超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

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第二十七話 甘き誘い

 天界の街への強襲作戦から、そこでの敗北から、一夜明けた。検査の後、その日はプラネタワーに泊まって、翌日である今日神生オデッセフィアへと戻ってきた。

 もう神生オデッセフィアに留まる理由のなくなったうずめ達と、神次元から来てくれたプルルート、ピーシェの二人は、プラネテューヌに残った。神生オデッセフィアに戻ったのはわたし一人で…自分の部屋に戻ったわたしは、ベットに座って吐息を漏らす。

 

「…疲れた、わね……」

 

 ちゃんと食事を摂ったし、寝たし、体力的には回復してる。怪我もしてはいるけど、わたし含め全員重傷は負っていなくて、もうちゃんと手当てはしてもらっている。だからこれは、身体的なものじゃなくて、精神的なもの。

 昨日の戦闘は、驚きも、状況の変化も、色々とあり過ぎた。ネプテューヌに疑いを持ち、皆に内緒で増援を呼んでいた…驚きにしろ状況の変化にしろ、その内の何割かは仕掛けた、起こした側であるわたしでも疲労を引き摺ってるんだから、皆はもっと、どっと疲れてるんじゃないかと思う。

 

(検査結果は待ちの状態、そもそもはっきりとした何かが分かるかどうかも分からない、か…。動き辛いわね…)

 

 違和感に関する検査、その現段階の報告がそれ。当たり前といえば当たり前だけど、未知の何かによる影響だったら、はっきりとした答えが出てこないまま…っていう事も十分にあり得る。

 それは仕方ないし、理解も出来る。ただ、何だかよく分からない、分からないけど多分良くないもの…なんていう懸念事項を抱えたままっていうのは、気持ち的に動き辛いもので……

 

「…けど、どこかで感じた事がある気もするのよね…どこか、どこかで……」

 

 腕を組んで、頭を捻る。落ち着いた状態でじっくり考えると、わたしはあの感覚を、以前にもどこかで感じた事があるような気がする。同じ経験をしたとかじゃなくて、もっと遠い…けれど確かにどこかで、何かで、わたしはそれを知った、感じた事がある気がする。

 何か手掛かりになるかもしれない、と暫く頭を捻り続けるわたし。けど結局、それ以上は何も出てこなくて…代わりにある事を思い出す。イリゼがいない今、わたしが代わりに果たすべき事をやりに行く。

 

「ライヌちゃん、るーちゃん、お留守番ご苦労様。ちゃんとご飯は食べてるかしら?」

「ぬー?ぬららっ、ぬら!」

「ちる〜る〜。ちるっち!」

 

 イリゼの部屋に入り、声を掛けるわたし。するとイリゼのベットの上で遊んでいたらしい、ライヌちゃんとるーちゃんがわたしの方にやってくる。それぞれ撫でて、様子からライヌちゃん達がいつも通り…少なくとも、ちゃんとご飯を食べてなくて痩せてしまっている、みたいな事は無さそうだという事を把握して安堵をする。

 未開領域に向かってからずっと、イリゼは戻ってきていない。けど幸か不幸か元々暫くは戻れない想定で準備をしていてくれたから、ライヌちゃんるーちゃん絡みは特に何も困らずにいる。それ以前からイリゼが戻ってこられない日っていうのはよくあった(特務監査官時代の仕事はあまり見た事ないけど)から、ライヌちゃん達もそういう状況には慣れていて、ご飯もちゃんと用意しておけば自分達で食べてくれて、実のところそんなに心配する事はない。勿論、わたしも教会にいられる時は、こうして遊んであげてはいる訳だけど。

 

(…けど…やっぱり寂しいのかしら…)

 

 頭を撫でた後は顎の下を軽く掻いてあげる。するとライヌちゃんもるーちゃんも心地良さそうにして、そんな様子にわたしも癒される。

 こうして遊べる相手がいる事もあって、ライヌちゃんもるーちゃんも本当に大丈夫なんだと思う。だけど、さっきライヌちゃん達はイリゼのベットの上で遊んでいた。それはもしかしたら、ベットはイリゼの匂いを感じられる場所だからなんじゃないか…って思いも、ある。実際のところはどうか分からないけど…イリゼとの付き合いの長さなら、るーちゃんはわたしと同じ位だし、ライヌちゃんに至ってはわたしより上。だから、寂しく思っていたとしても、何にもおかしな事はない。

 

「…駄目ね、イリゼってば。こうやって帰りを待ってくれてる存在が沢山いるのに、いつまでも帰ってこないなんて」

 

 更に撫でたり掻いたりしながら、ライヌちゃんとるーちゃんに向けて言う。当たり前だけど、どっちもわたしの言葉にはきょとんとしていて…でも、ちゃんと聞いてくれている。わたしの声を聞いて、何かを言っている、言ってくれている…そんな風に、認識している。

 そう。駄目なのよ、それは。そこにやむを得ない事情があっても、その場における最善の選択肢だったとしても、待っている相手がいるのに、帰ってこないのは。

 そして、取り戻せていないのも…帰ってこられるように出来ていないのも、駄目。だからわたしは、言葉を続ける。

 

「──ちゃんと、連れて帰るわ。だから、もう少しだけ待ってて頂戴」

 

 この言葉が、込めた思いが、どれだけ伝わったかは分からない。だけど…ライヌちゃんもるーちゃんも、わたしの言葉に元気良く鳴き、応えてくれた。

 

