超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

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第十五話 その思いがのしかかる

 プラネテューヌ大博覧会プレオープンは、無事…とは言えないけれど、終了した。問題はあったけども、何とか破綻する事なく、成功って言える形で終了をした。

 沢山の人が、満足をしてくれたと思う。出店や展示を行った皆さんも、お客さん達も、楽しんでくれていたようにわたしには見えた。運営スタッフの皆さんは、大変だったと思うけど…やり切る事が出来て良かった、成功させられて嬉しい…そんな声も、聞く事が出来た。だからわたしは、やっぱり成功だったと思ってる。完璧ではなくても…ううん。反省点や改善点も見えたからこそ、プレオープンとしては十分成功と言えるものになっていたと、感じている。…でも…お姉ちゃんは、そうじゃないみたいで……。

 

「んーっ……やっぱり大変だった次の日のお休みは、機械弄りをするに限るなぁ…」

 

 作業室で伸びをして、はんだ付けしたばかりの基盤を眺める。市販品に組み込まれている、無駄のない作りも勿論素敵だけど…というか、設計した人や形にした人の技術や努力が感じられる基盤の作りはどんなものでも惚れ惚れするけど、そこに手を加えて、より自分が望む形、してみたい仕様に改造してみるのも凄く楽しい。そうして出来上がったものを眺めるのも、また楽しい。はぁぁ…自画自賛になっちゃうけど、この配置の仕方は絶対良い、絶対良いよぉ……♪

 

「ここからはどうしようかなぁ。もうちょっと調整してみるのも良いけど、早速これを組み込んでみたい気持ちもあるし……」

 

 まだはんだ特有の匂いが残る中で、わたしは基盤を矯めつ眇めつしながら迷う。どっちもやりたい、どっちも選びたい。でも、当然二つの事を同時にやったりは出来ない訳で…うぅぅ、どっちからやろう…!

 と、迷っている中で不意に聞こえた、くぅぅ…という気の抜けた音。すぐ側で聞こえたその音は、一体なんだろうと思って…気付く。それが、わたしのお腹の音だった事に。

 

「あ…もうこんな時間だったんだ…」

 

 自分が空腹だったんだと気付いたわたしが時計を見れば、今はもうお昼前。お昼ご飯を食べるには、ちょっとだけ早い感じだけど、朝ご飯を食べてからずっと機械弄りをしていたから、もうお腹が減っているのも当然の事。

 別に耐えられない程お腹が減ってる訳じゃないし、今は食事よりも続きをしたい。けど、このまま続けたら作業をしている間も空腹が気になっちゃうだろうし、充実した時間を過ごすなら、何か別の事に気を取られる…みたいな状態にはしたくない。だから一旦お昼休憩にしようとわたしは決めて、部屋を出る。

 

「あ、いーすんさん。お疲れ様です」

「ふふ、今日はわたしもお休みですよ。ネプギアさんは、ゆっくりと休めていますか?(´・∀・`)」

「はいっ!朝から機械弄りを満喫していますっ!」

「それは…ゆっくりと休めてはいないというか、頑張った翌日にやる事ではないのでは…?( ̄◇ ̄;)」

「え、でも…好きな事ですし、全然大変なんかじゃないですし……」

 

 えぇ…?…という反応をするいーすんさんに、わたしは「そんな事言われても…」って気持ちで返す。するといーすんさんは、まぁネプギアさんが良いのであれば良いですが…って言ってくれたけど、それでもちょっと、何とも言えない感じの表情をしていた。

 

「まあそれはともかく、これからお食事ですよね?(・ω・`)」

「そうです。気付いたらもうこんな時間で……」

「ネプギアさんは本当に機械がお好きなんですね。寝食を忘れる、という言葉がありますが、正にその通りというか……あ(・Д・)」

「……?いーすんさん…?」

「寝食といえば…ネプギアさん、ネプテューヌさんはまだ寝ているんですか?(´・Д・)?」

 

 自分の言葉である事に気付いたいーすんさんは、わたしにそれを訊いてくる。訊かれたわたしは、ずっと作業室にいたから断言は出来ない、と前置きをした上で、多分そうだと返答をする。

 今日はまだ、お姉ちゃんの姿を見ていない。元々お姉ちゃんはのんびり寝てるタイプだけど、お昼になってもまだ寝てる…って事はあんまりない。

 

「そうですか…。昨日はネプテューヌさんも色々と大変でしたし、その分の疲れで熟睡しているだけならいいのですが……」

「…大丈夫ですよ。だって、お姉ちゃんですもん。きっとその内起きてきて、『いやぁ、どこかのノワールじゃないけど寝ればすっきりするものだね!』…って言ってくれますよ」

「かも、しれませんね。…まぁ、あんまりすっきりされ過ぎても困るというか、ミスはミスとして、ちゃんと次に繋げてほしいものですけど…(~_~;)」

「そ、それはまぁ…流石にお姉ちゃんも、そこまでまるっとすっきりはしないかと……」

 

