超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

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第十六話 打ち明けて、それでも

 自分には分からない。自分にも分からない。だけど確かに、そこにある。頭の中に、思考の中に。

 理解は出来ていない。飲み込めてもいない。けれど確かに、実感がある。この記憶は、自分のものだと。

 だから混乱している。何かを間違えているんじゃなくて、本当だと…本物だと分かるからこそ、わたしは受け止められない。どう受け止めていいのか分からない。でも…これが本当に、本物だとしたら…本物だと感じている、わたしの感覚が正しいんだとしたら……わたしには、やらなくちゃいけない事がある。

 

「うー…駄目だ、思い出せない……」

 

 鬱屈とした気持ちで過ごした一日の終わり。そこで思い出した何かの事と、そこから浮かび上がった一つの記憶。それまで少しずつ近付いてきていた眠気は完全に吹き飛んで、今は寝てなんかいられない。今は、ずっと心の中に渦巻いていた思いも、気にしてなんかいられない。

 未開領域への調査。それは、イリゼが言い出した事で、イリゼが自ら行っている事。そうわたしは思っていたし、多分皆もそう。だけど違った。本当は、神生オデッセフィアの空で交わされたやり取り…パープルハートとオリジンハートのやり取りで、イリゼはある事を…夢を現実にしない為の探索を頼まれた事で、未開領域の調査を名目に向かっていったんだった。その一連のやり取りを、その時の事を、さっきまでのわたしは一切覚えていない…そんな事があったのを知ってすらいなかったような状態で…本当に、訳が分からない。やり取りの一部とかならともかく、そんなに昔のやり取りでもない事を、丸ごと覚えていなかったなんて。

 それに、頭に浮かび上がったのはそれだけ。忘れていた事を全部思い出したとかじゃなくて、それだけが浮かび上がってきた。…何かおかしい。明らかにおかしい。その前後の事すら思い出せなくて…悩んでも頭を捻っても、全く出てこない。

 

(なんで、今の今まで忘れてたんだろう…覚えてない事にすら気付かなくて、違和感すら抱いてなかったんだろう……)

 

 自分が直接関わっている事なのに、大切な事なのに、抜け落ちていて…その欠落にすら、気付いていなかった。絶対にこれは、普通じゃない。自分があんまり頭良くない事は分かっているけど、だとしてもこれはあり得ない。

 うろうろと部屋の中を歩き回りながら、考える。思い出せない部分の事も、抜け落ちていた理由も、何か一つでも分かりたくて、わたしは考え続ける。けど……幾ら考えても、一歩も今の状態からは進まないまま。

 

「……っ、全然出てこない……」

 

 何周も部屋の中を回った末、わたしは背中からベットに倒れる。片手の甲を、目元に当てる。

 何かありそうなのに、ある筈なのに出てこない。それは凄く気持ちの悪い感覚で…異常な位に全く思い出せないからこそ、逆に思う。これはただ忘れてるとか、印象に残ってないとかじゃなくて…もっと何か、理由が、原因があるんじゃないかって。それに思い至った事で、取り敢えず一歩は前進……

 

「してないって、これじゃ…何か理由があるかもって、その理由が何なのさって話だよ……」

 

 何かしら理由があるのかも…って考えたとしても、思い当たる節がないんじゃ何にも前進とは言えない。だって、思い出せないっていうのと、何か理由があるかもしれないけどさっぱり分からないっていうのじゃ、ぼんぐりの背比べってものだから。…あれ、何か違うような…いや、今はそんな事気にしてる場合じゃないもんね…。けどほんと、どうしたら……あ。

 

「そうだ、イリゼ…イリゼだったら、何か知って…って、そのイリゼが今はいないんだった……」

 

 あの時あの場に一緒にいた、やり取りを交わしていたイリゼだったら、何か知っているかもしれない。ふとそう思ったわたしだけど…他でもないわたしが頼んで、その結果イリゼは調査に向かったんだから、今イリゼは神生オデッセフィアにも他の四大陸にもいないし、いないんだから当然訊ける訳がない。

 当たり前の事にも最初気付いていなかった事に、自分に対してがっくりと肩を落とす。今の…というか今日の自分はずっと落ち着いた精神状態じゃない事は分かってるけど、それにしたってしょうもないっていうか、そりゃネプギアにも心配される……って、あ。

 

「セイツだったら、ひょっとしたら……」

 

 ネプギア、姉妹、イリゼの姉…って感じに連想でセイツの存在に思い至ったわたしは、即座に携帯端末で連絡を掛ける。まだ深夜ではないけど、夜だし連絡するのは…なんて、躊躇ってなんかいられない。

 端末から聞こえるコール。ただ待つのは焦ったくて、またわたしは無意識に部屋をぐるぐるしていて…何度目かのコールが鳴った直後、漸くセイツに連絡がつく。

 

「あ…っと急にごめんねセイツ。ちょっと訊きたい事があるんだけど……」

「へ?あ、いや、ちょっ…いきなり過ぎない…?」

 

 早速イリゼの事を…と尋ねようとしたわたしに対し、遮るようにセイツの困惑の声が返ってくる。その返しを受けて、わたしも焦り過ぎだった…と少し反省。

 

「ご、ごめん…えと、今時間ある…?」

「ん、大丈夫よ。ライヌちゃんとるーちゃんと戯れてたところだから」

「あ、なんか聞こえると思ったら鳴き声だったんだ…じゃあ、セイツに訊きたいんだけど…調査に関して、イリゼは何か言ってなかった?」

「何か…っていうと?」

「その、皆に語ったのとは別の理由とか……」

 

