超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

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第二十一話 吹っ切る姿

 いつだって、物事にちゃんと前触れがある訳じゃない。大体の場合はあるけど、必ずある訳じゃない。そして、前触れがないように見えた、思えた事でも、本当にそうとは限らない。自分が知らないだけで、知らないところで前触れがあったのかもしれないから。

 

「ふぅ…ちょっと長風呂し過ぎちゃったかな……」

 

 手で顔を仰ぎながら、自分の部屋に向かう。長く、ゆっくりお風呂に入る事そのものは嫌いじゃない…どっちかって言えば好きなんだけど、やっぱり長く入り過ぎちゃうと、身体が温まり過ぎて汗が出てくる。お風呂に入って着替えもしたのにまた汗をかくなんて嫌だし、気を付けたいものだけど…。

 

(ついつい、お風呂だと考え事しちゃうんだよね…)

 

 湯船に浸かっているとリラックス出来るし、お風呂って基本やる事がないから、自然と考え事をしちゃう。で、こんな感じに長風呂し過ぎて暑い…ってなった事なんて、これまで何度もある訳で…学ばないなぁ、とわたしは自分に苦笑い。

 だけど、わたしと同じように分かっていてもついつい長風呂しちゃう人は、そこそこいると思う。そんな事を考えながら、わたしは自分の部屋に入って…ちらり、とある方向を見る。

 

「…お姉ちゃん…」

 

 あれから殆どずっと、自分の部屋から出てこなくなったお姉ちゃん。今日も声を掛けたけど、お姉ちゃんは出てきてくれなかった。何かあれば呼んでって、すぐに行くからってお姉ちゃんは言っていたけども…そういう事じゃなくて、やむを得ない理由とかじゃなくて、もっと普通にお姉ちゃんには出てきてほしかった。お姉ちゃんが思い詰めているのも、苦しんでいるのも、分かっている。…そのお姉ちゃんの力になれないのが、歯痒かった。

 

(…明日もまた、声を掛けよう。辛いのは、お姉ちゃんの方だもん。なのにわたしがめげるなんて、そんなのお姉ちゃんの妹らしくないよ)

 

 ぎゅっ、と胸の前で両手を握る。声を掛ければ、応えてくれる。それならまだ、希望はある。何日も何日も、ずっと顔を見せてくれてない訳でもない。だから、諦めるにはまだ…早過ぎる。

 そう考えて、わたしは前を向く。前向きに考えて、それからベットに腰を下ろして……

 

「……へ?お姉ちゃんから、電話?」

 

 Nギアに掛かってきた電話、その相手がお姉ちゃんだった事に、わたしは一瞬ぽかんとなった。何かあったの?というか、なんで電話で?…そんな風に、まず幾つかの疑問が浮かんだ。

 でも、疑問は一度置いておく。気にはなるけど、それは直接訊けばいい事。それよりも、お姉ちゃんからわたしに何かを話そうと、伝えようとしてきてくれた。その事の方が、ずっと大事。

 

「…お姉ちゃん?どうか、したの?」

 

 通話を受けて、わたしから声を掛ける。頭の中に浮かぶ色んな疑問と共に、わたしからお姉ちゃんに問い掛ける。

 それに対して、初めに返ってきたのは沈黙。たった数瞬だけど、空白があって…それからお姉ちゃんは言う。

 

「……ネプギア。貴女は今、教会にいる?」

「え、うん…部屋にいるけど…(あれ、女神化してる…?)」

 

 聞こえてきたのは、落ち着きを感じる声。女神の姿をした、お姉ちゃんの声。返ってきたのは質問だったっていうのもあって、わたしの中の疑問は更に増える。

 今のところ、分かってる事なんて全然ない。だけど、分からない事ばっかりだから、一つ一つ聞いて、じっくり話そう…この時わたしは、そう思っていた。だけど、次の瞬間…次のお姉ちゃんの言葉を聞いた瞬間、そこまでの思考が一気に吹き飛ぶ。

 

「なら、良かったわ。…驚かないで聞いて頂戴。──例の相手から、連絡があったわ」

「……っ!?」

 

 衝撃が、自分の中で走る。反射的に、ベットから立ち上がる。そしてわたしが愕然とする中、お姉ちゃんは続ける。

 

「わたしは今、指定された場所に向かってるわ。…迂闊だったわね、一人で飛び出して行っちゃうなんて」

「う、ううん…それよりその場所ってどこ!?すぐにわたしも……」

「えぇ、お願い。ネプギア、わたしに手を貸して頂戴」

 

 そんなの、頼まれなくたって手を貸すに決まってる。お姉ちゃんからの話だし、イリゼさんの事でもあるんだから。

 わたしは、即答する。部屋を出て、外に走る。外へ出るまでに場所を聞いて…バルコニーへ出ると共に、Nギアを仕舞って女神化。床を踏み切り、飛び立つ。

 

「ふー、ぅ……」

 

 逸る気持ち、焦る気持ちを押さえるように、ゆっくりと息を吐く。聞いた場所がどんなところだったのか考えながら、わたしはわたしを落ち着かせる。

 今わたしの中には、色んな思いが渦巻いている。疑問だって、沢山ある。だけどそれは、一度脇に置いておかなくちゃいけない。だって、お姉ちゃんの言う通りなら、これからお姉ちゃんの姿をした何者かとの戦闘になるかもしれないんだから。そしてその相手は、これまでの話からして、見た目だけじゃなくて戦闘能力も女神に引けを取らないレベル。そんな相手と戦いへ集中出来ない状態で正対するのは、危な過ぎる。