 そこまでではない筈…といーすんさんに返しながらも、わたしは苦笑い。いーすんさんも、苦笑い。何かこう、何とも言えない感じの苦笑いをお互い浮かべて…気を取り直すように、わたし達はお昼ご飯へ。いーすんさんは午前中何をしていたか訊いたり、わたしのしていた事を具体的に話したり、それにいーすんさんがまた苦笑いしたり…そんなやり取りを交わしながら昼食を取って、お昼休憩の時間を終える。

 お昼の後は、また作業室に戻って機械弄りを…最初はそう思っていた。でも、いーすんさんとお姉ちゃんについて話した事で、お昼ご飯の間もお姉ちゃんは起きてこなかった事で、本当にお姉ちゃんは大丈夫なのか…そんな思いが、今は頭の中を占めている。

 

(お姉ちゃんだもん。大丈夫…大丈夫だと、思うけど…)

 

 さっきはいーすんさんに大丈夫だって言ったけど、あの時からちょっとだけ不安な気持ちもあった。今もそれは変わらなくて、さっきよりも不安は強くなっている。

 だからわたしは作業室へ戻るより先に、お姉ちゃんとの共用部屋に。そこにもお姉ちゃんの姿はなくて、わたしはお姉ちゃんの部屋の前へ。

 

「お姉ちゃーん?まだ寝てるのー?」

 

 扉越しに、声を掛ける。でも、反応はない。次にわたしはノックをする。それにも、反応はない。少し待ってから、もう一度声を掛けて…やっぱり、何も返ってこない。寝てるのか、聞こえてるけど反応してくれないのか、それともそもそも部屋にいないのか…これじゃ全く分からない。

 最後にもう一回だけ、少しだけ待って、わたしは「入るよ」と言う。扉を開け、中に入り、ベットを見る。

 

「もうお昼だよ、お姉ちゃん…って、あれ?いない…?」

 

 寝てるんじゃないかな、と思っていたわたしだったけど、ベットにお姉ちゃんの姿はない。あれ、おかしいなぁ。いつの間にか出掛けちゃったのかな?…そんな風に思いながら、わたしは何気なく部屋の中を見回して…気付く。床に、転がるようにして、お姉ちゃんがうつ伏せになっている事に。

 

「お姉ちゃん!?」

 

 気付いた直後、わたしは駆け寄る。もしかしたら、ひょっとしたら、ただ寝てるだけじゃないのかもしれない…そうは思っていたけど、こんな事は微塵も想像していなかった。

 駆け寄ったわたしは、すぐさま…でも慎重にお姉ちゃんを仰向けにする。身体にぱっと見で分かる外傷はない。それにはほっとしたけど、まだ安心は出来ない。だからわたしはお姉ちゃんの肩を軽く叩きながら呼び掛けて…何度か呼んだところで、お姉ちゃんの瞼が震える。震え、ゆっくりと目を覚ます。

 

「うぅ、ん…ネプギア……?」

「よ、良かった…お姉ちゃん、何があったの…?一体、何が……」

 

 お姉ちゃんが目を開けてくれた事で、今度こそわたしは安堵。安心感から肩の力が抜ける中、お姉ちゃんはゆっくりと見回して…それから、言う。

 

「に……」

「に?」

「…二度寝しちゃった…」

「……えぇ…?」

 

 状況を理解したのか、若干言い辛そうにしながら発された答え。二度寝…つまり、一回起きてまた寝てただけ。それを知ったわたしは一瞬思考が止まって…ぽかーんとなった。

 

「二度寝、って…床で…?」

「や、その…起きようと思って起きたんだけど、起きてもやっぱり眠くて…で、ここにクッションがあったから、頭がすーっとクッションの方に……」

「なんでそんな自分の意思じゃないみたいな言い方を…。…じゃあ、調子が悪いとかじゃないんだね?」

「それは……」

「…やっぱり、どこか悪いの…?」

「…寝てた体勢のせいか、ちょっと身体が痛いかなぁ…」

「うん、まぁ…それは、うん……」

 

 取り敢えず、お姉ちゃんは体調が悪くなったとかではないらしい。ふぅ、良かった良かった。心配になっちゃったけど、何もないっぽくて本当に良かった。……紛らわしい事しないでよ、なんて思ってたりはしませんよ…?

 

「えっと…それで、なんだっけ?レールガンとリニアガンとコイルガンの違いの話をしてたんだっけ?」

「そんな話は微塵もしてないし、そういう話に興味を持つのもわたしとユニちゃん位だよ…。…あ、でもアイエフさんも興味持つかな…後、パーティーメンバーの皆さんなら他にも……」

「あ、うん…そうだね、意外といるね。興味持ちそうな人……」

 

 指折りわたしが数えようとすると、お姉ちゃんの方がより呆れた顔をする。元はと言えば、お姉ちゃんが言った冗談なんだけど…そこはまぁ、お姉ちゃんだもんね…。

 

「こ、こほん。お姉ちゃん、もうお昼だよ?」

「え、そうなの?…おおぅ、がっつり二度寝しちゃってる…ごめんねネプギア。お休みなのに、わざわざ起こしに来させちゃって」

「ううん、この位なんて事ないよ。ほら、ご飯食べよ?って言っても、わたしはもう食べちゃったんだけどね」

 

 流石にもう目が冴えた様子のお姉ちゃんと一緒に部屋を出る。二人で廊下を歩きながら、もう一度わたしはほっとする。

 

