超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown 作:シモツキ
前編 少し違う皆
そこに、本物はない。そこにあるのは、積み重ねられた情報だけ。夢でも、幻でも、幻想でもなく…再現された、『もしも』があるだけ。
けれどそこに、一つでも心があるとしたら。たとえ全てが再現でも、所詮は情報に過ぎなくとも、それに触れる心が何かを思えば、思ったのなら…抱いた思いは、偽りなんかじゃない。確かにそれは、事実で、現実で…真実。
だからこそ、得られるものがある。感じる事がある。そこには確かに…意味がある。だって、そうでしょう?それを決めるのは、わたしだから。真実かどうかを決めるのは…わたし自身の心なんだから。
*
それは、ある日の事。アルテューヌとの戦いの中、心の折れてしまったネプテューヌが立ち直って、アルテューヌとクロワール…それにネプギアの居場所の手掛かりを掴むべく、人海戦術による天界への張り込みが決まった後の事。プラネテューヌへと来ていたわたしは…とある理由で、神生オデッセフィアに戻ってきていた。
「お疲れ様、皆。細かいセッティングまでしてもらえて助かったわ」
最初から最後まで全部やってくれた、技術者や業者の皆へと感謝を伝える。もし時間があるなら、うちの教会の食堂で食事をしていって、とも伝えて皆を見送る。
今わたしがいるのは、教会の一室。搬入されたばかりの様々な機材が存在感を放つ、その機械の、装置の為の部屋。
「漸く来たわね…」
メインとなる装置に触れて、わたしは呟く。待っていた。待ち侘びていた…って程ではないけど、とにかくこれを待っていた。この装置を……仮想世界形成装置を。
各国の技術を組み込みつつ、プラネテューヌ主導で開発された、仮想世界形成装置。ざっくり言えばシミュレーター、けれど既存のものより遥かに高度で複雑な、だからこそ圧倒的な自由度を持つ例の装置、その二号機。……違うわよ?二号機だからって、強奪してきた訳じゃないわよ?
…こほん。元々二号機をうちにって話にはなっていて、先日完成した事、搬入準備も完了した事を伝えられた。今は騒動の真っ只中だけど、イリゼだってまだ戻ってきてないけど、丁度今は作戦準備…というか、皆を招集してる関係で時間があるし、特殊な機材だからセッティングやら何やらの都合でいつでも搬入と設定を頼める訳じゃないって事から、こうして今日やってもらった。…で、起動テストも一応やった訳だけど……
「……うん、さっきのテストは基本的な事しかしてないし、もうちょっとやってみてもいいわよね。仮想空間の中で腕を動かしておけば、治るまでのブランクも軽減出来るだろうし、今なら何かあってもまだ皆が食堂にいるだろうし」
うんうん、とそれっぽい理由を並べ立て、わたしは装置を起動させる。どんなシミュレーションにするかを設定して、念の為この装置の搬入についても把握している職員に稼働させる事を連絡して…装置に横たわる。
今回の設定は、あまり細かくは決めず、装置の側に任せてしまう。任せてもしっかり、これは現実的に見ておかしいなと思うような部分がないか確かめる為に、そうしてある。つまり、具体的にはどんなシミュレーションになるかわたしにも分からないんだけど…それもまた、楽しみというもの。
問題なければそれでいいし、問題があればそれを発見出来たって意味でプラスになる。そして仮想世界形成装置は、そのデータの蓄積とシミュレーターとしての向上は、わたしの…わたし達の望む先へと繋がってくれる。でも別に、今から行うシミュレーションそのものは、そんなに肩に力を入れなきゃいけないものでもない訳で…息を吐き、気を楽にして、わたしは目を閉じる。リラックスし…装置が作り出す仮想の空間へと、わたしの意識は向かっていった。
*
というのが、今に至るまでの経緯。現在わたしは仮想世界の中にいて、とある依頼を請け負ったところ。今回は現実から意識が連続している、仮想世界だと認識出来る設定にしてあって、その点での不具合も特にない。ここまでは、何一つとして問題はなかった。…なかったんだけど……。
「ふぇ…ふぇぇ……」
「なー、はやくいこーぜ?」
「ああ、よしよし…えっと、こういう時どうしたら……」
「どうもこうも、飴でもあげればいいんじゃない?」
「まあまあ、焦らず落ち着いていこうよ。いつだって、冒険の前には準備が大切でしょ?」
「いや、これからするのは冒険じゃ…ってあぁそうか、今のは方便…こほん、なんでもないです」
「どんな内容か楽しみだよね。楽しみっていうか、期待大っていうか、わくわくするっていうか…うーん、どれがいーかな?」
「どれでもいいというか、どれも同じなんだがな…」
(な…なんか変わってるぅぅぅぅううううッ!?)
