超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

17 / 68
第十二話 選択肢は

 予想外の存在、想定外の障害。クロワールとの相対と、ダークメガミとの戦闘。前者は当然驚きだったし、後者に至ってはここまでで最大の危機だった。何とかなったとはいえ、ギリギリだったのは間違いない。

 その危機、脅威を凌いで、私達はクロワールに迫った。その様子からして、クロワールの持つ能力からしても、彼女の存在が脱出の鍵になる事は間違いない。だからこそ、私達はクロワールを捕らえようとし……扉が、開かれた。

 

(増援?クロワールの態度はハッタリじゃなかったって事?いやでも、それにしては……)

 

 何が来たのか理解している様子のクロワールがゆっくりと振り向く中、私は扉の奥へと目を凝らす。

 この状況とクロワールの様子からして、無関係な第三者の可能性はほぼない。十中八九、クロワール側の存在。つまり、まだ脅威は去っていないという事。

 正直、凄く不味い。こっちはもう相当な消耗をしているから、モンスター数体ならともかく、それ以上となるとまともにやり合う事すらかなり厳しい。でも襲ってくるなら応戦するしかない。クロワールを捕らえるチャンスを逃す訳にはいかない。そんな思いを抱きながら私は目を凝らし……完全に開かれた扉から、()()は現れる。

 

「…ここまで、辿り着いていたのね」

「……──え…?」

 

 一体何が、誰か。神経を張り詰める中、彼女は現れ、声が届き……一瞬、私の思考は止まる。目の前の光景、認識した事象が理解出来ず、状況を忘れて硬直してしまう。

 

「…ネプ、テューヌ……?」

 

 ゆっくりと、こちらに歩いてくる一人の女性。歩みに合わせて揺れる二つ結びの三つ編みに、青い瞳。…間違いない。現れたのは、そこにいるのは…女神の姿の、ネプテューヌ。

 

「…イリゼ、彼女は?」

「わたしはパープルハート。プラネテューヌの守護女神よ」

「守護女神?それって……」

 

 東ザナちゃんからの当然の問いに、私が答えるよりも早く、ネプテューヌ自身が自分が一体誰なのかを言う。それに対し、乙戦ちゃんが反応する。スカネクや東ザナちゃんからの視線も私に向く。…ついでにクロワールから、「どうでも良いけどよ、その相手の名前だけを言う反応、これで三度目じゃね?」…と言われる。…それは、まぁ…うん。

…こほん。理由は分かる。多分三人共、こう言いたいんだろう。守護女神は確か、イリゼと同じ立場…国の長の肩書きだった筈、と。

 

「…ネプテューヌ、どうしてここに…」

「どうもこうも、貴女に頼んだのはわたしでしょう?」

「あ、そうか…っていや、そうじゃなくて!…ネプテューヌは、天界に飛ばされる事も、この街の存在も知っていたって事?それに、まさか……」

「えぇ。クロワールは、敵じゃないわ」

 

 まさか。その声に答える形で、ネプテューヌは言う。断言する。クロワールは、敵ではないと。

……訳が、分からない。そうなんだ、と納得出来る筈がない。だってクロワールは、嘗て行方を絡ました、くろめ達と共に災厄を起こした元凶の一人であり、今もこうして私達と敵対をしていたんだから。

 

「…パープルハート、と言ったわね。彼女の、クロワールの敵じゃない…それは、私達の邪魔をするという意味かしら?」

「落ち着いて頂戴。気が立つのも分かるけど、わたしは貴女達と矛を構える事を望まないわ。それに貴女達だって、よく分からないままに戦うのが望みではないでしょう?」

 

 剣呑な雰囲気でスカネクが視線を向ければ、ネプテューヌは態度を崩さず、構える事もなく言葉を返す。

 それは、その通りだ。少なくとも私は、このまま即ネプテューヌを敵だと判断し、戦闘に入る事を望まない。望まないし、疲労困憊のまま戦闘に入るのは望ましくない。…けど……。

 

「…君の言う事は尤もだ。わたし達とて、戦いたくてこの場にいる訳じゃない。だが、わたし達はつい先程まで、彼女と…彼女の呼び出した存在と一戦交えていたばかりだ。その相手に敵ではないという君の、君の言葉を、素直に信じろというのは無理のある話だ。そうだろう?」

「そうね、貴女の言う事もご尤もよ。…だから、彼女に訊きましょう?この場の全員の事を知っている、彼女に」

 

 乙戦ちゃんからの言葉を受け、ネプテューヌは頷く。頷き、私に視線を送ってくる。続けざまに、全員の視線が私に向かう。全員が、私の考えを、答えを待つ。

 まだ、少し混乱している。状況を飲み込めていないし…けれどだからこそ、私は私らしい答えを選ぶ。

 

「…話そう、ネプテューヌ。どうして、何があって、今に至るのか…まずは話す事、知る事。私達は、それが出来る筈なんだから」

 

 じっとネプテューヌの事を見つめ、私は言う。私が求めるのは、話す事。訊いて、聞く事。

 話す事を求めた私に、スカネク達は小さく頷いた。イリゼがそう言うのであれば…そんな風に頷いてくれた。そしてクロワールは何も言わず…ネプテューヌもまた、頷く。

 

