超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown 作:シモツキ
ネプギアとくろめ(とウィード)、二人へのアルテューヌの接触。それを知ったのは、その両方が終わってからの事だった。
接触があった事自体も、大事。どちらも何とかなったらしいとはいえ、ネプギアの方では「アルテューヌはその見た目から好きに生活圏内に入り込める」…という事がはっきりしたし、これの対処ははっきり言って困難。ネプテューヌの偽者がいると明かすだけでも混乱が生まれるし、仮に見分け方…本物は一人で出歩いたりしない、という事を公表したとしても、アルテューヌが「今は緊急事態で単独行動している」と言ったら、少なくともプラネテューヌではある程度通用してしまう可能性が高い。だって『パープルハート』は、プラネテューヌの守護女神なんだから。
ただ…くろめの方では、それ以上の事がはっきりした。…アルテューヌの最終目的という、重大な事柄が。
「ねーねー、さいきん集まってばっかりじゃないー?」
「てんどん…?」
「ち、違うよ!?天丼ネタではないと思うよ!?」
「いきなり展開に対してぶっ込んできたわね…」
…えー、っと…うん、そういう事よ。そうよ、また集まってるわ。確かにまあ、最近は集まる頻度高いわね……。
「ロムちゃんもラムちゃんも、女神とはなんたるかを弁えてきたようですわね」
「平然とメタ視点に触れてくる事がそうなのだとしたら、流石にわたしは自分のしてきた教育を反省するわ…」
「あのー…皆さん?全員集まりましたし、本題に入りませんか…?( ̄◇ ̄;)」
困った顔でイストワールが声を上げた事で、脱線していた話が止まる。こういう時、率先して乗るネプテューヌは初めから真面目な顔で…なんというか、ここで乗らない事に対する違和感が凄い。勿論それが悪いって事じゃないけど、悪いどころか良い事ではあるんだけど…どうにも調子が狂うわね…。…って、いけないいけない。わたしも思考を切り替えないと。
「まずは、三人共無事で良かったわね。あ、いや、無事って表現は適切じゃないか……」
「いや、構わないよ。大した怪我は負ってない、っていうのは事実だからね」
「俺もこの通り、ピンピンしてるからな」
全員この場、プラネタワーの会議室に来られる状態とはいえ、三人の内くろめは身体の色んな箇所に手当ての跡がある。ウィードだって傷痕…というか傷がないだけで、相当なダメージをアルテューヌとの戦いでは負っている筈。でもだからこそ、落ち着いた…余裕のある顔で二人が言葉を返してくれた事は、安心に繋がった。
とはいえ、だからOKって訳でもない。例えばうずめは、さっきからずっとむーっとしている。けどこれは、くろめやウィードに怒ってるんじゃなくて、どっちかっていうと自分に…その場に居合わせる事が出来なかった自分自身に怒っている様子。なんでもうずめは、ウィードが出掛ける少し前は彼と一緒にいたんだとか。であれば、自分が別れず一緒にいたら…って思う気持ちは分かるし、けど一方でうずめの過失かっていえば、そんな事は全くない訳で…要は、気持ちの問題よね。だから、うずめの事はウィードに任せようかしら。丁度当事者でもあるし、ね。
「じゃあ、改めて…分かったのね?アルテューヌの、目的が」
「…あぁ。オレの誤解でなければ、ね」
ノワールの問いに、くろめは頷く。その瞬間、ふっと雰囲気が引き締まる。
これまでわたし達は、アルテューヌの策略の内だった天界の街への強襲を除けば、後手に回るばかりだった。向こうの狙いが分からないから、先回りする事が出来なかった。でも、それも今日まで。向こうの狙いが、目的が分かれば、状況も変わる。変えられる。
「…くろめ。説明を、お願いしても?」
「勿論だよ、ねぷっち」
こくり、とくろめはネプテューヌの言葉に頷く。そしてわたし達が見つめる中、くろめは小さく息を吐いて…言う。
「アルテューヌの目的。最終的に行き着こうとしているもの。それは…端的に言えば、信次元を過去に戻す事だ」
「過去、って…つまりは、時間遡行をしようとしてる…って事ですか?」
「分かりやすく言えばね。…尤も、対象は自分自身じゃなくて、信次元『全体』だが」
再びくろめは、今度はネプギアの問いに首肯する。それに対する返しを聞いて…一瞬、会議室は静まり返る。わたしもすぐには言葉が出ない。…けど、それも当然の事。時間遡行っていうのは、それだけ壮大な事なんだから。
「…時間そこー…そこーって、なぁに?」
「…そこー…うかつなやつめ…?」