依頼を受け、集合場所へと戻ってきた時、そこには皆がいた。それはいい、何もおかしな事じゃない。皆も…といっても本人じゃなくて、蓄積されているデータから再現された皆だけど…参加するって事になっていたから。
ただ、違った。色々違った。誰も彼もそれはもう…皆、悉く変わり過ぎていた。
「あ、セイツおねーさん遅いわよー」
「お、遅いも何も、わたしが来た時点ではまだ誰も来てなかった…って、そうじゃなくて!」
何事もないように呼び掛けてくる茶髪のポニーテールの女の子に、突っ込んで返す。一度深呼吸をし、皆を見回し…やっぱりおかしい事を再確認して、わたしは言う。
「皆…その姿は、どうしたの…?」
わたしは問う。皆へ問う。ここにいる皆へ、再現データの皆へ……何故か幼くなっていたり、逆に成長していたりする皆へ、ストレートに切り込む。
『……?』
「…え、何その反応。何で全員揃って小首を傾げてるの…?」
「何でもなにも、セイツさんが妙な事を訊くからですが…」
よく分からないのはこっちの方だ、と茶髪のサイドテールの女の子が言ってくる。さっきの子も、隣でうんうんと頷いている。髪型こそ違えど、容姿はそっくりな二人の子が…ディールちゃんとエストちゃんが、変な目でわたしを見ている。そして、多分皆には全然伝わってないと思うけど…二人は揃って成長していた。前に会った時にも見せてくれた、変身魔法を使った後の様な姿となっていた。背格好としては…わたしよりは低いけど、それでもネプギア位はあるかしら…。……うん、ネプギア位はあるわね。少なくとも、ディールちゃんは。
「…ふぅ。哀れね。いつまで経っても変態だなんて」
「んなっ!?べ、別に疚しい気持ちで胸元を見てた訳じゃないわよ!?」
「へー。胸を見ていたのね。で、疚しい気持ちがないならどうして?」
「……見比べてました、ごめんなさい…」
淡々と言葉を発してくるエストちゃん。言い訳のしようがなく、速攻謝る他なくなるわたし。ひょっとして、魔法で変身してるだけ?…とも思ってたけど…間違いなく、これは中身も成長してるわ…激しく怒るでも、笑顔で威嚇してくる訳でもなく、冷静且つ端的に追い詰めてくるこのさまは、明らかにわたしの知るエストちゃん以上だもの……。
「いきなり変な事を訊いたり、失礼な事をしたり…大丈夫ですかセイツさん。頭とか、心とか」
「うぐっ…そ、それは心配してくれているの…?それとも追撃しているの…?」
「ふふ、さてどちらでしょう?」
「…もしや、どっ「どっちもかな?」なんで貴女が答えるのよ!?」
「あはは、なんだかちょっとふざけたくなっちゃってね。けど本当に大丈夫?これから一仕事するんだから、体調とか気分に少しでも気になる事があれば言ってね?」
「あ、う、うん…ありがとう、気にしてもらえて嬉しいわ…」
柔らかく、心の余裕を感じさせる表情で笑う黒髪ロングの女性と、同じく穏やかな雰囲気を纏う…ある意味この中で一番見覚えのある、紫の髪をロングにした女性。前者は容姿や声からしてビッキィで…後者は、ネプテューヌ。それも、大きいネプテューヌ。でも白い龍らしきネックレスを…容姿とは逆に見覚えのない物を身に付けている辺り、信次元に滞在してる彼女じゃなくて、別世界のネプテューヌ…だと思う。
(…こっちの二人は、何かこう…ほんと、成長したって感じね…)
二人を見ながら、わたしは思う。背や髪が伸びてるのは勿論だけど、それ以上に精神面が大人びている。ビッキィからはほんと余裕のある、物腰の柔らかさが伝わってくるし、ネプテューヌの方はもうキャラが全然違う。雑な言い方にはなるけど……二人は、お姉さんになったってって感じだった。
「…体調、か…最後に万全だと感じたのはいつだったかな…」
「もー、そーゆー発言は年寄り臭いよ?まだ若いでしょ?」
「…………」
「…どうかしたか?」
「い、いやその…時よ逆巻け!…的な…?」
「ファイト中に一度だけ使えるスキルを使用してはいないんだが?」
「うんうん。どっちかっていうと、時よ歪め!の方だしねー」
再び向けられる、何を言ってるんだという視線。うんまあ、その反応は当然だと思う。思うけど、困惑してるわたしサイドの気持ちも考えてほしい…というのは、流石に無理よね…。
と、内心嘆くわたしを半眼で見ている銀髪の少年は、影…だと思う。その隣でにこにこしてる赤いサイドテールの女の子は、茜で間違いない気がする。
ふわっとした表現なのは、二人もまたわたしの記憶にある姿と少し違うから。だけどここまでの四人の様に、成長してる訳じゃない。むしろ逆で…二人は若くなっている。なっているんだけど…元々二人共若々しい見た目をしていたから、逆に分かり辛い。…人によって、成長してる場合と若返ってる場合がある…って事は、今回の仮想空間そのものの時間が未来や過去になってるんじゃなくて、個々に設定が調整されてる…のかしら……。
「…はぁ…具体的な事はさっぱりだが、セイツにとって現状は何か変なんだな?」
「え?…分かるの?」
「分かるさ。イリゼと同じで、セイツも顔に出易いんだよ」
「だね。でも、それだけで分かるのはえー君の鋭さがあってこそ。だよね?だよね?」
「あ、あー…そう、かも…ね」
まるでわたしの思考を見透かしているような影の発言に驚いていると、茜が嬉々として同意を求めてくる。若返っている…ぱっと見ローティーン位になった二人は、見た目だけじゃなく中身も若いというか、特に影は記憶よりも活力がある感じで…あー、でも茜の方はあんまり変わらないかもしれないわね…心なしかお喋りというか、そういう意味では茜も『若さ』が伝わってくる感じだけど…。
(…けど、二人はまだいいっていうか、許容範囲?…内なのよね…この位なら、別にいいんだけども……)
ここまでわたしは、順に皆を見てきた。見てきたけど…実は意図的に、ある二人へ触れるのを後回しにしてきた。だって……
「ぐすっ…うぇぇ……」
「なーなー、何しにいくんだ?どこにいくんだ?」
今にも泣きそう…というかもう涙目な金髪の女の子と、今にも駆け出しそうな程うずうずしてるベージュの髪の男の子。…明らかにちっちゃい、若返っているどころか最早幼児化している、ルナとグレイブ…らしき、二人。…いや、だって…そうでしょう…?皆変化してるとはいえ、流石に幼児化は色々反応に困るわよ!反応にも対応にも困るって!