「ありがとう、貴女ならそう言ってくれると思っていたわ」

「でしょ?…ただ、話すにしても、一つだけそのままにはしておけない事がある。ネプテューヌ、クロワールが敵じゃないって言うなら……」

「分かっているわ。クロワール」

「へいへい、俺は黙って見ていますよ。勿論邪魔したりもしないと約束するさ」

 

 更に一つ頷いたネプテューヌがクロワールに目をやると、クロワールはあっさりと了承。この口約束がどれ程信じられるかは怪しいけど…ここで信じなければ、そもそも話は始まらない。それは、私の望むところじゃない。

 互いに見つめ合い、歩み寄り、正面から向かい合う。数秒の間、私達は黙り込み…それからふぅ、と私は息を吐いて肩を竦める。

 

「なんか、変な感じだね。守護女神としての会議とかでもないのに、こんな緊張感を持って向かい合うなんてさ」

「…そうね。そうかもしれないわ」

「かも?…まあ、いいや。えぇと…話そうとは言ったけど、一体何から訊いたものかな…なんでクロワールが敵じゃないのかは勿論だけど、この街の事とか、モンスターの事とか、そもそもネプテューヌが何をどこまで把握してるのかも気になるし…というかネプテューヌ、女神化は──」

「その前に、一ついいかしら?最初にはっきりさせておきたい事があるの。それをはっきりさせた方が、話も早いと思うから」

「はっきりさせたい事?それって一体……」

 

 疑問は沢山ある。順序立てて訊きたいところだけど、その順序すらどうしたら良いか分からない。それに色々訳が分からないとはいえ、ネプテューヌが現れた事は大きな進展で、ほっとしたのもあってか私は気持ちが緩んでいて……そんな私を制するように、その前に、と真剣な眼差しでネプテューヌは言う。

 気付いていなかったけど、少し力を抜いた私とは逆に、ネプテューヌは現れた時からずっと雰囲気が変わっていない。あの時…神生オデッセフィアで話した時と同じように、変だとまでは言わないけど、何か気になる雰囲気のまま、私の前に立っている。そして私が訊き返す中、ネプテューヌは一歩私に近付き……

 

 

 

 

 

──刃を、向ける。右手に持った大太刀を、ネプテューヌの得物を…私の、首元に。

 

『……ッ!?』

「…へ?え……?」

 

 感情の読めない眼差しと、私の首元を捉えた刀身。さっきと同じように…いや、さっき以上に私の思考は止まり、目の前で起きている事が分からなくなる。

 本当に、本当に…訳が、分からない。だって、なんで、どうして……どうしてネプテューヌは、私に刀を向けているの…?

 

「──悪いわね。恨みはないし、申し訳ないとも思っているわ」

「申し、訳ない…?ネプテューヌ…?ちょ、ちょっと…ちょっと待ってよ…。分からない…何を言っているの?さっぱり……」

『イリゼッ!』

 

 淡々と話すネプテューヌの言葉。それすら今の私には理解が出来ない。何かの間違いなら、そう言ってほしい。むしろそうじゃなきゃ、そうでなきゃ、理解出来る筈がない。だってネプテューヌは、ネプテューヌは……。

──そんな中、三人から同時に発された言葉。私の名前を呼ぶ、強く打ち付けるような声。その声で、私は我に返る。我に返ったところで分からない、本当に全く分からなくて、頭は混乱したままで…それでも状態は、今私の置かれた状況だけは理解をする。どういう状況なのかも、何をしなきゃいけないのかも…漸くここで、意識が追い付く。

 

(そうだ、今は……ッ!)

 

 分からない事は多い。あまりにも多い。でも、分かる事もある。これが、今が、どんな理由でどんな経緯でこうなったのだとしても…ここで狼狽え動揺しているだけなのは、絶対に良くない。刃を突き付けられておいて女神がそれなんて、良い筈がない。

 我ながら、なんて情けない事か。ネプテューヌが敵対するのは、前の戦いの中でもあった事で、その時は一緒にいたネプギア達より先に状況を飲み込めていたのに、今度はこうも狼狽えてしまうなんて。あの時と今とは色々違うし、私以上に動揺するネプギア達の存在が私を冷静にさせた部分もあるんだろうけど本当に、情けない。

 でも今は、そういう思考が出来る位には、私の頭は働いている。今、しなきゃいけない事も分かっている。とにかく今は、この状況を……

 

「動かないで頂戴。変に動かれると、手元が狂うかもしれないわ」

 

 次の瞬間、更に近付けられる刃。首に触れるか触れないかという程にまで近付けられ、私は動きを…バスタードソードを振るおうとしていた腕を止められる。…やっはり、そう易々とは動かせてくれない。向こうは女神の姿、こっちは人の姿のまま…当たり前だけど、この時点で出し抜くなんて一筋縄でいく訳がない。

 

「手元が狂う?紙一重でしっかり止めておきながら、よく言うよ…」

「貴女だって、女神でしょう?女神に抵抗されたら、流石に無傷で完封とはいかないわ」

 