「ふふっ、偉い。…さてと。もう少し一緒に遊びましょ?」

 

 少し格好付けた事を言ったわたしだけど、今すぐ何かする訳じゃない。…と、いう事でまだ戯れる事にした。勿論、イリゼを取り戻す術があるならすぐ実行に移したいところだけど、今はそれがない状態だし、検査の結果待ちであまり下手な事をする訳にもいかない。だからそういう時は、もう仕方ないと割り切って、今出来る事、してあげられる事をした方が、却って良い結果に繋がるというもの。

 

「おー、よしよし。ライヌちゃんは今日もすべすべぷにぷにで、るーちゃんは今日も懐こいわね〜♪」

 

 これでもかと撫でまくる中、某青き月の魔女位しか言わないであろう、懐こい…なんて表現が自分の口から出てきた事に、我ながらちょっと苦笑い。どうもわたしは、思った以上に精神的に疲れていたのかもしれない。そして思った以上にライヌちゃん達に癒されているのかもしれない。

 そうして愛でる事十数分。再びライヌちゃんとるーちゃんはベットの上で遊び始め、わたしもイリゼのベットに腰を下ろす。

 

「ベットの感触が好きなのかしら…。それともやっぱり、イリゼの匂いを感じられるから…?」

 

 跳ねたり転がったりして遊ぶ姿を眺めつつ、わたしは何となくそんな事を考える。別にどっちでもいい事だし、どっちであろうとライヌちゃん達が楽しめていればそれで良い訳で…でも、何か気になる。…匂い、匂いね…もしするとしたら、それはライヌちゃんやるーちゃんにとって、どんな匂いなのかしら…。安心する匂いとか、落ち着く匂いとか、色々ありそうだけど…きっと、好きな匂いではあるんでしょうね…。そう、匂い…匂いがするとしたら……

 

 

 

 

 

 

……ぽふん。すりすり。…すんすん。すんすんすん。すんすんすんすん…。

 

(……──はッ!?ち、違っ…違うわよ!?えっと、その…とにかく違う、違うのっ!)

 

 我に返ったわたしは、愕然とする。愕然としながら、心の中で言い訳をする。い、いや…ほんとに違う、違うのよこれは!勘違いしないで頂戴!これ別に、イリゼだけじゃないから!イストワールのベットでも多分やってたと思うし、オリゼだとしても恐らくやってたから!イリゼだけが特別って訳じゃないんだからねっ!?

……うん、疲れてる…色々あって、イリゼも連れて帰れなくて、疲れてるのよわたしは…。なんか前にも女神化してる時、テンション的に昂っててイリゼの匂い嗅いじゃった事あった気がするけど、わたしが好きなのはあくまで感情、心の在りようであって、そういう系の女神ではないのよ、そういう系では…。

 

「……って、あれ…?」

 

 ふとそこで、鼻に感じる仄かな香り。普段生活する中では感じない、嗅ぐ事のない、この独特な香りは…この、匂いは……

 

「…ライヌちゃんとるーちゃんの、ご飯の香り…。君達、ここでご飯食べてるわね…?」

「ち、ちる…!?」

「…ぬ、ぬら〜……」

 

 顔を上げ、じとーっとライヌちゃんとるーちゃんを見れば、るーちゃんはびくっと反応し、ライヌちゃんは誤魔化すように横を向くのだった。…全くもう…ほんと、賢いんだから…。

 

 

 

 

 立ち直った、吹っ切れたと思っていたお姉ちゃんは、お姉ちゃんじゃなくてアルテューヌさんだった。それはつまり、お姉ちゃんはそうじゃないって事。少なくとも、そうじゃない可能性があるって事。それに気付いたのは、一日経ってからの事だった。

 当然、わたしは心配した。お姉ちゃんとアルテューヌさんが入れ替わった…というよりお姉ちゃんが乗っ取られた時から、状況的には今は変わっていないかより悪くなっているか…っていう状況なんだから、お姉ちゃんはもっと思い詰めちゃっているかもしれない。…そう、思っていたけど……。

 

「…これも…駄目だ。いーすんがやってくれてるから、全然情報にならない……」

 

 お姉ちゃんの執務室、そこにある机と設置された仕事用端末。朝からずっと、お姉ちゃんはそれに向かっていた。保存されている過去のデータを、片っ端から掘り起こしていた。

 

「…あの、お姉ちゃん」

「え?あ…ネプギア、いつの間に…?」

「ついさっきだけど…ノック、聞こえなかった…?」

 

 呼び掛けると、お姉ちゃんはきょとんとした後、聞こえてなかった…と頬を掻く。ノックに返事がなかったから、変だとは思ってたけど…まさか、作業に集中してて聞こえなかったなんて…。

 

「えと、ごめんね…?無視するつもりはなかったっていうか、ほんとわざとじゃ……」

「い、いや大丈夫だよ?わたしも集中しちゃうと周りの音が全然聞こえなくなったりするし…」

 

 物凄く申し訳なさそうにするお姉ちゃんに、わたしは手を横に振って気にしないでほしいと返す。それから、お姉ちゃんの様子を伺うようにしながら訊く。

 

「お姉ちゃん、ずっと調べ物…っていうか、探し物してるよね?何を探してるの…?」

「…うん。わたしが記憶喪失になる前にこなしてた、仕事のデータを…ね」

「それって……」

 

