超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

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第三十話 過ちの中でも

 打つ手なしだった。元々俺は時間稼ぎが目的で、完全に動けなくなった時点で、俺の戦いは敗北で終了していた。後はくろめの行動に…くろめに何とかしてもらう他なかった。どうにもならないなら、逃げてもらうしかなかった。

 そのくろめもまた、アルテューヌに立ち向かい、負けた。俺が持ち堪えている間に何も思い付く事が出来なかったのか、アルテューヌに言った理由だけじゃなく、何か狙いがあって戦ったのかは分からなかったが、くろめも負け、追い詰められた。本当に…本当に終わりかと、思ってしまった。

 だからこそ、彼の存在は衝撃だった。アルテューヌと同じか、或いはアルテューヌ以上に、俺にとっても驚きだった。…くろめの窮地に割って入った、彼の存在は。

 

「…貴方は、何者?」

 

 飛来した巨大手裏剣を拾い上げる忍者。躱して着地したアルテューヌは、構え直すと共に忍者へ問う。

 

「拙者はステマックス。縁あって、くろめ殿を助太刀させてもらうで御座る」

「そう…なら、押し通らせてもらうわッ!」

 

 相対する形で、忍者…ステマックスも、刀を構える。その名前を聞いて、俺は思い出す。確かそれは、前にくろめが協力関係を結んでいた組織(って言っても構成員二人だけらしいが)、アフィ魔Xの一員だった筈だと。

 確かに彼とくろめには、縁がある。だからって助けてくれるのか…ってのは別だが、そもそも信次元じゃお尋ね者のアフィ魔X構成員がなんでここにいるんだって話でもあるが、事実として今、ステマックスはくろめを庇う形で立っていて、助太刀すると明言していて…次の瞬間、アルテューヌの言葉を合図とするように、両者はほぼ同時に地面を蹴る。

 

「ふッ!」

「せいッ!」

 

 突進と共に振るわれた大太刀と刀が激突。一瞬せめぎ合い、離れたと思った直後には互いに素早い連撃を放つ。女神と高速の斬り合いで渡り合うステマックスも、両手持ちの大太刀で片手持ちの刀に劣らない速度を出しているアルテューヌも、どちらも俺からすれば凄まじくて…幾度もの激突の末、ステマックスは腕部に装着するようにしていた巨大手裏剣を、投げずにそのまま振るう。バックステップでアルテューヌは避け、続けざまにステマックスは刺突をし、アルテューヌは刀諸共ステマックスの腕部を蹴り上げる。

 それを受けたステマックスは、跳躍。恐らく自ら跳ぶ事で蹴り上げられた衝撃を緩和し、背面宙返りしながら手裏剣を投擲。追って飛び上がるアルテューヌは、捻るような飛行で手裏剣を躱し、そのまま大太刀を振り上げる。急降下するステマックスの振り出した刀と大太刀とは再びぶつかり合い…互いが互いを、宙で弾く。

 

「く……!」

 

 翼を広げ、ブレーキを掛ける事で落ちる事なく立て直すアルテューヌに対し、落下したステマックスは両脚で地面に線を描きながら着地する。表情が動かない…というか、ロボットらしいからそもそも表情がないステマックスだが、少なくとも雰囲気からして余裕綽々…という感じはない。

 

「…やはり、手強いで御座るな」

「そちらこそ、かなりのスピードね。貴方について色々訊きたいところだけど…ウィードくんにも思った以上に粘られちゃったし、今は疑問の解消より目的を優先させてもらうわ」

 

 纏う雰囲気に、一切の隙を見せないアルテューヌ。今度は突撃する事なくステマックスが身構える中、アルテューヌは宙から仕掛ける素振りを見せ……次の瞬間、空から新たな声が響く。

 

「時は金なり、という事か。ぐわっはっはっはっ、よく分かっておるではないか!」

 

 直後、声に続いてすぐ側で衝撃も響き、身体が揺れる。なんだなんだ、何事だと衝撃が来た方を向けば…そこには豪華な全身甲冑を纏った、纏ったような巨大な人影が物凄く堂々と立っていた。

 

「新手…!?」

「確かにステマックスのみでは、些か難しい戦況じゃろう。だが、残念ながらこの場にはワシもおる。ついでに言えば…我が空中艦も、な」

 

 その言葉と共に、宙に現れるのは巨大な鉄塊。まるで姿を隠していた衣を剥ぐようにして、空に鎮座する空中艦が姿を見せる。

 

「…さて、ところで少年。助けは必要か?」

「…とても必要です」

「良かろう。初回サービスじゃ、安くしておくぞ」

 

 手を伸ばされた次の瞬間、それまで感じていた重みがすっ…となくなる。…という程劇的ではなく、こう…よっこらしょ、っていう感じではあるが、俺の身体を潰していた木が退かされる。

 それと共に感じる、身体の再生。自分でもよく分かっていなかったが、倒れた木に潰された事による損壊もあったようで…だがそれも、すぐに元通りになっていく。

 

「…これは……」

「…助けてくれてありがとうございます。えぇと…確か……」

「アフィモウジャスじゃ、覚えておくがいい」

 

 立ち上がった俺は、そうだ、そういう名前だった気がする(というか本人が言ってるんだからそうに決まってる)、と心の中で思い、頭を下げる。

 そして、アフィモウジャス…彼が現れた事で、確定した。まだ理由は分からないが…アフィ魔Xが、救援に来てくれたんだと。

 

