超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

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第二十話 頼みを聞いて、頼みを受けて

 天界の調査、イリゼを探す為の調査は、うずめ達に任せた。当然皆に任せ切りにするつもりなんてないけど、まだわたしにはやる事がある。

 例えばそれは、パーティーの皆への協力依頼。軍に指示や連絡をする必要があるし、教会の職員にも…もっと言えば神生オデッセフィア全体として、誰に、どこまで話をするかも、よく考えて決めなきゃいけない。

 更に、やり残していた事もある。やっておきたい事、やらなくちゃいけない事、やってあげたい事…色々とある。いつものわたしを、わたしらしいわたしを取り戻せたからこそ、そういう事も考えられるようになった。…やっぱり、大切よね。自分を、取り戻すのって。

 

「皆、待たせたわね。…貴女達をそれぞれの次元に送る準備が整ったわ」

 

 教会の中にある部屋の一つ、次元の扉を開く為の…より正確に言えば、それを行うイストワールの補助を行う機材が設置されている部屋に、わたしはスカネク、東ザナちゃん、乙戦ちゃんの三人を連れてきた。

 先に部屋に来ていたイストワールと、頷き合う。それからくるりと振り向いて、皆に向けてわたしは言う。

 

「もしかして、とは思っていたが……」

「思っていたより早いわね…てっきりもっと、長く掛かるものかと思っていたわ」

 

 わたしの言葉を受けた三人は顔を見合わせ、意外そうな声で言う。こんなに早いとは、と言うスカネクの言葉を受けて、イストワールは肩を竦める。

 

「わたしは決して、次元の扉を開くのが得意という訳ではありませんが…経験は、もう何度も重ねていますからね。…その内の結構な割合が、イリゼさん絡みだったりするのですが……( ̄▽ ̄;)」

「少し前なんて、十以上の次元や世界へ立て続けに繋げてたわね…。…得意でもないのにそこまで出来るって、むしろ凄い事じゃない…?」

「まあ、機材のサポートありきですし、各次元や世界の方でも出来る限り準備を整えて下さった結果ですからね。…こほん。話を戻すとして…皆さんの存在を基に、各次元の捕捉が完了しました。皆さんの準備が良ければ、すぐにでも開く事が出来ますよ(´・∀・`)」

 

 三人をそれぞれの次元に送れるよう、力を貸してほしい。わたしがイストワールにそう頼んだのは、丁度三日前の事。探し出せるかどうかは分からない、なんて言っていたイストワールだけど、ばっちり三日でやってくれた。流石イストワール。流石わたしとイリゼの頼れる姉だわ。

 

「ありがとうございます。…因みに、私達の存在を基に、というのは……」

「言葉通りの意味です。人であれ、物であれ、エネルギーであれ、次元の内側に存在する凡ゆるものは、その次元の『一部』であると言えます。その為、各次元の一部である皆さんという情報を手掛かりに、それぞれの次元を探した…という事なのですが、お分かり頂けますか?(´・ω・)」

 

 説明を受けた東ザナちゃんは、腕を組んで少し考えた後、納得したような顔をして「説明して頂き感謝します」と感じの良い笑みを浮かべて言った。考えている間の彼女は、凄く冷静そうな顔付きになっていて…何か段々、スカネクと乙戦ちゃんの言っていた事が分かってきた。

…と、いうのはまあ置いておいて、話を進める。といっても、もう後は質問を一つするだけだけど。

 

「そういう訳だから、これから皆を送りたいと思うんだけど…どうかしら。あ、勿論荷物を纏めてからでいいわよ?まだ部屋に色々と置いてあるでしょ?」

「それはまあ、そうね。置いていく訳にはいかないものもあるし」

「後は、何かやり残した事があるなら、それを先に済ませてもらっても構わないわ。それも含めて…どう?もうすぐにでも、帰る事は出来る?」

 

 当たり前だけど、次元の扉を開く事に条件を付ける気なんかない。準備だって出来ているからこそ呼んだ訳だし、後は三人の意思次第。すぐにでもって事なら早速イストワールに開いてもらって、その前にやっておきたい事があるなら、その後に開いてもらうだけ。

 

『…………』

 

 問い掛けを受け取った三人は、黙る。全員が何か思考している、思案している。

 その間、わたしとイストワールは黙って待つ事にした。皆今に至るまで色々感じた事があるだろうし、思うところもあるだろうし…少し待ってほしい、って事なら、極力それに答えるつもりだった。実際に扉を開くのはイストワールだし、三人共別の日に…とかってなるとイストワールの負担も増えちゃうから、その辺りは三人にも考えてほしいところだけど…皆しっかりしてる人達だし、それは言わなくても大丈夫よね。

 

(…予想はしてたけど、即決で帰る…って事は、誰も言わないのね。…やっぱり……)

 

 時折互いの事も見やりながら、沈黙を続ける三人。わたしとイストワールは最後まで、三人の方から口を開くのを待ち…三人は、小さく頷き合う。そして、言う。

 

「…まずは、こんなすぐに帰れるようにしてくれた事を感謝するわ。でも…その上で、言わせて頂戴。…イリゼがここに戻ってこられるまでは、待たせてもらえないかしら」

 

 代表するような形でスカネクが言い、東ザナちゃんと乙戦ちゃんが静かに頷く。

 イリゼがここに、自分の国に戻ってこられるまでは、自分達も待ちたい。三人がそう言う事は、そう言ってくれる事は、考えていた。考えていたし…嬉しくも、あった。

 

