超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

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第十一話 読めぬ策謀

 何かある、あるかもしれないという推測の下、目標とした教会。その教会を、何か違うモンスターの妨害を凌ぎながら占領するという作戦は、ギリギリながら成功した。

 飛び込む形で突入した、教会の中。正面の扉から入った場所にあったのは、案の定聖堂で…見る限り、その作りも私の知ってる教会と大体同じ。…少なくとも、この聖堂に関しては。

 

「ふー、ぅ…どうやら、モンスターは入ってこないようだな…」

「うん…入らないのか、入れないのか、入れないにしても単に扉が硬いからなのか、何か制限を課されているのかは分からないけど…一先ずは安心してよさそうだね…」

 

 突入してから少しの間は、誰も何も言わなかった。呼吸を整える事と、細かいながらも色々と受けてしまった傷の応急手当てをする事に専念していて…ある程度整ってきたところで、乙戦ちゃんが恐らく全員の思っている事を口にした。

 実のところ、占領後のモンスターについては考えていなかった。教会に近付かせないようにする…謂わば障害として現れる存在なら、中に入ってしまえばもう襲ってこないんじゃ?とは思っていたけど、仮に教会内に入ってくるとしても、屋内であればずっと迎撃し易いだろうとも何となく想像してはいたけど、ちゃんと皆で話し合ってはいなかったから、もし入ってこられたらここまでの疲労も含めてかなり苦労する事になっていたのは間違いない。

 

「…さて、と。一先ず私達の目的、教会の占領には成功した。でも…これにて作戦は完了、とはまだ言えないわね」

「えぇ。占領するだけで何か起これば、と思っていたけど、今のところそんな様子はないわね。…尤も、私達の把握出来ていないどこかで、何かしら起こっている可能性もなくはないけど」

 

 すっと背筋を伸ばし、私達を見回すようにして東ザナちゃんが言う。その通りだと、スカネクも同意の言葉を返す。

 そう。目的は達成出来たけど、私達が目指しているものはその先にある。そして今のところ、この占領によって最終目標に…この街からの脱出にどの程度近付いたのかは全くの不明。

 

「それに関してだが、この場…教会の占領に関しては、わたし達が拠点としている建物の占領とは少し違うと考えておいてほしい」

『…と、いうと?』

「いや、訊き返されると実は、『具体的にこれがこうで…』という返しは出来ないというか、感覚的な話というか……」

「あぁ…でも、感覚的には確かに『何か違う』のよね?」

 

 少し困った顔で頬を掻きつつ乙戦ちゃんが言えば、「でも」と東ザナちゃんが理解を示す。占領を行った当人が言うのなら、気に留めておいた方がいい…そう思って、私やスカネクも東ザナに頷く。

 

「となると、やっぱり次に必要なのは内部の探索、かな?」

「そうなるわね。このまま戻るんじゃ、占領した意味がないわ」

「それにこのまま出たんじゃ、またモンスターの猛攻を受けるものね。離脱だけならずっと楽でしょうけど、再突入の苦労を考えれば、ここで何か掴んでおきたいところだわ」

 

 聖堂だけ見ても、分かる事なんて殆どない。スカネクの言う通り、ここだけ見て戻るんじゃ、何の為に占領したんだって話になる。

 

「イリゼ、案内を頼める?…勿論、分かる範囲で」

「構わないよ。私はもう動けるけど、東ザナちゃんと乙戦ちゃんはどう?」

「私も大丈夫よ」

「皆が問題ないなら、早速動くとしよう。わたしとしても、感じた『違い』が何なのか、早く確かめたいところだ」

 

 頷き合い、私達は行動開始。まずは聖堂を四人でしっかりと調べる事にする。

 けど、結論から言うと聖堂には特に何もなかった。少なくともおかしなもの、気になるもの、違和感のあるものは見つからず、私達は奥に進む。

 

「ふーむ…片っ端から調べていく?それとも、大きい部屋とか主要な区画を優先して探す?」

「今のところでは、何とも言えないな…小部屋や階段下に脱出の糸口があるとは思えないが、ないという確証もまたないというもの…」

「結局は虱潰しに探す他なさそうね。…ところで、さっき私が案内を頼めるか訊いた訳だけど…当然ここは、貴女の国の教会とは違うんでしょう?それなのに分かるの?」

「うん。分かるっていうか、思った通りっていうか…基本的に、信次元の教会はどこも似たような作りなんだよ。何せ元々は、一つの国が四つの国に分かれた訳だからね」

 

 プラネテューヌ、ラステイション、リーンボックス、ルウィー…長い歴史を積み重ねてきた四つの国だけど、その起源は全てがオデッセフィア。そこから四つに分かれた、起源を同じくする国な訳だから。女神統治の体制や、教会が似ていても何らおかしな事はない。そして私の国、神生オデッセフィアに至ってはもう言うまでもないし、だから分かるんだと歩きながらスカネクからの問いに返した。

 歩きながら、会話しながらも廊下を探索する。迷っていても仕方ないという事で、取り敢えずは主要な場所を探しつつ教会を案内する…という事に決定。これなら教会の作りも分かってもらえるし、そうすれば案内後は分かれて探索する事も出来るから、無難な選択ではあると思う。

 

「ここも特になし、か…となると次は食堂かな…」

「本当に色々な部屋があるのね。思ってたイメージと全然違って驚いたわ。…まぁ、こっちもこっちで特殊なイメージをしていた面はあるけど…」

「特殊なイメージ?」

「こっちの話よ。…因みに、教会独自の戦力があったりは……」

「するよ?取り敢えず警備だって戦力といえば戦力だし、そもそも教会は政府機関だし(というか、ここに来るまで一緒だった枢機部隊(カーディナル)が正にそうだし)」

 

 ひょっとして、その戦力がここで現れて敵対される可能性を危惧してるのかな?と思いながら私が答えると、東ザナちゃんは何とも言えない感情の表情を浮かべる。

 枢機部隊(カーディナル)の事を心の内に留めたのは、その存在そのものが国家機密だから…という訳じゃないけど、気軽に色々話せる部隊という訳でもないから。皆もその辺りの理解はあるようで、東ザナちゃんも二人もこれについて追求してくる事はなかった。

