超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

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第十四話 切り開かれた道

 いつだって、私は想定外に振り回されている。常に…とまでは言わないけど、これまで多くの経験、多くの戦い、多くの困難にぶつかってきて、それを乗り越え前に進もうとする時には、大小沢山の想定外が確かにあった。碌な準備をする間もなく起こった出来事の中で…って事もあれば、万全の準備をしても尚、想定外に見舞われるなんて事もあった。

 でも、想定外は悪い事ばかりじゃない。想定していなかった、予想を超えるような何かに助けられる事もあったし、想定外が巡り巡って逆転に繋がった…って事だってあった。

 結局のところ、想定通りにいくかどうかは分からない。いつどこで想定外が起こるかも、どんな想定外が起こるかも分からない。…だから、必要なんだ。諦めない事が。最後まで、力の限り。

 

「よく来てくれた。我が親愛なる者達よ!」

 

 空に立ち、声を上げる。増すばかりの痛みを押して、声を響かせる。痛い。本当に痛い。けど、辛くはなかった。この声を上げる瞬間、感じたのは苦痛ではなく湧き上がる力だった。

 次々に飛来する射撃と砲撃が、空中のモンスターを蹴散らしていく。全員疲労困憊、加えて私は怪我も相当という中での劣勢は、発見した扉を抜け街からの脱出を果たしたと思った矢先の危機は、枢機部隊(カーディナル)の参戦によって覆った。

 

「お待たせ致しました、イリゼ様。この場は我々が引き受けます、お下がりを」

「ありがとう、サクリスタン特務中佐。だが、そうはいかない。モンスターだけであれば君達の敵ではないだろうが…この場には強大な相手もいるのだからな」

 

 バックパックを兼ねる無人機に乗る形である空戦形態から、バックパックとして背負う形を取る滞空形態へと切り替えた紅のマエリルハ…オラクル1、サクリスタン特務中佐の機体が側に来る。私を守るような位置取りで機体のシールドを構える彼に対し、私は感謝を伝えながらも首を横に振る。

 枢機部隊(カーディナル)の戦力なら、モンスターを十分薙ぎ払える。教会の、私直属の部隊として編成されたその実力は、私がよく知っている。…でもそれは、相手がモンスターのみの場合。そして今、ここにはそれ以外の相手もいる。…女神が、いる。

 

「ですが、その怪我は……」

「ふふ、私は今力が漲っているんだ。期待した通り、信じた通り、私が求めるまでもなく、君達が来てくれた…その事実が、私に力をくれている。だから、心配は無用だよ」

「……分かりました。モンスターは、迅速に処理します」

「うん、任せよう。そして、彼女達の保護を。彼女達は、ここまで私と共に戦ってくれた友だ」

 

 数秒黙った後に、特務中佐は理解をしてくれる。機体を航空形態に変形させ、味方が追い立てるモンスターの追撃へと向かう。

 私もまた、身を翻して地上へ降下。インカムで三人の事を皆に伝えつつ、着地と共にモンスターの一体を斬り飛ばす。

 

「皆、もう何となく分かってると思うけど、今来たのは私の味方だよ!退路を開いてもらうから、皆は下がって!」

「あ、あぁ。…人型の、巨大ロボット…まさか、そんなものまで目にする日が来るとはな……」

「私の世界にも似たような物はあるけど…飛行戦艦には、流石に驚かされたわ」

「大丈夫…と言いたいところだけど、消耗しているのは事実だし、確かにこの戦力なら無理に留まる必要はなさそうね。…イリゼは、どうするの?」

「私には、まだやるべき事がある。皆が来てくれた今だからこそ、この機を逃す訳にはいかない…!」

 

 急転直下さながらの展開に舌を巻いていた三人だけど、私の呼び掛けには応じてくれる。そこからスカネクは、私を見つめ…こういうやり方は申し訳ないと思いつつも、私は言うだけ言って空に戻る。

 直後、三人の援護に来た数機のマエリルハによるビームマシンガンの連射が、三人の周囲にいたモンスターを圧倒。サイズ差から一体一体狙い撃つ形じゃなくて、連射で面制圧を行う形を取ってはいたけど、下がる為の援護としてはそれで十分。表情までは見えなかったけど、援護を受けた三人は空中艦の方への後退を始めてくれて…それに安堵すると共に、私は『彼女』の事を見据える。

 

「形成逆転だよ、ネプテューヌ」

 

 ネプテューヌはMG隊からの集中砲火を軽やかに躱していた。展開しているオラクル中隊の内、一個小隊が遠距離からのネプテューヌへの攻撃に当たっていたけど、残念ながら捉え切れていない。

 その小隊各機の横を駆け抜け、距離を詰める。さっきまでは、仕掛けるにも下がるにもモンスターが動きを阻害してきたけど、今は違う。MG隊と艦砲射撃によって開かれた空間へ、私は突っ込む。

 

「逆転…ね。これも貴女の計算の内かしら?」

「当然、オリジンハートたるこの私は何から何まで計算尽く…と、言いたいところだけど…私が考えていたのは扉を抜けるところまで。天界に出たのも、こうして皆の力で形成逆転出来たのも、幸運だったからに他ならないよ。…ただ……」

「ただ?」

「私は皆を信じていた。天界だと分かった時点で、来てくれると確信していた。…ネプテューヌなら、訊くまでもない事でしょう?」

 

 接近してくる私を見た(相変わらずはっきりとしない姿ではあるけど)ネプテューヌは、動きを止める。私が距離を詰めた事でMG隊も攻撃を止め、モンスターの迎撃に移ってくれる。

 狙っていた事ではないし、扉がどこに繋がっているかを知らなかった以上、計算なんてしようがない。でも、信じてはいた。信じられる味方が、ここにはいた。そして、その結果がこれ。特別な事なんて何もない、これまでと同じ『信じる』という選択を私はしただけで…信じる事の強さは一緒に見てきた筈だよね?…と私はほんのちょっぴり笑い掛ける。