 最後まで言わずに見つめるわたしへ、お姉ちゃんは小さく頷く。今、このタイミングで前の…記憶喪失以前のお姉ちゃんがしていた仕事のデータ確認なんて、思い付く理由は一つしかない。

 

「けど、駄目だね。どれもいーすんの手が入ってたり、そもそもいーすんとか他の人がやってたりとかで、『わたし』としての部分は中々見えてこないっていうか……」

「…分かるものなの?データだから筆跡なんてないし、作成や編集を誰がしたか…ってところを見て判別してる訳じゃないよね…?」

「分かるんだ、自分だったらこういう表現をする、こういう順番にする…って感じにね。分かるっていうか、なーんとなくこれはそう、これは違う…って感じる程度だけどさ」

 

 そう言って、お姉ちゃんは肩を竦める。記憶喪失になっても慣れ親しんだ事は身体が覚えてる…って聞くし、覚えてないけどこういうやり方は自分のものだ…って感覚で理解するのも、考えてみればそう変な事でもないように思う。

 だから別に、それはいい。実際お姉ちゃんも、何となく判別がついてるみたいだから、いいんだけど……

 

「…その、お姉ちゃん。それは…アルテューヌさんに繋がるかもしれないって、手掛かりになるかもって、本当に思ってるの…?」

 

 危険な事じゃない。負担が大きい事でもない。だからやってほしくない訳じゃないけど…わたしは訊く。本当に、これに価値や可能性を感じてお姉ちゃんは探しているのかどうかを。

 再び見つめるわたしに対して、お姉ちゃんも視線を返してくる。数秒位、お互い黙ったままになって…次の瞬間、お姉ちゃんは笑う。自嘲気味な笑みを浮かべて、その表情と共に言う。

 

「…だよね、そう思うよね。わたしも、こんな事で…とは思ってる。だけど…こういう事でも、しなきゃだよ。今はアルテューヌに繋がる手掛かりが一つもないんだから、わたしは思い付く事を、片っ端からやらなくっちゃいけないよ」

 

 分かっていると、非効率で無駄になる可能性の方が大きい事は理解してると、その上でやるんだって、そんな言葉が返ってくる。

 いや、違う。やるんだ、じゃない。お姉ちゃんは、「やらなくちゃ」って言ったんだ。やるんだと、やらなくちゃは……全然、違う。

 

「…お姉ちゃん、休んでる?お姉ちゃんも、アルテューヌさんが受けたのと同じダメージがあるんだよね?」

 

 側まで行って、わたしは尋ねる。頬…それに服でどうなっているかは分からない肩を、順番に見る。

 頬と肩。それは、アルテューヌさんが諸にダメージを受けた場所。そしてアルテューヌさんはお姉ちゃんを乗っ取っていた状態だった…身体はお姉ちゃんのものだったんだから、ダメージがない筈がない。実際頬には手当てをしてある訳だし…女神だって、休むべき時はちゃんと休まなくちゃ、疲労も怪我も回復するのに時間が掛かる。だから…わたしは、今はお姉ちゃんに休んでほしい。

 

「大丈夫。肩の方は負担が掛からないように気を付けてるし、ほっぺは大食いしたりとかお喋りしまくったりとかしなければ、負荷なんて掛からないしね。…あ、でもだからって、喋りかけないでくれ…って意味じゃないよ?」

「そういう事じゃなくて…休まなくちゃ駄目だよ。いーすんさんも言ってたでしょ?これまでアルテューヌさんは表立った行動を避けていたけど、発言からして『身体を得る事』が目的の一つだった可能性が高い以上、それを果たした今は大きく動いてくる事も考えられる…って。そうなった時に備えて、回復は最優先にしなきゃ駄目だよ、お姉ちゃん」

 

 心配しないで、と言うように返してきたお姉ちゃんだけど、わたしはそういうつもりで言った訳じゃない。勿論お姉ちゃんの身体も心配だけど…気になるのは、身体だけじゃない。

 少し強めに、わたしは言う。大博覧会のプレオープン以降、わたしはお姉ちゃんの力に、支えになろうとしたけど、中々なれていなかった。わたしが力になれていたら、何か違ったかもしれないけど、何も出来ていなかった。だから…もう、遠慮はしない。遠慮して、踏み込まずにいて、それでお姉ちゃんに何も出来ないなんて…もう、嫌だから。

 

「…ごめんね、ネプギア。うん、ネプギアの言う通りだと思う。僅かでも可能性があるならそれに賭ける…って言うと格好良いけど、そんな本当にあるかも分からない可能性に賭けるよりまず、万全の状態を整えるべきだっていうネプギアの考えは…正しいって、わたしも思う」

「そう思ってくれるなら……」

「──だけど、そうはいかない。いかないんだよ」

 

 前置きのような、お姉ちゃんの言い方。多分、そこに続く言葉がある。わたしの言葉で考え直してくれた…っていうのとは、違う何かがそこにある。そんな風に感じながらも、わたしは言葉を返そうとする。するけど…お姉ちゃんに、遮られる。そうはいかないっていう、お姉ちゃんの言葉に。

 

「わたしはずっと、迷惑掛けっ放しだから。ずっとずっと間違えて、失敗して、迷惑掛けて、挽回しようとしてもっと悪い状況にして……そんなわたしが、休んでいられると思う?いーすんが話してた通り、過去のわたし…アルテューヌは、いつ動き出してもおかしくないのに。イリゼだって…早くしなきゃ、手遅れになっちゃうかもしれないのに」

