超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown 作:シモツキ
第一に、空中艦はどこか別の場所から、空に開いた穴から現れた。第二に、現れた空中艦はエンジンに大きなダメージを負っていた。そして、何より……帰還したアヴァラスのどこにも、イリゼの姿はなかった。
「状況は聞いているわ!えぇ、大丈夫、基本の対応は司令部に通達済みよ!」
空にアヴァラスが現れた事、一番近い国防軍基地に緊急着陸を行った事。その報告を受けたわたしは、教会から飛び出した。一直線にその基地へと向かい、司令部で直接状況を聞いた後に、アヴァラスの下へと移動をした。
当然、現場はパニック状態。緊急着陸という事態が起こっただけでも普通じゃないのに、それが独特な立ち位置を持つ
わたしはその中を、女神化した状態のまま進む。道中で何人かの声に答えつつ、アヴァラスに向かい、中に入る。
「……!セイツ、様…」
艦のブリッジに入ると、そこにはブリッジ要員の他にも、各部門のリーダーが揃っていた。初めにわたしの存在に気付いた一人の言葉を切っ掛けに、その場の皆は次々と振り向いてわたしに敬礼。軽く手を挙げる事でわたしはそれに答え、視線を艦長へ。
「基地司令からもざっくりと話は聞いてるし、その司令に向けて既に一度説明してると思うけど、改めて話してくれないかしら?…貴方達に、一体何があったのかを」
わたしからの呼び掛けに艦長は黙って頷き、話してくれる。アヴァラスが神生オデッセフィアを出発してから、何があったのかを。戦闘も、突然の事態も、そこからの対応も、更に想定外の戦いも…その末に、あった事も。
心構えはしていた。別の空間へ飛ぶ機能なんてなければ、そういう能力を持っている人が同行していたって話も聞いていないアヴァラスが、別の場所か空間から現れたって事と、一応の修理こそされていたけど、エンジンのダメージは間違いなく戦闘によるものだったって報告を受けた時点で、わたしがこれまで予想していた、想像していた旅路より遥かに尋常ではない事態が起こったんだろうと思いながらここへと来た。…それでも、驚いた。驚きの、連続だった。
「……っ…イリゼ…」
天界に飛ばされたというのにも驚いた。外見に差異のあるモンスターの存在や、そもそも正確な姿が認識出来ない『何か』、その『何か』に手を貸している様子のクロワールと、驚く事ばかりだった。…それでもやっぱり、一番心にのしかかるのはイリゼの事。天界から皆を帰還させる為に、信じられないような無茶をして、そしてそのままいなくなってしまったいう事実が、瞬く間にわたしの心を絡め取っていった。基地司令からもイリゼが消息不明になったと聞いていた、その時点でもう散々ショックを受けていた筈なのに…改めて聞いた事で、ショックはより深く突き刺さった。
自分に付き従ってくれる、信じてくれる皆を全身全霊で守る…その選択そのものは、理解出来るし間違っているとも思わない。もし同じ立場になった時、わたしは別の選択をしていたかと言われると…首を縦には振れない。それでも…すぐには飲み込めない思いが、心の中で渦巻く。
「…我々が今ここにいるのは、女神様…イリゼ様が身を挺して道を切り開いて下さったおかげです」
「…イリゼらしい選択だわ。それに、誤った選択をしたとも思わない。貴方達が皆、ここにいる…それが何よりの証左よ」
「ですが…ッ!…そのイリゼ様を、神生オデッセフィアに…我が国へとお連れする事は、出来ませんでした…。これは私の、
基地司令から聞いた報告の中では、
けれど、艦長は言う。帰還した者達の中に、イリゼはいないと。自分達は、イリゼを守る事が出来なかったと。言い切ると共に、頭を下げ…皆も、それに続く。各部門のリーダー達も、ブリッジの面々も、全員が謝罪し頭を下げる。
務めを果たせなかった。守られてしまった。自分達だけがおめおめと戻ってきてしまった。…そんな思いが、伝わってくる。普段から感情に、心の動きに意識を向けているわたしだからじゃなくて、誰でも分かる位に、自責や自らを不甲斐なく思う気持ちが、表情に、声に、雰囲気に…一人一人に、浮かんでいた。…そんな皆を見回し、わたしはゆっくりと息を吐く。ゆっくりと、ゆっくりと…皆には聞こえないように吐き切って、告げる。
「──忠臣達よ、頭を上げなさい。確かにイリゼは…神生オデッセフィアの守護女神、オリジンハートはここにはいないわ。けれどそれは、オリジンハート自身が選んだ行動の結果。それに、誤った選択をしたとも思わないというのは、イリゼに対してだけじゃない…貴方達に対してもよ」
『セイツ様……』
「イリゼは犠牲になった訳じゃないわ。ましてや、貴方達が見殺しにしたなんて事は断じてないわ。貴方達はイリゼの事より自分の事を優先したんじゃない、イリゼの命令を…イリゼの頼みを、