 

「にしても…本当に今のところ、何もないわね。乙戦、さっき言っていた『違い』絡みで何か気付いた事はある?」

「残念ながら、さっぱりだ。まだ途中とはいえ、こうも成果なしだと当てが外れたのかと不安になるな…」

 

 私が厨房を、東ザナちゃんが厨房からも行ける食品庫を調べる中、食堂を調べるスカネクと乙戦ちゃんのやり取りが聞こえてくる。成果が上がらない、何も見つからないというのは不安を招き寄せるもので、突入と占領までが大変だったからこそ、余計に「何かしらあってほしい」と思ってしまう。

…因みに、食品庫を調べた東ザナちゃん曰く、「食品庫の食材も全く匂いがしなかった」との事。

 

(うーん…ひょっとして、街の中央付近でもある教会になら何かあるかも、ここと街の外だけは近付くとモンスターが現れるって事は何かしらある筈、っていう思い込みを利用した…というより、それ等の事自体がそう思わせる為のブラフ…?)

 

 ふと、私の思考に浮かび上がるのは、これまでとは違う視点からの可能性。この教会は私達が考えていたような施設じゃなく、真の目的…例えば、本当に脱出に繋がる『何か』や、それに関わる存在に私達が気付かないよう、別のものに注力するよう用意した『何かありそうな場所』に過ぎなかったんじゃないか、と思ってしまう。実際そういう「真の目的に気付かれない為、不都合な行動をされない為の分かり易い目標」にある空間でまんまと騙された事もあるから、あり得なくはない…と思ってしまう。…あの時は、分かり易い目標に誘導するナビゲーター的存在もいたから、余計騙されてしまった訳だけど…今回は、果たしてどうなのか。今思い付いた可能性の通りなのか、それとも……。

 

「イリゼ、ここから先は少し違うようだけど、何か理由があるの?」

「え?あ…うん。ここから先は、居住エリア…仕事の場じゃなくて、女神の『家』としての場所だからね」

 

 食堂も奇妙な点はなし、と結論付けた私達はまた移動をし…思考に耽っていた私は、スカネクの声で意識を現実に引き戻される。これじゃ手掛かりがあっても見逃しかねないな、とさっきまでの自分の状態を反省し、それと共に居住エリアの事を説明する。

 

「家…外観からして、この先のエリアが占める面積もかなりの広さがありそうだが…まさか、その全てがそうなのか?」

「まあね。あ、でもお客さん用の部屋とか、私の国の場合はそもそも使われていない部屋とかもそこそこあるから、実際に普段から使っている範囲っていうと、もっと限定的だよ?」

「確かに、広い家というのは往々にしてその広さを持て余してしまうものだ。無論、そこに住む人数にも左右はされるだろうが…」

「…それは、実体験かしら?」

 

 興味本位っぽい声音で訊く東ザナちゃんに、乙戦ちゃんは肩を竦めて見せる。その意味は…まあ、ご想像にお任せする、ってところかな。

 一先ず、仕事の場…政府機関としての教会の、ざっくりとした案内は終わった。結果は完全な空振りだったし、一部屋一部屋調べていくよりも先に、ここからは居住エリアの案内に入るのが自然というもの。

 

「……あ、そうだ。もしモンスターが何とかなるなら、だけど、ここを新しい拠点にするのはどうかな?無味無臭とはいえ食糧は十分にあるし、生活もし易いだろうし、地理的にも利点は大きいと思うんだけど……」

「確かにそれは一理あるな。…まあ、その『モンスターが何とかなるなら』が障害としてあまりにも大きい訳だが……」

「というか…イリゼさん、既にここで手掛かりを掴む事を諦めてない?」

「へっ?あ…ち、違うよ!?もうこれは駄目だなと思って、今後も暫くこの街で生活する前提で考えてるとかそういう事ではないよ!?」

 

 もしや…といった感じで訊いてくる東ザナちゃんの言葉にはっとした私は、そういう訳ではないと慌てて否定。けど、東ザナちゃんはそうなんだろうなと思っていたらしく、私の返しを受けると少し愉快そうに苦笑していた。というか、スカネクと乙戦ちゃんも苦笑いをして私を見ていた。うぅ、いけない…このままだと、三人にも私の扱いを理解されてしまう…って、何よ私の扱いって!私の扱い方が確立してるとか、私は認めない!認めないんだからねっ!

 

「こほんっ!ここをどうするかは、探索を終えてからでも遅くないよね、うん。って訳でこっちも案内していくけど、まずはここが……」

 

 強めに咳払いをして、勢いそのままに自分で結論付けて、私は切り替える。何か更に苦笑されてた気もするけど、気にしない事にする。

 居住エリアの案内も、主だったところからやっていく。案内は、滞る事なく順調に進む。…でも、滞る事がないっていうのは、引っ掛かりがない…つまり空振り続きという訳で、あんまり喜ばしい流れではない。

 

「…なんというか…広さは国の長が住む場所として納得だし、インテリア類は質の高いものが多いけど……それ以外は、結構普通ね」

「普通にゲームや雑誌もあったわね。…いや、あったというか…かなり多かったし、さっきのリビング?…には整理されてない状態で置かれてたし……」

「庶民的、と言ったところか。無論、良い意味でな」

 

 意外だ、と言う風に話す三人。整理整頓がされていない事に関しては、単純にここに住む住人の性格の問題だとは思うけど、確かにまあ、女神は必要以上の豪華さを求めたりはしない。趣味で求める事はあっても、それを普通だとは考えていない。何故かといえば、世間との感覚、価値観が乖離しない為…ではあるんだけど、多分現代の皆は生まれた時点でそういう環境になっている、要は豪華じゃないのが『普通』だっただろうから、多分感覚的には庶民的…だとも思ってないんじゃないかと思う。実際、私もそうだし。

 

「…うん?…そういえば……」

「どうかしたの?」

「いや…今思ったんだけど、そもそもここは誰の教会で、ここには人だけじゃなく女神もいないのかな…って」

 

