超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

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第三十三話 もう一つの策、守りの策

 まさか、こっちが仕掛ける前に仕掛けられるなんて。偶然を装う作戦を始める前に、アルテューヌさんの側に偶然が味方するなんて。仮に偶然じゃなくて、アルテューヌさんも偶然を装う作戦だったとするなら…自分達と同じ考えを相手も持つかもしれないなんていう、初歩的な視点を見落としてしまうなんて。後になってから、事が起きてしまってから、そういう考えが頭の中に浮かんでいった。

 でも…考えてみれば、それも当然の事だった。少なくとも、先に仕掛けられた事については、何もおかしな点なんてなかった。だってアルテューヌさんの狙いが、原天界帰で『今』を『過去』に変えてしまう事なら、その為にいーすんさんを狙っているなら、そもそもいつ仕掛けてきてもおかしくはなかったんだから。偶々絶好のチャンスが訪れたのが、あのタイミングだったってだけで、これまでも気を伺っていたのかもしれないし…わたしに接触してきたのだって、いーすんさんを狙うついでだったのかもしれないんだから。

 策を思い付いたからって、安心しちゃいけない。一歩前進したからって、それだけで気を抜いちゃいけない。…いーすんさんが行方不明になってから、その事をわたしは痛感した。

 

「コンパさん、アイエフさん、大きいお姉ちゃん。いーすんさんはいましたか?」

「いーすんさん、どこにも見つからないですぅ…」

「こっちも駄目ね。見かけたって人もいないし、こっちにも来てはいないと思うわ」

「わたしの方も駄目…恥を忍んで大声で呼びまくってみたり、プラネテューヌの中心でいーすんと叫んだりしたけど、周りにぎょっとされただけだったよ……」

「そ、それは別の混乱を起こしそうなので、止めて下さい…」

 

 インカム越しに、コンパさんとアイエフさん、それに大きいお姉ちゃんからの返答を受ける。お三人共、いーすんさんもいーすんさんの手掛かりも見つかっていないみたいで、わたしはもう少し探してほしいとお三人に頼む。

 

「ネプギア、わたしの方も空振りだわ。ギリギリイストワールが映っていない…」

「そう、ですか…。…アルテューヌさんは、それも計算していたんでしょうか…」

「わたしはともかく、イストワールは誘導された訳じゃないから、その線は薄いでしょうね。…尤も、もしアルテューヌがイストワールを攫ったっていうなら、仮にその瞬間が映っていたとしても、大した情報にはならないけど…」

 

 続いてセイツさんからも通信が入る。セイツさんは、セイツさんといーすんさんが最後に一緒にいた通りにあるお店の監視カメラを一つ一つ確認(勿論許可を取ったのはわたし)していて…だけどセイツさんの方も、今のところ手掛かりは無しな様子。そして、最後のセイツさんの言葉が、わたしの中で反響する。

 仮に映っていても、大した情報にはならない。それはつまり、セイツさんは「いーすんさんはアルテューヌさんに攫われた」と考えてるって事。別の理由で移動しただけ…って可能性はほぼないと見ている、って事。どっちの可能性もあるって状況なら、一つに絞れるだけでも意味はあるけど…初めから一つだと見ているなら、確かに大きな情報にはならない。

 

「…すみません、わたしもやっぱりそっちの方向で……」

「ううん。わたしの考えはわたしの考え、ネプギアの考えはネプギアの考えよ。ネプギアが、アルテューヌが攫った以外の可能性も否定し切れない…って思っているなら、その通りに動いてくれればいいわ。少なくとも、失態を演じた直後のわたしは、他人にどうこう言える立場じゃないもの」

「そ、そんな事は……」

 

 色んな可能性を考えて動けば、その分一つ一つに掛けられる力、人手は減る。だけどセイツさんは、気にしなくていいと言ってくれて…だけど感じる。セイツさんの言葉からは、声からは…イストワールさんから離れてしまった事への、負い目が。

 だけど、そんな事はない。こんな事になるなんてわたしも予想出来なかったし、セイツさんから状況を聞いた時、アルテューヌさんらしき存在を追うって選択に待ったを掛けなかった時点で、これはセイツさんだけの責任じゃない。だからわたしは、その事を伝えようとして…けど、それよりも先にセイツさんが言う。

 

「大丈夫よ、ネプギア。わたしも、イストワールも、大丈夫。だから…落ち着いていきましょ」

 

 それは言葉通りの、落ち着いた声。わたしは大丈夫、じゃない。きっとイストワールは大丈夫、でもない。わたしもイストワールも大丈夫…自分の事と、いーすんさんの事とを、両方はっきりと言い切って、逆にわたしを気遣ってくれる。