 流石に、これじゃ動けない。リスク云々を抜きにしても、この状況じゃ女神化しようとしてもその瞬間に斬り伏せられかねない。

 なら、どうする?上手く駆け引きをして、隙を作る?それともここは一度ネプテューヌに従う?…ネプテューヌは不意打ちで斬る事も出来た筈なのに、刃を向けるに留めた。という事は恐らく、私達を倒すんじゃなく、それとは別のところに目的がある筈。どちらにせよ分からない事だらけなんだから、少しでも分かっている事を増やす為にも、一旦は従う…というのも決して悪い選択肢じゃない。そうも考えられる。

 

「一応言うけど、動かないでっていうのは、貴女達に対してもよ。もし動くようなら……」

「分かっているわ。イリゼ、貴女は絶対に下手な反撃なんて考えないで。それは、貴女が…私達が取るべき行動じゃないわ」

「スカネク…」

 

 ちらり、と視線だけ動かして三人にも言うネプテューヌ。それを受け、スカネクは真剣な目で私を見やる。二人も頷く中、強い意思の籠った瞳で私を見つめる。

 そこで私は気付く。私に対しては、確かに倒す事が目的ではないのかもしれない。けど、三人に対してもそうだという保証はない。ネプテューヌが人を傷付けるなんて事は…と思うけども、そういう前提が崩れているのが今の状況。そう考えると、一旦は従う…っていうのも、得策とは限らない。

 

「…分かった。賢明な判断を、させてもらうよ」

「えぇ、そうしてくれると助かるわ」

 

 身体に込めていた力を抜き、バスタードソードの斬っ先を下げる。私からの、抵抗の意思を取り下げる。

 私は今さっきのやり取りで、安易に従う訳にもいかないと気付いた。でも、気付いたのはそれだけじゃない。もう一つ、ある事に…より重要な事に、あの瞬間気が付いた。

 抵抗しないという事を更に示すべく、手と指の力も抜く。掴む力がなくなった事で、バスタードソードは私の手から滑り落ちる。そして私の得物は落下し……

 

「……──っ!?」

 

……ぐるり、と斬っ先の向きが変わる。下からネプテューヌの方へと変わり、そこからネプテューヌへと突進する。

 至近距離からの、剣の突撃。それに寸前のところで反応したネプテューヌは、大きく飛び退き…私達は、四人同時に床を蹴る。

 

「助かったよスカネク…!」

「イリゼこそ、さっきの言葉と視線だけで察してくれて助かったわ…!」

「くっ…逃がしはしないわ…!」

 

 踵を返し、私達は廊下の方へと全力で走る。後ろから飛んできた…スカネクの念力で操られたバスタードソードを、私は走りながらキャッチする。

 何が起きたか理解した様子のネプテューヌは、当然私達を追いかけてくる。対して乙戦ちゃんは三人の兵を再展開し、振り向きざまに一斉掃射。ネプテューヌが回避の為に大きく飛べば、直後に私達は廊下に突入。続けて東ザナちゃんが氷塊を精製し、障害物とする事で廊下と大部屋の境を塞ぐ。

 

「勢いで離脱したはいいが、何か案は!?」

『ない(わね)…!』

「東ザナ、あの氷で何とかなる見込みは…!?」

「あの氷なら…そうね、連中の足止め位にはなるんじゃないかしら…!」

「分かってはいたが、八方塞がり寸前だな…!」

 

 とにかく走り、大部屋から離れていく。振り返る事なく、廊下を全力で疾走していく。

 一先ず離脱は出来た。けどネプテューヌを振り切れるとは思えないし、当然女神化なしで戦うのは厳し過ぎる。外まで逃げても十中八九またモンスターの猛攻を受けるだろうし、そのモンスターの存在があるせいで、遠くまで逃げた…と見せかけて教会内に隠れ潜むというのもあまり現実的とは思えない。本当に、最悪の状況からは脱したというだけで、好転には程遠い。良いと言えるのは、多少体力を回復出来たって事位で……今逃げた先、どこへ向かえば良いのか全く以って見えてこない。

 

「取り敢えず、どこに行くかだけは決めないと…!このまま走ってたら、正面の出入り口にまで到達するわよ…!」

「多分戦闘は避けられない…だったらせめて、迎え討ち易い場所に……」

 

 分かっている、と言うようにスカネクの言葉に頷く。正面出入り口に繋がる場所…聖堂は広いし長椅子が多いから、飛べるネプテューヌにとっては動き易いし、逆に私達にとってはかなり動き辛い場所。加えて外にも近い以上、きっとどうしたってモンスターの存在が頭の中から離れず、目の前の戦闘に集中出来なくなってしまう。

 ただ、それなら『私達にとって戦い易い場所』が教会にあるかと言われれば、正直ぱっとは思い付かない。広いとネプテューヌに有利だし、かといって狭過ぎると四人いるこっちは動き辛いし、程良い狭さで天井が低く、更にモンスターを気にしなくて良いような場所なんて……

 

「……──!皆、前ッ!」

 

 先頭を走りながら、最善の場所はどこか考えていた私。その私の思考を中断させたのは…今走っている廊下の先、十字路を曲がる形で現れ襲ってきたモンスターの存在。

 反射的に私は声を上げ、走る勢いのまま床を蹴る。全力疾走の勢いをそのまま乗せたドロップキックを正面のモンスターへ叩き込み、そこから反動で後方宙返りを掛け着地する。幸い今走っている廊下は狭く、更に先頭のモンスターは割と大きかったおかげで、先頭の一体に巻き込まれた後続のモンスターも将棋倒しに崩れていく。