(良かった。お姉ちゃんが、元気で)

 

 さっきの安心は、お姉ちゃんが体調不良とか誰かに襲われたとか、そういう訳じゃなかったと分かったからのもの。でも今度の安心は、心へのもの。もう完全に切り替えている…かどうかまでは分からないけど、引き摺ってはいない。そう感じられたからこその、安心。

 

「ネプギアは、機械弄りしてた?」

「へ?…そうだけど…どうして分かったの?」

「どうしても何も、ネプギアのメカオタ具合はよーく知ってるからね。ユニちゃん達もいないなら、そうじゃないかな…って思ったんだ」

「そっか。流石お姉ちゃん、わたしの事は何でもお見通しなんだね」

「お姉ちゃんだからね。ネプギアの事なら、何でも知ってるつもりだよ。身長や体重、趣味や日課は勿論の事、今の視力やお風呂ではどこから洗うかとかまで……」

「いや怖い怖いそこまで把握されてるのは普通に怖いよ!?お姉ちゃん対精霊部隊の一員さんみたいになってない!?」

「…でも正直、視力以外は調べようと思えば割と……」

「ま、まあ一緒に住んでる姉妹だしそれはそうだけど…趣味や日課は知ってても普通だし、お風呂も一緒に入る時に見てれば分かる事だけども……」

 

 またもやわたしの返しでわたしより先に冷静になるお姉ちゃん。冗談のエキセントリックぶりも、やっぱりわたしの知ってるお姉ちゃんで、これなら何も心配する事はなかった…のかもしれない。

 

「それはともかく、ネプギアはこの後もまだ機械弄りするつもりでしょ?わたしはご飯食べてくるから、もういいよ」

「そう?一人でご飯食べても詰まんないと思うし、お茶でも飲みながら付き合うよ?」

「気を遣わなくてもいいって。折角のお休みなんだし、ね?」

「けど……」

「というか、お姉ちゃんが妹にそんな気の遣われ方をされたら、姉の名折れだし…」

「あ、あー……」

 

 言われてみれば確かにそうだ、と思ったわたしは、お姉ちゃんの言う通り途中で分かれて作業室へ戻る。お昼の前はどこまでやったか、ここからはどうしようか…そんな事を考えながら、機械弄りを再開する。

 もしかすると、わたしもいーすんさんも、重く受け止め過ぎていたのかもしれない。もしもわたしがお姉ちゃんの立場だったら、もっと引き摺ってたと思うけど、わたしとお姉ちゃんは違う。そして、失敗してもどんどん前に進めるのがお姉ちゃんのいいところ。

 

(うん、そうだよね。へこたれないのがお姉ちゃんの強さだし…そもそも大博覧会は終わってない。本当の意味での本番はまだこれからなんだから、止まってなんかいられないよね)

 

 安堵の次に抱くのは、わたしもまた頑張らないと…って気持ち。大博覧会のプレオープンはなんだかんだで成功したけど、プレオープンはあくまでプレオープン。本当の本番に向けたテストみたいなもので、まだゴールじゃないんだから、ここで満足なんてしちゃいけない。

 

「…よしっ。明日からまた、頑張ろう!」

 

 胸の前で、両手を握る。わたしの中でも、わたし個人としてミスしたなと思う部分や、ここはこうした方がもっと良かったんじゃないか、って思う部分は色々ある。その反省を活かせれば、改善する事が出来れば、本番はプレオープンよりもきっと良いものにする事が出来る。

 うん、そうだ。お姉ちゃんにはお姉ちゃんの失敗があって、わたしにもわたしの失敗がある。それはそうだよ。わたしより凄いお姉ちゃんでもミスをするんだから、わたしにミスがない訳がないもん。

 

 

……と、意気込んだ後、わたしはまた機械弄りをするのでした。い、いや、だって今日はお休みですし…いーすんさんからも、「休もうと思った時に休めないのは、決して良い事ではありませんよ。…ほんと、休みたいのに休めないのは…うぅ…(ToT)」…って言われてますし…。…いーすんさんも、今日は休めてるかな…羽、伸ばせてるといいなぁ…。

 

 

 

 

 お昼の時、わたしはお腹が鳴るまでお昼だって事に気付かなかった。それ自体は別に困る事でもないけど、良い事でもないよね…と思って、午後は気を付けよう、って思っていた。…ん、だけど……。

 

「あ、あれぇ…?…もう、こんな時間……?」

 

 用意していた筈のパーツがなくて、ひょっとして自分の部屋に置き忘れちゃったのかな?と思って、一旦作業を中断したわたし。それからわたしは、部屋に取りに行くついでにちょっと休もうかなぁ、そろそろおやつとか食べるのにも丁度良い時間だろうし…なんて事を考えながら時計を見て、そして気付いた。もうおやつどころか、お夕飯を食べても良い位の時間になっていた事に。またもや、時間も空腹具合もすっかり忘れていた事に。

 

「…は、はは……」

 

 我ながら、流石にちょっと没頭し過ぎというか、なんというか…自分で自分を笑っちゃうよね、呆れ笑いだけども…。

 