 軽く小首を傾げたスカネクに、私は新たに抱いた疑問を話す。ここが私の知っている、信次元の教会と同様のものなら女神がいる…又はいた筈だし、いないならいないで、人含めてどういう事なんだろう…と思う。まあ、ここまでに把握出来た事から考えれば、ここは街の形をしているだけで本物の街じゃないだろうし、作り物の街なら人や女神がいなくてもおかしくはない。

 ただ、そうだとしても気になる事はある。例えば今さっきゲームの話が出てきたけど、もしこの街が実際に社会として機能させる事なんか考えてない作り物なら、ゲームの…それも生活感のある状態での用意なんて、しなくてもいい筈。本当に、この街は一体何の目的の為に作られたのか、よく分からない。それが一切見えてこない。

 

(正直、ほんとに『全部夢でした』ってなっても納得出来ちゃうレベルだよ…皆との出会いも夢だった、ってなるのは嫌だけど)

 

 また私は、思考に耽ってしまいそうになる。なまじ知識や似たような経験をしているからこそ、余計…ではないにしても、目の前の事以外をごちゃごちゃと考えてしまう。

 でも、それじゃ良くないって事も分かってる。だから私は軽く頭を振る事で意識を切り替え、残り少しとなった居住エリアの案内を……

 

「……──っ!?」

「……?急に広い部屋に出たわね……イリゼさん?」

 

 立ち止まった私に、怪訝な顔をした東ザナちゃんが問い掛けてくる。スカネクや乙戦ちゃんも、周辺の変化に「うん?」とした顔をしつつ、どういう事か尋ねるように私を見てくる。

 三人の疑問は当然の事。ここまでは普通の廊下だったのに、いきなりホールみたいな部屋に出たってなれば、誰だって「あれ?いきなり住宅デザイナー変わった?」とか思ったりする。…でも、違う。皆の疑問はご尤もだけど…それは、そういう事じゃない。

 

「……知らない…」

『え?』

「こんな場所、ない筈だよ…少なくとも、私は知らない。こんな、いきなり大部屋だなんて……」

 

 

 

 

「──よう。随分と慎重な探索だったな」

『……!』

 

 突如聞こえた、自分達の誰でもない声に私達ははっとする。声のした方向、大部屋の奥へと目を凝らし…そして、目にする。そこにいた、余裕たっぷりの笑みを浮かべた小さな少女を。

 

「お前は…いや、というか……」

「……小さい、わね…」

「妖精の様な外見ね…親切な妖精には、まるで見えないけど」

 

 彼女を見た三人は、驚き…それから困惑。それは恐らく、目にした存在が想像の斜め上を行く外見だったからで…けれど私だけは違う。その少女の事を知っている私は、彼女の名前を口にする。

 

「…クロワール……」

「クロワール?…それが、あの少女?…の名前?」

「そうだよ、東ザナちゃん。次元の扉を開く力を持つ、暫く前に信次元で…いや、幾つもの次元や世界を巻き込んだ大騒動を引き起こした、黒幕の一人…」

「…つまり、今回の事も彼女が仕組んだ…って事かしら」

 

 突然大部屋となった時点で警戒心は強まっていたけど、彼女を…クロワールを視認した事で、私の警戒と緊張は最大限まで引き上がった。最終的に和解に至ったくろめ、女神としては事実上の終わりを迎えたレイ、そもそも最初から敵ではなかった大きいネプテューヌ…三者三様ながら、結局信次元と神次元に今もいる(レイだけは特殊な状態らしいけど)三人と違って、もう一人の私から逃れ行方知れずとなっていたクロワールがこうして現れたんだから、警戒しない筈がない。

 そのクロワールに関する情報を聞き、スカネクが鋭い視線をクロワールへと向ける。するとクロワールは戯けた様子で軽く両手を挙げた後、「少し違ぇよ」と言葉を返す。

 

「残念だが俺は、関係はしてるが一から十まで全部仕組んだ訳じゃねぇ。前の時もそうだったが、今回も中々に予想してなかった事が起きてるしな」

「そう。まあ、そこは大して問題じゃないわ。貴女が関わっているという事が分かれば十分、次元の扉を開く力があるという事なら十二分よ」

「任意に次元の扉…別の世界と行き来する力を行使出来るのなら、この街から脱出する事は勿論、わたし達の元居た世界に帰る事も出来る筈、という事か。試す価値はあるな」

「おっと、これはまた血気盛んな面子だな。だがまあ待てって、そうやって脅すと非力な俺は次元の扉開いてさっさと逃げちまうかもしれねぇぞ?そうなったらお前等も困るだろ?」

「…イリゼさん、その次元の扉っていうのは瞬時に開けるものなの?それに、非力っていうのは本当?」

「ううん、私の知る限りじゃ瞬時に開くなんて事は出来ない筈。ただでも、クロワールの能力について私は知り尽くしてる訳じゃないし…あくまで予想にはなるけど、それなり以上の戦闘能力を備えていてもおかしくはないと思う」

 

 剣呑な雰囲気を纏うスカネクに続いて、乙戦ちゃんも臨戦体勢に移行する。対するクロワールは揺さ振りを掛けるような言葉を口にし…視線も顔の向きも変えないまま、小声で東ザナちゃんが問い掛けてくる。私もそれに、極力表情を動かさないまま答えを返す。

 多分、全くの準備無しからなら、すぐには開けないと思う。けど、既に開く準備を整えているかもしれないし、前の戦いの時からクロワールの能力が向上している可能性もゼロじゃない。そして、戦闘能力に関しては本当に未知数だけど…イストワールさんが実は結構な実力を有している以上、色んな意味でイストワールさんに近しいクロワールを侮る事なんて出来はしない。

 

「…クロワール、貴女の目的は何?今度は何を企んでるの?」

「今度はも何も、いつだって俺の目的は一つだ。面白そうならそいつを楽しむ、面白くなりそうならそうなるように手を貸す…シンプルで分かり易いだろう?」

「…愉快犯、というやつか。これはまた厄介だな」

「そうね。こういう輩は大概信条がないものだし、信条がない人間なんて…いや、人かどうか微妙だけど…それが善人であれ悪人であれ、大きな何かを為す事なんてない。でももし、信条に不釣り合いな程強大な力を持っているのだとすれば……」