 

(さっきのお姉ちゃんの声、結構冷静そうだったけど…なら大丈夫だ、なんて思っちゃ駄目だよね。きっと心の中は冷静じゃないだろうし、わたしがサポートしてあげなくちゃ…)

 

 自分が冷静でいられるように努めるだけじゃなくて、きっと必要になるお姉ちゃんへのサポートにも意識を回さなくちゃいけない。それは、普通に考えたら負担の増加だけど…むしろお姉ちゃんを支える事を考えると、自然に心の中は落ち着いていった。こんな時でも、こんな形でもわたしを助けてくれるなんて、流石お姉ちゃん…っていうのは、流石に違うよね…。…こほん。

 電話で聞いた場所が、段々と近付いてくる。自分の中で緊張感が高まっていくのを感じながら、わたしは神経を張り詰めさせ……数十秒後、地上にいたお姉ちゃんの姿に気付く。

 

「お姉ちゃん!」

 

 急降下し、わたしは着地。M.P.B.Lを手にしながら声を掛けて、周りへ視線を走らせる。

 周囲にお姉ちゃん以外の姿はない。隠れているのか、偽の情報だったのか。状況に対する想像が、わたしの頭に幾つか浮かんで…けどそこで、わたしの思考は一度止まる。

 理由は単純。お姉ちゃんしかいない事以上に、気になる事があったから。…お姉ちゃんが、項垂れるように地面に膝を突いていたから。

 

「…お姉、ちゃん…?」

 

 近付いて、後ろからもう一度声を掛ける。格好に、状態に、不安が心の中から湧き上がる。そして、ぴくりと肩を震わせたお姉ちゃんは…言う。

 

「……駄目だった…追い詰めたけど、逃げられたわ…」

「…そんな……」

 

 絞り出すような、悔しさの滲むお姉ちゃんの声。逃げられた…その言葉に、わたしは力が抜けていくのを感じる。

 

「迂闊だったわ…貴女に連絡をしたんだから、仕掛けないで待つべきだった。落ち着いて戦うべきだった…そうすれば、もしかしたら……っ!」

 

 わたしに背を向けたまま、お姉ちゃんは拳を握る。悔しさを込めるように、見ているわたしからでも分かる位に、強く。

 分かる。きっとここには、お姉ちゃんが正対した時には、イリゼさんもいたんだ。いなかったとしても、イリゼさんに繋がる何かがあったんだ。そしてそれを逃してしまった…イリゼさんを取り戻す可能性に届かなかった事への、悔しさと不甲斐なさ。可能性が目の前にあったからこその、やるせない虚しさ。…お姉ちゃんの心に渦巻いている感情は、多分そういうもの。

 そんなお姉ちゃんに、一体なんて言葉を掛ければいいのか。適切だって思える言葉は、すぐには浮かんでこない。だからわたしは、適切かどうかなんて分からない…でも今心の中にある言葉を、思いを、真っ直ぐそのまま口に出す。

 

「大丈夫…大丈夫だよ、お姉ちゃん…!チャンスは一度切りなんて、これが唯一のチャンスだったなんて、そんな事誰も言ってないもん。そんな事、決まってないもん…!」

 

 もしお姉ちゃんの言った通り、取り逃がしちゃったなら…それはもう、どうしようもない。それを覆す事は出来ない。だけど、今は無理でも、これからは違う。今みたいなチャンスはそうそうないかもしれないけども、可能性はきっとある。未来の事は、分からない。

 

「それに、お姉ちゃんはイリゼさんを助けようとしたんでしょ?ずっとずっと辛い思いをしてたのに、それよりも、不安よりも、イリゼさんを助けようって、助けたいって気持ちを優先した…やっぱりお姉ちゃんは、お姉ちゃんだよ。お姉ちゃんがどう思っているかは分からないけど…いつだってお姉ちゃんは、わたしの憧れのお姉ちゃんだよ」

 

 思い出すのは、ノワールさん達に言われた事。誰でもないお姉ちゃん自身がお姉ちゃんを信じられていない中で、自分達が信用する事は出来ない…それは本当に当たり前の事。普通は誰だって思う事。

 だけど、わたしは…お姉ちゃんにだけは、違う。今のお姉ちゃんだって、どんなお姉ちゃんだって、わたしは信じている。信じられる。

 

「だから、お姉ちゃん──」

 

 わたしは一歩、前に出る。もう一歩近付いて、今ある思いの全てを伝えようとして、今度こそお姉ちゃんの支えになろうとして…お姉ちゃんの、髪が揺れる。俯いていた顔が、前を向く。

 

「憧れ…本当に、そうかしら。貴女にとってわたしは、本当に憧れの存在でいられている?憧れる事が出来るような、女神に映ってる?」

「勿論だよ。ずっとわたしは、お姉ちゃんに憧れてきたもん。良いところも、悪いところも、格好良いところも、駄目なところも…全部引っくるめた上で、やっぱりお姉ちゃんに憧れてる。追い付きたい…ううん、いつかは追い越したいって思ってる」