 

「…そう…ですね。すみません、情報を取り纏めているわたしが落ち着いてなくて…」

「最初の時点で飛び出さずに、『今自分が何をするべきか』ってちゃんと判断出来てる時点でネプギアはよくやってるわ。だから、謝らないで頂戴」

 

 わたしが慌てたり、落ち着いて今ある情報からの思考や判断を出来なくなったりしたら、直接出向いてくれている皆さんの行動を活かす事が出来ない。それじゃあ、わたしがプラネタワーに残った意味がない。その事をわたしは反省し、フォローしてくれるセイツさんの言葉に感謝をしながら頷いて……

 

「……あっ」

「……?ネプギア?」

「な、なんでもないです…(今ここで頷いても、セイツさんには伝わらないんだった…はは……)」

 

 ついついやってしまった動きに、わたしは内心で苦笑。電話でも挨拶の時とか謝る時とかに、電話だって分かっていても頭を下げちゃったりする事ってあるよね…。……こほん。

 

「…セイツさん。ここまで調べてきたカメラには、どれもいーすんさんは映っていなかったんですよね?」

「うん?えぇ、その通りよ。って言っても、基本的にお店のカメラって店内か、外だとしても出入り口付近位しか捉えていないものだから、限られた範囲で言えば…って話だけど」

「分かっています。それでも、悉く映っていないって事は、いーすんさんが自分でどこかに移動した…って可能性は低くなりますし、アルテューヌさんが攫った場合、すぐに飛び立ったか、すぐにまた路地裏とかの大通りからは離れた場所に入ったか…って事になりますよね」

「そうね。…っと、それで言うならアルテューヌはまだプラネテューヌに、街中にいるかもしれないわ」

「へ?…あ、そうか…下手に飛んで逃げたら歩いて移動するよりは目立ち易いですし、『目的を果たしたならさっさと逃げている筈』…っていう思考の裏をかいてるかもしれないですもんね」

「そういう事。…まあ、アルテューヌならプラネテューヌの地理も十分理解してるでしょうし、クロワールの力で逃げられたら目立つ目立たない以前の問題だけどね…」

 

 自分の中で思考を仕切り直して、状況と今ある情報を洗い直す。アルテューヌさん以外の理由も絶対ないとはまだ言い切れないけど、一度アルテューヌさんだった場合の、攫われたとした場合の形で考える。

 飛んだとは限らない…と今わたしは言ったし、セイツさんも同意してくれたけど、もう飛び去っているって事もなくはない。セイツさんがアルテューヌさんを見失ってから、いーすんさんがいない事に気付くまでは少し時間があった訳だから、その間なら当然わたし達は向こうの動きを把握出来ない。クロワールさんの力で逃げてる場合は本当にどうしようもないし、逃げたと見せかけてどこかに隠れている、目立たないようにしつつ移動している…っていうのも、アルテューヌさんの存在を公表していない関係で大量の人数を動かす事が出来ない訳だから、可能性として上がってもそこを追求していく事は叶わない。

 そして、アルテューヌさんはプラネテューヌの地理をよく理解してるって話だけど…ここでわたしは、「理解してるって言っても、アルテューヌさんが知ってるのは、お姉ちゃんが記憶喪失になる前の地理。だから最近変わった部分は知らない、変わった事も知っていない筈」…と思って、それを利用出来ないかとも思ったけど…多分、それも無理。無理というか、『知識を頼りに目立たず逃げようとしている』…って事が前提じゃなきゃ意味を持たない見立てな訳で……そこまで考えたわたしは、一つの結論を出す。

 

「…セイツさん」

「…何かしら、ネプギア」

「何とかして探し出せれば、手掛かりだけでも見つけられればそれが一番良いのは間違いありません。だけど…こうなるともう、わたし達の力だけで探し出そうとする事自体が、凄く厳しいんじゃないかって…わたしは、思います」

 

 声のトーンを落として、わたしは言う。勿論諦める訳じゃない。そうじゃないけど…今の状況へ対しては、困難だって答えを出す。

 返ってきたのは沈黙。声だけのやり取りだから、セイツさんが今どんな顔をしているのか…どういう顔で聞いていたのかは分からない。だから、言い切ったわたしもセイツさんからの言葉を待って…数秒後、初めに聞こえたのは吐息。それに続ける形で、セイツさんは言う。

 

「同感よ。はっきり言って、ここから尻尾を掴んで追う…っていうのは無理があるわ。もし何とかして掴もうっていうなら捜査のプロを頼るべきだし、そのプロだって時間が掛かるのは必至。だからネプギアの言う『厳しい』って判断は、正しいと思う」