「待っていたところで、私達に出来る事なんて殆どない…という事は分かっているわ。お世話になっている身で言う事じゃない、というのも理解しているつもりよ」

「だがそれでも、共に戦ったイリゼの行方が未だ分からない中で、自分達だけ帰るというのは、彼女に…友に対する不義理だと、わたしは思う」

 

 待ちたい、このまま帰りたいとは思わない…それが、三人の意思。三人の真っ直ぐな瞳が、意思と共に向けられる。

 気持ちを受け取ったわたしは、イストワールと見合う。それからお互い、小さく笑って…再び三人の事を見る。

 

「ありがとう。貴女達の、イリゼを思ってくれる気持ちは凄く嬉しいわ。…具体的には、くるくる回って喜びたい位よ。いや、うん、ほんと…すぐ終わらせるから、ちょっと喜んでいいかしら?」

「えぇ…?どうしてそんな、某アメ細工を貰ったみたいな事を…」

「すみません、セイツさんは感情や心の動きで興奮してしまう、少し変わった方なので…( ̄◇ ̄;)」

 

 ここまで平常心を装ってはいたけど、三人の思いを感じて、しかもそれがイリゼを思う気持ちだった事で、かなりわたしの心は舞い上がっていた…もとい、舞い上がりそうになっていた。で、別に隠す必要はないかと思って口にした結果、例の如く東ザナちゃんからは困惑の声を、スカネクと乙戦ちゃんからは怪訝そうな視線を向けられた。

 でもそれより痛いのは、三人に対するイストワールの返答。そ、そんな身内の恥を謝るみたいに言わなくたっていいじゃない…。…内容的には全く否定出来ないけど……。

 

「…こほん。本当に、その気持ちは嬉しいわ。イリゼが天界で出会ったのが三人で良かったとも、心から思ってる」

「それはわたしも同じだ。…しかし、前置きのようにそう言うという事は……」

「えぇ。そう思うからこそ、わたしはきっちりと貴女達を貴女達の次元に…元居た場所に帰してあげなくちゃいけないわ。イリゼの姉として、女神として」

 

 察した様子の乙戦ちゃんに頷き、だからこそだとわたしは言う。わたしを見つめる皆の視線を受けながら、わたしは続ける。

 

「初めに貴女達から話を聞いた時にも言ったけど、イリゼが皆に力を貸そうとしたんだから、わたしだって皆に力を貸すわ。そして、もし無事にイリゼが戻ってこれていたなら、イリゼはすぐに皆が帰れるよう動いていた筈。だからここで、皆が帰れるようにするのを後に回すのは、きっとイリゼも望んでいないわ」

「…そうね。私はまだ短い付き合いだけど…イリゼならそう思う気がするわ」

 

 きっとイリゼなら…そうやって語るわたしの言葉に、三人は言葉や表情で理解を示してくれる。だけど、これじゃまだ足りない。三人の思いに応えられない事への理由が、足りていない。

 

「もしイリゼが戻ってきた時、皆をずっと待たせてしまっていたら、自分の選択が皆に『帰る』事を躊躇わせる事に繋がってしまった…そんな風に思う筈よ」

「そんな事は…いえ、仮にそうだったとしても、そこでイリゼさんが自分を責める必要は……」

「えぇ、ないわ。だけど多分、イリゼは謝ると思う。思い詰める…って程ではなくても、『申し訳ない事をした。この事はきちんと謝らないと』…なんて考えるわ。…そう思われるのは、皆だって不服でしょう?」

「…そう、だな」

「それに…何より貴女達にも、それぞれ自分の次元で親しい相手が、関わりの深い人がいるでしょ?だったらまずは、その人達を安心させてあげて。貴女達の家族や友達、仲間だったら、きっと心配したり身を案じていたりする筈だもの」

 

 イリゼを思ってくれる皆だからこそ、不満な気持ちを持たせたくない。今のわたしと同じように、帰りを待つ人もきっといる筈だから、その人達を安心させてほしい。…それも含めての、わたしの思い。わたしからの、理由。

 今言ったのは、わたしやわたし達側の都合じゃない。皆が、そんな事は気にしない、気にしなくていいと思うのなら、わたしから言える事はなくなるし…もし皆が本当にそう思っているのなら、わたしが考えを強いるのも違う。だから後は、皆がどう思うか次第。

 再び三人は沈黙する。さっきと同じように、わたしとイストワールは待つ。これ以上は何も言う事なく、三人の考えと気持ちに委ねる。そして……

 

「…分かったわ。国民でないどころか、この次元の人間ですらない私達に便宜を図ってくれて、帰る手段を用意してくれたセイツさんやイストワールさんの思いを無碍にする事は出来ないもの。だから…次元の扉の準備を、お願いするわ」

 

 心を決めた。…そんな風に感じさせる面持ちで、東ザナちゃんは言った。これまでの感じの良い顔付きとは違う…でも、本心だって伝わってくる表情と共に。

 彼女の言葉に、スカネクと乙戦ちゃんは何も言わない。それが、二人の答え…二人からの、肯定だった。

 

「ありがとう。貴女達の様な人がイリゼに手を貸してくれた事…共に歩んでくれた事を、心から感謝するわ」

「それでは、早速扉の開放に取り掛かります。その間に皆さんは、お荷物の準備を( ̄^ ̄)ゞ」

 