「碌な事にならない、ってか?俺からすりゃ、『楽しい』を何より大事にするのは俺にとって譲れない信条なんだがな。つかそもそも、ご大層な信条を持ってりゃいいのか?信条があろうがなかろうが、碌でもないかどうかはやる内容とその結果次第だろ、なぁ?」

 

 落ち着いた、でも冷ややかな視線を向ける東ザナちゃんに対し、クロワールは言い返す。言い返し、意見を求めるように私を見る。

 多分、クロワールはこう言いたいんだ。自分を縛り付ける程にまで強い、譲れない…譲れなくなってしまった信条を持っていたくろめと、私の知る限り本当に信条のない…身勝手な悪意を振りかざすばかりだったレイは、共に災厄を巻き起こした。それを知ってるお前は、信条の有無が大切だと思うか?…と。

…どっちも、理解出来る。思いだけでも、力だけでも…というと剣が舞い降りそうだし、力なき正義は無力、正義なき力は暴力…というと某特区の企業の専務コンビになっちゃう…という冗談はさておき、信条と力はどっちもなくちゃいけない。特に力だけがある場合、本当に碌な事にならないのがオチ。けど、両方あれば良い方に進むかと言えば、そんな事はない。負の信条で以って力を振るえば、信条なく力を振るうのと同じ…或いはそれ以上に碌でもない事に繋がるだろうし、正の信条でも力の使い方を誤ればやっぱり碌でもない事は起きるし、何なら負の信条でも、最終的に利他的な結果が生まれたのなら、周りからは『碌でもない』という評価は受けないと思う。内容と結果次第だ、っていうのも本当にその通りで……でも一つだけ、断言出来る事がある。

 

「貴女の楽しみたい、って気持ちを否定するつもりはない。趣味は自由だし、経緯はどうあれ貴女が敵対ばかりじゃなく、私達に利のある事をしてくれた面もあるのは紛れもない事実だよ。…でも、その趣味で、企みで以って信次元を、私の国を、国民や友達を害するのであれば、容赦はしない。信条も、力も、関係ない」

「そうかい、まぁそりゃそうだろうな。…さて、一応感謝しておくぜ?お前等にその気はないだろうが、馬鹿正直に待ってくれた事によ」

『……っ!』

 

 一歩前に出て、私は私の意思を示す。ここでもし降参して投降するなら、素直に街の外への道を開いてくれるのなら、私も危害は加えない。取り引きをしようというのなら、内容によっては応じもする。だけど、皆に害を及ぼさんとするなら、許容はしない。そして三人がここに飛ばされた事にも関わっているなら、その面においてもただで放免なんてしない。

 私は自らの意思を示した。それを受けたクロワールは、分かっていたとばかりに肩を竦める。私の方も、その反応は想定内で…けれどそこから、クロワールは意地の悪い笑みを浮かべる。にやりと口角を釣り上げた直後、私達とクロワールの間の空間が歪み…ある存在が、姿を現す。

 

(これは……ッ!)

 

 手乗りサイズなクロワールは勿論、私達よりも遥かに大きい巨躯。鎧、或いはロボットの外装を思わせる、無機質な外見。私はその存在を知っている。その存在と、幾度も戦った事がある。

 

「ダーク、メガミ…!」

「お前等が仕掛けてこなかったおかげで、落ち着いて準備を整えられたぜ。折角ここまで来たんだから、ダークメガミと遊んでいけよ」

 

 これまで戦った中では…というか、主に戦ってきたタイプと比べると、かなり小さい。広いとはいえ屋内であるこの大部屋に合うサイズで、携行武器も見当たらない。…けど、だとしても、これがダークメガミである事は間違いない。

 

「これは、兵器…なのか……?」

「今の反応…これの事も、イリゼは知っているのよね?」

「…皆、心して臨んで。これは、ここまで戦ってきたモンスターとは格が違う。最悪ここから撤退する事も頭に入れておいて」

「…そのようね。イリゼの顔を見れば分かるわ」

 

 スカネクからの言葉に頷き、最大限の警戒をするよう伝える。顔を見れば分かる、と言った東ザナちゃんの声もまた、緊張感が籠っていて…「仮に強くても、所詮は一体。数では勝っている」みたいな思考をしている人は誰もいない事に、私は内心安堵した。

 ただ、油断しなければ大丈夫という事でもない。ダークメガミは、油断しなければ…というレベルじゃないんだから。

 

「まあそんな硬くなるなって。安心しろよ、こいつはくろめが作るやつを再現しただけの、謂わば劣化コピーだ。それにお前が知ってる通りのダークメガミだとしても、別段倒せない敵じゃねぇだろ?少なくとも、女神化をすればよ」

(…女神化を誘ってる?ひょっとして、クロワールは私が抱いた違和感についても把握してるって事?それとも、女神化に対して何か罠を張っている…?)

 

 自分は戦う気などないとばかりに、クロワールは本の上で胡座をかく。じっくり観戦させてもらおうという事なのか、それも含めて揺さ振りをかけてきているのか、今の段階じゃはっきりしない。

 何故劣化コピーだと自ら明かすのか。何か女神化させたい理由があるのか。考えてみれば、私はクロワール単独とこうして相対する事がなかった訳で…それも含めて、警戒は最大限にしなきゃいけない。そして私が神経を張り詰める中、クロワールは笑みを深め…ダークメガミが、動き出す。

 

『……ッ!』

 

 腕を動かした直後、掌底部から光線が放たれる。私達は、全員ほぼ同時に跳んで散開し…戦闘が始まる。

 打ち合わせた訳じゃないけど、スカネクと東ザナちゃんは左右に跳び、乙戦ちゃんは後ろに跳んだ。そして私は、光線を潜るように前へ跳び…そのまま一気に駆ける。初めからトップスピードで床を蹴るように走り、突っ込んでいく。