「…それなのに、ここまで一緒に手掛かりを探してくれたんですね」

「厳しいって事を確かめる為に、ね。難しそうだからって、最初から何もせず…っていうのは、たとえ無駄になる可能性があるとしても…違う、でしょ?」

 

 セイツさんと、意見が一致する。無駄になる可能性があっても、だからって初めから何もしないのは違う…その言葉に、もう一度わたしは頷く。…頷いたから、「あ、またやっちゃった…」ってなったのは…まあ、置いておくとして……。

 

「…さて、と。それじゃあネプギア、今度は準備に入るわよ。わたし達には出来ない事、今は叶わない事は、ここまでではっきりとした。だから……」

「はい。ここからは、わたし達に出来る事…これからの為にやるべき事をする番、ですね」

 

 言葉を引き継ぐ形で、わたしからも言う。セイツさんからの、プラネタワーに戻るって言葉を受けて、わたしもコンパさんやアイエフさん、それにまだプラネテューヌに残ってくれていた、動いてくれていたパーティーの皆さんへと連絡を入れる。

 状況は不味い。凄く不味い。いーすんさんの事は心配だし、わたし達は迂闊過ぎた。……だけど、致命的じゃない。してやられたけど…全く何も出来ていなかった訳じゃない。

 各国にも連絡を入れて、準備に…戦いの用意に取り掛かる。だってまだ、手はあるから。偶然を装う、攻めの策は実行する前に先手を打たれてしまったけど…わたし達にはもう一つ、守りの策があるから。

 

 

 

 

「悪いわね、いーすん。こんな、攫うような形になっちゃって」

 

 手にした本に向けて、紫の髪を風になびかせながら言う女性。ネプテューヌであってネプテューヌでない存在…アルテューヌ。彼女はそれまでしっかりと掴んでいた本を手放し…本は、開きながら宙へ浮く。

 

「…いいのですか?わたしから、手を離して(´-ω-`)」

「貴女は聡明だもの。わたしが真正面にいる状態で逃げるのが困難な事位、最初から分かっているでしょう?」

 

 ひとりでに開いた本から現れたイストワールは、アルテューヌに問う。その問いは予想済みだとばかりに、アルテューヌは返し…横から別の声が発される。

 

「いや、攫うようなってか完全に攫ってたじゃねーか。しかもさらっと掴んでさらっと攫ってきたじゃねーか。…まぁ、さらっと出来るのはそいつにしろ俺にしろ、こんな小さい身なりだからだけどよ」

「…少し前から思ってたけど、貴女って割と突っ込み気質よね。求める事は愉快犯のそれなのに、実は基本常識人というか……」

「今のはお前の発言が原因だろうが。てか、常識があっちゃおかしいか?むしろ常識があるからこそ、とんでもねー事をとんでもねー事として面白がる事が出来るってもんなんだけどな」

「わたしの発言、ね…だったら言うけど、そもそもいーすんはわたしの身内よ。形としては攫うような感じになっちゃったからさっきわたしはああ言ったけど、そもそもの話として身内を連れてきた事を『攫ってきた』って言われるのは納得が……って、いーすん?どこへ行こうと言うのかしら?」

 

 半眼と共に突っ込みを発したクロワールに対し、アルテューヌもまた半眼気味の顔で返す。そこから二人のやり取りは始まり…その隙を突いて、イストワールは逃げようとしていた。見つかりはしたものの、ある程度の距離までは離れる事が出来ていた。これが分かった上でわざと途中までは泳がせていたのか、本当に途中まで気付いていなかったのかは…本人以外、誰にも分からない。

 

「いやお前、ほんの僅かとはいえ逃げられるって…けど、いっそ逆に見失ってた方が面白かったかもな。その時の反応は見てみたかったぜ」

「そんな事を期待されてもね…。…まあ、それはともかく…漸く、準備が整ったわ。原初の女神の複製体である彼女に、いーすん。わたし自身も、女神としての身体を手にする事が出来た。完全に『わたし』から取り戻せた訳じゃないのは、少し残念だけど…ここまできてそれに拘るのは、足元を掬われる要因にしかならないわね」

「…ネプテューヌさん。貴女は…何が、目的なんですか。一体、何をするつもりなんですか?