 これまでも感謝は伝えてきたけど、今一度口にする。その後わたしはイストワールに目をやり、イストワールは言葉通り扉を開く準備に入る。

 もうわたしにやれる事はない。後は、三人を見送るだけ。イリゼだったら最後にこれを…って感じに手作りお菓子を渡したりするだろうけど、わたしにそんな腕はない。こういう時、対して上手でもない手作りお菓子を渡しても、微妙な空気になっちゃうだけだものね。…まぁそれはそれとして、神生オデッセフィアのお土産のお菓子を用意しておいたけども。

 

「これが、次元の扉…あの教会の奥で見たものと似ているな」

「あの扉は…ちょっと、身構えちゃうわね…」

「…確かに」

 

 準備を整え、三人は戻ってきた。その時にはもう、イストワールが最初の扉を開いていて…東ザナちゃんが肩を竦める。乙戦ちゃんも苦笑をし、何とも言えない感じの顔でスカネクが頷く。…そういえば、空に投げ出された…って話もしていたわね…クロワールにしろネプテューヌの姿をした存在にしろ、飛べるから問題はないんでしょうけど、なんてまたそんな場所に扉を……。

 

「三つの次元に対して、それぞれ順に扉を開きます。皆さんであれば大丈夫だとは思いますが、順番は守って下さいね?(´・ω・`)」

 

 言われるまでもない、と三人は軽く首肯。そしてイストワールが開いた扉へ…と思っていたわたしだけど、そこで三人は動きを止める。三人の眼差しが、わたしとイストワールの方を向く。

 

「……?えっと…三人共?」

「…セイツ、それにイストワール。これはあくまで、わたし達の我が儘だ。その上で…一つ、頼みを聞いてくれないだろうか」

 

 頼みを聞いてほしい。乙戦ちゃんはそう言った。それが彼女個人のものではなく、三人で決めた事だというのは、すぐに分かった。

 わたしは三人の頼みを聞く。聞き、その意味を…そこに込められた思いをよく考えて、答える。イストワールとも確かめ合って、三人の頼みに、願いに応える事を約束する。

 そして、わたし達は見送った。イリゼと出会い、同じ目的を目指し、絆を紡いだ三人を。三人はそれぞれの次元へ…元居た場所へと、帰っていった。

 

「…これで一安心、ですね(。-∀-)」

「えぇ。でも…また一つ、頑張らないといけない理由が増えたわね」

 

 これで一つ、為すべき事を為せた。一方で、三人の思いに応えるという、新たな使命が出来て…だけど、それを負担には感じない。応えなきゃじゃなくて、応えたい…そんな思いが、わたしの心の中にはあった。

 

…………。

 

……………。

 

………………。

 

 

……って、あぁ!?ちょ、ちょっと待って!?わたし…三人の誰ともデート出来てないじゃない!

 

「しまった…なんて事、なんて事なの…!?デートをしないわたしなんて、赤くないライバル機や、武力を以って殲滅する精霊対処みたいなものよ……」

「突然何を言い出しているんですかセイツさん…(~_~;)」

 

 あまりにも大きな失態に、両手で頭を抱えるわたし。本気で辟易としている様子のイストワールに、呆れの視線を向けられていたけど…さっきと違って、今度は痛くなかった。それよりも、デートをしそびれてしまった事の方がずっと痛かった。…こうなったら、次の機会に必ず三人とデートをする他ないわ…!

 

「…こほん。ところでセイツさん、あれからネプテューヌさんと話しましたか?( ̄^ ̄)」

「…それは……」

「…どうするかは、セイツさん次第ですよ」

 

 切り替えるように咳払いをしたイストワールの、わたしへの問い掛け。わたしはそれへの答えに詰まり…イストワールは、小さく肩を竦めた。言いたい事は分かりますね、とイストワールの表情は言っていて…わたしは小さく、だけどちゃんと分かるように頷いてみせる。

 

(…そうよね。このままじゃ、今は良くても後からきっと心に残る。後からじゃ、ちゃんと話しても後悔が残る。だったら……)

 

 気を遣ってくれたのか、イストワールは先に部屋を出ていく。一人になったわたしは、心を決める。そしてゆっくりと息を吐き……ネプテューヌへと、連絡を掛けた。

 

「…ネプテューヌ。貴女に、伝えたい事があるの」

 

 

 

 

 教会から繋がる天界の場所は、決まっている。詳しくは知らないが、確実に、且つ開く女神の負担を軽減する為には、そうしておいた方がいいんだとか。

 天界の調査は、その地点から広げていく形で進めていった。最初こそ本当に俺達だけだったが、イリゼ達のパーティーメンバーも別グループとして調査に参加してくれるようになってからは、その分調査ペースも向上。同時に、神生オデッセフィアから繋がる地点周辺の安全も十分に確認が出来て……遂に、例の場所の調査へと俺達は踏み切る。

 

「情報だと、もう少し歩いた先だな」

「今の時間は…うん、これなら十分調べる時間を取れそうだね」

 

 幾つもの浮いた大地を進み、幾つもの虹の橋を渡り、俺達は目的地へと向かっていく。イリゼ達が、女神化したネプテューヌの姿の存在やクロワール、それにモンスターと戦った場所…最後にイリゼがいた場所へと。

 

「これってほんと、どういう物質なんだろうね。…ちょっと削って取る事とか出来ないかな?」

「頼むから、渡ってる途中にやるのだけは止めてくれよ…?もし橋全体が砕けたり消えたりしたら、洒落にならねぇからな…?」

 