 

「皆!私の知る限り、今の砲撃は左右どっちの腕でも撃てるから気を付けて!見た目通りパワーも装甲の強度も凄まじいし、それに全身から…こういう攻撃を、して、くる…ッ!」

「おいおいネタバレするんじゃねーよ。驚きを奪うなんて酷いやつだな」

 

 走りながら、ダークメガミの能力を端的に伝える。その最中にダークメガミの各部からエネルギー刃が放たれ始め、上から打ち付けるようなその攻撃を、走りながら何とか躱していく。

 速度は落とさない。ある程度時間が空いたとはいえ、私達は連戦な以上、長期戦をする訳にはいかない。その思いの下、私は全速力で駆け抜け、ダークメガミに肉薄する。肉薄し……その股の間を、抜ける。

 

「うぉっ!?お前……!」

「覚悟ッ!」

 

 ダークメガミには目もくれず、クロワールの眼前に踏み込む。そのまま片手持ちのバスタードソードを横薙ぎで振り抜く。狙うのは本。脱出に直結しそうな相手である以上、覚悟と言ってもクロワール本人を両断するつもりはない。ただ、踏み込みも斬撃も紛れもなく本気で……けれど私の一撃は、後退によって避けられた。

 

「っとと、危ねぇ危ねぇ。女神化してなくて、助かった…ぜッ!」

「く……ッ!」

 

 躱された事に驚きながらも、私は更に踏み込んでもう一撃振るう…けど、それも回避されてしまう。ならば三撃目を…と私が動く前に、私にも私の前にもエネルギー刃が飛来し、私は対応を余儀なくされる。

 不意打ちが通用しなかった以上、ダークメガミを無視したままクロワールを狙うのは得策じゃない。その判断の下一度私はクロワールへの攻撃を諦め、下がりながらダークメガミの巨体を見上げる。

 

「ごめん、皆!いきなりダークメガミを任せるような事しちゃって!」

「問題ないわ、結果はともかく策としては理解出来るもの…!」

「それに残念ながら、抑えられてはいないものね…!」

 

 ステップを繰り返し、全方位へと放たれるエネルギー刃を交わしながら私が言えば、スカネクと東ザナちゃんが声を返してくれる。二人共ダークメガミの周りを走りながら隙を窺い、散発的に遠距離攻撃を仕掛ける…も、ダークメガミには殆ど効いていない。放っているのが強力な攻撃ではない事もあって、装甲に阻まれてしまっている。

 と、そこでダークメガミの頭部を射撃が叩く。当然それは乙戦ちゃんのもので、兵を従えた乙戦ちゃんはエネルギー刃の攻撃範囲外から集中的に頭部を撃つ。

 

「イリゼ!ダークメガミに弱点があるなら教えてほしい!」

「残念だけど、ここを狙えば…ってところは多分ない!関節を狙えばある程度はダメージを通せるけども、それを弱点って言うのは違うだろうしね…!」

 

 接近を掛け、エネルギー刃の迎撃と反撃の殴打に退けられながら私は答える。相対的に見れば関節は装甲で覆われている部位より弱いとはいえ、それは関節が弱いんじゃなく、装甲が硬いと言うべきところ。

 

「でも、弱点ではないけどエネルギー刃の射出部位は壊せるし、強度も装甲程のものじゃない!」

「なら、まずは弱体化をさせていくべきね…!東ザナ、イリゼ、注意を引き付けてもらってもいい?」

『任せて(頂戴)!』

 

 私と東ザナちゃんは同時に答え、突撃を掛ける。対照的にスカネクは下がり、念力で操る刃に射出部位を狙わせる。乙戦ちゃんも、射出部位を狙っていく。

 接近を掛け、また迎撃に晒される。今度は注意を引く事が目的だから、必要以上に踏み込む事はせずに、迎撃を斬り捌きながらキツくなったすぐ下がる。代わりに下がった後は、すぐにまた突撃を仕掛けて私の存在をダークメガミへ意識させ続ける。

 

「これで劣化コピーなんて、本来のタイプとは出来れば戦いたくないものね…!」

「そこは安心していいと思うよ。本来のタイプを行使していた人は、もう私の友達だから…!」

 

 東ザナちゃんとアイコンタクトを行い、タイミングを合わせる。その時々に合わせて、同時に仕掛けるか、片方が下がったタイミングで前に出る…交互に攻め込む形を取るかは選んでいるけど、同時に大きく下がる事だけはしない。そうせざるを得ない状況にならないよう、多少無理をしてでも迎撃の中で立ち回る。

 言葉とは裏腹に、東ザナちゃんに追い詰められた感じはない。私と違って初見の筈なのに、しっかり攻撃を見切って立ち回っている。これは、スカネクや乙戦ちゃんにも言えるんだろうけど…東ザナちゃんはまだ、これまで一度も力の全ては、奥の手は出してないんだと思う。今の東ザナちゃんから感じるのは、そういう「まだ手がある」時の余裕。

 でも、それを使う気配もない。使えないのか、使いたくはないのか…それは分からないけど、全力全開がまだあって、でもそれを使っていないのは私も同じ。出せないにしろ出さないにしろ、それを前提に戦術を組み上げ、勝利へ繋げるのが戦いってもの。

 

(劣化コピー…この発言は、どうやら間違いじゃないみたいだね。けど…女神化せずにダークメガミと戦うのは、やっぱり厳しい…!)