「…本人の前で、そこまで言うのね」

「お姉ちゃんなら、ここで遠慮なんてしないでしょ?」

 

 静かなお姉ちゃんの返しに、わたしは肩を竦める。確かに、本人の前で「追い越したい」まで言うのはちょっと気が引けるけど、お姉ちゃんならそんな遠慮なんてせず、自分の気持ちをはっきりと伝えるし…お姉ちゃんには、自然に言える。これも、わたしの思い。

 受け止めるようにして、お姉ちゃんは数秒黙る。それからお姉ちゃんは、立ち上がる。立って、ゆっくりと…気持ちを整えるような、細く息を吐くような音が聞こえてきて……お姉ちゃんは、自分の両の頬を叩く。

 

「…へ?お、お姉ちゃん…?」

 

 ぱんっ!…と乾いた大きな音がわたしに届く。予想外の行動に、わたしはぽかんとなって…わたしが目を瞬く中、お姉ちゃんは振り向く。ずっと背を向けていたお姉ちゃんが、わたしの方に向き直って…わたしとお姉ちゃんは、向かい合う。

 

「確かに貴女の…ネプギアの、言う通りよ。まだ、こんなところが終わりなんかじゃない。むしろ、ここからよ。わたしが頑張らなくちゃいけないのは」

「うん、そうだよ…!わたしもこれからも支えるから、一緒に頑張ろ?」

「これからも…ね。…ここまで言われて、憧れもされて、何もなしじゃパープルハートの名折れってもの。……迷惑を掛けたわね。だけど、もう大丈夫。漸く…吹っ切れたわ」

「お姉ちゃん……」

 

 意思を感じる。声に、瞳に、佇まいに。決意が、決心が、お姉ちゃんから伝わってくる。

 久し振りに、こうしてちゃんと向き合った気がする。そんなに長い間じゃなかった筈だけど、これまでなかったお姉ちゃんとの隔たりがあったんだと、今この瞬間わたしは気付いた。

 だけどもう、大丈夫。きっともう大丈夫。お姉ちゃんの顔には、そう感じさせてくれるものがあって…わたしも、支える。支えてみせる。

 

「…ふふっ。お姉ちゃん、ほっぺがどっちも真っ赤だよ」

「まあ、表情を整える為に結構力を込めて叩いたもの。でもそれも、ネプギアからすれば『わたしらしい』んじゃないかしら?」

「うーん…そうかな、そうかも」

 

 またわたしは小さく肩を竦めて、軽く笑う。それから飛び上がって、お姉ちゃんとプラネタワーへ戻る。

 結果だけ考えると、チャンスを逃した事は痛い。相手の狙いは分からないけど、これまでより警戒されるのは予想出来る。そして今のイリゼさんの状態が分からない以上、チャンスをじっくり待つなんて事も出来ないし…本当に、痛い。

 だとしても…一歩前に進んだ事は、間違いない。一歩でも、大きく前に進めたなら……それは決して、無駄じゃない。

 

 

 

 

 プラネタワーに戻ってからの…ううん、吹っ切れてからのお姉ちゃんは、正に復活した…って感じだった。これまで立ち止まっていた分を取り返すみたいに、意欲的に動いていた。

 

「皆、色々と迷惑をかけちゃったね。だけどもう大丈夫、わたしはこの通り…元気だから!」

『おぉー』

 

 ぐっ、とガッツポーズを取るお姉ちゃん。その姿に、画面越しにロムちゃんとラムちゃんが拍手を送る。

 呼び出してきた相手に逃げられて、吹っ切れてから一日経った。その事を伝えたい、皆にちゃんと自分の口から話したい…そんなお姉ちゃんの気持ちに応えて、画面越しではあるけどまた皆さんが集まってくれた。ユニちゃん達や、ノワールさん達…それに、セイツさんも。

 

「…………」

「…あ、あの、セイツさん。お姉ちゃんは……」

「えぇ、分かっているわ。…もう、大丈夫なのね」

 

 皆さんがほっとしたように肩を竦める中、セイツさんだけはお姉ちゃんをじっと見ていた。直接じゃない筈なのに、見られているのもわたしじゃないのに、それでも視線を感じる…気がする位にセイツさんはお姉ちゃんを見ていて、わたしは不安な気持ちになった。

 言ってみれば振り回されただけの皆さんと違って、セイツさんは…セイツさんだけは、お姉ちゃんに対して明確に『怒って』いた。その場にわたしはいなかったから、どれだけの怒りで、その裏にどれだけの苦しみを抱いていたかなんて分からないけど、今のセイツさんの目を見るだけでも伝わってくるものがある。そうでなくても、大切な家族と離れ離れになる辛さは…凄く、よく分かる。

 だけど、もうお姉ちゃんは大丈夫なんだって事は分かってほしいし、セイツさんが良い人だって事は知っているから、そんなセイツさんに怒りを抱いたままでいてほしくない。だから、お姉ちゃんに代わってちゃんと伝えよう…そう思ったわたしだったけども、それより先にセイツさんは小さく頷いた。そしてお姉ちゃんもまた、セイツさんに視線を返してしっかりと「大丈夫なのね」って言葉に首肯をした。

 

