超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

18 / 68
第十三話 勝利条件

 久し振りの、全力戦闘。本気を出そうかな、全力で戦おうかな、と思うんじゃなく、そうせざるを得ない…まともにやり合おうとすれば、全力を出すという選択肢以外なくなるような、強敵との戦い。

 私はそれが、嫌いじゃない。全力でぶつかるのも、戦いの中のヒリヒリとした高揚感も、嫌いじゃないどころか、はっきり言って好き。女神なら、多かれ少なかれ皆そういう感情はあると思う。でも…今は違う。心の奥底から高揚感が湧き上がってくる感覚はあるけど、今は好きだと…楽しいとは、とても思えない。

 

「ふッ!」

「はぁあぁぁッ!」

 

 互いに踏み込み、得物を振るう。向こうの大太刀と私の長剣がぶつかり合い、刀身の根元でせめぎ合う。激突する刃越しに、私達の…私とネプテューヌの視線が、交錯する。

 

(押し切る…!)

 

 左へ回るように、右へ流すように身体と刃の向きを変えれば、ネプテューヌも同じ動きで対抗してくる。瞬時に半回転する形となった私とネプテューヌは一瞬離れ、即座に再び斬撃を仕掛けてまたぶつかる。

 二度目のせめぎ合いから、私は刀身の峰側で圧縮シェアエナジーの解放を行い長剣を振り抜く。対するネプテューヌは押し切られると判断した直後、後ろに跳ぶ事で私からの力を逃し、体勢が崩れるのを回避。追撃すべく私が踏み込めば、ネプテューヌは大太刀から片手を離し、半身になりつつフェンシングが如く刺突で迎撃を掛けてくる。その反撃は速く、鋭く…けれど片手な分、大太刀は両手で扱う前提な事もあって軽い。だから私も左手を離し、プロセッサの手甲で刀身の腹を叩く事によってギリギリながらも軌道を逸らす。

 

「随分な態度をしていたから、策の一つでもあるのかと思っていたけど…見込み違いだったかしら」

「そうは言いつつ、まだ一度も私に有効打は与えられていない…違うかな?ネプテューヌ」

 

 攻防と共に素早く立ち位置を変えながら、激突を繰り返す。屋内…それも廊下では、飛んでの戦闘は殆ど成立しない。だから移動の基本は脚になり、立ち回りも常に壁を意識したものになる。

 まるで何かを纏ったような、はっきりと見えなくなったネプテューヌの姿。そんな状態でも、視線は感じる。確かにそこにいて、正対しているのはネプテューヌなんだと、視線から、戦い方から伝わってくる。…だからこそ、心の中に割り切れない思いが渦巻く。

 

(やっぱり、間違いなんかじゃない…偽者でも、何かが化けてるとかでもない…間違いなく、ネプテューヌだ…ネプテューヌなんだ……)

 

 さっきまではまだ、ネプテューヌの姿をした別の存在かもしれない…そうも思えた。頭の端では、ずっとその可能性も考えていた。だけど刃を交えた事で、否が応でも理解してしまう。正真正銘ネプテューヌなんだと、感覚で確信してしまう。

 

「…ネプテューヌ、意図は何?ネプテューヌの目的は何…!?」

「それを訊くだけの余裕が、あるのかし…らッ!」

 

 一度のバックステップで後方の十字路まで下り、ネプテューヌの上段斬りを長剣で受けた後に横へと受け流す。続けて反撃の横薙ぎを仕掛け、サイドステップで避けられれば、私も逆側へとサイドステップ。長剣から離した左手にシェアエナジーでナイフを精製し、言葉を共に投げ放つ。

 真っ直ぐに飛ぶナイフは、大太刀の一撃で弾かれ、そのままネプテューヌは突っ込んでくる。来るか、と思った地点より更にほんの少しだけ踏み込んでの、刀身の鍔付近を叩き付けるような袈裟懸けが振り出される。

 

「答える気は、ないの…ッ!?」

「問答するだけの余裕があるのか、って言ったのよ…ッ!」

 

 さっきと同じように受けた私だけど、先の一撃よりも重い今度の斬撃は、受け流すだけの余裕がない。下手に切り返そうとすれば押し切られてむしろ余計に状態が悪くなる、そう感じた私は両足で床を踏み締めて堪え、今一度ネプテューヌへと投げ掛ける。

 けれどやっぱり、ネプテューヌに答えてくれる様子はない。答える気はないのか、だからわざと微妙に噛み合っていないような返しをするのか…そこのところは分からないけど、なら……

 

「だったら、私が勝ったら話をさせる、してもらう…!」

「残念だけど、あり得ないわ…!」

 

 後ろに跳び、真っ直ぐ飛び、短剣を連続精製からの射出。躱し、弾いて距離を詰めてくるネプテューヌを引き付けた上で、私は刺突を放つ構えを取り……そこから長剣を飛ばす。

 引き付け、私の間合いに入った瞬間に迎撃の突きを打ち込む…と見せかけての、それよりも一瞬早く放つ投擲。突きの挙動のまま、腕を伸ばすと共に手を離す事で、慣性により長剣は飛ぶ。当然そういう放ち方じゃ、普通に投げ放つ場合より威力も速度も望めなくて…けれど相手の裏をかくには十分。これにはネプテューヌも面喰らい…でも、驚くような反応はしても当たりはしなかった。紙一重でネプテューヌは上体を逸らし、迫る長剣に合わせるように後方宙返りをかける事で、ギリギリながらも完全に凌ぐ。

 

「やるね、流石だよネプテューヌ……私の、予想通りに…ッ!」

 

 避けられた。けど、予想通り。ネプテューヌなら避けるだろうと、避けられるだろうと思っていたからこそ、放った時点で私は床を蹴り、次の攻撃に移っていた。

 広げる両腕。左右それぞれに精製するのは、大小二振りの打刀。主となる一本と脇差のもう一本、二本をそれぞれ振り上げ、同時に私はネプテューヌへ振るう。

 