 それに対する返答はない。表情が見えないから、何を考えているのか分からない。でも、なんであれ…私がやる事は、一つ。

 

「…見ての通り、私にもう余裕は全くない。だから、最後にもう一度だけ訊くよ。話してくれる気はないの?」

「…自分が勝ったら話させる、そうだったんじゃないの?」

「……分かった。なら…すぐに終わらせる…ッ!」

 

 翼を広げ、圧縮シェアエナジーの解放も用いて一気に肉薄を掛ける。迎え撃つべく、ネプテューヌはエクスブレイドを精製し…けれどそれが放たれるより早く、私は手の内で精製した投げナイフを投擲。投げ放った直後にナイフにも圧縮シェアエナジー解放を掛ける事で爆発的加速を掛け、エクスブレイドを完成前に破壊する。

 基本が巨大剣であるエクスブレイドより遥かに小さい、だからこそ精製に掛かる時間も短いナイフだからこそ出来る、形成そのものを阻む形での破壊。それと共に私は肉薄し、残る力を込めた渾身の一撃を……

 

「そうね、終わりにしましょうか。──クロワール!」

「……っ!」

 

 反射的に、飛び退く。そこを突く形で打ち込まれた飛び蹴りは交差させた両腕で受け、振り抜く形で下がりながら弾き返す。

 失念していた。大部屋からの離脱以降全く姿を見せない事と、自ら戦う姿をこれまで一度も見てなかった事から、頭のどこかで「逃げて高みの見物でもしているのだろう」と考え、そのままその存在そのものを忘れてしまっていた。けど、そうだ…まだ彼女がいる。次元の扉を開く事が出来る、どういう訳かダークメガミを呼び出す事も出来るクロワールが、私は勿論、恐らくネプテューヌ以上に余裕な状態で残っている。

 

「へいへい、呼んだかよ」

「呼んだわ。ついでに、貴女の存在そのものを活用させてもらったわ」

「……!…一杯食わされた訳か……」

 

 やっぱりどこかで見ていたのか、本に座った状態で飛んでくるクロワール。呼び掛けに対するネプテューヌの返しで、先程の声はクロワールへの合図ではなく、クロワールへの合図だと私に思わせ警戒させる為のブラフだったと気付いて、私の中で悔しさが滲む。

…でも、それだけじゃない。どうやらさっきの声自体はブラフでも、まだ何か向こうには…ネプテューヌには考えがある。そう思わせる気配が、ネプテューヌから漂う。

 

「クロワール。ご覧の通り、見事に状況をひっくり返されたわ。出来ればもう少し着実に進めたかったけど…プラン変更よ」

「プラン変更?どうする気だ?」

「強硬策に出るわ。ここまでのんびりしてたんだもの、何か用意してるんでしょう?」

「つまり、俺任せかよ…ま、じっくりやられても退屈なだけだし、そっちの方がいいけどよ。そういう言い方すんなら、文句は言うなよ?」

 

 教会内で会った時と同じように余裕な態度のクロワールは、ネプテューヌからの問いに返す。そしてクロワールからの返答に、ネプテューヌは頷く。

 

「やり方は任せるわ。上手くやって頂戴」

「急に呼んで上手くやれなんて、人使いが荒いな。そういうとこも、あいつそっくりだぜ。それと…もう、準備は進めておいたぜ?」

「……っ!させるか…ッ!」

 

 にぃ、と口角を上げると共に、クロワールは上昇。そのクロワールを止めるべく、私も急上昇を掛ける。クロワールが何をしようとしているのかは分からないけど、何にしても止めなきゃいけないのは間違いない。

 そんな私を阻むように、ネプテューヌもまた上昇を掛け立ちはだかる。ならばと私はサマーソルトキックを仕掛ける。この攻撃は敢えてネプテューヌに躱させる事で道を開き、宙返りからの再上昇…というのが私の狙いだったけど、ネプテューヌは読んでいたのか、それとも偶々か、さっきの私の様に腕を交差させての防御を選択。蹴りを入れる瞬間、圧縮シェアエナジー解放を乗せる事で大きくネプテューヌを跳ね飛ばせはしたけど、再上昇が一瞬遅れる。その一瞬が…響く。

 戦闘全体を見渡せる程の高度まで上昇したクロワールは、自身を起点とするように大きな魔法陣を展開。そこからクロワールは手を掲げ…空が、歪み出す。

 

「何よ、あれ……」

「各機、モンスターの迎撃を続行しつつ異変に警戒!アヴァラス、観測とデータの共有を!」

 

 瞬く間に広がっていく、電撃を迸らせながら深まっていく歪みを前に、枢機部隊(カーディナル)にも動揺が生まれる。けど、それが広がる前にサクリスタン特務中佐が声を上げ、アヴァラスの方からも指示が飛ぶ。モンスターに対しては優勢だったおかげで、戦線に大きな乱れが生まれる前に各員動きを取り戻す。

 枢機部隊(カーディナル)の方は心配ない。けど、問題は更に大きくなっている。空を侵食するように広がり、濃密さを増し……そして、収束。巨大なエネルギーの塊となって、ビリビリとした威圧感を放つ。

 

「……──!?これは…この力は……」

 

 一瞬でも見れば一目瞭然。見なかったとしても、肌で、神経でそれがどれだけ強大なのか…危険なのかを感じ、理解する。

 けど、私が愕然とした理由はそれだけじゃない。最大の理由はそこにはない。強大な力、危険な力……それは、シェアエナジーの力。それも、私が知る中で最大級に凶悪なもの。…そうだ、間違いない…これは──キセイジョウ・レイのものだ。

 

(なんで、クロワールがレイの力を…。…いや、でも確か……)

 

 当然ながら、人の思いが元になるシェアエナジーの在り方は、女神によって違う。同じ国の女神であっても、似ている場合はあっても同一という事はなく、だからここでレイのシェアエナジーを感じるという事は絶対におかしい。それにそもそも、クロワールは女神じゃない筈。女神でもないクロワールが、シェアエナジーを行使するという事もまた、通常あり得ない。