 俺とくろめが資料やデータを見ながら進む中、俺達より数歩先を歩く大きいネプテューヌとうずめの声が聞こえてくる。…さっきからずっと、何も見ずに先を歩いてるけど、二人はその辺りどう思ってるんだろう…間違ってたら、俺かくろめが後ろから声を掛けてくれると思ってるんだろうか…。

…と思っていたら、俺の考えている事が読めたのか、くろめが小声で「こっそり二人から離れてみるかい?面白い展開になるかもしれないよ?」…と言ってきた。…くろめがくすりと笑いながらこんな事を言ってくる、それが凄く可愛く感じる俺だった。

 

「にしても、ほんと不思議な場所だよな。ねぷっちじゃないが、確かにこの虹の橋なんてどういうもんなのか気になるしよ」

「へっ?あ、そ、そうだな。…同じ信次元とは、思えないよなぁ…」

 

 思いっ切り脱線した思考を俺がしている中で、くるりと振り向いたうずめがこっちに向けて言ってくる。いきなりだったから驚いたが、気持ちは同じ。零次元の崩壊具合…特に脱出直前なんてほんとに現実の光景とは思えないようなものだったが、天界も天界で幻想的というか、普通の人間が立ち入る事はまずない空間というのも頷けるというもの。出来る事ならじっくりと、のんびりと散策をしてみたい。

 だが、今はそうもいかない。今は興味よりも使命を、散策よりも探索をしなきゃいけない理由がある。

 

「…見えてきたね」

 

 更に進む事数分。呟きと共に、くろめはほんの少し視線を鋭くさせる。その視線の向かう先にあるのは…抉れた地面。多分だが、そこにミサイルか何かが着弾したんだろう。

 

「これは…確かに結構な戦闘があったみたいだな」

「人より数倍以上に大きく、それに見合った火器を装備しているMGと、500mを超える空中艦が揃って戦闘を行えば、こうもなるさ。…………」

「…くろめ?」

「…その力を市街地で振るえば、どれだけ気を付けても街に、避難が済んでいなければ人に大きな被害が出る。だが、こういう力も人を、国を、次元を守る為には必要になる。必要だから、皆は開発と配備を推し進めた。…本当に、難しいものだよ。力ってものは」

 

 近付けは近付く程、戦闘の跡が見えてくる。俺の言葉に応えてくれたくろめは、ふっと黙り…大きいネプテューヌに呼び掛けられた事で、再び口を開く。…物憂げな、昔は見た事がなかった表情を浮かべて。

 

「さて、それよりもこの一帯を細かく調べて行くとしよう。けど、戦闘の影響で脆くなっている場所があるかもしれない。全員、足場にはよく気を付けるように」

「…そう、だな。んじゃ、早速調査を…と行きたいところだが、この辺はまだいりっち達が戦ったモンスターの生き残りがいてもおかしくねぇよな?けどだからって四人で固まって調べるんじゃ効率も悪いし、ここは二組に分かれるか?」

『二組……』

 

 切り替えるように「さて」と言ったくろめに、うずめが頷く。一瞬、気持ちを押し殺して切り替えたようなフリをしたのかとも思ったが、すぐにそうではないと、くろめの表情を見て分かった。…あぁ、そうだ。決してくろめの表情は、暗いものじゃない。

 そして話に聞いているモンスターの事を考えたうずめの提案に、改めて大きいネプテューヌは顔を見合わせる。直後、うずめとくろめからの視線も感じる。…う、うーむ……。

 

「…組み合わせ、どうするよ…?」

「そうだねぇ…よーし、折角だしわたしはウィードくんとの組に立候補──」

「ねぷっち」

「理由を、訊いてもいいかな?」

「…ではなく、くろめと組みたいかなぁ…!」

 

 一抹の不安を感じる中、予想外の発言をする大きいネプテューヌ。まさかの発言に俺は驚き、彼女の快活な表情に眩しさを覚え…た直後、連携するが如くうずめとくろめが大きいネプテューヌに問う。別に声を荒げていたり、逆に冷めていたりする訳ではない…けど何か、圧力を感じさせる声で。

 さっきまでの明るい表情はどこへやら。慌てた様子で大きいネプテューヌは指名相手を切り替え…すると今度は、それにくろめが目を丸くする。

 

「…オレと?」

「うん。っていうかさっきのは冗談で、最初からくろめと組みたいな〜って思ってたよ?…駄目?」

「い、いや、駄目じゃないが…。…うん、全然駄目じゃないよ、ねぷっち」

 

 じっと見つめる大きいネプテューヌの言葉に、一度は戸惑い…けれどその後は小さく笑みを浮かべて、くろめは大きいネプテューヌの申し出を受ける。何かに迫られる事もなく、丸く収まりそうな流れに俺は安堵し…でもちょっと、心の中に木枯らしが吹いた。…冗談だったんだ…いやいいけど、いいんだけども…なんかちょっとショックというか…うん……。

 

「おいこら、なんでちょっと残念そうな顔してんだウィード」

「いや、その…男の性というか、なんというか……」

「何だそりゃ…まぁいいや、ねぷっちと【オレ】ももう調べ始めてるんだから、こっちも行くぞ」

 

 半眼で俺の事を見た後、うずめは歩き出す。俺も気持ちを切り替えて、後に続く。

 調査といっても、センサーとか何かしらの探知機とかを使っている訳じゃない。あくまで目で見て、自分の感覚で調べるだけ。だからどっちかっていうと、現場検証みたいなもの。