「これは……刀同士で勝負しようとでも言うのかしら?」

「ここはあまり広くない…その大太刀は、振るい辛いだろうねッ!」

 

 回転の直後、同時の上段斬りを掲げた大太刀の腹で受けるネプテューヌ。即座に私は脇差を引き、今度こそ刺突を仕掛ける。

 せめぎ合いからの即刺突。これは刃渡りが短い脇差だからこそ出来る攻撃。それをネプテューヌは身体を捻る事で躱し、続けて片手と両手の膂力差でこっちの打刀を押し返して横薙ぎをしようとする…けど、私が短いステップで位置を変え、廊下の壁を背中にした事でネプテューヌの動きが鈍る。そのまま振ったら私に触れるより先に、大太刀の斬っ先が壁に当たってしまうと判断したようで、斬撃の代わりに蹴り上げてくる。

 

「甘いッ!」

「く……ッ!」

 

 無理だと即座に判断し別の攻撃に切り替える、即切り替えられる辺りは本当に流石だけど、咄嗟の蹴りが苦し紛れな事には変わりない。私も脚を突き出しネプテューヌの蹴りにぶつける事で攻撃を阻み、同時に打刀を手放した手で掌底を放つ。手放す動作からそのまま掌底の形を作り、更に打刀を手放した事で完全にフリーとなった腕での掌底は、当然予備動作もそこからの突きも速く、遂に何かを纏ったようなネプテューヌの身体を捉える。寸前で片腕でのガードをされるものの、確かな感覚を腕で捉える。

 姿勢を崩したネプテューヌは、衝撃で数歩後ろへ。でも、そこからの追い討ちまでは間に合わない。私が残る脇差を当てるより早く、ネプテューヌは転がるように横へと跳ぶ。

 

「逃がしは、しな──いッ!?」

 

 距離を空けたネプテューヌを追う。床を蹴り脚を上げると共に、爪先で今し方落とした打刀を蹴り上げる事により手元へ戻し、ネプテューヌへと十字斬り。それもネプテューヌが後転で避ければ、脇差でいつでも大太刀の迎撃が出来るような構えを取りつつ、更に打刀で斬り掛かる。今ネプテューヌは、右手だけで大太刀を持っている。仮に防御や反撃をしようとも、それを脇差で阻んでしまえば、この一撃を防ぐ術はネプテューヌにない。

…そう、私は思っていた。けれど次の瞬間、後転から立ち上がる瞬間、ネプテューヌは床に落ちていたある武器を掴む。極限まで磨き上げた水晶を、剣の形にしたような武器…私の長剣を左手で掴み、立ち上がると共に長剣で防ぐ。

 

「まさか、こっち側へ避けたのは初めから……」

「奇策の為に投げたのが、仇になったわ、ねッ!」

 

 やられた、と思った次の瞬間には、同じく片手持ちの大太刀が振り出される。それ自体は脇差で防げたものの、驚きの分僅かに私の反応は遅れ、体勢を立て直したネプテューヌとは逆に少しずつ姿勢が崩れていく。

 このままだと不味い。直感的にそう思った私は、再び圧縮シェアエナジーの解放を用いて強引に押し返す。ただ、こういう形での押し返しは、姿勢の立て直しには繋がらない。だから一度下がろう…そう思った瞬間、ネプテューヌもまた強引に動く。

 押し返された状態から、身体全体で引くのではなく、大太刀だけを離して私からの力を躱す。下がる直前にそれをされた私は、自分が前に向けていた力を殺し切れずに身体が前方へと流れ、一方のネプテューヌも大太刀を手放した事でいきなり身体に掛かる力が消えた結果、体勢が崩れる。

 

「そこッ!」

 

 ネプテューヌが仕掛けてくるのは、強引な斬撃。斜めに流れる私の方へと向きを合わせるべく、無理矢理踏ん張り関節を捻る事で体勢の維持と修正を行い、そこからまるで刀を精製した私への意趣返しの如く、両手で長剣を振るってくる。

 回避は間に合わない。ネプテューヌの方が一瞬早く動いた分、私は何とか腕を振って打刀を割り込ませるのが精一杯で……

 

「……っ…!(これは……)」

 

 腕の振りに引っ張られる形で反転し、私は打刀の刃で斬撃を受ける。まともな防御なんて出来ず、押し込まれ、尻餅を突く。けど…そのまま斬られる事だけは、何とか避けるのに成功する。

 尻餅を突いた、その体勢を逆に利用し私は蹴る。脚の裏をぶつけるように脚を突き出し、ネプテューヌは後ろに跳んで躱す。私は視線で次の攻撃を牽制しながら、脇差を手放し、代わりにネプテューヌが離した大太刀を掴んで立ち上がる。

 

「…ここはお互い、武器返還といこうか」

「…そうね。ここはお互い、フェアに…ね」

 

 大太刀を逆手持ちに切り替えた私は呼び掛ける。一瞬の間の後、ネプテューヌはそれに同意をしてくれる。そして私達は、タイミングを合わせて同時に相手の得物を放り…次の瞬間、私は打刀を投げ放つ。山なりに飛ぶ大太刀とは対照的に、右手で鋭く放った打刀は真っ直ぐネプテューヌの方へと迫り……同じようにネプテューヌが放っていた、エクスブレイドらしき遠隔攻撃と激突する。刃同士がぶつかり合い、互いに砕ける。

 直後、飛び出した私は放られた長剣を掴み、そのまま斬り付ける。ネプテューヌの手に戻った大太刀と斬り結ぶ。お互い、騙し討ちのように放った一手については触れない。だって、自分もやった事だから。

