超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown 作:シモツキ
形成逆転…というと少し違う、優勢からの劣勢。多分相手からすれば…お姉ちゃんの姿をした存在にとっては、全部予定通りの展開。相手の用意していたものを利用する事で、自分から罠に掛かるような行動をする事で、逆に相手を誘い出す…考えてみれば、元を正せば、それ自体がお姉ちゃんの…その姿をした存在の、提案した策。逆に誘い出す、という形でまんまと誘い込まれた…全部掌の上で踊らされた、その結果。
でも、そこじゃない。術中に嵌まった事、完全に押されている事…それも勿論苦しいけれど、わたしの心には…それ以上のものが、のしかかっていた。
「はぁ、はぁ…このぉッ!」
「まだ、この程度では……」
「やられて、やるかよ…ッ!」
大剣、大槍、戦斧。ノワールさん達の武器が振るわれて、その鋭くも重い攻撃がモンスターを斬り裂き、貫き、叩き落とす。消耗していても、全力から大きく後退した状態でも、ノワールさん達の攻撃は強くて、捉えたモンスターを逃さない。
「ロムはそのまま防御、ネプギアも抜けてきたモンスターの処理に専念して!ラム、後方のモンスターを狙える?この状況は癪だけど、押されてるおかげで後方のモンスターは団子状態になってるわ!」
「う、うん…!守るのは、まかせて…!」
「おだんご?よくわからないけど…えーいッ!」
「……っ、ごめんねユニちゃん…!指揮まで、させちゃって…!」
悪く思うならその分手を動かしなさい!…という叱咤を受けて、わたしはロムちゃんが展開した魔力障壁にぶつかった、押し留められたモンスターを撃って、斬って、ビームで灼く。振るわれたラムちゃんの杖からは、青白い光を放つ大きな球体が複数飛んで、放物線を描いて落下した球体は炸裂すると同時に周囲へ氷塊を作り出す。その氷塊がモンスターを押し潰す。
ロムちゃんはただ壁状に魔力障壁を展開してるんじゃなくて、数や形状をモンスターの攻勢に合わせて変化させている。その隙間から射撃を掛けているのがユニちゃんで、隙間から仕掛けようとしたモンスターは悉くユニちゃんに撃ち抜かれている。ただの広範囲防御にしない事で、誘い込んでの返り討ちに繋げている。
「まだよ…まだ、わたしは…わたし達は……!」
互い違いで連結された、双刃刀状態の連結剣を回すように振って、次々とセイツさんが斬撃を仕掛ける。続けてセイツさんは連結剣を分離させて、双剣状態で立ち回る。更にその後は刃の向きを揃えた状態で柄尻同士を再連結して、水平に突き出したまま突っ込んでいく。次々と武器の状態を切り替える事でモンスターを翻弄し、ノワールさん達の強力な攻撃へのアシストをかける。
もう完全に、わたし達は個々では戦っていない。連携とか立ち回りとかで補い合って、モンスターに対抗している。…そうしなくちゃ、持ち堪えられないから。
「いつもなら、こうはならない…の、にぃ…!」
「ふぅ、ふぅ…まだだいじょうぶ、だいじょうぶ…!」
「通常種でないとはいえ、モンスターにこうまで押されるとは…せめて、ネクストフォームが使えれば……」
「同感だが、そうもいかねぇだろうがよ…!」
表情を歪めるラムちゃんと、自分に言い聞かせるように呟くロムちゃん。思うように戦えない事に歯噛みしながら、ベールさんは大槍の柄でモンスターの顎をかち上げ、苦々しげに言葉を返しながら、ブランさんはモンスターの頭部に肘鉄を浴びせる。
今聞こえた声の通り、いつもならこんな劣勢にはならない。ビヨンドフォームやネクストフォームを使えば、きっとここからでも十分押し返せる。…だけど、それは出来ない。深まる違和感が、渦巻く感覚が、わたし達から余裕と選択肢を奪っている。初めは違和感があるだけだったのが、ビヨンドフォームを使う事への本能的な危機感を抱くだけで済んでいたものが、戦い続ける事でどんどん精神的な余裕と集中力を削る感覚に繋がっていって…今は今の姿のまま全力を出す事にも、上手く言葉に出来ない危惧の感情が湧き上がっている。倒しても倒しても尽きないモンスターを相手に、集中出来ず、全力を出す事も出来ない…そんなこれまで経験した事のない状況が、わたし達を縛る。縛り、追い詰められる。
(何か、手は…何か、何か……)
このままじゃいけない。この先にあるのは、削り切られてどん詰まりになる結末だけ。それは避けなくちゃって、何とかしなくちゃって、わたしは考える。何かないかって、頭の中がぐるぐると回る。でも、思い当たらない。思い付かない。考えてみればそれは当然の事で、今に至るまでお姉ちゃんの姿をした存在はずっと一緒にいた…この作戦の事が筒抜けどころか同じ場で共有していたんだから、どうにもならない状況を用意されていても何もおかしくはない。
それに…何となく、分かっていた。こうして考える事で、目の前の現実…お姉ちゃんがお姉ちゃんじゃなかった事から、目を逸らそうとしてるんだって。ずっと頭から離れなくて、そのせいで余計に集中出来なくて、考えないようにしようとしても、それが戦いへの集中には繋がらなくて…駄目だと分かっていても、止められない。抑え切れない。そして……