 だけど、私は思い出す。あの戦いの後ピーシェから聞いた、オリゼとレイの戦いの最後を。クロワールが、レイから力を掠め取っていったのだという事を。であれば、レイの力が今ここで現れた事については理解が出来る。何故クロワールが行使出来るのかについても…推測に過ぎないけど、シェアエナジー…女神の力としての真っ当な使い方じゃなく、単なるエネルギーとして使うだけなら、楽ではなくてもあり得ないとまではいかないかもしれない。

 

「改めて見ると、恐ろしい程の力ね」

「だろ?レイはどうしようもねー女神だったが、とびきり凄ぇ女神でもあったって事だ。…これはレイの、次元の壁をぶち破る程の女神の力…その一端だ。俺にゃとても使いこなせねーが…ただ爆発させるだけでも、どうなるかは分かるだろ?」

「……っ…させるものか、アヴァラス!」

 

 そうだ、聞くまでもない。心の中でそう結論付けた私は、巨大剣を作り出し射出。同時にアヴァラスへと声を上げ、応えるようにアヴァラスが備える砲が輝く。メガビームキャノンとメガレールキャノン…光実それぞれの主砲がエネルギーに向かって放たれる。

 轟音を響かせながら放たれた光芒と砲弾。私の放った巨大剣と共に、砲撃はエネルギーの塊へと直撃し、衝撃波が広がる。直撃地点から、爆ぜるように電撃が走る。…けど、それだけ。エネルギー塊に一瞬波紋も広がったようだけど、その威圧感が変わらないまま。

 

「弾かれた…いや、飲み込まれただと…!?」

「おいおい、そんな攻撃で何とかなると思ってんのか?そう思ってんなら考えが甘ぇし…あんまり下手な事するんじゃねーよ。この状態で下手に刺激したら、暴発して全員消し飛ぶかもしれねぇぜ?」

「であれば、使い手を止めるまでッ!」

「それもどうだろうな。既にこいつは俺の手を離れてる状態かも……」

「いいや、それはない。自らの『楽しみ』の為にここまで大掛かりな事をする者が、見物の半ばで潰えるような選択をするものか…ッ!」

「はっ、よく分かってるじゃねぇか。…やれるもんならやってみろよ。やれるもんなら、な」

 

 驚きの声を艦長が上げる中、クロワールはこちらに脅し紛いの言葉を掛けてくる。そんなクロワールを、クロワールが引き出した極大のエネルギー塊を、なら仕方ないねと放っておく理由なんてどこにもない。

 クロワールを捕らえるべく、私は動く。けれどクロワールもそうする事は分かっていたようで、一度下ろしていた手を再び上げ、放るようにゆっくりと振る。次の瞬間、展開していた魔法陣は輝き…エネルギー塊は、動き出す。こちらに…アヴァラスに向けて、動き始める。

 

「……ッ!クロワール…ッ!」

「言ったろ?よく分かってるじゃねぇかってよ。俺はまだまだ楽しみ足りねぇんだ。お前等もそうだってなら、戦いなんざ止めて逃げるこったな」

「勝手な事を…ッ!」

 

 怒りを込めた声を上げる。下がるクロワールを追い掛ける。逃がす気はない。でも…悔しいけど、クロワールの揺さ振りは的確だった。

 速くはない。けれどその威圧感は一切崩れる事なく、エネルギー塊はアヴァラスに迫る。少しずつ、着実に距離を詰めていく。アヴァラスは先の攻撃が通用しなかった事から、エネルギー塊の端に砲撃を与えて軌道を逸らそうとするけど、その動きは変わらない。…そんなエネルギー塊が少しずつでもアヴァラスに迫る中で、クロワールだけに集中するなんて…そんな事は、出来なかった。

 

「悪いとは思っているわ。貴女からすれば、戯言に聞こえるでしょうけどもね…ッ!」

「ネプテューヌ…!まさか、これを許容する気なの…!?もし本当に止められなかったら、その時は…ッ!」

「…分かっているわ。分かった上で、よ」

「……──ッッ!何が…何が、『分かった上で』だぁああああああッ!」

 

 距離を詰めようとする私を側面から襲う、ネプテューヌの一撃。寸前で躱した私は、クロワールを追走するべく、ネプテューヌを振り切るべく飛び回りながらも、ネプテューヌへ言葉をぶつける。もしあれが炸裂したのなら、中でも渦巻くエネルギーが解放されたなら、仮にアヴァラスが防御装備ををフル稼働させたとしてもどうなるか分からない。最悪、完全に消し飛ぶ可能性もある。それを許容するのかと、人を消し飛ばす側に回るつもりなのかと、武器を射出しながら問い質す。

 それに返ってきたのは、分かっているという言葉。分かっていると、理解していると言う。その言葉には、後ろめたさを感じているような響きがあって……私の中で、感情が爆ぜる。クロワールへ抱いたもの以上の怒りが頭の中を埋め尽くし、吠えると共に反転する。ここまでは振り切ろうとしていた私が急に反転した事でネプテューヌが急ブレーキを掛ける中、全力の加速で一気に私はネプテューヌへと肉薄し、防御体勢を取ったネプテューヌの腕を掴む。勢いのままに、ネプテューヌを眼下に投げ飛ばす。

 

「く……ッ!」

「分かっているだと?抜かせ、抜かすなネプテューヌ…ッ!そんな理解に、何の意味がある…ッ!そんな覚悟に、何の価値がある…ッ!その結果犠牲になるのは覚悟した者ではない、人々だ…ッ!私の、国民だ…ッ!それをッ!そんな言葉でッ!片付けようとするなぁッ!」

 

 ネプテューヌが落下しながらも体勢を立て直そうとする中で、私は精製した武器を乱射。尚且つ突っ込む。放ちながら、手にした武器を怒りのままに叩き付ける。

 許せなかった。ネプテューヌが許容する事も、分かってるなんて言葉で飲み込み終わらせようとしている事も…何より、ずっと共に戦ってきたネプテューヌがそんな意思を示す事も。見たくなかったし、聞きたくなかった。