 何とかわたしは心を落ち着かせて、改めて訊く。姉のセイツにだったら、本当の事を話してるんじゃないか…って。もしそうなら、その話を聞く事で、思い出せない部分を何かする事が出来るかも…って。でも……

 

「うー、ん…期待に添えないようで申し訳ないけど、特にそういう話は聞いていないわね。聞いてないっていうか、わたしも別の理由があるって事は分かったけど、教えてくれなかったというか……」

「そっか…そうだよね…イリゼだもんね……」

「…イリゼだもんね?」

「あ、ううんこっちの話…ありがと、いきなり連絡したのに答えてくれて」

「別にそれはいいけど…何かあったの?」

「そ、そういう訳じゃないよ。ただちょっと…イリニウムの補給でもしようかと思って……」

「何その謎物質!?い、イリニウム!?イリジウムじゃなくて!?」

 

 残念ながら、セイツもイリゼからは何も聞いていなかった。でも考えてみれば、それも当然の事だった。だって、誰にも話さないように…二人だけの話にしておいてほしいと、頼んだんだから。それに了承したなら、本当に誰にも話さない、約束を違えたりしないのが、イリゼだから。

 イリゼがその約束を守ろうとしてくれているなら、わたしも安易に話す訳にはいかない。それに自分でも整理の付いていない話、っていう事もあって、わたしは取り敢えず誤魔化す事にする。なんかこの後、「あ、イリゼ成分って事…?だとしたら、どんな補給の仕方よ…わたしで代用しようとしてるの…?」…とか何とか聞こえたけど、一先ず適当にしておいたままわたしは通話を終了して、ベットに座る。

 

(思い出せない、知ってそうな人もいない…これじゃ、どうしようもないよ……)

 

 どうしたらいいか分からない、どうにもならない無力感。でも、仕方ないしいっか、と片付けちゃう気にもなれない。なれないし、しちゃいけない。

 夢で見た戦いを現実のものにはしたくないし、夢の中にはいなかった人を頼るのが打開に繋がる…かもしれないっていうのは、理解出来る。自分の事なのに、理解…って表現は変な感じでもあるけど、どうにも実感がないから自然とこういう表現になっちゃう…というのは置いとくとして、ともかくイリゼに頼んだ事そのものは間違っていない筈。…だけど、わたし達守護女神四人が争う事態なんて、相当な大事。それを思えば、もっと他にも沢山の人に声を掛けるべきだし……そういう事を抜きにしても、何故だか凄く胸騒ぎがする。今回に限っては、信じて待つのが正しくないような気がしてならない。

 

「……神生オデッセフィアに、行ってみよう。うん、そうだよ…思い付く事は、なんでもしなくっちゃ…」

 

 あの時と同じ場所に行けば、新たに何か思い出すかもしれない。その可能性に賭け、わたしは行く事を決める。

 

「あ、お姉ちゃん…え、お姉ちゃん?」

「ちょっと出掛けてくるね…!」

「い、今から…?」

 

 廊下に出てすぐ、ネプギアとすれ違う。心配を掛けたネプギアに出来れば嘘は吐きたくないし、変に誤魔化すとむしろ怪しまれるかもしれないから、出掛けるとだけ言ってわたしはバルコニーへ。窓を閉めて、すぐに女神化をして、バルコニーから空に飛び立つ。

 

(…駄目ね。ルートも思い出せない……)

 

 普通に下まで降りてから出発したのか、今みたいに上層階から直接飛んだのか。一直線に神生オデッセフィアに向かったのか、それともどこかに寄ったのか。そういう道中の事も、全く頭の中に出てこない。

 勿論今は、寄り道なんてしない。速度を上げて、真っ直ぐ神生オデッセフィアへと向かう。何かしら見つけたい、引っ掛かる程度の事でも良いから『何も思い出せない』という状態から進みたい。そんな思いを抱きながら、わたしは夜の空を駆け…神生オデッセフィアの大陸に到達。生活圏外を抜けていき、あの時の街へ近付いていく。

 

「確か、この辺りで……」

 

 話したのは空、それもまだ形だけしかない…人が住んでいない街の上空。新生オデッセフィアにはそういう場所が複数あるし、どんな街並みだったかはちゃんと見てもいなかったから、正直どこなのかはあやふやで…暫く飛んだ末、多分ここだって場所に行き着く。

 

「…………」

 

 静かな街の上空で、わたしは見回す。街を、空を、見えるものを。記憶の中にある光景と、今見えているものを照らし合わせる。

 やっぱり、ここ…だと思う。断言は出来ないけど、明らかに違うという感覚もない。位置も、向きも、恐らく合っていて…けれど、何も気付く事はない。同じ場所に来る事で、思い出せたものも……ない。

 

「……っ…どうして……」

 

 もう一度見回す。目を凝らす。もう少し早く思い出せていれば、あの時と近い時間帯でこの光景を見る事が出来たかもしれないし、もっと早く思い出せていれば、明るい中でここを見回す事が出来た。今日一日の殆どを、無駄に過ごしてしまった事が、今になって悔やまれる。

 期待していた。ここまで来れば、記憶と同じ場所にまで行けば、きっと何か…その可能性に賭けていた。だけど、何も浮かばない。何も思い出せない。まるで、そこだけ切り取られているみたいに、浮かんだこの記憶と繋がるものが何もなくて…外れた期待が、次第に焦りへと変わっていく。

 

「何か…何か一つでもないの…?」

 

