超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown 作:シモツキ
まさかの合体と巨大化。泥だらけにされた恨みを晴らしに来た…というか、わたし達の事を明確に敵だとして襲い掛かってきたイキナリニワトリ。その巨大化したイキナリニワトリを倒す為、特殊個体がいたのであればその個体を捕まえ依頼を達成する為、わたし達は巨大イキナリニワトリとの交戦に入った。
見た目は完全に鶏。巨大ではあるけど、やっぱり鶏。合体と巨大化をしてるけど、多分モンスターですらない鶏。でも、油断は出来ない。絶対に出来ない。何せ、この巨大イキナリニワトリは……強い。
「茜!影!お願いッ!」
体重と勢いを丸ごと乗せたような突進蹴りを、連結剣で正面から受ける。耐える事はせず、一瞬だけ受け止め可能な限り衝撃を逃がした上で、わたしは吹っ飛ぶ事によって身体への負荷を最小限に抑える。
無論、ただ攻撃された訳じゃない。わたしは防御しながらも声を上げ…吹っ飛ぶわたしと入れ替わるように、茜と影の二人が強襲。影が突っ込む…と見せかけて急上昇からの射撃を掛け、急上昇した影の背後から巨大イキナリニワトリの真正面へと躍り出た茜が、胴へと大剣を叩き込む。
「よーい、しょっとッ!」
「次、来るぞ…!」
斬り付けながら、茜は巨大イキナリニワトリの脇を抜けていく。その茜を狙うように振り向くニワトリに対し、空にいる影はそのまま牽制射撃を仕掛け…動きが一瞬鈍った隙に、ビッキィが両者の間に割って入る。今度はビッキィが突進を受けて、動きの止まったニワトリを魔力弾が爆撃する。その射手は…勿論、ディールちゃんとエストちゃん。
「ディーちゃん、離脱!」
「お願いします、ネプテューヌさん…!」
二人で無数の魔力弾を打ち込んだディールちゃんとエストちゃんは、ぱっと左右に分かれて散開。直後に二人の上空からネプテューヌが飛び込み、上段斬りで巨大イキナリニワトリへ追撃。それ自体はニワトリがバックステップを掛けた事で浅い一撃に留まり、すぐさま反撃の蹴りを受けてしまうも、それはネプテューヌの…わたし達の、想定内。
「今よ!」
「でぇいッ!」
注意がネプテューヌへと向いた機を逃さず、ビッキィが跳躍からのアッパーカット。わたしも連結剣の斬っ先を向け、圧縮シェアエナジー弾を側面から撃ち込む。巨大イキナリニワトリは一瞬ぐらつくも、すぐにその場で暴れ出し、ネプテューヌとビッキィは速攻で退く。
その巨体からは想像出来ない程のスピードと、そのスピードを存分に活かした突進攻撃が驚異的な巨大イキナリニワトリ。それに対しわたし達は、正面からのぶつかり合いに長けるわたしとネプテューヌ、ビッキィの三人が突進を受け、ディールちゃんとエストちゃん、茜と影の四人が反撃を仕掛けるカウンター戦法でここまで戦ってきた。今のところ上手くいっているし、ダメージもそれなりに蓄積させられていると思う。…けど……。
「…ふー、ぅ……」
「…大丈夫ですか?セイツさん」
「大丈夫よ。けど……」
「当たり前ですけど、そういつまでもは続けられませんね…」
旋回しながらの連携遠隔攻撃でエストちゃんと影が足止めをしてくれる中、わたしは調子を整えるように息を吐く。ディールちゃんへと答えたわたしに、ビッキィが続く。
正面戦闘に長けている…比較的タフだと思うわたし達だけど、破壊力抜群な突進攻撃を何度も受けていたらそれなり以上に消耗する。今はまだまだやれるけども、この消耗は無視出来ない。
そして、それ以上に問題なのは…巨大イキナリニワトリの方も、まだまだやれそうな事。向こうも向こうでかなりタフな事。女神のわたしがニワトリなんかにスタミナ負けする訳ないでしょう?…と言いたいところだけど、散々斬られたり撃たれたりしてる筈なのに未だスピードが殆ど落ちていない事を考えると、あまり楽観視する事は出来ない。
「茜、イキナリニワトリの状態は!?」
「まだ無理っぽいかなー…!」
突撃を受けて跳ね飛ばされたネプテューヌは、地面に大太刀を突き立てる事で勢いを殺しつつ声を上げる。飛翔する斬撃を放ってその場から飛び退いた茜は、残念だけど…と言うように返す。
「つまり、まだまだ気張らないといけないって訳ですね…!」
「セイツおねーさん達、まだいける?そろそろわたしが代わっても構わないわよ?」
「斜め左下に同じく。何度も真正面から受けるのは厳しいが、上手く誘導して上手く勢いを削って上手く受け流せば何とかなるだろう」
「そんな上手くいくものなの?」
『やってやれない事はない(わね)』
大変だけど、弱音は吐けない…とわたし達が構え直す中、片や着地し、片や宙に留まったままでエストちゃんと影は言う。…この二人、多分本当にやれるわね……でも。
「遠隔攻撃で位置を問わずに反撃出来る貴女達が壁役をやるんじゃ、宝の持ち腐れよ。だからもう暫く、ぶつかり合いはわたし達に任せて頂戴」
「そういう事です。わたしもセイツさんも、殴り合いの方が多分強いですしね」
「という訳で、また来るわよ!」
空からのネプテューヌの声が聞こえたのとほぼ同時に、巨大イキナリニワトリが肉薄してくる。エストちゃんと影が離れる中、わたしは蹴りに、鉤爪に斬撃をぶつけて防御。ビッキィも一歩踏み出し、横蹴りで真っ向から迎え打つ。これまでと同じ壁役を、この瞬間は意図せず二人同時に行い…巨大イキナリニワトリは、ぐらつく。
(……!これは……!)