 

「……っ、どうしてこんな所にモンスターが……」

「…まさか、別の出入り口からも入れるって事…?」

「いや、それ以前に…何故モンスターが教会内に入っているんだ…!」

 

 倒れたモンスターに追撃の遠隔攻撃を放った東ザナちゃんの、当然の疑問。同じように考えた私は、今モンスターが出てきた通路の先に非常口があった筈だと思い出し、そこから入ってきたんじゃないかと口にする。

 もしそうなら、正面の出入り口以外からも入れるのなら、更に行ける場所は限られてくる。そして乙戦ちゃんの言う通り、なんで最初は入ってこなかったモンスターが、今は教会内にいるんだって事も気になる。…あぁ、駄目だ。ただでさえ悪い状況なのに、更に悪くなるなんて……!

 

「はぁ、はぁ…あんまり良い案ではないけど、こうなるともう危険覚悟でモンスターを突っ切るのが一番良いのかもしれないね…」

「その最中に後ろから襲われたら…とは、思いたくないけどね…」

 

 引き返し、別の通路に入り、更に走り回り…最終的に辿り着いたのは、袋小路になっている場所。ここなら背後から襲われる危険はない。同時に逃げ場もない訳だけど、一応近くに窓があるから、最悪そこを突き破れば外には出られる。逆に、もしそこからモンスターが雪崩れ込んできたら……皆で力を合わせて、壁をぶち破るしかない。

 こうなるともう、本当に八方塞がり。そんな中でふと思い出すのは、ある迷宮で同じように女神化出来ず、圧倒的不利に立たされた末の事。あの時の経験を活かす事が出来れば…とも思ったけど、あの時はあの時で何とかしたというより、紆余曲折の末何とかなったという感じだったから、どうにもこうにも……

 

(…いや、待った。私達は今、勝てない前提で離脱を選んだ。すこぶる悪い状況から、少しでもマシな状態に…と思ってここまで来た。それは間違ってはいないと思うけど…もし、勝つ前提で考えるとしたら?受動的じゃなく、能動的に状況を変えるとしたら?)

 

 自分でも気付かない内に、私は消極的な思考をしていた。楽観的な思考よりは、悲観的な…というより、中々思うようにいかない場合も考えた見通しや作戦立案をするべきだけど、それ以上に大事なのは、思考に幅を持たせる事、より多くの想定や可能性を考慮し総合的に判断する事。たとえ最悪を想定した作戦だとしても、最初から悪い方にばかり見積もっているのだとしたら、それはやっぱり結論として甘い。それじゃ可能な限りの推測と考慮を行ったとはとても言えない。

 勝てない、無理だ、何とかして凌ぐしかない。…それもまた、『状況』に対する先入観。女神化無しで、しかも疲労した状態で、私の知る女神のネプテューヌと戦う…それだけに絞って考えれば、実際その通りだけど、逆に言えば私は、それしか考えていなかった。そしてそれに気付き、思考し直す事で、見えてくるものがある。

 

「…ねぇ、皆。皆からしても、ネプテューヌは強敵?…っていうのは、ほぼ刃を交えてないから断言は出来ないよね…。えぇと、あの時全員が離脱を選んだのは、その方が良さそうだって感じられたから?」

「うん?…あぁ、そうだな。動こうとしたイリゼへの反応速度や、至近距離から不意打ちで飛んできた剣への対処…あれだけ見ても、相当な手練れである事は間違いない。…の、だろう?」

「あ、うん。私の知るネプテューヌなら、勝つのは厳しいなんてものじゃないね。勿論、私は皆の力の全てを知ってる訳じゃないから、大雑把な推測ではあるけど……」

「全員かなり疲弊しているし、実際無策で、正面から戦うのは厳しいでしょうね。…ところで、『私の知る』なんて、妙に含みのある言い方ね」

「それは…その、やっぱりまだ信じられないっていうか、なんでこんな事をって気持ちがあって……」

 

 つい口を衝いて出た言葉に、訊いた東ザナちゃんだけでなく、乙戦ちゃんも気不味そうな表情を浮かべる。スカネクだけは特に変わらない様子で、やっぱりこの中じゃ一番クールな感じで…けれどその直後、「倒す事が出来れば、それを確かめる事も出来る筈よ。…倒せれば、ね」と、私に言葉を掛けてくれた。

 そんなスカネクに感謝の言葉を返し、私は一度頭の中から余計な思考を隅に退かす。その上で考える。今、皆に尋ねたのは、状況の再認識の為。このままじゃ勝てない、勝ち目は薄い…ここがひっくり返ってくれたら一番嬉しいけど、案の定それには期待出来ない。

 だから、考えるべきは勝利条件と選択肢。向こうの勝利条件はまあ不明で、こっちの勝利条件は…取り敢えず、この窮地を脱する事。もしもネプテューヌに勝てたなら、色々知れるだろうし確かめる事も出来るから、ベストな結果に繋がるだろうけど、それは決して必須じゃない。手段であって、目的ではない。

 

(とにかくピンチを切り抜けるのが第一。で、それに向けての選択肢は、戦うか、逃げるか、対話を図るかの三つ。けど矛を納めての対話はネプテューヌの方から蹴ってきたようなものだし、実質二択。そしてここまで考えていたのは、戦うという選択肢の内、少しでも私達に有利な場所でっていう感じの事で……他に戦う上で、取れる選択肢は何がある?逃げるなら、具体的にはどんな形になる?)