 

「事情があると思っていた、話せない理由があるんだと思っていた、だから否定まではしなかった!だからこそ、無理矢理にでも話そうと思っていた!すぐには無理でも、今は戦うしかなくとも、どこかで手を取り合えると、これまでと同じように道が重なる筈だと、そう信じていた!だが、それがネプテューヌの答えだと言うのなら、私はそれを否定する!捩じ伏せる!落ちろ…どこまでもッ!」

 

 力の全てで、力の限りで圧倒する。惜しみなくシェアエナジーを収束し、解放し、ネプテューヌを押し込む。剣を、拳を、脚を振るい、力と怒りを放ち続ける。

 リバースフォームの膨大な力も相まって、私はネプテューヌの反撃を許さない。防戦一方に押し込み、着実にダメージを与えていく。武器による攻撃こそ防がれているけど、そうでない攻撃はネプテューヌの体力を削っていく。…そのネプテューヌからの答えはない。答える気なんてないのか、答える余裕がないのか…そんな事は分からない。でも、答えないのなら、このまま落とすまで。果てなき空の底へと、撃墜するだけ。

 

(…何故、答えない…なんで答えてくれないの、ネプテューヌ…ッ!)

 

 打ち付けた斬撃で防御を崩し、懐に飛び込む。肘に圧縮シェアエナジーの解放を受けて加速した殴打を、顔の位置へ全力で振り抜く。

 答えてほしかった。そうじゃない、そういう事じゃないと、私の認識を、言葉を否定してほしかった。今も怒りは私の中で荒れ狂っているけど、同時に心の違うところでは、間違いである事を願っていた。…だって、友達なんだから。ずっと一緒に、共に同じものを目指して、望んで、笑い合ってきた、大事な友達なんだから。だからこそ許せなかったし、だからこそ信じたくなかった。

 嗚呼、でも覆らない。ネプテューヌからの、違うんだという言葉はない。それに悲しさが増しながらも、私は変わる事なく攻め続ける。女神としての私が、私の意思と信念が、私の身体を動かす。私の殴打を受けて落下するネプテューヌを追い掛け、迎え撃つ蹴り上げを躱し、再び懐に飛び込んでの打撃を……

 

「……ぁ、ぐッ…!」

 

 その瞬間、私の身体の動きが鈍る。躊躇ったんじゃない。意思が揺らいだ訳でもない。…身体の限界が、近付いていた。これまでは痛みで済んでいた、痛みを堪えれば何とかなっていた怪我の影響が、戦闘続行と、身体を強引に振り回すようなリバースフォームの運用によって、いよいよどうにもならない域へと至ってしまっていた。

 鈍った私の動きを、ネプテューヌは逃さない。甘くなった攻撃を紙一重で避け、体当たりで返してくる。超至近距離からの身体全体を使った攻撃は避けられず、私は真正面から押し返される。

 

「…どんな言葉を掛けられようとも、どんな風に思われても…わたしはわたしの意思を曲げるつもりはないわ。これはわたしの、わたしだけの…戦い、なんだからッ!」

 

 弾かれた私に、ネプテューヌの次の攻撃が飛ぶ。揺らがぬ意思を感じさせる一撃が迫り、私は防ぐ。更に放たれた打撃を、私は手首を掴む事で止め、逆に私も殴打で返す。ネプテューヌもまた、私と同じ方法で受け止める。互いに相手の拳を阻みながら、自分の拳を通そうと力を込める。

 さっきまでならシェアエナジー量に物を言わせた力尽くの突破も出来た。けどもう今は、下手にそれをやると逆に動きが鈍ってやられかねない。だから私はリバースフォームである事を活かせず、ネプテューヌも押し切るには至らず…ぶつかり合う私達の上空を、エネルギー塊が通過していく。

 

(…そうだ…何をやってるんだ私は…!今私がするべきなのは、怒りをぶつける事じゃない…国民を、信じてくれる人を守らないで、何が女神だオリジンハート…ッ!)

 

 否が応でもその存在を意識させるエネルギー塊。それが近くを通過した事で、私は我に返る。私が真にすべき事を、為すべき事を思い出す。

 けれど、どうする?やるべき事を思い出しても、やる方法が見つからなくちゃどうにもならない。エネルギー塊を何とかする…言葉にすれば単純だけど、その方法が分からない。単なる力押しが通用しないのはもうはっきりしているし、暴発の危険を考えると、さっき以上の攻撃で…というのも現実的じゃない。

…いや、とにかくまずは退避だ。幾ら強大な力とはいえ、元々この力を有していたのはレイで、そのレイはオリゼに倒されている。本来の持ち主が絶対の存在でない以上、その力の一端に過ぎないこのエネルギー塊も、退避含めて何とかする方法はきっとある。そして幸い、ここは天界。アヴァラスの移動を阻むものはないし、一応の修理は出来たようで、取り敢えずアヴァラスは飛べてはいる。逃げる事だって、不可能じゃない。教会での逆転を思い出せ。やれる事、やるべき事、今ここにある選択肢を考え、確かめろ。そうすればきっと、私と皆の力を合わせればきっと、あの極大のエネルギー塊から皆を守る事だって……

 

 

 

 

 

 

……──いや、待った…天界に、極大のエネルギー…?…これって、確か…あの時は、確か…。

 

「…ぁ……」

 

 私は、思い出す。振り返れば、ずっと前…遥か昔に感じるような、出来事を。ある戦いの中での、一場面を。思い出し、思い返し…思い付く。逆転の一手を。今ここで取る事の出来る…眼前の危機どころか、そもそもの状況を完全にひっくり返せるだけの、とびきりの案を。

 それは、確実に成功すると言えるようなものじゃない。聞いただけで、実際には実現する事なく終わったものだから、本当に上手くいくとは限らない。でも…いける。きっと……いける。