 何度も何度も見回して、『何か』を見つけようとする。もしかしたらここじゃなかったのかもしれないと思って、神生オデッセフィアの空を飛び回る。

 どうしてこうも焦るのか。唐突に浮かんだ記憶に違和感があって、確かに自分の中にある記憶なのに、他でもないわたし自身が納得出来なくて、このままじゃ気持ち悪い…早くおかしさを解消したいって気持ちがあるから、っていうのも勿論そう。でも、一番の理由はそうじゃなくて……

 

「…イリゼ……」

 

 わたしは、イリゼの決心を尊重して、応援した。イリゼが決めて、やろうとしてる事なら応援するのが友達ってものだし、女神として頑張ろうって事なら、わたしも負けていられないと思った。それも所詮自惚れだった訳だけど、これまでは確かにそう思っていた。

 だけど、この記憶が正しいなら…いや、違う。この記憶は間違いない。だからこそ、このイリゼの決心は、イリゼ一人で決めたものじゃなくて、イリゼだけの意思じゃなくて…わたしの言葉、わたしのお願いありきだったって事になる。重大な、忘れちゃいけない、忘れる筈もないような理由の下、わたしは頼んだって事で…なのに、覚えていない。…あまりに、不自然過ぎる。夢の事も含めて、何かあるように思えて仕方ない。

 

(…こうなったら、イリゼを追い掛けて……)

 

 どれだけ頭を捻っても思い出せない。多分ここだって思う場所に来ても、変わらない。だとすればもう、未開領域へ向かったイリゼを追い掛けて、直接訊くしかない。…そう、一瞬思ったわたしだけど…それも、とてもじゃないけど現実的な方法じゃない。だってイリゼ達は、はっきりとした場所に向かった訳じゃないし、追い掛けるなら相当の準備をしなきゃいけないし、何よりイリゼ達が出発したのは昨日今日じゃないんだから、全速力で飛んだとしても、いつ追い付けるか分かったものじゃないんだから。…というか…方向しか当てのない状態で行くって、イリゼも何を考えてるのよ…そんなの……

 

「…わたしを、わたしの言葉を、信じてくれたからに決まってるじゃない……」

 

 思いが口から零れ、身体から力が抜ける。イリゼはわたしを信じて、あやふやでリスクもある事を引き受けてくれた。イリゼなりの目的もあったんだろうけど…だとしても、わたしに応えようとしてくれて、多分今も頑張っている。

 それなのに、わたしはどうか。イリゼにわたしの都合で頼んでおきながら、大博覧会ではあのザマ。危険を承知で向かってくれたのに、頼んだ事すら忘れていた。…こんなんじゃ、イリゼに合わせる顔がない。

 

「…なんで、どうして…わたしは、こんな……」

 

 また、わたしの中で崩れていく。わたしの信じていたものが、自分への信頼が。

 そして、わたしはプラネテューヌへと戻る。静まり返った深夜の空を、深淵の様に暗い空を。神生オデッセフィアに来れば、あの時と同じ場所に行けば、何か分かると思っていた。何か変わる事を期待していた。だけど結局、わたしは何も見つけられず…何も、思い出せなかった。

 

 

 

 

 迷った。凄く迷った。わたしはどうするべきなのかを。どうするのが、良いのかを。

 このまま秘密に、わたしとイリゼだけの話にしておく事も考えた。じゃないと、イリゼにとって不義理だと思うから。こっちから秘密にしてほしいと頼んだのに、いざイリゼが行ってからわたしがその約束を破るなんて、勝手過ぎる事だから。

 だけど…わたしはもう、自分に自信がない。自分がこうだと思った事、こうすればって考えた事、この方がって信じた事…どれも裏目に出て、わたしは自分がどう見られているか、どう思われているかもまるで分かっていなくて、自分の記憶さえおかしいと感じるようになって……もう、自分の選ぶ事に何一つ自信が持てない。…だからわたしは、話す事を決めた。あまりにも後ろ向きで、情けない理由だけど…それでもこのままよりは、ずっといい。

 

「実はイリゼの未開領域探索…というか、それに付随する形での調査はネプテューヌが頼んだ事で……」

「頼んだ理由は、夢を現実にしたくなかったから…そういう事なの?お姉ちゃん」

 

 画面越しのセイツの言葉と、隣に座るネプギアの言葉。二人の言葉に、わたしは頷く。

 一夜明け、わたしは女神の皆に連絡を掛けた。いきなりの話だけど、何とか時間を作ってもらった。流石に連絡してからすぐに…とはいかなかったから、全然寝てないわたしは仮眠を取る事にして…昨日部屋にいた時は全然眠れなかったのに、仮眠では眠くもないのにあっさりと寝られてしまった。神生オデッセフィアまで一往復したからか、心が疲れ切っていたからか…理由は分からないけど、随分と深く眠っていた。

 

「うん。…ごめん、皆…これまでずっと黙ってて……」

「い、いえ…それに関しては、特に怒ったり不満を感じていたりはしませんが……」

「まあ、理由が理由ですもの。頓珍漢な判断とも思いませんし、理解はしますわ」

 

 わたしが謝れば、最初にユニちゃんが、次にベールが声を返してくれる。他の皆も、取り敢えず事情は分かった…って感じで、怒ったり混乱したり、そういう感じの表情は誰もしていない。

 

「このタイミングでどうして…とは思っていたけど、ネプテューヌからの頼みだったっていうなら納得出来るわね。一先ず、その部分は」

「えぇ。けど姉妹のセイツにまで話していないなんて、律儀というべきか、悪い意味で生真面目というべきか…」

 

 腕を組むノワールと、コートの袖に隠れた手を顎に当てるブラン。何となく二人の言葉から感じるのは、話を進めようという意図で…わたしも分かっている。ただ正直に話すだけなら、わざわざ集まってもらわなくても、わたしから皆に伝えるだけでいいんだから。