 

 自問自答するように、一つ一つ考え、思考を整理する。幸か不幸かこの行き止まりに到達した時点で、そこからやれる事は殆どない。だからこそ、思考に集中する事が出来る。

 戦う上で最低限必要なのは、ネプテューヌが有利にならない事。裏を返せば、こっちが不利にならない場所や状況が必要。その辺りはここまでも考えてきたし、教会内でそれを満たせる場所は多くない。というか、ゲハバーンとか、別次元でシェアエナジー配給が途絶えてるとかみたいな特殊なケースでない限り、そもそも「人には有利だけど女神には不利」なんて状況そのものがほぼほぼないんだから…改めて考えると、場所の問題じゃない。皆の実力を考慮すれば、むしろここは徹底的に隠れて、可能な限り回復を図って、明確に優っている『数』を活かした四対一で全力を尽くす方が、割と現実的かもしれない。

 そして、もう一つ。なりふり構わず女神化すれば、この状況を覆せる可能性はある。先のダークメガミとの戦闘、その際のクロワールの発言的に、女神化には罠を敷かれている可能性もあるけど…うん、そうだ。回復に務めて勝負に当たる案も含めて、選択肢には入れよう。入れた上で決断するんだ。

 

「彼女…クロワールは、漸く来たと言っていたわね。私達が戦っている間に連絡を取ったって事かしら。それとも、戦う前…それこそ私達が占領に動いていた時点で念の為呼んでおいたのかしら」

「クロワールはあの大部屋で待ち構えていたようだし、後者の方がありそうね。…そうだ、占領といえば…乙戦さん、結局上手く言葉に出来ない『何か』の正体は掴めた?」

「掴めた…と断言は出来ないが、一応の推測は出来た。恐らくだが、わたしはこの教会を占領し切れていない。より正確に言えば、『建物』としての教会は占領出来たが、『機能』や『性質』までは掌握出来ていない…といったところだ」

「…つまり、やっぱりここは私達の拠点の様な、ただの建物、単なる施設ではなかった訳ね」

「わたしの推測が正しければ、だがな」

 

 思考を進めつつ、三人のやり取りにも耳を傾ける。あまり大きな収穫ではないけど、乙戦ちゃんの言っていた事については一応の結論が出た。結果は私達に利のある内容ではないとはいえ、逆に凄く困る事でもないし、そういう事だったんだ…と頭に留めておく事にする。

 と、同時にスカネクの言った、『漸く来た』という言葉が私の中で引っ掛かる。あの時のクロワールの様子からして、焦っている訳でも、中々来ないのを変に思っていた訳でもないと思う。つまり、あのタイミングでネプテューヌが現れたのは、漸くと言いつつも、予想から大きく外れる程ではなかった…即ちある程度時間が掛かってもおかしくない場所や状況にネプテューヌがいたんじゃないかっていう予測が立つ。じゃあ、そこから更に考えられる事は何?戦う事や逃げる事に繋がるものは何かある?

 例えば…そうだ、ネプテューヌも教会の外から入ってきていて、その関係で私達同様モンスターに邪魔されていたとかは?…絶対ないとは言えないけど、ネプテューヌに消耗した様子が全くなかった点と、仮にモンスターが配下なら襲われる事自体おかしい(勿論モンスターは無差別に仕掛けるって事なら別だけど)点から、その線は薄い。同時にクロワールの様子的に、教会内に初めからいたけど寝てたとか、そういう気の抜けるような線も薄い筈。だとすれば、考えられるのは……。

 

「……そうだ…そうか、そうだよ…!ふふ、ピンチはチャンスとはよく言ったものだよね…!」

『…………』

「……何が?」

「あっ……」

 

 え、急に何…?…とばかりの視線を向けてくる東ザナちゃんと乙戦ちゃん。軽く引いた感じの声を発するスカネク。そして、気を付けていた筈なのに、ここにきて悪癖を爆発させてしまう私。…う、うぅぅ……!