 

(攻撃にも防御にも鈍りは感じられない…って事は、やっぱり…。でも、それは……)

 

 互いの得物で何度も打ち合う。長剣越しに力を感じ、私は違和感と納得を同時に抱く。

 さっき私は、ネプテューヌにしてやられた。何とか防御を間に合わせたとはいえ、結構なダメージは覚悟しなければならない…そう思っていた。けど実際には、尻餅をついただけ。想定よりも遥かに軽いダメージで済んでしまった。…あの時の一撃に、思っていたような鋭さがなかった事で。

 その理由を、私は先の掌底…それを腕で受けた際に負傷をし、本来の力を出せなくなったからだと考えた。でも今打ち合った範囲では、全く鈍りは感じられず…だからこそ確信した。あの時ネプテューヌが振ったのは私の長剣…見た目こそ普通の両手剣だけど、あくまで性質としてはバスタードソードの延長にある私の得物に慣れていないが故に、適切な力加減が出来ていなかったのだろう、と。…それは納得出来る、十分あり得る事だけども…これまでネプテューヌは、何度も何度も私の動きを、戦いを見てきている筈。そしてネプテューヌは私と同じ女神なんだから、一発で完璧に使いこなす事は出来なくても、もう少し上手く振れていてもおかしくない、って感覚も私にはあって……

 

「これなら、どうかしらッ!」

「くぁッ…こ、の……ッ!」

 

 跳躍と斬り上げの合わせ技。それを私が避ければネプテューヌは宙で上下逆さまとなり、天井を床の様に蹴ってもう一撃打ち込んでくる。勢いの乗った一撃で私は防御を崩されかけ、反撃を諦めて後退に徹する。…違和感の方は、一旦置いておくしかない。

…そうだ。この戦闘は、ただの勝負でもなければ、単なる時間稼ぎでもない。私が果たさなきゃいけないのは、そんな単純な事じゃない。

 

「……ふ、ぅぅ…」

「…………」

 

 距離を取った後も、何度も後ろや横に跳び、通路を移動しネプテューヌとの距離を空け続ける。ネプテューヌからの追撃がないと判断出来たところで私は脚を止め…軽く握った左手を、胸へと当てる。

 女神化の時に抱いた感覚は、まだ消えていない。消える事も増す事もなく、確かに今もあり続けている。現状それが何かに作用している感じはないけど、だからいいや、とはならないし、それに……。

 

「消耗が無視出来ない程になってきた…なんて思わない事だね…ッ!」

 

 胸に手を当てた状態から、構え直す事なく飛び出す。突進からの刺突を仕掛け、ネプテューヌが大太刀の刃で滑らせるようにして防御をすれば、すぐさま刺突から刀身を押し付ける形に切り替えまたネプテューヌと斬り結ぶ。

 真っ向からの力比べ。力はほぼ互角で、押し合いは拮抗している。これまで同様、圧縮シェアエナジーの解放を用いれば押し切る事は出来るけど、私自身の力を増強しているんじゃなく、あくまで外から力を受けている形…刀身を後ろから叩いているような形の関係上、どうしてもその方法での押し込みは動きが単純になってしまうし、この状況でそれをやるとむしろ上手く受け流されて斬り返される危険がある。それにそもそも、私の持ち味は力押しじゃない。

 

(どうする…?慎重にやらなくちゃ、全部が上手くいかなくなる。でも、慎重になり過ぎても逆にネプテューヌなら違和感を抱いて勘付く筈。…となれば、ここからは……)

 

 目の前にいるのは、集中し全力を尽くさなきゃ勝てない相手。でも今は、この戦いは、目の前の事だけを考える訳にもいかない勝負。辛いとか、勝ち目が薄いとかとは違う…凄く、難しい一戦。

 でも、ここまでで布石は打ってきた。上手くいくかどうかは、蓋を開けてみるまで分からないけど、今の段階では上手くいっていると信じるしかない。そして上手くいっていると信じて、私は踏み込む。

 

「でぇいッ!」

「……っ!これは……」

 

 気持ちと共に、物理的にも前に出る。圧縮シェアエナジーの解放も行い、ネプテューヌを押し切る。予想通り、ネプテューヌは押し込まれた…押し込まれそうになった瞬間力を抜き、身を翻す事で私を前のめりにさせてコンパクトな横薙ぎを返してくる。…でも、すぐに気付く。私が、返される前提で長剣を押し込んだんだという事に。

 前のめりになった時点で、私は左手を離していた。離すと共に盾を精製し、ノールックでネプテューヌの側に盾を向けて横薙ぎを受ける。全く見ないでの防御は、面積の広い盾だからこそ出来る芸当。防御に成功した私は脚を振り、遠心力で方向転換を掛けて今一度得物の長剣を振るう。

 

「ネプテューヌは、知ってるよね?私の、戦い方、を…ッ!」

「それが、どうかしたのかしら…ッ!?」

「どうもこうも、確かめてるだけだよ。私について、こられるか…ってねッ!」

 

 ネプテューヌが後ろへ避けたところで、私は左手の盾を片手剣に作り変え、振り出す。もう一度回避されれば今度は短槍に変え、振り下ろした状態から手首のスナップを効かせて突き上げる。短槍の後は手斧、トンファー、鎌…と次々切り替え、左手をフル稼働。尚且つ合間合間で右手の長剣も振り出し、突き出し、怒涛の連続攻撃を仕掛ける。

 幾度目かの変更の後、私が精製したのは苦無。逆手持ちの苦無を半ば殴り付けるように数度振り、ネプテューヌが大きな回避行動を取ればそこに向けて投げ放つ。そうしてネプテューヌに対応を強いつつ床を蹴り、長剣を構えて斬る…と見せかけて、右手から左手に持ち変え今度こそ接近からの斬撃を打ち込む。