 

「うずめー、そっちは何かあったかー?」

「何もねーな。そっちはどうよ?」

「こっちは……あ」

「なんかあったか?」

「ここも何かの攻撃で酷い有り様なのに…一輪だけ、花が残ってる…」

「…そっか…強い花なんだな、きっと。……って、探してるのはそういうもんじゃねーし!」

「ですよねー」

 

 儚くも強い美しさを感じる…と思ったが、うずめの言う通りこれを見つけたって何の意味もない。という訳で俺は周りの土を軽く整えて、その場を離れた。

 

「さっきのくろめじゃないが、ビームやらミサイルやらが飛び交う場所がこういう無人の場所じゃなくて、人が多く住む場所とかだったら…って思うとゾッとするな。…うずめ?」

「…なあウィード、これって…ペンキとか、そういうものじゃない…よな?」

 

 足元に気を付けながらうずめの方へ歩いていくと、うずめは地面をじっと見ていた。何かと思って同じ場所を見れば、そこには目立つものなんて特にない。あるのは地面の色や草の色とは全く違う、自然のものではないように見える、幾つかの赤い点だけ。

 一瞬、なんじゃこりゃ?…となった。数秒してから、何か赤い液体がここに落ちたんだろうな、と理解が追い付いた。そしてその後に、うずめの言いたい事に気付く。

 

「…イリゼは確か、軍の人達と合流した時点で結構な怪我をしてたって言ってたよな…それに、確かさっきの花の近くにも同じようなのがあったような…。…じゃあ、この赤い液体が落ちたっぽいのって……」

「…早く、見つけてやらねぇとな。ついでに肉も用意しておいてやるか?」

「いや食事による回復より先にやる事あるだろ…どこぞのゴム人間じゃあるまいし…」

 

 強い意思を感じる言葉に続けて、にやりと笑いながら言ったうずめに、俺は軽く突っ込んで返す。…冗談はともかくとしても、早く見つけたい。見つけてやりたい。

 

「やっぱ、この辺りにゃこれ位しかなさそうか。んー…向こうはどんな感じだろうな」

「向こうって…空中艦が不時着した場所を調べに行った皆の事か?それとも、くろめと大きいネプテューヌの事か?」

「【オレ】とねぷっちの方だ。…まあ、大きいねぷっちとの付き合いは俺より【オレ】の方が長い訳だし、心配する事はないと思うけどよ」

 

 肩を竦めるうずめに、俺も頷く。予想…いや、期待した通り、パーティーの皆もイリゼを探すのに協力をしてくれて、今は別チームとして動いている。人数的にはずっとあっちの方が多いし、全員がうずめやくろめ、大きいネプテューヌに負けず劣らずの経験豊富な面々な訳だから、心配云々でいえば向こうの方がずっと心配不要というものだろう。

 

「…くろめの事を、気遣ってくれたのかな」

「んー…それはない、とは言い切れないが…大きいネプテューヌの事だし、また一緒に何かやれるのがシンプルに嬉しいんじゃないか?それに今は、くろめを止める必要もない訳だしさ」

「確かに、それもそうだな。…へへっ」

 

 納得した様子を見せたうずめは、それから頬を緩めて笑う。なんというかそれは、二人が仲良くやっているのを喜んでいるような感じで…もしそうなら、俺は嬉しい。この件を聞いた日、俺はうずめとくろめで馬が合わない理由を聞いて、それについてくろめは互いに抱く自己嫌悪がある筈だと言っていたが…やっぱり俺としては、二人には仲良くしていてほしい。だって、どちらも俺にとっては大切な相手なんだから。

 なんてちょっと格好付けてみたりしたが、実際一番大きい気持ちはそれなんだが、実は他にも理由があったりする。…いやほら、もしマジの喧嘩になっちゃったら、俺止められる気がしないし…女神同士がマジ喧嘩とかになったら、止めに入ってもダブルパンチでぶっ飛ばされる気しかしないし…。

 

「さて、まだ調べなきゃいけない場所は多いんだ。気ぃ抜かないでもっと……」

「うずめ?…って、あ……」

 

 それはそれとして、調査続行。再び先行する形で、うずめは数歩先を行き…すぐに、止まる。

 一体なんだろうと、俺はうずめの隣に行く。それから俺もまた、すぐに気付く。うずめが止まった理由に。──周囲一体の地面が捲れ上がり、虹の橋がどこも砕け散っている、そこで桁違いの『何か』が起こったのであろう空間に。

 

「…これは……」

「…いりっちが強引に下界…神生オデッセフィアへの道を切り開いた場所、だろうね」

 

 茫然と俺も見つめる中、後ろから声が聞こえてくる。くろめと大きいネプテューヌも、俺達の方へ歩いてくる。

 

「ここでいりっちは、クロワールが引き出したレイの力、膨大なシェアエナジーと、リバースフォームを用いた自らのシェアエナジーをぶつけ合わせた…その為に、艦の一斉射をその身に受けた…。……うん、オレが言える事じゃないが、本当に何を考えてるんだいりっちは……」

「全くだな。いや、気持ちは分かるけどよ…分かるけど、それはそれとしてって感じだ」

「んもう、そーゆー重大な選択をする時は、ちゃんと相談してからにしてよね、って感じだよねー」

「いやそれは…うん、だよな」

 