 

「…えぇと、大丈夫?何かどんどん顔が赤く……」

「大丈夫!それより今は有事だよ有事!余計な事を考えてる余裕なんてないんだからねっ!」

『えぇ……』

「……ごめん、今のは理不尽でした…」

 

 思わず押し切るような返しを東ザナちゃんにしてしまった結果、余計に三人に困惑される。私自身、今の理不尽な返しには「何言ってんの…」って感じで、しょんぼりと謝罪。それから(変な流れになったのも私のせいだけど)気を取り直し、私は三人と向かい合う。

 

「皆、ネプテューヌはどこから来たと思う?」

「どこから?それは、あの広い空間の更に奥…というのは、少しざっくり過ぎるか…」

「奥にあるどこかしらの部屋…とは考え辛いわね。余程の防音でもしていない限り、ダークメガミとの戦闘音が聞こえなかったなんて事はないでしょうし、聞こえていたならもっと早く来る筈だもの」

「そうね。と、なると教会の外…私達と同じように、街に別に拠点を持っていたか、偶然何かしらの理由で不在にしていたところから戻ってきたのか、或いは……」

「街の外から来たか。…私は、この線が一番あると思ってる」

 

 顎に親指と人差し指を当てて考えながら言う東ザナちゃんの言葉を引き継ぐ形で、私は自分の考えを話す。

 今東ザナちゃんが挙げた可能性もあり得ない事はない。でも私は、多少の希望的観測も含めて、ネプテューヌが街の外からクロワールに呼ばれて来たという可能性を推したい。

 

「街の外…それもあるわね。けど、その表情…イリゼはそれが言いたかっただけではないのよね?」

「うん。私はネプテューヌが街の外から来たと見てるけど、モンスターの事を思えば、普通に街の外から街に入って、私達と同じように教会に入ったとは考え辛い。となるとどこかから教会の中に直接転移してきた…って話になるけども、ネプテューヌはそんな能力を持っていない筈だし、クロワールも私が知る限り、遠隔地に次元の扉を開くなんて事は出来ない筈。どっちも『筈』に過ぎないとはいえ、もし私の見立て通りなら……」

「彼女は自分の力及びクロワールの力以外で転移をしてきた、という事になるな。…あぁ、そうか。イリゼが言いたいのはそういう事か」

「そういう事。ひょっとしたら、あの大部屋の奥に、転移の手段…例えば、固定型の次元の扉があるかもしれない…そうは、思わない?」

 

 理解してくれた乙戦ちゃんに頷きを返し、私は推測…その結論を口にする。

 これが、一度頭の中で仕切り直し、一から考え直した私の至った答え。当然の様に元来た道を引き返す選択をし離脱した私達だけど、あの時は奥側に向かう選択肢もあった。でも、とにかくまずは離脱しないと…っていう状況だったからか、どうなってるか分からない奥側を選択肢から無意識に外し、多少なりとも分かっている方を自然に…それこそ、その一択だと思って選んでいた。そこにあった可能性を、自分でも気付かない内に捨ててしまっていた。

 

「…確かに、かもしれないの域を出ない話ではあるけど……」

「もしその通りなら、今の状況を脱する事が出来るのは勿論、元々目的にしていた街からの脱出も叶うかもしれない。…試す価値は、ありそうね」

「同感だ。それに結果的にだが、あの大部屋の奥へ向かう場合、一度逃げた上でその場に戻ってくる、という形になる。これは案外、これは向こうを出し抜けるかもしれないな」

 

 試す価値はある、とスカネクは返し、乙戦ちゃんや東ザナちゃんも頷いてくれる。

 そう。ひょっとしたら、ではあるけど、見立てが全て当たっていれば、本来の目的の達成にも繋がる。これだって、さっきまでは頭から抜け落ちていた事。窮地から脱するという直近の勝利条件から視野を広げてみた事で、ここまでの思考に至る事が出来た。

 三人共、私の考えに価値を感じてくれている。勿論私も、思い付く中で一番の選択肢だと思っている。だとすれば後は、やる事を決めたなら、後は筋道。

 

「でも、さっきまでと今とじゃ状況が違うわ。運が良ければ向こうと鉢合わせする事なくあの大部屋まで行けるでしょうけど、運任せの行動なんて作戦じゃないし、もし大部屋の近くで見つかったら、こっちの意図に気付かれる可能性も……」

「…どこかで火災辺りでも起こして、そちらに注意を向けさせるというのはどうだろうか。幸いここに、わたし達以外の人間はいない。仮に大火事になったとしても、無関係の人間が巻き込まれる可能性はない筈だ」

「火災…現実的な案だとは思うけど、一つ難点があるわね。単に火を起こすだけだと大きくなるまでに時間がかかるから、火を点けてすぐ移動したら注意が向く前に鉢合わせする可能性があるし、逆に大きくなるまで待っていたら、私達の予想より早い段階で火に気付いて移動前に発見される可能性もある。引火性液体や可燃性ガスを使えば、一気に大きな火を…というか、爆発を起こせるでしょうけど…」

「そうなると、その場を離れる前に私達まで焼かれる危険性があるわね。…その辺り、イリゼは何か策がある?」

 

 提案者としてはどうなの?というスカネクからの問いに、私は頷く。…策なら、ある。──力尽くだ。……じゃなくて、力以外も用いた作戦がある。…まぁ、結局のところ力尽くの面がない事もない策だけど…こほん。

 

「…私としては、やれると思ってる。でも、確信はない。その上で、私の策、聞いてくれる?」

 

 一つ前置きをして、逆に私からも皆へ問う。狙い通りになるかどうかは分からない。火災を起こす案も、絶妙なタイミングを見極められれば、多少運が絡むとはいえ上手くいくような気がする。その上で、私の考えも絶対ではないと示した上で、私は問い……答えとして返ってきたのは、勿論だという言葉。それに私は感謝をし…私の策を、皆に伝える。

 

 

 

 