 

「その動き…漸く限界間際まで来たようね…ッ!」

「……っ!」

 

 気付きは私の意識を外側から内側に向けさせ、動きを甘くさせた。ネプテューヌは私を振り払い、それと同時に反転からの後ろ蹴りを打ってくる。咄嗟に私は盾を精製し、弾かれながらもそれで防御。一度ネプテューヌとの距離は空き…私は動く。即断即決、迷いはない。

 

「限界間際?そう思うのなら…これを、受けてみるがいい…ッ!」

 

 言い返すと共に、私は巨大剣を精製する。本当に巨大な、大型モンスターやMGすら容易に両断し得る…戦闘艦に対してですら脅威となり得る程の、超巨大剣を作り出す。

 これには流石にネプテューヌも驚愕。規格外のサイズは相手に大きな警戒心を抱かせる効果もあって、そのおかげでネプテューヌはさっきの私の様な「完成前に破壊する」という手を取らず、こちらから距離を取ってくれる。結果私は完成させる事が出来、精製完了と共に振るう。圧縮シェアエナジーの解放を振るう推力に当てながら、超巨大剣の横薙ぎを掛ける。

 

「なんて無茶苦茶な…!でも、そんな鈍い攻撃で…ッ!」

 

 振るった超巨大剣はネプテューヌに迫る。けれどネプテューヌは驚きの声を上げながらも斬撃を引き付け、その上で上昇。飛び越える形で超巨大剣を躱し、尚且つ私へ向かってくる。

 超巨大剣は超巨大なだけあって、軌道修正が困難。ネプテューヌの接近は恐らくそれを見抜いての事で、実際この攻撃はもうネプテューヌに当たらない。超巨大剣による斬撃を当てる事は、ほぼ不可能で……だからこそ、私は笑う。

 

「…如何に巨大でも、避けてしまえば怖くない、当たらなければどうという事はない…だってこれは剣で、斬撃で、横薙ぎだから──そう、()()()()()ね?」

「……──ッ!?」

 

 自然と浮かんだ笑みと共に、私は超巨大剣を解放する。ネプテューヌが迫る、刀身の上を飛ぶ、きっと『完全に躱した』と思っているタイミングで……真の攻撃を、ネプテューヌに放つ。

 刀身を内側から砕くようにして現れる、多数の鎖。形だけの、張りぼての刀身の中に仕込んでおいた、圧縮シェアエナジーによる本命の一撃。完全に不意を突かれる形となったネプテューヌは、それでも恐らくは反射的に避けようと身体を捻るけど…そうなる事まで踏まえての、多数展開。数本避けられようとも、残りの鎖でネプテューヌを捕らえ、避けられた鎖も振るう事で軌道を変えて絡ませる。

 

「捕縛…!?だけど、こんなもの…ッ!」

「甘いッ!斬れるものなら…斬ってみろッ!」

 

 言うが早いか、ネプテューヌは小型のエクスブレイドを精製して鎖へ射出。通常よりも小型のものを精製したのは、さっきみたいに私に阻まれるのを避ける為なのか、それを次々と放ってくる。小さい分、一本で鎖を一網打尽…という事にはならないけど、そこを数で補ってくる。

 でも、私だってそれをただ眺めるような事はしない。私は全て断ち切られるより先にネプテューヌへと接近し、自分にも鎖を絡ませる。それによって、私はネプテューヌと密着し、エクスブレイドによる対処を封殺。

 

「……っ、また…!」

「逃がさない…高みの見物もここまでだ、クロワール…ッ!」

 

 強者相手の戦いでは、同じ手を二度使えば二度目は大概見切られる。けれどそれは、全く同じようにやった場合。少し切り口を変えるだけでその限りではなくなるし、何なら敢えて対処させ、対処出来ていると思わせたところで手の打ち方を変えて裏をかくという手法もある。今私がやったのもそれで、密着して攻撃を封じるという分かり易い策を、この手法で以って再び通す。

 そして、私の策はネプテューヌを捕縛するってだけのものじゃない。私はネプテューヌと密着したまま、圧縮シェアエナジーの解放で強引に動きつつ、更に鎖を精製し放つ。狙う相手はクロワール。精製しては圧縮シェアエナジーの解放で放ち、避けられても同様の方法で避けた先に鎖を振り出し、物量でクロワールを追い詰める。

 

「マジかよオイ…!だが、上手い事モンスターに引っ掛けりゃ……」

「女神様の周辺に火力集中!モンスターに邪魔をさせるな!」

「ちッ、優秀な部下だこった…!」

 

 鎖にしろワイヤーにしろ、こういう類いの物は障害物が多い場所だととにかく使い辛い。それを理解しているクロワールはモンスターを盾にしようとし…けれどモンスターは、オラクル中隊が処理してくれる。こっちのやり取りは聞こえていないだろうけど、私の行動から必要な事を理解しサポートの為に動いてくれる。

 その支援を受けながら、私は迫る。ネプテューヌのまともに動けないながらも仕掛けてくる妨害に耐えながら、迫り、鎖を放ち続け…そうして遂に、クロワールも捕らえる。やっぱりというか、クロワールは魔法も使えるようで、かなりの鎖が撃ち落とされはしたけども、リバースフォームの強みで打ち勝つ。

 

「ぐぇッ…!ちょっ、ギブギブ締まってる…!おまっ、このサイズの鎖を女神の膂力で締められたら、マジで潰れる…!」

「ならば全力で耐える事だな。悪いが手を抜くつもりはない…!」

「言われなくてもそのつもりだっての…!…けど、甘ぇのはそっちもだな…!もし絞め落とされる恐怖で俺がアレを止めると思ってんなら、そいつは大外れだ。残念だが、ありゃもう俺だって止められな……」

「ふっ、それも織り込み済みだ。──これで漸く、準備が整った」

 