「…え、っと…念の為、訊くわね…?ルナとグレイブで、合ってる…?」
「んー、おう!」
「……!」
「うん、反応ありがとう。…因みにグレイブ、ポケモンの方は……」
「すきだ!けどまだもってない!だが、じょーねつはある!」
「持ってないの!?そして何故連ドラ!?」
「…バルガ?」
「連ドラってそっちじゃないって……」
無垢というか、正に子供っぽさはあるけど、このエネルギッシュな感じは完全にグレイブのそれ。一方もう一人の子はわたしの『ルナ』って言葉に反応した辺り、やっぱりルナっぽいけど…どうもさっきからビクビクしている。見たところ、グレイブより更に幼い感じだし…もしかして、皆の事が分かってない…というか、知らない状態…?
「…どうしよう…誰か、お菓子持ってない?お菓子をあげれば少しは落ち着いてくれると思うんだけど…」
「なくはないが、方法としてそれはどうなんだ…?」
「セイツおねーさんがそれやると、いよいよ本当に変質者ムーブになるんじゃない?」
「へ、変質者呼ばわりは止めて…!?…なら、どうしろと…?」
「どう、って…。……でも、確かに放ってはおけないし…」
なら何か案を、とわたしが求める中、さっきもルナをあやそうとしてくれていたディールちゃんが、少し考え込む様子を見せた後何か決めたような顔をする。そして、小さく息を吐き…ディールちゃんの身体は、光に包まれる。
『へ?』
いきなりの事にわたしを含む過半数…具体的にはエストちゃんと、茜と影以外の皆が驚く中、ディールちゃんを包んだ光は少しずつ収まっていく。そうして完全に収まった時…ディールちゃんの姿は、変化していた。…小さく、なっていた。
「ほら、大丈夫。泣かないで」
「あっ…!ロ…ディ……ロールちゃん…!」
「うん、多分混じった結果某シリーズのキャラか、ロールケーキみたいになっちゃったんだんだね。ディールだよ、ディール」
やんわり窘めるように突っ込み、ぎゅっとルナの手を握るディールちゃん。ぱっと表情を明るくさせたルナちゃんはうんうんと頷き、それからぎゅぎゅっと握り返す。
「前はよく、変身魔法で身体を成長させてたけど…まさか、逆に使うとはね」
「さっすがディールちゃん、優しいねぇ」
「それに、なんというか…ほっこりしますね」
『うんうん』
ほわーんとした雰囲気で言う茜とビッキィに、わたしとネプテューヌは頷いて返す。握ったままぶんぶんと腕を振るルナと、にこやかにルナのやりたいようにさせてあげているディールちゃんの様子は、本当にほっこりとするものだった。
「…さて、ところでセイツ。イリゼはどうしたんだ?」
「あ…いや、それは……」
「…何かあったの?」
と、心がほわんとしていたところへおもむろに影から尋ねられたのは、イリゼの事。不意打ちのように問われた事で、わたしは答えに詰まってしまい…影は勿論、エストちゃんからも疑念の視線を向けられてしまう。…ま、不味い…今は満身創痍で捕まって封印されてるなんて言える訳ないし、何とか誤魔化さないと…!……と、思ったんだけど…。
「や、その…あれよ、あれ」
「だからその、あれの部分を訊いているんだ」
「うっ…だから…アル……」
『アル?』
「…シュベルドの狩猟中…?」
『なんで!?』
ついアルテューヌ、と言いかけてしまった状態から苦し紛れに捻り出した、何とも強引な誤魔化し。当然の様に二人からは突っ込まれ、他の皆からも「!?」…という視線を向けられてしまう。
「いやどういう事よ!?どこ行ってるのよおねーさん!又はアレなの!?ゲームに夢中ですって事!?」
「ご、ご想像にお任せするわ…」
物凄く食い気味に突っ込まれるわたしだけど、本当にご尤も。そもそも嘘というか適当に言っただけなんだから、どうもこうもないし、想像に任せる他ない。…けど、怪我の功名というか、この突飛さが功を奏して皆の注目はわたしの謎発言へと向かい、イリゼについてこれ以上訊かれる事はなかった。…セイツからまともな答えは得られないだろう、と皆から呆れられた…訳ではないと思いたい。
「えーっと…と、取り敢えずそろそろ依頼の内容確認をしようか」
「そ、そうだね…せーちゃん、せつめーしてくれる?」
「あ…えぇ。…こほん。今回の依頼だけど……」
仕切り直すネプテューヌに同意し、茜がわたしに訊いてくる。それにわたしは頷いて、皆の事をゆっくりと見回す。そして、気持ちを切り替え…言った。
「──端的に言うと、レアな鶏探しよ」
『……はい?』
*
この街の外に、雛ではなく初めから鶏の姿で生まれる不思議な鳥が生息している。その鳥自体は決して珍しくない種類ながら、街の外にいる群れの中に、他とは違う特別な個体が混じっているらしいから、その個体を捕まえてきてほしい。…これが、今回受けた依頼の内容。…なんというか、まぁ…ゲームのクエストみたいよね。
「レアな鶏…どんな見た目をしているんです?鳴き声とかに特徴があるんです?」
「さぁ。でも、一目で分かるって言ってたわ」
「もしかして、色ちがいか!?」
「…まあ、ないとも言えないな。他に可能性としてありそうなのは、動く速度、身体のサイズ、或いは鶏の癖に普通に飛べる…って、よく考えたら今の時点じゃ可能性があり過ぎて、逆に考えても意味ないか…」