 

 攻撃範囲に自身を晒す事で注意を引く、その間に攻撃能力を削ってもらう。その作戦は間違ったものじゃなく、スカネクと乙戦ちゃんは少しずつエネルギー刃の射出部位を潰してくれているし、潰せば潰す程、私達は動き易くなって破壊のペースも上がっていく。でも、そこまで簡単な話じゃない。

 迎撃の物量、砲撃の威力、ダークメガミ自体の打撃能力や機動力。そのどれを取っても、私が知るダークメガミの中でも最低値。けどこれまで、私はダークメガミと戦う時、いつも女神化をしていた。言い換えるなら、私の方もこれまでよりかなり弱体化している訳で…女神の姿なら見切れる、捌き切れる攻撃も、今の状態じゃ処理し切れない。そういう攻撃に対しては、無駄があってもギリギリになる前に回避行動を取らなくちゃいけない。そして当然、疲労もある。全力で立ち回らなくちゃ注意も引けない以上、体力の消耗はすぐに動きに響いてくる。

 

「く、ぅぅ…ッ!」

「イリゼさん、大丈…ぐ……ッ!」

 

 掌底部からの光芒は躱した。続く迎撃も、避けて斬って凌いだ。でも、巨体を飛び上がらせての蹴りまでは避け切れず、脚の側面にバスタードソードを滑らせる形での防御をせざるを得なくなる。受け流す形を取り、受ける力は一部のみに留まったけど…それでも痺れるような衝撃が走る。更に風圧に煽られて、私はそこから大きくよろける。

 私とは反対側にいた東ザナちゃんは、体勢を崩した私を見て跳躍。高く跳び、エネルギー刃を斬り裂きながら逆に自身は冷気を纏った斬撃をダークメガミに放つ。それは恐らく、私が体勢を立て直す為の時間稼ぎで、ダークメガミはそれでダメージを受けた様子はなく、逆にエネルギー刃の集中砲火を返される。空中故にその場での防御と身体を捻っての回避位しか出来ない東ザナちゃんは、一気に押し込まれて跳ね飛ばされる。

 けど、その時にはもう私は体勢を立て直していた。斜めに落下していく東ザナちゃんの下へと私は走り、ここだと思ったタイミングで踏み切る。跳んで、東ザナちゃんの手首を掴み、身体を振ってその軌道を変える。そして私が手を離せば、体勢の変わった東ザナちゃんは床を滑るようにしながら着地。すぐに私達はその場を離れ、尚も続くエネルギー刃の攻撃を躱す。

 

「ごめんなさい、逆に助けられたわね…!」

「何言ってるの、東ザナちゃんが先に助けてくれたおかげだよ。けど……」

「えぇ、あんまり良い状況じゃないわ…!」

 

 何とか私も東ザナちゃんもダメージは最小限に抑えられた…けど、二人揃って退けられた。一方ダークメガミはまだまだ動ける状態で、乙戦ちゃんへと突っ込んでいく。乙戦ちゃんは後退しつつ射撃を掛け、スカネクも刀を脚に向けて飛ばすけども、ダークメガミは止まらない。

 

「乙戦ちゃん!」

「……っ…止まらないなら、止められないなら…ッ!」

 

 話を聞く限り、モンスターを始めとする人や兵器以外の存在との戦闘経験は、乙戦ちゃんが一番薄い。その乙戦ちゃんが狙われるのが、一番不味い。それが分かっているからこそ、私も東ザナちゃんも全力で走って、でも追い付けなくて……次の瞬間、乙戦ちゃんからの射撃が止まる。乙戦ちゃんは火器を降ろし、最初の私の様にダークメガミへ真正面から走っていく。

 突っ込んでくる巨体を相手に駆けていく訳だから、その危険性はさっきの私以上。乙戦ちゃんは兵を消し、単身突っ込む。狙っているのはきっと、すれ違う事での回避…最短距離での対処で、ギリギリながらも乙戦ちゃんは躱していく。躱して進む程、距離が近くなる程エネルギー刃の砲火は激しくなり…それでも乙戦ちゃんは、直撃を避けて肉薄をかける。

 

(これなら…いや、でも……ッ!)

 

 いける、抜けられる。一瞬私はそう思い…けど、気付く。ダークメガミの腕が、掌底部が、乙戦ちゃんを狙い撃つように動いている事に。

 前は跳躍し、回避行動をかける乙戦ちゃん。その跳躍先を撃とうとするダークメガミ。攻撃を防ぐべく、スカネクと東ザナちゃんの遠隔攻撃が飛び…けれど攻撃が届くより前に、砲撃が放たれ爆煙が巻き起こる。

 その光景に、その瞬間に、息が詰まる。心が引き絞られる。分かる、分かっている。幾らこれまでのより弱いとはいえ、ダークメガミの直撃を生身で受けたらどうなるかなんて。折角出会えた、まだ出会って少ししかしてない…それでも人となりを知った、ここまで同じ目的を抱いて戦ってきた仲間が、友達が、こんなにもすぐに、女神として何もする事が出来ずにだなんて、そんなの…そんなのッ……

 

「──今だッ!いけぇぇぇぇッ!」

『……──ッ!!』

 

 そう、私の中で喪失感と無力感、もしもを恐れて女神化していなかった自分への怒りが押し寄せようとしていた、その時だった。爆煙から、床の破片が弾け飛ぶ中から、何かが……ううん、乙戦ちゃんが飛び出し、声を上げたのは。それとほぼ同時に、これまで乙戦ちゃんが扱っていたのとは違う弾頭四発が別方向から突出し、ダークメガミの膝部へと直撃したのは。弾頭が爆ぜ、ダークメガミの巨体が大きくぐらついたのは。

 

「スカネク!東ザナちゃん!」

 

 理由は分からない。でも、乙戦ちゃんが無事だった事、今の弾頭を放ったのは乙戦ちゃんで間違いない事、ダークメガミが体勢を崩した事…その全てが事実。そして、巨体が崩れたチャンスを逃す私達じゃない。

 声を上げると共に、私が床を踏み切る。声を掛けるまでもなく、二人も動いていて…私達は、同時に強襲。左右に分かれた二人は可能な限りエネルギー刃の射出部位を潰していき、私はダークメガミに突進する。バスタードソードを両手で握り、フルスピードで駆け、弾頭が爆ぜたのとは逆側の膝裏部へと斬撃を叩き込む。走った勢いも乗せた、全体重での斬撃を振り抜き、立て直そうとしたダークメガミを逆に完全に横転させる。

 

「乙戦、貴女一体どうやって……」

「どこかで避け切れなくなる事は分かっていたからな。自分の力で避けられないなら、自分以外の力も使えば良い…そういう事だ」

 

