ。けれどそれを拭う事もせず、気付いてすらいない様子でメイクを続け、大きいお姉ちゃんに化粧を、変装を施していき……そして、五分の時間が経つ。
「こ、ここまでくれば…Rさん!もう充分で──」
「よくねェ!まだだ、まだ後ここを…もう少し、もう少しだけ影を作って…後は、こいつで……ッ!」
既にもう、大きいお姉ちゃんの姿は変わっていた。わたしの期待に違わぬ姿にまで変貌していた。でも、Rさんはまだだと言う。まだだと言って、尚もメイクをし続け……出来た、と呟く。呟くと共に、ばたりと倒れる。
「リっ…Rさん!?だ、大丈夫ですか!?」
「はぁ…はぁ…五分でだなんて、無茶な要求するからだろうが…テメェのせいだぞ、テメェの……」
「ご、ごめんなさい…立てますか?無理そうなら、わたしに掴まって……」
「馬鹿言うな…時間がねェんだろ?だったら、さっさと行きやがれ…アタイがこんな無茶してまでメイクを仕上げてやったのに、間に合いませんでした〜なんて事になったら…絶対許さねェからな…?」
「……っ…ありがとうございます、Rさん…!」
そうだ、その通りだ。わたしが今するべきなのは、わたしの無茶振りに応えてくれたRさんの努力を無駄にしない事だ。だからわたしは素早く持ってきていた小切手を書き、渡して、また大きいお姉ちゃんを抱えて飛び立つ。五分前とはまるで違う…間違える程の姿となった、大きいお姉ちゃんと共に。
「…物陰から見させてもらっていたっちゅが、中々どうして清々しい顔っちゅね」
「うっせェ…アタイは自分の役目に誇りを持つタイプなんだよ…依頼主がどうとかは、関係ねェんだからな……!」
去り際に聞こえたのは、そんなやり取り。わたしは心の中でもう一度だけ感謝を告げて、加速する。
後はもう、大きいお姉ちゃんを送り届けるだけ。その後は…わたしに出来る事はない。後は、信じるしかない。…だからこそ、信じる。わたしに出来る最後の事に、全力を尽くす。
*
思いもしなかった、予想出来る訳もなかった代役。おっきいわたしによる、わたしに変装した上での代役。…結局、対談は間に合わなかった。自分が何とかすると言ったのに、もう一人のわたしが代役をしてくれていなければ、きっと酷い事になっていた。
辿り着いたわたしがおっきいわたしと交代したのは、対談の中盤、休憩時間におっきいわたしが舞台裏へと来たタイミング。そこでわたしはおっきいわたしと衣装を交換して、対談へと出た。代役の事はネプギアが事前に関係者へ伝えてくれていたおかげで、スムーズに入れ替わる事が出来た。…感謝しかない。おっきいわたしにも、ネプギアにも、皆にも。
「おっつかれー、ちっちゃいわたし!…あ、いや、今は別に小さくないし、女神のわたしって言った方がいいかな?」
対談を終え、舞台裏に戻ったわたしをおっきいわたしが迎えてくれる。どういう訳か、おっきいわたしはわたしに扮したままで…これがまた、本当によく似ている。近くで見れば違うと分かる(ネプギア談。わたしは女神の姿の自分の顔をよく見る機会なんてないから、そこは何とも言えないわ)んだけど、逆に言えばある程度離れれば、本当にわたしそっくりに見えてしまう。そして対談の観客は皆、少し離れた場所から見る形だから、代役だったと気付いた人はいなかった…と、思う。
勿論、対談なんだから見た目だけそっくりにしても意味がない。言動含めてわたしに寄せなければバレてしまう訳で…けれどその言動の面でも、わたしが見る限り違和感は抱かれていなかった。初めに「対談というより聞く事が中心になる」と言って多少口数が少なくても違和感を持たれないような状況を作っていたとはいえ、舞台に上がっている間のおっきいわたしは、声音も雰囲気もかなりのレベルでわたしを真似ていた。
「おっきいわたし、本当に助かったわ。貴女がいてくれなければ、どうなっていた事か…」