「でも、それは……」

「…なんて、そう言ったらそれっぽいけどさ。本当は…何もしないでなんて、いられないんだよ。何もしないでいると、イリゼや皆への罪悪感と、自分への怒りで押し潰されちゃいそうで…。…ほんとに、ごめんね…どうやったって迷惑掛けちゃうお姉ちゃんで……」

 

 暗い決意。後ろ向きな意思。そう感じさせる表情で、お姉ちゃんは言う。自分は休んでいられない、迷惑掛けてばかりの自分は何が何でもやるしかない、わたしに向かってそう語り……もう一度わたしを遮る形で、今度は小さく肩を竦めた。

 そこからの言葉が、きっとお姉ちゃんの本心。偽りのない、曝け出した気持ち。最後にお姉ちゃんは、わたしに謝って…悲しそうに、笑う。…そういう顔をしてほしくなくて、そういう思いさせたくなくて、わたしは力になりたいのに…また、わたしはなれていない。また、わたしの願いは届かない。

 

「……っ…どうしても、なの…?」

 

 お姉ちゃんは、頷く。どうしてもなんだって、酷く申し訳なさそうに。多分、ちゃんとわたしの言いたい事も、思っている事も分かった上で…それでも。…だったら…それなら、わたしは……。

 

「…お姉ちゃん、わたしにもやらせて」

「え…?いや、でも…それは……」

「駄目、とは言わないよね?」

 

 じっ、とお姉ちゃんを見つめる。お姉ちゃんは言葉に詰まって、そのお姉ちゃんの隙を突く形で、更にわたしは言う。

 

「それと、そうやって調べるのは普段の仕事時間の間だけにする事、それを約束して。もし約束してくれないなら……」

「してくれないなら…?」

「えっと…お姉ちゃんが寝てる間に、お姉ちゃんの部屋にある物を全部ナスグッズにします」

「ひ……ッ!?ね、ネプギアそれは冗談だとしてもタチが悪過ぎるし、そもそも今は冗談を言う流れじゃ……」

「…………」

「目が本気…!?…わ、分かりました……」

 

 勢いで言った、我ながら色々ズレてる気がする脅迫。けどその勢いが功を奏して、ぎょっとしたお姉ちゃんは若干怯えながらも頷いてくれる。というか勢い余って、敬語まで使われる。…それはちょっと、望んだのとは違う方向になっちゃったけど…まあ、いいよね、うん。…というか、我ながらナスグッズってなんだろう…わたし部屋中をナスグッズにする自信なんて微塵もないけど、これ本当に脅しとして成立してるのかな…。

 

(…これだって、良い方法じゃない事は分かってる。だけど、今は…だからこそ、わたしは……)

 

 手伝わせてもらう事と、制限を掛ける事は出来た。でも、ほんとはちゃんと休んでほしいし…気持ち的に難しくても、もっと肩の力を抜いてほしい。そうしてほしいけど、今のお姉ちゃんにはそうする余裕もないんだっていう事も…もう、十分伝わってる。

 だから今は、ちょっとでもお姉ちゃんの抱え込もうとしている事を減らしたい。そして…もしかしたら、これがわたしの限界なのかもしれない。妹の、わたしの限界がここまでなのかもしれない。そんな事ない、って思いたいけど……やっぱりわたしにとってお姉ちゃんはお姉ちゃんで、お姉ちゃんにとってわたしは妹だから。お姉ちゃんがどれだけ自分を情けなく思っても、お姉ちゃんに対するわたしの中の憧れが消えたりはしないように、どうしてもお姉ちゃんは、わたしの事を『妹』として見てしまうんだとしたら……

 

「…わたしも少し、肩の力を抜かなきゃ…かな」

「……?ネプギア…?」

「気にしないで、独り言だから」

 

 ふるふると首を横に振って、何をどこまで見てきたかお姉ちゃんに聞く。その後は一回自分の執務室に戻って、端末を持ってきて、お姉ちゃんの執務室でわたしも一緒に探し始める。

 わたしの限界がこれなのかもしれない。それを認める事は…思っていたより、辛くなかった。むしろこれまでの、力になろう、支えようと思って、でもそれが出来ていなかった時より、気持ちが楽というか、すとんと腑に落ちた感じがした。

 でも勿論、諦めた訳じゃない。ただ、わたしの限界がこれなら、妹の限界がこれなら…妹だからこそ出来る事で、妹の最高値を目指せばいい。具体的にどうすれば良いかまではまだ見えてないけど……今は、そう思う。

 

 

 

 

 実質的な失敗でプラネテューヌに戻った翌日、お姉ちゃんの探し物の手伝いをすると決めてから数日。今日もわたしは、お姉ちゃんと一緒にデータを洗い出して…けど、有益な情報は見つけられなかった。…正直、予想は出来ていたけど…アルテューヌさんの仕事だと思えるものを見つけられたとしても、そこに手掛かりになりそうな要素はなかった。

 

(やっぱり、体調的には問題ないかな)

 

 ギルドから出て、プラネタワーに向けて歩く。今日はお姉ちゃんの手伝いに加えて、モンスターの討伐にも出た。女神化をして、戦闘をして…普段通りに戦えるかどうかの、確認をした。