 ゆっくり見渡しながら言うくろめに、うずめが腕を組みながら同意する。更に大きいネプテューヌも両手を腰に当てながら言い…連絡手段がなかったんだから仕方ない。そう言おうとした俺は、口にする直前でぐっと飲み込んだ。…だとしても、知らぬ間に一人で決めて、実行して、結果皆が無事に帰れたとはいえ、イリゼは行方不明になってしまったなんて、友達として悲しいから。仕方ないと理解は出来ても、心に燻る思いはある…きっと大きいネプテューヌが言いたいのは、そういう事だから。

 

「ほんと、重大な事を決める時は、ちゃんと皆に相談してほしいよねぇー」

『うっ……』

 

 それから大きいネプテューヌの視線は、うずめとくろめに。物凄く意図を感じるその声に、うずめとくろめは揃って斜め下へと目を逸らした。…うん、分かる。二人もそういう傾向あるし。

 

「こ、こほん。【俺】、ここで何か感じるものは?」

「…シェアエナジーの話か?」

「あぁ。本来直接的な行き来なんて出来ない天界と下界を強引に繋げる程の、シェアエナジーの激突があった場所なんだ。だったら時間が経った今も、何か感じられるものが…と、思ったが……」

「その様子だと、【オレ】も何か感じてる訳じゃないみたいだな」

 

 残念ながら、ね、とくろめは首を横に振る。因みにこの時、俺と大きいネプテューヌは「何か感じる?」「いや全く。感じられる気すらしない」「だよねー、わたしも!」…という、我ながら緊張感のない話をしていた。

 

「…困ったな。他の場所はともかく、ここなら何かしら、って思ってたんだが…」

「ま、そう焦るなって。まだ探してねぇ場所もあるし、気落ちするのは思い付く場所全部当たってからでも遅くはねぇよ」

「それに、何もなかった訳じゃないよ?ほら、モンスターのドロップアイテム…と思われる物〜!」

「もしかしたらこれを解析する事で、何か分かるかもしれない。…まあ、汚染モンスターを倒した結果残った物は、汚染されていない通常個体を倒した場合の物となんら変わりなかった…というのもよくある話だし、期待し過ぎるのも良くはないけどね」

 

 期待は大きければ大きい程、それが外れた時の落胆も大きくなる。可能性はある筈だと思っていたからこそ、ここも何もないのだろうか、という不安が強くなって…けれどそんな俺の背を、うずめが叩いた。大きいネプテューヌも、それに続いた。…そうだな、確かにその通りだ。まだ途中の段階なのに気落ちするなんて、気が早いにも程があるよな。

 で、それから十数分後。俺達は調査を一旦中断し、食事休憩にする事にした。

 

「やっぱ、食事するには最高の景色だよな。…ここの場合は、向きによっちゃそうでもなくなるが……」

 

 レジャーシートに座り、持ってきた弁当を食べながらうずめは言う。真っ直ぐ前を見れば、そこには大小様々な大地と、それ等を繋いでいる虹の橋と、どこまでも広がっているような空。横を見れば、大規模戦闘の跡が残る無惨な地形。後者は後者で凄いというか目を引く訳だが、やっぱり食事しながら見たいのはどっちかって言われれば、そりゃもう前者に決まってる。

 

「クロワール…やはり一番厄介なのは彼女の方かもしれないな…。仮に居場所を突き止められたとしても、クロワールの存在そのものが逃走手段である以上、そこを何とかしないと……」

「くろめってば、ご飯中位は難しい顔するの止めようよー。…でも、クロちゃん…クロちゃんかぁ……」

 

 箸を片手にぶつぶつ呟くくろめの肩を、大きいネプテューヌがつんつんとつつく。それからネプテューヌはふっと声音が変わり、どうしたんだろうかと俺達はネプテューヌを見やる。すると大きいネプテューヌは俺達の視線に気付き、軽く頭を掻きながら笑う。

 

「ほら、なんだかんだ振り回される事も多かったけど、クロちゃんとも付き合いが長いし、そもそもわたしが色んな次元を旅出来たのは、クロちゃんのおかげだからね。だから今もまたクロちゃんが悪い事してるって思うと…やっぱり、止めたいんだ。勿論イリゼは助けたいし、ちっちゃいわたしの姿をした誰かの事も気になるけどさ」

「…止めたい、か…オレの時も、ねぷっちはそう思ってくれていたね」

「当然だよ、くろめは友達なんだから。…よし、決めた!クロちゃんを止める為にもわたし、頑張る!そして、クロちゃんを説得して、この擬似メガミラパーティーを完全なものに…してみせるッ!」

 

 ばっ、と立ち上がり、拳を突き上げる大きいネプテューヌ。その決心と、クロワールを敵ではなく『付き合いの長い相手』として止めたいという優しさと心の強さの両方を感じさせる思いに、俺達は「おー」と拍手をし……

 

『…って、擬似メガミラパーティ…?』

「だってほら、わたしにうずめに記憶喪失のウィードくんだよ?更にくろめだっているんだから、後はクロちゃんがいれば完成だよ完成!」

「いやいやいや…色々突っ込みどころはあるけど、取り敢えず俺はもう記憶喪失じゃねぇし…」

 

 何故か自信満々に仁王立ちする大きいネプテューヌに、俺達三人は揃って手を横に振る。そして、特務監査官となって以降はうずめ、くろめとの三人で行動する事の多かった俺は、ここ数日の事を思い出してこう思うのだった。…大小問わず、ネプテューヌがいると会話の愉快さ加減が跳ね上がるよなぁ、と。