「それじゃ某白い悪魔よ。遡行っていうのは戻る、遡る事…だから時間遡行だと、昔へのタイムトラベルって事になるわ」
「けど、アルテューヌが行おうとしているのは信次元全体の遡行…って、ん?自分が過去に戻るのと、信次元全体が過去に戻る…ってか巻き戻る?…のって、結局は同じじゃないのか?」
「主観的にはね。けど客観的に見れば違う。前者はあくまで個人の時間遡行だが、後者は謂わばある種の次元改変だ。それに、主観的に見た結果は同じでも、その結果に対して抱く気持ちは違うだろう?」
同じじゃないか、といううずめの問いと、考え方次第で同じとも違うとも言える、と返すくろめ。確かに、わたしが昨日に戻るのと、信次元が昨日へと戻るのは、どっちも戻った後のわたしから見たら『昨日』である事には変わらない。まあ、後者の場合は『昨日に戻った』って事を認識出来るかどうかが気になるし、仮にわたしが創られる前まで戻す場合は前者じゃなきゃその『過去』に存在する事が出来なさそうな気もするし、他にも色々考えてみると気になる事は出てくるけど…そういうのは、また別の話。今話すべきはそこじゃない。
「時間遡行…そんな事可能なの?…っていうのは、考えるまでもないわね」
「そうね。別次元の存在や次元間移動が出来るんだから、時間移動だって決してあり得なくはないし…何より過去から現代に来た、そして過去に帰っていった女神の前例を、わたし達は知ってるんだもの」
ちらりとこちらを見てくるノワールに頷いて、わたしは皆を見回す。皆からも、首肯を受け取る。
そう、わたし達は時間移動をしたとしか思えない前例を知っている。…他でもない、オリゼっていう前例を。
「話を戻すと致しましょうか。アルテューヌの目的は、信次元全体の時間遡行…それを誤解でなければ、とおっしゃっていましたけれど、それはつまり『時間遡行だ』、と思えるだけの理由はある…という事で宜しくて?」
「ああ。彼女の口振りからして、それを狙っているようだったし…アルテューヌは、オレと同じものを目指していると言っていた。…信次元を、『天王星うずめ』が守護女神だった時代に戻そうとした、このオレとね」
静かに、落ち着いた声音で、くろめは言う。嘗ての自分の望み、信次元や他の幾つもの次元を巻き込んだ災厄を起こしてまで果たそうとした願いを口にしたくろめは、夢破れたものとは思えない…或いは、破れたからこそとも思えるような、穏やかな表情をしていて……
「…くろめさんも、時間そこう…を、しようとしてたの…?」
「うん?…あ…そうか、そういえばはっきりとは言っていなかったか…」
「…もう、そーゆーことは考えてない?」
「…考えていないよ。もしそうしたら…ここで出会えた友達や仲間を、失う事になってしまうからね」
「なら、よーし!」
「よーし(こくこく)」
胸を張り、腕を組んでよーし、と返すロムちゃんとラムちゃん。何とも和む二人の仕草に、わたし達は微笑みながら肩を竦め…今一度、話を戻す。
「…そうでなくても、アルテューヌが時間遡行をしようとしてる…っていうのは、納得出来るよね。そもそもアルテューヌ自身、言ってみれば過去の存在…自分じゃない自分が歩んできたのが、『今の信次元』な訳だし」
「…かも、しれないわね。じゃあ、ここまでの事を踏まえた上で、訊かせて頂戴。時間遡行は…具体的に、それをする方法があるって事?くろめはそれを、知っているの?」
穏やかなくろめとは対照的に、ネプテューヌの顔は明るくない。真面目な面持ちではあるけど、やっぱりネプテューヌらしくはなくて…ただ今のネプテューヌは、ある種の決意に近い感情を抱いているんだろうから、今はそれを踏まえてやれる事をしていくしかない。
ここまでは、時間遡行をする事が出来る前提で話してきた。だけど、概念として可能かどうかと、実際に技術として出来るかどうかは違う。そしてくろめの口振りからして…くろめは、それにアルテューヌも、その手段を知っている。難易度は分からないにせよ、行う、行える事として認識している…そんな風に、感じられた。
その問いと共に、わたしは見つめる。くろめもまた、わたしの事を見返して…頷く。
「こっちも、オレの考えている方法と、アルテューヌの考えている方法が同じだという確証はない。けど、いりっちを単なる人質やこちらの戦力削りとして狙ったのでないなら…きっと、同じ方法を考えているんだろう」
「…くろめ、もしかしてそれが…原天界帰、ってやつなのか…?」