 相手に見つかる事なく行動するにはどうしたらいいか。一つは、見つからないように動く事。同じ事を言ってない?…と思うかもしれないけど、そうじゃない。見つかり辛いような場所を選んで移動するとか、音を極力立てないようにするとか、乙戦ちゃんの火災案の様に、別のものに注意を向けさせるとか、そういう『相手に発見されない』行動をするのが、方法の一つ。

 もう一つは、それとは逆の方法。こっちが見つからないようにするんじゃなく、逆にこっちから相手の場所や動きを把握する…要は見つける事で、相手に見つからないような立ち回りを行うのもまた方法といえる。こっちの方が確実に発見を避けられる、精神的にも余裕が生まれる方法だけど、当然難易度は高い。見つけようとしてくる相手を、相手に気付かれる事なく逆に見つけて把握するなんて、それが出来たら苦労はしない。

 ただ、それもある手段を用いる事で解決する。ある意味本末転倒な…けれど状況と目的次第では、有効となる手段によって。

 

「そー…れッ!」

 

 バックステップで後退をしつつ、バスタードソードを振って牽制と細かいダメージを同時に与える。どんどん迫ってくるモンスターの群れを引き付け、ある位置へと誘導し…その場所を通り過ぎた瞬間、私は手を伸ばす。

 掴んだのは、開いた状態にしておいた扉のノブ。それを握り、即座に締める事で、突っ込んできた複数のモンスターを纏めて扉に衝突させる。頑丈な扉への激突で、鈍い音が響き、ノブ越しに衝撃が伝わり…少ししたところで、私は開ける。扉の向こう側で伸びている先頭のモンスターを突き刺し、まだ動ける状態だった、飛び掛かってきた別のモンスターに対しては、もう一度扉を締める事で今度は扉で挟み込む。無理矢理閉める事でモンスターを締め上げ、片手持ちのバスタードソードを振り上げトドメを刺す。更にその後も扉を開け閉めする事で、遭遇した群れを殲滅する。

 

「ちょっと馬鹿馬鹿しい戦い方になっちゃったけど…最小限の消耗で倒せたから良し!」

 

 特にこの場に残る理由もない私は、さっさと移動。疲れない程度に走りつつ、耳をそばだてて周囲に対し意識を向ける。

 今に至るまで、数度モンスターとの戦闘を行った。どうやらどこかから次から次へと、押し寄せる形でモンスターが入ってきている訳じゃないらしい。何か制約があるのか、それとも無制限に入らせると自分達にとっても邪魔になるからネプテューヌ達が小出しならぬ小入れにしているのかは分からないけど、大群を相手にしなくていいのはこっちとしてもありがたい。

 

(結局、どんな作戦でも運の要素をゼロには出来ない。当たり前ではあるけど、出来ればそろそろ……)

 

 運任せの作戦なんて論外だし、戦闘だろうとゲームだろうと運の要素を出来る限り排除する、確実性を上げるのが基本(まぁ、ゲームなら敢えて運の要素に重点を置くプレイもあるだろうけど)とはいえ、完全に排除するのは困難。だから出来る範囲で運に作用されないようにしつつ、残ってしまった運の要素は受け入れ上手くいく事を期待するのが勝負ってもの。そしてそれは分かっていても、運に左右される場面に遭遇すると、気になってしまうのが女神の性。…あ、いや、それは人もそうかな?

 ともかく私は、道中遭遇するモンスターと戦い返り討ちにしつつ、教会の中を動き回っている。隠れる事なく、移動している。そうしてこの後もまた、数体の群れを真正面から撃破した直後……彼女は、現れた。

 

「…こんなところにいたのね。教会から脱出した形跡はなかったし、どこかに隠れてると思ったけど…意外だわ」

「ネプテューヌこそ、遅かったね。形跡…って事は、ひょっとして一度外に出て、その形跡があるかどうか探してたのかな?」

 

 背後から聞こえた声に対し、私はゆっくりと振り返る。そこに立っていたのは、やっぱりネプテューヌ。私達を見つけようとしていた、追跡者。

 

「…三人はどうしたの?まさか、見捨てた訳じゃないでしょう?」

「まさか。…三人は私の判断で置いてきた。はっきり言って女神同士の戦いにはついていけないだろうからね……って言ったら、信じる?」

「どうかしらね。まぁ、それに関しては大した事じゃないわ」

 

 言葉通り、大した事ではないと捉えているように、ネプテューヌは私を見据える。不意を突く形だったとはいえ、ネプテューヌを出し抜き、その場での追撃を阻んだのは三人な以上、三人はネプテューヌからしても決して取るに足らない存在ではない筈。にも関わらずそういう態度を取った事が少し気になった私だけど…それならば、それでもいい。

 

「それよりも、もしかしてわたしに勝つつもりかしら?」

「そのつもりだよ。でなきゃ、こんな堂々としてる訳ないでしょ?」

「そう。一応伝えておくけど、もし降参するなら、わたしも貴女を傷付けはしないわ」

「ふぅん……やっぱり、ネプテューヌは私を倒す事が目的じゃないみたいだね」

 