気持ちは分かる。本当に分かる。だからこそ、わたしは皆を肯定する。悔やむ気持ちではなく、その行動を、正しいものであったと、わたしからも言い切る。──そう。わたしはイリゼの選択を、間違っていないとは思うけど、絶対的正解だった…とも言い切れない。皆に後悔を抱かせてしまっている時点で、完璧な選択ではないんだから。だけど、イリゼの思いに応えた、応えてくれた皆に、間違いなんて一つもない。間違いだなんて、誰にも言わせはしない。
「…それに、皆も信じたんでしょう?イリゼが命を捨てる気なんかじゃないって。イリゼの道が…オリジンハートの歩みが、こんなところで潰えたりなんかしないって」
表情を緩め、皆に笑って見せる。わたしはそれを信じているわ、皆もそうでしょ?…そんな風に、呼び掛けるように。
理由はどうあれ、それが最善の選択であれど、支える為に共に旅立った女神と、共に帰る事が出来なかったのは事実。わたしの言葉、肯定を受けた今も、晴れやかな顔なんてどこにもなくて…それでもさっきまでの、暗く沈むような面持ちは薄れた…そんな風に、わたしは感じた。
「まだすぐには休めないと思うけど…最低限やるべき事が済んだら、休んで頂戴。皆は勿論、ここにいない人も含めて全員に、今は休息が必要よ」
「…ありがとうございます。私からも、そうするよう伝えます」
返答にこくりと頷き、わたしはブリッジを後にする。出来ればもう少し声を掛けたいところだけど、そうすると当然その間皆は手を止めざるを得ないし、そうなれば休むのも遅くなってしまう。休んでって言ったのに手間を増やしちゃうんじゃ、本末転倒もいいところ。
わたしは艦内の廊下を進む。ここに来た目的は三つで、一つは当事者である皆から直接話を聞く事。一つは皆を労い…或いは皆に間違った選択なんてしていないんだと伝える事。そして、もう一つが……
「あ……」
「初めまして。貴女達が、スカーレットネクサス、東亰ザナドゥ、出撃‼︎乙女たちの戦場…で間違いないかしら?」
天界、それも街らしき謎の空間でイリゼが出会ったという、三人に会う事。わたしは彼女達に待機してもらっていた部屋へ行き、声を掛けて入室する。三人いる事を確かめて、わたしの方から声を掛ける。
「…貴女は?」
「わたしは神生オデッセフィアの女神、レジストハートことセイツ。…イリゼの姉よ」
初めに声を発した…というより漏らした赤い瞳の女性が、こっちをじっと見て訊き返してくる。その当然の反応に、わたしは自己紹介で返し…最後に三人にとっては、一番大きいであろう情報を口にする。
「姉、女神…という事は、その姿は……」
「女神の、本来の姿よ。皆には、こっちの姿の方が馴染み深いかしら?」
そう言って、わたしは水色の瞳の女性からの問いに頷いた後女神化を解く。初めましてなんだから、馴染み深いも何も、という話だけど…姉妹であるわたしは当然、どちらの姿もイリゼと似ている。わたし自身はいまいち実感がないけど、周りからの評価はそうで…予想通り、ほんの少し皆の雰囲気が柔らかくなる。
初対面である、皆へのアプローチの感触は悪くない。そしてわたしが求めるより先に、三人も軽く自己紹介をしてくれる。聞いた話では、三人は天界住人(…冥界住人の対極間があるわね、我ながら…)ではなく、別次元や別世界から飛ばされてきたらしいけど…見知らぬ次元だって事は完全に受け入れているのか、思っていた以上に慌てた様子はない。
「…というように、わたしの世界…いや次元?…は、二人の住んでいた次元やここと違って、わたしの知る範囲ではモンスターの様な存在はいなかった訳だが…これ以上は自己紹介の段階で語る話ではないだろうな。後は…そうだ。イリゼはわたしの事を、乙戦ちゃんと呼んでいたよ」
「乙戦ちゃん、ね。…わたしもその呼び方をしても?」
確かにそのまま呼ぶと少し長いし、折角だから…と同じ呼び方をしてもいいか尋ねるわたし。すると彼女、乙戦ちゃんは二つ返事で構わないと言ってくれて、同じく二人からもイリゼからの呼び方と、好きに呼んでくれていい、という旨の発言を受け取った。
「ありがとう、三人共。いつもなら皆の事をもっと知る為に、デートに誘うところなんだけど…ごめんなさい、今回はそうもいかないわ。デートはまた別の機会にさせて頂戴」
「…デート?」
「唐突に何を言っているんだ君は…」
「ごめんも何も、貴女の『いつも』を知らないから、期待なんてしようがないというか…後、あくまで別の機会なのね……」
今は緊急事態だから、とわたしが言えば、三人は納得…してくれる様子なんて微塵もなく、スカネクは怪訝な顔を、乙戦ちゃんは困惑の顔を、東ザナちゃんは苦笑混じりの困った顔をそれぞれに浮かべる。
三人をデートに誘いたい、デートしたい気持ちは勿論ある。だけど今は、今だけは誘えない。だから普段のわたしらしいコミュニケーションは一旦仕舞っておいて…本題に移る。
「それじゃあ皆、早速色々と話を…と、言いたいところだけど…その前に、まずは謝罪するわ。皆も色々思うところはある筈なのに、ここまでずっとここで待たせちゃってごめんなさいね」