すぐさま皆が反撃を放ってくれる中、わたしとビッキィは大きくバックステップを取りつつ、顔を見合わせる。これならば、いいかもしれない。どの程度効果があったかは分からないけど、ダメージは稼げている筈。巨大イキナリニワトリも、消耗してないなんて事はない筈。だったら…今の作戦から、更に踏み込む価値はある。
「皆、提案があるわ!」
「提案…?…分かりました、説明は戦いながらでお願いします…!」
矢継ぎ早に作り出した剣を射出するディールちゃんの言葉に頷き、イキナリニワトリの眼前へ躍り出る。注意を引き、わたしに突進をさせて、狙って弾き飛ばされながら思い付いたプランを皆へと伝える。
大して複雑な作戦じゃない。やろうと思えばすぐにでもやれるだろうし…けれど後からじゃ、上手くいかない。まだ余裕のある、全力で動ける状態でないと十分な効果を発揮しないであろう、そんな作戦。それをわたしは皆へ伝え……返答が、すぐに届く。
「へぇ…確かにこのまま同じ事を繰り返すよりも良さそうね。自分は乗るわ」
「わたしも乗ったわ。ずっと受け身っていうのも好みじゃないしね」
「同じくさんせー!いつでもいけるよ!」
反対の声は無し。ディールちゃんと影も頷き、作戦が決まる。そして、即座にわたし達は実行に移る。
「ディーちゃん!せー……」
「の…ッ!」
巨大イキナリニワトリを挟むように左右へ展開したディールちゃんとエストちゃんは、同時に杖を振り抜く。魔力の光が軌跡を作り、そこを起点に激しい水流と猛烈な突風がニワトリを襲う。
とはいえ勿論、それ自体は大したダメージにならない。これまで何度も斬ったり撃ったりしても尚勢いの衰えない巨大イキナリニワトリなんだから、得られる効果は動きを邪魔し、視界を制限する事位。だけどそれでいい。初めから狙いは、それそのもの。
「来ますよ、ネプ姉さん、セイツさん」
「そうね。じゃ、真ん中は任せたわ」
「えぇ、任せるわビッキィ」
「え、え?ちょっ、なんでわたしが…ってあぁもう時間がない…!」
吹っ飛んだ先から立て直し、水流と突風が襲っている間に二人と合流したわたしは、ネプテューヌとアイコンタクト。乗ってくれたネプテューヌと共に軽くビッキィを弄りつつ、二振りの得物を大剣へ連結。両足で地面を踏み締めるようにしながら剣を構え…次の瞬間、狭まった視界で…誘導された視界でわたし達を捉えた巨大イキナリニワトリが、もう何度目かも分からない突進を仕掛けてくる。
迫るニワトリ、迫り来る蹴り。ここから狙うのは勿論ガード。だけどもう、ただ受けるだけじゃない。受けるのはわたし一人でもない。わたしにネプテューヌにビッキィ、三人で息を合わせ……真っ向から、真正面から蹴りもニワトリも打ち返す。
「畳み掛ける…!」
「跳ね飛ばすよッ!」
女神二人と常人離れした三人目の同時攻撃は、巨大イキナリニワトリの突進蹴りを受け止め、逆に弾き返して余りある。そしてニワトリが大きく仰け反る中、わたし達を飛び越えた影が肉薄を仕掛け銃剣で刺突。更にブースターを吹かし、食い込ませた銃剣から弾丸を撃ちつつ強引に押す。
ここまでなら、これまでと同じ。ただ三人で押し返しただけの事。けれど今度はそれだけじゃない。押し込む影に、赤い光と共に空を駆ける茜が追い付き、ニワトリへの意趣返しをするが如く空中突進から大剣を突き刺す。二人でニワトリを勢いのままに押していき…引き抜くと共に蹴り飛ばす。そうして二人は素早く離れ…直後に飛来したのは氷塊。
「程々に押し潰す!なーんて、ねッ!」
「ほ、程々って……」
頭部と背部を殴り付けるように、真上から二つの氷塊が打つ。その大質量で巨大イキナリニワトリを地面へ打ち付け…次の瞬間、氷塊は炸裂。細かくなった氷の破片が、散弾の様に激しくニワトリへ追い討ちを掛ける。
「まだまだいくわよッ!」
氷塊に打たれ、破片の猛打を受けようとも、巨大イキナリニワトリは崩れない。地面を蹴るように身体を跳ね上げ…その顔面に、ネプテューヌのエクスブレイドが突き刺さる。双刃刀形態へ組み替えた連結剣をブーメランの様に投げ放ったわたしは突撃し、食い込んだ連結剣を掴んでそこから横に斬り捌く。わたしが転がり進路を開ければ、印を結んだビッキィの火球がニワトリの胴体に直撃する。入れ替わり立ち替わり、息吐く間を与えず怒涛の攻撃を仕掛け続ける。
走らせない。攻撃させない。動く時間を与えない。…それが、わたしが皆に伝えた作戦。細かさなんて何もない、ターンを回さない追撃の連打。これまでは巨大イキナリニワトリの速さと破壊力が凄まじいからこそ、『受ける』前提のカウンター、後手から反撃するスタンスで戦ってきたけど…偶然決まったビッキィとのダブル迎撃で、一人で対抗するのは厳しくても、力を合わせれば上回れるって分かった。だからこその、トリプル迎撃。巨大イキナリニワトリは速い。その勢いの乗った攻撃は凄い。けれどその強みを活かせないようにしてやれば…残るのは、ただのデカい的。
「セイツおねーさん!茜!」
「えぇッ!」
「合わせるよッ!」
再度連結剣を大剣状態へと変えたわたしは、強く地面を蹴って飛び上がり…茜と、大剣を抜いたエストちゃんと、三人で武器を振り下ろす。三連大剣上段斬りを、立て直して突進を始めようとしていた巨大イキナリニワトリへお見舞いする。
半端な攻撃じゃ、タフな巨大イキナリニワトリは止まらない。連撃の為に皆バラけてしまったからこそ、再びニワトリに走り出されてしまったら、もうさっきのようにはいかない。だから途切れる事なく、体勢を崩し続ける必要がある。難しい事ではあるけど…わたし達なら出来る。皆となら、出来る。