「ま、まあ午前も午後も没頭しちゃう位楽しめたって思えば、お休みとしては悪くないよね…うん、悪くない悪くない…」

 

 自分に言い聞かせるように言いながら、わたしは作業室を片付ける。楽しめたのは本当で、満喫出来たのも間違いない。ずっと機械弄りをしてたからちょっと疲れはあるけど、ぐっすり寝れば、明日は身体も心も元気一杯…になってる筈。

 

「んーっ…」

 

 片付けを終えたわたしは作業室を出て、軽く伸びをしながら廊下を歩く。もうこのままご飯でも良いんだけど、今日は朝からずっとプラネタワーの中にいて、しかもご飯とお姉ちゃんを起こしに行った時以外は作業室に籠り切りだったからか、ちょっと風を浴びたい気分。

 だからわたしは、リビングになる部屋から繋がるバルコニーへ。こういうちょっと風を浴びたい時に、バルコニーには凄く便利。上層階だから景色も良いし、バルコニーはお勧めスポットです。…なんて。

 

(あ、お姉ちゃんだ)

 

 リビングから窓を開け、バルコニーに出ようとしたところで、わたしはバルコニーの端にお姉ちゃんがいる事に気付く。お姉ちゃんは景色を見ているみたいで、こっちから見えているのは背中だけ。

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃんも来てた……」

 

 来てたんだね。わたしはそう言おうとした。でも、気付く。見慣れたお姉ちゃんの後ろ姿…それが、いつもとは全然違う事に。はっきりと、具体的にこう…って言える訳じゃない。だけど、違う。だけど、分かる。ずっと追い掛けてきた大きな背中が、今はあまりにも…これまで見た事ない位に、小さく見えているんだから。

 

「…隣、いいかな?」

「…ネプギア……」

 

 声を掛けた方が良いか、それとも黙って去った方が良いのか。それを少し考えてから、わたしはバルコニーに出る。出て、お姉ちゃんの隣へと行く。

 

「わたしはちょっと、風に当たりたくて来たんだけど…お姉ちゃんもそう?」

「…そうかな。そうかも」

 

 返ってきたのは、曖昧な反応。雑に答えてるって感じはなくて…やっぱり、今のお姉ちゃんの調子は、いつものお姉ちゃんとは全然違う。

 

「昨日の事、気にしてる?」

「…そう見える?」

「何となく、ね。いつものお姉ちゃんだったら、もっと明るい感じだし、何かしら冗談言ってそうだし」

「あはは…確かに、ね。…まあ、そうだよね…黄昏れるなんて、わたしのキャラじゃないもんね」

 

 自分で自分にちょっと呆れてるような…そんな表情で苦笑するお姉ちゃん。酷く落ち込んでる…って感じはないし、無理に笑ってもいない…そんな今のお姉ちゃんは、低空飛行をしているよう。低いところで、変に安定しているというか、一見深く堪えてる感じじゃなくて…けれど、お姉ちゃんらしくない。他の人なら、そこまで気にしなくても…って思うのかもしれないけど、わたしはそうは思わない。思わないからこそ、踏み込む。

 

「…失敗したって、思ってる?」

「成功は、したと思うよ。…全体としては、だけど」

「それじゃあ、お姉ちゃんとしては?」

「…結構、ぐいぐい来るね」

「だって今のお姉ちゃん、全然お姉ちゃんらしくないもん。…気になるよ、お姉ちゃんの妹だから」

 

 隣でバルコニーの手摺りに肘を掛けながら、お姉ちゃんをじっと見つめる。お姉ちゃんもわたしの事を見つめ返して…それから、呟くようにして言う。

 

「…分かってなかったんだなぁ、って思ったんだ。わたしは、自分の事を…わたしの事を」

 

 物憂げな…悲しげな顔と共に発されて、分かってなかったんだ…って言葉。自分の事は、自分が一番分かってる…って事はなくて、むしろ意外と、自分じゃ自分の事は分からないもの。…だけど、勿論そんな話じゃない。

 

「…うん。でもさ、お姉ちゃん頑張ってたじゃん。確かに色々あったけど、色々あっても…失敗だって部分があっても、頑張ってた事実は変わらないでしょ?」

「そうだね。でもそれは、わたしだけで完結する話の時だよ。わたしが失敗して、わたしが損しただけなら、努力は無駄じゃない…って言えるけど、今回は違うもん。すっごく沢山の人が関わる、すっごい大きなイベントで、その中でわたしは自分の失敗からネプギアにもいーすんにも、こんぱやあいちゃんにも…皆に迷惑を掛けちゃった。しなくていい苦労をさせちゃった。それに……」

「そんな事ないよ、お姉ちゃん。そうだけど、その通りだけど…そんな事はない、絶対にない」

 

 頑張っていた事は知っている。そう返したわたしだけど、お姉ちゃんの表情は晴れない。むしろ、そういう事じゃないって、頑張ったからどうこうじゃないって…本当に、お姉ちゃんらしくない言葉を発する。

 皆に迷惑を掛けちゃったから。だから、自分が頑張ったかどうかじゃない。…分かる、それは分かる。わたしだって、お姉ちゃんの立場だったらそういう風に思っていた気がする。だけど、わたしはお姉ちゃんの言葉を遮る。遮り…違うと返す。