依頼の説明を終え、わたし達は街の外へ移動。鶏の生息地として教えられたのは、見晴らしの良い平原で…ビッキィの問いに答えつつぐるりと周りを観察していたわたしは、すぐに気付く。
「…っと、あれじゃない?」
「へぇ、あれがイキナリニワトリかぁ…。…名前、そのまんま過ぎない…?」
「生物の名前なんて、そんなものよ。名は体を表すっていうし、分かり易くて都合が……」
「…ねぇ、ディールちゃん。エストちゃんは…?エストちゃんは、いないの…?」
「…だってさ。どこ行ったんだろうね、エスちゃん」
「…うっ…あーもう分かった、分かったって…!」
澄まし顔でネプテューヌに答えていたエストちゃんだけど、ルナのしゅんとした声と、ディールちゃんの小突きで追い詰められて、エストちゃんもまた変身魔法を使用。馴染みのある姿になると、嬉しそうに笑うルナの姿に肩を竦める。…前の時も思ったけど、エストちゃんって結構世話焼きよね。
「…あ、そうだ。一目で分かるといえば…茜、どう?今見えてる範囲で、それっぽい個体はいる?」
「んーん。っていうか、一目で分かるならわざわざ訊く必要ないんじゃないかなー?」
見極める事なら茜に訊くのが一番、と思ったわたしだけど…言われてみれば確かに、これは茜へ訊くまでもない事だった。だって、一目瞭然って事なら誰の目でも判別出来るだろうし、どの個体も同じように見えた時点でいない事はほぼ確定なんだから。
「じゃあ、他の個体を探して…って思ったけど、もう少し調べてみる?ほら、何か条件を満たすと特別な反応とか変化をする…って可能性もあるでしょ?」
「それもそうね…(さっきからずっと思ってるけど、この子本当にネプテューヌなのかしら…中身だけ女神化してるとか…?)」
「なら、まずはわたしに任せて下さい。……ふッ」
『相変わらず速ッ!』
言うが早いか、某天剣ばりの速度で一瞬にして数羽のイキナリニワトリへと肉薄するビッキィ。イキナリニワトリの眼前にいきなり現れる形となった事で、ニワトリ達は驚いたように甲高く鳴き……
「あ、逃げた。しかも意外と速い…!けど、速さなら負ける気が…って卵を乱射してきたぁ!?」
数瞬後、イキナリニワトリは卵を機銃の様に撃ちまくりながら…もとい、産みまくりながら?…逃走した。ビッキィが、めった撃ちに遭っていた。
「すげー…タネじゃなくて、タマゴマシンガンだ…」
「卵を撃ち出す事で、背中を向けて逃げつつ襲ってきた相手を攻撃するのか…中々合理的だな…」
「そこの男子二人、のんびり観察してないでくれます…?」
まんまと逃げられた(わたし達もびっくりして何もしていなかった)ビッキィは、散々な目に遭った…という顔で戻ってくる。取り敢えず、今のビッキィの行動で、イキナリニワトリの生態は少し分かった。そういう意味じゃ、一歩前進。
けれど同時に、新たな問題も見えてくる。…これは捕まえるのが難しい、という問題が。
「あのスピードだと、逃げられてから追い付くのは厳しいですね…卵の攻撃も、結構激しいですし…」
「うん、すごかった!たまごぽんぽんってしてたもんね!」
「長距離から気付かれる前に仕留めちゃえば楽だけど…そうもいかないんでしょ?」
「依頼は生け捕りだからね。二人共、遠距離から麻痺とか睡眠の魔法を撃つ事は出来る?」
「…にわとりさんだから、はやおきしちゃうんじゃないの?」
『あー……』
実際どうなのかは別として、ルナの発言に納得してしまうわたし達。困ったわね…捕まえようがないんじゃ、どうにもならないわよ…?
「…まぁ、速いっていっても瞬間移動してる訳じゃないんだ。特別な個体を見つけさえすれば、後は全員で囲んで少しずつ追い詰めていけば何とかなるだろう。…見つかれば、だが」
「だったらまた、イキナリニワトリを探しに行かないとね。さ、皆頑張ろ?」
本当に…本当にネプテューヌなのか怪しくなってくる成長したネプテューヌに違和感を拭い切れないわたしとは対照的に、皆は普通に頷いて歩き出す。
段々分かってきたけど、皆は自分の事は勿論、周りの状態についても普通に受け入れてる…というか、何もおかしくないと認識している様子。ルナだけは少し特殊みたいだけど…自由度の高い、高度なシステムも、決めるところはしっかり決めないとこういう謎な設定になる訳ね……。
「イキナリニワトリー、出てこーい」
「でてこーい!」
「出てこないと、やきとりにするぞー!」
「えっ…やきとりに、しちゃうの…?」
「いやそもそも、焼き鳥にするって言われたら余計に出てこないと思うけどね…」
意気揚々と歩くちびっ子二人。グレイブの脅し?…に苦笑をしつつ、ネプテューヌが突っ込みを入れる。
そんな呼び声が功を奏したのか、十分足らずでまたわたし達はイキナリニワトリの集団を発見。今度はさっきよりもじっくりと観察をし…だけどこの集団にも、それっぽい個体はいない。
「捕まえる対象がいないっぽい…なら、放置して次に進みます?」
「でもさきぃちゃん、このニワトリ達が他の所に行ったら、もう確認したニワトリかそうじゃないかって、分からなくなっちゃわない?」
「あ…そうか、そうですね…どうしよう……」
「…焼き鳥にしておくか」
「そーね。生け捕りにする必要がないなら、魔法で纏めてどかんと……」
「そうしたらルナちゃん、ぎゃん泣きしそうだけど…いいの?」