「いいよ、皆!合体が揺らぎ始めてる!」
「つまり、後一歩って訳ですね…!」
飛び退きながら茜が声を上げ、背後からビッキィがドロップキック。三重の大剣攻撃を受けた直後の蹴りで、巨大イキナリニワトリは前方によろけ…けれど次の瞬間、巨大イキナリニワトリは鳴く。それもこれまでとはレベルの違う、咆哮が如き割れんばかりの鳴き声を響かせる。そして驚いたわたし達が一瞬止まってしまう中、ニワトリは脚で地面を踏み切り…飛び上がる。猛烈に翼をはためかせて……飛ぶ。
『に…鶏が飛んだぁ!?』
「いや違う、宙に止まっているだけだ…!要は某踏ん張ってるジャンプみたいなもんだ…!」
力強く飛んでいるように見えて、その実ばたついているだけ。けれど不味い。ここまで続いていた連撃が途切れた。後一歩だからこそ、ここで流れが切れるのは一番良くない。
ならばどうする。なら何としてでも、流れを逃さないようにするしかない。そして今の体勢からわたしが出来るのは…突進だけ。ただの単発斬撃や刺突じゃきっと止まらない以上、反撃を貰う覚悟で全力の体当たりをぶつけるしかない。
大丈夫。一発位なら、諸に蹴られたとしても耐えられる。鉤爪で抉られたとしても…まあ、ちょっと前に現実で肩を刺し貫かれたばっかりだから、あれと似たようなものと思えば我慢も出来る。やる意思があり、出来る可能性もあるというのなら、後は実行するだけ。その通りにしてみせるだけ。…そう、思っていたけど……
「セイツさん、退いて下さい!邪魔です…!」
「え?きゃっ…!」
全力の体当たりをぶつけようと飛び出した直後、下から、地上から吹雪が噴き上がる。反射的にわたしが両脚を前へ振り出し、脚のプロセッサの圧縮シェアエナジーカートリッジを使って逆噴射の様に急減速と緊急回避を掛ける中、下からの吹雪が巨大イキナリニワトリを襲う。吹雪はニワトリの動きを鈍らせ、更に先の水流から翼や毛に残っていた水滴を氷結させる事で……巨大イキナリニワトリを、落とす。
「やるわね、ディールちゃん。…そういえば、さっきから攻撃が控えめだとは思っていたけど…こういう事態を想定して、仕込みをしていたの?」
「えぇ、まあ。…尤も、影さんの助言ありきですけどね」
ネプテューヌからの称賛に答えつつ、着地したディールちゃんは杖を地面に突き立てる。その瞬間、吹雪の噴出口となっている地点、そこに展開された青白い魔法陣はより強く輝き、吹雪の勢いが増す。完全に、巨大イキナリニワトリは落ちる。
壁役三人…つまりわたし達も攻撃に参加するようになった事で、アタッカーは十分足りている状態になった。だから『万が一』に備えておいてほしい…影は、ディールちゃんにそう伝えたらしい。そしてその読み通り、万が一は起こり…その上で、防がれた。
「ふぅん…一応訊くけど、どうしてわたしじゃなくてディーちゃんなの?」
「そりゃ、サポート的な立ち回りならディールの方が得意だろ?」
「…ま、それはそーね。それより……」
「ああ、それより今は攻めるぞ。いや…ここで決めるぞ…ッ!」
身を翻した影の視線。その意味と意図を理解したわたしは、再度突進。肉薄の直前に、ディールちゃんを見つめ…もう一度、吹雪は強まる。最後の一押しとばかりに、墜落した巨大イキナリニワトリを一瞬浮き上がらせ…生まれた隙間に、滑り込む。目一杯地面を蹴り、下からサマーソルトキックを叩き込む。蹴り上げ、更に浮かし、大剣状態の連結剣から圧縮シェアエナジー弾を撃ち込んで、墜落したニワトリを打ち上げる。
「機は熟したわッ!総員、一斉攻げ──」
「一斉攻撃よッ!」
「あっ、ちょっ……もうッ!」
宙へ飛ばした巨大イキナリニワトリを見据え、連結剣を双剣へと戻しながら高らかに宣言…しかけたその時、一番いいところを持っていかれた。表情からしてボケやわざとじゃなく、本当に偶々なんだろうけど…これを取られた悲しさったらない。
……なんて、嘆いていられる状況ではないのも事実。こんな事を気にして攻め時を不意にするなんて愚の骨頂。だから、今やるべきは一つ。今やるべきは…決着の為の、全力攻撃。
『これで……』
爆ぜるような加速で以って、ビッキィが突進。空では上昇していたネプテューヌが急降下を掛け、飛び上がった茜は大剣に赤光を纏わせる。ディールちゃんとエストちゃんは、二つの巨大な魔法陣を空に描き、影はここまで温存していた六基の遠隔操作端末を放つ。わたしもまた、翼を広げてニワトリへ迫る。圧縮シェアエナジー解放の加速を掛けながら、左右の刃を同時に突き出す。そして……
『終わりだッ!!』
双剣、鉤爪、大太刀、大剣。二条の白い閃光と、黒い光芒。位置やタイミングは、決めていない。全く打ち合わせなんてしていない。それでも個々の勘と、経験と、皆ならきっとという信頼で以って、わたし達は全身全霊の同時攻撃を叩き込む。同じ瞬間に、別々の部位へ、トドメの一撃を全力で放つ。
掌に感じる、確かな感触。狙い通りに、芯で捉えた事を示す感覚。打ち上げた巨大イキナリニワトリへと、七人の攻撃が迸り……ニワトリは、崩れる。割れるように、爆発するように羽が飛び散る。
「…これにて勝利、ね」
ゆっくりと着地する中、吐息を漏らすように言ったエストちゃん。舞い散るのは、羽だけじゃなく…合体していたイキナリニワトリ達も、バラバラになっていた。目を回し、ひっくり返っていた。…あ、バラバラって一つになっていた状態から元に戻った、分離したって話よ?別にグロい状態になってたりはしないわよ?