 

「わたしは、迷惑を掛けられた…なんて思ってないよ。確かに、お姉ちゃんのミスがなかったら、その分の苦労はしなかったと思うけど、その時も今も、迷惑だなんて思ってない。…お姉ちゃん、頑張ってたから。頑張ってる姿、沢山見せてくれたから」

「だから、それは……。…って、うん…?…どういう事…?」

 

 もう一度わたしが言った「頑張っていた」という言葉に、お姉ちゃんは返そうとして、途中で表情が困惑に変わる。言葉通り、どういう事?って顔をしていて、そんなお姉ちゃんにわたしは頷く。

 

「お姉ちゃんの頑張る姿はね、元気をくれるの。お姉ちゃんの頑張る姿は…ううん、お姉ちゃんがやる気を一杯持って何かに取り組む姿は、いつだってわたしに…見てる人皆に元気をくれる。…それって、凄い事だと思うんだ。頑張ってる人の姿を見て、自分も頑張ろう…って思う事は誰にもあると思うけど、お姉ちゃんは違うっていうか…それ以上の思いにさせてくれる、力まで湧いてくるような気がする…そんな風に、わたしは思うの」

 

 内容じゃなくて、結果じゃなくて、頑張る…進んでいく姿そのものが、周りに元気を分けてくれる。それがお姉ちゃんの良いところで、それがお姉ちゃんの凄いところで…それが、お姉ちゃんの力の一つ。わたしはそう思っている。

 それに多分、わたしだけじゃない。いーすんさんやコンパさんやアイエフさん、パーティーの皆さん、国民の人達、イリゼさん達同じ女神だって、そこにお姉ちゃんの良さが、凄さがあるって、きっとそう思ってくれている。

 

「だから、大丈夫。プレオープンは何も問題なかった…訳じゃないし、お姉ちゃんが失敗だって思ってる事は、勿論改善していった方が良いと思うけど…皆に迷惑掛けちゃったとか、自分のせいで…とか、そういう風に思ってお姉ちゃん自身の、お姉ちゃんらしい『歩み』を止めないで。わたしは、そっちの方が辛いよ。そっちの方が…ずっと、悲しいよ」

「ネプギア……」

「突き進んで、お姉ちゃん。お姉ちゃんらしい、格好良い姿を、これからも見せて。そうすればきっと、本番も成功するよ。それを、そういう姿を、きっと皆も望んでいる筈だから」

 

 言葉を紡ぎ、思いを伝える。迷惑なんて思わなくていい、気にしなくていい…それは言う側は簡単だけど、言われる側は「じゃあ…」って簡単に切り替えられるようなものじゃない事は、わたしだって分かってる。分かった上で、わたしは言っている。お姉ちゃんらしいお姉ちゃん…それを望み、願う。

 だって、じゃなきゃお姉ちゃんじゃないから。周りを振り回して、全力で我が道を行って…だけどその道の中で格好良い姿を見せてくれるのが、そうやってどんな状況でも道を切り開いてくれるのが、お姉ちゃんだから。そして、わたしは信じている。これまでみたいに、これまでわたし達が困難にぶつかってきた時みたいに、へこたれる瞬間はあったとしても、そこからお姉ちゃんが立ち上がってくれるのを。

 

「それに、何かあってもわたしが…皆が、支えるから。失敗しても大丈夫…って言うとなんか変な感じだけど、それも含めてお姉ちゃんだって、分かってるから。それがお姉ちゃんで、それがパープルハートなんだって…皆分かった上で、『お姉ちゃんらしさ』を信じてるから…これからもどんどん進んでいこうよ、お姉ちゃん」

 

 締め括るように、最後の思いを言葉にする。わたしは完璧で隙のないお姉ちゃんを望んでる訳でも、完全無欠なお姉ちゃんに憧れてる訳でもない。良いところばかりじゃない事は分かっていて、でも憧れている。色々良くないところもあって…それでも心から憧れの気持ちを抱かせてくれるお姉ちゃんだから、本当に凄いと思っている。

 わたしはわたしの思いを、全部伝えた。ちゃんと伝わったかどうかは分からないけど、聞いてもらう事は出来た。だから後は、待つだけで…ほんの少し視線を下げたお姉ちゃんは、手摺りから一歩離れる。くるりと横を向いて、わたしに対して背を向ける。

 

「もう、ネプギアってば頼もしくなっちゃって…そこまで妹に言われちゃったら、お姉ちゃんとしては立つ瀬がないよ」

「…こういう事を言えるようになったのも、お姉ちゃんに憧れて、ずっと追い掛けてきたからだよ?」

「ちょっ…ネプギアってばわたしを泣かせる気?まだ本作は中盤にもなってない段階なのに、なんかもう最終決戦前みたいな雰囲気になっちゃってない?」

 

 少し困ったような、でも優しい声のお姉ちゃん。そこにはさっきより、元気がある。いつものお姉ちゃんらしさが、さっきよりも感じられる。明るさの籠った、お姉ちゃんらしさが。

 