「いーのいーの、協力するって言ったでしょ?第一思い付いたのはネプギアだし…あ、因みにわたしどうだった?我ながら、完璧な演技だったでしょ?」
「えぇ、そうね。おっきいわたしの中のわたしのイメージがよく分かる演技だったわ」
「そ、それはどういう事…?え、ちょっと意味深な感じなんだけど、良かったよね…?アレな演技とかにはなってなかったよね…?」
何とかなった、という事実が心に多少ながら余裕をくれて、わたしは少し捻った返答をしてみる。…大丈夫よ、おっきいわたし。少なくとも、分かり易く変だったりしたところはないから。
「…こほん。ところで、なんでまだわたしの格好を…?」
「いやぁ、このメイク落とすの勿体無くてさー。もうちょっとこのままでいようかな?」
「助けてもらっておいて何を…っていう話ではあるけど、わたしとしては、ややこしい事になりかねないから控えてほしいというか…」
「あー、それはそっかぁ。うん、というかよく考えたら、この声で同じ姿をして代役して〜なんてやった挙句、この姿に固執したらとんでもない末路を迎える事になりそうだしね…うん、メイク落としてこよーっと」
「あ、う、うん…(おっきいわたし、そんな反応に困る発言を残して行かないで頂戴…)」
冗談なのかどうかも分からない事を言って走っていくおっきいわたし。残される形となったわたしは、何とも言えない気分になり…それと共に、冷静になる。
皆の協力や手配のおかげで、対談も何とかなった。けど、わたしが自分で何とかしようとして、結果助けられただけだったのも事実。理由はどうあれ、見に来てくれた人達を途中まで騙していて、今もそれを明かしていないのも事実。何より何とかなったのは、幸運以外の何物でもない。運だけでもどうにもならなくて、それを何とかしてくれたのは、他でもないネプギア達皆だけど…だとしても、『もう一人の自分』なんて普通はあり得ない存在が前提にある方法の時点で、幸運に助けられたと言わざるを得ない。
(…自信、なくなるわね……)
いつもなら、幸運を引き寄せたのも自分の力、いや幸運自体が自分の力、なんて前向きに捉えていたと思う。でも、今はそうは思えない。今に至るまで、沢山皆に助けられて、迷惑をかけているんだから、自分は幸運だ、この幸運も自分の力だ…なんて得意になって考えるのは、絶対に違う。
そしてその後は特に厄介な問題が起こる事もなく、大博覧会プレオープン一日目は終わった。それからは、まだ沢山問題が、問題に繋がり得るミスがあるかもしれない、と予定や各所との確認を先んじて行う事が出来たおかげで、問題を全て未然に防ぐ…事は出来なかったけど、ある程度は回避したり、先に対応策を用意したりする事が出来た。おかげで致命的な問題は最後まで起こらず……プレオープンは、終わる。
「皆さん、プレオープンの結果と反響、改善点を基に、正式なオープン時には更に煌めくような大博覧会をお見せしようと思います。ですから、是非またお越し下さい。そして、展示・出店してくれた皆さん、準備から今日に至るまで尽力して下さったスタッフの皆さん、正オープン時には更に誇れる成果を披露する事が出来るよう、これからも共に頑張りましょう!」
閉会式を締め括る、ネプギアの言葉。拍手と共にプレオープンは終わり、閉会式まで参加してくれた観客の人達も帰り始める。各ブースの撤去作業も順次始まり、当然わたし達も舞台裏に。
「皆、お疲れ様。本当に、本当に…よく頑張ってくれたわ」
「お疲れ様です、皆さん!まだプレオープンで、ここからまた頑張らなきゃですけど…皆さんとならきっと本番も素敵な大博覧会になるって、わたし信じてます!」