 結局、天界…というかあの教会での違和感の正体は、分からず終い。検査の結果、感じないだけでまだその違和感を生じさせていた、入り込むような感覚のあった『何か』はわたし達の中に残ってる事、でも少しずつ、押し出されるようにして消えている事、今のところは何も問題なさそうな事は分かったから、検査結果を実際に確認する為に、今日はクエストに出て…確かに、普段通りに戦う事が出来た。それはそれで、謎が謎のままだから、少しもやっとする部分もあるけど…一先ずは、安心しても良いんだと思う。

 

「さてと、今日はパーティーの皆さんも来てるし寄り道せずに帰らないと…」

 

 ちょっとだけ早足で、街中を進む。皆さんが来てるって言ってもこれから特別な作戦を始める…とかじゃなくて、単に昨日から少しの間、皆さんで揃って遊びに来てくれてるってだけ。そもそも皆で来てくれてる事自体、わたし達に気を遣ってるって事なのかもしれないけど…だからって遠慮するのは、そっちの方が皆さんに悪いし、一人二人じゃなくて皆が集まれる事なんて今はあんまりないから…正直、嬉しかったりもする。

 だからわたしは、早足で帰る。普段はよくお邪魔するジャンク屋にも今日は寄らないで、真っ直ぐプラネタワーに向かっていって……

 

「よう。そっちの準備はどうよ?」

「うちはまずまずね。取り敢えずプレオープンでの反省を反映させてはいるけど、これで上手くいくかどうか……」

「それは本番にならないと分からないな。ま、こっちはそもそも本番に間に合うかどうかも分からないんだけどさ」

「ならこんなところまで油売ってる場合じゃないでしょーが。さっさと仕事に戻りなさいっての」

 

 そんな中で聞こえたのは、街の中での何気ないやり取り。それが、わたしに思い出させる。戦いがあっても、裏で陰謀が進んでいても、国の時間は流れていく、って。守る為に戦う事だけが、女神の務めなんかじゃないんだって。

 プレオープンでの結果や評価から更に良いものを作り上げてほしい、という事で、大博覧会のプレオープンと本番との間には元から結構期間を開けてある。だからまだ時間があるし、今のところは延期や中止の話は出てきてない。…けど、今はそうでも、絶対そういう事にならないって訳でもない。

 

(…皆さんも、頑張ってる。頑張って…楽しみに、してるんだ)

 

 アルテューヌさんとの戦い、イリゼさんを助け出す事は、絶対にやらなくちゃいけない。だけどわたしは、だからって大博覧会を…国民の皆さんの事を二の次にはしたくない。したくないし、しちゃいけない。戦いも、国民の皆さんの期待に応える事も、両方やらなくちゃいけないのが、女神の辛いところだけど…守る事も期待に応える事も出来るのは、女神の素敵なところでもあるって、わたしは思う。

 ぎゅっと、胸の前で片手を握る。大変だけど…大丈夫。やる気はある。わたしは、頑張る。

 

「…そうだ、その方面で調べてみるのはどうかな…?うん、そうだよ…プラネテューヌは昔から技術力を自慢にしてる国なんだから、闇雲に探すよりも、その面でアルテューヌさんが力を入れていた事がないか探してみれば……」

 

 それからふっと、わたしは思い付く。その方向でだって手掛かりが見つかるかどうかは微妙だけど、ただ虱潰しに探すよりはきっと効率が良い。

 そうと決まれば、早速…と一瞬考えて、わたしは苦笑。お姉ちゃんには身体の事を考えて一日中探したりしないよう言っておきながら、自分はそれから外れようとするなんて、流石にそれは勝手が過ぎる……

 

「ネプギア」

「……?お姉ちゃ…、──っ!?」

 

 声を掛けられ、聞き慣れたその声に何気なく振り向くわたし。聞こえたのはお姉ちゃんの声で、お姉ちゃんも出掛けてたのかな?と思いながらわたしは振り向いて……気付く。お姉ちゃんが、女神化している事に。そして女神化しているお姉ちゃんの纏うプロセッサは…いつものものとは、違う事に。

 

(アルテューヌ、さん…!?)

 

 一瞬で、理解する。その人は、お姉ちゃんであってお姉ちゃんじゃない、過去のお姉ちゃんであるアルテューヌさんだって。

 驚くわたしの目の前で、アルテューヌさんは小さく笑っている。まるで、本当にただ街中で家族や友達を見かけて呼び掛けただけみたいに、穏やかな雰囲気を纏っている。

 

「今はお散歩の途中だったの?それとも買い物?クエスト?」

「…どうして、ここに…?」

「どうしても何も、ここはわたしの国よ?」

 

 柔らかな声音で訊いてくるアルテューヌさんだけど、だからって気は抜けない。わたしは警戒しながら、浮かんだ疑問をそのままの形で口にする。

 この時は気付かなかったけど、わたしは相手からの問いには答えず、自分は質問をするっていう、一方的な事をしていた。けれどアルテューヌさんは顔色一つ変える事なく、わたしの問いに答えてくれた。

 

「…………」

「そう身構えないで頂戴。と、いうより…まさかここで、一戦交えるつもり?貴女がそのつもりなら、わたしも応戦せざるを得ないけど…ネプギアには、そんな事はしてほしくないわね」

 

 当然警戒を続けるわたしに対し、アルテューヌさんは肩を竦める。それからほんの少し視線を鋭くして、わたしを牽制する。ここで戦えば、国民が、街が巻き込まれると。

 それをわたしは、わたしの行動を縛る為のものだと思った。…でも、それだけじゃなかった。アルテューヌさんの存在に気付いた道端の人が、こっちを見ていて…その人に向けて、アルテューヌさんは小さく手を振る。わたしが知ってるお姉ちゃんと、同じような表情と共に。