 捕らえたクロワールも引き寄せ、私の背中に鎖で留める。私の身体を軸に二人共捕らえ、自分諸共締め上げる。対するクロワールは、声に苦痛を滲ませながらも、この行為に意味はないと言葉を返し…それを私は、一蹴する。一蹴し、エネルギー塊へと向かっていく。

 そう。ネプテューヌとクロワールを捕らえたのは、あくまで目的の為の準備。二人を逃さず、邪魔させない為に必要だったからやっただけ。

 

「アヴァラス、これより女神の名において命ずる!」

 

 エネルギー塊を追い越し、その前に出た私は声を上げる。これから発する言葉は、間違いなく皆を動揺させる。酷な命令になってしまう。それでも必要な事であり、今出来る最大の一手でもあると私は思っている。だからこそ私は躊躇う事なく、堂々たる声を上げて……言う。

 

「最大火力を以って──私を、撃て!」

 

 

 

 

 状況を根本からひっくり返す、最大の一手。今私に出来る、最善の策。それを私は言い放ち…次の瞬間、一瞬静寂が訪れた。声は勿論、一瞬発砲音もなくなり、噴射や既に放たれた攻撃の音だけが耳に届き…次に聞こえたのは、最大級の動揺の声だった。……当然だ。私は軍人に、国民に、国の長を撃てと言ったんだから。

 

「女神様…一体、何を…?」

「動揺するのは分かる。すぐに理解するなど不可能だというのも当然の話だ。…だが、これは必要な事なのだ」

「ひ、必要?話が全く見えてきません、何がどうしてそんな……」

「落ち着いてほしい。きちんと説明はする。何故必要なのか…っ、今から示す…!」

 

 指揮、統率を担う側である艦長と副長も、流石に今は動揺や困惑を隠せない様子。そんな二人に、更にはインカム越しに枢機部隊(カーディナル)全体に理由を伝えんと、私は返す。

 その間も、ネプテューヌは動いている。自分諸共縛り上げたとはいえ、ネプテューヌも女神な以上、油断は出来ない。それも含めて、早く伝えなければいけない。

 

「ここは天界だ、同じ信次元でありながら普段生活している空間…下界とは隔絶された関係にある空間だ…!君達も知っての通り、この二空間を物理的な手段で行き来する事は出来ない。私の、女神の力による移動も、今は機能していない…!」

「それは承知しています。……それと、女神様を撃つ事に、何か関係が…いや、その現状を打開する何かがあると言うのですか…?」

「その通りだ、艦長!天界と下界を行き来する手段は、通常女神の力によるものしかない。だが、移動の為の扉を開くのではなく、二空間の隔絶に『穴』をこじ開ける方法ならば、ある!膨大な、濃密な…そして規格外の出力となったシェアエナジーの一撃であれば、穴は開く!」

 

 そう。私が考えていたのは、レイの力を用いた極大のエネルギー塊…シェアエナジーの塊を利用した、下界への帰還。天界に飛ばされ戻る手段がないという、そもそもの問題を解決する手段。そして、私は一度その方法を…シェアエナジーによる攻撃で『穴が開く』という事を、女神の感覚で悟っている。嘗てマジェコンヌさんが私達との最終決戦の時、その方法で以って天界から直接下界を狙おうとしたんだから。あの時には、寸前で阻まれた…コンパとアイエフが阻んでくれたから、本当に穴が開いた訳じゃないけど…それでもシェアエナジーによって開き得るというのは、間違いない。

 私の宣言により、再び皆は一瞬静まる。だけどそれは、納得による、肯定を示す無言ではなかった。説明が進んだ事で、次なる問いが返ってくる。

 

「…しかし、それならば女神様を撃つ必要は……」

「いいや、ある。現段階で穴が開いていない以上、あのシェアエナジーだけでは足りないのは明白。同時に私の力…リバースフォームもまた、『攻撃』ではないが故に、単体では穴を開く事が出来ない。もし開けるとすれば、それは私の力とあのエネルギー塊をぶつけた場合…そしてそこに、大きな衝撃が加わった場合だ。単に私が私の力をぶつけただけでは、私が飲み込まれるか、周囲一体を壊滅させる爆発になりかねないのだ」

「……っ…だから、衝撃が…女神様を『攻撃』として押し込むだけの砲撃が必要であると…?」

「…酷な命令である事は分かっている。だが、どうか私の言葉を…頼みを聞いてほしい。必ずや、穴を開く。道を切り開く。だから……」

 

 続く艦長とのやり取り。私なりに、何故必要なのか、その結果どうなるのかは伝えられた…と、思う。勿論、理由が分かったから早速…なんて即決出来る話ではない事も理解している。だけど私はそう言うしかない。自分だけの力じゃ開けないのだから、頼む他ない。

 三度目の沈黙。肯定か、否定か。私が待つ中、きっとブリッジでも注目が集まる中、艦長は私に向けて…言った。

 

「…理解はしました。女神様のご命令であれば、我々にはそれに従う義務があります。…ですが、それでも…女神様は、我々に女神様を撃てと言うのですか…ッ!私は枢機部隊(カーディナル)の司令です、如何なる命令や作戦であろうとも従う覚悟があります…!ですが、部下には純粋な信仰心で、女神様への思いでここまで来た者、努力を重ねてきた者もいます!その者達にまで、背負えと言うのですかッ!国の長を、敬愛する主君を撃てと、それに関われと、そう言うのですかッ、女神様ッ!」

「それは……」

 

 腹の、心の底からの叫びを思わせる艦長の言葉。それが、私に突き刺さる。言葉に私の言葉が揺らぐ。

 分かっていた。分かっているつもりだった。これがどれだけ、皆にとって重い命令である事かなんて。…けど、分かっていても、直接言葉にされると、それを『命令される側』から叫ばれると、心が締め付けられる。たとえそれが最善の策だとしても、皆を帰るべき場所に返す為だとしても…次の言葉が、出なくなる。

 