「ふぅ。これまで遭遇してきた中で、一番強い鶏だった気がするわ」
「セイツ、貴女は過去にも鶏の強さを感じるような機会があったの…?」
「言葉の綾よ、言葉の綾。それより茜、この中に特殊な個体はいそう?」
「んー、ちょっと調べてみるね。あかねぇリサーチ!」
細かいところを突っ込んでくるネプテューヌに軽く肩を竦めてみせつつ、茜に訊く。茜はじっくりと、大量に転がっているイキナリニワトリの大群を見回していって…叫ぶ。
「よく分かんない!」
「あ、分からないんですね…というかこれまで、状態確認とかする時に技?…の名前なんて言ってましたっけ…?」
「あはは、今のはノリだよノリ♪けど、これは…!…って感じの個体はいないみたいだし……」
「最後に現れたのが、合体させる能力を持った特殊個体…っていうわたしの予想は外れていたみたいね。ざーんねん」
残念、と言う割には大して気にしていない様子のエストちゃんに、やり取りをしていたディールちゃんと茜は顔を見合わせ揃って苦笑。そんな中、影もまたイキナリニワトリ達を眺め…呟く。
「合体能力は特定の個体が行使出来る訳ではなく、数さえ揃えばどの個体でも行える…のかもしれないな。それによく考えれば、仮に合体能力が固有のものだとしても、それを指して『一目で分かる』と評するとは思えない。…どうやら巨大化というインパクトの前に、俺含めて思考が浅くなったみたいだな」
「…クールに言ってますけど、要は見当違いな勘違いをしてたって事ですよね?」
「…まぁ、そうなる」
一瞬間を置き、ビッキィの指摘を肯定する影。そして、今度は数拍の間が空き…わたし達は、溜め息を吐いた。…戦闘回避は困難な状況だったとはいえ…まさか、成果無しの骨折り損で終わるとはね……。
「…じゃあ、どうします…?一先ず全部の個体に泥をかけておく…いや、目を回していますし捕まえておきます?氷漬け…は可哀想なので、待っていてもらえるなら、鋼の魔法で工夫して即席の檻を作ってみますけど……」
「逃がした結果、また合体して襲ってきた…なんてなるのは面倒だし、捕まえておいた方が……と思ったけど、一ヶ所に集めておいたらそれはそれで合体しそうよね…。…わたしも少し可哀想だと思うけど…氷漬けにしておく?」
「わたしは別にいいわよ?氷漬けでもフライドチキンでも、それこそ煮るなり焼くなり好きに……あ」
気にするディールちゃんやネプテューヌとは対照的に、何ともエストちゃんはあっさりした様子。そして何故か、エストちゃんは好きにされる側の言い方をしようとし…次の瞬間、目を丸くする。
一体何に驚いたのか。それは訊くまでも、考えるまでもない。だって、わたしも気付いていたから。見えていたから。…イキナリニワトリが、ぱちっと目を覚ましたのが。それも瞬く間に、一斉に起きていったのが。
「…やっぱり、流石鶏…目覚めるのが早い……」
「いやビッキィ、感心してる場合じゃないわよ…!?くッ、再合体される前にもう一度──」
再度戦うなんて勘弁。こっちも消耗してるし、何より無駄だと分かってる戦いをもう一度なんてやりたくない。だからわたしは、跳ね起きたイキナリニワトリ達に仕掛けようとし……けれどそれよりも早く、ニワトリ達は動いた。揃ってくるりと背を向け、一斉に逃げ出していった。…どの個体も、卵を撃ちまくりながら。
『…………』
ものの数秒で、彼方まで逃げていくイキナリニワトリの大群。砂煙が舞い上がり、それも風で飛ばされていき……残ったのは、そこかしこに転がる大量の卵と、黄身&白身塗れになったわたし達だけだった。
「……ねぇ、もう帰らない…?」
「依頼の受注者がそれを言っちゃ駄目でしょう…。…気持ちは分かるけど……」
べたべたのどろどろ。気分は最悪、とても最悪。思わずわたしは心の声が漏れ…ネプテューヌに突っ込まれたけど、皆内心同意しているような顔だった。…ほんと、何なのこの依頼…何なの、今回の仮想空間……。
「…まあ、気持ちを切り替えていきましょう。確かに今も気分最悪ですが、全身が野菜の液体肥料塗れになるよりはまだマシですし…」
「えぇ…?今の状況も大概ですが、一体何があったらそんな事になるんです…?」
「…はは……」
怪訝な顔をするディールちゃんからの問いに、ビッキィは遠い目をする。一体何があったのか。何がどうしてそうなったのか。…それをわたし達は、訊かない事にした。
「けどほんと、こっからどうするのよ?流石にこのままじゃ気持ち悪いし、一回出直す?それとも…水、被っとく?」
「あー、結構本当にそーしてほしいかも…。…っていうか、二人は大丈夫かな?イキナリニワトリ、二人の方には行ってない…よね?」
「そっちには行っていない…と思うけど、一応確認しておいた方が良さそうね。…わたし達、むしろそっちの方が大丈夫?って言われそうな見た目になってるけど……」
「まあ、休憩も兼ねて一度合流しても良さそうだな。仮に何事もなくとも、子供を二人だけで放置するのは……」
「…えー君?」
離れた場所にいるルナとグレイブに合流する前に、エストちゃんの言う通り一度洗い流した方が良いかもしれない。そう思う中で、不意に口を閉じる影。顎に親指と人差し指を当て、考え込む様子の影へ茜は呼び掛け…影は、顔を上げる。
「質問だ。二人…いや、ルナは最後に何と言っていた?」