「いいや、気にしてはいない。ここが軍艦中で、皆が軍人で、尚且つ任務中であれば、部外者のわたし達の行動が制限されるのは仕方のない事だ」
「同感よ。それに私達の安全性を保証してくれるイリゼがいない以上、自由に出歩かせる訳にいかないというのも、当然だもの」
初めにわたしが謝罪すれば、乙戦ちゃんとスカネクが理解している、とすぐに返してくれる。
そう。待機と評しはしたけど、実際には移動を制限していた。理由は二人が言った通りで、今の今までイリゼもわたしもいなかった以上、そうする他なかった。聞いた話の通りなら、軍の皆にとって三人はまだよく分からない存在だし、イリゼがいなくなってしまった状況で、よく分からない人物を自由に動き回らせるのは、皆の不安を煽る事になる…その判断の下待機してもらう事にした艦長達の選択は当然のもので、わたしもそれは理解していた。
「ありがとう。じゃ、改めて…天界にあったっていう街の中で、一体何があったのか。どういう経緯でイリゼと出会って、何がどうなった結果、脱出に至る事が出来たのか…もう既に話した事かもしれないけど、聞かせてくれないかしら」
感謝を伝え、今度こそ本題に入る。神生オデッセフィアを出発してから何があったのかを、艦長達に直接訊いたように、
「必要だって事なら、勿論。えぇと、順を追って話すと最初は……」
「あ…っと、待った。もし良かったら、場所を移さない?理由はどうあれ、貴女達は神生オデッセフィアへの来訪者で、イリゼがお世話になった相手だもの。だから、楽しめる気分じゃないと思うけど…女神としても姉としても、もてなさせてほしいわ」
「そういう事であれば、断る理由はないが……」
「そんな簡単に連れ出していいのか、って事?それなら問題はないわ。だってわたしは女神、国の長だもの」
早速話してくれようとした東ザナちゃんにストップをかけ、外に出る事を提案する。そうする事に何の問題もないとわたしが伝えれば、三人は顔を見合わせた後に、納得したような表情を浮かべた。
今の反応からして、イリゼは女神がどんな存在なのかも、ある程度は話していた様子。これならこれからの話も割とスムーズに進むかもしれないと思いつつ、わたしはブリッジに三人を連れていく事を伝え、アヴァラスの外へ。
「これがわたしとイリゼの国、神生オデッセフィアよ。話は教会で聞きたいと思うんだけど、直行でもいい?」
『…教会……』
「皆…?」
教会と聞いた瞬間、表情に険しさが浮かぶ三人。何事かと思って呼び掛ければ、三人の表情は戻り、直行で良いと答えてくれた。
全員が表情を変えたって事は、天界にあったという街で、教会絡みの何かがあった可能性が高い。だからわたしはその事を頭に留めておき、三人と共に教会へ。平時なら軽く案内もしたいところだけど…今はそういう状況じゃない。
そして教会に着いたわたしは、応接室に三人を招く。職員にお茶の用意を頼んで、三人と机を囲う。
「…確かに、似ているわね」
「えぇ。イリゼさんが内装をある程度把握していたのも、これなら納得だわ」
「…似てるって…もしかして、貴女達のいた街にも教会があったの?」
「…ああ、あった。わたし達は元々、その教会を占領をする事を目的にしていたんだ」
真面目な面持ちで乙戦ちゃんはこくりと頷き、そこから街の中であった事の話が始まる。イリゼとの出会いから、街からの脱出までを、わたしに細かく話してくれる。
途中までは、普通に聞く事が出来た。食事関連の話は、イリゼらしい内容を聞く事も出来てくすりとするような場面もあった。でも…教会突入後の話は、わたしにとってあまりにも愕然とするものだった。
(…そんな……)
教会内で待ち構えていたクロワールがダークメガミをけしかけてきた、という話も勿論驚いた。けど、その驚きが軽く吹き飛んでしまう程、ダークメガミ撃破後にネプテューヌが現れ、刃を向けてきたという話は俄には信じられなかった。
だけど、三人に嘘を吐いている気配はない。まだ理解は追い付いていないけど…追い付いていないながらに、わたしは聞いた話を飲み込む。…後から話を聞いているわたしでも理解に苦労しているんだから、直接その状況に直面して、しかも刃まで向けられたイリゼの動揺は計り知れないわね…。
「街から脱出した後は、モンスターを迎撃して、イリゼの呼び掛けに応じて下がって…そうしてイリゼは道を開いてくれたわ。…ちゃんと相談もしないままに、ね」
『…………』
相談もしないままに。そう締め括ったスカネクの声からは、相談をしてほしかったという思いが感じられた。東ザナちゃんと乙戦ちゃんの表情からも、同じ感情が見て取れた。
…分かる。その気持ちは、凄く分かる。そこにいなかった、相談しようもない状況だったわたしでさえ、そういう感情は抱くんだから、その場にいた…いたのに何も相談されずに決死の行動を取られたとなれば、不満を…やり切れない思いを持つのは、当然の事。イリゼ自身は決死のつもりなんてない、生存する前提での選択だったとしても…