 

「このまま、一気に……!」

 

 振り下ろした斬撃は躱され床に喰い込む。それを圧縮シェアエナジーの解放で瞬時に引き抜き、もう一撃放つ。小声で呟きながら、声とは裏腹に全力を込めた斬り上げをネプテューヌへと叩き込む。

 全力の一発を、ネプテューヌは左手を大太刀の峰に当てがって防御。私が振り抜けば、ネプテューヌは衝撃で大きく飛び…けれどその瞳に、驚きや焦りの色はない。跳ね飛ばされた状況とは裏腹に、しっかりと私の事を見据えていて……直後、また私が踏み切り距離を詰めようとした瞬間に、エクスブレイドを放ってきた。それも、普通のエクスブレイドじゃない。廊下の広さに収まるギリギリの、私から見て左上から右下までの斜めで廊下を二分するようなエクスブレイドがカウンターで飛来する。反射的に防御し何とか防ぎ切るものの、次の瞬間にはネプテューヌが距離を詰め返していて、次なる攻撃が私を襲う。

 

「今度はこっちの番よ」

「そう簡単には……」

「させてもらうわッ!」

「ぐ……ッ!」

 

 エクスブレイドに続く攻撃、袈裟懸けを躱した次の瞬間には、それ以上に鋭い逆袈裟が下から迫る。

 最初の一太刀に敢えて対応させてから、本命の一太刀を放つそれは、正に燕返し。気付いた時にはもう遅く、迫る逆袈裟を防御した長剣は瞬時に腕ごとかち上げられる。逆にかち上げた大太刀はその反動で上昇軌道から一気に減速し、逆袈裟から刺突へと変わって私の事を追い詰める。

 

「やられ…る、ものかぁああああッ!」

「な……っ!?…けど…ッ!」

 

 かち上げの衝撃に身を委ね、一歩下がる。それだけじゃとても刺突は回避し切れないけど、下がった分僅かに刺されるまでの時間が延び、その僅かな時間が私を救う。長剣を手放し、両腕を振り出し、ネプテューヌの刺突を挟み込む。燕返しからの刺突を、斬っ先への真剣白刃取りで押し留める。

 これにはネプテューヌも、流石に動揺。けれどそれが隙や打開のチャンスには繋がらず、ならばとネプテューヌは大太刀を押し込んでくる。持つべき柄をしっかりと握ったネプテューヌと、持つべきではない刀身を咄嗟に手で挟んだだけの私。どちらが有利かなんて…明白。

 

(ま、不味い不味い不味い不味い…!これは、()()()不味い…!)

 

 少しずつ押され、一度は止めた斬っ先がまた私に迫ってくる。持ち堪えようとしても両手の内で刃が滑り、速さこそなくとも着実に私へ近付いてくる。

 下がっても、その分ネプテューヌが前に出る。耐えるだけでも一苦労で、蹴りを放ってネプテューヌの体勢を崩す余裕もない。このままじゃ確実に突き刺されるし…何より、このまま押されていくのは本当に不味い。

 

「だったら…ッ!」

「──だと、思ったわ!」

 

 残る手はこれしかない。そう思うのと同時に私は左右へ短剣を精製し、近距離から射出。比喩ではなく文字通り手も足も出せないなら、手も足も使わない形で攻撃すればいい。そんな発想で私は放ち…けれどそれは読まれていた。私の射出に対応するように、ネプテューヌもまた小型のエクスブレイド二本を展開し、私の短剣にぶつけてくる。完全に読まれていたという事実に、冷や汗が吹き出す。

 

「残念だったわね。これがビームだったとしても結果は同じよ…!」

 

 いよいよ間近に迫る刃。…本当に、打つ手がない。なりふり構わず、ただこの瞬間を乗り切る事だけを考えるなら、まだ出来る事はあるけと…それじゃ、私の為すべき、達成するべき目的にまでは届かない。

…そう。どうしようもない。今切れる手札で、上手く切り抜けられるようなものなんて、一つもない。──だからこそ、助かった。不幸中の幸いではあるけど、そもそもこういう窮地に陥らないのが一番だけど…どうにもならないからこそ、あっさりと私の覚悟は…決まる。

 

「……──ふ…ッ!」

「……ッ!?貴女……!」

 

 斬っ先が届く前に、何とか刀身の向きを変える。出来る限り逸らし、可能な限り私の身体の正中線から遠ざけ…そして、手放す。

 私が手を離した事により、勢いを取り戻す大太刀。一気に伸びる刺突。顔が見えずとも驚愕してると分かる、ネプテューヌの気配。今度こそ、ネプテューヌを出し抜く事が出来た…それを確信すると共に、大太刀の刃が私の胸部を斬り裂く。

 

「……っ、ぅ…お返し、だッ!」

「大した度胸ね…!だけど、そんな苦し紛れの攻撃なんて…!」

 

 大太刀に斬られたのは、左脇腹の上辺り。重傷ではない…けど軽傷でもない傷口から焼けるような痛みが走り、自分の表情が歪むのを感じる。…けど、こんな痛みも傷も、大した事じゃない。これより酷い怪我なんて、これまで何度もしてきたし…まだ戦いも、終わっていない。

 離した右手の指を伸ばし、顔に向けて貫手を放つ。言われた通り、これは苦し紛れの攻撃で、ネプテューヌには躱される。辛うじて髪を数本切っただけの、攻撃としては全く無意味な形で終わり…けれどネプテューヌが回避を行った隙に、私は立て直す。素早く長剣を回収し、立ち上がると共に斜めに振り出す。

 

「この程度のッ、手傷を負わせた程度でッ、優位に立ったと思うのなら…大、間違い、だぁあぁぁぁぁッ!」

「確かに、そのようね…でもそれなら、完全に優位に立つまでよッ!」

 

 言葉と共に、前へ前へと攻撃を仕掛ける。決して浅くはない傷を負ってしまったのだから、ここは慎重に…なんて選択はしない。むしろより激しく、より攻撃的に、ネプテューヌを攻める。

 それを余裕の表れだと思ったのか、それとも大丈夫なフリをしているのだと思ったのか、ネプテューヌがどちらで捉えたのかは分からない。ただ、ネプテューヌは冷静に私の斬撃を防ぎ、躱し、隙を突いてのカウンターで返してくる。私とは対照的に、慎重且つ受け身からの反撃を打ち込むスタイルで下がりながら大太刀を振るう。

 

(……っ…傷口を押さえたい、けど…今は、もう少しの間は…ッ!)