一度舞台裏に集まったスタッフの皆に、わたしとネプギアそれぞれで労いの言葉を掛ける。大博覧会の主役は各ブースや出店、そこで自分達の作るもの、作り上げてきたものを披露する人達だけど、『大博覧会』として成立させるには、沢山のスタッフが必要で、スタッフの皆は目立たない形で色々と頑張ってくれた。ここにいる皆も、いない皆も、全員で支えてくれたからこそ、今の成功がある。
…そう。本当に皆、頑張ってくれた。わたしのミスのせいで、想定外の仕事をしなきゃいけなくなった人もいるのに、やり切ってくれた。
「女神様方も、お疲れ様です。本日はどうぞお休み下さい」
「この成功は、間違いなく女神様の手腕あってのもの。女神様と共に事に当たれた事、我々一同心より感謝しています」
恭しく言葉を返す、スタッフの皆。その言葉を受け取って、わたしとネプギアは舞台裏を後にする。皆への負い目もあるし、片付けを片っ端から手伝いたい気持ちはあるけど、守護女神のわたしがその場にいて、片付けを手伝うんじゃ、逆に皆も気が休まらない。それ位はわたしも分かるし…わたしにも女神として、やらなきゃいけない後処理がある。
「…お姉ちゃんも、お疲れ様」
「ネプギア…ネプギアにも、本当に迷惑を掛けたわね。今回は、どれだけネプギアに助けられた事か…」
「そ、そんな事ないよお姉ちゃん!これまではわたしの方が沢山助けてもらってきたんだから!」
「本当にそう思ってる?見損なったよお姉ちゃん!…とか言ってもいいのよ…?」
「い、いやお姉ちゃんはクーデターを狙ってる訳じゃないし…というかそもそも、お姉ちゃんは体制の中心でしょ…」
歩きながら、ネプギアと言葉を交わす。わたしとしては、本当に見損なわれてもおかしくないと思っていたのに、ネプギアはすぐに「そんな事ない」と返してくれて…嬉しい反面、やっぱり情けない気持ちが募る。沢山のミスをして、それをネプギアや皆に助けられたのも情けないし、悪く言われた方が楽だった…そんな風に思ってしまうのも、本当に情けない。
それからわたし達は分かれて、それぞれ関係各所の人達に声掛けをした。したというか、各所の責任者が来てくれたから、言葉を交わし、自分の不手際の謝罪と、これからも力を貸してほしいという事を伝えた。どの人も、本番に対しては前向きな返答をくれて…少しだけ、ほっとした。
(先の事を考えなきゃいけない。自分を顧みなきゃいけない。…でも、まずは……)
その後は真っ先に片付けなきゃいけない事だけを済ませて、またわたしは会場に、まだ片付け途中の本部に戻る。
わたしはまだ、ちゃんと皆に謝っていない。その場で謝ったりもしたけど、ちゃんとした謝罪はしていない。だからまずは、そこから。そこを飛ばして先に進もうなんて…わたしの、ネプテューヌのやる事じゃない。
「皆、ちょっといいかしら?」
本部で皆に向けて声を掛ける。何事だ、と振り向き集まる皆を見て、わたしは謝る。前置きなんてなく、ストレートに、真摯に。
「わたしは今回、沢山のミスをしてしまったわ。その多くが、わたしの確認不足や経験不足…わたしのこれまでの怠慢と、それに気付かず突っ走ってしまった事が原因の、弁明しようのない落ち度によるものよ。そしてそのせいで、皆に負担を強いてしまった。だから…ごめんなさい」
皆が驚き目を丸くする中、頭を下げる。慌てて皆が頭を上げるよう言ってくるけど、深く、しっかりと、時間を掛けて頭を下げ続ける。
分かってる。これが皆に気を遣わせるだけだって。でも、謝罪はちゃんとしなきゃいけない。けじめを示さなきゃ、きっとわたしにも皆にも心のどこかにしこりが残る。
「パープルハート様…ありがとうございます、そこまで真剣に思って下さって……」
「いいんですよ、女神様。大規模なイベントはどうしたってどこかで何かしらミスが起こるもの。その上で何とかなった事を喜びましょう」
「皆…本当にありがとう、感謝するわ…」