 

「ねーねー、まじめときまじめってどうちがうの?」

「まじめにふまじめとは、ちがう…?」

「ええっと、どっちも基本は同じ意味なんだけど、使い方としては……」

「なんか、オンライン授業みたいになってるわね…」

 

 それぞれ利き手の方向に首を傾げるロムちゃんとラムちゃんへ、ネプギアがメモ帳とペンを使って解説。そのやり取りへ、ユニちゃんが苦笑気味に突っ込みを入れる。

 思い切り脱線しているけど、ネプギアは真剣に説明をしていて、ロムちゃんラムちゃんも真面目に聞いているからか、皆黙って終わるのを待つ。そうして数分位経ったところで、ネプギアの説明は終わって…ノワールが一つ咳払い。

 

「こほん。そろそろいいかしら?」

「あ…ご、ごめんなさい。話の腰を折っちゃって…」

「大丈夫よ。二人にちゃんと説明をしてくれてありがとう」

「流石わたくしのネプギアちゃんですわ」

「いや、ベールのネプギアじゃないし…」

 

 いつもの調子でいつものように言うベールに、ほんと相変わらずなんだから…と言葉を返す。こうして皆で集まる場合、高確率で起こるやり取りで…けれど何故か、いつの間にか皆はぽかんとした表情をしていた。

 

「…えっと…どうかした?」

「ど、どうも何も…ネプテューヌさん、今日は反応がやけに薄いというか……」

「…そうかな?」

「そ、そうですわ!貴女がしっかり突っ込んでくれなくては、ネタとして成立しないではありませんの!」

『ネタだった(の・んですか)…?』

「あっ…ち、違いますわよ!?わたくしのネプギアちゃんへの…いえ、ネプギアちゃん達への思いは本物ですわ!ただそれはそれとして、お約束のやり取りというか、ネプテューヌの強い返しまで含めたパッケージである筈というか……」

 

 変な事を言うベールに、皆揃って半眼を向ける。ベールのノリの良さは知ってるけど、これもとは…いやまあ、ベールらしいといえばベールらしいけども…。

 

「…まあ、それはともかくネプテューヌに覇気がない事はわたしもさっきから気になっていたわ」

「うん、ネプテューヌさん、なんだか元気ない…」

「話が話だから気に病むのは分かるけど、らしくないわよ?最初の方でネプギアが貴女に『あんまり寝てないんだよね?』って訊いた時も、普段だったら『これぞオールナイトネプ子、なんちゃって!』…とか言いそうなものなのに、普通に肯定してただけだったし」

「それは……ちょっと、ね」

「お姉ちゃん…」

 

 皆には記憶や神生オデッセフィアに行った事を伝えたけど、大博覧会プレオープンの後にわたしが知った事については、何も言っていない。今もそれについては誤魔化していて…画面越しじゃない隣から、心配の視線が向けられる。

 そんな視線を向けられるのも、心配させちゃうのも、やっぱり辛い。だけど今は、わたしの事よりイリゼ達の事。そっちの方が、ずっと大事。

 

「それで、ネプテューヌはどうするつもりですの?」

 

 今度こそ仕切り直すようにベールが言って、わたし頷く。頷いて、言葉を返す。

 

「どうすればいいのかな…このままじゃ不味いって事は分かってるんだけど、何とかしたいんだけど、どうすればいいか分からなくて……」

「……?そんなのかんたんじゃない。おねえちゃんたちがケンカはしない、って約束すればカイケツでしょ?」

「そんな簡単な話じゃないわ。確かにただの喧嘩なら、お互い気を付けていればいいけど、やむを得ない…戦わざるを得ない『何か』があるのなら、それを何とかしなきゃどうにもならないもの」

「今更シェア争いでわたくし達が戦う事になるとは思えませんし、実は模擬戦をしていただけ…と考えるのは少々楽観的ですわよね。となると、あまり考えたくはありませんけど、またくろめの時の様に洗脳なり何なりをされた結果という可能性も……」

「…お姉ちゃん、ちょっと思ったんだけど、実はお姉ちゃんが夢の中で戦ってたのは皆さんの偽物だった…とかって事はないかな?」

「ない…と、思う。偽物にしては動きが良過ぎる…っていうか、本当に全員本物レベルだったし…」

 

 この場を開いたのは、皆に知ってもらう為なのは勿論だけど、皆の意見や考えも知りたいと思ったから。そして思った通り、わたしには思い付かなかった色々な推測や可能性が皆から出てきて…けどやっぱり、これだ、って程のものはない。確認する手段がないから、確かめようがないのも当然の事で、それがあるから暫くすると段々意見が減ってきて…そんな中で、少しの間黙っていたセイツが口を開く。

 

「皆の戦いを回避する…それは勿論大切よ。わたしだって、そうなる事は望んでない。でも…まずはイリゼとうちの枢機部隊(カーディナル)をどうするか決めるべきじゃないかしら?」

 

 でも、と一拍置いた上で、セイツは言う。今話している件には、もう一つ重要な事があるでしょう?…って言うように、画面越しに皆を見回す。

 

「どうするか…取り敢えずイリゼさんにも、もう理由を隠す必要はない、って伝えなくちゃ…ですよね」

「それもそうだけど、もっと重要なのは『これからの調査』の事よ。こうして皆が知った以上、イリゼが枢機部隊(カーディナル)だけを連れて調査をしていく必要はない。ううん、それ以前に…本当に調査をするべきか、改めて話す方が良いと思うわ」

「へ?…調査そのものは、必要では…?」

 