「これで完全に形勢逆転で御座る。如何に女神でも、これは多勢に無勢で御座ろう?」

「…………」

「答えぬか。ならば、別の質問をするとしよう。…そもそも何故、お主等は戦っておる。嘗てはともかく、今は仲間なのだろう?」

「…なんですって?」

 

 ステマックスの言葉に無言で返すアルテューヌに対し、今度はアフィモウジャスが問いを投げ掛ける。確かに事情を知らなければくろめとネプテューヌが戦ってるようにしか見えない(しかもそれも全くの間違いじゃない)訳だから、疑問を抱くのも当然の事。

 だがその問いを聞いた瞬間、アルテューヌはぴくりと眉を顰める。大太刀は構えたまま、ちらりと目だけでアフィモウジャスを見やる。

 

「その口振り…くろめか誰かに呼ばれてきたんじゃないの?今の状況を理解した上での行動ではないの?」

「そんな無駄な事を訊いてどうする。理解しているのなら、わざわざこちらから訊くとでも?」

「だったら…だったらまさか、偶々近くに来ていたとでも言うの?偶然居合わせただけだって言うの?こんな場所で、あんな絶妙なタイミングで現れておきながら、実際には何も把握していないだなんて、そんな都合の良い事……」

 

 呼ばれた訳ではないし、呼ばれてないから何故こうなっているのかも知らない。アフィモウジャスがそう答えた事で、アルテューヌはそんな訳ない、と質問の形で否定を示す。そして、「そんな都合の良い事」…とまで言ったところで、不意にアルテューヌの言葉が止まる。何かに気付いたように、可能性へ思い至ったように、アルテューヌの表情は愕然としたものへと変わっていって……

 

 

 

 

 

 

「…ふ、ふふ…はははははは!そうだよ、オレだよ。オレの…妄想能力だ」

 

──高笑いと共に、言い放つ。くろめが、言い放つ。…全て、自分が仕組んだ事なんだと。妄想能力で、そうなるように仕向けたんだと。

 

「…そうか…俺が戦っている間、途中から全然くろめの声が聞こえてこなくなったが……」

「そういう事だよ、ウィード。集中しなければ、この力は使う事が出来ないからね」

 

 戦っている間は気にする余裕もなかったが、どっかのタイミングで妄想能力を発動させる為、想像…妄想に意識を集中させ始めていたのだと考えれば、納得はいく。……それはそれとして、笑い方もその時にしていた顔も、何ならこの流れで高笑いをする事自体も、人を守る女神のそれじゃ全然なかった気がするが…今は触れないでおこう、うん。

 

「……っ…馬鹿を言わないで頂戴!貴女の能力は、そんな使い勝手のいいものじゃない筈でしょう!?」

「ああ、その通りだよアルテューヌ。妄想を現実に、と言えば聞こえはいいが、実際にはそんな使い易い能力じゃない。むしろ強力だからこそ、狙った通りの結果を得るのは相当な難度を要すると言ってもいい。…それにしたって、我ながら反則も良いところだとは思うけどね」

「だったら、どうして…」

 

 ここに来て漸く狼狽を見せるアルテューヌ。思えばアルテューヌは、最初からくろめの能力を警戒していた。だからこそ、ここまでは使われていない、使わせていないと思っていたんだろうし…にも関わらず使われていたんだと知ったら、動揺するのも当然の事。

 

「だからだよ。だからウィードが持ち堪えている間、オレは集中し続けた。考え続け、妄想し続けた。高望みはせず、この窮地を乗り切る事だけを求めた。逃げなかったのだってそうさ。オレはより確実で、より堅牢な妄想を築く為に、記憶に頼る必要のない『この場所』での妄想をし、この場に留まるべく戦った。一から十まで妄想するのは困難極まるが、ピンポイントで…真に必要な部分だけを妄想するのであれば、その難易度は遥かに下がるからね。反面その場合は、その瞬間に至るまでの準備や動きは自分でやらなくちゃいけないし、その瞬間に繋がらないような動きをしてしまったら、自分の描いた妄想を自分で信じられなくなって瓦解する危険が伴ってしまうから、結局どちらの場合も決して楽ではない訳だが…今回は、この選択が功を奏したといったところかな」

「だとしても、貴女の力は人の行動までも決められるようなものじゃなかった筈…!もしそうじゃないのなら……」

「誰もが自分に都合良く動く内容の妄想をすればいい。…うん、それもその通りだ。そしてそれは、実現出来る事じゃない。人の動きを細部まで妄想し尽くすのは至難の業だし…オレも女神である以上、オレの力である妄想能力もまた、シェアエナジーが由来となる。だからこそシェアエナジーの根幹となるシェア、思いを生み出す心を持つ人の歩みに直接干渉するのはそもそもからして難しいのさ。これがシェアエナジーの性質…女神の性なんだろうね」

 

 くろめは語る。既に隠す必要はないって事なのか、それだけじゃなく余裕を持って話す事で更にアルテューヌにプレッシャーを掛けようとしているのか、余裕を浴びた表情と共にアルテューヌへ話す。話し、続ける。

 

「だから、オレは彼等の事を考えた。或いは彼等なら…そう思ったのさ」

「何を……」

「おや、分からないかい?今言ったばかりだろう?心が、シェアが人にはあるからこそ、直接干渉は難しいと。だから、彼等を頼ったんだ。──人ではない、ロボットである、彼等にね」

 

 煽るような声音で問い掛けた上で、答えを待つ事なく、くろめは自ら言う。人の行動を妄想で操作する事が難しいなら、人ではない存在を頼ればいいんだと。

 そしてそれに打ってつけだったのが、二人…アフィモウジャスと、ステマックスだった。嘗ての協力関係…くろめがまだ自らの思想や独善を振りかざしていた頃に築いた繋がりが、今のくろめを…俺達を、助けてくれていた。