「全く、大博覧会の話からこっち、貴女はずっと私達を振り回しっ放しね。元に戻ったのならそれで良いけど、少しは振り回す事についても反省してほしいわ」

「…うん。そこはちゃんと、反省するよ」

「へ?あ、う、うん…そうして頂戴…」

「思った以上に殊勝な反応が返ってきたわね…」

「流石のネプテューヌも、今回の件は…という事かしらね。…或いは、殊勝なフリをしてノワールをぽかんとさせる思惑だったのかもしれませんわ」

「いやそんな事は……あると思う?」

「ちょっ…ど、どっちよ!?そんな、不必要に判断を迷わせるような事はしないでくれない…!?」

 

 意外な返しがきたものだ、と言うようにブランさんが呟けば、ベールさんも頬に指を当てつつ勘繰るような事を言う。更にそれを受けたお姉ちゃんは、守護女神のお三人の顔を順に見た後、思わせぶりな返しをして…結果、ノワールさんが弄られていた。よく見る光景になっていた。…なんだか、安心するなぁ…この光景で安心するのは、ちょっとノワールさんに悪い気もするけど…。

 

「…良かったわね、ネプギア」

「うん、ほんとに良かったよ。お姉ちゃん、長いトンネルを抜けたみたいに生き生きとしてるし」

「わたしもネプテューヌちゃんが元気になってくれてうれしいわ!やっぱりネプテューヌちゃんは、ちょっとヘンなくらいじゃないとネプテューヌちゃんじゃないもんね!」

「え、えーっと…ラムちゃん…?それはお姉ちゃんに対する、好評価…なんだよね…?」

「ネプギアちゃん、ネプギアちゃん。ちょっとヘンでおもしろいのが、ネプテューヌさんのいいところ…だよ?(にこにこ)」

「そ、そっか…そう思ってもらえてるなら、お姉ちゃんも嬉しいと思うよ…多分だけど……」

 

 曇りのない瞳のラムちゃんと、あどけない笑顔を浮かべたロムちゃんのそれぞれの言葉で、わたしは何とも言えない気持ちに。お姉ちゃんがちょっと…ちょっと?…変わってるのは否定出来ないけど、だとしてもこんな純粋そうな面持ちで言われたら、ほんとになんて言えば良いのか分からないよ…。

 

「…こほん。皆、話を進めてもいいかしら?と、いうより…もう本題は済んだって訳じゃないわよね?」

 

 少し雰囲気が緩んだところで、セイツさんが咳払い。続く言葉にわたしも我に返り、わたし達全員の視線がお姉ちゃんの方へと向く。

 わたしもまだ、聞いていなかった。お姉ちゃんと、お姉ちゃんの姿をした存在とがどんな戦いをしていたのか。どうやってコンタクトを取ってきたのか。そして…何の目的で、お姉ちゃんを誘い出したのか。それは、重要な事。これからの為に、次のチャンスを見逃さない為に。

 

「ネプテューヌ。事のあらましを、話してもらえるかしら?」

「うん。…はっきりした姿の見えない、別のわたしが連絡を取った方法は、電話だった。…イリゼの携帯端末を、使ってのね」

「……!…って事は……」

 

 問い掛けるブランさんの言葉に、お姉ちゃんは頷いて答える。その答えに、セイツさんははっとした顔をして…それと同じように、わたし達も息を呑む。お姉ちゃんの姿をした存在が、イリゼさんの端末を持っていた…それはつまり、今イリゼさんはお姉ちゃんの姿をした存在の手の内にあるって事。勿論、イリゼさんは端末を落としただけ、それを拾われただけって可能性もあったけど…お姉ちゃんの表情は、そういう事じゃないって示していた。

 

「イリゼの端末を利用して、ネプテューヌにコンタクトを取る…単純ですけど、上手い手ですわね。今は、こちらからの連絡には?」

「…駄目ね。今試してみたけど、少なくともわたしからの呼び出しには出ないわ」

「向こうからすれば、セイツさん…というかアタシ達からの呼び出しに出る理由がありませんもんね。出た時点で、電波が繋がる場所にいる…って分かっちゃう訳ですし」

「あ。ねぇねぇ、あれってできないの?えっと、ほら、ドラマとかであるじゃない。たん、たん…ガチタン…?」

「たんたん…にしたん……?」

「もしかして、逆探知の事?それはどの端末…誰の端末からかけてるのか調べる方法で、場所を調べる方法じゃないんだよ。位置情報、端末の場所を調べる方法もあるけど…それも場所によっては機能しないし、それだけで解決…っていうのは難しいんじゃないかなぁ」

「二人共何を言ってるのよ…というかネプギアも、よく今ので逆探知だって分かったわね…」

「ふふっ、わたしとロムちゃんラムちゃんの仲だからね」

 

 本当は偶々思い付いただけだけど、それは隠して小さく笑う。するとロムちゃんは嬉しそうな、ラムちゃんは自慢気な顔になって、二人で揃って胸を張る。それにユニちゃんは呆れたような顔をして…っていけないいけない、また脱線しちゃうところだった…。

 

「位置情報…それもダメ元で一応調べておいた方がいいよね。いーすんにも頼んでおくから、そこは任せて」

「え?…あ、そうね。それじゃあそっちは任せるとして…戦闘の内容について、何か気になるところはあった?」

「それは特になかった、かな。どんな感じかって事なら、貴女が…セイツが戦った時と同じようなものだと思う。後は……」

『後は?』

「…やっぱり、変な感じだったかなぁ。だってほら、自分と同じような…なんてレベルじゃない、自分自身と戦ってるようなものだったし」

「あぁ…って事は、やっぱり姿だけ似せた偽者じゃなくて、正体はどうあれ中身も貴女に近い存在…って事なのかしら…」

「その辺りは、本人に訊かなければ分かりませんわね…」

 