過激な発言をする二人を、ネプテューヌがやんわりと制す。エストちゃんは「厄介な弱点を抱える事になった…」とばかりに目を逸らし…影は、あっさり言い包められたのがちょっと面白くなさそうだった。わたしの知ってる彼なら、涼しい顔をしていただろうし…やっぱりまだ、若いのね。
という訳で、話し合った末ディールちゃんとエストちゃんの水魔法と土魔法、ビッキィの水遁と土遁をそれぞれ活用し、泥の塊をぶつける事に決定。大きな泥玉をぶつけられたニワトリ達は、泥だらけとなって逃げ出していく。恐らくこれなら、暫くの間は乾燥しても土が身体に残る事で判別の助けになってくれる。
(…そういえば…前の時も、モンスターに泥玉をぶつけてたわね……)
ふと思い出す、前の事。だけど成長や若返りをしている今の皆にその話が伝わるかは分からないし…そもそもあれは、現実での出来事。仮想世界形成装置は記憶も読み取ってくれるけど…だとしてもやっぱり、わたしが「あの時の事を思い出した」と言っても、誰も分かってくれないかもしれない。…だから、わたしは言わない事にした。伝わらないのは…寂しいから。
まるで現実の様な、あまりにも精巧な仮想空間。だけど、限りなく現実に近いとしても…現実そのものじゃない。それを改めて思う、わたしだった。
「…だいじょーぶ…?」
「へ?…え、えぇ。大丈夫よ?」
「…うん」
そんな思考に耽っていたわたしへ、不意に掛けられた声。それはわたしを見上げる、ルナのもので…彼女の方から話し掛けてきた事に少し驚きつつ答えると、ルナはこくんと頷いて、ディールちゃんとエストちゃんのところに戻っていった。…小さくなって、凄く臆病な感じになったルナだけど…こういうところは、変わらないのね。
と、思ったところでまた捜索再開。そこからは、探しては見つけ、確認しては泥だらけにしてを繰り返す。二度、三度、四度、五度と繰り返し……今もまた、泥まみれになったニワトリ達が逃げていく。
「…ふぅ…また成果なし、ですね…」
「ディーちゃん、もしかして飽きてきた?」
「いや、飽きたっていうか…同じ事の繰り返しだなぁ、って…」
「あぁ、確かに。ひたすら見つけたニワトリに泥ぶつけてるばっかりで、自分は何やってるんだろう…ってなりますよね」
うんうん、と小さく頷き合うディールちゃんとビッキィ。無意味ではないとはいえ、めぼしい成果が上がらず、同じ事を繰り返すばかりというのは、実際やる気が削がれるもので…しかもこれを、後何度繰り返せばいいかも分からない。次で出会えるかもしれないけど、まだまだずっと先かもしれない。果たしてこのまま繰り返すだけでいいのか、とグレイブが頭の上で抱えたイキナリニワトリを使って大ジャンプする中、わたしはネプテューヌや茜、影と顔を見合わせ……
『って、何してんの!?』
……思わず、全員で突っ込んだ。これにはルナすら突っ込んでいた。突っ込まざるを、得なかった。
「え?すっごいジャンプ」
『そうじゃなくて…!』
「えぇ?…あっ、できると思ったこと…?」
二度目の突っ込みを受けたグレイブは、ぽかんとした表情を見せる。ぼ、ボケじゃないっていうの…?小さい頃から無茶苦茶なんだって事はたった今分かったけど…実はちょっと天然なの…!?
「や、止めようねグレイブくん。某緑の勇者みたいな事出来るのは凄いけど、逆にニワトリの集団に襲われちゃうかもしれないからね…?」
「いや待て、むしろ集まってくるなら、探す上では効率的かもしれない…」
「いやいやえー君、集まってくるとは限らないし…あ、でもこれって発見じゃない?」
「発見?あぁ、襲ったり急に近付いたりしなければ、捕まえられるって事?」
こくり、とエストちゃんの返しに茜は頷く。その後、試しにやってみると…わたしも捕まえる事が出来た。普通のイキナリニワトリっぽいから、結局泥ぶっかけて逃したけど…これが特殊個体でも同じなら、捕まえられる可能性はぐっと上がる。いいじゃない、この発見は大きな進歩だわ。……と、一度は思ったものの、そもそも見つからないっていう目の前の問題は依然としてある訳で…いい加減、全員が思い始める。あれ、これって終わるの…?…と。
「ちょっ…ちょっと休憩しましょ!」
「あれ?セイツさん、もう疲れちゃったんです?」
「違うわ、一回雰囲気変えようと思っただけ。…だからその、『ふっ、体力ないですね』みたいな顔は止めて頂戴…!」
良くない雰囲気を変えるのは勿論、何度も魔法や忍術を使ってる三人は大変だろうしそろそろ少しは休めるように…と思って言ったのに、当のビッキィが軽く煽ってくるなんて…!…と憤ったところで、それを説明してはいないんだから怒るのは勝手というもの。ともかく皆、わたしの提案に同意をしてくれて、一旦休憩タイムに入る。
「はー…風が気持ちいいねぇ。こういう時は、のーんびりごろーんとしたいよねー」
「分かるわ」
「分かる分かる」
「わかるー!」
茜のまったり発言にわたし、ネプテューヌ、ルナの三人が同意して、四人で仲良く草原をごろーん。肌に触れる風と草の感覚に、仄かに香る土と植物の匂い。それすら再現出来てる辺り、本当にこの空間は凄い。
「ルナさん、段々皆に馴染んできたね」
「みたいね。そろそろ魔法解除してもいいかしら」