 

 

 

 

 分かっていた。分かっている筈だった。セイツが、辛い気持ちを堪えている事は。それを堪えて、今すべき事をしようとしている事は。

 なのにわたしは、堪えているセイツの思いを踏み躙った。信じてくれようとした気持ちにも、応えられなかった。

 わたしだって、辛かった。自分の事を信じられないのも、自分に自信が持てないのも、ずっと一緒に戦ってきた…楽しい事も大変な事も一緒に感じてきたイリゼがいなくなったっていう現実が、信じられない位辛かった。……だから、あんな事を言っちゃった?あんな事しか言えなかった?…違う、そうじゃない。そんなの、言い訳だ。全部、全部…全部全部……わたしが、悪いんだ。

 

「…………」

 

 セイツが帰って、逃げるみたいにわたしも自分の部屋に引き籠もって、何日か経った。何日なのかは、分からない。ちょっと自分の携帯端末を見れば、それだけで分かる事だけど…今は、たったそれだけの事をする気も起きない。

 皆に心配をかけちゃってる。ネプギアにも、いーすんにも、ノワール達にも。こうしていても、皆はもっと心配するだけだって事も、ぷるるんと神次元の皆の事を思えば、すぐに分かる。…なのに、出来ない。何も、何も。

 

(…もう、どうしたらいいか分からない…分からないよ……)

 

 ベットの上で、膝を抱える。前のわたしなら、どうしたらいいか分からない時、取り敢えず動いていた。動いてみれば見えてくるものがあるかもしれないし、動いて駄目ならその時もう一度考えればいい…そんな風に、思っていた。

 だけど…結局それは、これまで偶々上手くいっていただけ。自分が知らないところで、皆がサポートしてくれていただけ。…ううん、違う。きっと上手くいっていない事も、何度もあったんだ。その度に、皆が割を食って、何とかしてくれていて…そんな事を想像もせずに、わたしは呑気にしていただけなんだ。

 

「…はは…で、こうやって何もしてないんだ…こうしてたって、何も変わらないのに……」

 

 今の自分が、何も良くないって事は分かってる。…分からなければ、ひたすら「もう何もするべきじゃない」って思っていられたのかもしれないけど、そう考える事もわたしには出来ない。

 自覚があるだけマシ?…そんな事、ある訳ないじゃん。駄目だって、悪いって分かってるのに、それを変えようとしないだなんて、自覚がないよりもっと酷い。……でも、それでも動けない。…怖い。動く事で、また何か悪くなっていく事が。良くなる可能性もある…そう思えるような信用が、今はわたしがわたし自身に持てていない。

 

「…お姉ちゃん、聞こえてる?」

「…ネプギア……」

 

 聞こえたのは、扉越しのネプギアの声。その声に、わたしは応える。…応えなくちゃ、もっと心配させちゃうから。

 

「…もしかして、わたしじゃないと不味い仕事…?それなら……」

「う、ううん。そうじゃなくて…あのね、ちょっとお出掛けしない?ほら、前にお姉ちゃんが食べてみたいって言ってた期間限定メニューの発売が今日からでしょ?」

 

 そうじゃない、とネプギアは否定して、外に出る事を誘ってくれる。…けれどわたしは、それに応じる事が出来なかった。口から出たのは、今は止めておく…そんな言葉だった。

 もしも、仕事の話だったら。守護女神のわたしじゃないと駄目な事だったら。…もしそうだったら、それなら仕方ないって、皆に迷惑がかかるからって、部屋を出られたかもしれない。……そんな風に思ってしまった自分が嫌になる。こうして何もしていない言い訳を探して、ネプギアが呼びにきたのはそういう理由じゃなかったからなんだって思おうとしている自分が、凄く嫌になる。こうしている今も、ネプギアを更に心配させて、迷惑だってかけてるのに。

 

「…そっか…行きたくなったら、言ってね?わたしも何だか食べてみたくなっちゃったからさ」

 

 言葉から、内容から感じるネプギアの優しさ。それが嬉しくて、だから余計に情けなくなる。

 分かってる。分かってる分かってる分かってる。これじゃ駄目だ、って。何も出来なくていい、駄目駄目でいい、それでもちゃんと姿を見せて、弱音でも何でも吐いて、伝えて…ってした方が、ずっと皆を安心させられる。…そう、分かってるのに…ずっとずっと、歩み出せない。

 

(どうすれば、いいのさ…どうしたら、わたしは……)

 

 ぐるぐると、同じ思考ばかりが回る。回りながら、落ちていく。何もしないまま、出来ないまま、ただ時間が過ぎていって……不意に、置いたままだったわたしの携帯端末が鳴った。

 

「……っ…!…セイ、ツ……?」

 

 ゆっくりと、画面の方へ目をやったわたし。そこに表示されていたのは、セイツの名前。

 どきりとした。名前を見た瞬間、心が締め付けられるように感じた。電話なんてくる訳ないと思っていた相手。わたしが傷付けたも同然な、イリゼの姉。そのセイツからの着信に、わたしの心の中には恐れにも似た感情が渦巻いて、手が震える。冷や汗が噴き出す。それから何度もコールが続いて、やっとの思いでわたしは受ける。

 

「…ネプテューヌ…?」

「…セイツ……」

 