(・ω・`)」

「あら、くろめは何も話していないの?…ううん、その様子じゃ把握した上で、敢えて訊いているのかしら?」

 

 じっと見つめるイストワールに対し、アルテューヌもまた見つめ返す。そして彼女の問いに、イストワールは小さく頷く。

 

「やっぱりね。…えぇ、いいわ。貴女とわたしの仲だもの、一方的にただ利用する…なんて事はしないわ」

 

 その首肯にも頷き返し、アルテューヌは小さく息を吐く。そんな彼女の反応に、イストワールは真剣な眼差しを、クロワールは自分の脚へ頬杖を突きながらの視線を向け…二人の視線を受けながら、アルテューヌは言う。

 

「わたしの目的、それは今の信次元をわたしの手でやり直す事。そしてその為の、原天界帰よ。だから貴女が必要なの、いーすん」

「…今の信次元は、お気に召しませんか?確かに、何もかもが素晴らしい…という訳ではありませんが、今の信次元も良いものだと、わたしは思いますよ?( ̄^ ̄)」

「そうね、それは否定しないわ。完全無欠ではないけど平和だし、わたしがちゃんとわたしだった頃より、進んでいるものも色々ある。それにプラネテューヌの雰囲気は…国民の皆の在り方は、今も前も変わらないしね」

「…それでも、実行すると?(・・?)」

「実行するわ。今が良いからそれで良い…だなんて、わたしは思わない。自分が関わった上で、終わり良ければ…ってなるのと、自分が関わらない中での事は、全く違うもの。…わたしが望んだのは、こんな形の未来じゃない。誰かが作った、自分じゃない存在が築いた未来をただ受け入れるなんて…そんなのは、女神じゃない。わたしじゃない」

 

 静かな、されど確かな意思の籠った声。正しいかどうかではない、女神として…自分として、それを認める訳にはいかないのだという意思を、はっきりとアルテューヌは言葉で示す。

 彼女の発した言葉、その思いは、イストワールにとって理解の出来るものだった。気持ちは分かると、聞いてすぐに思っていた。…されど、全てを理解出来た訳でもない。気持ちは分かる…と思ったのと同時に、どうしても引っ掛かる部分もあった。

 

「…記憶はなくとも、その歩みが自分の望んだものとは違っていても…ネプテューヌさんは、ネプテューヌさんではないのですか?勿論、それぞれが個として独立している以上、自分と完全に同一視する事は出来ない…というのは分かります。けれど、わたしからすればネプテューヌさんも、貴女も、同じ『ネプテューヌ』だと…そう、思うんです(´ω`)」

 

 否定ではなく、疑問。イストワールは、アルテューヌがネプテューヌを…記憶喪失となって以降の、『今のネプテューヌ』を完全に自分とは別の存在であるかのように話していたのが、どうにも気になっていた。

 イストワールの返した問いを、アルテューヌは黙って聞いていた。そう思うのも当然だとばかりの表情で、イストワールの言葉を最後まで聞き…その上で、首を横に振る。

 

「違うわ。彼女とわたしは、同じ『ネプテューヌ』じゃない。記憶を持っていない事は勿論だけど…それだけじゃないわ。彼女はわたしにない経験をしている。わたしの知らないものを見て、知らないものを聞いて、わたしが望んだのとは違う道を歩んでいる。逆に彼女だって、わたしの事を殆ど知らない。…そんな相手を、同じ自分だなんて…思える訳がないじゃない」

 

 再びアルテューヌは、静かに語る。そこに怒りはなく、ただ事実を伝えるように彼女は言う。そしてイストワールは…今度こそ理解し、納得した。良い悪いは別として…納得してしまった。

 

「…だから、わたしは取り戻す。わたしが歩む筈だった、わたしの未来を。わたしが、もう一人のわたしに成り変わるんじゃない…わたしが、ネプテューヌが、記憶を失ったりなんてしなかった未来へと、修正するのよ」

「なら…その後は、どうするんですか?今成り代わるのではなく、記憶を取り戻させるのではなく、記憶を失う以前から未来を分岐させるのであれば、それ以降にあった何もかもが『無かった』事になります。記憶を失ったからこその出会いも、紡げた関係も…何より国や次元を守る為にしてきた、乗り越えていた戦いも、全てが消え去りゼロに返る…過去の状態からやり直すのは、そういう事だと理解していますか?(。-_-。)」

「理解しているわ。だけどそれも、わたしからすれば実感のない出会い、自分のものとは思えない繋がりよ。戦いだって、見方を変えれば『勝てる未来が確かにある』と分かった上で臨めるって事よ。もう一度言うけど、わたしは彼女を自分だとは思っていない。だから、彼女の得てきたもの、掴んできたものは全部…わたしからすれば、『誰か』の歩みでしかないわ」

 