「…って言いつつ、ルナさんが離れていっちゃったの少し残念に思ってたりしない?」
「まさか、わたしはそんな事思うタイプじゃないわ。…多分」
「あ、多分なんですね」
ちらりと横を見てみれば、魔法使い&忍者組が雑談中。三人の疲労回復も兼ねて休憩を提案した訳だけど…流石は魔法を主体にする女神と、人並みから外れに外れまくった身体能力を持つビッキィだからか、まだまだ全然余裕な様子。そして、逆方向に目を向けると…そこでは影とグレイブが生えてる木の近くに立っていた。
「ずつきをすると、木からポケモンがおちてくるらしいんだよな…。……よし」
「待て待て何をする気だ、っていうか絶対頭突きする気だな…!?止めとけ、それで怪我したら皆に迷惑掛ける事になるぞ」
「ちぇっ、はーい。…そういえば、甘いものをぬっておくとポケモンがあつまる木があるってはなしもきいたことがあるんだよなー。なんか甘いものない?」
「残念ながら塗れるようなものはない。あるのは保存の効くチョコチップクッキーと、チョコレートバーと……あ、この金のやつ、まだ交換してなかったな…」
「チョコばっかじゃん」
「ああ、チョコは中々栄養が豊富だからな。単純なカロリー、つまりエネルギー補給の面でも優れているんだよ」
「…って言ってるけど、実際にはただチョコが好きなだけなんだよねー。可愛いでしょ?えー君の可愛い一面でしょ?」
同じように聞いていたらしい茜が、にまにましながら教えてくれる。…むぅ、ここが現実なら、きっと茜は今煌めくような感情を見せてくれてたと思うのに…。心を感じられないのは、残念でならないわ…。
「ところで皆さん、休憩の後もまだ同じように探します?わたしはまだまだ、全然歩けますけど」
「そうするしかないだろうな。ただ捕まえるだけなら、餌と罠を用意する手もあるが、特定の個体じゃないと駄目ってなると、結局その個体が来るまでずっと待たなきゃならん」
「…今更だけど、セイツおねーさんなんでこんな面倒な依頼受けたのよ」
「それはその、不可抗力というか…そうするしかなかったというか……」
『……?』
装置の方がそういう設定で仮想空間を形成しているから…といっても、この仮想空間の住人である皆には伝わる訳がない。だからわたしは身体を起こし、せめて謝罪を……と思ったところで、またイキナリニワトリを発見する。
「あ、いた…って、泥だらけ?…という事は……」
「これまでに遭遇した個体ですね。…改めて見ると、なんかちょっと罪悪感が……」
「ふふ、確かにそうね。それじゃあ泥だらけにさせちゃった事を無駄にしない為にも、特別な個体を必ず見つけて…って、あれ?あっちにも、泥だらけのニワトリが……」
目を丸くしたネプテューヌの視線の先を見てみれば、確かにそこにも数羽のニワトリがいた。いたというか、こっちへ向かって走ってきていて…ある程度の距離まで来たかと思えば、その数羽はぴたっと止まる。
最初わたしは、ここがあのニワトリ達の縄張りで、戻ってきたけどわたし達がいたからどうしようかと立ち止まったんじゃないか、と思った。けれど、すぐにそうじゃない事を理解する。なんだろうと思っている内に、どんどんニワトリが集まってきた事で、何か違う意図があるのだと全員気付く。
「わっ、泥だらけじゃないイキナリニワトリまできた…これは、かんげーしてくれてる…って感じじゃないよねぇ……」
「はっ、もしかしてこれがフラグってやつか?」
「フラグ?あぁ、さっき自分がニワトリの集団に襲われるって言ったから…って、自分のせいなの!?」
「ネプ姉さん、なんて事を……」
「だから自分のせいなの!?うぅ、それなら自分が追っ払って……」
「…待て。何かおかしい」
責任を感じたっぽいネプテューヌが向かっていこうとするのを、影が制止。どういう事かと思って改めて見れば…確かに何か、動きがおかしい。一見立ち止まってこちらを見ているだけに見えるけど…なんというか、何かを待っているようにも見える。
なら、何を待っているのか。それは分からない。分からないけど、その間にもイキナリニワトリは増え続け…また増える。遠くから凄い速度で走ってきて…泥だらけになっていないその個体は、集団と合流すると突然甲高い声で鳴く。まるで、合図の様に。号令を掛けるかのように。
「……!…って、あれ…?」
一斉に飛び掛かってくるのか。そう思って身構えたものの、イキナリニワトリは襲ってこない。跳びはしたものの、わたし達へ向かってくる事はなく、むしろおしくらまんじゅうでもするかのように、イキナリニワトリ同士でぶつかっていく。その予想外の行動に、わたしも皆も思わず茫然としてしまう。
だけどそれも、最初だけ。初めは訳が分からないだけの行動だったけど、一つの大きな塊にでもなるように集まるニワトリ達が、次第に光を帯びていく事で、本当に一つの塊になっていく事で、茫然は驚愕へ変わる。そして……
『…うっそぉ……』
響き渡る、ニワトリの鳴き声。見上げるわたし達の、誰からともなく零した呟き。光に包まれ、一つとなったイキナリニワトリ。その光が収まった時、そこにいたのは…合体し、巨大な姿となったニワトリだった。
「が、合体して大きな固体になるって…え、もしかしてキングイキナリニワトリなの?馬車の扉とか閉めてくるの…?」