 

(…そ、っか…ここはわたしの国…その言葉の通りなんだ……)

 

 分かる。その表情を見れば、さっきの言葉が皮肉でも煽りでもない、本心からの言葉なんだって。そういう表情を、アルテューヌさんはしていて…それと共に、気付く。アルテューヌさんにとって、ここは自分の国だけど…国民の皆さんにとっても、アルテューヌさんは自分の国の女神だって。少なくとも『お姉ちゃんじゃないお姉ちゃん』の存在を知らない限り、お姉ちゃんとアルテューヌさんを区別するなんて不可能だって。つまり…アルテューヌさんは今みたいに、いつでも気軽に街へ来る事が出来るんだ、って。

 同じ外見だから、事情を知らない人には区別が付かない。それは前に会議をした時にも出てきた事で、その時はあんまり実感がなかったけど、こうして実際に直面すると、アルテューヌさんに気付いた人は何も疑問に思う事なくそのまま歩いて行ってしまった事を考えると…ぞっとする。

 

「…何が、目的なんですか……」

「そうね…取り敢えず、場所を移さない?段々気付く人も増えてるし、場所を変える方がネプギアにとっても何かと都合がいいでしょ?」

 

 移動を提案するアルテューヌさんの目を、わたしは見つめる。確かにそれはその通り。わたしも場所を移せるなら、その方がいい。自分の国だから、騒ぎは起こしたくない…って事なら、アルテューヌさん側にとっても移動は意味のある行為なんだと理解出来る。ただ、本当にそうなのか、それだけなのかは分からなくて、それをほんの少しでも知ろうと見つめて……一つだけ、分かった。アルテューヌさんの瞳に、表情に…微塵もわたしへの敵意がないって事だけは。

 考えた末、わたしは頷く。わたしも女神化をして、先に飛び立ったアルテューヌさんの後を追う。アルテューヌさんは街中を離れていって…それ程高くない、登山コースが整備された山まで来たところで高度を落としていく。

 

「うん、この辺りなら良さそうね。…前にここに来たのは、いつだったかしら……」

 

 着地して、近くのベンチのところまで歩いて、アルテューヌさんはわたしの方を振り向く。わたしも同じように降りて…促される形で、ベンチに座る。

 

「さて、と。それじゃあさっきの質問の答えだけど…ネプギアは、カスタード、クリーム、焼き、牛乳の中だったらどれが食べたい?」

「へ?…もしかして、プリンの話…?」

 

 女神化したままわたしが視線を向ければ、アルテューヌさんもベンチに座って、わたしの問いに答えてくれる…かと思いきや、おもむろに変な質問をしてくる。一瞬困惑して、その後プリンの事かと訊き返すと、アルテューヌさんは勿論、と頷く。そして数秒後、わたしが焼きだと答えると…アルテューヌさんは、焼きプリンを渡してきた。

 

「焼きプリンは焼いてある場所の食感がちょっと違うのが面白いわよね。さ、食べましょ」

 

 そう言って、アルテューヌさんはカスタードプリンも取り出す。ここで一緒にプリンを食べようと、誘ってくる。

 

「なんで、プリンなんか……」

「だって美味しいじゃない、プリン。前に一緒に食べた時は、わたしの事を悟られないよう誤魔化してたけど、あの時からわたし、プリンに嵌っちゃったのよね」

 

 自然な調子で話すアルテューヌさんからは、やっぱり敵意を感じない。理由は分からないけど、これはわたしを油断させる為の策とかじゃなくて、本当に…少なくとも今は、敵対するつもりなんてないのかもしれない。かもしれないだけで、本当のところは分からないけど、一先ずわたしはそう感じていて…だからまずは、言う。

 

「…そういう事なら、スプーンも渡してほしいっていうか……」

「あっ……」

 

 わたしからの返しを受けたアルテューヌさんは、はっとした顔をした後使い捨てのスプーンを渡してくれる。…特に理由はなく、ただただうっかりしていただけらしい。

 

「…こほん。それじゃあ改めて、頂きます」

「…頂きます」

 

 早速一口食べるアルテューヌさんに続いて、わたしも食べる。味は普通の、美味しい焼きプリン。外装部分はどこも市販されてる状態のままだから、多分何かを混入させてるって事はないと思うけど…念の為、アルテューヌさんにも一口どうかと進めてみる。するとアルテューヌさんは躊躇う事なくわたしの差し出したプリンを食べて、こっちも美味しい、と笑みを浮かべる。

 

「ありがと、ネプギア。こっちのプリンも食べてみる?」

「…そうします」

 

 お返しとして差し出してくれたカスタードプリンも、ぱくりと口にする。こっちもやっぱり美味しくて、思わず気持ちが緩んでしまいそうになる。

 でも、それはいけない。わざわざこうして姿を現した以上、アルテューヌさんには何かしらの目的がある筈。じゃなきゃ、街中じゃわたしも積極的には戦えないとはいえ、単身で乗り込んでくる訳がない。こうしてわたしが躊躇いなく戦える場所に、自分から誘う理由がない。

 

「…一体、何を狙っているんですか?」

「あら、それはさっき答えたでしょ?あぁいや、そのまま答えてはいなかったわね。けど、流石にさっきので分からないというのは……」

「貴女の、本当の目的です…!」

 