「…お姉ちゃん」

「うん。ちゃんと、ネプギアの気持ちは伝わったよ。伝わったし…確かに、そうだね。わたしが周りの事を気にして及び腰になったり、ましてや前に進めなくなるなんて、それこそ『わたしらしくない』もんね。下手な考え休むに似たり、上手き考え進むが如し…そういう事だよね、きっと」

「そうだよ、きっと。…って、言いたいところだけど…その諺に、そんな後半部分なんてあったっけ…?」

「ないのなら 作ってしまえ 後半を」

「うぅん…ごめんね、何言ってるのか全然分からないよ…」

「でも、その方がお姉ちゃんらしいでしょ?」

「あ…うん!…え、いや…それでいいの…?」

 

 そうでしょう?と言うようなお姉ちゃんの声に、わたしは深く頷く。本当にお姉ちゃんらしい声音で言ってくれた事が嬉しくて、思わず、反射的に、何も考える事なく肯定して…それから「これは肯定して良いものだったのかな…」と微妙な気持ちに。お姉ちゃんもお姉ちゃんで、これをがっつり肯定されちゃった今、どんな顔をしてるんだろう…。…って、あ……。

 

「…その、さ…お姉ちゃん、さっきから後ろを向いてるのは……」

「皆まで言わせないで、ネプギア。…この流れで後ろを向いたら…こんな思いの籠った言葉を大事な妹から言われちゃったら、色々込み上げてくる感情がある…そういうものだから」

 

 だから、追求はしないでね。そう言うように後ろで手を組むお姉ちゃんを見て、わたしはこれ以上言うのを止める。こういうのは、ちょっとお姉ちゃんらしくないけど…わたしは妹で、お姉ちゃんはお姉ちゃん。だったら、こうやって見栄を張りたくなる時も…きっと、あるよね。

 

「…わたし、先に戻ってるね。もうお夕飯の時間だし、お夕飯は一緒に食べよ?」

「だね。…ありがとう、ネプギア」

「ふふっ、どう致しまして」

 

 ありがとうの言葉にわたしは笑って、バルコニーを出る。きっと大丈夫…そう信じて、待たずに去る。

 わたしの気持ちが、本当に全部伝わったかどうかなんて分からない。けどそれは、いつだってそう。100%、誤解もなく完全に伝わったって言える事なんて、滅多にない。でもきっと、大丈夫。お姉ちゃんなら大丈夫。だって…お姉ちゃんなんだから。

 

 

 

 

「わたしらしさ、お姉ちゃんらしさ…か…ふふっ、よく分かってるなぁネプギアは……」

 

 窓が閉まる音が聞こえた。今わたしに聞こえているのは、バルコニーに吹く風の音だけで…それだけになってから、わたしは呟く。

 ネプギアの言葉は、響いた。思いも伝わってきたし、こうやってネプギアが励ましてくれるのは、嬉しかった。お姉ちゃんとしては少し情けなくもあったけど、その分を差し引いても嬉しいとわたしは思った。

 多分、失敗しただけだったら、不注意や確認不足のせいで起こしたミスの事だけだったら、ネプギアの言葉と思いで元気になれていたと思う。わたしらしくいる事が一番だって、それこそがわたしネプテューヌだって、胸を張れていたと思う。…でも……

 

「…ほんとに、よく分かってるよネプギアは…ネプギアも、皆も、よく分かってる…。分かってなかったのは…皆から『ネプテューヌ』がどう見られているのかを、わたしって女神の事を、全然理解してなかったのは…わたしだけ、なんだもん…」

 

 零すように、零れるように、呟く。言葉にするのも辛い。そうだったんだって思うのも、そんな現実を意識するのも、凄く辛い。けど、逃げられない。目も逸らせない。…それが、真実だから。真実だったから。

 

「はは…皮肉なものだよね。皆がそう思ってたから…どうせわたしが上手くやれる訳ない、どこかでミスするって思われてたおかげで、皆心構えが出来てたり、対応出来たりした訳なんだから…それがあったからこそ、何とかプレオープンは成功で終われたんだから…」

 

 もしもわたしがもっと期待されてたら…最初から最後まで、ばっちりやれるって思われてたら、どこかで対応し切れてなかったかもしれない。逆にそんな期待なんてされてなかったから…どうせ何かしら失敗するって皆思っていたから、予想通りの結果になっただけだから、沢山迷惑掛けちゃったわたしに対して寛容な人が多かったのかもしれない。

…なら、良かったのかな。これで、そういう風に思われてて。それが最終的には、成功に繋がったんだから。多くの人が、満足してくれたんだから。何より…その通り、だったんだから。皆が思っていた通り、わたしは上手くやれなくて、それを皆に支えられて、その上で「それがネプテューヌだ」って思われているんだから。…だったらやっぱり、良かったじゃん。これで落ち込むなんて以ての外。皆がそういう風に思ってるのは……他でもない、これまでのわたしの行いの結果でしょ?