(…だけどそれは、皆がイリゼを思ってくれているからこそのもの…仲間や友達として、イリゼを思うからこその気持ち。…感謝しなくちゃ、いけないわね)
想定外続きの中で、三人はイリゼの力になってくれた…元々は利害の一致によるものだとしても、イリゼを思い、イリゼと力を合わせてくれた三人には、感謝しかない。
そして、そんな三人に、わたしから出来る事は何か。しなくちゃいけない事は何か。…そんなの、決まっている。
「…ありがとう、三人共。もしも三人がいなかったら…協力してくれなかったら、イリゼはまだその街にいたかもしれない。そうなっていたら当然、アヴァラスも戻ってくる事は出来なかった。イリゼが女神の務めを果たせたのも、皆が戻って来られたのも、皆のおかげよ」
「…けど、まだ街からの脱出が叶っていなければ、多分イリゼさんは……」
「だとしても、きっと…ううん、間違いなくイリゼはそんな事を望まないわ。それに…大丈夫よ、イリゼは。イリゼは終わりになんてしないって言ったんでしょ?イリゼがそう言ったなら…女神がそう決めたなら、その内容が如何に奇妙な事であっても、それが真実になるのよ。だから、大丈夫。絶対に、大丈夫」
協力したが為に、今がある。それは当然、プラスだけじゃなくてマイナスの部分に対しても言える事で、けれどイリゼは今ここにある結果のマイナス面を見て、後悔したりなんてしない。そうわたしは言い切って、大丈夫だと伝える。言い聞かせるように、しっかりと言葉に力を込める。
今ので三人が納得してくれたかどうかは分からない。だけど、イリゼ自身は皆との協力を、力を合わせた事を、後悔なんてする筈がない…それだけ伝われば、今は十分。そしてわたしは、話の最中に職員が持ってきてくれたお茶を一口飲んで、仕切り直すようにして言う。
「それと、イリゼは皆が自分の次元に帰るところまで力を貸すって言ったのよね?それなら、わたしが力を貸すのも当然の事。貴女達が自分の次元に戻れるよう、協力させてもらうわ。…と言っても、実際にやるのはわたしじゃなくて、次元の扉を開けるわたしの姉なんだけどね」
『……!』
自分の次元に戻れるよう協力する…わたしのその言葉を聞いた瞬間、目を見開く三人。…勝手にイストワールに協力してもらう事にしちゃったけど…イストワールならきっと、了承してくれるわよね。してくれなかった場合は…まぁ、妹として全力でお願いしまくるとして。
「あ、でも絶対やれるとまでは言えないから、その点は理解しておいて頂戴。わたしの姉は、貴女達が出会ったクロワール…彼女程自由自在には扉を開けないみたいだから」
「い、いや、理解も何も、自力で帰る手段がない以上、少しでも可能性があるなら、わたし達は…少なくともわたしは、文句など付けないさ。…だが、その前に一つ、訊きたい事がある」
確実じゃなくても構わない…そんな風に言った乙戦ちゃんは、それからわたしをじっと見てくる。スカネクや東ザナちゃんもまた、確かめたい事がある…という視線をわたしに向けてくる。
三人からの視線に、わたしは首肯。一拍の合間を経て、乙戦ちゃんはわたしに言った。
「セイツ。イリゼの存在があるとはいえ、わたし達と君とは初対面…ついさっき出会ったばかりの間柄だ。加えて街の中であった事は、真実か嘘かを判断する術がない。…わたし達を、わたし達の話を、疑ったりはしないのか?」
真剣なままに発された、疑わないのかという言葉。その問いを受け取ったわたしは、三人の顔を一人ずつ見て…そして、答える。
「疑わないわ。だって、貴女達は嘘を吐いているようには見えないもの。わたしはこれまで色んな人を見てきたから、それなりに人を見る目はあるつもりよ。それに…言ってなかったけど、皆とイリゼとの最後のやり取りは、ブリッジに音声ログとして残ってたから、聞かせてもらったわ。貴女達のイリゼへの言葉も、イリゼの声も。…だから、分かるの。イリゼが貴女達の事を、心から信用してたんだって。イリゼが信用した相手なら、疑う理由はない。そういう事よ」
わたしだって別に、無条件で三人を、彼女達の言葉を信じた訳じゃない。三人の言葉をここまで素直に受け取ってきたのは、やり取りを聞いていたから…そこで信じられると確信していたから。
これでどうかしら?とわたしは小さく肩を竦める。答えを受けた三人は、さっきのようにまた顔を見合わせ…小さく、笑う。
「…確かにこれは、イリゼさんの姉の言葉ね」
「そうね。それに彼女が姉だというのなら、それだけで信じるには十分よ」
「えぇ…?そういう話ではないと思うけど……」
「まあ、筋は通っているな。姉が妹を信じなくて、誰を信じるんだという話だ」
「…貴女もそっち側なの…?」
納得した様子を見せるスカネクと乙戦ちゃんに対し、東ザナちゃんは困惑をした顔を見せる。ただその東ザナちゃんも、「…なんであれ、信用してもらえるなら助かるわね」と言っていたから、理由はどうあれ納得をしてくれたようだった。