 そもそもの認識が違うのだと、アルテューヌは重ねて言う。自分自身が過去をやり直す、未来を分岐させるのではなく、自分ではない『誰か』が歩んでいた道を、自分のものへと切り替えるのだとイストワールに答える。それが『取り戻す』という事なのだと、言葉と共に瞳でイストワールへと示す。

 イストワールに、反論の言葉はない。…否、初めからイストワールに反論や、明確な否定の意思はなかった。勿論肯定する訳でもないが、イストワールはアルテューヌの思いを確かめたい、本人の口からちゃんと聞きたいという思いの方が強かった。…或いは、思っていたのかもしれない。仮に反論をしたとしても、自分ではアルテューヌを止める事は出来ない、と。

 

「わたしの目的は、理解してもらえたかしら?もし出来たなら…始めさせてもらうわ」

「なんだ、もう始めちまうのか。そういうのは好きじゃねーんだよなぁ。物語っていうのはギリギリの中で、瀬戸際で動くから面白いもんであって、ヒーローが間に合わずにヴィランが目的を達成しちまったり、時間に余裕のある段階で爆弾とか呪いとかを何とか出来ちまったり、最初の選択肢で四回『いいえ』を押して即エンディングを迎えたりしたら、ワクワク感も半減だろ?」

「最後のだけ色々違うじゃない…悪いけど、貴女の要望に応える気はないわ。それとも貴女はここで待った挙句劣勢になったり、いーすんを奪還されたりしたら、いーすんの代わりに原天界帰をしてくれるの?」

「そりゃ無理だな。へーへー分かってますよ、お好きにどうぞってんだ」

 

 始めようとするアルテューヌに対し異を唱えたのは、イストワール…ではなく、意外にもクロワール。だがその理由は何とも彼女らしいものであり、アルテューヌが出来る訳ないと即座に返せば、クロワールも然程期待はしていなかったのか不服そうにしながらも引き下がる。

 

「…貴女は、一体どこでアルテューヌさんと接触を……(¬_¬)」

「俺は元から、頃合いを見てまた信次元に来ようと思ってたんだよ。ここならこれからも、愉快な事が色々起きそうな気がしていたからな。…ま、前回も今回も結構な窮地に陥ったりしてるし、リスキーな場所でもあると思うが…それを言ったらネプテューヌに連れ回されてた時の方が、ずっとやべー事続きだったしな。あいつマジでどうなってるんだ。なんでただの人間なのに、あそこまでエキセントリックな人生歩めるんだよ」

「いや、それをわたしに訊かれても……( ̄◇ ̄;)」

「んまあ、そうだろうな。…そんなあいつに比べりゃ、お前はまだ現実的だな。現実的っつーか、面白くねーっつーか…せめて原天界帰とその後の信次元では、ワクワクするような何かを見せてくれよ?」

 

 期待しているのか、それとも何かを見定めようとしているのか、軽薄そうな…しかしどこか掴みどころのない声音で言って、クロワールはイストワールとアルテューヌから離れる。そしてアルテューヌは、イストワールへ一歩近付く。

 

「抵抗はしないで頂戴。わたしもどこまで上手くやれるかは分からないし…貴女を苦しめたくはないわ」

 

 声音から感じるのは、使用してやろうなどという感情ではない。あくまでイストワールを知人だと、付き合いの長い相手であるという思いが感じられる声で、イストワールへ向けて言う。

 イストワールの表情に走る緊張。されど逃げる様子も、抵抗する素振りも彼女にはない。だが同時に、諦観の雰囲気もそこにはなく…ただ静かに、アルテューヌをじっと見上げる。

 

「…これは、貴女の積み上げてきたものの否定にもなる…のかしらね」

「…アルテューヌ、さん…?(´・ω・)」

「イストワールは、記録者なんでしょう?だったらわたしのやろうとしている事は、貴女が日々…一秒一秒、ずっと続けてきた務めを一部とはいえ消し去るようなもの。…そう思ったのよ」

「…それは、わたしだけではありませんよ。全ての人が日々を、その中で何かを、常に積み重ね続けているんですから(・ω・)」

「…そうね、その通りだわ。だからこそ、わたしは…わたしがやり直す未来は、今より良いものにしてみせる」

 

 失われるのは、自分が積み重ねてきたものだけではない。そう返したイストワールにアルテューヌは頷き、その瞳に、言葉に決意を籠らせる。そしてアルテューヌは、クロワールを見やり…クロワールが開く、次元の扉。地面に対して垂直にではなく、宙へ浮かせるように並行に(といっても、そもそも次元の扉ははっきりした形を持っている訳ではないが)開き……そこからゆっくりと、結晶体が姿を現す。

 

「……っ!…これ、は……!(;゙゚'ω゚')」

 