ひょっとして。そんな顔で訊くウィードの言葉にもまた、くろめは首肯する。既に彼はくろめから話を聞いているのか。そう思ったわたしや皆が視線を向けると、ウィードは「いや、名前しか知らないんだけどな」と苦笑気味に肩を竦めた。
原点回帰ならぬ、原天界帰。そうであると、まずくろめは教えてくれる。言うと共に、くろめはわたしとイストワールに視線を送っていて…その理由を、すぐにわたしは知る事となる。
「原天界帰。それが、嘗てオレが最終的に行おうとしていた事の名で、恐らくアルテューヌが狙っている事の名だ。これを実行する事が出来れば、アルテューヌは自分の望む時代に、信次元を望む状態に戻す事が出来る」
「それをされたら、こっちは終わり…って事ですね。次元全体を過去に戻されたらこっちがしてきた事も、情報も状態も全部リセットされるって事ですし…もしもネプテューヌさんが記憶を失う前まで戻る、戻されるとしたら…アタシ達は、存在する事も、出来なくなりますから」
「あ…そっか、わたし達は……」
具体的な名前が、話が出た事で、ユニが表情を曇らせる。女神候補生が生まれたのは、ネプテューヌが記憶喪失になってからだから…その事に気付いたネプギアも、はっとした顔を見せる。時間遡行の脅威を、ユニの言葉で皆が意識をして…そこでふと、わたしの中でも疑問が浮かぶ。
「あ…今思ったんだけど、わたしの場合ってどうなるのかしら」
「せいっちの?…あぁ、君が信次元に来る前、或いは神次元に戻っている間のタイミングへ時間遡行された場合は…って事か」
「えぇ。神次元も含めての時間遡行ならわたしはその時いた場所に戻るだけでしょうけど、さっきからくろめは『信次元』って言ってるわよね?」
「そう、原天界帰の対象となるのは、過去に戻せるのは信次元だけ。そして、他に時間遡行技術があった場合、その方法でやった場合はどうなるかオレにも分からないが…原天界帰によって信次元が過去の状態となったのなら……せいっちは、いなくなる。当然神次元にもいない訳だから、仮に過去の状態に戻った信次元がどれだけ時を重ねようと、せいっちが来る日は訪れない」
「…であれば、尚更アルテューヌさんには原天回帰をさせる訳にはいきませんね」
興味本位で口にした問いに返ってきたのは、ひやりとする答え。その可能性も、思い浮かんではいたけど…はっきり口にされると、背筋に冷たいものが走る。
けど、それを聞いたイストワールは、させる訳にはいかないと言った。顔文字のない、真剣な顔で言ってくれた。…イストワール…わたし自身はひやっとしつつも「それじゃわたし、マークならぬセーツニヒトになっちゃうわね」…とかしょうもない事を考えてたのに、その間もわたしの事を思ってくれてたのね……。
「話を戻そう。原天界帰に必要なのは、主に二つの要素だ。まず一つ目は、それをする為のエネルギー…これは、説明するまでもないかな」
「当然ですわね。それをするのが術式であろうと機械であろうと、エネルギーは必要不可欠な筈ですし。で、そのエネルギーですけど、それはやはり……」
「シェアエナジーさ。何故シェアエナジーなのかは、もう一つの理由に掛かってくるが…そのもう一つの理由を言う前に、一つ訂正しておこうか。ここまでオレは、分かり易いよう便宜的に『時間遡行』と言ってきたけど、この表現は正しくない」
「…どういう事だ?【オレ】」
「そのままの意味だよ。…本当は、原天界帰というのは信次元全体の時を戻す、過去に遡らせるものじゃない。原天界帰は、現代を任意の、特定の時代に改変する、『今』に『過去』を上書きしてしまうものなんだ」
本当は、時間遡行ではなく上書きなのだとくろめは言う。過去に戻すのではなく、過去の状態にしてしまうのだと。
確かに、それは少し分かり辛い。ここまでは普通の、誰もが何かしらの媒体で一度は触れるような時間遡行だと思って話を進めていたから、理解も大して難しくはなかったけど、最初から改変による上書きだと言われていたら、今よりイメージし辛かったんじゃないかと思う。
「そして、二つ目。原天界帰に必要となる、原天界帰の核となるのは…君だよ、イストワール」
訂正をし、正しい意味を伝えた上で、くろめは言う。言って、イストワールを見る。
「わたし…ですか?(・□・?)」
「今言った通り、原天界帰は過去の信次元の状態を今の信次元の状態に上書きする事で、まるで過去に戻ったような形を作り上げる…謂わば、擬似的な時間遡行だ。だから当然、実現には正確な過去の情報が、上書き元となる『その時の信次元はこうだった』という『記録』が必要になる」
「……!そっか、いーすんさんは次元の…世界の記録者だから……」