 

 長剣を振る為に身体を捻れば、その度に一層強い痛みが走る。痛みで戦えなくなるなんて事はないけど、どうしたって痛覚は集中を阻害する。それに、この程度とは言ったものの、擦り傷ではない以上、放置していれば血が流れ、少しずつ戦闘継続に影響を及ぼす。…良くない。ここで攻勢を強めるのは、短期決戦を狙う訳じゃないなら本当に良くない。

 だからこそ、私はそうしている。それを分かった上で、ここで攻勢を強める利点と欠点、そこを踏まえた上でどんな時選択するものなのか、というところまで含めて私は選び、堪え、戦い続ける。目的の為に。凌ぐんじゃなく、負けないんじゃなく…勝つ為に。

 

 

 

 

「はぁっ…はぁっ……」

「…そろそろ、限界のようね。体力も、その傷も…ずっと感じていたんでしょう、影響も」

 

 荒い息を繰り返し、片手で長剣を構え、片手で傷を押さえる。幾度も場所を変えながら、痛みと消耗に耐えながら戦いを続け…いよいよ追い詰められている。当然の様に、パフォーマンスは落ち、精神的にもかなり削られ…対するネプテューヌは、未だ余力を残している。

 痛むのは脇腹の上だけじゃない。パフォーマンスの低下で隙は生まれ易く、大きくなり易くなり、細かな傷を何度も受けた。大太刀の刃が手の内を滑った事で出来た掌の傷も、長剣を握り続け、力を込めて振るい続けた事で悪化し今や血だらけになっている。まだ致命傷はない。重傷もない。…だとしても、今の私とネプテューヌの間にある、『余裕』の差は…大きい。

 

「それは、どうかな…私はまだ策を残しているやも…」

「…それは無いわね」

「流石に間に受けはしない、か…」

 

 揺さ振りを迷う事なく一蹴するネプテューヌに、私は溜め息を吐くような声で返す。一蹴されたからと言って、動揺したりはしない。ここで一蹴されるのは思っていた通りで…むしろ、この流れから間に受けたとしたら、そっちの方が予想外。意外と抜けているところがあるネプテューヌではあるけど、戦闘での駆け引きとなれば、そう簡単には騙されない…その位、私も皆も知っているんだから。

…そう。私は知っている。ネプテューヌが、そう簡単には騙されない事を。だから、必要だった。徹底的な準備が、仕込みが、積み重ねが。

 

「…先に言っておくけど、諦めろ…なんて言っても無駄だよ、そんな言葉は、言うだけ無駄だ」

「そのようね。だから、もう少し追い込ませてもらうわ…!」

「容赦ない…いや、当然の事だよね…!」

 

 打ち込まれたネプテューヌの刺突、その斬っ先が迫るのは私の傷口。抉るつもりなのか、と私は軽く戦慄しつつも横に躱し、まだ前進の勢いが残るネプテューヌへ引っ掛けるようにラリアット。同時背中側へと右手で長剣を振るい、前後からの攻撃で挟み込む。

 対するネプテューヌは、次の一歩を深くし、身体を沈ませる事でラリアットを首ではなく額で受ける。頭突きで迎撃するような形を取り、勢いの差で私の腕を跳ね返す。

 

(大丈夫…きっと、大丈夫…私も、皆も……ッ!)

 

 私の長剣の届く距離を抜けるまで進んだネプテューヌは、即座に振り向きまた斬りかかってくる。それを私は斜めに構えた長剣で受け、斬撃を滑らせ反撃に繋げる。ネプテューヌの方も凌がれたと見るや否や膝蹴りを放ってきて、お互い相手の攻撃を避ける為に身を捩る。結果どっちの攻撃も外れ、私もネプテューヌもすぐさま次の動きに移り…けれど捩った瞬間の痛みで、私は一瞬遅れてしまう。

 その隙を逃さず、ネプテューヌは連撃で攻めてくる。私は防戦を強いられる。瞬間的な攻防ならともかく、連続したぶつかり合いとなると、どうしても低下したパフォーマンスじゃネプテューヌと互角にはやり合えない。だとしても、ここでまだやり合う事には意味がある。既に賽は投げられている。ここまで消耗してしまったって意味でも、他の選択肢を取り直す余裕はない。

 

「で…ぇええいッ!」

 

 両脚で床を踏み締め、フルスイングの横薙ぎでネプテューヌを押し返す。手負いの私に対し、無理に攻める必要はないと判断したのか、押し返されたネプテューヌは強引な反撃に移る事なくそのまま下がり、軽やかに着地。その場で構え直し、全身の力で押し返した結果また激しい痛みに襲われる私を見据え……次なる攻撃を仕掛けようとしてきた、その時だった。

 

「……!?爆発音…?」

(来た……ッ!)