「さてと。早速イストワール…あ、わたしの姉ね。…に話をして、といきたいところだけど、わたしもこの一連の件については色々しなきゃいけない事があるし、街についてはもう少し聞いておきたい…というか、出来る限り情報が欲しいし、何より皆も疲れてるでしょ?だから今日のところは、取り敢えず教会で休んでほしいんだけど…どうかしら」
「私達はお世話になる側だし、異論はないわ。それよりも、何から何までお世話になっちゃって、むしろ申し訳ないというか…セイツさんもイリゼさんと同じで、優しいのね」
「ありがとう。…ところで東ザナちゃん、さっき二人と話してた時とは何か雰囲気が違うような……」
「あー…あまり気にしないでくれ。わたし達やイリゼの時もそうだったからな」
「裏表が激しいのよ、彼女は」
「そ、そういう事なの…?」
そういうものなんだ、とばかりに二人は言う。今度はわたしが困惑し、東ザナちゃんに目を向けると、彼女はにこにことしていた。無言で、感情の読めない表情でにこにことしていた。…う、うーん…まぁ、そういう事にしておこうかしら…。
…と、いう訳で取り敢えず話を終え、わたしは教会の居住スペースをさらりと案内し、来客用の部屋を使ってもらう事にする。やっぱり三人共かなりの疲労があったのか、そのまま休んでくれるようで…わたしは一人に。
「ふぅ…
何とか戻ってきたという状況だけど、大きな被害はアヴァラスのエンジン位で、三人ももうわたしが行くまでに艦内で手当てを受けていた。その点に関しては本当に安心した。
逆に、イリゼと三人が戦ったネプテューヌの事は、凄く気になる。情報が少ないから、推測とはとても呼べないような想像しか出来ないけど、これについては特に各国の皆と情報共有をしないといけない。謎のネプテューヌの事と、クロワールの事…アヴァラスの一斉射で撃破出来ているかも、なんて楽観視はせず、警戒をしておかないといけない。
そう。未開領域調査の件は、何も終わってなんかいない。むしろこの結果で、事態はより真剣に対応しなきゃいけないものになったと言っても過言じゃない。ネプテューヌの言っていた夢の事は何も解決してない、全く分かっていないままだし、わたし達の想像よりも大きな、或いは複雑な事態になっている可能性もあるし、可能性の話で言えば別次元が関わっている…前に神次元であった事や、信次元での先の戦いみたいに、一つの次元に留まらないような一大事になる事も十分考えられて……
「……っ…ぅ…」
廊下を歩いていた足が、止まる。段々と、崩れるように思考が止まっていって、考えが纏まらなくなる。何故?どうして?…そんなの、決まっている。
「…馬鹿…何で戻ってこないのよ…なんで帰ってきてくれないのよ、イリゼ……」
思いが、零れる。気持ちが、溢れ出す。これまでは軍人の、国民の手前、『レジストハート』としての態度を崩す訳にはいかなかったし、三人も今は辛い気持ちだろうから、気を遣わせたくない…そう思って何とか堪えてきたけど、一人になった事で、女神として真っ先にしなくちゃいけない務めを済ませた事で、押し留めていた感情がじわりと染み出す。
イリゼの選択は間違っていない。あの時イリゼが出来た事に全力を、最善を尽くしただけだろうし、きっとイリゼは大丈夫。もしかしたら、イリゼはもう…だなんて、微塵も思っていない。それは本気で信じて…いや、確信している。
それなのに、それでも…切なかった。苦しかった。イリゼが帰ってこない事が。イリゼだけがいない事が。誰一人失わず神生オデッセフィアに帰還させてイリゼの事は誇らしくて、イリゼ自身の事も信じていて、だから不安になる事なんて、悲しむ事なんて一つもない筈なのに……心の奥から溢れる思いを、止められなかった。
*
神生オデッセフィアの
これを受けて、守護女神の皆はプラネテューヌに集合。場所を神生オデッセフィアにしなかったのは、もう「何かあったんじゃ?」って噂がネットに広がり始めてる中で、女神が神生オデッセフィアに集まってるのを知られたら良くない推測を色々とされるかもしれないからで、女神全員じゃなくて守護女神だけが集まる事にしたのは、警戒として念の為ネプギア達女神候補生は国に残っていた方がいい、って判断になったから。
「皆、もう一通り情報は伝えてある筈だけど…改めて、言わせてもらうわ。シェアエナジーを利用した強引な方法で開かれた穴から、
会議室に集まったわたし達を見回して、セイツが言う。起こった事実だけを、淡々と口にする。
既に知っていた事だけど、聞いた瞬間心が締め付けられる。イリゼは帰ってこなかったんだっていう、セイツからの言葉によって。
「…全員って事だけど、怪我人は?」
「アヴァラスが攻撃を受けた際の衝撃で怪我した人はいるけど、それ位よ。天界にあったっていう街の中でイリゼに協力してくれた三人も、戦闘での怪我はあるけど大事には至っていないわ」
「開いた穴から現れたのは、アヴァラスだけ?イリゼが戦っていた…相手や、モンスターは追ってこなかったの?」
「わたしも戻ってきた瞬間を見た訳じゃないし、その穴はもう消えちゃったから、断言は出来ないけど…そういう報告は今のところないわね」