 ネプギアの言葉に返したセイツは、そこから更に踏み込んで自分の考えをを口にする。最後の言葉は意外なもので、わたしは驚いたし、ユニちゃんも目を丸くする。けどそんな反応は分かっていたみたいで、セイツは首を横に振って更に続ける。

 

「よく考えてみて頂戴。確かにさっきブランの言った通り、原因になる『何か』を対処なり回避なりしなきゃ戦いを未然に防ぐ事は厳しいけど……本当に、今のままで何か見つけられると思う?ネプテューヌ、貴女はイリゼに調査をお願いする上で、十分な情報や手掛かりを伝えられたと思ってる?」

「それは……」

 

 その言葉で、今度こそセイツの言いたい事を理解する。わたしがイリゼに伝えた事、調査する上での情報…はっきり言って、それは殆どない。改めて考えると、よくこれで頼めたというか、イリゼもよくあんな程度の情報で引き受けてくれたというか…考えれば考える程、無理のある調査な気がしてくる。

 だから一度、今分かってる情報だけで本当に調査をするのか話すべきだ…セイツが言いたいのは、そういう事。

 

「…えぇ、その通りね。イリゼが決心した時と違って、今は皆で話せるんだから、一度戻ってきてもらって、全員で深く考えてみる方が良いと思うわ」

「現段階で大きな成果があれば御の字、そうでなくとも何かしらの手掛かりをイリゼが見つけられていたのであれば、それを踏まえて話す事も出来ますしね。ただ、そうなると問題は……」

「一体どうやって、連絡の取れないイリゼ達に戻ってきてもらうか、ね…」

 

 皆もセイツの考えに賛成していく。話は一度全員で考え直してみよう、って流れになって…でもそこで、昨日わたしもぶつかった問題に直面する。連絡が取れない、どこにいるかも分からない、けど間違いなく遥か遠くにいる…そんな状態で、どうやって戻ってくるよう伝えるのか…そこに至った事で、進んだ話が止まってしまう。

 

「普通の通信手段じゃどうにもならないし、人海戦術…も、探す範囲が広過ぎてとても取れないし……ロム、ラム、こういう時に使えそうな魔法ってない?」

「んっと…ない!」

「たぶん、ないと思う…(ふるふる)」

「あの…ちょっと思ったんですけど…それって、いーすんさんに調べてもらう事は出来ないでしょうか…?」

『あ……』

 

 普通の手段は勿論、魔法方面も無理っぽい。そんなどうしよう…という雰囲気の中、ネプギアはおずおずと声を上げて…その言葉で、全員がはっとする。

 

「そうね、イストワールの情報収集能力を失念していたわ…。くっ、姉の得意分野を忘れてたなんて…後で謝らないと……」

「ほ、ほんとにショック受けてる顔してる…わたしも思い付いたのは少し考えてからでしたし、そこまで気にする事じゃないと思いますよ、セイツさん…」

「取り敢えず、これは早速イストワールに頼んだ方が良さそうね。三秒や三時間で済むならいいけど、三日や三週間なんてやったら、調べてもらってる間にも更にこっちからの距離が離れるだろうし。ネプテューヌ、いい?」

「わ、分かった」

 

 ブランからの呼び掛けに頷いて、わたしは退室。いーすんの執務室に行って、早速いーすんにも記憶の事と、皆と話した事を伝える。当然いーすんも驚いていたし、色々思うところがある感じだけど…イリゼの関わってる話って事もあるからか、話を進める事を優先してくれた。…けど……

 

「…すみません。結論から言えば、ネプテューヌさん達が期待するような情報を得る事は出来ない…と思います(-_-)」

「そんな…時間が掛かるとかじゃなくて、そもそも無理なの…?」

「そういう事です。記録者を名乗っておきながら、非常に情けない話ですが、四大陸から遥かに離れた場所…未開領域に関する情報は、どうにも上手く検索する事が出来なくて……」

「そ、っか…考えてみれば、わたしの件を抜きにしても、いーすんが調べられるならそもそも未開領域の調査なんてしなくていい…とまでは言わなくても、先に色々調べてもらってから…って話になるもんね…」

「はい。…とはいえ、わたしもやれるだけやってみます。イリゼさん達の事はわたしも心配ですし…上手く調べられない、だから無理というのは、記録者として癪ですから( ̄^ ̄)」

 

 何もせず終わる気はない。そう言ってはくれたいーすんだけど、可能性があるならいーすんはその通りに言う…筈。だから期待はしたいし、するけども、当てには出来ない。

 頑張ってくれようとしてるいーすんに、お願いねと言ってわたしは戻る。早速視線が集まる中で、わたしは聞いた事をそのまま伝える。

 

「ふむ…妙案だと思いましたけれど、無理だったとは…」

「うん…こうなったらやっぱり、同じ方向に行くだけ行ってみて……」

「待った。気持ちは分かるけど、闇雲に動いて何とかなるような事じゃないわ。第一、分かってるの?そうやって行ったら最後、貴女も連絡が取れなくなるのよ?」

 

 じっと見てくるノワールの発言で、気付かされる。当然の事なのに、気付いていなかった。…駄目だな、ほんと…セイツじゃないけど、わたしだって普段からいーすんと一緒にいるのに思い付かなかったし、もし今日皆と話をしてなかったら、一人で探しに行っちゃってたかもしれないし……。

 

「セイツさん、一緒に行った空中艦の物資って……」

「勿論、ばっちり整えてる筈よ。…だから、余程な事がない限り、物資不足で戻ってくるのはまだ先になると思うわ…」

「まさか、ちゃんと準備をした事が仇になるとはね…」

 