「しまっ…きゃあぁぁっ!」
『セイツ(さん)っ!』
跳んで空中のモンスターを撃破していたセイツさんの背後に迫る、大型の個体。寸前のところで気付いたセイツさんは、反転と同時に防御体勢を取るも、宙から床に叩き落とされる。ここまでの疲労や集中力が削られていたせいか、立て直す事が出来ずにセイツさんは背中から落ちる。
無防備な状態になったセイツさんにモンスターが四方八方から飛び掛かる中、わたし達は咄嗟にフォロー。セイツさんを囲う形で展開して、一先ずその場の迎撃は出来た…けど、同時にこの瞬間、ここまで何とか維持する事で持ち堪えていた陣形が完全に崩れ去ってしまう。
一気に押される。押し込まれる。今はまだやられていなくても…今の先には、何も見えない。
「……終わりのようね」
「まだ、終わるもんですか…!こうなったら、どんなにリスクが大きくたって……」
呟くような、わたし達を見下ろすお姉ちゃんの姿をした存在の言葉。それにノワールさんが食い下がる。正面から、上段から、体重を乗せた斬撃でモンスターを斬り裂いて、お姉ちゃんの姿をした存在を見上げて見据える。
声から、言葉から感じるのは決意。危険を覚悟で、リスクを承知で…何があろうとそれを飲み込み乗り越えてやるんだという思い。そうして床を踏み締めたノワールさんは、ネクストフォームを解放しようとした……その時。
「…ふ、ふふ…ふふふふふふ……」
背後から聞こえた、突如聞こえた、不敵な笑い声。あまりにもこの場に不釣り合いなその声に、ノワールはネクストフォームの解放を留まり、わたしも反射的に後ろを見る。
聞こえた声の主は、セイツさん。倒れた状態からゆらりと立ち上がったセイツさんは、口元に笑みを浮かべている。感情の読めない表情と声で、お姉ちゃんの姿をした存在を見て…笑う。
「そうね、確かに終わりよ。ここまでよ」
「諦めた…にしては、含みのある言い方ね。ハッタリでこの場を乗り切ろうって魂胆かしら?だとしたら…無駄よ」
すぐにその言葉を信じたりせず、冷静なままお姉ちゃんの姿をした存在は返す。それと共に、さっきセイツさんを落としたのと同種のモンスターが、複数同時にセイツさんへ狙いを定める。
狙いを定めるモンスターを前に、セイツさんは構えない。それはまるで、ほんとに諦めてしまったようで、これから起こる事を全て受け入れる姿に見えて、背筋に冷たいものが走る。そしてモンスターが急降下を掛ける中…セイツさんは、言った。
「いいえ、ハッタリなんかじゃないし、もう本当に終わりよ。まあ、尤も……」
「──終わるのは、貴女の方だけどね」
その瞬間、セイツさんが笑みを深めた瞬間…モンスターが、吹き飛ぶ。壁の一角が破壊されると共に真横から駆け抜けた黄色の一閃によって、一瞬で纏めて吹き飛ばされる。
「とーーりゃぁぁぁぁああああああッ!」
「な……ッ!?こ、これは……!」
わたし達の誰も…お姉ちゃんの姿をした存在すらも予想していなかった展開に、全員が目を見開く。直後、モンスターを吹き飛ばした閃光は反転し、別のモンスターにも突っ込んでいく。
それだけじゃない。閃光が再び疾駆する中で、突如として伸びてきた刃が、鞭の様にしなってモンスターを次々と捌く。刃が踊ると共に…力と余裕に満ちた声が、響く。
「あらぁ?たったこれだけの事で狼狽えるなんて、随分と可愛い女神がいるじゃない」
「ぷ…プルルートさん!?それに…ピーシェさんも!?」
立っているのはお姉ちゃんの姿をした存在よりも下の場所、なのに逆に見下ろしているように感じる視線を向けているのは、藍色の髪をかき上げている女神。蛇腹剣を手にしたプルルートさん。そしてモンスターを跳ね飛ばした後プルルートさんの隣に着地したのは、黄色の髪をなびかせる女神、ピーシェさん。神次元の女神である二人が、外から破壊された壁の前に立っていて…更にその奥から、複数の人影が姿を現す。
「わたしも、わたしもいるよー!」
「俺達も、な」
「…なぁ、壁ぶっ壊す必要あったか…?」
「のんびり中を通っている場合ではなかったからね。彼女達の力を借りれば強行突破も無理ではなかった訳だし、必須ではなくとも意味はある…と言ったところだよ」
瓦礫を踏み締めながら現れたのは四人。ぴょこぴょこ跳ねて存在を主張している大きいお姉ちゃんに、も、を強調するうずめさんに、肩を竦めるくろめさんとウィードさん。現れた六人は、全員状況を分かっている様子で、ちらりとこちらを見た後再び視線を上へと向ける。
「あ、ねぷてぬー!……ねぷてぬ…?」
「いざ見ると、本当にねぷっちそのものだね。…その点オレは、どうしてこんな2Pカラーみたいな姿に……」
「こんなところで落ち込むなよくろめ…俺はクールな感じになったくろめの姿も好きだぞ?勿論うずめの明るくて活発な感じのする姿だって好きだけどな」