ノワールとブランが、それぞれセイツに訊く。その両方に、セイツは答える。ぱっと見セイツは落ち着いていて…だけど、平常心な訳がない。
「……ごめん、セイツ…」
「…今は、そういう話をしている場合じゃないわ。大変なのは、これからなんだから」
「そうですわね。相手の狙いが分からない以上、悠長に構えてはいられませんわ」
「えぇ。まず真っ先に行うべきなのは、天界の調査ね。話を聞く限り、外からは見えない、というかそもそも本当に天界の中にあるのかすら分からない街を調べたいところだし、何か変なモンスターについてももっと情報がほしいし、もしクロワール達が天界を拠点にしているなら、調査する事で手掛かりを見つけられるかもしれないもの」
「同感よ。でも、天界への扉は……」
「分かってる。艦船が通れるような巨大な門は開けないし、こういう事態になったばかりなんだから、軍を動員して…ってつもりはないわ」
発言を引き継ぐようにして、セイツは言う。話を主導するセイツと、それに答えたり質問をしたりする皆、っていう形でやり取りは進んで…ちらりと皆の顔を見れば、皆セイツに気を遣ってる感じだった。でもそれは、分かり易く心配するとかじゃなくて、セイツの今の調子を崩さないようにしよう、セイツが目の前の思考に集中出来るようにしよう…って感じの気遣いだった。
「…で、ここからが本題よ。まあ、よく考えたらがっつり意見を出し合える状態じゃないっていうか、情報が少なくてどうにもならないでしょって感じかもだけど…うん、そうね…今更ながら、直接集まってもらう必要はなかったかも…」
「今それを気にしても仕方ないでしょ。もう集まっちゃったんだから、そういう反省は後にした方がいいわ」
「…そうね。本題は、考えるべき二人の事。クロワールと、もう一人…イリゼ達と敵対した、ネプテューヌの存在よ」
「……っ…」
名前を呼ばれて、肩が震える。セイツはわたしの事を意識して言った訳じゃないっていうのは分かってるけど…それでも、他人事には思えない。だって、わたしは……。
「クロワールについては…正直、いよいよまた動き出したか、って感じですわね」
「前に逃げられて、以降消息が掴めなかった以上、まあそうね。一番警戒しなきゃいけないのは、次元移動能力を利用して、教会や国の主要施設なんかにピンポイントで強襲を仕掛けてくる事だけど……」
「正直、それに対してはすぐ出来る対抗策なんてほぼないわね。でも…希望的観測も混じるけど、もしクロワールの行動原理が前に語った通りなら、そうしてくる可能性は低いかもしれないわ。対処のしようがない、捻りもなければ工夫もない方法で一気に…なんて、見る側としては全く面白くない展開でしょう?少なくともわたしなら、そんな物語は書かないわ。…まあ、メインはその前か後で、その場面はただ必要だから入れただけ…ってシーンなら別だけど…」
「言いたい事は分かりますけど、自分の意見を速攻で揺らがせるのはどうかと思いますわ……」
クロワール…クロちゃんについて、四人が話す。でも確かにさっきセイツが言った通り、「きっとこれが目的だ」とか、「こうすれば良いのかもしれない」…みたいな意見は殆ど出ない。強いて言うなら、クロちゃんの目的は「楽しむ事」なんだろうけど、それだけじゃざっくりし過ぎててなんの予想も立てられない。
そういう状況だから、段々クロちゃんに関する意見は減っていく。減っていって…やり取りが途切れたところで、今度はわたしの方から…言う。
「…あの、さ…もう一人…わたしについては……」
「何言ってるのよネプテューヌ。イリゼと敵対したのは、貴女の…というか、ネプテューヌの偽者か何かでしょ?」
「それは……」
それは『わたし』じゃない。そう、すぐに否定をしてくれるノワール。その気遣いは、心遣いは、凄くありがたくて、嬉しくて…だけど、いつもみたいには喜べない。否定された事で、逆にわたしの中ではある気持ちがより強く渦巻いて…その内にまた、皆の方でやり取りが始まる。
「女神の偽者…というと、嘗てマジェコンヌが作り出したものを思い出すわね…。…あの時の事は、今でもよーく覚えているわ……」
「お、落ち着きなさいなブラン…。…見た目は同じとなると、これまた厄介ですわね。もしネプテューヌがいない場で遭遇した場合、そしてネプテューヌのフリをされた場合、瞬時に見分けるのは難しいでしょうし、この事態を知らない各国民の前に出てこられたら、何をしようとも全て『ネプテューヌの行い』として見られてしまいますわ」
「それを防ぐには、偽者の存在を周知する他ないけど…パープルハートの偽者がいる、なんて情報を周知したら、それはそれで混乱が広がるわね…」
「…皆、別次元のネプテューヌの可能性は考えないのね。わたしもそれはないだろう、ってすぐに思い直しはしたけど…その可能性自体口にしない、するまでもないって辺りは、流石長い付き合いなだけはあるわ。……長い付き合いなのよね…?」