「…輝く未来を掴むまで、夢はまだ終わらない?」
「それは某アイドルユニットの片割れだろうが…!長音符は余計だ…!」
「盾は守るだけじゃないってね?」
「それも違う、長音符が付いてるどころかルまで増えてるじゃないか…!」
「三年振りか。イストワール学園、ただいま?」
「だから違う…というか、それは俺の最初の台詞じゃないか…!なんで俺の…ってあぁ、凍『月』だから…って、そんな一捻りしたボケはどうでもいい…!」
「サブカルチャーは広く浅く、偶に深くがモットー?」
「最早それは誰の台詞かも分からねぇ…!」
ビッキィ、エストちゃん、茜、そしてわたしによる、ここぞとばかりのボケ四連撃。その悉くに突っ込んだ末、「いい加減にしろよお前等…」とばかりにギロリと影は睨んでくる。…これ以上ボケたら、普通に殴られそうね……後茜、ちょっとゾクゾクしてる顔をするのは止めなさい。
「ディール、ネプテューヌ、何と言っていたか覚えてるか?」
「あ、もう四人には訊かないのね。…確か…ひよこさん、だったかしら……」
「いや、ひよこじゃなくてぴよこって言ってた気がします。…どっちでもいいかもしれませんが……」
「あぁ、ぴよこだったな。だが指しているのはひよこだろう。そして、もう一つ…いや二つ確認だ。俺達が相手していた鶏の名前と、その特徴はなんだった?」
「……?イキナリニワトリでしょう?」
「えぇと、特徴は…足が速い事、卵を放ちながら逃げる事、合体する事…後はその名前の通り、初めから成長した姿で生まれる……って…」
『あっ…』
あ、ルナといえば「私の時みたいに、馬鹿みたいに大それた目標を、掲げて見ればいいじゃないですか」ってパターンもあったわよね。とかなんとかわたしが考える中、完全にわたし達を切り捨てて、残る二人へ訊く影に、ディールちゃんとネプテューヌは答えていく。この流れで全くボケないネプテューヌにまたも内心驚く中、ディールちゃんは特徴を上げていき、その生態についても触れ……次の瞬間、気付く。全員、気が付く。──初めから鶏として生まれてくるなら、ひよこなんている筈がない事に。
「…いや、でも…まさか、まさか…ねぇ…?」
ひょっとしてという気持ちと、流石にそんな事はないだろうという気持ち。その両方を抱きながら、わたしは皆と顔を見合わせ…頷き合う。ルナとグレイブ、離れていた二人と合流する。そして……
「ぴよこがね、おにわでぴょこぴょこかくれんぼ〜♪」
「…あ、おーい!ちゃんとルナのこと見てたぜ?…って、なんだそのかっこう……」
こっちに来た事に気付いて手を振ってくるグレイブと、肩を揺らして歌うルナ。そんなルナがほんわかした様子で眺める先には、歌の通りにぴょこぴょこ歩くひよこがいて……数十分後、わたし達は依頼を達成するのだった。…イリゼからもちょっと聞いた事あるけど…やっぱりルナは運が凄い……。
*
捕まえたイキナリニワトリ(ひよこ)を依頼主に引き渡し、依頼は達成となった。ルナは嫌がるかと思いきや、最後にはばいばーいと言って見送ってくれた。
そう、最後には見送ってくれた。けれど、それまでは嫌がった…という訳ではなく、暫くの間は依頼主に人見知りして、ディールちゃんとエストちゃんの影に隠れていた。…因みに、どうも人見知りはグレイブの方もしていたようで、こっちは影のコートに身体を隠して依頼主の事を見ていた。「あ、かげ君のえーに!」「逆だ逆、なんだえーって」…という、変なやり取りもこの時あったけど…それはまあ、完全な余談。
そんなこんなで、依頼は済んだ。シミュレーションも依頼の完了までを想定していたから、これで終わりでも問題ない。すぐに終わらせる事が出来る。でも…もう少しだけ、この設定でのシミュレーションを続ける事にした。後ちょっとだけ…皆と過ごす、事にした。
「二人共、これ運んでくれるかな?」
「はーい!」
「よっしゃ、ソッコーではこんでやるぜ!」
「こらこら走らない。落っことしたら大変でしょ?」
茜からのお願いを受けて、ルナとグレイブが意気揚々と持っていく。走るグレイブに注意をしつつ、ビッキィがわたし達を見て肩を竦める。そうして二人が最後に運んだもので、テーブルは埋め尽くされ…その圧巻さに、わたし達は舌を巻く。
「これはまた、なんというか……」
「えぇ、分かってはいたけど…本当に、隅から隅まで黄色だらけね…」
玉子焼きに目玉焼き、炒飯に炒り玉子、玉子サラダにかき玉汁。その他諸々エトセトラ。左を見ても右を見ても、黄色黄色また黄色。
街に戻り、仮想空間内の教会まで来たわたし達は、皆でご飯にする事にした。というか、ひよこ確保時大量に残った、イキナリニワトリの放った卵(勿論割れていないもの)を折角だから料理にしちゃおうという事になって……その結果の、玉子尽くし。全料理に玉子が使われている、正に玉子パーティー。
「ここまで一度に玉子を使ったのは、初めてだよね…」
「回収した卵の量が、既に工場とかで料理を大量生産するレベルだったしねー。っていうか、実はまだあるわよ?」
「確かに欲張って可能な限り確保してきましたけど…ま、まだあるんです?」
「全部は流石に使い切れないからねー。まあとにかく…皆、召し上がれ♪」