 

「……分かってた、筈なのになぁ…ちょっと考えれば、それ位予想出来る、筈だったのになぁ…」

 

 自分で自分を嗤う事が出来れば、少しは気が楽だったかもしれない。それか、ネプギアの言う通り、それも含めてわたしだって思えれば、ちょっとは前を向けたかもしれない。…だけど、わたしは期待していた。わたし自身に、期待をしていた。一生懸命やったんだから、思い付く限りの事をしてきたんだから、きっと上手くいくって。そうすれば皆に…これまでわたしがお世話になってきた、世話を掛けちゃった皆にも、少しはお返し出来るんじゃないかって。なのに、結果は真逆。上手くいかなくて、幾つもミスがあって、結局お返しするどころか更に迷惑を掛けちゃった。…自分に期待なんてしてなければ、こんな事にはならなかったのに。これまで散々人任せにしておきながら、一生懸命頑張った位で上手くいくなんて…そういうわたしが皆から、わたしが望むような期待をされてる訳なんて、ある筈がないのに。

 

「…………」

 

 こういう事を、ずっと考えている。何度も何度も頭の中でぐるぐるとしている。どうしようもない。どうにもならない。だって、知ってしまったんだから。皆がわたしを、どう思っているのかを。わたしに期待なんて、してなかった事を。

 本当にそれは、当然の事。有事とか、戦いとか、いざって時とか、ここぞって時とか…そういう時以外で、わたしは皆に期待されるような事を、ノワールやベールやブランやイリゼが、女神として当たり前にしていた筈の事を、これまでちゃんとやっていなかったんだから…それなのに期待してほしいだなんて、我が儘だって分かってる。分かってるけど……

 

「…でも、でもさ…頑張ってきたんだもん、期待しちゃうよ…皆に喜んで、誇りに思ってほしかったんだもん…成功を期待されてるって、思いたいよ…知りたくなかったよ、そんな事は…こんな、こんな事なら……」

 

 やらなければ良かった。…その言葉だけは、出てこなかった。出てこなくて、良かった。だってもし、その言葉まで言っちゃってたら…ここまで頑張ってきた人、楽しんでくれた人、何とかプレオープンを成功させようとわたしのミスのフォローをしてくれた人、わたしには期待してなくても大博覧会には…プラネテューヌには期待をしてくれた人の、全部を否定する事になっていたから。そしてそんな事を言ってしまう、言えてしまうわたしだったら…わたしはわたしに、心から失望をしていた。

 心はずっと、苦しいまま。気付けば頬が濡れていて、ぽたりと雫が床に落ちる。

 

「…これから、どうしたら良いんだろう…どうしたらいいのさ、わたしは……」

 

 現実を、真実を目の当たりにして、わたしの心は情けなく蹲っている。何とかさっきは誤魔化せたけど、これからの事は分からない。これからも誤魔化したままの方が良いのか、打ち明けた方が良いのか…分からないし、怖い。打ち明けた事で、どうなるのかが…どう思われるのかが、凄く怖い。

 それに、大博覧会はまだ終わりじゃない。まだ本番がこれから先にあって、もう動いてる人もいて、期待を寄せている人も多分いる。…どうしたって、進まなきゃいけない。本番への期待を裏切って、皆の努力を踏み躙りたくないなら、進む他ない。…わたし自身には、何にも期待をされてないまま。

 

(…いっそ、ネプギアに任せちゃおうかな…わたしよりも普段から頑張ってて、今回も一生懸命色んな事をしてくれてて、すっごく頼もしくなった今のネプギアだったら、きっと上手くやれる…きっと皆も、ちゃんとネプギアに期待してる…そうだよ、わたしよりもネプギアの方が……)

 

 ふ…っと思い浮かぶのは、そんな事。ネプギアは真面目で、しっかり者で、調子に乗る事も全然ないし…皆も、そういうところをネプギアの良さ、強みだと分かっている。それがネプギアらしさの一つだって、理解している。だったら、それなら、ネプギアに任せた方が、ネプギアにやってもらった方が、きっともっと上手くいくし、皆の期待にも……

 

 

……そうやって考えて、考えてしまって…気付いた。──そうやってまた、押し付けるつもりなのか、って。都合のいい事を言って、これまでと同じように、自分だけ楽をしようとするのかって。

 

「……っ…駄目だなぁ、わたしは…それじゃあ、変わらないじゃん…そんなんじゃ、これまでのわたしと…頑張らなきゃって思う前のわたしと、同じじゃん…っ!」

 

 掌で、目元を押さえる。覆うように強く掴んで、自分へ言葉を打ち付ける。

 それが嫌だったから、それじゃ駄目だって思ったから、自分は頑張ってきた筈なのに。その為の大きな一歩として進めてきたのが、大博覧会なのに。それなのに、わたしはそれを投げ出すつもりなのか。そんな風に考えてしまうのが、わたしだって事なのか。…だとしたら……最低だよ、そんなの…。

 

「……ご飯、いかなきゃ…」

 

 さっきネプギアは、一緒に食べようと誘ってくれた。わたしはそれに、同意で返した。だからあまり遅くなったら心配させちゃうし、ちょっとした事だけど…期待を裏切る事になる。

 手を離して、袖で拭って、中に戻る。交わしたやり取りの通りに、ネプギア…それにいーすんと一緒にお夕飯を食べる。…何とか、その間も二人に変に思われる事なく、切り抜ける事は出来た。結構わたしは、そういう誤魔化しが上手いのかもしれない。でも、ここで誤魔化したって、誤魔化せたって、何も変わらない。何も変わらず、何も進まないまま…今日という日が、終わっていく。