 刃を操りながら、スカネクは乙戦ちゃんの側に。爆煙から出た直後、床を転がる形になっていた乙戦ちゃんは、若干表情を歪めながらも立ち上がり、火器を持ち上げる。それにはこれまでと違うパーツが付いていて…さっき放たれた弾頭の炸裂の事も考えると、それは恐らくグレネードランチャー。砲撃をされる瞬間、その寸前に乙戦ちゃんはグレネードを撃つ事により、反動で砲撃をギリギリ躱した…って事なんだと思う。そして四発放たれた事からして、撃つ瞬間に兵を再展開、けど兵は砲撃に晒されてやられてしまった…ってところ、かな。

 やられたと思った乙戦ちゃんは、実際にはその逆だった。完全に狙った通りの結果を実現していて…ひょっとすると、『逃げる』為に前に出たんじゃなく、初めから『倒す』為に突撃を仕掛けていたのかもしれない。その行動にも結果にも、私達全員が脱帽し…危険を冒し、ギリギリまでチャンスを待ち、狙い通りに大きな成果を挙げた乙戦ちゃんの頑張りに応えるべく、私達が掛けるのは一気呵成。

 

『はぁああああぁぁぁぁッ!』

 

 倒れた事により、床に面している射出部位は全て封じられた。その間に、立ち上がるまでに、私は全力で剣と刃を振るう。射出部位を片っ端から潰し、走行の隙間も狙える所は全て貫き、着実にダメージを与えていく。一つ一つは、大きなダメージにはなりはしない。けれど、積み重ねの力は、着実にダークメガミへと響いていく。

 両膝部分にダメージが入ったにも関わらず、ダークメガミは身体を起こし、その巨体を両脚でしっかりと支えて立つ。塞がっていた部位からの迎撃も復活する。…けど、その弾幕はこれまでよりも遥かに薄い。横転していた最中の撃破で…更にはその前までに潰していた分も相まる事で、最早初めとは比べ物にならない程に減衰している。

 

「これだけ攻撃をぶつけても、まだ威圧感が健在なのは流石に恐ろしいわね…」

「うん、だけど…いやだからこそ、このまま一気に決めるよッ!」

「…一気に?」

「出来る!私なら、私達なら!」

 

 遠隔攻撃を放ちつつ、大きなバックステップで後退する東ザナちゃんの言葉に、私は燃え上がる気持ちを込めて応える。本気?という視線を送ってくるスカネクにも、はっきりと言い切る形で返す。

 一瞬の沈黙。その間にも、次の行動の準備を整える私。そして砲撃とエネルギー刃の同時攻撃が放たれる中…三人の答えが、行動と共に示され飛ぶ。

 

「そうね。私達も消耗している…だからこそ、決められる時に決めるべきだわ…!」

「好機を逃す理由はない…えぇ、その通りね!」

「もう一踏ん張り…わたしも最後まで全力を尽くそう…!」

 

 私が突進からの跳躍を掛ければ、スカネクの刃と乙戦ちゃんの射撃がエネルギー刃の迎撃を迎撃し返してくれる。一太刀浴びせて下がれば、今度は東ザナちゃんが仕掛ける。それに合わせて私はスカネクちゃんの逆側に行き、ダークメガミの注意を分散させる。

 向こうはダメージが積み重なっている。一方で、私達の体力も残り少ない。さっきのように、ダークメガミの攻撃一つで流れが変わってしまう可能性も十分にある。だからこそ、全力を注ぐ。全力で、フルスロットルで、残る力の全てで走り、飛び、攻撃を叩き込む。

 

(更に、仕掛ける…ッ!)

 

 振り抜かれ、叩き付けられる拳に対し、私は後方宙返りで回避…すると共に床を蹴り、床を砕いた手の甲へと乗る。そこから腕部を駆け上がり、弾痕が残る頭部に一撃浴びせてダークメガミの後方に飛び降りる。

 そこで驚いたのは、スカネクと東ザナちゃんも後に続いていた事。二人も同じように駆け上がり、刀と剣を振り、頭部に三つの斬撃の痕を残して私達は次々と着地。私も人の事は言えないけど、二人共クールな雰囲気の割には中々に無茶をするんだから…!

…なんて思いつつ、この時の私はちょっぴり笑みを浮かべていた。着地した私達に対し、ダークメガミはすぐに振り向こうとし…その翼を、乙戦ちゃんの射撃が狙う。射撃でほんの僅かにだけど、振り向く速度は遅くなり、その隙に私達は反転する。そして……

 

「これで……」

「決めるッ!」

 

 飛び上がり、得物を投げ放つ東ザナちゃん。対するダークメガミが撃ち落とすべく砲撃を仕掛ける中、投げ放たれた剣は真っ直ぐダークメガミに…ではなく、砲撃を躱すようにダークメガミの足元へと突き刺さり、その場所を起点に氷塊が現れる。氷塊はダークメガミの両脚部にも及び、ダークメガミの移動を阻む。

 そこへ向けて私は突進。直前に東ザナちゃんから向けられた視線に頷き、最初の再現をするように再び脚の間へと踏み込み、東ザナちゃんの剣を左手で掴む。バスタードソードと両刃の片手剣による双剣の形を取り、真上へ跳ぶと共に回転斬り。二振りの剣で今一度両膝を斬り裂き、着地後一旦は飛び退く。

 

「後は、任せたッ!」

「任せなさい…ッ!」

 

 ダメージの蓄積があっても尚強大な、ダークメガミのパワー。そのパワーで行動を阻む氷塊を砕こうとし…その瞬間、二度目のグレネードが撃ち込まれる。乙戦ちゃんからの二発目のグレネードは胸部を撃ち、氷塊によって耐える姿勢を作る事が出来ない…更にはその氷塊を砕くべく動いていたタイミングでのグレネードの炸裂は、一発ながらもダークメガミの姿勢を再度崩させる。

 仰け反る形となったダークメガミ、グレネードによって装甲が破損したその胸部へと、鋭く飛ぶのはスカネクの刀。集中するように腕を突き出したスカネクの操作により、刀は深く突き刺さり…けれど止まる。直感的に、私は…いや、皆が感じる。これではまだ足りないと。大きなダメージではあるけど、足りていないと。