調理する量が量だから、という事で利用した厨房から出てくる、今回のメインシェフ三人。茜と変身魔法で大きくなった…もとい、ルナが慣れた事で戦闘以降ももう変身魔法は使っていない、ディールちゃんとエストちゃんが席に着いた事で、食べる準備は完了する。そして皆で、食事の挨拶を口にし…早速、食べ始める。
「じゃあまずは、カルボナーラから…んっ、この濃い目の味付けが美味しいわ」
「うん、オムライスも美味しい!ちょっと見てたけど、これディールちゃんとエストちゃんが作ったんだよね?」
「玉子サンドも美味いな…」
フォークを手にカルボナーラを食べたわたしに続いて、ネプテューヌと影もそれぞれに美味しいと言う。わたし達の言葉に、三人はご満悦そうな顔をし…ルナ、ビッキィ、グレイブの三人も、ずらりと並んだ玉子料理を食べて頬が緩む。
「それにしても、二人はほんと料理慣れしてる感じだったよね。料理好きなの?」
「好きっていうか、よくやってるのよ。一応普段は侍女って事になってるから。…あ、『じじょ』はディーちゃんが言った方がよかった?」
「いや、駄洒落にはそんな興味ないし…。…好きって事なら、多分わたし達より茜さんの方だと思いますよ」
「いやぁ、私なんてまだまだだよ。でもこのオムレツは自信作なんだー、食べて食べてっ!」
「…って言われてるわよ、影」
「別に俺だけじゃないだろ、後もう既に食べてる。…まぁまぁだな」
「んもー、そこは『ふっ…だけど好きな味だ』とか言ってよ〜!」
若くなっても仲の良い二人のやり取りを他所に、わたしは色々と食べていく。確かによくよく見れば、見た目の時点で上手だって料理もあれば、ちょっと形が崩れているようなものもあって、両者…ディールちゃん、エストちゃん組と茜との技術の差を感じる。そこもやっぱり、成長や若返りが反映されている…のかもしれない。
「あ、ところでディーちゃん。この目玉焼きは固焼きになってるけど、ディーちゃんが作ってたのって確か半熟…って、よく見たらこれハムエッグになってるのね」
「ふふん、それはわたしが作ったのよ?」
「…へー…じゃあ、ハムエッグは止めてスコッチエッグを……」
「なんで!?ちょっ、た、食べてよ!?確かに見た目良くないし、味付けも特別美味しいってレベルじゃないけど、普通に食べられるんだからね!?」
すーっと箸をわたしが作ったハムエッグの皿から離していくエストちゃんに、わたしはショックを受けつつ突っ込む。うぅ、酷い…多分冗談でしょうけど、だとしても酷い……。
「はは…。…セイツさんは、あんまり料理しないんでしたっけ?」
「あ…えぇ。必要に迫られたらするけど、そんな機会最近はあまりないし、必要な時も簡単に作れるものを最低限やって終わり位だしね。後何より、わたしが作るよりイリゼが作ったものを食べる方が、美味しいし嬉しいわ」
「ふふふー、今はそれが一番だって思ってるのかもしれないけど、せーちゃんも恋したら変わると思うよー?」
「恋?恋ならいつでも皆の心にしまくってるわよ?」
「…あー…うん、そーいえばそうだったね……」
「セイツのそれは、何か違うよね…何かというか、何もかも違う気がするよね……」
何を今更、と返した結果、茜とネプテューヌに微妙な顔をされるわたし。…いやまあ、わたしが特殊だってのは分かっているわよ?その自覚はあるわよ?けど、普通にやり取りしていた、真っ当に返しただけでそんな顔をされるのは、流石に少し納得がいかないわ…。
「あむっ、むぐむぐ…おいしー!」
「ぷはぁ、おかわり!」
と、そこで聞こえてくるきゃっきゃとした声。口の端にケチャップを付け、スクランブルエッグを頬張りながら食べては満面の笑みを見せるルナと、肉と玉子の二食丼を豪快に完食し、まだまだ食べる気満々な姿勢を見せるグレイブの、食欲旺盛な二人の声。その様子は、見ているだけで微笑ましくて……って、あれ?そういえば、ビッキィがやけに静かね。弄られた時の反応はともかく、普段の言動はわたしが知っている彼女より落ち着いているのが今ここにいるビッキィだし、ひょっとして食事も静かに粛々と…と、思っていたわたしだけど……
「…もぐもぐ…ふぅ。…はふぅ……♪」
実際のところ、ビッキィは食べるのに夢中になっていただけだった。何も言わず、漏らすのは吐息位で…ひたすら食べて飲んでを繰り返しては、幸せそうな顔をしていた。…そういうところは、変わらないのね。
「まー、それはそれとして…全部使った訳じゃないのに、それでも中々減らないねぇ……」
「今日来れなかった皆さんも集まれたら…というか、その全員で漸く丁度良い位かもですね…。…あの、保存の効かないのから優先的に食べてくれると助かります」
フードファイター並に食べてそうなビッキィは勿論、わたしも(というか信次元の女神は皆)それなりに食べるし、他の皆も少食って感じではないけど、それでも元が多い分、まだまだ手の付けられていない料理は沢山ある。それを見て肩を竦める茜に対し、ディールちゃんが軽く呟く。
他の皆…勿論それは、前に集まってくれた皆の事。今回いないのは、そういう設定…人数や人選も特に指定しなかった結果であり、そこにそれ以上の理由はない。だけどもし、皆が…それにイリゼもいれば、もっと違う展開になっていた筈で……間違いなく、もっともっと大騒ぎになっていたと思う。騒々しくて、でも賑やかな時間になっていたと、わたしは思う。
「それならさ、ここで一回味変…じゃないけど、軽くスイーツを食べて気持ちも口の中もチェンジしない?」