 はぐらかすようなアルテューヌさんの言葉に、強く返す。わたしにアルテューヌさんと探り合いをする気なんてない。訊けば何でも答えてもらえると思ってる訳じゃないけど…向こうは準備をした上で呼び掛けてきて、わたしはいきなり呼び掛けられた時点で、アドバンテージがあるのはアルテューヌさんの方なんだから、駆け引きをしたって上手くいくとも思えない。

 そんなわたしの考えを知ってか知らずか、アルテューヌさんは更に一口食べた後に頭を掻く。それから軽く肩を竦める。

 

「そんなに、大した事じゃないわ。大切なものを取られたら、取り返そうとする…現状を飲み込む事も受け入れる事も出来ないなら、変えようとする…それは女神だろうと人間だろうと、当たり前に思う事でしょう?」

「それは…お姉ちゃんから、立場を…『パープルハート』としての名前を取り戻そうとしてる、って事ですか…?」

「間違ってはいないけど、足りないわね。けどまあ、今の言葉でそう捉えるのは自然な事よね。取り敢えずそう思ってくれて構わないわ」

 

 取り敢えずそれでいい。そう締め括って、アルテューヌさんは食べる事に戻る。自分から更に言うつもりはないみたいで、どんどんプリンを食べていく。

 取られたものは取り返したい。認められなくて、割り切る事も出来ないなら、自分から働きかける。確かにそれは、普通の事。出来るかどうかは別として、誰だって思う事。…だけど、それなら…それが目的だって言うなら……

 

「…なら、わたしは貴女を認められません。アルテューヌさんが、お姉ちゃんを苦しめようとするなら…わたしはそれを、許しません」

「じゃあ、わたしは貴女の敵?…そうなのね、ネプギア」

「……そういう事に、なります…」

 

 わたしとアルテューヌさんは、敵。それは当然の事で、今更の事。だから今だって警戒してるし、そもそもこれまでだってアルテューヌさんはお姉ちゃんを苦しめてきた。だから、わざわざ確認するまでもない。言うまでも、訊くまでもない。…その筈、なのに…なのにわたしは、即座にそうだと返す事が出来なかった。自分でも分かる位に、躊躇ってしまった。あの時と、同じように。アルテューヌさんを斬ろうとして、動きが鈍ってしまった時の様に。

 

(…駄目だ、駄目だよこれじゃ。これじゃまた、戦う時に武器を振る手が鈍る…そんな事になったら、そのせいで皆が危ない目に遭うかもしれないんだから…)

 

 あの時は、攻撃が鈍って躱す余裕が出来た事が、結果的にはお姉ちゃんに重傷を負わせない事に繋がった。だけどそれは、それが分かってて速度を緩めた訳じゃなくて、無意識にそうしちゃっただけなんだから、あれはミスとして受け入れなきゃいけない。そしてああいう事は、もうあっちゃいけない。

 わたしが自分に言い聞かせるようにする中、アルテューヌさんはカスタードプリンを食べ終え…クリームプリンに手を出す。そっちも一口食べて…それからわたしを、見る。

 

「…わたしは、そうは思わないわ。ネプギア…わたしは、貴女を敵だと思っていない」

「……っ…」

「ねぇ、ネプギア。わたしと一緒に来ない?わたしは貴女なら、信用出来ると思っているわ」

 

 予想外の、アルテューヌさんからの誘い。思ってもみなかった…仲間になってほしいという言葉。敵とは思っていないって返しも、そこからの誘いも、わたしの心を揺さ振るには十分な力があって…次の瞬間、怒りが湧き出す。

 

「何を…何を勝手な事を!あれだけお姉ちゃんを苦しめておいて、イリゼさんを傷付けておいて、それで一緒に来ないか訊かれてわたしが頷くと思っていたんですかッ!?」

「…立ち上がっても、プリンとスプーンは落とさずちゃんと持ってるのね。あんまり締まらない見た目だけど、そういう真面目さは良いと思うわよ」

「茶化さないで下さい!」

 

 馬鹿にしている。し過ぎている。お姉ちゃんの事も、イリゼさんの事も、わたしの事も。わたしだけならまだ良い。でも、お姉ちゃんやイリゼさんまで、お姉ちゃん達にした事まで軽く思われるのは許せなくて、気付けばわたしは声を荒げていた。

 座ったままの、アルテューヌさんを睨む。対するアルテューヌさんは調子を崩さず、またプリンを口に運ぶ。

 

「…一緒に来てくれるのなら、わたしの本当の目的を話してもいいのよ?それは、貴女にとっても利があるつもりだけど…それでも、来る気はない?」

「たとえアルテューヌさんの目的を知る事が出来るとしても、その目的にわたしにとっての利があるとしても、わたしは今の貴女と一緒に行く事なんて出来ません」

「そう。それは残念ね。ネプギアが仲間になってくれれば、心強かったけど…今日の目的の一つは達成出来たし、今回は諦めるとするわ」

「今日の、目的の一つ…?」

「だから、言ってるでしょ?…別に、何かの隠れ蓑としてプリンを食べてる訳じゃないのよ」

 

 まさか、本当にただプリンを一緒に食べたかっただけ?…だとしたら、あまりにも信じ難い。信じ難いけど…本当に今もここまでも、アルテューヌさんの言葉からはまるで嘘を感じない。そもそも敵対している相手との会話じゃないような、そんな柔らかさをずっとわたしは感じている。…だからこそ、余計に訳が分からない。