「そういう事だよ、ぎあっち。…だけど、それだけじゃない。『過去』の参照元としてだけじゃなく…イストワールが、彼女そのものが、原天界帰という術を有しているんだよ」
はっとした顔を浮かべて言うネプギアに、そういう事さ、とくろめは続け…更なる事実を、明かす。原天界帰はイストワールによって行われるんだと、イストワールが使い手なんだと、今度はわたし達全員を見回して言う。
それを聞いたイストワールは、目を見開いていた。明らかに、驚いていた。そして、イストワールが自分自身の事で驚く中……ある呟きが、零れた。
「…ははぁ、そういう事ね。全部繋がったわ」
「ほぇ…?おねえちゃん…?」
「ぜんぶつながったって…メガドラタワー作ってたの?」
『……!?』
「違うわ、会議中に作ってる訳ないでしょう…。というか、よく知ってたわね……」
何かを理解した様子のブラン。けど、それだけ言われてもわたし達にはさっぱりな訳で…ふとしたラムちゃんの勘違いに、ネプテューヌとネプギア、それにうずめとくろめのプラネテューヌ女神組はびっくりしていた。…うん、多分プルルートがいたら、プルルートも似たような反応してたわね。
「…こほん。繋がったっていうのは、ここまでの話よ。改めて考えると、『原』も『天』も、言い得て妙というか、なんというか……」
「流石はぶらっち。理解が早いね」
「何の話をしてるのよ。気付いた事があるなら、ちゃんと言って頂戴」
「一体誰が、原天界帰を編み出したのか…って事よ。ネプテューヌ、ノワール、ベール。今に過去を上書きする…って聞いて、思い出す事はない?」
「思い出す事?だから、勿体ぶらずに…って、あ……」
「…そういう事、でしたのね」
投げ掛けてくるブランに最初こそ怪訝な顔をしていたノワールとベールだけど、すぐに答えに辿り着いた…そんな表情を揃って浮かべる。そのやり取りを聞いている内に、わたしも段々と引っ掛かってくる。今に過去を上書きする…確かにそういう事が、前にもあったような…それに全部繋がったって事は、イストワールやシェアエナジーとも関わりのある何かが、答えとしてあるのよね?…それは…それっていうのは……あっ。
「…もしかして……」
「え…セイツも分かったの?…ちょっ、あの…答えを、恵まれないわたしに答えを……」
「……ひょっとして…前にお姉ちゃん達の怪我を即座に治した、あのシェアクリスタルの事…ですか?」
「シェアクリスタル…あーっ!え、まさか…オリゼ!?」
伺うようなユニの言葉を聞いた事で、いよいよ気付いたネプテューヌ。悩みに悩んでいた結果なのか、逆にいつも通りっぽい発言もしていたネプテューヌの声に、ブランとくろめが揃って頷く。
「過去の状態を今現在へ上書きする…過去の状態の参照元は違うけど、やっている事としてはほぼ同じ。原天界帰を編み出したのが、同じくイストワール…それにイリゼやセイツの親と呼べるオリゼであれば、イストワール自身が知らない力というのにも納得出来るわ」
「あのシェアクリスタルの例えを用いるのであれば、イストワールという記録装置にセーブされたデータから、任意のものを選んで現行の進行状況に上書きする事によって、あたかも『そのデータがセーブされた時』まで巻き戻したような状況を作る…と言ったところかしら」
「私達の時との違いを挙げるとすれば、使い方かしらね。私達の時は擬似的な回復、ゲーム的に言うならそれこそボス戦前のデータをロードしてダメージをなかった事にした…って感じだけど、原天界帰…アルテューヌがやろうとしてると思われるのは、ルート分岐前まで戻して別のルートを進めようとしている…正に、違う道を歩もうとしてる…そういう事ね?くろめ」
「合っているよ、のわっち。…尤も、そのシェアクリスタルに関してはむしろ、オレが知りたい位なんだけどね」
ベールとノワール、二人の例えを聞いた上で、くろめは肩を竦める。そういえば、その時はまだがっつり敵対していたわね、くろめ…馴染み過ぎてて忘れていたわ。
「原初の女神が何を思ってこんなものを編み出し、遺したのかは分からない。アルテューヌがどうやって原天界帰の存在を知ったのかも分からない。けど、原初の女神が編み出し、記録者たるイストワールとシェアエナジーによって行われるものであれば…本当に、『今』を上書きしてしまえるんだろう。…だからこそ、防がなければならない」
「そうね。きっとオリゼは、未来の為に…未来を歩む人達の為に、編み出して遺した筈だもの。だからそれを、アルテューヌに使わせる訳にはいかないわ」