「スイーツ?あー、いいわよ。デザート系も色々作ってる…というか、デザート系は卵を使う事が多いから結果的に色々になったし、その中から何か…って、ネプテューヌちゃん?」
ここで一度スイーツを。その提案に賛成をするエストちゃんだったけど、その返答が終わるより早く、提案者のネプテューヌは立ち上がって厨房の方へ向かっていく。一体何事かとわたし達が思う中、数十秒程したところで、ネプテューヌはあるものを持って戻ってくる。
「お待たせ、皆。これが、わたしの特製スペシャルプリンだよっ!」
ばばん、とわたし達へ見せるネプテューヌ。ぷるんと揺れる、ほんのり甘い香りのする、そして煌めくプリンを見たわたし達は……叫ぶ。
『いや、なんでプリンが光を放ってるのッ!?』
びっくりした。ぎょっとした。だって、光ってるんだから。光り輝いているんだから。プリン型のイルミネーションか何かかしら?って思う程、明らかにプリンから光が発されているんだから。
「それは、その…ほら、偉大なプリンは輝いて見えるものだよって言うじゃん…?」
「言わないわよ!?言わないし、偉大なプリンって何!?」
「だ、だったら…そうだ、丁度まだ卵が大量にあるし、卵黄かけよう!卵黄かければいいって卵黄小僧も……」
「言ってないし無理だ…!はっきり言うぞ、無理だ…!」
「うぐっ…自分だって、好きで光らせてる訳じゃないんだよぉ…何故かこうなっちゃったんだよぉ……」
わたしと影の突っ込みを受けて、ネプテューヌは撃沈。お皿の上でプリンを光らせたまま、膝から崩れ落ちて床に手を突く。…何で意図せずこんな事が起こるのよ、起こせるのよ…。まるで違うものが完成するオリゼの料理も大概だけど、ネプテューヌはネプテューヌで特異過ぎる……。
という訳で、当然わたし達にネプテューヌのプリンを食べる気はない。食べる気っていうか…その勇気がない。そして誰も食べる気がないプリンは、その輝きで滅茶苦茶目立ちながらもテーブルの上に残り続け……
「おー、すげー…よくわかんないけど、とにかくこのプリンすげー……」
「ほわぁ、きれい…すてき……!」
「うぅ…ふ、二人共ぉ…!」
だけど純真な二人には、好評だった。二人は目を輝かせてプリンを見ていた。……そんな二人でも食べたらヤバいと感じたのか、手を付ける事はなかったけど。
そんなこんなで謎の時間を経て、またわたし達は食べていく。食べて、食べて、休憩の後また食べて…とにかく、食べ続ける。同じ物を食べ続けるのは辛い…とはよく言うけど、実際そうなのかは分からないけど、玉子を使った料理っていうのは本当に多彩で、当然味や食感も違うものだから、その点は苦しむ事なくわたし達は食べられた。
そうして遂に、わたし達は食べ終わる。皆頑張って、何ならちょっと無理もして……遂に、完食に至る。
「はー…食べた食べた、思いっきり食べた……」
「ほんとに凄い量食べましたね、ビッキィさん…。…うぅ、暫く動けないかも……」
「わたしも、おなかぱんぱんかもー…」
「うまかったー…けど、イリゼのつくるりょーりも食べたかったなぁ…」
「うん、食べたかったな…イリゼさんの、卵かけご飯……」
「グレイブ、ビッキィ…って卵かけご飯!?そ、それは別にイリゼじゃなくてもいいんじゃない!?割と誰が作っても同じような味だと思うわよ!?」
「ふっ、わかってないなぁセイツは」
「全くだね。セイツさん、貴女は何も…分かっていない」
「何が!?何を!?え、イリゼ…貴女どんな卵かけご飯を作るっていうの!?」
やれやれ、と首を横に振る二人。それが本当なのか、それともわたしをからかっているだけなのかは分からない。分からないけど…今度イリゼに卵かけご飯を作ってもらおうと思うわたしだった。
(…そろそろ、かしらね)
ゆっくりと一つ、息を吐く。正直まだ、皆と談笑していたい。だけどそろそろ、終わりにしようと思う。ここは、仮想空間の中は本当に精巧で、本物の様で…だからこそ、このままだと名残惜しくなりそうだから。皆あくまで再現データなのに、当然心だって感じないのに…それでも、寂しくなってしまいそうだから。
「…さてと。それじゃあわたしは、ちょっと席を外すわ」
断りを入れ、立ち上がる。別にわざわざこの場を離れなくともシミュレーションを終了させる事は出来るけど…何となく、普通に皆のいる前で終わらせるのは嫌だった。だからわたしは、廊下に出ようとして……
「そっか。…頑張ってね、セイツ」
「え?」
「そうそう、程々に頑張りなさいよね」
「万が一の事があれば、呼んで下さい。力になれるかどうかは、分かりませんけど」
わたしは立ち止まる。驚き、振り返る。ネプテューヌとエストちゃんとディールちゃん…三人の声に。何かを理解しているような、三人の言葉に。
「み、皆何を…。…もしかして、皆……」
「何の事ですか?お三人は…いえ、わたし達はただ応援してるだけですよ?ですよね、皆さん」
まさか、と尋ねようとしたわたしに対し、ビッキィが肩を竦める。皆の頷きを受けて…軽く、笑う。
「セイツ、またあそぼーぜ!こんどはイリゼもいっしょにな!」
「えへへ、またあそびにいくね!あそびにきてもいいからね!」
更に、グレイブとルナもぱぁっと笑って、わたしに手を振る。ちゃんと分かってるとは思えない…それでも『また』と二人は言う。わたしに笑顔を見せてくれる。