 

「とはいえ、これは賭けだった。人への直接干渉が難しいのは心を持つからだっていうのも、だからロボットの二人なら大丈夫だろうというのも、オレの推測に過ぎないからね。だからこう見えて、内心ヒヤヒヤだったんだ。決して余裕があった訳じゃないから、その点は安心するといいよ、アルテューヌ」

「…大した皮肉ね…しっかりその賭けに勝っておいて、よく言うわ…」

「薄氷の勝利というやつさ。…さて、君も理由が分かってすっきりしただろうし、早く退く事だね。見ての通り、今はアフィ魔Xの空中艦が姿を現している。もうその存在を察知した軍の哨戒機なり艦なりが近付いてきている筈だし、当然情報は教会にも、ねぷっち達にも伝わっているだろうから、急行してくる部隊は君が『ネプテューヌであってネプテューヌではない』という事を理解した上で動く筈だ。曲がりなりにも自分の国であるプラネテューヌの軍に、国民にやられるのは君だって嫌だろう?」

「……っ…」

 

 発する、発される言葉に隙はない。この状況は自身の妄想能力によるものだと自ら明かして衝撃を与え、危ない賭けだったように言いつつも実際には成功している…させているんだという事実を見せ付け、更に今も十分あり得る増援の可能性を伝える事で、アルテューヌにプレッシャーを掛けている。戦うのではなく、言葉でアルテューヌを追い詰めていく。

 数秒の沈黙。表情を歪めるアルテューヌと、アルテューヌをじっと見つめるくろめ。風の音だけが聞こえる沈黙が続き…アルテューヌは、大太刀を降ろす。

 

「…見事なものね。貴女の事は十分に警戒していたつもりだったけど、貴女の強みはその能力だけじゃないっていう事を見落としていたわ」

「見落としていた、か…まあ、そもそも君はオレをよく知っている訳じゃないんだから、それについては仕方ないだろうさ」

「…本当に、食えないわね。だけど…それはそれとして、得るものもあったわ。理由は分からないけど、貴女は女神化出来ない…少なくとも、危ない橋を渡らなきゃいけないような状態にある、そうでしょう?」

 

 くろめは今、満足に女神化する事が出来ない。今の状況も、今に至るまでの経緯も、その両方がくろめの状態を示している。アルテューヌはそう言って、くろめは黙り込む。沈黙という、答えを見せる。

 やっぱり、それを隠し切る事は出来なかった。幸いくろめの策、くろめの妄想が実現した後だったから致命的になる事は避けられたものの、だからってまあいいかで済ませられるようなものじゃない。…そう、思っていた俺だが…くろめは、笑う。再び、笑い始める。

 

「ふふっ…得るものもあった、ね…」

「…何か、おかしい事でも?」

「あぁいや、すまないね。ただ…案外君は、可愛いなと思っただけさ」

「可愛い…?」

「だって、そうだろう?君は絶好のチャンスに仕掛ける事が出来た。十分勝ち目のある状況だった。それなのにオレを引き入れる事もオレ達を倒す事も出来ず、チャンスを逃すどころか自分の情報を晒すだけに終わってしまった。君にとってそれは、大きな損失な筈だ。オレの状態を把握出来たなんて事とは、まるで釣り合いが取れない筈だ。なのにそれを、得るものもあったなんていう言い方をするのは…強がり以外の、何物でもないじゃないか」

 

 決してアルテューヌは余裕がある訳じゃない。そんな風に装っているだけだと、本当は強がりを言っているだけだと、くろめはほんのり口角を上げながら言ってのける。ここにきて今一度、アルテューヌを煽る。

 対照的に、アルテューヌの表情からは悠然とした雰囲気が消える。そのアルテューヌへ、不敵な笑みを浮かべたくろめは更に言葉を紡ぐ。

 

「別にそれが悪いとは言わないさ。むしろ、オレにはよく分かる。今だからこそ分かるけど、嘗てのオレも似たような事をしていたからね。ああ、だから一層オレは君に親近感を抱くようになったよ。確かに君はオレに似ている。在り方も、目指すものも、色々画策してそれなりには上手くいくものの、どうしても想定外の事態を躱す事が出来ないのも。だからそんな君に、言いたい事があるんだよ」

 

 静かに、語るように、くろめは言葉を重ねていく。意図は読めない。優勢になった事で気を良くして饒舌になったのか、ここに長く引き留め軍の到着を間に合わせようとしている…ここでアルテューヌを討とうと考えているのか、まだ何か俺の想像も付かないような思考を巡らせているのか…分からないが、そこには、これには、きっと何かある。

 恐らくアフィモウジャスもステマックスも…アルテューヌすらも、そう思ったんだろう。全員が、くろめを見つめる。そしてその中でくろめは、薄く笑みを浮かべたくろめは、芝居掛かった動作で半身となり、軽く開いた右手を顔の前に掲げたくろめは……言った。

 

「十分に警戒していたつもり、だったか。…見事?警戒?まさか君は、親近感を抱いた程度の君が、似たようなものを目指しながらもオレより遥かに小さい形で満足しようとしていた君が、このオレ暗黒星くろめを…オレンジハートを理解し切ったつもりになっていたというなら、それは思い上がりもいいところだ。──頭が高いんだよ、後輩風情が」

 