「艦長の言う通りです、オリジンハート様!罪悪感などではありません。女神様をそんな危険に晒す事…それこそが、私達にとって何より辛いのです…!」

「自分は女神様をお守りしたくてここにいます!自分程度が守るなんて不遜かもしれませんが…それが私の思いなんです!それなのに、この手で女神様を撃つなんて…それでは、自分は何の為にここにいると言うのですか…!」

「下界に戻るのは、今でなくても構いません!この場を乗り切ってから、改めて考えるのでは駄目なのですか!?」

「……っ…皆…」

 

 続く形で、次々と艦長へ賛同する言葉が上がる。彼個人の意思ではない、そう思っているのは自分も同じだと、皆が思いを…私を思う気持ちを伝えてくれる。

 更に、心が揺らぐ。これが最善の策である事は間違いない。これが下界に戻るチャンスで、今後チャンスが訪れるかどうかなんて分からない。でも、誰も望まないというのなら…皆の気持ちに背を向ける行為なのだとしたら、私は……

 

「各員、アヴァラスの射線を確保。必要なのは最大火力を女神様という、戦闘艦からすれば遥かに小さい一点へ集中させる事です。ミスは許されませんよ」

「了か……え、た、隊長…?」

「正気ですか、オラクル2…!」

 

 そんな中、耳に届いたのは冷静な声。オラクル2…チュイル特務中佐は一人、先んじて行動に移っていた。

 彼の言葉に、皆は驚愕する。何人かは息を呑み、何人かは何を言っているんだ、とばかりに声を上げ…それに対し、特務中佐はすぐさま返す。

 

「正気を疑うのはこちらです。艦長も言ったでしょう、我々には従う義務があると。女神様の判断、女神様直々の指示であれば、それに従うのが当然…まさか、それすら理解していないとでも?」

「そういう話では……」

「そういう話です。女神様は道を切り開くと仰いました。女神様がそう仰ったのですから、その通りになるのは確定事項。であれば迷う必要など……あぁ、一つだけ確認しておく事がありましたね」

 

 変わる事ない、淡々とした特務中佐の口振り。そして彼の言葉は、点在する土地…そこを随時移動しながら火器で次々とモンスターを撃つ、重装仕様のキエルバ装備を纏った黒と紫の機体のコックピットから発される言葉は、皆から私へと向けられる。

 

「女神様。貴女は私達の為に犠牲となるつもりなど毛頭ない。あくまで自分の生存を前提とした上で、道を開く算段を立てた…そうでしょう?」

「…当然だ、チュイル特務中佐。私は犠牲になどならない。私は君達の、国民の為なら幾らでも命を賭けよう。だが、この命を捨てる気はない。皆が、神生オデッセフィアが、信次元が私を必要としてくれる限り、如何なる事があったとしても…我が道が潰える事はない!」

「……っ…貴女…」

「想定通りのお言葉、ありがとうございます。…守護女神オリジンハート、我が国の女神様は自らの価値を正しく理解している方です。ここで命を落とし、未来で生む利益の全てを捨てるような、短慮な方ではありません。何より…たった今、女神様は犠牲にならないと、我が道が潰える事はないと仰った。それを信じない者は、この枢機部隊(カーディナル)にはいない…そう思っているのですが、ね」

 

 私は答える。その通りだと。私はここで終わる気なんてないと。それは勿論、心からの言葉。こんなところで、私は終わらない。私は私を…オリジンハートを求めてくれる人が一人でもいる限り、女神として在り続ける。絶対に、それを裏切る事なんてしない。私がそう決めているのだから……それこそが、真実だ。

 そして、彼の言葉で空気が変わる。すぐに逆転する訳ではないけど…否定の空気は、迷いへと変わる。

 

「無茶苦茶な事を言ってやがんな…!まさか本気であの艦の砲撃を受けるつもりかよ!?粉微塵どころじゃ済まねーだろうが!」

「安心するがいい、クロワール。君の前には、女神が二人もいる。盾としては、十二分だろう?」

「……っ…本気で、受ける気なのね…」

「当然。…まさか、恐れてなんていないよね?致命傷程度じゃ死なない…それが、女神でしょ?」

 

 信じられない、とばかりの声を上げるクロワールと、私の本気を悟ったように呟くネプテューヌ。さっきもネプテューヌは、道が潰える事はないと言った時も、思うところがあるような声を上げていた。でも当然、だからと言って大人しくしていてくれる気配はない。私もまた、目一杯の力で鎖を掴んで…それと共に、感じる。力が上手く入らなくなりつつあるのを。あまりにも、無理な状態で戦闘をし続けた、血を流し続けた、元々身体に負荷の掛かる…本来なら『オリゼ』のものであるシェアエナジーを、複製体であり力に大きな差のある私が帯び続けるが故のリスクがあるリバースフォームを長く使い続けたが故の『限界』が、もう間近に迫っている事を。

 

「どうか、私を信じてほしい…!必ず道を開く、必ず君達の思いにも応える、だから……」

「だから、私達に黙って見ていろと言うの?イリゼ…!」

「……っ!」

 

 もう一度皆へと頼み込む中、聞こえたのはスカネクの声。今は艦のブリッジにいるのか、彼女に…彼女達に驚く声も聞こえる中、三人の言葉が私に届く。

 

「イリゼさん、どうしてこんな…!まさか、最初からこうするつもりで私達に……」

「…ごめん、でも違うの。この策を思い付いたのは、皆に下がるよう伝えた後。本当に、そんなつもりじゃなかったの」

「だとしても、これは…こんなのはあんまりだ!わたしは君を…イリゼを同じ目標を目指す仲間だと思っていた!スカネクや東ザナもきっとそうだ!なのに……!」

 

 仲間…乙戦ちゃんは、そう言ってくれる。東ザナちゃんやスカネクも、私の身を案じる…皆とは違う、まだ短い付き合いだからこその飲み込める訳がないという思いを、私にはっきりとぶつけてくれる。