 躊躇いがちな、セイツの声。自分から掛けている筈なのに、セイツからの呼び掛けは疑問系で…それだけでも分かる。セイツも電話をするのに、ハードルを感じていたんだって。

…もし、今わたしが電話に出なかったら、勇気を出したセイツを、その思いをまた踏み躙っていた。…そうならなくて、本当に良かった。

 

「…その、色々…色々、伝えたい事があるわ。でも、今は…一つだけ、言わせて頂戴」

 

 通話越しに伝わってくるのは、色んな思いが…そして意思が感じられる、セイツの声。そして、一度言葉を区切ったセイツは、わたしに向けて……言う。

 

「──ごめんね、ネプテューヌ」

「……っっ!!」

 

 たった一言。たった一言だけの、ごめんねという言葉。ああ、でも、分かる。伝わる。その言葉が、どれだけ重く…そこにどれだけの思いが、籠っているのかなんて。

 気付けばわたしは、言葉に詰まっていた。すぐに声が出なくて、口の中が完全に乾いていて…なんとかその言葉に答えようとする前に、通話は切れてしまった。

 

(言わなきゃ…伝えなきゃ…!わたしも、わたしだって……!)

 

 返答は聞かない、聞きたくない…切ったのはそういう理由なんかじゃないって分かった。上手く言えないけど、セイツの言葉は、そう感じさせてくれた。

 そんなセイツに、わたしは何も言っていない。謝るべきはわたしの方なのに、何も返せていない。そんなのは駄目だって、絶対に駄目だって、すぐにわたしはセイツに電話を掛けようとして……

 

 

 再び、わたしの端末が鳴る。一瞬、さっき切ったのは事故か何かで、セイツが掛け直してくれたのかと思った。だけど、違う。画面に表示されていたのは、掛けてきた相手の名前は……

 

「……──ッ!イリゼっ、イリゼなの!?そんなっ、どうして…今、どこに…ッ!」

 

 弾かれたように、考えるより先に、わたしは通話を受けていた。受けると同時に、表示された名前の相手を……イリゼの名前を、呼んでいた。

 どういう事か分からない。さっぱり、全然、分からない。でも、イリゼが無事なら、それで良い。それだけで良い。イリゼが無事だったなら、ちゃんとこの通話の向こうにいるのなら──。

 

「──こうして話すのは、初めてね」

「……ッ!?…あ、なたは……」

「今から言う場所に、すぐに来て頂戴。貴女だって、もう天界で起こった事は…普通に考えれば、オリジンハートの状態がどんなものか位は、分かるでしょう?」

 

 イリゼじゃない声、酷く馴染み深いように感じる『誰か』の声に茫然とする中、続けざまに発される場所の名前。それだけ言って、通話は切れる。すぐにわたしは掛け直すけど、幾ら待っても繋がらない。

 そしてわたしは、気付いた時には、もうその場所へと向かっていた。無我夢中で、あんまりにも無我夢中で、その場所へ行くまでの事を殆ど覚えていない。誰かにこの事を伝えたかどうかすら、自分の事なのに分からない。

 

「来たわ、来たわよ!イリゼはどこッ!?」

 

 周囲を見回しながら、叫ぶ。罠かもしれない。いや、罠に決まってる。それでも、イリゼがいるなら、いてくれるなら…そんな思いで、声を上げ、探す。

 その中で、不意に背後に感じる気配。引き寄せられるように、わたしは振り向く。それが、そこにいるのがイリゼだと信じて、すぐさま振り向く。

 

「イリ──」

 

 反転したわたしの目に映ったのは、二人の存在。一人は、誰なのか…人なのかすら分からない、姿がはっきりとしない存在。セイツから聞いていた…わたしと同じ姿をして、イリゼ達と敵対したっていう相手と、一致する特徴を持つ存在。

 その存在は、もう一人を抱えている。そしてその存在に、横抱きで…お姫様抱っこで抱えられているのが……イリゼだった。

 イリゼがいる。確かにそこに、イリゼがいる。嗚呼、だけど…だけどそこにいるイリゼは、酷く無惨な姿だった。肌も、プロセッサも、全身が血で赤く染まった、辛うじてまだ人の形をしているだけのような…目を逸らしたくなるような、普通の人なら諦めてしまいそうな程の、あまりにも儚く感じる姿をしていて……

 

「…あ…ああ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 わたしは、吠える。全ての思考が吹き飛んで、感情のままに、衝動のままに、大太刀を振り上げ……その存在へと、斬り掛かる。




今回のパロディ解説

・「〜〜某アメ細工〜〜」
ポケモンシリーズに登場するアイテムの一つ、アメざいくの事。直前のセイツの「くるくる回って〜」というのも、マホミルの図鑑における説明のパロディです。

・「〜〜赤くないライバル機〜〜」
ガンダムシリーズにおける、お約束ネタの一つの事。シャアを筆頭に、これに該当するキャラや機体は多いので全ては挙げられませんが…そういえば原作シリーズにも、ライバルキというモンスターがいますね。

・「〜〜武力を以って殲滅する精霊対処〜〜」
デート・ア・ライブにおける代名詞的なフレーズ(というか文章)の一部のパロディ。デートに関する話なので、我ながらぴったりなパロディかな、なんて思ったりもしています。

・「〜〜擬似メガミラパーティー〜〜」
メガミラクルフォース及び、その主要キャラに関するパロディ。特に意識をした訳ではありません。気付いたらそういう面子になっていました。…ちょっと無理矢理感もありますけど。
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