 目を見開くアルテューヌ。愕然とする俺。こんな事を言うとは思わなかった。思ってもみなかった。策略でも策謀でもない…妄想能力で状況をひっくり返したとはいえ、戦闘においては一方的にやられた、天界の街でも結局土を付けられる形となったアルテューヌへの…悪意たっぷりの、言葉の仕返し。それこそが、くろめのやろうとしていた事だった。

 だけど…同時に、しっくりくるような感じもする。くろめは、うずめと二つに分かれたような存在である今のくろめなら、こういう事を言うだろうし…何よりくろめも、うずめも、『うずめ』も…皆、とびきりの負けず嫌いなんだから。

 

「……ッ、うずめ…いえ、暗黒星くろめ…」

 

 くろめの言葉に、アルテューヌは茫然としていた。そんな事を言われるとは思っていなかった…そんな事をくろめが言うなんて、欠片も思いもしなかった。そんな風に、虚を突かれた顔をしていて…我に返ると共に、その表情は再び歪む。さっき以上に、表情を歪ませる。

 完全な、精神的優位。恐らくただ言うだけならこうはならなかった。不利な状況から逆転をした、使わせていない…使えていないと思っていた妄想能力を用いて、状況をひっくり返した上だからこその、突き刺さる言葉。そしてアルテューヌが表情を歪ませる中、くろめは静かに、だが確かに笑みを深め……

 

「……う"ッ…」

 

──吐いた。余裕に満ちていた、不敵な笑みは一瞬にして崩れ去り、顔色が悪くなったと思った次の瞬間には口元に手を当て背を向けて…あんまり聞きたくない、特に女の子からは発されてほしくないような音が、やたらと生々しい感じで聞こえた。…し…締まらねぇー……。

 

「…あー…大丈夫か、くろめ…」

「ぜ、全然大丈夫じゃない…今日は初めて副作用無しでいけたのかと思ってたら、単に出るのが遅いだけだった…うぇっ……」

 

 凄まじい…凄まじく気不味い雰囲気の中、小走りでくろめに駆け寄った俺は、取り敢えず声を掛けて背中をさする。仕方ない事ではあるが…さっきまでの圧倒的な雰囲気はどこへやら、流石に今のくろめは俺から見ても格好悪いというか、見ていられない状態だった。

 

「…ふ、ふふ…こんな冗談みたいなオチを自分から提供してくれる相手に、わたしはしてやられたのね…」

 

 立て続けに予想を超えられたんだろうアルテューヌの、失笑するような笑い声。それがくろめに対するものなのか、自分に対するものなのかは分からない。ただ一つ言えるのは、ここまでくろめの雰囲気に押され気味だったアルテューヌが、自分のペースを取り戻したって事で…そこからアルテューヌは、胸の中に溜まったものを吐き出すように、肩を動かし息を吐く。

 

「…その言葉、よく覚えておきなさい。何を言っても、どれだけ言い繕っても…結局のところ、貴女は敗北者よ。だけど、わたしは違う。貴女が先輩ぶりたいなら…せめて先人として、邪魔をしないでほしいものね」

 

 怒りとは違う、決意を固めたような声を発するアルテューヌ。口元を拭い、何とか表情を取り繕ったくろめがちらりと見やる中、アルテューヌは俺達に背を向ける。

 もう目的達成は困難だと判断してくれたのか、直後にアルテューヌはこの場から離脱をしていく。アルテューヌの姿はすぐに見えなくなり…戦いは、終わる。

 

「…何とかなった、か……」

 

 完全に姿が見えなくなったのとほぼ同時に、身体から力が抜ける。俺はその場に尻餅を突き…変な笑いが、口元に浮かぶ。

 

「……っ!ウィード…!」

「あぁ…心配すんな、くろめ。緊張感が解けたのと疲労とで、力が抜けちまっただけだ」

「本当か…?本当に、ただそれだけなんだな…?」

「本当にそれだけだ。ほら、見ろよこの変に緩んだ口元。これどう見ても、安心感からくるものだろ?…いや、俺自身は見えないんだけど…」

 

 感覚的に、笑ってるんだろうなぁと思う口元を指差し、俺は不安げなくろめに言葉を返す。…くろめだってダメージを受けてるし、今はまだ倦怠感やら気持ち悪さがあるだろうに…って、分かってるなら心配させるなって話だよな…。

 

「ウィード殿…で、御座るかな?立てるで御座るか?」

「あ、どうも…よいしょ、っと…」

 

 駆け寄ってきたステマックスが差し出してくれた手を掴み、立ち上がる。続けてアフィモウジャスも、堂々とした足取りでこちらに来る。

 

「経緯は分からぬで御座るが…その様子からして、くろめ殿を守っていたので御座ろう?」

「まさか。くろめが何とかしてくれると思って、必死こいてアルテューヌに喰らい付いてただけです」

「それが技術であれ度胸であれ、女神に喰らい付けたのであれば大したものじゃろう。…さて、うずめ…いや、くろめよ。事情は話してもらえるな?」

 

 守ったなんて、そんな格好良いものじゃない。実際くろめが妄想を実現させるまで、時間を稼ぐ事は出来なかったんだから。謙遜とかじゃなく、シンプルにそう思っていた俺だが…まあ、それでも「大したもの」と言われれば悪い気はしない。俺より強そうな(てか強いんだろう)相手に言われれば、尚更嫌な気持ちにはならない。

 そんな俺への言葉に続いて、アフィモウジャスはくろめに問う。その問いにくろめは頷き、手短に…けど偽る事なく、アルテューヌの存在や、今の状況について話す。

 