 それにも期待出来ない、とセイツがユニちゃんに返して、ブランが表情を曇らせる。この後も、ぽつぽつと意見が出たけど、どれも上手くいきそうな感じはなくて……完全に、会話が止まってしまった。

 考えても考えても何も出てこない、嫌な時間が過ぎていく。何とか、何でもいいからわたしは出そうと頭を捻り続けていて…そんな中で、ノワールがふぅ、と溜め息を吐く。

 

「…このまま顔を突き合わせてても、無駄に時間が過ぎるだけね。一度お開きにしましょ」

『いや、でも……』

「落ち着きなさいな。もう少しで何か閃きそうならまだしも、お二人はそうではないのでしょう?」

 

 反射的に、それもほぼ同時に、セイツと待ったをかけようとしたわたし。でもベールの返しには反論が出来ない。何か閃きそうだから待ってほしい訳じゃないでしょう?と言われたら、頷くしかない。

 

「アタシ達も、何か手がないか考えたり調べたりしますから…ね?」

「ネプテューヌさん、セイツさん、元気出して…?」

「二人とも、イリゼちゃんがしんぱいなのよね?ならきっとだいじょーぶよ!イリゼちゃんは、すっごくしぶといんだから!…あれ?こういう時って、しぶといであってる…?」

「う、うんまぁ、強いとかタフとか、そういう言葉の方が良いんじゃないかな……」

 

 色々顔に出ちゃってたのか、女神候補生の皆にも気遣いをされちゃったわたしは、ありがとね、と言って笑う…けど、もっと情けなくなる。昨日から…ううん、一昨日からずっと、わたしは情けなくなってばかり。

 

「それと、ネプテューヌはもう一回寝なさい。どうせしっかりは寝てないんでしょ?」

「え?…別に、今は眠かったりは……」

「しなくても寝るの。はい、ネプテューヌは寝た方がいいと思う人挙手」

 

 わたしが言い切るより前に言葉を被せたノワールは、そのまま皆に呼び掛ける。早速それでベールとブランが手を挙げて、次にネプギアとセイツも挙げて、最後にはあんまりよく分かってない感じのロムちゃんラムちゃんも続いて…ノワールはまた、わたしを見てくる。

 

「ね?満場一致だけど、どうする?」

「…そういう手段は、狡いと思う」

「ふん、搦め手も為政者には必要なものよ。不満なら、心配掛けるような様子を見せない事ね」

「あらあら、ノワールは心配していたんですのね」

「なッ…ちょっ、違っ……!」

「違うの?わたしは心配してたけど、ノワールは違ったみたいね」

「うっ…こういう場で調子が悪いって即座に分かるような様子を見せるのは良くないって言ってるの!同じ女神としての忠言だから、それだけなんだからねっ!」

 

 顔を赤くして言い返すノワールと、そのノワールを見てにやにやとしているベールとブラン…そんなやり取りを見て、ちょっとだけどわたしも笑う。自分の中で、少しだけ気が緩んだ気がして…同時にノワールの言う通りだよね、と受け入れる。…わたしだって、皆に心配させちゃうのは不本意だから。

 

「…皆、今日は集まってくれてありがと。わたしのせいで大変な事になっちゃってるけど、出来れば……」

「言われなくたって力を貸すわ。いや、貸すっていうか…また何かあれば、ちょっとでも思い出せた事があれば、すぐに共有して頂戴」

 

 真剣な眼差しを向けてくるセイツに頷いて、話は終了。片付けはネプギアがしてくれるって事だから、わたしはノワールに言われた通り、寝る為に自分の部屋に戻る。

 その直前、ネプギアが皆から何か頼まれているのが聞こえた。今のわたしには頼めないって事なのか、別の理由なのかは分からないけど…それについては、ネプギアに訊かないでおく事にした。

 

(ちゃんと寝たら、少しは変わるのかな…)

 

 自分ではよく分からないけど、多分いつもみたいな表情が出来てないんだと思う。はっきり認識されたのは、ベールとのやり取りの時だろうけど、その前から何か変だとは思われていた気がする。それがちょっとでも良くなるなら、少しでも良い案が浮かび易くなるならと、そうなってほしいと思いながら、身体の力を抜いて、目を閉じる。

 

 

 

 

 皆に話した後、横になったわたしは、そんなに長く寝るつもりじゃなかった。眠気があった訳でもないし、軽いお昼寝程度にするというか、なると思っていた。けど実際には、思っていたよりずっと長く、深く寝ちゃっていて…その日は結局、他の事は殆ど出来なかった。

 翌日からは、未開領域に行ったイリゼ達の件は勿論、大博覧会の正式オープン準備も並行して行っていった。正式オープンまでの大きな山場になるプレオープンを一先ず成功させられた事で、皆には前向きさのある安心感がある感じで、こっちは何とかなりそうな…わたしが必要な事以外は何もしなければ、上手くいきそうな雰囲気だった。

 

「ネプギアさん、どうでしたか?(´・ω・)」

「今回も駄目でした。やっぱり、調整や工夫で何とかするのは難しいようです…」

 

 生活圏外から戻ってきたネプギアが、首を横に振る。一朝一夕で用意出来るような方法では無理ですか…と、いーすんも嘆息気味の声で返す。

 大博覧会の方は、取り敢えず順調に進んでいる。でも、イリゼ達の方はほぼ進展なし。いーすんが直接的じゃなくて、四大陸や神生オデッセフィア、それに四大陸周辺の浮き島の情報を参考にする形での、間接的な検索なら未開領域の情報も推測程度には得られる筈…と色々頑張ってくれて、それを元に今日もネプギア指揮の下レーダーやセンサーを駆使した探知をしてくれたけど、それでもやっぱり見つからない。