ぱぁっ、と嬉しそうな顔をしたかと思いきや、その数秒後にはきょとんとしたものに変わるピーシェさんの表情。前言撤回、ピーシェさんは状況をよく分かっていない様子だった。後、くろめさんは何やらテンションが下がっていて、ウィードさんはちょっと惚気ていた。その発言にうずめさんもくろめさんも嬉し恥ずかしみたいな顔をしていた。…く、空気感が…あの壁に開いた穴前だけ空気感が違い過ぎる……。
「……っ…貴女達、どうやって…一体どうして、ここに…!」
「そんなの、決まってるじゃない。…わたしが、そうしてくれるように頼んだからよ」
「頼んだ…?」
「ほら、覚えてない?天界に移動する前、わたし携帯端末を取り出したでしょ?…まさか、本当にあの時時間を見ただけだとでも思ったの?」
新手の襲来にモンスターは揃って動揺し、攻勢が弱まる。その好機を逃さず、一気にモンスターを撃破していく。
その中で、モンスターを十字に斬り裂いたセイツさんは宙に上がる。余裕を見せるように構えを解く。
「連絡…だとしてもそんな、あの時は…。…いや……疑ってたって、言うの…?あの時から、ずっと……」
「まさか。…あの時よりもずっと前からに決まってるじゃない」
大仰に肩を竦めて、セイツさんは否定する。そうじゃないと、そんな程度ではないと挑発的な笑みを浮かべて…言葉を、続ける。
「ネプテューヌ…いえ、その姿をした貴女の事は、なんと呼ぶべきかしら」
「…好きに呼べばいいわ」
「…なら、単なる偽者とはとても呼べないような存在なのだがら、女神のねぷっちのアルターエゴ…アルテューヌなんてどうかな?」
「あ、いいねくろめ。わたしがくろめの名前を考えて、くろめがわたしじゃないわたし?…の名前を考える…正に受け継がれる意思だね!これは止める事の出来ないものだよ、うん!」
ばっちりだよ!と大きいお姉ちゃんはくろめさんにグーサイン。くろめさんは「ふっ、少し格好良さもあって良いだろう?」…と返していて…やっぱりくろめさんも格好良さを求める心があるんだ、とわたしは感じる。ほんの少し口元に笑みが浮かぶのを感じながら、突き出したM.P.B.Lでモンスターを貫く。
「こほん。それじゃあアルテューヌ。貴女は今くろめが言った通り、とてもただの偽者、姿を偽っただけの存在…とは思えない程だったわ。見た目も、声も、言動も…確かにネプテューヌそのものだった。けど…だからこそ、なのかしらね。色々と、詰めが甘いのよ貴女は」
「……いつから気付いていたと言うの?」
「初めに疑問を抱いたのは、皆で話した時よ。あの時貴女は、イリゼの端末の位置情報について、イストワールにも話をするって言ったでしょう?けどあの日イストワールは、神生オデッセフィアにいた。プラネテューヌにいないんだから、同じく神生オデッセフィアにいるわたしから言った方が手っ取り早いのに、わざわざアルテューヌの方から『自分が言う』って言ったでしょ?…で、その後イストワールに聞いたけど、結局貴女は一度もイストワールに話す事も、連絡を取る事もしなかった。ダメ元とはいえ、イリゼを見つけられるかもしれない案だった筈なのに、ね」
最初はあの時だ、とセイツさんは言う。そういえば、あの時セイツさんは一瞬、不思議そうな顔をしていた。あの時は気付かなかったけど…言われてみればその通り。セイツさんの立場なら、「どうして自分に頼まないの?」と思うのも自然な事。
「それが切っ掛けになると同時に、決定打になった。そこから遡る形で、貴女の語った事…自分から『ネプテューヌ』を呼び出したのにネプテューヌを倒す訳でもなければ、何かを要求する訳でもなくただ逃げたっていう語りや、イリゼの事については大して何も言わなかった事も気になったわ。その時は本当にたた気になっただけだけど…今なら分かるわ。その時に、ネプテューヌを呼び出した時に…ネプギアが来るまでの間で、入れ替わったのね?ネプギアへの連絡も、本当はネプテューヌじゃなくて、そこからの立ち回りがし易くなるように貴女がした事なんじゃないの?」
「大した推理ね。貴女は小説家にでもなった方が良いんじゃないかしら?」
「憶測ばかりって事なら否定はしないわよ。実際、他は立ち直った後の貴女が変に殊勝というか、初めは探り探り話してるような感じだった気がする…とか、その割に突入作戦の提案に関しては饒舌に喋ってたように思う…とかの、芋蔓式というか、怪しいという前提で見て違和感を抱く点が幾つかあったから…って程度にしか、わたしから疑う要素はなかったもの。…だけど、確信を抱くには程遠くても、疑念を抱くには十分だった。だからそれ以降、ネプギアには貴女の動向を訊いていたし、うずめ達の事も貴女には伏せて、プラネテューヌには帰らないでいてもらっていた。…わたしとしては、わたしの考え過ぎであってほしかったけど…これが答えだった以上、容赦はしないわ」
そう言ってセイツさんは、二振りの内片方を肩に乗せ、もう一方の斬っ先をお姉ちゃんの姿をした存在…アルテューヌさんへと向ける。
言われて初めて気が付いた。お姉ちゃん…アルテューヌさんとプリンを食べていた時に掛かってきた電話、その内容の意味を。それからも確かに連絡はあって、お姉ちゃんの様子だったり、クエストに出た後の模擬戦やわたしがアルテューヌさんに訊かれて話した事なんかをその都度答えた。わたしはそれを、お姉ちゃんを気に掛けてくれているんだと思っていたけど…そっか、そういう事だったんだ…。