 そう、足りない。この一撃、今の刺突だけじゃ足りていない。だから──。

 

「沈ッ…めぇぇぇぇええええええッ!」

 

 二本の剣を持ったまま、仰け反ったダークメガミの巨体を駆け上がる。氷塊を踏み台に脚へと飛び乗り、膝、上腿、腰を経て胸部へと到達し、スカネクの刀の隣に東ザナちゃんの剣を突き刺す。更に自分の得物、バスタードソードを二本の間へと両手で突き刺し、押し込み…途中から私の得物は加わった、スカネクの念力の力と共に全身全霊を懸け……次の瞬間、放たれ続けていたエネルギー刃が止まる。ぴたり、とダークメガミの動きの全てが停止し…その直後、氷塊を砕きながら巨体は倒れる。

 

「はぁ、はぁ…はぁ、はぁッ……」

 

 背中から床へと倒れていく間も、私はバスタードソードの柄を掴み続けていた。倒れた瞬間の衝撃が全身に走る間も握り締め、一瞬たりとも気を抜かず……大部屋の中が静まり返る中、私と皆の上がった息の音だけが聞こえる中、私はバスタードソードを引き抜く。確信した勝利と共に、胸部から跳んで床へと立つ。

 

「まさか、女神化せずに倒しちまうとは…お前等三人も中々に強いとはいえ、これは少し意外だぜ」

 

 これまでのダークメガミと同じように、今撃破したダークメガミも消え始める。それを視界に捉えながら、私は振り向き…私の視線の先、結局本当に観戦しているだけだったクロワールは、本当に驚いたような声を発する。

 

「乙戦ちゃん、大丈夫?」

「身体の節々が痛い…が、見ての通り軽傷だ。…スカネクも大丈夫か?今はともかく、先の戦いの後は頭を押さえる様子もあったが、あれは……」

「ただの疲労よ、大した事じゃないわ」

「そっか、二人共大丈夫なら安心だよ。……あ…と、東ザナちゃんも大丈夫…?」

「いや、訊かれなかったからって疎外感を抱くとか、そういう事はないから大丈夫よ…?」

 

 クロワールの言葉を受けつつも、それには返さず、こちらに駆け寄ってきた三人と合流する。見る限り、確かに三人共重傷は負っていないし、動けない程の疲労状態でもない。ただ、前者はともかく疲労に関しては、軽んじる事も出来ない。喋れるし動けるとはいえ、まだ皆肩で息をしているし、それは私も同じ事。もう全員、万全のパフォーマンスには程遠い。

 

「おいおい、無視するんじゃねーよ。一応これでも、大したもんだって驚いてるんだぜ?」

「…無視した訳じゃないよ。それと…言ったよね?友達を害するなら、容赦はしないって」

「あぁ、言われたな。けどお前こそ、まさか俺が劣化版ダークメガミを倒されただけで降参するなんて思ったりはしてねぇよな?」

 

 睨め付けた私がバスタードソードを向ければ、クロワールは軽い調子で…でも含みのある言い方で、返してくる。

 全く以ってその通り。クロワールが簡単に降参するとは思えないし、出せる戦力が今のダークメガミのみなんていう根拠もない。他の戦力があるかもしれないし、二体目のダークメガミがあるかもしれない。準備の為の時間なら、それこそ私達が戦っている間に、たっぷりとあった筈。そして、その上で…これがハッタリだって可能性もある。少なくとも、まだ打てる手があるから…っていう余裕や自信を隠さずに出てきた言葉じゃなく、私達に揺さ振りを掛けようとしているのは…それだけは、間違いない。

 ならばどうするか。それは幸か不幸か、考える必要はない。モンスターの存在がある以上、疲労困憊状態で教会の外へ撤退するのは危険だし、そもそも一旦退却するだけでも、クロワールには間違いなく逃げられてしまう。別次元へ飛べるクロワールをここで逃したら、次のチャンスなんてもうないかもしれない。つまり…ハッタリだろうとそうでなかろうと、ここで捕縛に動く以外私達に選択肢はない。

 

「…まあ、ここまで辿り着いて、ダークメガミも倒したんだ。愉快って程じゃねぇが、退屈凌ぎ程度のもんは見せてもらったし、ここらで一つや二つお前等の疑問に答えてやっても……」

 

 何を思ったのか、クロワールは別の話を切り出す。でもそんな事はどうでも良い。何となくだけど、三人共私と同じ事を考えている気がする。なら本当に、迷う理由なんてない。

 私は床を蹴ろうとする。今度こそ、クロワールを捕らえんとする。まだ回復していない身体でも、一瞬なら全力を出せる…その判断をすると共に動く、動こうとする……正に、その時。

 

「……──おっと、漸く来たみたいだな」

 

 不意に開く、部屋の奥の扉。これまでは意識していなかった、この部屋よりさらに先にあるであろう場所に続く扉が、何の前触れもなく開かれ…クロワールは、にやりと口元の笑みを深めた。




今回のパロディ解説

・〜〜思いだけでも、力だけでも〜〜剣が舞い降りそう〜〜
ガンダムSEEDシリーズの主人公の一人、キラ・ヤマト及び、ヒロインの一人であるラクス・クラインの代名詞台詞の一つと、SEED第三十五話のサブタイトルのパロディ。どちらもSEEDの象徴的な存在ですね。

・〜〜力なき正義は無力〜〜専務コンビ〜〜
プレイタの傷に登場するキャラの一人(二人)、鷲峰ラン及び烏末ジンの事及び、彼等の代名詞的な台詞の事。これに似た台詞(格言)は他にもあるので、そちらをパロネタにするのも良かったかもしれません。

・「〜〜せっかくここまで来た〜〜遊んでいけよ」
バナナマンのせっかくグルメ‼︎における、お店紹介時のボード(に書かれている文章)のパロディ。…のつもりですが、とても分かり辛いですね。書いた私でも読み返したら見逃してしまうレベルです。
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