まあ、ね、と三人はセイツに頷く。肩を竦める三人の顔は、苦笑い…とも違う、上手く言葉に出来ないけど、悪感情は抱いていない感じの表情をしていて…そんな中で、再びわたしは言う。今度こそ言う。今度こそ…渦巻く気持ちを、はっきりと口に出す。
「…本当に、偽者…なのかな…?」
『え?』
皆からすればきっと唐突に思えるんだろうわたしの言葉に、四人全員が目を丸くする。その皆の前で、一拍置いてわたしは続ける。
「…勿論、イリゼと敵対したのが本物のわたしで、ここにいるのは実は偽者だったのだー、とか、そういう事を言いたいんじゃないよ?…でも…わたし、信じられなくて……」
「信じられない…って、誰を?」
「…わたし、自身を」
困惑した顔で訊いてくるノワールに、返す。自分でも、今こういう話をするのは良くない…っていうのは分かってる。だけど同時に、今ちゃんと言っておかなきゃって思いもあって…わたしの返しを聞いたセイツの視線が、少し変わる。少し鋭くなって、わたしへと向く。
「…何が言いたいの、ネプテューヌ」
「…言った通りだよ。わたしは少し前まで、イリゼとやり取りした事を全く覚えてなかった。忘れるような事じゃないのに覚えてなくて、しかもその部分以外はどれだけ思い出そうとしても思い出せなくて……しかも今は、それすら本当にあった事なのかな…って、思ってる」
「本当にあった事なのかな…って、それはどういう事でして?冗談とかではなく、本当にちょっと…いえ、かなり何を言っているのか分かりませんわ…」
「そう、だよね…わたしだって、おかしいって事は分かってる…でも、本当なんだよ。わたしはイリゼと話した、神生オデッセフィアでお願いをした…そう思ってたのに、その筈なのに、今は違う気がしてるっていうか…そう、わたしの記憶じゃない気がしていて……」
自分で言いながら、少しずつ感覚を噛み砕く。忘れるような事じゃないのに覚えてなくて、それを不意に思い出して、でも今は逆に、自分の記憶じゃ、自分のものじゃない気がしていて…どう考えたっておかしい話だけど、そうとしか言えない。わたしには、そうとしか思えない。
「…何よそれ…ふざけるのは止めて頂戴、ネプテューヌ。それともまさか、存在しない記憶とでも言うつもり?」
「あ…う、うん。割とそれが、しっくりくる…かも…?」
「……ッ、しっくりくるかも…じゃないのよッ!」
「……っ!」
セイツの口にした表現は、ぴったり…かどうかは分からないけど、なんだかそんな感じに思えるもの。だからわたしがそれに同意をした次の瞬間、セイツは肩を震わせ、声を荒げる。
突然の怒号に、思わず面食らう。一瞬してから、その前のセイツの声も、普段より冷たいものだったって気付いて…わたしが面食らう中、立ち上がったセイツはこっちへ向けて歩いてくる。
「落ち着きなさいセイツ。今の返しに怒るのは分かるけど、だからって……」
「貴女状況分かってるの!?イリゼが襲われたのよ!?イリゼが帰ってこないのよ!?なのに、自分が信じられないだのわたしの記憶じゃない気がするだの……だったら訊くけど、貴女今日天界に行ったのよね?この件を連絡する少し前に、天界に行かなきゃって言って向かったのを、ネプギアから聞いたわよ?それはどういう事?まさか無関係な、何となく行きたくなった訳じゃないわよね?」
「そ、れは…だから、分からないんだよ…その時は、本気でそう思って、だけど天界に行って探してる内に、その事も、イリゼと話した事も、なんか違うような気がしてきて…ほ、ほんとだって…!」
静止するブランには答えず感情を露わにした剣幕で言葉を叩き付けてくるセイツに、わたしも立ち上がって弁明。分からないんだって、自分でも理解出来てない事なんだって、わたしより背の高いセイツを少し見上げる形で言葉を返す。返すけど、セイツの怒りは収まらない。
「そんな訳の分からない話、信じられる訳ないでしょうがッ!ネプテューヌはそう言われて、そういうものかって思える訳!?元を正せば、貴女の頼みから始まった件よ!?それのせいで、自分の国民が危機に晒されて、妹も帰ってこなくて…そんな中で分からないだの何だの言われて、じゃあ仕方ないって受け入れられるの!?」
「…無理、だけど…セイツの言う通りだけど、わたしは……ッ!」
「だったら言い切りなさいッ!自分と偽者とは無関係だってッ!」
勢い任せに、胸ぐらを掴まれる。今までに見た事のない…レイに向けるのとはまた別の怒れる瞳が、すぐ側でわたしを睨む。
もしかしたらこの時、セイツはまだわたしを信じようと…心を傾けようとしてくれていたのかもしれない。でも、わたしは……言えなかった。答えられなかった。セイツからの…その言葉に。
「……あぁ、そう…そうなのね…それが貴女の答えなのね、ネプテューヌ…」
「セイツ…ごめん、ごめんね…!わたしが、イリゼにあんな事頼まなければ──」
「今更取り繕うような事を言ってんじゃないわよッ!ああ、嗚呼、そういう事?そういう事なのネプテューヌ?」
「せ、セイツ…?」