それに、ここまで聞いた事でわたしも気付く。模擬戦から帰った後、お姉ちゃんから出掛ける事を誘われた時に、わたしはお姉ちゃんの部屋の扉越しに話した時の事を覚えていてくれたのかな…って思ったけど、実際には違った。もしかするとこれも、セイツさんの言ったタイミングで入れ替わったから、アルテューヌさんはそのやり取りを知らなかったから、違ったのかもしれない…って。
「んだよ…わたし達にまで一言も言わないなんて、味な真似してくれるじゃねぇか」
「こういう事は気付かれないよう最新の注意を払う必要があるとはいえ、出来れば多少なりとも先に教えてほしかったものですわ…ねっ!」
「ごめんなさい。でもベールの言う通り、疑ってるって知ってる人が増えればその分バレる危険性も高くなるし……負い目も、あったのよ。あれだけ酷い事を言ったわたしが、今度はネプテューヌを疑いもするのか…って」
「だけど、ちゃんと自分の中の『もしかしたら』と向き合って、調べたから、今がある訳でしょぉ?あたしとピーシェちゃんがセイツちゃん達の力になれてるのも、万が一に備えて声を掛けてくれたからなんだから、セイツちゃんは胸を張りなさい。それにもし間違ってても…その時はあたしがたぁっぷりお説教してあげるから、これからもセイツちゃんは自信を持っていればいいのよ」
「それは、まぁ、うん…胸を張りなさい、だけで終わってれば素直に感謝出来たんだけど……」
負い目があったから、と答えるセイツさんに、プルルートさんが返す。途中までは、優しい声で…最後はちょっと愉快そうな声で言って、それにセイツさんは何とも言えない顔をする。一瞬、部屋全体も変な空気になって…それを仕切り直す、セイツさんの咳払い。
「こほん。貴女はまんまとわたし達を計略に掛けたつもりだったのかもしれないけど、結果はこの通りよ。残念だったわね、アルテューヌ」
「残念?…そうね、貴女には出し抜かれたわ。手を出さずに見ているだけだったのも、間違いだったわ。けど…これで勝ったつもりなら、今すぐその認識を改めるべき…ねッ!」
静かに、セイツさんの言葉を認めるアルテューヌさん。けれど、そこからアルテューヌさんの雰囲気は変わる。ふっ…と雰囲気が変貌し…次の瞬間、一気に打ち込む。
振るわれる大太刀と、掲げられる連結剣。上段斬りを、セイツさんは交差させた二振りで受けるも、勢いの乗った一撃は即座にセイツさんを吹き飛ばす。弾かれたセイツさんは、衝撃を逃すように宙で後転し……その背後を襲うのは、飛び掛かる何体ものモンスター。
「……!このモンスターはどこから…って……」
「えっ、ちょっ……外からモンスターが雪崩れ込んできてません!?」
壁の一角に開けられた大穴。状況の変化と、元から大量にモンスターがいた事でここまで気付かなかったけど、その穴からは続々と…蛇口を思いっ切り開いたみたいにモンスターが雪崩れ込んできていた。その勢いは、部屋の中全体での出現ペースと同じかそれ以上で、一気にセイツさんは飲み込まれる。直後、斬撃と圧縮シェアエナジーの解放でセイツさんは脱出したものの、モンスターの猛攻は止まらない。当然、わたし達の方にも迫ってくる。
「ぐッ、まさかここまでの物量で攻めてくるなんて…!けど、結局やる事は同じ……」
「──な訳がないでしょう?」
反撃に転じようとしたセイツさんへ、アルテューヌさんが追撃。数度斬り合った後、アルテューヌさんはセイツさんを蹴り飛ばし、反応を利用して急降下。回転斬りでモンスターを斬り裂いていたノワールさんに上からの斬撃を叩き込む。その次はベールさんに、ブランさんにと次々狙いを変えて、戦いのペースを引っ掻き回す。
「まさか、格好良く壁をぶち破っての登場が、こんな事に繋がるなんて…ぷるるん!ピー子!ここはわたし達が頑張る番だよ!皆の窮地をわたし達で……」
「うぅ、なんだかきもちわるい…ぴぃ、ここやだ……」
「確かにこの、何かが入り込んでくる感覚は気持ち良くないわね…ごめんなさい大きいねぷちゃん。あたしもピーシェちゃんも、ちょーっと調子が出そうにないわ」
「あれ!?これ、思った以上にピンチ!?」
二本の大剣を振るう大きいお姉ちゃんの、動揺した声。やっぱりプルルートさん達もわたし達と同じ感覚を抱いているみたいで、まだわたし達程じゃないけど、お二人も少し動きが悪い。
物量を増したモンスターの、津波が押し寄せるような攻勢と、様子見を止めて動き始めたアルテューヌさんの強襲攻撃。うずめさん達の登場によって変わった空気が、流れが、またさっきまでのものに引き戻されていく。
「詰めが甘いのは貴女もだったわね。それとも、まだ何か策があるのかしら?」
「まだ、あるかも…しれないわよ…ッ!」
「それは困るわね。だったら貴女達は、ここで念入りに倒しておくとするわ。こんな形で決着になるのは…特に貴女達とこれで終わりになるのは、残念だけどね」