 その結晶体を見て、イストワールは目を見開く。しかしその反応はアルテューヌにとって予想の範疇だったらしく、驚くイストワールには何も言わない。代わりに左手で結晶に触れ…右手の指で、イストワールの座る本へと触れる。

 

「わたしは、これで変える…取り戻してみせる……!」

 

 目を閉じ、意識を集中させるアルテューヌ。本へと触れられているイストワールは表情に浮かぶ緊張を強め、クロワールもまた興味深げな顔でアルテューヌとイストワールの二人を見つめる。

 ぼんやりと光を放ち始める、イストワールの本。開いたページをなぞるようにアルテューヌは指を動かし、それが軌跡になるようにして光が零れる。何かが起こる、何かが始まる…そんな雰囲気を、本とアルテューヌは醸していく。

 

「違う…これも違う…やっぱり手探りでやるのは、骨が折れそうね…。でも……」

 

 何かを探すような、アルテューヌの声。時折そんな呟きを漏らしながら、アルテューヌは集中を続ける。

 暫くの間、クロワールはそれを何も言わずに見ていた。手間取る事は予想出来ていたようで、のんびりとアルテューヌを眺めていた。だが次第に、その表情は変わっていく。段々と、違和感を抱いたように変わる。

 

「…おい、ネプテューヌ。ちょっと時間掛かり過ぎじゃねーか?」

「……っ…分かってる、分かってるわ…」

 

 返答するアルテューヌの声に滲むのは、焦りの感情。尚もアルテューヌは続けるが、イストワールの本がぼんやりと光を灯した状態からは一向に変わらず、集中していたアルテューヌの顔にも焦燥が浮かんでいく。

 

「……くっ、どういう事なの…!?どうして、こんな…!」

 

 そして遂に、アルテューヌは本から手を離す。焦りに加えて困惑も混じったような声を発し、先程まで本に触れていた右手を見つめる。

 

「やり方は間違っていない筈、なのにどうして…どうしてこんな、入り口の段階で……」

「入り口…っつーと、原天界帰にまつわる領域自体が見つからねーのか?…まあ、落ち着けよ。膨大な情報の中から探さなきゃいけねぇのは最初っから分かってた事だろ?」

「だから、分かってるわ…!けど……」

「けど、なんだよ?焦りゃ見つかるのか?そもそもお前は、焦らなきゃいけない程今追い詰められてんのか?」

「……そうね、貴女の言う通りだわ。…ふぅ…」

 

 言い返そうとするアルテューヌを制する、クロワールの冷静な言葉。それを受けたアルテューヌは言葉を詰まらせ…しかしその指摘によって、落ち着きを取り戻す。仕切り直すように息を吐いて、それから再び指を当てがう。

 

「…確かに、意外と良識的な事を言うんですね

(´・∀・`)」

「なんか上手くいってなくて焦る…なんて、見てても面白くねーからな」

 

 当然だろ、とばかりに肩を竦めるクロワール。その間にアルテューヌは再び気持ちを整え、またゆっくりとページをなぞる。光も今一度、本へと戻る。

 今度こそ上手くいくだろう。クロワールは、そう思っていた。一筋縄ではいかないだろうが、一度実体験として難しさを把握した上で、落ち着きを取り戻したアルテューヌならば、きっと出来ない事はない…確かにそう考えていた。…だが……

 

「…駄目…やっぱり見つからないわ…。一体、どうして……」

 

 焦り、困惑…更にそこへ、狼狽すらも混じる。勿論一度目も上手くいかない事で焦りを抱いた。しかしそれを踏まえた二度目すらもというのは、一度目以上に『何故』という思いが強くなり、どうしても集中出来なくなってしまう。

 

「おいおい…どうしても何も、原天界帰がイストワールに仕込まれてるのは間違いねーんだろ?何か、探し方を間違えてるんじゃないのか?」

「そんな訳はないわ。さっきよりじっくり、しっかり洗い直した筈だもの…まさか、まだ何か足りないの…?アクセスする為の鍵か何かが必要…みたいな、そういう事だって言うの…?」

「んだよ、じゃあ原天界帰はお預けか?ったく、お前も詰めが甘いな…」

「貴女だって、こうなる事は予想出来なかったんだから同じでしょう?…けど、いーすんはここにいるんだもの。たとえ時間がかかろうとも、手間取ろうとも、こっちにいーすんがいる限り必ず……」

 

 

 

 

 

 

「──いいえ、無理ですよ( ̄ー ̄)」

 