「…くろめ。確かくろめはアルテューヌとやり取りしてる中で、イリゼの名前を出してたよな?俺には、イリゼが狙われた事にも納得してたように見えたが…原天界帰に、イリゼも関係してるのか?」
『そう(なの・なんですか?)』
きっとオリゼなら、とわたしは返す。続くウィードの問いを聞いて、わたしとイストワールもくろめに尋ねる。
「直接的に関係している訳ではないよ。ここまで話してきた通り、原天界帰はイストワールという使い手兼参照元と、シェアエナジーというエネルギーによって行われる。だが、いりっちやせいっちと姉妹とはいえ、女神ではないイストワールがシェアエナジーを自在に行使する事は出来ないし、そんなイストワールに無理矢理シェアエナジーを供給したとしても、恐らく上手くはいかないだろう。それをオレは、オレの力と掛け合わせる事で何とかしようと考えていたが…アルテューヌの場合は、イストワールの妹であり、同じ出自を持ついりっちを介して……或いはいりっちの存在そのものを『親和性の高いシェアエナジー』として使う事で、実現させようとしているのかもしれない…オレは、そう見ている」
原天界帰そのものではなく、それに必要なシェアエナジー供給の面で目を付けられたのかもしれない。くろめはそう語って、わたしとイストワールを見た。…理由は、訊くまでもない。
…気に食わない。オリゼの遺したものを悪用されるのも、その為にイリゼを利用されるのも、その中で国民が危険に晒されたのも。相手には相手の事情が…だなんて関係ない。そういうのは、それこそ相手の事情、相手の都合なんだから。別段蔑ろにする訳でもないけど、オリゼとイリゼの家族として、神生オデッセフィアの女神として、わたしにも譲れない事がある。そしてそれは……ネプテューヌも、同じ。
「…させないよ、そんな事は。アルテューヌのやろうとしている事は、絶対に阻止する。力の限り…全てを懸けて」
胸の前で手を握り締めて、ネプテューヌは静かに言う。皆もそれに、頷いて返した。…いつものネプテューヌとは違う、前向きじゃない決意を感じられる声だったから、ネプテューヌを見つめる皆の目には、ほんのり心配の色もあったけど。
「アルテューヌの目的が分かったんだ。だからこっからは、それをさせないように動く訳だが…つまりはイストワールを守る事が出来りゃ、原天界帰は防げるんだよな?」
「そうなるわね。逆にさっきユニも言った通り、原天界帰をされてしまえばわたし達はほぼ詰みの状態になるわ。…ううん、詰みなんてレベルじゃないわね。だってこれまでの事が全てなくなって、わたし達は今に至るまでの凡ゆる事を知らない、経験してない頃にまで戻るんだから」
「改めて考えると、時間遡行とは恐ろしいものですわね。サブカルにおいては、大概時間遡行を『する側』で物語が進むものですけれど、まさか『される側』にとってはここまで理不尽な行為だったとは……」
対策を口にしたうずめに、ブランが同意する。続くベールの言葉に、誰もが頷く。具体的に、アルテューヌがどの段階へ上書きしようとしているのか…記憶を失う直前なのか、それよりも前なのかは分からないけど、何れにせよそれをされたらわたし達は終わる。わたしは存在自体が無くなるんでしょうし…イリゼの目覚めの事を考えれば、下手するとイリゼも目覚める事なく、眠り続ける事になるかもしれない。だからやっぱり、実現なんて絶対にさせない。
「けど、イストワールを守るだけ…っていうのも、対策としては弱いっていうか、受け身が過ぎるわよね。勿論守る事は重要だけど、私達がただ身を固めてるだけじゃ向こうは好き勝手に動けちゃう訳だし」
「確かにね。それにイリゼの事もあるから、正直こっちから打って出たいところだわ。今だって、アルテューヌは何か策の準備を進めてるかもしれないし」
「なら…敢えていーすんさんを囮にする、とかですか…?勿論、出来ればいーすんさんが危ない目に遭うような作戦はしたくないですけど、アルテューヌさんを誘き出すって事なら……」
「それは難しいんじゃないかしら。イストワールさんが向こうにとって無視出来ない、何としても確保したい存在だっていうのはその通りでしょうけど…単なる囮作戦と見せかけて、っていうのはもう一度やった策でしょ?」
「あ……」
上手くいく見込みは薄い。そう返すユニの言葉に、ネプギアははっとした顔をする。
そう。アルテューヌを誘い出す作戦は、既に一度やっている。もう既にやっている以上、アルテューヌの術中にわたし達が嵌まっていると見せかけて…という形までやってしまった以上、単に囮作戦を行うだけじゃ、アルテューヌは警戒して手を出してこない可能性が高い。