斬り付けたM.P.B.Lの一撃が、思っていたよりも浅くなる。侵食する違和感が、太刀筋すらも鈍らせ始める。
そんな中で、アルテューヌさんの動きだけは鈍らない。モンスターの物量攻撃で生まれる隙を突いて、鋭く瞬間的な打ち込みをする事で今もセイツさんを攻め立てている。しかも反撃しようとすればあっさり引いて、またモンスターの物量に任せて隙を伺うっていう着実な策を取っているから、すぐにやられる事はなくても、確実に削られる。アルテューヌさんが本性を表す前と同じように、真綿で首を絞められるように追い詰められていく。
「セイツ、呼んでいたのはうずめ達だけですの!?他に増援は…というか、影響を受けないであろう人員の事は考えていなかったのでして…!?」
「何も用意がなかったわたし達が言えた事じゃねぇが、何か他にねぇのかよ…!」
「こん、のッ…!何か…まだ何か、きっと……」
「残念だけど、世の中そう上手くはいかないものよ。よく言うでしょ?現実は非情である、って。もう皆、余裕なんて殆どない筈。そんな中で考えたって……」
歯噛みをするような、ベールさん達の声。まだ諦めない、諦めてなるものか…そんなノワールさんの言葉へ返す形で、アルテューヌさんは言い切る。もう手なんかある筈ない、逆転なんて出来やしない。その言葉と共に、斬り結んでいたノワールさんを押し切って、追撃の構えを見せた……その時。
「…どうやら、アレを使うしかないみたいだな。うずめ、くろめ」
決して落ち着いてる訳じゃない…だけど確信を持ったような、声と呼び掛け。それは、ウィードさんのもの。そして、その意味深な言葉に全員が振り向く中……ウィードさんは、一歩前に出る。
*
ネプテューヌが怪しい。セイツからそう聞いた時は、驚いた。確信がないからこそ、色々確かめたいし、分からないからこそ皆にはプラネテューヌに戻らないでほしい…続いたその言葉には、セイツが本気なんだって感じさせるものがあった。
それからの、女神の皆が天界の街に突入する日が間近に迫る中での、セイツからの新たな頼み。既に声を掛けておいたプルルートやピーシェと共に、別働隊として後から突入をしてほしい…その頼みを受けて、俺達はここまで来た。そして…その見立ては、当たっていた。
「アレ、って…何か、あるんですか…!?」
驚いたように、ユニが言う。当然の反応だ。このタイミングで、「アレ」なんて言ったら、誰だって「まさか秘策が?」…って思う。
「何もなかったら、こんな事言わないさ。だろ?」
「あぁ、そうだな…!」
「けど、それはウィードが堂々と言う事じゃないだろうに」
その場で振り向けば、モンスターを殴打と蹴撃、それにメガホンで倒していた二人が言葉を返す。それもまた、当然の反応。なんかまるで、三人で何かやるみたいな言い方になってしまったが…実際やるのはうずめとくろめの二人。アレに関して、俺は何にもやる事がない。
「アレって…あれだよね!あれだよあれあれ!」
「分かってねぇだろ大きいねぷっち…ちょっとの間、俺と【オレ】は戦えなくなる。その間、頼んでもいいか?」
「ウィードの事も、ね。…任せたよ、ねぷっち」
「りょーかい!まっかせてよね!」
この状況を乗り切る手は、アレしかない。二人もそう判断してくれたようで、大きいネプテューヌへ援護を頼む。大きいネプテューヌからの返答を受け取り…セイツに向けて、二人は頷く。
セイツから返ってきたのは、同様の首肯。それが、セイツからの答え。直接受け取った訳じゃない俺でも、「信じる」という意図が伝わってくるその首肯を受けた二人は、攻撃を止め横に並ぶ。うずめがシェアクリスタルを取り出し…手を繋ぐようにして、くろめと二人で握る。
「ろむ、らむ、アレってなにかわかる…?」
「わからない…けど、すごいこと…だと、思う」
「そーよね…!よーし…ロムちゃん、ピーシェ、もうちょっとだけがんばるわよ…!」
目を閉じ二人が集中を始める中、ロム、ラム、ピーシェの三人が言葉を交わす。交わし、ロムとラムは魔法で、ピーシェは突っ込んで行ってモンスターを吹っ飛ばす。そのタイミングで、離れていた大きいネプテューヌは戻ってきて…うずめは、女神化。オレンジハートとしての姿になり……くろめもまた、シェアエナジーの光に包まれる。髪の色も、瞳の色も違う…だがうずめと同じ女神の姿に変貌する。
それに対し、皆は驚く。くろめも、女神化出来たのか、って。けど、皆が見ているのは幻覚じゃない。女神の姿となったくろめ…それが、紛れもない事実。
「ふー、ぅ…やるよ、くろめ…!」
「うん…!」
顔は合わせず、目を閉じたまま二人は頷き、更に集中。二人から何か感じ取ったのか、周囲のモンスターは優先的にうずめとくろめを狙い始め…それを大きいネプテューヌが二刀流で叩き切る。ネプギアとユニも、射撃で支援をしてくれる。
勿論、俺もただ見ている訳じゃない。この中じゃ断トツで弱い俺だが、それでも出来る事はある。
「ネプテューヌ!俺が引き付けるからネプテューヌは撃破を…うぐ……ッ!」
「ウィードくん!?だ、大丈……」