 落胆した様子の、クロワールの声。それに若干不満を抱きつつも、再度冷静さを失うなどという事はなく、心に余裕を残すアルテューヌ。原天界帰の要となるイストワールが自分達の側にいる以上、後一歩である事は変わらない。その一歩さえ得る事が出来れば、それで勝利は確定するのだから。そんな風に、クロワールへと言葉を返し……されどそれは、遮られる。されどもその言葉は…イストワールに、否定される。

 

「…いーすん…?急に、何を……」

「どれだけ試しても、どんなに時間を掛けても、アルテューヌさんがここで原天界帰を為す事は出来ません。出来は、しないんです(´ー`)」

「…それは、どういう事?いーすんは…何を知っているというの?」

「何を知っている、ですか…それで言えば、むしろわたしは知らないからこそ、出来ないんです。…ごめんなさい、アルテューヌさん。わたしは…貴女に、謝らなくてはいけない事があります(´・ω・`)」

「謝らなくちゃ、いけない事……?」

 

 出来ないと断言するイストワールの、含みのある返答。更に発した『謝らなくてはいけない事がある』という言葉で、アルテューヌもクロワールもイストワールを見つめる。そしてイストワールもまた、アルテューヌを見つめ返し……言った。

 

「アルテューヌさん、わたしは……──貴女の知るイストワールでは、ないんです(´・ω・`)」

 

 一瞬たりとも目を離さぬまま、静かに告げるイストワール。その言葉に、アルテューヌはぽかんとなり……しかしその意味に気付くと共に、目を見開く。

 

「そんな…まさか、じゃあ…貴女は……」

「はい。…初めまして、アルテューヌさん。わたしはイストワール。──神次元ゲイムギョウ界のプラネテューヌで、女神を支える者です(。・ω・。)」

「……──ッッ!」

 

 佇まいを正しての、イストワールからの挨拶。決定的なその言葉に、真実に、アルテューヌは言葉を失い後退る。

 そう。彼女はイストワールであって、イストワールではなかった。確かにイストワールではあるが…信次元のイストワール、原初の女神によって創り出されたイストワールではなく、神次元の…異なる次元の、異なる出自を持つ『別次元の同一人物』なのであった。

 

「…は、はは…ははははははっ!そうか、そういう事かよ!ははッ、そりゃ確かに出来ねぇ訳だ!どんだけ探しても、原天界帰にまつわる領域が見つからねぇ訳だ!だってそもそも、『神次元のイストワール』はそんな能力仕込まれてる訳ねぇもんな!仮に出来たとしても、その場合起こるのは『神次元の歴史』を参照した原天界帰になっちまうもんな!こりゃ一本取られた、上手い事やってくれたなイストワール!」

 

 目の前にいるのが、自分の知る存在ではなかったという事にアルテューヌが唖然とする中、どういう事かを理解したクロワールは心底愉快そうに笑い始める。腹を抱えて、笑い転げる。クロワールもまた、誤解していた側…にも関わらず、怒る様子は微塵もない。

 

「…随分と、楽しそうですね(´・_・`)」

「そりゃお前、まんまと騙されちまったからな!…分かってるだろ?俺は別に、今ある信次元をどうこうしたい訳じゃねぇし、ネプテューヌ…いや、アルテューヌの望みを叶えてやりてぇ訳でもねぇ。上手くいこうが騙されようが、面白きゃそれでいいんだよ」

「…いつから、すり替わっていたの…?どうして神次元の貴女が、信次元に……」

「どうしてって、そりゃ原天界帰をさせない為の…今みたいに、万が一攫われた場合に備えての防衛策だろ。単にさせないだけなら、ここのイストワールがどっかに逃げるか隠れるかすればいいだけだが…ははぁ、さては最初から騙す気だったんだな?信次元のイストワールと入れ替わる事で、俺達に誤認させようとしてたんだな?」

 

 一頻り笑った後、ふっと冷静な顔になったクロワールは言葉を返す。まだ動揺の抜けないアルテューヌに、神次元のイストワールがここにいる理由…その推測を自ら話す。そしてイストワールは…小さく、頷く。

 

「ほんと、上手い事やってくれた…いいや、上手い事いったもんだぜ。同じイストワールっつっても、次元によっちゃ外見が違う…例えばお前やここのイストワールより、ぱっと見で分かる程大きいイストワールもいる訳だしよ」

「…外見が違う、ですか…クロワールさん、それは貴女も……(´ω`)」

「おっと、その話はなしだ。どうしてもしてぇってなら、仕方ねーが…今はそんな余談より、話したい事があるみたいだからな」

 

 ちらり、とクロワールが横を見やる。そこにいるのは、アルテューヌであり…アルテューヌは、再びイストワールに視線を向ける。

 