「…その、申し訳ないわ…まさかこんな形で、あの時の策が裏目に出るなんて……」
「あの時の策がなければわたくし達はどうなっていたか分かりませんし、今の状況も予想など出来なかった以上、気にする事はありませんわ」
「とはいえ、折角向こうの狙いが分かっているのに守勢に回るだけっていうのは避けたいね。こういう時は、罠だと分かっていても動かざるを得ない状況を作るのが一番だが……」
「くろめくろめ、それは多分悪役の思考だと思うぞ」
「…そっか……」
横から指摘をされて、しゅん…とするくろめ。まぁ、わたしも実はそう思ったけど…一方で、くろめの言う事も一理ある。どんなに罠を疑われようと、慎重な思考をされようと、動かざるを得ない状況を作り上げられれば、アルテューヌの選択肢を『動く』の一択に固定出来るのは事実だから。こっちが防御を固めているだけの間に、アルテューヌがその防御を突破なり無力化なりしてイストワールを狙える方法を用意出来てしまったら取り返しが付かない以上、手段に拘っている場合か…って思考も、あるにはある。…ただ……
「…仮に、ですが…アルテューヌさんが動かざるを得ない状況を作るとしたら、それは何でしょうか?( ̄^ ̄)」
「イストワール…あぁ、問題はそこだ。何をしたら、罠を承知でも動いてくるかが思い付かなければ、オレの考えは成立しない。…例えば、アルテューヌがプラネテューヌの国民を今も大事に思っているなら、その思いを利用するという手もあるが……」
『…………』
「…勿論、これは却下だ。それが一番有効だとしても、オレはそんな策を取る気はない」
一度例えで出した上で、くろめはそれを却下だと断言する。見ていたわたし達は、その答えに頷いて…次にネプギアが声を発する。
「…そうだ、プリン…アルテューヌさんは、お姉ちゃんと同じでプリンが好きみたいなんです。だから、プリンとイストワールさんのダブルなら……」
『ダブルなら…?』
「…って、それで上手くいく訳ないですよね…ごめんなさい、何でもないです……」
「…そーなの?」
「うまくいかないの…?」
「そ、それは…うん…。流石にわたしも、そこまでプリンを見たら見境なくなる訳じゃないから……」
今度はネプギアがしゅんとする中、ラムちゃんとロムちゃんは二人してネプテューヌに訊く。まさか訊かれるとは、訊くまでもない…とは思ってもらえなかったのか、という表情をネプテューヌは浮かべつつ、手を横に振ってそんな事はないと言う。…けど、そこで続いて出てきたのは、何とも意外な意見。
「…いや、プランの一つとしては悪くないかもしれないわよ?」
「え…?…の、ノワール…ノワールの中でのわたしって……」
「まあ話を聞きなさい。私だって、単にイストワールとプリンを組み合わせただけで上手くいくだなんて思ってはいないわ。そもそもダブルって、具体的にはどうするのかって話だし」
「イストワールとプリンのメモリか何かを差すんじゃねーのか?」
「絶対そういう事じゃないでしょ、ダブルって…というかメモリって何よ、どこに差すのようずめ…。…こほん、私が言いたいのはこういう事よ。最初からイストワールの存在を前面に出したら警戒されるでしょうけど、アルテューヌがプリン目的でプラネテューヌに来た時に、意図せずイストワールを街中で見つけたら、それを偶然の幸運だと思って仕掛けてくるかもしれない…ってね」
「偶然を装う、偶々だと思うような仕込みをする…って訳ね。けどそれは、アルテューヌ次第な部分が大きくない?」
「そうね。ネプギアの話を聞く限り、プリンを買う為にプラネテューヌに来る可能性は十分あるとはいえ、どの店に来るかは分からないし、誘い込む為にプリン絡みのイベントか何かをやったとしても、必ず来るとは限らないし。だからあくまで、プランの一つとしては…って事よ」
一体何を…と初めは思ったノワールの意見だけど、それもまた聞いてみれば一理ある。特に、偶然を装う…っていうのは、かなり良いプランなんじゃないかと思う。
「そういう事なら、イストワールさんの行動を読ませる…っていうのはどうかな?」
「読ませる?…そうか、アルテューヌだってイストワールの人となりは、それなり以上に知っている筈…だからイストワールの行動を予測する事が出来るし、予想と合致する行動をしていれば、罠の存在を疑う意識が無意識の内に薄れる…って訳ね。いいじゃない、ユニ」
「えぇと…つまり、イストワールさんに普段っぽい行動をしてもらう…って話だよな。で、アルテューヌが仕掛けてき易いように、その内容は外出とか、そういう系のものにする…って事か?」