「大丈夫だ…!それは、ネプテューヌも…知ってる、だろ…?」
わざとモンスターの前に躍り出る。当然俺は狙われ、鋭い爪を振るわれる。それを避け、引き付ける為に飛び退こうとする…が、今はモンスターの数が尋常じゃない。歴戦の皆ならともかく、飛び退ける場所を一瞬で見極めるような力はまだ今の俺にはなく…次の一撃が、俺の肩口を深く捌く。
燃え上がるような痛みと衝撃が、肩から迸る。痛い、凄まじく痛い。昔の俺だったら転げ回るか絶叫を上げるか、或いはその両方かのような痛みが駆け抜け……だが俺は、踏み留まる。気力で、根性で踏み留まり…直後、痛みが薄れる。痛みも、傷も、巻き戻るようにして消えていく。
「…ウィードくん、それは……」
「そういうの、良くないと思うわよぉ?」
「…分ぁってる。けど俺だって、『自分』を軽んじてる訳じゃないし…特に今は、なりふり構ってる場合じゃないだろ?」
蛇腹剣がモンスターを貫く中、表情を曇らせる大きいネプテューヌと、はっきり良くないと言うプルルート。二人の思いは尤もだ。幾ら回復(ってより、修復…元に戻ってるって言うべきだが)出来るって言ったって、怪我する事、それを回復で何とかする事を前提にした立ち回りなんて、褒められるようなもんじゃない。
それでも、俺は止める気なんてない。ここまで来て、安全な所で見てるだけ…なんて真平御免だし、そもそもこの場に安全な場所なんてない。そして、俺の言った「なりふり構ってる場合じゃない」ってのも、当然二人は分かっているようで、それ以上は何も言わずに得物を振る。心なしか、これまでよりもペースを上げてモンスターを斬り裂き倒す。
「ウィードさん…。…わたし、だって……!」
「その心意気は、気持ちの強さは惚れ惚れするけど…そんな戦い方をしなくて済むようにしなきゃ、女神として情けないわね…ッ!」
また俺が攻撃を喰らいながらもモンスターを引き付け、大きいネプテューヌ達に倒してもらう中、他の皆の勢いも増す。全く狙っていなかった事だが、俺の行動が皆への鼓舞へと繋がっていく。
…が、多分これは良くない。俺自身にはよく分からないが、皆は手を抜いて戦っていた訳でも力を温存していた訳でもなく、力を出すに出せない状況に陥って、そのせいで押されていた筈。その中で勢いを増したってのは…要は、無理をしてるんだ。賢明ではない選択をしている…俺がそれをさせてしまっているんだ。
だとしてもやっぱり、止める訳にはいかない。うずめとくろめが抜けた穴を、二人を守りながら戦わなきゃいけない負荷をほんの少しでも何とかするには…俺の小さな力だろうと、振り絞るしかない。
「…この、感覚は…。……どうやら、本当に何とかなる一手があるみたいね。けど…それを素直にさせると思う?」
「……ッ!」
少しずつ、うずめとくろめを包むようにして力が渦巻いていく。だがそれに気付いたアルテューヌは、二人への攻撃体勢に移る。
不味い、と思った俺だが、女神の皆と遜色ない戦闘能力を持つアルテューヌを止める事なんて出来ない。今も、一気にアルテューヌはうずめ達へと距離を詰め……そこにノワールの大剣が割って入る。
「まあ、させてはくれないでしょうね…!」
「だが、それをわたし達が黙って見てるとでも思ったか?」
「悔しいですが、今のわたくし達は普段通りには戦えない状況。だからこそ、ここは三人がかりで相手をさせて頂きますわ…!」
「……っ…三人がかりで、とはね…!」
突き出された大剣が邪魔をし、止まったアルテューヌへ横から戦斧が振り出され、躱したアルテューヌに大槍が追撃を掛ける。ノワール、ベール、ブランの三人が、アルテューヌと向かい合う。
幾ら全力が出せないと言っても、守護女神三人が協力すればそれは凄まじい力になる。三人で連携して、入れ替わり立ち替わり攻防を行う事で、突破しようとするアルテューヌを押さえ込む。…が、だからって安堵なんてしていられない。むしろ、状況は更に悪くなったと言っても過言じゃない。なにせ、三人がアルテューヌの相手をするって事は、三人がモンスターの対処から外れるって事でもあるんだから。
「きゃあっ!」
「おっきいねぷてぬ、だいじょぶ!?」
「だ、だいじょう…ブイっ!」
斬撃とステップを繰り返し、攻撃と回避を流れるような動きで組み合わせていた大きいネプテューヌだったが、ずっと大剣二刀流っていう負荷の大きい戦い方をしていたせいか攻撃が甘くなり、モンスターに弾き返される。一気に危機に陥るネプテューヌだが、反射的に飛び込んできたピーシェがそのモンスターを鉤爪で殴り付けるようにして倒し、転んだネプテューヌに群がるモンスターもタックルで跳ね飛ばしてネプテューヌのピンチを打開する。
立ち上がった大きいネプテューヌは、ピーシェに向けてVサイン。それを見たピーシェもにかっと笑って、同じサインを返して二人は跳躍。突っ込んできたモンスターを躱すと共に、即座に処理して次へと向かう。俺と同じく女神じゃないのに、大量のモンスター相手に大立ち回りをする大きいネプテューヌの姿は、本当に凄いものだが…そのネプテューヌだって消耗している。皆疲労して、余力を削り取られて、それでも何とか踏み留まっている。