 また、心が締め付けられる。きっと私が皆の立場なら、同じように言っている。三人が私を仲間だと思ってくれていた事への嬉しさと、そんな三人に手を貸す事も、撃つ事も出来ない…見ているしかない辛さを抱かせてしまっている事の申し訳なさが、心に募る。でも、だけど…だからこそ、言わなきゃいけない。皆がそう思ってくれるからこそ、私も私の思いを、伝えなきゃいけない。

 

「大丈夫、大丈夫だからっ!私は死なない、これで終わりになんてならない!だって私も、皆を友達だと思ってるから!ただ脱出するだけじゃない、女神として皆が自分の次元に帰るところまで力を貸すって決めてたし…今は友達として、皆を絶対悲しませないって、心に決めてるから!だから…私を、信じてッ!」

 

 信じて。…そう言うしかない。言葉で伝えるしかないのは、皆に対しても同じだけど、女神と軍人という立場ではない…付き合いだってまだ短い三人には、本当にただ、信じてもらう事しか…信じてもらえる事を、信じるしかない。

 でも…と東ザナちゃんは言う。言って、次の言葉を言いかけて…けれど、言わなかった。二人もそうだった。…それが、答えだった。私は、感謝をする。感謝をし…決意を固める。自分の言葉を、嘘にしないと。必ずや、真実にすると。

 

「私は私の思いを貫く。君達に相応しい女神の姿を、示し続ける!だから……撃てぇぇぇぇッ!アヴァラスぅぅぅぅぅぅッ!!」

「……──ッ!それが女神様の思いならば…その思いに応えるのが、我々の信ずる使命ッ!全武装、展開…!照準、女神様…ッ!」

「艦長…オラクル中隊全機、何があっても砲撃を止めさせるなッ!自らの意思で、この思いに応えてみせろッ!」

 

 私の思いに応え、今の位置から狙える全砲門が私の方を向く。ミサイルの発射管が開く。サクリスタン特務中佐…オラクル中隊長の声も響き、マエリルハ各機が飛び、駆ける。

 皆は、選んでくれた。私を、私の言葉を信じる事を。だから次は、私の番。私が私の言葉を真実にし…皆の思いに、応える番。そして……

 

「我が力、我が思い…全身全霊の全てを掛けて、道を拓く…ッ!開き、私は…私も、その先へと進む…ッ!」

 

 放たれる一斉射。噴射炎をなびかせながら、電流を迸らせながら、閃光を放ちながら、アヴァラスの砲撃が私に迫る。それを眼前で見据えながら、私は力の限りを尽くす。もう限界の身体で、それでもリバースフォームの力を極限まで引き出し、極大のエネルギー塊…そこに収束された力を凌駕せんばかりのシェアエナジーを宿しながら、背後にそびえるエネルギーへ突っ込む。

 これで後は、タイミングを合わせるのみ。私がエネルギー塊に触れる瞬間と、一斉射が私に届く瞬間を、同じにするのみ。

 恐れはない。不安もない。あるのは確信のみ。やれる、やってみせる…やれるに決まっているという、思いのみ。大丈夫。私は応える。応え切る。それが私、それが女神、それが──。

 

 

 

 

 

 

「……大したものね。その思いには、意思には、敬意を表するわ。だけど──わたしの、勝ちよ」

 

……その時だった。その瞬間だった。初めて柔らかな…演技ではない、本当の柔らかさがある声をネプテューヌが発し…元の姿に、戻ったのは。戻ると共に、鎖の拘束から逃れたのは。まるで()()()()()()()()()()、鎖がすり抜けてしまったのは。

 ネプテューヌが流れた事により、一人分の空間が開いた事により、拘束能力を失う鎖。直後、背後からクロワールも逃れる。二人は逃れ、離れ…私だけが、取り残される。

 

(……っ…!…そっ、か…そうか、ネプテューヌ…貴女は……)

 

 最後の最後、本当に最後で打たれた一手に度肝を抜かれた私は、対応が出来ない。仮に対応出来たとしても、穴を開ける為には、ここから離れる事は出来ない。

 逃れる直前、ネプテューヌは私の方を向いた。私と目が合い、その瞳を見て、今起こった事と、ここまでの不可解な姿や、長剣を使われた際の違和感、結局ネクストフォームを使わなかった事や、それ以外にもこれまでの色んな事が繋がって…一つの可能性に至る。半分以上は感覚的な、上手く言葉に出来ないようなものだけど…今ここにいるネプテューヌの、『意味』が何となく見えてくる。

 でも、そこまでだった。私の思考が続いたのは、私が認識出来ていたのは、それまでだった。迫る光が私の視界を覆い尽くし、砲火の音がそれ以外の一切が聞こえない空間を作り上げ、その中で私はシェアエナジーを放ち続け……そして、穴は開く。開くと共に──私の意識は、途絶えた。




今回のパロディ解説

・「〜〜この私は何から何まで計算尽く〜〜」
ジョジョの奇妙な冒険 戦闘潮流の主人公、ジョセフ・ジョースターの名台詞の一つのパロディ。この台詞は言ってみたいですよね。まあ、これに限らず名台詞って割と言ってみたいものが多いですが。

・「〜〜落ちろ…どこまでもッ!」
カードファイト‼︎ヴァンガード will+Dressの登場キャラの一人、狐芝ライカの代名詞的な台詞の一つのパロディ。天を落とす時が来た…は、女神も基本天側だと思うので、味方サイドでは中々入れ辛いですね。

・「〜〜当たらなければどうという事はない〜〜」
ガンダムシリーズの登場キャラの一人、シャア・アズナブル(キャスバル・レム・ダイクン)の代名詞的な台詞の一つのパロディ。バトル回では色んなところで入れられる場面のある、汎用性の高い台詞ですね。

・「〜〜撃てぇぇぇぇッ!アヴァラスぅぅぅぅぅぅッ!!」
機動戦士ガンダムSEEDに登場するキャラの一人、ナタル・バジルールの名台詞の一つのパロディ。何気に誰かを道連れにしようとしてるところも同じです。…逃げられてますが。イリゼも死ぬ気はゼロですが。
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