 鏡合わせのような戦いだったから、という理由に、ノワールさんが腕を組む。

 見た目だけじゃなくて、戦い方もお姉ちゃんと同じ…って事なら、それは戦いになった時、凄く有利な要素になる。だって、相手の戦法を知っているようなものだから。

 ただでもそれは、戦いにまで持ち込めた場合の話。まずそこまでいかなくちゃ意味のない情報。そして、お姉ちゃんはまだ言っていなかった事を…一番の確信部分の話を、口にする。

 

「それと…ごめん。わたし、頭に血が昇ってたせいで、何で呼び出したのか、なんで別のわたしがこんな事をしてるのか…そういう事を、ちっとも引き出せなかった…」

「それは…良くはないけど、仕方ないわ。それに、全く収穫ゼロでもないわ。だって、向こうはわざわざコンタクトを取ってきた。そこには必ず、何か意味がある…向こうにはコンタクトを取る必要があった、って事だもの」

 

 不甲斐ない…そんな思いが滲んでいるような、声のトーンの落ちたお姉ちゃんの言葉に、だとしても…とブランさんが返す。行動そのものに意味がある筈、きっとそこから考えられるものもある…そんな風に言ってくれる。

 多分、その意味、必要って?…と訊いても、そこまではブランさんも分からないと思う。だからこれは、気の持ち方の話。今の状況を、どう捉えるかって話…だよね…?

 

「…そういえば、ネプテューヌの姿をした存在は、神生オデッセフィアにも現れたのよね?で、セイツが追跡した結果、戦いになった…」

「…あの時は、誘ってた…わたしに追われている事を分かった上で、暫く飛んでたように思えるわ。そしてその時も、何かを要求してきたり、伝えてきたりする訳でもなかった…つまり、戦う事そのものが目的だったって事…?」

「いえ、その可能性もありますけど、まだ断言出来るようなレベルではありませんわ。例えば他にも、陽動として引き付ける事が目的だった、貴女に発見された事で本来の目的を果たすのが難しくなった為、意図の読めない行動をし深読みさせる事によって本来の目的を探られないようにしたかった等、可能性自体は色々浮かびますもの」

「ネプテューヌさんを倒す事が目的だった…とかもあり得ますよね?でもネプテューヌさんか想定以上の強さで、撤退せざるを得なかったとか……」

 

 前に皆で、今と同じように画面越しの会議をした時と同じように、今回も中々これだ、ってものが出てこない。思い付いた可能性を取り敢えず挙げてみたり、逆に黙ってじーっと考えたり、それぞれ色々だけどどうにも話は進まなくて…そこでラムちゃんが焦ったくなったように、両手で頭を掻きながら言う。

 

「むー!わたしこういうのニガテ!ぜんぜんわからないよー!」

「うん、わたしもにがて…。ネプテューヌさんの…にせもの?…は、悪いことをしようとしてるんじゃないの…?」

「その悪い事が何か、その為に何をしようとしているのか…それが分からなくちゃって話をしているのよ。でも難しいようなら、一度部屋を出ていてもいいわ。終わったらまた呼んであげるから」

「それは、やだ…。イリゼさんのこと、しんぱい…だから(ふるふる)」

「わたしもやだ!っていうか、わからないならネプテューヌちゃんのニセモノにきけばいいじゃない!それがいちばんじゃないの?」

「あ、あのね二人共。確かに本人に訊くのが一番手っ取り早いけど、そもそもそれが出来ないから皆考えていて……」

「…あ、そうだ。それだよ、それが一番だよ…!」

『へ?』

 

 気持ちは分かるけど、やっぱりロムちゃんやラムちゃんはこういう話には向いていない。だけど二人をただ突っ撥ねるのも嫌だから、わたしは二人に改めて今の状況を説明しようとして…そんな中、突如お姉ちゃんが立ち上がる。

 

「え、あの、お姉ちゃん…?それって…どれ…?」

「本人に訊けばいい、ってところだよ。確かにどこにいるかも分からない相手に、訊くなんてのは出来っこない。だけどやっぱり、分からない事は直接訊くのが一番。…だったら、こっちから探すんじゃなくて、向こうから来てもらえばいい…そう思わない?」

「…つまり、誘い出すって事?」

 

 ノワールさんからの返しに、お姉ちゃんは深く頷く。誘い出す…確かにその発想はなかった。…でも……

 

「…ネプテューヌ。誘い出すって言っても、こっちはまだ向こうの情報をいまいち掴めていない状況よ?その状況で誘い出すっていうのは、あまり現実的じゃないんじゃないかしら?」

「アタシもそう思います。誘い出すのには向こうが動きたくなる、動かざるを得なくなる何かが必要ですけど…もしかして、それももう思い付いているんですか?」

「ふっ…もし、そういう事だって言ったら?」

『……!』

 

 もしや。その言葉にも、お姉ちゃんは薄く笑って返す。落ち着き払った表情で、皆を見回す。

 