 

 突如響き渡る爆音。この場への影響こそないものの、割と近い位置で起こったと分かるその轟音にネプテューヌはぴくりと肩を震わせる。

 

「なんで今、爆発が…そもそも爆発なんて、この状況下では……」

 

 いきなり爆発音が聞こえれば、当然動揺や困惑をする。ネプテューヌもその例に漏れず、私への警戒は緩める事なく不可解な出来事について考え…すぐに、気付く。

 

「…そういう事だったのね。これは、貴女の仲間…彼女達が起こしたものでしょう?」

「…どうだろうね」

「はぐらかしても意味はないわよ。この教会は勿論、街全体においてもわたしやクロワール、貴女達以外の人や女神はいないし、これは明らかに爆発の音…普通のモンスターが起こせる音なんかじゃないもの。…つまり、貴女は陽動だった訳ね。彼女達が逃げられるよう、わたしの注意を引き付ける為の」

 

 納得がいった、という様子で語るネプテューヌ。そういえば火器を装備してる子もいたものね、とも言い、その上で改めて私へと刃を向ける。別にそれはいい、三人がモンスターを突破し逃げようとしていても、それは問題ではない、と示すように。

 今の言葉を、ネプテューヌの至った結論を聞いて、私は内心安堵する。別に、的外れな思考をしていた訳じゃない。ネプテューヌの考えは合っている。ただ……完全ではない。核心の部分にまでは、至っていない。であれば後は私も……

 

「……いや、待った。それにしては、外が静か過ぎる…外で戦ってる訳じゃないって事?…そういえば、この場所、今音が聞こえた方向……──っ、まさか…ッ!」

(……ッ!気付かれた…!)

 

 これならいける、ネプテューヌは私達の真の狙いに気付いていない…そんな私の考えがフラグにでもなったかのように、ネプテューヌの思考の方向が変わり、そして気付く。恐らく、今度こそ本当に…私達の狙いに、気付かれる。

 

「やってくれた…やってくれたわね、オリジンハート…ッ!やけに移動を繰り返してるとは思っていたけど、初めから移動する事も目的だったのね…ッ!」

「行かせるか…ッ!」

 

 顔が見えずとも分かる、これまでで一番のネプテューヌの焦り。次の瞬間ネプテューヌは私へエクスブレイドを放ち、直後に床を蹴る。私にエクスブレイドへの対処をさせて、その隙に突っ込み…私の横を、駆け抜ける。

 その行動により、私はネプテューヌが間違いなく気付いている、完全に狙いを理解していると確信。もうここまで至ったのだから、出し惜しむ必要はない。それにこのままネプテューヌを素通りさせる訳にもいかない。だから私は身を翻す。リバースフォームを解放し、ネプテューヌへと追い縋る。

 身体に満ちる、収まり切らない程のシェアエナジー。その感覚が、これまで私に纏わり付いていた違和感を上書きするように吹き飛ばす。

 

「それは…ッ!」

「喰…らえぇぇッ!」

 

 反射的に振り向き防御体勢を取ったネプテューヌを、防御ごと袈裟懸けで吹き飛ばす。リバースフォームの強化と、これまでとは比較にならないシェアエナジー量を活かした圧縮シェアエナジー解放を合わせた斬撃は、ネプテューヌの防御を軽く上回り…直後に一瞬、声が出なくなりそうな位の激痛に襲われる。

 見なくても分かる。今ので、脇腹の上の傷が更に裂けた。この状態でまともにやり合おうとすれば、身体に掛かる負荷と衝撃で傷口は間違いなく裂け続ける。

 

「…行かせないと言うなら…わたしも貴女の思うようにはさせないわッ!わたしは、ここで、確実に……」

「いいや、押し通らせてもらう…最早私に、出し惜しみはないッ!」

 

 痛みを押して私が前に出る中、ネプテューヌも宙で構え直す。飛んでいながらも床を踏み締めるように構え、私の突進に合わせて渾身の一撃を放ってくる。

 呼応する形で、私も一閃。再び圧縮シェアエナジーの解放を乗せた斬撃を打ち込み、刃同士が激突し、互いに弾かれる。その直後、私は長剣を手放し、更に近付く。ネプテューヌへと肉薄し、両手を突き出す。

 咄嗟にネプテューヌもまた、大太刀を離す。迫る私と迎え撃つネプテューヌで手を掴み合い……そのまま私は、身体をぶつける。頭からぶつかり、止まる事なく更に前へ。

 

「なんで強引な…ッ!」

「これだけ近付けば、ネクストフォームの力も使うに使えないでしょう?このまま、私と来てもらう…ッ!」

 

 振り解こうとするネプテューヌの手を目一杯の握力で押さえ、リバースフォームだからこその多段加速でネプテューヌごと廊下を進む。仮にネクストフォームになられたとしても、単純な力押しなら、圧縮シェアエナジー解放を無制限レベルで使える私の方に分がある。防御や強度を無視して斬り裂く…概念や存在ごと断ち、無に帰すネプテューヌのネクストフォームの力はこの状況を覆し得るものだけど…それをさせない為に、私は密着している。私の見立て通りなら、ネプテューヌは…いや、守護女神の四人は全員、ビヨンドフォームやリバースフォーム以上に良くも悪くも『規格外』なネクストフォームを掌握し切れていない。自分の力として十分使えるレベルではあるんだろうけど、完全に、完璧に我が物としている感じではない。だからこそ、ほんの少しでも制御を誤れば、私どころか自分自身まで斬り裂き消滅させかねないこの密着状態でなら、ネプテューヌは能力を使うに使えない…そう判断し、私はネプテューヌを振り切るのではなく、逆にネプテューヌごと突っ込むという選択を取った。

 さっきの爆発は、乙戦ちゃんからの合図。私の頼んだ、三人に託した、あの大部屋の奥の探索が完了したんだというメッセージ。だからもう、戦う必要はない。ここからは辿り着く事、それこそが勝負。

 