 大部屋では大太刀を突き付けるだけだった。ここでも最初後ろを取っていたのに攻撃せず、今も悠長に会話をしている。それが示すのは、私の撃破が目的じゃない…他に目的があって、それの達成に私の撃破は必要じゃない、という事。そしてそれを私が口にすると、ネプテューヌは一度口を閉ざす。

 実のところ、可能性はこの一択じゃなかった。実は私の知らない凄い力を有していて、その気になれば一瞬で倒せるから、そういう行動をしていた…って可能性もあった。けど、ここで黙り込んだ辺り、どうやら図星だったらしい。

 

「…確かに、本気でわたしを倒すつもりらしいわね。少し見くびっていたわ」

「見くびっていた?それは……」

 

 今の指摘で気を抜く訳にはいかないと判断した様子のネプテューヌ。一方で私は、返ってきた言葉が予想とは少し違った事に意外さを覚え……けれどその直後、ネプテューヌの姿が変わる。それまではっきりと見えていたネプテューヌの姿が突如きちんと視認出来なくなり、確かにそこにいるけど『何か』と表現するしかないような姿へと変わり…次の瞬間、踏み込んでくる。

 

「……ッ!」

 

 咄嗟にバスタードソードを掲げたものの、一太刀で私は得物を弾き飛ばされる。同時に姿勢も崩れて…けどそれを利用して、私は後ろに距離を取る。

 立ち上がり、もう一度ネプテューヌの姿を見る。けれどやっぱり、その姿ははっきりとしない。

 

(どういう事…まさかこれは、強化形態か何か?それとも…もしや、防御の為のもの……?)

 

 強化形態にしては、見た目が謎過ぎる。一方でそれが何かを纏っている姿だとしたら…女神化の際に感じた何かから身を守る為のものだとしたら、一応の納得は出来る。これまでは纏っていなかった事も、全力を出す…シェアエナジーの消費が増える事で、何かによる危険も上がるからとかなら、おかしくはない。

 ただ、なんにせよ、なんであれ、はっきりしている事がある。女神のネプテューヌを相手に、一対一で、このまま勝てる訳がない。それは初めから分かっている事で……だからこそ、覚悟もしてきた。

 

「……すぅ、はぁ…」

 

 次の私の行動が分かっているからか、追撃しても即座に私がその選択を取って対処してくると思っているからか、ネプテューヌは静かに待っている。ならばと私は深呼吸を一つし、私からもネプテューヌを見据え……女神化。

 その瞬間、前に女神化しようとした時と同じ感覚が流れ込んでくる。通常ではない、正常ではない何かの感覚が身体に走り…けれど私は女神化を続ける。女神化をし、女神の姿となる。

 

「…模擬戦や試合でもないのに本気で矛を交えるなんて、したくはなかったんだけどね」

 

 視界、神経、感覚……どれも、違和感はない。今も尚、何かについては感じているけど…逆に拍子抜けな位、それ以外の異常は何もない。…少なくとも、今のところは。

 

「さっきはああ言ったけど、あれはあくまで降参しないならの話。貴女がその気なら、わたしも容赦しないわ」

「構わないよ。むしろ、容赦しても勝てると思っていたのであれば、すぐにその認識を叩き潰していたところだ」

 

 互いに矛を構え、視線を交える。一触即発…けれど互いに相手が強者だと分かっているからこその、下手に動けない独特の緊張感が私達を包み……私は心の中で、小さく呟く。

 

(ネプテューヌの意識を私に引き付ける事には成功。…皆、ここからの事は任せたよ)

 

 私はネプテューヌからの、三人についての問いに答えた。でも当然、答えた通りな訳がない。けれど別に、嘘を吐いた訳でもない。だって私は、こういう理由だったら信じる?…と訊いてみただけなんだから。

 見つかる事なく行動する為の方法。自分が潜むのではなく、相手を把握する事で避けるという策。それを容易に達成する手段は…自分から、見つかってしまう事。見つかり、相手を引き付ける事。見つかってしまってる時点で、一人なら本末転倒だけど、他にも仲間がいるなら別。有り体に言うなら、これは囮作戦。

 こっちの勝利条件は脱出。それが果たせるのであれば、この場の勝負の結果に関わらず、私の勝ち。でもだからって、囮だからって、やられる気なんて毛頭ない。私は女神化した時点で、いやネプテューヌと再び正対した時点で、いやいやこの作戦を思い付いた時点で……始めから、戦いでも勝つつもりなんだから。




今回のパロディ解説

・「〜〜そうね、連中の足止め位にはなるんじゃないかしら…!」
アーマード・コアⅥ FIRES OF RUBICONの登場キャラの一人、ラスティの台詞の一つのパロディ。元ネタと違い、こちらは本当に、物理的な足止めです。

・〜〜策ならある。──力尽くだ〜〜
侍戦隊シンケンジャーの主人公、志葉丈瑠の台詞の一つのパロディ。一口に力尽くと言っても、何も考えずに直接的な手段を取るのと、考え抜いた上で取るのとでは同じようでも全く違いますね。

・「〜〜三人は私の判断で〜〜だろうからね〜〜」
DRAGON BALLの登場キャラの一人、天津飯の代名詞的な台詞の一つのパロディ。割と有名な台詞ですが、「俺が」の部分は抜けた状態で語られる事が多い印象があります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。