「いや無いですから馬車…。…それはともかく、あの目…明らかに敵意というか、戦う気に満ちてますね……」
「散々泥をぶっかけられた恨みを、群れで晴らそうってところか。だがこうも図体がデカければ、その分スピードは──」
喋りながら、ディールちゃんはルナを背中側に隠す。更にその斜め前へエストちゃんが出て、同様にネプテューヌとビッキィも近くにいたグレイブを守るような位置取りをする。そのルナはといえば、巨大化したニワトリにぽかーんとしていて…グレイブに至っては、「すげー…!」と目を輝かせていた。…一先ず二人が怯えて泣き出す事はなさそうね…。
と、安心したのも束の間、影の言葉が最後まで聞こえる前に、巨大化したイキナリニワトリはわたしに肉薄してくる。一瞬で近付き、勢いそのままに突進蹴りを仕掛けてくる。咄嗟にわたしは得物を引き抜き、二本を交差させる事で受けたけど、大きく吹っ飛ばされて地面を転がる。
「…スピードも、全然衰えてないみたいよ…」
「みたいだな…このスピードと戦う気満々の状態じゃ、迎撃しなきゃ追い払う事も叶わない。やるぞ、茜」
「りょーかい!」
「待って頂戴。最後に来た個体、あれが合体させる能力を持ってるなら、それこそが特殊な個体なんじゃない?倒しちゃっていいの?」
「だいじょーぶ!見たところ、本当に一つになってるんじゃなくて、力で一時的に一体化してるだけ…って感じだからね。だから、弱らせて強い衝撃を与えれば、多分バラバラになるよ!…ただ……」
『ただ?』
「弱らせるだけならともかく、強い衝撃は色んな方向から同時に与えないと、バラバラにならずそのまま攻撃を受けた部位の個体が…ってなりそーかも…」
回転の途中で身体を跳ね上げて跳び、着地と同時にわたしが立て直す中、普通に臨戦態勢を取りつつもエストちゃんが「いいの?」と確認してくる。そこで茜の能力が光って、倒し方に気を付ければ大丈夫だと分かった…けど、続く口振りからして、一人や二人の同時攻撃じゃ駄目らしい。そして、成功確率を出来る限り上げるなら…戦闘可能な全員で仕掛ける事が望ましい。
(けどその場合、ルナとグレイブの守りが薄くなる。タイミングと位置によっては、同時攻撃のチャンスを捨てるか、二人が無防備になるのを許容するかの二択になる。…厄介ね……)
後から思えば、これは大した問題じゃない。少なくとも、わたしには問題にならない。だってここは仮想空間で、皆もあくまで再現データなんだから。言ってしまえば、ゲームのNPCみたいなものなんだから。だけど精巧な作りの仮想空間だからこそ、わたしはその事を失念していたし…それはあくまで、わたしの視点。皆からすれば…きっとそうじゃない。
ならばどうするか。何人かで足止めし、残りの面子で一度二人を安全な場所まで避難させてから撃破に当たるか。上手く攻撃を工夫して、少ない人数でも多方向からの同時攻撃が出来ないか模索してみるか。或いはそもそも、二人は本当に戦えないのか。そんな風に色々と考える中、ちらりと視線を動かしてみれば、丁度そのタイミングでルナは懐から月光剣を取り出し、持ち上げようとして…地面に刺さる。
「う〜…おもくてもてないよー…!」
『いやそれ以前にどうして懐から!?どうやって懐に!?』
「……?」
にゅーっと出てきた月光剣に、わたし達全員が仰天。ひょっとすると、イキナリニワトリの巨大化を目の当たりにした時以上にびっくり仰天。けど当のルナは、何の事だかさっぱり分かっていなくて…る、ルナも天然……あ、うん。よく考えたら、ルナは元からちょっと天然なところあったわね。
「…もてない…これじゃ、なんにもできない……」
「あぁっ、しかも落ち込んじゃった…!え、えっとねルナさん、戦いは大丈夫だから。わたし達に任せてくれていいからね?」
「…わたし、やくたたず……?」
「いや、それはその…まあ、あれよ。ルナ、よく見て頂戴。あんなでっかくて、目つきが怖いのと戦いたい?」
「ふぇ…?……ひょえっ…!?」
ずーんと落ち込んだルナはエストの発言で巨大イキナリニワトリを見つめ…次の瞬間、怯えを見せる。おかげで無鉄砲に仕掛けようとしたり、落ち込んだままになったりする事は避けられたけど…これはこれで、やっぱり一人にする訳にはいかない。
それに、グレイブの事もある。さっきまでは目を輝かせていたグレイブだけど、今はやる気満々で戦おうとしている。武器も構えている。…けれど、持っているのは明らかにピコピコハンマー。ピコハンっぽいだけで実際はちゃんとしてる…と思いたかったけど、軽快な「ピコッ!」という音が聞こえてきた辺り、あれは本当にピコピコハンマー。
「あー…グレイブ?出来れば貴方も下がっていてくれないかしら?」
「けど、たくさんいた方がいいんだろ?おれもできる!」
「や、それはそうなんだけども…」
影と茜が巨大イキナリニワトリを牽制してくれる中、わたしは下がるように頼む…けど、やる気に満ちたグレイブは下がってくれそうにない。だけど、なら仕方ないから参加してもらって…って訳にもいかない。もしイリゼなら、説得出来るかもしれないけれども…わたしとイリゼじゃ、グレイブとの付き合いの長さが違う。じっくり話せる状況ならともかく、敵意バリバリな巨大なイキナリニワトリの前で納得してもらえるだけの話をするのは、かなり難しい。…けど……