(まだ、準備が整うまではもう少し掛かる。準備が整うまで、凌ぎ切れるかどうか分からない。…もう一手、必要だ。もう一つ、支える力が…皆の、力になれるものが…)
無理に跳んで回避した結果、着地に失敗し足を挫く。立ち止まる訳にはいかないと、足が直る…治るんじゃなく、直るまでの間はとにかく転がって、直ると共に跳ね起きモンスターの視線を集める。
ほんの少しでも力になれれば。そう思ってモンスターの注意を引き付けている俺だが…分かってる。ほんの少しの力じゃ、まだ足りないと。もっと力がなくちゃ、俺達は押し切られてしまうと。
そんな事を思っても、その為の力がなければ、ただの嘆きにしかならい。…だが、違う。皆が進み続けているように、うずめやくろめも歩み続けているように……俺だって、何も変わらないままなんかじゃ…ない。
「……あぁ、そうだよな。上手くいくかは分からねぇ。けど…俺だって皆の力になる為に、うずめとくろめを支える為に、ここまで来たんだ…だったら、そいつを形にするのは…今しかねぇだろうが…ッ!」
口にして、言葉にして、自分自身を奮起させる。俺の言葉で、自分自身に決意をさせる。決して絶対の自信がある訳じゃない、失敗する可能性もある、一か八かの俺の切り札。それでも…いや、だからこそだ。ギリギリの状況、後少しで届く中での、その後少しが足りない戦況。なら今はまだ自信はなくとも、上手くいかないかもしれなくとも…これ以上に、その一歩を踏み切るのに相応しい場面なんてない。
後ろ脚で踏み切り、俺や大きいネプテューヌを飛び越えてうずめとくろめに襲い掛かろうとするモンスター。大きいネプテューヌは別のモンスターとぶつかっていて、今からじゃ絶対間に合わない。だから俺は、だから俺も、床を踏み締め、全力で蹴り、宙へと跳び上がって……構え掲げた両手を、真っ直ぐに振り抜く…ッ!
「うぉおぉぉぉぉおおおおおおッ!!」
牙と爪を剥き出しにしたモンスターの、真下を抜ける。俺とモンスターは、上下ですれ違うようにして、互いに降下。両足で着地し、衝撃を殺すように片膝を突き、息を吐く。そして、一瞬遅れて背後からも音が聞こえる。…絶命した、真っ二つに斬り裂かれた、モンスターの身体の落ちる音が。
「……っ!ウィードさん…その、剣は……」
立ち上がった俺を見て、ネプギアは目を見開く。その驚きに、俺は小さな頷きで返す。
握り締めた両腕。そこに感じる確かな重み。俺が掴んだ、掴み取った……厚みのある、一振りの剣。
「──
構え直し、俺は手にした盾剣と共に突っ込んでいく。大剣と呼ぶには少し短い、両手剣と呼ぶには大分厚い…だがそれ故に、剣での防御、盾として使うにはばっちりな剣を振るって、ダメージを喰らいながらもモンスターを叩き斬る。
「おーっ、格好良いじゃんウィードくん!え、なになに?こっそり修行か何かしてたの?」
「まぁな。なんでこんなもん出せるかっていう、と…ッ!うずめやくろめが普通の女神じゃないのと同じように、俺も普通の…ッ!人間じゃないから、だろう…よッ!」
「そっか、にしてもそんなの隠してたなんて、ウィードくんも人が悪いんだからー!けど、これで何とか……」
「げふッ、うが…ッ!」
「…って、あれぇ…?」
大きいネプテューヌと言葉を交わしながら、うずめとくろめの下へ走る。斬り付け、押し返し、盾剣の腹を向ける形で掲げて反撃は完全に防ぎ切る。…が、横からの攻撃で身体が曲がる。防御が崩れたところを、別のモンスターにも狙われる。それを何とか凌いで…というより、再生を頼りに無理矢理身体を捩じ込んで、痛みと共に二人の前へと転がり込む。
多分、大きいネプテューヌは俺が大幅強化されたと思ったんだろう。それも全くの間違いって訳じゃないが…残念ながら、状況を一変させるような強さはない。モンスターの大群が相手じゃ、どうやったって分が悪い。
「貴方の再生能力は大したものだけど…その程度だったら、この物量を倒すには程遠いわね。いい加減、詰ませてもらうわ」
三人と戦いながら、ちらりとこちらを見たアルテューヌもその事を見抜いてくる。そのアルテューヌをうずめ達から引き離すようにして三人は連続攻撃を仕掛けるが…直後、回り込むようにして皆との戦闘を避けた何体ものモンスターが、一斉にうずめとくろめへ飛び掛かる。
回り込まれた事もあって、今のギリギリの状態じゃ誰も間に合わない。意識を集中させているうずめとくろめは気付いてないし、唯一側にいる俺は、今正に迫り来るモンスターの全てを倒すなんて到底出来る訳がない。アルテューヌは、そう踏んでいるんだろう。
ああ、それはその通りだ。仮に二人が気付いても、迎撃に動けばそれだけでここまでの準備が全て崩れ去るだろうし、今の俺に全部を迎撃する実力なんかない。──だが、
「悪いな、アルテューヌ。この力は、倒す為のものじゃなくて──守る為の、ものなんだよッ!」
笑みを浮かべ、アルテューヌをはったと見据え、俺は言い切る。盾剣を床に突き立て、力を込め…叫ぶ。
「見せてやるよ、惚れた男の本気と根性…ッ!