謝罪を受け入れ、その上でポジティブな言葉を返してくれる皆に、今度は感謝の言葉でもう一度頭を下げる。勿論、全員が100%そう思っているとは限らないし、国の長にこんな事を言われたら、友達や同僚なんかに返すのと同じ反応なんか出来ない…って事もあると思うんだけど、それでもすぐにこういう言葉を出せる皆は凄いと、素直に思う。
ちょっとだけど、心が軽くなる。やっぱり謝って良かった、向き合って良かった。
「けど、本当に皆には迷惑をかけてしまったわ…皆もただでさえ忙しい筈なのに、やる事が増えて大変だったでしょう?」
「それは、その…確かに大変ではありましたが…万が一の事は、考えていましたから」
「万が一の事?」
「はい。先程ネプテューヌ様自身が仰った通り、今回は普段の行事よりもネプテューヌ様が動いている姿が多く見られたので、ひょっとしたらと思いまして……あ、も、勿論我等がネプテューヌ様の事ですから、成功そのものは微塵も疑ってはいませんでしたよ!?」
「あ……そ、そう。そうだったのね…いえ、万が一に備えておく事は大切よ。実際そうなった訳だし、何も間違ってはいないわ」
意外な返しを受けて、わたしは少しだけ動揺。でもそう考える人がいるのは別に変じゃないし、物事を慎重に考えるのは本当に大切。現に慎重さがなかった事も、わたしの失敗の要因なんだから。
本部で皆に謝ったわたしは、次の場所へと向かう。移動して、謝って、感謝を伝えてまた移動してを繰り返す。どの場所でも、どの人達も、迷惑をかけたわたしの事を許してくれて、これからも共に頑張ろうと言ってくれて、本当に嬉しかった。わたしは国民に恵まれている、心からそう思った。…でも……
「いえいえ、気にしないで下さい。今回はパープルハート様が主導という事でしたからね。いつもより多くの人に声を掛けておいたおかげで、何とかなりましたよ」
「多くの人に…それで何とかなったなら、わたしとしても助かったわ。皆にも、ありがとうって伝えておいてくれるかしら…?」
「そんな、女神様が気に病む事なんてありませんよ…!女神様は日々お忙しいお方。確認の行き届かない部分があっても仕方ないですし、何かあってもいいよう備えておくのが私達の務めです!これまでもそうしてきましたし、問題ありません!」
「これまでも…?……普段から、色々と気を張ってくれていたのね…感謝するわ…」
「やーねぇ、ネプテューヌ様の魅力は愛嬌とその美しさでしょ?他の国はまた違うかもしれないけど、ネプテューヌ様はそれが良いんだからいいのよ別に!むしろミスがあったって、それはそれで親しみ易くていいじゃない!」
「……っ…確かに、いつもそう言ってくれていたわね…これからも、宜しく頼むわ…」
「確かに、今回は大小様々なミスがあり慌てる事もありました。しかし女神様の普段の様子は、多少なりとも知っているのが我々ですし、ネプギア様やイストワール様達がいらっしゃったので、慌てる事はあれど不安はありませんでした。むしろ我々は、ネプテューヌ様がこのような行事を開き、私達プラネテューヌ国民の力を信次元全体に発信しようと思って下さっただけで、心から感謝している位です」
「……そう、ね…うん、ネプギアもいーすんもいるものね…皆も周りが困らないようであれば、急を要する訳じゃない処理は後にして出来るだけ早く帰るようにね…?」
「…………」
皆、皆わたしを悪くは言わなかった。多くのミスをして、沢山迷惑をかけたのに、そんなわたしを肯定してくれた。あぁ、でも…だけど、これは──。
(この声…ネプギア達も、もう戻っていたんだ……)
プラネタワーで職員の皆と話して、女神化を解いてわたしは上層階へと登った。廊下を進んで、リビングに当たる部屋に入ろうとして…ほんの少し扉を開けたところで、声が聞こえてきた。この時わたしは、そのまま開けようとはしなくて…微かに開いた扉の隙間から、皆のやり取りが聞こえてくる。