「…女神の偽者…いいや、あり得る筈のない、過去の記憶を持ったもう一人の女神、か…。それはそれで疑問が残るが…うむ、一先ず状況は理解した」

「そこについてはオレ達もまだ疑問なんだ。もし分かったらまた伝えようと思うから、今はそういうものなんだと思ってほしい」

「ほぅ、伝えてくれるとはまた丸くなったものじゃな」

「そうで御座るな。嘗てのくろめ殿も、情報を出し渋る事はなかったで御座るが…今は前よりも、柔らかさを感じるで御座る」

「オレももう、嘗てのオレとは違うという事さ。訊きに来てくれれば、きちんと伝えるよ。勿論…訊きに来られるものなら、ね」

 

 二人の言い方、丸くなったという評価が不服だったのか、きちんと伝えると言った上で、皮肉へと繋げる。お尋ね者である二人が普通に訊きに来られる筈がないのに…わざとらしく、柔らかい声音のままで言う。

 

「…丸く見えただけじゃったか…」

「そのようで、御座るな…」

「…はは……」

 

 何とも言えない雰囲気を醸しながら、二人は俺に視線を向けてくる。…まあ、言いたい事は分かる。分かるから俺は、それに対しては乾いた笑いを返すしかなかった。

 

「まあ、何にせよ助かった。君達が来てくれなければ、オレはここで終わりだった。だから…ありがとう、アフィモウジャス、ステマックス」

「くろめ殿…先程も、言った筈で御座るよ。縁あって、助太刀させてもらう、と。理由はどうあれ手を組んだ事もある相手の危機を目にすれば、それを無視する事など出来ぬで御座る」

「全く、相変わらずお主は情に厚いのぉ。どうもこうしてワシ等がここに来たのも、そう仕向けられたのが実際のところであるらしいというのに。…じゃが…そういう事であれば、分かっているであろうな?」

 

 真面目な顔になり、二人へ頭を下げるくろめ。それにステマックスは、穏やかな声と佇まいで答えてくれて、その様子にアフィモウジャスは肩を竦め…けど次の瞬間、彼の纏う雰囲気が変わる。くろめへ、鋭い視線を向ける。

 

「…ああ、分かっているよ。オレだって、ただで助けてもらおうだなんて考えていない。オレは君達を利用し、危険を冒させた。なら当然…オレにはその対価を払う必要がある」

「分かっているのであれば良い。…して、一体どれだけの額を払ってくれるのだ?その内容次第では……」

 

 対価を求めるアフィモウジャスへ、くろめは制止するように手を向ける。そしてアフィモウジャスが見つめる中、くろめもまた視線を返し…言う。

 

「初めに言っておくよ、アフィモウジャス。残念ながら、金銭を用意する事は出来なくてね……だがこれなら、君も気に入ってくれるんじゃないかな?」

「む…これは、本か?…本で、納得してもらおうとでも考えておるのか?くろめよ。正当な対価である金銭を用意出来ないどころか、その代わりとして用意したのが本一冊など、随分と舐めた事を……」

 

 視線を外すと共に、くろめが差し出したのは一冊の雑誌。それを対価とするくろめに対し、アフィモウジャスは更に視線を鋭くさせる。

 気持ちは、分かる。二人からしてみれば、くろめとの縁があるとはいえ、完全に無関係な戦いにリスクを背負って関わる形になったんだから、それもくろめの力で仕向けられた…関わらされた訳だから、その対価が雑誌一つっていうのは、確かに納得出来ないだろう。…けど、それが分からないくろめじゃない筈。仮に対価の準備が出来てないなら、取り敢えずあるもので間に合わせようとするんじゃなく、ちゃんと用意するから待ってほしいと言う筈。

 って事はつまり、くろめは真面目にその雑誌に十分な価値があると、そう考えてるって事になる。でも、そんな事あるのだろうか。これが普通の本なら、女神のサイン入りとか、実は物凄い魔導書とか、そういう方向性を想像する事も出来るけど、雑誌じゃ流石に……

 

「……──!?…こ、これは…これは、まさか…ッ!」

『へ?』

 

 そう思っていた中、不意にアフィモウジャスが驚愕の声を上げる。何かに気付いた様子で、肩をわなわなと震わせる。

 一体何事か、と俺は勿論ステマックスもこれには困惑。何がそんなに驚かせたのか、一体何の雑誌なのか、それが気になった俺は、何やらまだ視線を外しているくろめの横を通ってアフィモウジャスの隣に移る。隣から、手にした雑誌を見せてもらう。…ふむ、ふむふむ…あー、あれか。この系統の雑誌かぁ…。肌色成分、多いなぁ。本屋にあったりもするけど、そこの前で立ち止まるのは恥ずかしくて、けどそこを通る時はつい一瞬、ちらっとそっちを見ちゃうようなタイプの雑誌だよなぁ。

 

…………。

 

「……って、いやこれただのエロ本じゃねぇか!」

 

 成人向け書籍、ビニ本…即ち、エロ本。アフィモウジャスが受け取ったのは、くろめが渡したのは…そういう雑誌だった。よ…予想出来るかぁぁぁぁい!