「考えてみて、皆。誘い出すといえば罠、罠といえば捕らえるもの、捕らえるものといえば──」

「ちょ、ちょちょちょ、ネプテューヌ!?」

「え?うん、何…?」

「何って…え、ほんとに考えてあるの!?今のは、『まぁ、実際には何も思い付いてないんだけどねー!』ってふざける前振りだったんじゃないの!?」

「…え、えぇー…いや、あの…それは流石にどうかと思うよ…?幾ら何でも、それはわたしの事を変な目で見過ぎ……」

「わたくしも、その流れかと思っていましたわ…」

「むしろその流れしかないわね、普通…。まさかこのネプテューヌは偽者…?」

「信次元のネプテューヌは本当に思い付いてる場合もあるのね…これは覚えておかないと…」

「ちょっ、ちょっと!?そ、総意!?それが皆の総意なの!?」

 

 わたわたと慌て、愕然とした顔をするお姉ちゃん。まさか皆も…?…という目でお姉ちゃんがユニちゃん達を見ていくと、ユニちゃん達はす…っと視線を逸らしていく。…ごめんね、お姉ちゃん…正直わたしも、今のはふざける流れかと思ってたよ…。

 

「そんな…わたしの扱いって、そんな……」

「普段の行いのせいでしょうが…。…あーもう、話の腰を折って悪かったわね。話を続けて頂戴」

「…こほん。えぇと、どこまで話したっけ?」

「ば、までよ!」

「そ、それで伝わるのかな…(おろおろ)」

「そうだったそうだった。皆も罠みたいなもの、捕らえるものに、心当たりがあるんじゃない?」

((つ、伝わってる……))

 

 さっきに続いてラムちゃんの言葉が、お姉ちゃんの助けになる。普段もノリが合う感じあるし、やっぱりお姉ちゃんとラムちゃんって相性良いのかな…ちょっと羨ましい…。

…って気持ちは一度置いておいて、お姉ちゃんからの問い掛けの意味を考える。罠みたいなもの、捕らえるもの…それって……。

 

「…ひょっとして、天界にあるっていう街の事?」

「そういう事。あれが何の為にある街なのかは分からないけど、罠みたいなものでしょ?でもって、わたし達にとってあそこは、放置出来る場所でもない。だから、あそこを調べるのは不自然じゃないし…別のわたしやクロワールからすれば、そこを狙うのがチャンスでしょ?」

「…向こうの罠に敢えて掛かる事によって、逆に相手を自分達の下へ誘い出す…一理あるわね。でも、その街が脱出困難だって事を既にわたし達も把握している…って事を、向こうも分かっているんじゃないかしら。だとしたら、そんな場所に再び入る事を不審に思われる可能性も……」

「それは…そうだね。でもこれ、良い案だと思うんだけど…駄目かなぁ…?」

 

 頬を掻いて、ほんのりお姉ちゃんは食い下がる。けど、ブランさんの指摘も尤もで、特にあの街最大の問題を考えると、どうにも懸念が…そんな雰囲気になる中、セイツさんが首を横に振る。

 

「……ううん、十分な理由ならあるわ。だって、無事な筈がないイリゼが、向こうの手の内にある…それだけで、可能性に向けて全力を懸ける理由になるもの。そして、一人二人じゃなく、障害があっても正面から打ち砕けるだけの戦力で突入すれば、向こうもきっと動いてくる…そうは思わない?」

 

 そう言って、セイツさんは胸の前で拳を握る。その姿を、わたし達は見つめる。

 冷静な、セイツさんの発言。でも、感じる。今語った『理由』は、向こうから見た場合の思考ってだけじゃなくて、本当の気持ちでもあるんだって。

 

「…確かに、そうですわね。けれどセイツ、その口振りだとわたくし達全員…かどうかは別としても、貴女単独での突入は考えていないように思えますわ。それは、いいんですの?」

「…えぇ。イリゼの為なら前言撤回だろうと掌返しだろうと、幾らでもするわ。それに…本気なんでしょう?ネプテューヌは」

 

 構わない、とセイツさんは肯定で返す。そして、お姉ちゃんをじっと見る。

 衝突…とは少し違うみたいだけど、お互いに心が痛む形になっちゃったお姉ちゃんとセイツさん。そのセイツさんからの、答えを求める視線。それを受けたお姉ちゃんは、数秒の間黙って…そして、頭を下げる。

 

「皆、わたしは皆に迷惑をかけちゃったし、イリゼには迷惑なんてレベルじゃない目に遭わせちゃった。反省してもし切れないし、そんなわたしが偉そうな事を言うのはおかしいってのも分かってる。…それでも、どうか…わたしに、力を貸して」

 

 隣に座るお姉ちゃんの、真摯な言葉。頭を下げているから表情は分からないけど、どんな顔をしているかは想像出来る。

 お姉ちゃんの言葉に、力を貸してほしいって思いに、静まり返る。だけどそれは、呆れている訳でも、冷ややかに思っている訳でもない。それはユニちゃん達の顔を見なくたって分かる。だって……

 