瞬間、俺を、うずめとくろめを囲うようにして現れる橙色の光。駆け登り広がる、光の壁。モンスターは全て、光の壁に衝突し…その悉くを、弾き返す。
今襲ってきたモンスターだけじゃない。続く形で突っ込んでくるモンスターも、例外なく弾く。弾き、阻み、二人への攻撃を防ぐ。
「わっ…へー、やるじゃないウィードさん!」
「…ぁ…でも、ぼうぎょが……」
「……っ…いいや、問題ねぇ…この壁は、盾は…
目を丸くしたラムの、評価の言葉。続くロムの、ある事に気付いた声。俺も、理解している。次々と突っ込んでくるモンスターを阻む壁、その一部に亀裂が入ってしまった事を。
直後、俺の身体にも痛みが走る。壁の影響を受けるようにして、俺の身体もまた傷付く。…だが、それで良い。これだから良い。なにせ、俺の身体は直るんだから。俺の身体が直る事で…壁もまた、元通りに修復されるのだから。
まだまだ未熟な俺の作り出した光の壁は、何度も亀裂が走る。破られそうになる。けどその度に俺の身体も傷付き、直り、壁もまた再生する。そうして攻撃を防ぎ続ける。
「皆、二人は俺が、全身全霊で守ってみせる…ッ!だから……ッ!」
直るったって、痛みがない訳じゃない。光の壁の維持だって楽じゃない。だから俺は強く盾剣の柄を握り締め、踏ん張り、気力を振り絞って耐える。持ち堪える。
俺の言葉に答える声はない。なかったが、感じる、伝わる。俺の言葉に、思いに答えて、同じように力を振り絞ってくれる皆の意思が。少しでも俺の負担を減らそうと、多少の怪我は厭わず立ち回り飛び回る、皆の姿が。
遂に焦りを、止められないんじゃないかという感情を顔に浮かべ始めるアルテューヌ。そして……
「準備…かんりょーっ!」
「お待たせ、皆っ!」
背後から聞こえてくる、明るく頼もしいうずめとくろめ、二人の声。それに俺が振り向けば…二人は、俺に向けて笑ってくれる。
「守ってくれてありがとね、ウィード♪」
「ここからはくろめとうずめの番だから、よーく見ててよね♪」
「あぁ、頼むぜ。うずめ、くろめ…!」
二人からの言葉に、俺は深く頷いて返す。俺の返答に、勿論だとばかりにうずめもくろめも笑みを深め、二人は手を離す。手を離し、それぞれ左腕を突き上げる。
左腕に備えられた、円形の盾。それが展開し、光が、シェアエナジーが溢れ出す。
『シェアリングフィールド…てんかーいっ!』
響く言葉に合わせて俺が光の壁を解けば、溢れ出したシェアエナジーは更に広がる。強く優しい光が、駆け抜けていく。そしてシェアエナジーは部屋を満たし、空間を飲み込み……光が全てを、包み込む。
今回のパロディ解説
・「〜〜受け継がれる意思〜〜事の出来ないものだよ〜〜」
ONE PIECEにおける、代名詞的なフレーズの一つのパロディ。ゴール・D・ロジャーの台詞…と言いたいところですが、基本ナレーションで語られるフレーズなので、彼の台詞とは言い切れないですね。
・「大した推理ね。貴女は小説家にでもなった方が〜〜」
特定の作品…というより、推理作品にて割と出てくる事の多い台詞のパロディ。ぱっと思い付くのは相棒シリーズですが、他にも似たような台詞はあると思います。
・「〜〜現実は非常である〜〜」
ジョジョシリーズの登場キャラの一人、ジャン=ピエール・ポルナレフの代名詞的な台詞の一つのパロディ。ぱっと見ナレーションですが、文章の枠が吹き出しっぽくなっているんですよね、これ。