「皆さんも、本当にお疲れ様でした。慣れない事をする以上、何かしらミスが起こる可能性はあると思ってはいましたが…わたしもまだまだ、リスク管理が甘かったようです。…ただまあ、なんというか…色々起こりつつも何とかなってしまう辺りが、本当にネプテューヌさんらしいというか……( ̄▽ ̄;)」
「良くはないけど、ねぷ子って感じよね。けどほんと、そういう事に備えて自由に動ける時間を確保しておいて正解だったわ。イストワールだって、その点での余裕は可能な限り作っていた訳でしょ?」
「何とかなったのは、ねぷねぷの為なら…って皆さん思ってくれたからです。ねぷねぷが、そう思わせてくれる女神様だから、ですよね。本番もまだあるですし、ねぷねぷがねぷねぷらしくやれるよう、わたし達ももっと頑張るですっ」
「やっぱり皆さん、お姉ちゃんの事をよく分かってるんですね…ほんと、凄いなぁ……」
疲労と、でもだからこその充実感を抱いているような、四人の会話。それが聞こえた、聞こえてしまったわたしは…その場から、離れる。離れて一人、自分の部屋に戻る。
本当に、皆わたしの事を分かってる。流石は付き合いの長いこんぱとあいちゃんだし、流石は代々プラネテューヌの教祖をしている…わたしが記憶喪失になる前からの付き合いでもあるいーすんだと思う。本当に心強いし、本当に助けられてるし、皆がいてくれればきっと大博覧会の本番も成功する。…だけど、だけど…嗚呼……
(──そ、っか…皆わたしが、ちゃんと出来るだなんて思ってなかったんだ…わたしは皆に、パープルハートは皆に…信頼、されてなかったんだ……)
誰もいない、自分の部屋。電気の付いていない、暗いわたしの部屋。ここにいるのは、わたしだけ。
誰も、悪くない。皆はこれまでの事と、自分達の知っている『ネプテューヌ』から、当たり前の予想と判断をしただけ。…悪いのは、わたし。そう思わせたのも、わたし。…当然、だよね…だって、そうじゃん。わたしはこれまで、ずっとそうだったんだから。ちゃんとやるべき事をしないで、逃げて、誤魔化して、それで自分がやるべき事を周りに押し付けて、経験を積まずに楽をしてきたんだから。
そうだよ。これは全部わたしの自業自得。ミスと同じで、なるべくしてなった、ただそれだけの事。…それだけの事、だけど……。
「……やっぱり、辛いなぁ…辛いよ、こんなの…」
全部全部自分が悪い。当たり前の事で、わたしは皆に負担と迷惑をかけていて、それでも皆わたしから離れないでいてくれてるんだから、皆には感謝しかない。分かってる、分かってるけど……それでも、辛かった。凄く凄く、辛かった。
わたしだって、そんな自分が悪かったって、やっと分かったから。あの時知る事が、思い知る事が出来たから。だから、これからは頑張ろうって、頑張らなきゃって思って、頑張ってきたのに…なのにその結果で、こんな事を知るなんて…そんなの……
「──でも、自分で選んだ道でしょう?これが、それが…自分で目を背けてきた、『ネプテューヌ』の結果でしょう?」
「……──え…?」
今回のパロディ解説
・「〜〜PERFECT HUMAN〜〜」
RADIO FISHによる楽曲及びアルバムの事。掌にPERFECT HUMANとか、一文字一文字を小さく書かないといけないし、三回も書くのはシンプルに面倒だしで、ある意味やってる内に緊張を忘れそうですね。
・「〜〜お願い、藤本さん!」、「〜〜あんな格好してねェ〜〜」
お笑い芸人、R藤本こと藤本博史さんの事。あんな格好はしていません。恐らく普通の格好をしています。そしてRが誰なのかは…OEのエピローグを読んで下さった方なら分かると思います。
・「い、いやお姉ちゃんはクーデターを狙って〜〜」
ロックマンシリーズに登場するキャラの一人、カーネルの事。直前のネプテューヌの台詞は、同じくロックマンシリーズのゼロの台詞の一つのパロディです。