「…はぁ。力を貸しても何も、元からこの件は貴女個人の問題なんかじゃないでしょ?なら、なんでお願いなんてしてるのよ。どこに、その必要があるのよ、ネプテューヌ」

「ですわね。天界の街に手を出すのは、リスクも大きい策ですけれど…わたくしは賛成しますわ。イリゼの事が心配なのは、わたくしも同じですもの」

「…まあ、焦らずもっと作戦を詰めてからでないと状況が悪化するだけだとは思うけど…気持ちはわたしも、貴女や皆と同じつもりよ。…今のネプテューヌなら、信じる事も出来るもの」

 

 ノワールさんは相変わらずね、と言うように嘆息をして、ベールさんは肩を竦めて、ブランさんはこくりと頷く。三者三様の反応だけど…同じ守護女神のお三人は、揃ってお姉ちゃんを見つめ返す。お姉ちゃんの言葉に、真っ直ぐな思いで答えを示す。

 続くようにして、ユニちゃん、ロムちゃん、ラムちゃんも賛成をしてくれた。最後にお姉ちゃんは、わたしの方を見て…わたしは、笑みで返す。これだけで、お姉ちゃんには伝わると信じて。

 

「……貴女の本気は、受け取ったわ。だからわたしからは、二つ言わせてもらうわね。次は、言葉と一緒に行動でも示して頂戴。そして、その言葉に偽りがないと言うなら……イリゼを助けるのに、力を貸して頂戴」

 

 最後に答えを示したセイツさんの、二つの言葉。証明を求める言葉と…自分こそ、力を貸してほしいという言葉。その両方に、お姉ちゃんは勿論だよ、とはっきり答えた。

 直接来てもらってる訳じゃないとはいえ、皆さんには無理を言って集まってもらった、何とか時間を作ってもらった形だから、天界の街について更に詰める時間はなかった。それについてはまた後日、もっとしっかり時間を取って…って形になった。イリゼさんの事を思えば、日を改めて…っていうのは焦ったくもあったけど、お姉ちゃんは焦った結果チャンスを逃してしまった…その事実があったばかりだからこそ、焦りは禁物だ、って雰囲気を全体で共有する事が出来た。

 これでまた一つ、前進出来た。一つ一つ、一歩一歩、進む事が肝心。きっとそうだって、わたしは思う。

 

 

 

 

「お姉ちゃんお姉ちゃん、ちょっと時間あるかな?」

 

 会議が終わって廊下に出たところで、わたしは先を歩いていたお姉ちゃんを呼び止める。どうしたの、と振り向いたお姉ちゃんに、リビングルームに来てほしいと誘う。

 別に、大した用事じゃない。事前にちょっと用意していただけの、無理なら無理で仕方ないや、って思える位の、本当にちょっとした事。でもお姉ちゃんは、いいよって言ってくれて、わたし達は一緒にリビングルールへ向かう。

 

「…ここで、何かするの?それとも何か、訊きたい事があるの?」

「んーん。そうじゃなくて…じゃーん!これ、一緒に食べよ?」

 

 お姉ちゃんにはソファに座ってもらって、わたしは台所へ。まずスプーンを持って、次に冷蔵庫を開けて…戻ったわたしは、瓶入りの牛乳プリンを見せる。

 

「……プリン?」

「うん。会議の前、わたし出掛けてたでしょ?実はこれを買いに行ってたんだ。…一緒に食べよ?」

 

 ぽかんとしたお姉ちゃんに、わたしは呼んだ理由を伝える。それからお姉ちゃんを見つめると、お姉ちゃんは理解したような顔になって、わたしの手からプリンを受け取る。

 お姉ちゃんの隣にわたしも座って、容器を開ける。二人で一緒に手を合わせて、まずはプリンを一口ぱくり。

 

「ん〜♪やっぱり高いだけあって、濃厚でまろやかで…美味し〜♪」

「これって…えぇと、近くにあるお店のプリン、だっけ?」

「ううん、近くじゃないけど割と有名なお店のだよ」

「そっ、か。道理で見覚えがないと思ったよ…」

 

 小さく数度頷いたお姉ちゃんも、スプーンで一口掬って食べる。わたしもすぐに、二組目を食べ……

 

「……っ!…こ、これは…これは……っ!」

「…お姉ちゃん?」

「…うめ、うめ…うめ……」

「お、お姉ちゃん!?お姉ちゃんそんな飢えてたの!?」

 

 口に入れた瞬間、かっ、と目を見開いたお姉ちゃん。それからお姉ちゃんは、ぱくりぱくりとプリンを続けざまに口へと運んでいた。お姉ちゃん…一体どうしちゃったの……。

 

「…う、その…ほら、ここ最近プリン食べてなかった…でしょ?で、そこに高級で凄く美味しいプリンを食べたものだから、わたしの中の美味しいゲージ的なものが、一気に振り切っちゃって……」

「あ、あぁ…ほんとにプリン好きだね、お姉ちゃん。ふふっ、買ってきて良かった」

 

 そんな事ある?…と言いたいところだけど、お姉ちゃんならそういうゲージがあってもおかしくない。そう思うと、なんだかくすりと笑えてきて…本当に、良かったって心から思う。心から思える。

 

「くぅぅ…ご馳走様…!…はふぅ、美味しかったぁ…」

「わっ、早い…ほんとにお姉ちゃん、復活って感じだね」

「ぷ、プリンを食べる早さでそれを実感するんだ…。…でも、少し意外…かな」

「意外?」

「いや、ほら…声的に、もんじゃ屋に連れていってくれるのかと……」

「い、いや、それ連れていったのはわたしじゃないし…」

 