「はぁあぁぁぁぁぁぁ…ッ!」

「……っ…両手を塞いだだけで、何とかなるだなんて思わない事ね…ッ!」

「がふッ…思って、なんかいないよ…ネプテューヌこそッ、ただ押されるだけだなどと思うなよ…ッ!」

 

 すぐに意図に気付かれてしまわないよう、慎重に、上手く戦闘とも組み合わせながら、何とか移動をしてきた。大部屋の近く、出来る限り直進だけで大部屋へ辿り着けるような位置へと私は戦いながら移動をしてきた。

 消耗を気力で押さえて大部屋へと向かう中、ネプテューヌの膝蹴りが私の胴を打つ。衝撃で息が詰まるも、何とか私は動きを維持し、左右に何度も回転をかける。その揺さ振りでネプテューヌが続けて行おうとしていた小型エクスブレイドの近距離射出を妨害する。回転自体は私にも当然影響があるけど、自分でやる以上回転のタイミングが分かり切っている私と、いつ、どっちへ、何度回転をされるか分からないネプテューヌとじゃ、かかる負荷は大きく違う。

 

「ぐっ、ぅううぅっ…ッ!」

「(見えた…ッ!)身構える事だねッ、ネプテューヌッ!」

 

 遂に私は大部屋の前にまで行き着く。そこにはモンスターの妨害用なのか、私達が離脱した時と同じように氷塊があって…そこへ私は推力最大状態で突っ込む。氷塊にネプテューヌを背中から打ち付け、そのまま氷塊を砕いて大部屋の中へと突入する。

 

「イリ……え、えぇ…?」

「大丈夫!女神化したイリゼだよ!」

「いや、だとしても貴女が掴んでいる?…のは…ううん、それより今は脱出よ!このまま真っ直ぐ奥に向かって!」

「了解ッ!」

 

 大部屋へ入った直後、こちらに気付いた東ザナちゃんが声を上げる。思えば私の女神としての姿を見せるのはこれが初めてで、はっきりと見えないネプテューヌの存在もあって、困惑するのは当然の事。でも東ザナちゃんは即座に飲み込み、案内するように奥へと走る。

 先行する東ザナちゃんに続いて、私も飛ぶ。私自身を止められないのなら、とネプテューヌはエクスブレイドを床や壁に放つ事で私を食い止めようとするけど、破片や破壊による煙程度は圧縮シェアエナジーの解放で全て吹き飛ばせる。私がネプテューヌより強いって訳じゃない。ただ、状況的に私が有利だってだけの事。

 

(予想通り、どこかへの扉があった事は間違いない。後は、それがどこに続いているかだけど…それはもう、良い場所である事に期待するしかない…!)

 

 ネプテューヌを無理矢理押しているとはいえ、リバースフォームの速度は絶大。先を走る東ザナちゃんとの距離はすぐに縮んでいき、同時に扉の開かれた部屋が見えてくる。

 そのすぐ側には、スカネクと乙戦ちゃんの姿。そして更に奥、部屋の中に見えているのは…次元の扉とほぼ同じ穴。

 

「スカネク!東ザナちゃん!乙戦ちゃん!突っ込むよッ!」

 

 もう完全に見えた。ここまでくれば、邪魔されないようネプテューヌを掴んでいる必要もない。むしろ離した後に精製した武器の一斉射出でもした方が、安全に進めるかもしれない。それでも私は離さない。ネプテューヌには、訊きたい事も訊かなきゃいけない事もあるのだから。

 声を上げる。二人も身を翻して穴へと走る。私がネプテューヌを引き付けている間に三人が探索し、見つけてくれた穴。ここではないどこかに繋がる扉。そこへ私達は、踏み込み…飛び込む。

 

「……っ!」

 

 次元の扉を潜るのと似た感覚。やっぱりこれは、次元の扉なのか。そうなると、この先は別次元なのか。けどその場合、ネプテューヌは別次元からやってきたって事になる。それもそれで不可解で…そんな風に考える私だけど、答えが出る前に私はネプテューヌ諸共扉を抜ける。その瞬間、これまで感じていた違和感、嫌な感覚が消え去り…それと共に、気付く。

 

「空中…!?」

「じょ、冗談じゃ……」

 

 足場のない空。広い広い、阻むものなどない空間。飛べる者でなければ、落下する他ない場所。その事実にスカネクも乙戦ちゃんも驚愕の声を上げ、東ザナちゃんも含めて三人全員が落ちていく。

 別次元かもしれない。危険な場所かもしれない。そういう可能性は考えていたけど、即空中だなんて全くの予想外。それに私も愕然とし…けれど今、やるべき事は一つ。

 ここまで全身全霊で掴んできたネプテューヌを即座に離し、私は落下する三人を追う。まず東ザナちゃんの手を掴み、続いて乙戦ちゃんの腕を握る。それからスカネクの事も何とかして助けようとし…彼女の身体は、空中で止まる。

 

「私は自力で何とかするわ…!イリゼは二人を地上…に……」

 

 引き抜かれた刀にぶら下がるような格好で宙に留まっている…その姿で何が起きているのかを、念力で刀を浮かせて落下から逃れているのだと理解した私は、言われるように二人を地上に降ろそうとする。降ろそうとして、また気付く。

 左右どちら見ても、下を見ても、どこまでも空が続いている。眼下にはそこそこな大きさを持った岩塊…というより土地が空いていて、それ等は虹色の橋で繋がっている。…間違いない。ここは、この空間は…天界だ。

 

(良かった…想定していた中じゃ、かなり良い結果だ…!)