軽く頭を捻りながら言うウィードに、ノワールとユニが姉妹揃って首肯を返す。見ればユニは褒められた事が嬉しかったのか、ちょっと口角が上がっていて、何ならノワールもほんのり得意気な表情をしていた。
「…イストワール、出来そう?というか…そもそもの話として、イストワールはこの方向での作戦に納得してる?」
「納得、というのが自分を囮にする事に対してであれば、勿論しています。既に皆さんも言っていますが、受け身のままでいるのが賢明な判断だとも思えませんしね( ˘ω˘ )」
「でも、これって危ない作戦だよ?アルテューヌに気付かれないようにするなら、わたし達もすぐ近くで備えるって事は出来ないし…」
「分かっています。…ですが、危険と隣り合わせの戦いを繰り返しているのが皆さんです。それを思えば、この位なんて事ありませんよd(^_^o)」
まだ具体的にどんな動きをするかは決まっていない。けどまずは、イストワールの意思が大事。危険に晒されるのはイストワールなんだから、決めるべきはイストワール自身。その思いでわたしとネプテューヌはイストワールに訊き…イストワールは、頷く。自分もと、返す。
「それじゃあ、作戦はこれで……」
「…待って下さい」
『……?』
策は決まった。ここからどう仕掛けていくかの方針は定まった。…と思った矢先の、わたしの言葉を遮る形でのネプギアからの待ったの言葉。何かしら、と思ってわたし達が見れば、ネプギアはおずおずとした調子で言う。
「いーすんさんの行動をアルテューヌさんに読ませて、偶然を装って誘き出す…この作戦自体は良いと思うんですが、アルテューヌさんが本気で動いてくるとなれば、決して十全な策ではないと思うんです」
「それは…そうですわね。先程セイツの言った『アルテューヌ次第』の部分は、今の策…ユニちゃんの考えであっても、ある程度は残ってしまう訳ですし」
「はい。ですから、もう一つの策を用意しておいた方がいい…そんな気が、するんです」
「…確かにね。アルテューヌの企みがあったとはいえ、わたし達は前回一つの策で仕掛けた結果、出し抜かれる形になった…それを思えば、もう一つ策を用意した方が…っていうのは頷けるわ」
これだけで、策一つで良いのか。そう指摘するネプギアの考えは真っ当なもので、ベールやブランも理解を示す。
確かにその通り。サブプランなり、同時進行で行える別の作戦なりがあった方がいいに決まってる。ただ、問題があるとすれば……
「…ネプギア、因みにもう一つの策を何か思い付いていたりは……」
「…すみません、してないです…というか、元々今の策も切っ掛けはわたしの発言なのに、それ一つじゃ不安…って自分から言っちゃうのも、我ながらちょっとアレですよね……」
「いや、それは別に問題ないと思うぞ。ほら、俺やウィードを見てみろよ。殆ど聞いてるばっかりで、意見なんか碌に出せちゃいねぇんだから」
「わたしとロムちゃんもそうだもんねー!」
「えへへ…いっしょ、だね」
「ロム、ラム、それは誇る事じゃないわ。…まぁ、貴女達に意見を出せっていうのも酷だし、ちゃんと聞いてたならそれだけでも良いと思うけど…」
うんうん、と腕を組んで頷くウィードに、謎の握手を交わすうずめとロムちゃんラムちゃん。まだ幼いロムちゃんとラムちゃんはともかく、うずめとウィードはそれで良いの…?…と思わなくもなかったけど、実際微妙な空気にはなっていたけど…自虐気味になっていたネプギアのフォローにはなっていたと思う。…多分。
「けど、もう一つの策、か……あ」
「ネプテューヌ、何か思い付いたの?」
「思い付いたっていうか…いっそ先にこっちが原天界帰をやっちゃうっていうのはどうかな?で、最初にアルテューヌがイリゼと話した段階で、アルテューヌを捕まえるとか……」
「あっ…そうよ、その手があったじゃない。それなら万事解決……」
「いや、止めておいた方がいい。確かにイストワールはここにいるし、いりっちの姉である君もまたイストワールと親和性が高い事は間違いないが…根本的な話として、オレは原天界帰を知っているだけだ。実際に行われた例や、その結果どうなったかを知っている訳じゃない。だから、原天界帰によるイストワールへの負荷も、本当に望み通りの、都合の良い擬似時間遡行が出来るかどうかも…はっきり言って、定かじゃないんだ」