 先に完食しちゃったお姉ちゃんの隣で、わたしはいつものペースで食べる。そしてわたしも食べ終わったところで、お姉ちゃんが声を掛けてきた。

 

「…もしかして、わたしを気遣ってくれたの?」

「え?」

 

 じっとわたしを見つめる、お姉ちゃんの瞳。わたしを知ろうとしている、知りたがっている…そんな風に思える瞳に見つめられたわたしは、数秒の間黙って…それから、首を横に振る。

 

「違うよ、お姉ちゃん。わたしはただ、お姉ちゃんと一緒にプリンを食べたかっただけ」

「でも……」

「本当だよ。だって、わたしはお姉ちゃんとこうして過ごすのが大好きだもん。お姉ちゃんが元気になってくれただけでも、凄く嬉しくて…そんなお姉ちゃんと、一緒にプリンを食べたいなって思ったんだもん」

 

 そういう事じゃないよと、わたしは伝える。確かにお姉ちゃんからすれば、気遣いにも思えるかもしれない。それか、労いに感じられたかもしれない。だけど、そうじゃない。わたしはただ、お姉ちゃんとの…姉妹の『いつもの』を、久し振りにしたかっただけ。

 思いを伝えて、またわたしは笑う。するとお姉ちゃんは、そっか、そっかって何度か呟いて…次に浮かべたのは、上手く言葉に出来ないような顔。

 

「お姉ちゃん…?」

「…駄目だね、わたしって…こんな良い妹がいるのに、こんなに恵まれてるのに、その妹に心配を掛けたり、不満を抱かせちゃったりしてたんだもん」

「ふ、不満なんてそんな…わたしは別に……」

「…ネプギア。これからは、大丈夫だからね。これから、これまでの分を取り戻す…頼れるお姉ちゃんに、わたしはなるから」

 

 複雑だった表情は、決意を帯びたような表情に変わる。そんな事はないと、これまでだってお姉ちゃんは頼れるお姉ちゃんだったよって伝えようとして…けれど、止める。

 多分お姉ちゃんは今、頑張ろうって気持ちを秘めている。迷惑かけた分頑張らなきゃ、挽回しなきゃって思ってる。もしわたしの思っている通りなら、気にし過ぎだと思うけど…だからって、頑張ろうとしてるお姉ちゃんの気持ちに水を差す事もしたくない。

 だからやっぱり、わたしは支えようと思う。頑張るお姉ちゃんを支えて、抱え込み過ぎそうなら一緒に抱えてあげる…そうしたいって、わたしは思う。

 

「それじゃあお姉ちゃん、まずはプリン代を払ってほしいかな〜…なんて」

「へ?…あー…よく考えたら、妹にプリンを奢ってもらうなんて、その時点で姉として情けな過ぎる……」

「あ…じょ、冗談だよ?第一わたしが勝手に買ってきてあげたものなんだから、奢るも何も……」

 

 内容と状況のせいで間に受けちゃったお姉ちゃんにわたしは慌ててフォローを入れる。入れようとする。けどそこで、太腿のケースに入っているNギアが鳴って、わたしは一旦お姉ちゃんから離れる。

 鳴ったのは着信音で、掛けてきた相手はセイツさん。さっきの会議で言い忘れた事でもあるのかな?そんな風に思いながら、わたしは廊下に移動しながら電話へ出る。

 

「ネプギアです。どうかしましたか?」

「ネプギア、ネプテューヌの調子はどう?いつも通りって感じ?」

「あ…はい、いつも通りって感じです。今も、お姉ちゃんとプリンを食べてたところですし。…リビングルームにいますし、代わりますか?」

「ううん、用事があるのは貴女だからいいわ。──少し、訊きたい事があるの」

 

 今のお姉ちゃんの調子を訊いてきたセイツさんは、わたしの返答を受けると一拍置いてから本題に入る。…何か、真面目な雰囲気を感じる声で訊きたい事があるのだと言う。

 それは一体何なのか。さっきの会議に関する事か、違う事か。内容に関して想像をしながら、わたしはセイツさんの言葉へ了承。そしてセイツさんは、再び一拍の間を置いて……『訊きたい事』を、口にした。




今回のパロディ解説

・「〜〜ガチタン…?」
アーマード・コアシリーズにおける、スラングの一つの事。Originsシリーズにおいてガチタンっぽい機体は今のところないですね。パンツァーシリーズはタンク感ありますが、こちらは基本四脚ですし。

・「たんたん…にしたん……?」
にしたんクリニックのCMにおけるフレーズのパロディ。ロムが「にしたん?」と言いながら小首を傾げる姿を想像すると、何だか可愛らしく思えますね。

・「…うめ、うめ…うめ……」
狂四郎2030の登場キャラの一人、宇治田の台詞(?)のパロディ。効果音っぽい書き方ではありますが、効果音ではなく台詞…だと思います。勿論今回の話ではネプテューヌが口に出して言っています。

・「〜〜声的に、もんじゃ屋に〜〜」
HIGHSPEED Etoileに登場するキャラの一人、ソフィア・B・時任の事。時々やる声優ネタ…ではありますが、元ネタの回でもんじゃ屋に連れて行ったのはネプギアの突っ込みの通り、彼女ではなく劉悠然です。
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