 

「うーん、やっぱここは一か八か、わたしが行ってみるしかないんじゃない?知っての通り、何故かはよく分からないけどわたしは同じ次元内での次元移動…というよりワープ?…も出来る訳だしさ」

「だから駄目ですって。大きいお姉ちゃんこれまでそのワープで、銭湯の男湯とか、監獄みたいな塔のある大穴とか、システマ使いの探偵さんの上とか、妙なところにばっかり落ちてるじゃないですか…」

「そ、それはそうだけど、今は一大事だし…」

「仮にイリゼさんの近くに飛べたとしても、イリゼさん達が未開領域の『空』を移動している最中だった場合、最悪気付かれる事もないまま真っ逆さま…下手すれば延々と落ち続ける可能性もあるんですよ?(。-_-。)」

「で、でもさでもさ、何かしたいじゃん!頭脳労働系なんてわたし、何の役にも立たないよ?脳がダチョウと良い勝負かもしれない大きいねぷねぷなんだよ?」

『いやそこまで卑下しなくても……』

 

 誰もそこまで悪くは思ってないよ…とわたし達が揃って返すと、おっきいわたしはあっけらかんとした様子で笑う。どうやら冗談だったみたいで、おっきいわたしなりに雰囲気を変えてくれようとした…のかもしれない。…それはそれとして、おっきいわたしのどこに飛ぶか分からない次元移動を頼る訳にはいかないけど…。

 

「…あ、でも…そうだ。いーすん、次元移動…一回別次元を挟んでの移動なら、イリゼ達の所に一気に行ける筈だよね?」

「それはそうです。ただ、イリゼさん達の場所が分からない限りは……(−_−;)」

「だよね…こんな事なら、何かしら連絡手段を用意しておけば良かった…っていうか、連絡手段も用意せずなんて、迂闊過ぎるよわたし……」

「それに関しては、用意しようとして出来るものでもないし、仕方ないんじゃないかな…現にわたし達も今、どれだけ頭を捻っても思い付かない訳だし…」

 

 もしも場所が分かれば一気に行ける…けど、場所を特定する手段がないんじゃ行く手段がないのと同じ。

 何日もの間、そんな状態。色々考えても、試しても、ちっとも進まない。その間もイリゼ達が移動しているかもしれない、更に離れていってるかもしれないと思うと…心の中に、焦りが募る。

 

「…物凄く長い縄か何かを持って……」

「む、無茶だよお姉ちゃん。無限に伸びる縄か何かでもなきゃ絶対すぐに足りなくなるって……」

「そっか、無限に伸びる縄があれば……」

「ネプテューヌさん、落ち着いて下さい。本当に、落ち着いて下さい…(゚o゚;;」

 

 呆れじゃなくて、本気で心配してる感じの声を聞いて、我に返る。…確かにちょっと、落ち着いた方が良いかもしれない…これを冗談じゃなくて、割と真面目に言っちゃうとか、流石にどうかしてるよわたし…。

 

「んー…あっ、ねぷのーとに目一杯縄を入れるのはどうかな?ねぷのーとなら、物量の問題は解決するよ?」

「だとしても、どれだけの長さにすれば良いか分からないのは問題です。それに万が一何かしらの理由で切れた場合が致命的ですからね…現実的ではないですし、やってほしくはありません(´ω`)」

「あぁそっか、切れちゃったら戻れなくなっちゃうもんね…むむむ、ほんとに難しいなぁ…」

 

 幾つか意見が出ては止まっちゃう、いつもの流れ。そうしてまたいつもみたいに、一旦解散になる。出来る事なら、とことんまで考えていたいけど、それに専念したいけど、したくても出来ない。わたしとネプギアは女神で、いーすんは教祖だから、大博覧会は勿論他の仕事だって色々あるから、この事だけに時間は避けない。

 それが、凄く歯痒かった。したい事があるのに、責任もあるのに、出来ないなんて。…分かってる。他の仕事だって、しなくちゃいけない事だから…それを誰かに押し付けたら、別の責任を投げ出すって事だから、しちゃいけないっていうのも、理解してる。…してるけど、歯痒い。

 

(いっそこれまでみたいな有事だったら……って、何を考えてるのわたしは…)

 

 有事なら、雑務は「仕方ない」って事で任せちゃう事も出来るけど、だからってそれを望むのは、あんまりにも間違ってる。間違ってるし、これまでわたしは、わたし達は何の為に戦ってきたんだって話にもなる。

 なんていうか…ずっと、こういう思考ばかりしている。ぐるぐる回るだけの、回ってゆっくり落ちていくような、そんな思考ばっかりしてる。

 

「…ふぁ、ぁ……」

 

 執務室での仕事中、不意にやってくる眠気。こういう机に座っての仕事中、眠くなるのはよくある事で…けど、ここ最近は何か違う。妙に眠くなったり、逆に全然眠くなかったり、何かおかしくて…しかも眠い時は勿論、眠くない時も、意外と寝られる。毎回深く眠ってしまう。

 多分、この事を話せば、皆こう言うと思う。心が休めてないんだ、って。…そうなのかもしれない。だけど…休める訳、ないじゃん。こんなんじゃ、どれだけ寝たって、休めるわけ…ない。

 

「…何とか、しなきゃ…わたしのせいなんだから、わたしが……」

 

 焦る気持ちとは裏腹に、どんどん眠くなってくる。思考が纏まらなくなって、ぼうっとして……わたしは、椅子に座ったまま寝てしまう。

 どれ位寝たのかは分からない。寝てるんだから、そんなの分かる訳がない。でも、すぐに目が覚めたって事はなくて……誰かに肩を揺すられた事で、眠りに落ちていた意識がゆっくりと浮かび上がる。