 

「何を言っておるか!これはただのエロ本ではない!これは、今も巨乳好き界で語り継がれる伝説の雑誌じゃ!」

「情報量が多過ぎる!?え、何!?巨乳好き界!?エロ本が伝説の雑誌!?」

 

 まさかのエロ本というだけでも仰天なのに、それに関するアフィモウジャスの発言で更に俺は度肝を抜かれる。

 それと同時に、何故くろめが視線を外していたのか、逸らしていたのかも俺は理解する。うん、そりゃそうだわ。そりゃ眼前にエロ本があったら目も逸らすわ。

 

「そういえば…前に将軍、嘗て信次元には巨乳に特化した雑誌があったと言っていたで御座るな。まさか、これが……」

「そうじゃ、ステマックスよ。出版側の愛が、巨乳への情熱が伝わってくる、当時の巨乳好きにとってはマストアイテムの一つと言われていた…だが、はっきりした理由も語られないまま出版が終わってしまった、今は無きシリーズの内の一冊なのじゃ。我が同志、兄弟にその存在を聞いて以降ずっと探し求めていた、だがどれだけ探しても見つける事の出来なかった物と、まさかこんな形で会うとは…手にする事が、出来るとは…!これぞ、これぞ正に…ワシの、いや巨乳好きの、アナザーブック…!」

 

 ステマックスの発言に答えながら、再びアフィモウジャスは肩を震わせる。さっきのは恐らく、驚きによるもので…今はきっと、感激によるもの。色々突っ込みどころはあるが…突っ込みどころしかない気がするが…取り敢えず、アフィモウジャスは満足しているようだった。

 

「…いや、でも…なんでくろめがこんな物を持ってたんだ…?」

「…勘違いしないでほしいな。これは別に持っていたんじゃない。オレの力で用意をしただけ…謂わば、再現本だ。だから、細部はもしかすると変かもしれないが、そこはどうか我慢してほしい」

「ふっ、心配する必要などない。今中身を確認させてもらったが…これはワシの期待に、十分応え得るものじゃ!」

 

 謎の太鼓判を押されたくろめは、そうかい…と軽く頷く。まあ確かに、太鼓判を押されても困るだろう。…と、いうか…なんだ?今の俺の質問に対するくろめの声が、いつもより淡白だったような…。

 

「……って、うん?オレの力で用意した…って事は……はぁ!?え、くろめ妄想したの!?エロ本を!?エロ本の内容を!?」

「こ、声に出すな馬鹿!そこは触れなくてもいい事だろうが…!」

「いやスルーは出来ねぇよ!?いや、ちょっ…うっそぉ…くろめって実は巨乳好きだったの…?結構なむっつりだったの……?」

「は、はぁぁっ!?ち、違ぇし!巨乳好きでもなければむっつりでもねぇわ!てか、自分の事棚に上げんなウィード!」

「はい!?」

 

 言うまでもなく、くろめの力は妄想しなければ発動しない。それはつまり、くろめが能力で実現させたものは全て、くろめがその内容を妄想しているという事。即ち…このエロ本も、くろめは妄想していたって事。どのページもしっかり出来てるんだから、細かい部分までくろめは思い浮かべてたって事。…ショックだった。超ショックだった。いや、まあ…いいんだよ?趣味は人それぞれだし、くろめが巨乳好きのむっつりだったとしても、それはくろめの自由なんだから。けど、こんな形で好きな相手の、同性に対する欲求なんて知っちゃったら、流石にすぐには受け止められないっていうか……。

 と、俺が茫然とする中、くろめは顔を真っ赤にして怒り出す。余程感情が昂っているのか、うずめと…嘗ての自分とほぼ変わらない口調になりながら、俺に猛抗議を返してきて…その最後に、予想外の発言をぶっ込んできた。それに俺は、ぎょっとする。アフィモウジャスとステマックスも「へぇ?」って顔でこっちを見てくる。

 

「た、棚?棚って、一体何を言って……」

「これは!元々!ウィードが持ってたものだろうがッ!」

「違いますけどぉッ!?」

「違いませんけどぉッ!?」

 

 お前が持ってたものだろうが、というこれまた予想だにしない返しを受けて、俺は声を裏返らせる。くろめも同じように裏返った声で突っ込んでくる。…わ、訳が…訳が分からねぇ…。

 

「ちょ、ちょっと待てくろめ!一回落ち着け、くろめは何の事言ってんだ?まるで意味が分からないぞ…?」

「よくもまあぬけぬけと…ふん、しらばっくれるなら言ってやるさ。オレは知ってるんだからな?昔ウィードが、これを隠し持ってたのを」

「い、いやだから持ってな……あ」

 

 とんでもない発言をしてくるくろめだが、これは何か混乱してるんじゃないか。そう思って俺は、一旦落ち着くように言う。そのおかげか、くろめは少しクールダウンしてくれたようだけど…相変わらず、その主張は変わらない。

 こういう時、困るのは言われた方。たとえ間違っていても、思い違いでも、言われたら最後、言われた側の、言われた内容の印象ばかりが残ってしまう。ここにいるのは俺とくろめを除けば二人だけとはいえ、このままじゃ絶対、アフィモウジャスとステマックスは俺に対する誤解をしたままになってしまう。それは何としても避けなければいけない。…そう、思っていた俺だが…次の瞬間、ふと気付く。ある事が、思い浮かぶ。

 

「……うん、持ってたわ…確かに持ってはいたわ…」

「ほらな…!全く、自分で隠し持っておきながら、他人のの事をむっつり呼ばわりなんて、見損なったよウィード」

「み、見損なったって…確かに俺は持ってた、持ってたよ?けどあれ、俺のじゃねぇし!拾ったやつだし!しかも仕方なく持ち帰っただけだし!」

「苦しい嘘を……」

「あのなぁ…俺がそれを拾う羽目になったのは、くろめに地域の清掃活動に誘われたからだからな?そん時に拾って、けど普通に他の人もいる場でエロ本なんて回収場所に置ける訳ないから、仕方なく持ち帰っただけだからな?」