「…イリゼ…なんだな?」

「あ、うん。驚かせちゃってごめんね」

「それは別に良いけど…それよりも貴女の身体の方が問題よ…!早く手当てを……」

 

 扉から多少距離を取りつつ、近い土地の一つへ私は降下。二人が着地したところで手を離し、乙戦ちゃんに肩を竦めてみせると、私の怪我に対して東ザナちゃんがすぐに手当てをと言ってくる。

 けれど、そんな余裕はなかった。私が東ザナちゃんに応えるより早く、はっきりとした敵意が肌に刺さる。

 

「モンスター…!?それに、このタイプは……」

「まさか、あそこからモンスターも…?」

「分からないわ、でもとにかく今は迎撃するしか──」

「イリゼ、上よッ!」

 

 振り向いた私が視認したのは、街の中や教会で交戦したのと同様のモンスター。何故ここに、という問題はあるものの、襲ってくるなら迎え撃つしかない。そう思い私が構えようとする中、スカネクの声が聞こえ…直後、ネプテューヌが強襲。私が飛び退けば、更にネプテューヌは襲ってくる。それと共に、翼を持つモンスターも私を包囲するように次から次へと飛んでくる。

 モンスターに、ネプテューヌを襲う気配はない。つまり…やっぱりモンスターは、ネプテューヌ達が仕向けたって事。

 

「……ッ…ネプテューヌ、どうして…ッ!どうしてこんな、モンスターを…ッ!」

「もう貴女と悠長に会話する気はないわ。ここまでしてやられたんだもの…こっちだって、出し惜しみはしないわ…ッ!」

 

 襲い掛かってくるモンスターを、片っ端から叩き落とす。リバースフォームであれば、この程度のモンスターなんて敵じゃない。だけど、それに合わせてネプテューヌも攻めてくるとなると、流石にその限りじゃない。全力を出せばただでさえ不味い状態の身体が更に悪くなる訳で…ここに来て、脱出を最終目的としていた弊害が、その先を考えていなかった点が響いてくる。

 

「逃す気はないわ…ッ!」

 

 下から迫るモンスターを躱した先を塞ぐように放たれるエクスブレイド。それも躱し、私は精製したバスタードソードで追撃してくるモンスターを両断。続けて宙にも武器を精製し、次々放つ事でモンスターを撃ち落としていく。

 下に目を向ければ、合流したスカネクと共に東ザナちゃん、乙戦ちゃんが地上のモンスターと戦っている。三人なら当然、モンスターに遅れを取る事はない。でもそれは、モンスターの数が常識的な場合。もし教会に突入した時と同じような物量で来られたら、ネプテューヌから逃げた際に暫く休めたとはいえ、連戦からの連戦って事もあってかなりキツい筈。何よりあの時とは違って、「こうすれば勝利」って考えられるものがないのは、凄く不味い。

 そして私も、三人の心配ばかりはしていられない。私の状態だって、疲労含めて相当に不味い。

 

(…だけど、ここは天界だ。ならば、きっと……)

 

 でも、私はそこまで焦っていなかった。全く余裕のない状況とはいえ、大丈夫だって思いがあった。そう思える、理由があった。

 正面のモンスターを斬り裂いた直後、ネプテューヌの飛び蹴りが飛来する。それを両腕で受けた私は衝撃で飛ばされるも、すぐさま立て直す。対してネプテューヌもまた追い討ちの姿勢を見せ、モンスターも複数方向から私へと襲い掛かり……次の瞬間、光芒が先頭のモンスターを撃ち抜く。

 

「……!?これは……」

 

 突然の、私達の誰でもない攻撃により驚くネプテューヌ。同様にモンスターも慌てた様子を見せる中、大型の飛翔体が私とネプテューヌ、それにモンスターの間へ割って入る。噴射炎をなびかせながらそれは飛び、視線を引き付け…上昇を掛けた直後、別の光芒が動揺するモンスターを撃墜。それを放った射手……紅の機体は、先行させた飛翔体と合体をする。

 

「…流石は隊長。良い動きだ」

 

 自然と口元に笑みが浮かぶ中、合体した…空戦形態となったマエリルハは、ロングビームライフルでの射撃でネプテューヌとモンスターを牽制していく。

 それだけじゃない。MGとは比較にならない程の大出力の砲撃が遠くから放たれ、モンスターを灼く。続けて光弾やミサイルが押し寄せ、モンスターを蹴散らし、ネプテューヌも回避の為に下がらせる。…分かっていた。きっと来ると、信じていた。何故ならここは、天界だから。今いる場所にも、見覚えがあったから。

 その弾幕に背中を見せる形で向きを変え、少しだけ高度を上げる私。そうして私が背にするのは、左右の肩部に国のシンボルマークと、部隊のエンブレムを施した機体群。そして、更に後ろに悠然と控えるのは、巨大な空中艦。ネプテューヌがモンスターを従えるように、ここには私にも味方がいる。ここまで私に付いてきてくれた、私の事を待っていてくれた……枢機部隊(カーディナル)という、強力な味方が。




今回のパロディ解説

・「だったら、私が勝ったら話をさせる、してもらう…!」
SYNDUALITY Noirの登場キャラの一人、トキオの台詞の一つのパロディ。マハトとの空中戦での台詞ですが、このパロネタを発した際の動きも含めてパロディをした…つもりです。

・「〜〜私はまだ策を残しているやも…」
DRAGON QUEST -ダイの大冒険-の登場キャラの一人、ザボエラの台詞の一つのパロディ。対人(女神)戦を始めとする、知性ある相手に対しては、割と策を多用する…それがイリゼです。

・「大丈夫!女神化したイリゼだよ!」
エンターブレイン刊行の攻略本における帯の定番キャッチフレーズのパロディ。落ち着いて見ると、凄く意味不明な発言ですね、これ。一応女神の姿のイリゼは凛々しいつもりですが、これは何か可愛いですね。

・「じょ、冗談じゃ……」
アーマード・コア LAST RAVENの登場キャラの一人、ベズン・L・ゲヌビの代名詞的な台詞のパロディ。この台詞は非常に汎用性が高いというか、色んな場面で使えそうですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。