 そして、それを示すようにお姉ちゃんはやっぱりプリンを食べる。美味しそうに、今の時間を満喫しているように、プリンを食べて、頬を緩めて……

 

…………。

 

……………。

 

………………。

 

「……って、え…?何か、話は終わった感ありますけど…まだ、食べるんですか…?」

「当たり前じゃない、まだ残ってるんだもの。…ふぅ、クリームプリンも美味しかった。後は牛乳プリン……」

「全部食べるんですか!?そういえばクリームプリンもさらっと食べ始めてましたけど、わたしが選ばなかった三つ全部をここで食べる気で!?」

「プリンがあったら食べたくなる、それは貴女の知ってるネプテューヌも同じだと思うわよ?それに、この景色が良くて風も気持ち良い場所で食べるプリンっていうのも乙だし…誰かと一緒に食べるプリンも、凄く美味しいし、楽しいんだもの」

 

 あっけらかんと言い切るアルテューヌさんに、わたしは呆然とする。緊張感がなさ過ぎて、予想の斜め上過ぎて、いっそ気が抜けてしまう。本当に、さっきのスプーン渡し忘れ共々ちょっと抜けてる感じが『お姉ちゃん』そのもので……なんだかもう、なんて声を返せばいいのか分からなくなる。

 ぽかんとするわたしの前で、本当にアルテューヌさんは牛乳プリンも食べ始め…それも完食してしまう。

 

「ご馳走様。流石に三つも続けて食べると…満足度も三倍ね。通常の三倍だわ」

 

 手を合わせた後、カップを重ねて片付けるアルテューヌさん。言葉通り、満足気な表情を浮かべて…アルテューヌさんは、立つ。

 

「さて、と。それじゃ、プリンは食べちゃったし、ネプギアには断られちゃったから、今日はここまでにしておくわ」

「……っ!わたしが、黙って見送ると思っているんですか…?」

「流石にそこまでは思っていないわ。…ネプギアこそ、わたしが本当にただ、貴女とお喋りしながらプリンを食べてただけだと思う?」

 

 すっ…と一瞬だけ目付きを鋭くした次の瞬間、周囲から気配を感じる。次に草や枝を揺らす音が聞こえて…天界の教会で戦ったのと、同じようなモンスターが現れる。

 

「ネプギアに気取られないように準備するのは大変だったわ。数も碌に用意出来ていないけど…まあ、時間稼ぎ位にはなるかしら」

「くッ…(油断した…もっと色んな可能性を考慮するべきだった…!)」

「安心して頂戴、ネプギアなら楽々殲滅出来る筈だもの。ただでも、出来れば瞬殺はしないでほしいわね。そうしたら、戦う事なく逃げる事が出来ないから」

 

 じりじりと囲うようにしてモンスターが近付いてくる中、アルテューヌさんは軽く地面を蹴って飛び立つ。確かに視認出来ているモンスターの数はそこまでじゃない。普通に戦えば、まず負ける事はないけど…アルテューヌさんが一気に逃げてしまえば、それにはどうしたって間に合わない。

 

「今日は楽しかったわ。出来ればもう少し話したかったところだけどね」

「アルテューヌさん…ッ!貴女は、貴女は……ッ!」

「貴女は怒っていたし、その怒りも理解は出来るけど…ネプギアを誘ったのは、本心からよ」

 

 上昇していく間、アルテューヌさんはずっとわたしを見ていた。下手に背中を見せたりはしないって事なのか、別の意図があるのかは分からないけど、十分な高度になるまでアルテューヌさんはわたしから目を離さず…言い切ると共に、反転して飛び去っていった。その直後にモンスターの群れはわたしへと襲い掛かってきて、わたしは対応を余儀なくされた。

 思えば、わたしも迂闊だった。隙を見てインカムを付け、誰かに状況を伝えるべきだったし、話になんて付き合わず、街を離れた時点ですぐに仕掛ける選択肢もあった。アルテューヌさんの目論見が見えない中で、下手な事をする訳にはいかないっていうのもあったけど…もう少し、何が出来た可能性は十分にあった。

 だけど、今更そんな事を思ってもどうにもならない。今はとにかく、モンスターを迎撃するしかなくて…余裕が出来た時点でわたしは一度大きく飛び上がり、アルテューヌさんの姿を探したけど…やっぱりその時にはもう、アルテューヌさんの姿はなかった。わたしは完全に、アルテューヌさんを見失っていて……そのアルテューヌさんがただ逃げた訳じゃない事を、もう一つの目的を持って行動していた事を知ったのは、それから暫く後の事だった。




今回のパロディ解説

・某青き月の魔女
Unnamed Memoryのヒロイン、ティナーシャの事。チルット状態なので厳密には違いますが、戯れている相手がドラゴン(タイプ)というのも、パロディとして意識しています。

・「〜〜じゃあ、わたしは貴女の敵?…そうなのね、ネプギア」
ガンダムSEEDシリーズの主人公の一人、キラ・ヤマトの台詞の一つのパロディ。この台詞があると、前半最大のバトルが後に起こりそうな感じになりますね。

・「〜〜通常の三倍〜〜」
ガンダムシリーズにおける、お約束要素の一つのパロディ。ただでも、シリーズ全体としてみると、該当例がそんな大量にある訳ではないんですよね。基本はシャアとシャア絡みの要素です。
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