「…ね、グレイブ君。君にはルナちゃんを任せたいんだけど…駄目かな?」
「まかせる?」
「ほら、ルナちゃんを一人にするのは危ないでしょ?だから、任せたいな…って」
「…けどおれ、たたかいたいし……」
「…グレイブ。守るのはね、ただ戦うより…倒すだけより難しいんだ。滅茶苦茶に戦うだけなら、力さえあれば誰にでも出来る。でも、ちゃんと守るのは…強いだけじゃなくて、優しい心もなくちゃ出来ないって、わたしは思う」
「…そうなのか?」
「多分だけど、ポケモンだって同じ事だと思うよ。だから、グレイブに任せたい。グレイブなら出来るって思うから。…出来るってとこ、見せてよグレイブ」
くるりと振り向いたネプテューヌが、任せたいと言う。そこへビッキィも続く。戦う事と守る事は同じじゃないと…守るのは誰でも出来る訳じゃなくて、だけどグレイブならきっとと、静かな…けれど確かな声で重なる。そして、二人の言葉を聞いたグレイブは、二人を見上げながら黙り…それから、にっと笑う。
「…そっかぁ…そーゆーことなら、やらないわけにはいかないよな!よっしゃネプテューヌ!ビッキィ!おれに、まかせろ!」
そう言って、グレイブが突き出す拳。それに二人は自分の拳を突き合わせ…グレイブは、ルナの方へ走っていく。
「…やるじゃん、ビッキィ。今の…格好良かったよ」
「そんな事ないですよ。けど…ねぷ姉さんにそう言ってもらえるなら、嬉しいです」
小さく笑みを浮かべ合う、ネプテューヌとビッキィ。それから二人は再び臨戦態勢を取る。わたし達は広がり…巨大イキナリニワトリと、対峙する。
「取り敢えず、まずは弱らせる必要があるのよね?」
「そーだよ。でも弱らせ過ぎないようにね?」
「ってなると、あんまり高威力過ぎる攻撃は出来ませんね。加減しなきゃいけないのは、ちょっと面倒だな…」
「その辺りは茜が見てくれるさ。茜の目に狂いはないからな」
「十分に弱った状態を教えてくれる…なんだか最近はもうない、某見極めスキルみたいね」
「いやエスちゃん、捕獲する訳じゃないし…けど、それならお願いします茜さん」
「よーし…それじゃあ皆、やるよ!」
各々前に会った時と姿は変わっているけど、その佇まいからはそれぞれの実力が感じられる。十分信頼出来る、そんな雰囲気を放っている。巨大イキナリニワトリの速度は凄いし、その勢いの乗った攻撃は重いけど…皆となら、勝てないなんて事はない。そんな思いを抱きながら、わたしは皆と共に、巨大なニワトリとの戦闘を開始するのだっ──
「あっ、ぴよこさんだー!」
「おー、ふわふわだな!」
……なんだか緩い、凄ーく緩い雰囲気が後方から感じられるけど…と、とにかくわたし達は戦いに入るのだった。
今回のパロディ解説
・二号機だからって、強奪してきた訳じゃ〜〜
ガンダムシリーズにおけるお約束の一つの事。もし強奪してたら、国際問題ですね。もう大変な事になっちゃいますね。そして二号機ネタは前にもやりましたね。
・「〜〜時よ逆巻け!〜〜」、「ファイト中に一度だけ使えるスキル〜〜」、「〜〜時よ歪め!〜〜」
カードファイト‼︎ヴァンガードにおけるディヴァインスキル及び、ヴァンガードシリーズの登場キャラの一人(二人)、明導ヒカリと明星エリカの台詞(口上)のパロディ。時間に関わる、丁度合うネタですよね。
・「〜〜だが、じょーねつはある!」
ドラマである、だが、情熱はあるのパロディ。勿論このコラボは、誰かの半生を追うストーリーではありません。もしそうなら、前後編二話では少な過ぎます。
・「…バルガ?」
デュエル・マスターズにおける、特定のクリーチャーを指す(共通する)名称の一つの事。連続ドラマではなく、連続ドラゴンですね。でも私はドラゴンよりエンジェル・コマンドを並べたいです。
・「〜〜某シリーズのキャラ〜〜」
ロックマンシリーズに登場するキャラの一人、ロールの事。エグゼシリーズにおけるロールは回復もしてくれるキャラ(チップ)ですし、ディールに合うパロネタ…かもしれません。
・「〜〜ロールケーキ〜〜」
山崎製パンが発売しているロールケーキの一つ、ロールちゃんの事。こういうのはパロディネタと言うのかどうか微妙ですが、一応載せておきます。
・「〜〜アル……」、「…シュベルドの狩猟中…?」
モンハンシリーズに登場するモンスターの一体、アルシュベルドの事。これが投稿された時点では、さっきまで実際に狩猟していた方もいると思います。私は…執筆に追われてまだ下位です。
・「〜〜某緑の勇者〜〜」
ゼルダシリーズの主人公の一人、リンクの事。要はトゥーンリンクがコッコを持ち上げて、段差からジャンプした時のあれっぽくなっているって話ですね。
・「〜〜金のやつ、まだ交換してなかったな…」
森永製菓のチョコボールにおける、金のエンゼルの事。口振りからして、影は当たったら玩具のカンヅメを交換するみたいですね。いや、書いたのは私なんですけども。
・「〜〜キングイキナリニワトリなの?馬車の扉とか締めてくる〜〜」
ドラクエシリーズにおけるモンスターの一体、キングスライム及び、キングスライムの行動の一つのパロディ。イキナリニワトリは、巨大化しただけです。王冠とかは被っていません。