「…そ、そうなのか……?」

「そうだっての。そういやあの時、くろめは隠したまま帰ろうとする俺を何か変だって疑ってたよな?そんな中で誤魔化すのが、一体どれだけ大変だった事か…」

「あー、そうかあの時の……あっ」

 

 こっちの言葉を信じる気がないくろめに、俺ははっきりと言ってやる。すると具体的な返しで流石にくろめも「誤魔化す為の嘘」だとは思えなくなってきたのか、表情が変わり…続く俺の言葉に対する返しで、遂に俺の主張を認めたも同然の事を言った。

 そんなくろめを、俺は思いっ切り半眼で見てやる。くろめはバツの悪そうな顔で、ゆっくりと顔を背けていく。

 

「百歩譲って俺の私物と勘違いするだけならいいさ、それは仕方ないって言えるしな。けどさぁくろめ、それを隠し持ってたって言うのは…ねぇ?」

「うぐっ…悪かった、悪かったよウィード…」

「そういう思い込みの激しさは、ほんと良くないと思うぞ。まぁ、能力的にはそれがなくちゃ成立しないのかもしれないが。…てか、今思ったんだけど…仮に俺の私物と誤解したとしても、それだけなら覚えてるのは裏とか背とか含めた表紙だけだよな…?けどくろめは中身まで再現出来てて、しかもどのページも細かいレベルまでちゃんとしてるよな…?…って事は……」

「…………」

 

 びくっ、と肩を震わせた後、みるみる顔が赤くなっていくくろめ。ふっ…可哀想だしそれはそれとして某名前が駅名の少女ばりに顔を赤くしてる姿が見られたから、中を見たな?しかも結構じっくり見たな?実現出来るレベルで、鮮明に覚えてたんだな?…とは、言わないでおいてやろう。

 

「将軍将軍。二人共、青春してるで御座るなぁ」

「嘗ての姿からは想像出来ない程微笑ましいものじゃのぅ。…むむ?なっ、こ、これは…なんじゃあこりゃああああぁぁッ!」

『……!?』

「しょ、将軍!?何事で御座るか、将軍!」

 

 何やら向こうも話してるな…と思った直後、聞こえてくるアフィモウジャスの叫び。ぎょっとして俺達が振り向く中、顔が雑誌に触れそうな位近付けていたアフィモウジャスは…言う。

 

「ふ、袋とじが…袋とじが既に切られてあるではないかぁぁぁぁッ!」

『…え、それだけ…?』

「それだけ、ではない!袋とじは、謂わば楽しみ!ドキドキの詰まった雑誌の中にある、更なるドキドキ!それが何故、なのに何故、既に開かれているというのだ…しかも何故、こうも雑な切り方をされているのだ……」

「それはオレに訊かれても…あぁいや、妄想の歪みがそこに現れたのかもしれないね…」

 

 呆れた顔でくろめは予想を口にし、アフィモウジャスはがっくりと肩を落とす。そんなアフィモウジャスの肩を、ステマックスが慰めるように叩いていて…なんというかそれは、二人の関係性が分かるやり取りだった。

 

「はぁ、仕方ない…これはこの一冊を手に入れただけでも満足するとしよう…まだ彼からの対価も貰っていない訳じゃしな…」

「へ?…あの、サービスって……」

「サービスで『安く』すると言った筈じゃぞ?」

 

 まだ残念そうにしながらも、きっちりと要求されるさっきの対価。…あ、圧が凄い…踏み倒しは許さないという、圧が凄い……。

 

「えぇと…今ある現金はこれだけなので、これで勘弁して下さい……」

「むぅ、少ないな…」

「いやそんな事言われても…けど、助けてもらった身なのは事実だし…えぇい、なら電子マネーの方も……」

「待て待て、今のワシの状況的にそれはむしろ厄介になりかねん。じゃからの、ウィードよ…金銭の代わりに、ある事に答えてもらおうか」

「え、え?」

 

 がしっと肩を掴まれ、ステマックスと共にくろめへ背を向ける形を取らされる俺。見た目が巨漢なロボットそのものなアフィモウジャスに掴まれるというのは、それだけでもちょっと恐ろしいものがあって…一体何を訊かれるのか、と内心ビクビクする中、アフィモウジャスは雑誌を俺の前に出し…言った。

 

「お主はこの中だと、どれが一番好きなのだ?」

「…はい?…質問ってそれ…?」

「何を言っておるか。男同士、ビニ本を手にすれば…話すのはエロ談義に決まっているじゃろう?」

「決まってます…?」

「まあまあ、話してみるで御座るよ。拙者も将軍も、聞いた事を言いふらしたりはしないで御座る」

 

 感じていた緊張感が吹っ飛ぶ…ってか崩れ落ちるような、拍子抜けな問い。まるで男友達の悪ノリみたいな質問に、俺はぽかんとしてしまい…次に心の中に浮かんだのは、「うっわ、答えたくねぇ…」という感情。さっき会ったばかりの相手に言うなんて、ちょっとハードルが高過ぎる。

 けど、言わずに済ましてくれそうな気配もない。というか、左右を二人に固められていて、多分答えなきゃ解放してくれない。…ぐ、ぐぐ…くっそぉ、後ろにくろめがいるってのによぉぉぉぉ……ッ!