 

「…ちゃん、お姉ちゃん」

「…ぅ、ぁ…ネプギア……?」

「…大丈夫?…じゃ、ないかな…大丈夫には見えないよ、お姉ちゃん…」

 

 声で、目を開けた瞬間のぼんやりとした視界で、起こしてくれたのがネプギアだと分かる。わたしの側に立っているネプギアは、物凄く心配そうな…不安そうな顔をしていた。

 

「…迷惑かけてばっかりで、ごめんね……」

「お姉ちゃん…違う、違うよお姉ちゃん。あの時も言ったけど、わたしは……」

「ううん、かけてるよ…たとえネプギアがそう思っていなくても、かけちゃってるものは…かけちゃってるんだよ……」

 

 首を横に振って、謝る言葉から続ける。ネプギアも皆も優しいから、そんな事は言わない。だけど、間違いなくわたしはかけている、迷惑をかけちゃっている。それは否定出来ない事だし…否定する、気もない。

 でも…こんな事、言うべきじゃなかった。言ったって、もっとネプギアに心配させちゃうだけだから。女神としてもお姉ちゃんとしても、駄目駄目な言葉だった。そしてそれに気付くのも、言ってからで…心配をさせちゃってからで……

 

 

 

 

 

 

「…………ぁ…」

 

──その時だった。段々と意識がはっきりしていく…その中で夢の内容を思い出すように、じわりと染み出すように…ある事がまた、頭の中に浮かんだのは。

 

「…ぁ、え?…あ、うぁ……」

「お、お姉ちゃん…?どうかし──」

 

 何かが、浮かび上がった何かが形になっていく。理解出来るものに変わっていく。そしてわたしは…立ち上がる。

 

「…天界……」

「天界?」

「天界に、行かなきゃ…行かなきゃ、行かなきゃイリゼが……ッ!」

「お姉ちゃん!?」

 

 真後ろにある椅子をひっくり返すようにして、わたしは飛び出す。ネプギアの驚いた声は聞こえている。聞こえていたけど、わたしはそのまま扉を開けて廊下に出る。自分でも気付かない内に女神化をして…シェアクリスタルの間に向かう。

 天界に行かなきゃいけない。イリゼはそこにいて、だから天界に行かなくっちゃ…助けなきゃいけない。そうとしか、思えなかった。頭の中にあるのは、それだけだった。

 

「はぁっ、はぁっ……!」

 

 そんなに距離がある訳じゃないのに、普通なら汗一つかかない筈なのに、シェアクリスタルの間に着いた時点で息が上がっていた。呼吸が荒くなっていた。

 シェアクリスタルに両手をかざす。全力を込めているつもりなのに、やけに手間取る。全然上手くいかない。それに苛立って、肩が震えて…思わず何もない場所へ思い切り腕を振る。だけどそんな事したって、何も意味がない。無意味だから、またわたしは手をかざして……漸く、開く。天界に繋がる扉が、わたしの前に現れる。

 もしかしたら、本当はそんなに掛かってなかったのかもしれない。遅く感じただけかもしれない。でもそんな事を考える余裕もなく、ちゃんと出来たかどうかも分からない内にわたしは飛び込む。飛び込んで、天界へと出る。

 

(わたしが、わたしが……ッ!)

 

 飛び回る。飛んで、飛んで、飛び続ける。どれだけ飛んだか分からない。どこへどう行ったかも分からない。ただひたすら、ひたすらに飛んで……だけど結局、見つからない。イリゼも、何も…どこにもいない。

 

「…なんで、どうしてッ…だって、確かに……」

 

 訳が分からない。ちっとも分からない。それでも確かに、わたしの中には浮かんだんだ。はっきりと形になっていたんだ。イリゼが天界にいて、行かなくっちゃいけないんだって。それは間違いない、間違いないけど……

 

「……あ、れ…?」

 

……わたしは、気付いた。気付いてしまった。それに、思い浮かんだ事に、その記憶に…実感が、ない事に。

 それだけじゃない。それだけじゃなくて…確かな実感があった筈の、神生オデッセフィアでイリゼと話した記憶も、今は自分のものじゃないような気がしている事に。

 そして、わたしは知る事になる。失意のまま下界に、プラネテューヌに戻ったわたしは、知る。空間を斬り裂くようにして、神生オデッセフィアの枢機部隊(カーディナル)が帰ってきた事を。──枢機部隊(カーディナル)()()()、帰ってきた事を。




今回のパロディ解説

・〜〜ぼんぐり〜〜
ポケモンシリーズに登場するアイテムの一つ。ぼんぐり…は多分、どの色も似たような大きさなのでしょう。ゲームの都合といえばそれまでですが、何せぼんぐりで作るガンテツボールの大きさは同じですし。

・「〜〜イリニウムの補給〜〜」
原作シリーズの一つ、新次元ゲイム ネプテューヌVⅡ(R)におけるネプテューヌの発言の一つのパロディ。要はブランニウムネタですね。原作ネタ…というか、原作のパロディというべきかと思います。

・「まじめにふまじめ〜〜」
かいけつゾロリシリーズのアニメにおける、タイトルの一部の事。本気で遊ぶ、とか楽しむ事に全力を尽くす、みたいなのと要は同じようなもの…ですよね、多分。

・「〜〜オールナイトネプ子〜〜」
オールナイトフジコのパロディ。オールナイトフジでもなく、オールナイトニッポンでもなく、フジコのパロディです。何せ『子』がついているんですからね。
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