「…わたしも、その案は慎重になるべきというか、万策尽きた場合の最終手段として考えるべきだと思うわ。だって、原天界帰…ううん、全てを過去に戻すっていうのは、その期間の中で起きた事、信次元の一人一人が歩んできた事、積み重ねてきたもの全てを『無かったもの』として、否定するようなものでしょう?仮にそれで、良い方に転がるとしても…安易にやっていい事では、きっとないもの」
現実的な懸念要素と、時間遡行による過去改変そのものが生み出す…じゃないわね。過去改変が消し去るものの存在を受けて、わたしはネプテューヌへの同調を取り消す。ネプテューヌも、同じように自分の意見を撤回する。そして、改めて「何か策は…」っていう流れになり……訪れる沈黙。
「…まぁ、そう簡単に策が思い付くなら苦労もしませんからね。ここは一度、もう一つの策については保留にして、アルテューヌさんを誘い出す策を更に詰めていく…というのはどうでしょう?或いは、他の方も呼んで意見を求めてみますか?(´・∀・`)」
「他…っていうと、パーティーの皆さんとかですか?確かに、アタシ達だけで案が出ないなら、もっと多くの人に訊いてみた方が良いですよね」
「じゃあ、わたしは神次元の皆に話してみるわ。どっちにしろ今回起こった事の情報共有はしておきたいし。…というか、必要になったら呼ぶ癖に、そうならないと情報一つくれない…って文句を言われちゃいそうな気がするしね」
「では、ここで一度休憩にしましょうか。その間にわたしとセイツさんで、神次元への交信をしようと思います( ̄▽ ̄)」
意見が出なくなった時は、一旦止めて仕切り直す。その考えの下、一先ず休憩タイムにする事にして、わたしとイストワールは部屋を出る。神次元と交信すべく、機材のある部屋へと移動をする。
「…こういう休憩の時って、イリゼがいたらここぞとばかりに手作りのお菓子を出してくれたわよね」
「そうですね。気を遣っている…というより、作ったお菓子を出せるチャンスって感じなんでしょうね、イリゼさんにとっては(о´∀`о)」
イストワールと二人、肩を竦めて小さく笑う。そんなイリゼがいない事が、寂しくもあるけど…悲しい、辛いって気持ちは、もう十分に抱いた。だからもう、それを理由に立ち止まったりはしない。
「さて、それでは開きます。…また、神次元の皆さんに応援を頼みますか?(・ω・`)」
「それは…どうしようかしらね。前回と違って、今回は戦力が欲しい訳じゃないし、こっちに来てもらってる間に神次元で何かあったら大変だし……」
別に神次元からの応援は遠慮したい…って訳じゃないけど、神次元の皆には神次元の皆の務めが、それぞれ守る国があるんだから、毎回頼るっていうのは考え方として良くない。勿論皆なら快諾はしてくれるだろうけども、そういう事を繰り返して、思考がいつも頼る前提になっちゃうのは避けなきゃいけない。
そんな事を考えながら、イストワールが交信準備を整えてくれるのを待つ。今回は普段からしている定期交信じゃないから、すぐに向こうが反応してくれるとも限らない。けどそれならそれで、その間に話す内容を頭の中で纏めていればいいだけの事。応答してくれる相手に対する、今回の件と、そこからわたし達が考えた事を……
(…………あ)
…そう考え込み始めていた、その時だった。ふっ…と、わたしの頭にある案が浮かんだのは。リスキーではあるけど、上手くいけば『保険』として抜群な効果を生み出せる策を。
浮かんだその策を、まずイストワールに、続いて応答してくれた神次元の皆にも話す。そして、皆とも話し合い、熟慮の末…求めていたもう一つの策が、定まる。アルテューヌを誘い出す為の、攻めの策とは対照的な……原天界帰をさせない為の、守りの策が。
今回のパロディ解説
・「〜〜某白い悪魔〜〜」
ガンダムシリーズ(というか宇宙世紀)の主人公の一人、アムロ・レイの事。要はアムロの台詞の中に、そういうものがあるという事です。迂闊な奴め、だけなら他のキャラも言ってそうですけどね。
・マークならぬセーツニヒト
蒼穹のファフナーシリーズに登場する機体の一つ、マークニヒトのパロディ。セーツニヒトは…虚無の申し子ではなく、感情の申し子でしょうか。変態の申し子…ではないと思いたいです。
・「〜〜メガドラタワー〜〜」
メガドライブに周辺機器を付けた形状、特に全て付けた場合の通称。何故それに対して、プラネテューヌの女神組が反応したのかについては…原作シリーズのプレイヤーさんなら普通に分かるかな、と思います。
・「イストワールとプリンのメモリか何かを差す〜〜」
仮面ライダーダブル及び、作中に登場するアイテム、ダブルドライバーやガイアメモリの事。その直前に出てきた、ダブル…という言葉に掛けてのパロネタですね。