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

「……この、メイド服のやつ…とか…?…個人的には、胸を強調するようなポーズと、他はしっかりしてるのに、胸周りだけやけにガードが許そうなメイド服の作りが、なんかこう…良いっていうか……」

「ふっ…分かっておるではないか、ワシもこれは良いと思っておったぞ!まあ全部良いんじゃがな!」

「というか今、然程迷わず選んでいたような…さてはウィード殿、実は仕方なく持ち帰っただけと言いつつ、本当は読んでいたで御座るな?」

 

 苦渋の決断。絞り出す声。俺はあるページを開き、理由まで含めて答え……直後、アフィモウジャスにバシバシと背中を叩かれた。マジで悪ノリみたいな感じで、お前も分かってるなぁ!…みたいな感じの反応をされた。そして、ステマックスにはバレてしまった。…どうして…どうしてこうなった…うぅ……。

 

「もう解放して下さい……」

「ぐわっはっはっはっはっ!勿論じゃウィード!良い答えを聞かせてもらったのじゃからな!」

「…ウィード……」

「くろめ……」

「やり取りは聞かないでおいたけど…雰囲気で分かるよ。…揃いも揃って、しょうもない話をしてたな」

「ぐはぁ……!」

 

 何か凄まじく変な精神的ダメージを負いながら解放された俺への、冷め切ったくろめの言葉。…多分これが、今日一番のダメージだった。

 

「さてステマックスよ、次はお主の番じゃぞ?自分にとっての真の『好き』を見つけたとはいえ、それはそれとして答えられぬ訳でもなかろう?」

「せ、拙者もで御座るか?…ふむ、拙者は……、──!」

 

 ずがーん、と俺が落ち込む中、アフィモウジャスはステマックスに振る。振られたステマックスは、少し考えるような様子を見せ…けど次の瞬間、雰囲気が変わる。ほぼ同時に、アフィモウジャスもまた纏う雰囲気が変貌する。

 

「将軍」

「分かっておる。折角気分が良くなっていたところじゃが…これ以上ワシ等は、ここに留まる訳にはいかなくなった」

「…そうか。なら、早く行ってほしい。本来ならオレも、君達を取り締まらなくちゃいけない身だが…オレの都合に付き合わせた以上、助けてもらった以上、今回は無事に退散出来てほしいんだ」

 

 三人のやり取りで、俺も理解する。きっと、プラネテューヌの軍がもう近くまだ来てるんだ。それを本人か空中艦か分からないが、レーダーか何かで察知したんだ。

 行ってほしいというくろめの言葉に、二人は頷く。そして俺達に向き直る。

 

「ではな。くろめ、ウィード。ワシは金に、我が欲望に忠実じゃ。だからこそ…必要ならば、また呼ぶがよい。それに見合う対価を用意出来るのであれば、ワシは幾らでも力になろう」

「勿論、拙者も力になるで御座る。くろめ殿だけでなく…ウィード殿とも、これにて縁が出来たので御座るからな」

 

 そうして二人は、今度は俺達が頷いて返した二人は、空中艦に乗って退散していった。動き出すと共に、空中艦は光学迷彩で姿が見えなくなっていって……プラネテューヌの機体が急行したのは、それからすぐの事だった。

 

「…なんというか…凄かったな、色々と……」

「同感だよ。…縁、か…間違った道でも、得られるものがある…そういう事、なんだろうね」

 

 見送ったくろめの顔は、すっきりとしていた。アルテューヌの誘いを跳ね除けた事、妄想能力ありきとはいえ二人に助けられた事、ぼろぼろにはなったが窮地を乗り越える事が出来た事…多分、その全てがくろめに今の表情をさせているんだろう。

 

「…さて、オレ達も戻るとしようか」

「そうだな。…はぁ、ほんと疲れた…よりにもよって、みっちり訓練した後にこんな事になるとは…」

「世の中そんなものさ。思い通りにいかないからこそ、踏ん張って、歯を食い縛って頑張らなきゃいけない…まぁ、踏ん張って食い縛っても、どうにもならない時だってあるけどね」

 

 そう言って肩を竦めるくろめは、自嘲気味に笑っていた。けど自分を卑下してるって感じはなくて、今となっては呆れ気味でも笑える…そんな風に思える笑みだった。

 それから俺達も、プラネテューヌに戻る。戻るんだが…その前に一つだけ、訊いておきたい事がある。

 

「…なぁ、くろめ」

「何かな、ウィード」

「アルテューヌの目的は…やろうとしてる事ってのは、一体なんなんだ?」

 

 くろめはアルテューヌとのやり取りの中で、目的に気付いたようだった。漠然とした目標だけじゃなくて、その為にやろうとしている事まで理解したような反応をしていた。

 足を止め、訊いた俺に対し、くろめもまた足を止める。そしてくろめは、俺の方へと振り向いて……言った。

 

「──原天界帰。アルテューヌの目的は……今の信次元を、望む『過去』に変える事だ」




今回のパロディ解説

・「〜〜そうだよ、オレだよ。オレの〜〜」
20世紀少年に登場するキャラの一人、ともだちの代名詞的な台詞の一つのパロディ。でも、解説を書いてて思いましたが、「そうだよ、オレだよ」だったら「オレだよ!ワリオだよ!!」感もありますね。

・「〜〜これぞ正に〜〜アナザーブック…!」
アナザースカイにおける、代名詞的なフレーズのパロディ。昔の信次元には、そういう雑誌もあった…という事になりました。だからなんだって話ですけども。

・「〜〜なんじゃあこりゃああああぁぁッ!」
太陽にほえろ!に登場するキャラの一人、ジーパンこと柴田純の代名詞的な台詞のパロディ。アフィモウジャスにとっては撃たれて大量出血(血が流れてるのか、って話ですが)する並の衝撃だったのかもです。
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