 

「今日はもう、寝ちゃおうかな……」

 

 自分の部屋で、ベットに座る。今の状態が、良くないって事は分かっていて、「よぉし、もうお休みも終わりってタイミングだけど、敢えてここからロックな男のRTAに挑んじゃうよー!」…と、無理矢理テンションを上げて調子を取り戻してみようともしたけど、全然気持ちが続かない。結局わたしは気持ちが沈んだまま、ベットに横になって目を閉じる。

 

(…大博覧会は、ちゃんとやらなきゃ…うん、これを投げ出しちゃったら、今以上に皆に迷惑掛かるもん……)

 

 酷く後ろ向きな、そんな決意を胸にする。その先は…今はまだ、考えられない。

 目を閉じて、力を抜く。心は凄く疲れている気がするけど、身体は全然疲れていないせいか、眠気はない。ないけど、起きていようとも思わない。だからただただ、目を閉じている。どれ位時間が経ったかは分からないし、それを確かめる気もない。今は、身体を起こすのも酷く億劫だった。

 それでもその内に、段々と意識が薄れ始める。寝て、明日になったって、何か変わるとは思えない。それでも今は、これ以上起きていたくなくて、考えたくなくて、意識が眠りに落ちていく事だけを待って……

 

 

 

 

 

 

──わたしは、思い出す。目が覚めているのと、眠っているのと、境界線…自分でもよく分からない、溶けたような意識の中に、当然それが…昨日の記憶、その最後に残る『それ』の存在が、浮かび上がった。

 

「……──っっ!」

 

 反射的に、跳ね起きる。今はいないと分かっている。分かっているけど、部屋の中を見回して…頭を、押さえる。

 

「そう、だ…わたしは、昨日…確かに昨日……」

 

 思い出した。昨日ここに、わたしの部屋に、何かがいた。それは間違いない。間違いないけど…思い出せない。まるで、頭の中に霧がかかっているみたいに、霧の中にいる人影みたいに、何かある、いるって事は分かっているけど、はっきりとした形に、姿になってくれない。

 しかもわたしは、今の今までその事を忘れていた。すっかり、完全に、違和感一つなく忘れてしまっていた。こんなにも衝撃的な事なのに、気になって仕方がないような事なのに、抜け落ちたように頭の中からなくなっていた。

 

「どういう、事…?あの時の声って…あれは、あれは……」

 

 これまでの思考なんか全部吹っ飛んで、思い出そうとする。霧を掻き分けて、何だったのか分かろうとする。考えたって出てこない、意識を集中させても何も記憶は変わらない。それでもわたしは考える。探ろうとする。気になるのは勿論だけど…それ以上に何が凄く、凄く大事な事な気がして、考えるのを止められない。

 あの時の声は、知らないものじゃない。あの時の感覚も、どこか馴染みあるものな気がする。だから考えて、考えて、一から記憶をひっくり返すように探し続けて……

 

(……あ、れ…?)

 

 不意に、一つの記憶が浮かび上がった。今わたしが考えていた、思い出そうとしていたものじゃない。違うけど…どこかから放り込まれたように、不意打ちのように記憶が一つ浮かび上がる。

 新生オデッセフィアの空。呼び掛けるわたし。交わすやり取り。お願いと、受け取った答え。そして…心を決めた顔を見せてくれる、イリゼ。

 

「…そう、だよ…イリゼが、未開領域の調査に行こうとしたのは…わたしが、頼んだからだ……」

 

 忘れる筈もないような事なのに、思い出す。あまりにも違和感があって、実感がなくて…けれど確かに、記憶の中に浮かび上がっている。

 そうだ、間違いない。想像でも、勘違いでも、夢でもない。確かに、これは…わたしの中に浮かび上がっているのは……イリゼと話した、その記憶だ。




今回のパロディ解説

・「〜〜どこかのノワールじゃないけど寝ればすっきりする〜〜」
原作シリーズの一つ、勇者ネプテューヌ 世界よ宇宙よ刮目せよ‼︎アルティメットRPG宣言‼︎におけるノワールの解説のパロディ。でも実際、多少の悩みは寝れば取り敢えずすっきりしますよね。

・「〜〜対精霊部隊の一員さん〜〜」
デート・ア・ライブのヒロインの一人、鳶一折紙の事。…まあ、『元』対精霊部隊の一員、って表現した方がいいかもしれませんが…個人情報のネタが出た時は、まだ一員だった段階ですしね。

・〜〜ロックな男〜〜
ロックマンシリーズのメイン主人公、ロックマンの事。RTAはリアルタイムアタックの事です。つい最近もロックマンのRTAが少し話題になっていた…という事で、時事ネタ的に入れてみました。




 Originsシリーズの主人公の一人、イリゼのAIイラストを、二人の方が作った下さいました。そのイラストを、OAのイリゼの人物紹介に掲載しています。皆様、是非ご覧になって下さい。そしてお二人共、ありがとうございますっ!

※4月21日、OAの人物紹介にのみイラストがどういう訳か表示されない為、一時的に上記のイラストをここに掲載します。


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