「お、落ち着きなさいな。いえ、落ち着いていられないのは分かりますけど、一旦深呼吸を……」
「大博覧会に合わせるような形でのイリゼへのお願い、それについてこれまで黙っていた事、そもそもネプテューヌらしくない仕事へのやる気、記憶がどうのこうのでちゃんと説明する気のない主張…わたしが今、何を考えているか分かる?分かるわよねぇ?」
手を離し、ゆらりと身体を左右に揺らしながら数歩下がったセイツは、またわたしを見る。気付けば怒りだけじゃない、ぐちゃぐちゃになった感情に染まった瞳で、刺すような視線でわたしを見て、続ける。不気味な位の声音で、言い続ける。
「そうよねぇ、そりゃそうよねぇ!?こっちはまだまだ大きな開きがあるとはいえ、急成長をしている新興国、対してプラネテューヌはいつもシェア争いでラステイション、リーンボックス、ルウィーに遅れを取っているのが現状、そんな中で生まれた神生オデッセフィアは、プラネテューヌに変わって断トツでシェア率最下位になった国の存在はありがたいものねぇ、その国の成長は恐ろしいものねぇ!国の、プラネテューヌの長としては、このまま最下位で居続けてほしいものねぇッ!だから──」
「セイツッ!!」
圧倒される。気迫に飲まれる。あまりにもこれまでの想像と違う、印象と違う、別人の様なセイツの言葉に、わたしは声が出なくなる。言い返せればいいってものじゃない。だけど、今のわたしは、自分で自分が信じられない今のわたしじゃ、何一つ言葉を返す事が出来なくて……そんな中で、声が響いた。今の凄まじい形相のセイツにすら次の言葉を紡がせない程の…空気を一変させる程の、ノワールの声が。
「それ以上は、言わせないわよ?今言おうとしていた言葉は、それ以上は、絶対に言わせない。ネプテューヌの為にも…貴女の、為にも」
「何を…ッ!」
「落ち着けっつってんだろうが。お前の怒りは尤もだ、疑念を抱くのも当然だ、今のやり取りで誰が悪いかっつったらそりゃネプテューヌ一択だ。…けど、言っていい事と悪い事があるだろうがよ」
「国と国、シェアの事を考えるのであれば、尚更言うべきではありませんわ。この四ヶ国の守護女神が集まった場で、女神である貴女が、同じく女神であるネプテューヌに、どんな理由があれど確たる証拠がないまま糾弾をする…それがどれ程の事か、分からない訳ではないでしょう?」
空気を制したノワールに続いて、ブランとベールも立ち上がる。立って、わたしの方へと来る。わたしの一歩前で、セイツと向き合う形で…三人は、並び立つ。
「…肩を、持つ気…?貴女達は、ネプテューヌの肩を……」
「そういう訳じゃないわ。けど…貴女、自分で言ったでしょう?長い付き合いなだけはあるって。…私は、私達は、分かっているつもりよ。ネプテューヌは色々と問題があるけど、ほんと問題点ばっかりだけど……下を見て安心するような、安心の為だけに頑張る他者を卑劣な手段で嵌めて蹴落とすような…友達を身勝手に傷付けるような女神なんかじゃないんだって」
信じられない、と言わんばかりのセイツに、ノワールは静かな声で言う。ベールとブランは黙っていて…だけど、感じる。その背中から、ノワールと同じ思いを、気持ちを。
暫くの間、黙り込むセイツ。静かに、微動だにしないまま、ひたすらに静かな時間が流れて…セイツは、ゆっくりと息を吐く。
「……そう。えぇ、そうね。確かにここで感情任せに言ったって、糾弾したって、わたしと神生オデッセフィアの立場が悪くなるだけだわ」
「セイツ、わたくし達が言いたいのは…いやまあ、そういう面もあるにはありますけど……」
「だからこの件は、徹底的に調べさせてもらうわ。悪いけど、天界の調査は誰も手を出さないで頂戴。落ち着けって言うなら、わたしの邪魔をしないで頂戴」
「おいセイツ、それは……」
「忘れた?ネプテューヌの偽者に加えて、ネプテューヌの夢の件もあるでしょ?もしそっちも皆が信じているなら、その夢の中に出てきた三人も、下手に動く訳にはいかない…そうなんでしょ?」
くるりと背を向け、出ていくセイツ。さっきまでの激情とは違う…冷え切った声でそう言ったセイツは、プラネタワーから、プラネテューヌから去っていく。
そんなセイツの背中を、わたしはただ見ている事しか出来なかった。…どうしようもなく辛そうな、苦しそうなセイツの背中を……見送る事しか、出来なかった。
今回のパロディ解説
・冥界住人
アイディアファクトリー作品におけるファンの通称の事。冥界云々はアイエフやネプテューヌが原作シリーズの中でネタとして言ってたりもするので、原作ネタとも言えますね。
・「〜〜存在しない記憶〜〜」
呪術廻戦における地の文の一つ及び、ネットスラングの事。ただこれはネタとしてではなく、今回のネプテューヌ的には割と真剣に言っていたりします。
・怒れる瞳
機動戦士ガンダムSEED destiny第一話及び、ノベライズ版一巻のサブタイトルの事。加えてシン・アスカというキャラを表現する言葉でもありますね。書いてたら意図せずパロネタになったパターンです。