「…最初から、お見通しだったって言うの?」

「いえ、アルテューヌさん…それに原天界帰に対する守りの策としてわたしが入れ替わっていたのは、クロワールさんの言った通りですが…まさかこんなにも早く仕掛けられるとは思っていませんでした。貴女の行動の早さに出し抜かれたのは事実です(´・ω・`)」

「そう…。…でも…わたしが言えた事じゃないけど、酷いものね。幾ら取り返しの付かない事態になる事を防ぐ為とはいえ、直接関係している訳じゃない貴女を、身代わりとして信次元に呼び寄せるなんて。それに、こんな策をいーすんが考えたり、ましてや実行する訳がない…他の誰かが思い付いたのね?思い付いて、やらせたのね?」

「ほんとにお前が言える立場じゃねーな。攫ってる訳だし、正に盗人猛々しい……っと、悪ぃ悪ぃ。謝るから、そんなおっかない目を向けんなって」

 

 声音に怒りを帯びるアルテューヌに対し、クロワールは煽る。単にそういう表現になってしまっただけか、はっきりと煽る意図があったのかは分からないにせよ、アルテューヌの精神を逆撫でするような言葉を口にし…結果睨まれた事で、両手を上げて降参のジェスチャー。一方のアルテューヌもまた、言い方はどうあれその指摘自体は否定出来ないという事なのか、クロワールに何か言う事はなく…そんな中でおずおずと、イストワールが口を開く。

 

「…その事、なんですが…もう一つ、謝らなくてはいけないんですm(_ _)m」

 

 もう一つの、謝らなくてはいけない事。それが意味するのは、他にもまだアルテューヌ達を驚かせるような、何かがあるという事。それは一体何なのか、何がまだあるというのか。アルテューヌもクロワールも身構えるようにしてイストワールを見る中、イストワールは自ら本のページを捲り…栞の様にして挟んであった、一枚の紙を本から取り出す。

 

「……?その紙に、一体何が……」

「…うん?その気配…って、ヤベぇ!アルテューヌ、その紙切れをイストワールから奪えッ!」

「え?…何か分からないけど、させない…ッ!」

「いいえ、もう遅いです…!(`・ω・´)」

 

 一見すれば、それはただの折ってある紙。何ら変なところなどなさそうな、紙切れ一枚。アルテューヌは勿論、クロワールもまた初めこそそう思っていたが…次の瞬間それが何なのか気付き、表情を豹変させる。アルテューヌへと、声を上げる。

 突然の指示、唐突の言葉。普通ならばいきなりそんな事を言われても、対応など出来る筈もないが…そこはやはり女神、理解が追い付かずとも反射的にアルテューヌはイストワールから取ろうとする。だがそれは、女神の反射的行動の鋭さは、イストワールも熟知していた。だからこそ、イストワールはアルテューヌの手が届くよりも一瞬早く、手にした紙へと力を込める。直後、紙は開き……斬撃が、煌めく。

 

「……ッ!」

 

 寸前のところで手を引っ込め、後ろへ倒れるようにして斬撃を躱すアルテューヌ。続けざまに地面へと手を突き、後方回転する事によって距離を取りつつ立て直す。

 そうして構え直したアルテューヌが見やる正面。警戒と共に向ける視線。その先に立つのは…一人の女性。

 

「…そう…そういう事だったのね……」

 

 手にした大太刀を向けながら、アルテューヌは視線を鋭くさせる。対するもう一方の存在もまた、同じように大太刀を構える。

 風になびく、紫の髪。ゆっくりと揺れる、()()の三つ編み。イストワールとクロワール、それぞれが見つめる中、現れたもう一人とアルテューヌは……二人のネプテューヌは、対峙する。




今回のパロディ解説

・「〜〜プラネテューヌの中心でいーすんと叫んだり〜〜」
世界の中心で、愛をさけぶのパロディ。この通り、正確にはで読点が付いたら、「さけぶ」が平仮名だったりします。パロネタを組み込む都合で多少形を変えたりするのはよくある事です。

・「〜〜最初の選択肢で〜〜即エンディングを迎えたり〜〜」
ドラえもん ギガゾンビの逆襲におけるエンディングの一つの事。こういう斜め上って意味でびっくりな展開をドラえもんのゲームが採用してるのは、それこそ少し驚きですね。

・「え?…何か分からないけど、させない…ッ!」
ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風に登場するキャラの一人、ディアボロの名(迷)台詞の一つのパロディ。喰らえ、とさせない、の違いはありますが、句読点の存在一つで台詞の印象が変わりますね、これ。
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