「皆…わたしは……」
「何を言おうとしているんだ、別段別れって訳でもないんだろう?…なら、やるべき事を果たせばいいじゃないか。これまでと、同じように…な」
「そうそう。今日は楽しかったし…次も、皆で楽しもーね!」
言わなくていい。そんな風に影はわたしの言葉を制し、茜も続いて次もと言う。そうして皆…わたしの事を、見送ってくれる。
分からない。こんな気遣いが出来る位、仮想世界形成装置が凄いって事なのか。わたしの深層心理を装置が読み取って、それを反映させたのか。それとも前の時の様に、もうただのデータ空間、単なる仮想空間の域には留まらない何かがあるというのか。それは、わたしには分からない事で…けれど、込み上げてくるものがある。心で感じる、ものがある。だからわたしは、皆の事を見つめ…言葉を、返す。
「…えぇ。またね、皆。わたしも、頑張るわ。頑張って…それから、次にまた皆と会う時の事を、楽しみにしてるわね!」
皆の笑みに笑顔を返して、わたしは廊下へと出る。そして、操作をし……シミュレーションを、終了させる。
「……ありがと、皆」
最後の瞬間、わたしが呟いた感謝の言葉。わたしの意識は、仮想空間から現実に戻り…身体を、起こす。
時計を見る。時間を確認する。仮想空間の中では、それなりの時間を過ごしていて…けれどそれよりもかなり短い時間しか、経過していない。それもまた、設定通り。
「…何故か成長していたり、若返っていたりした皆、か…。あくまでデータから想定された、もしもの存在なんでしょうけど…いいわね、こういうのも」
装置から降りて、今回の経験を振り返る。これはあくまで装置のテストで、内容は二の次なんだけど…間違いなく、充実していた。思い出になるものだった。所詮は実体のない、データの…情報の中でのひと時に過ぎないけど…だとしても、わたしの中では確かな真実。紛れもない、本当の事。
そしてふと、わたしは思う。皆にそれぞれ起きていた変化…それを元に、考える。
「…そ、っか…何もかも、全部がそのものである必要はないのよね…たとえ何か違う部分があったって、成長していたり若返っていたり、何かしらの変化や差違があったって、皆は皆だったんだから。大事なのは、大切なのは──完全である事じゃ、ないんだもの」
それは、わたしにとって大きな気付き。わたしの…ううん、わたしやイリゼ、イストワールが目指す、大切なもの…もう一度、共にいる為の未来へ手を届かせる上で、一つのピースになってくれそうな可能性。
自然と頬が緩む。笑みが溢れる。…あぁ、こうしてまた、皆はわたし達の力になってくれたんだって。繋がりが、わたし達の目指す先、そこへ歩む為の道を照らしてくれるんだって。
(また会いましょ、皆。恩返し、したいもの。それに…他の皆も、イリゼ達と一緒に…ね)
ちらりと見た窓の外から見える空。はっきりと覚えている、仮想空間の中に広がった空。それ等は違うもので、別のもので…けれどどちらも綺麗な空。そしてそれぞれの空の下で……わたし達は、これからも日々と思い出を紡いでいく。
今回のパロディ解説
・「〜〜某踏ん張ってるジャンプ〜〜」
マリオシリーズに登場するキャラの一人、ヨッシーの踏ん張りジャンプの事。つまり、巨大イキナリニワトリも空中で滅茶苦茶バタバタしてる訳ですね。
・「セイツさん、邪魔です!退いて下さい…!」
機動戦士ガンダムに登場するキャラの一人、ララァ・スンの台詞の一つのパロディ。要はセイツがシャアポジなんですが…名前的には、妹のセイラの方が似てますね。
・「〜〜あかねぇリサーチ!」、「よく分かんない!」
ガンダムビルドダイバーズシリーズに登場するキャラの一人、ヤシロ・モモカの台詞の一つ(二つ)のパロディ。パロディのパロディです。こういう発言も若い状態の茜だからでしょう。…恐らくですが。
・「…輝く未来を〜〜終わらない?」、「〜〜某アイドルユニットの片割れ〜〜」
ヴァンガードGシリーズに登場するキャラの一人、弓月ルーナの事及び、彼女の台詞(口上)の一つの事。人違いですね。ルーナではなくルナです。わざわざここで書くまでもないかもですが。
・「盾は守るだけじゃないってね?」
アンジュ・ヴィエルジュシリーズに登場するキャラの一人、ルルーナ・ゼンディアの台詞の一つのパロディ。ルルーナではなくルナです。更に離れてしまっていますね。
・「サブカルチャーは広く浅く、偶に深くがモットー?」
私シモツキのページに書かれている文章の一部の事。はい、勿論パロディではありませんが、一応書いておきます。これは影が分からなくても当然です。
・私の時みたいに〜〜じゃないですか
生徒会の一存シリーズのヒロインの一人、水無瀬流南の名台詞の一つの事。一番高くなりましたが、やっぱり人違い、ルナ違いです。…これに続く部分まで仮に言ってたら、茜にライバル視されちゃいますね。
・「ぴよこがね〜〜かくれんぼ〜♪」
かわいいかくれんぼのフレーズの一部のパロディ。勿論お庭じゃないですし、ひよこが隠れんぼしようとしてたかどうかも謎です。ルナ的にはひよこって事で歌いたかったのでしょう。
・「〜〜偉大なプリンは輝いて見えるものだよ〜〜」
BLEACHの登場キャラの一人、涅マユリの台詞の一つのパロディ。流石にあんな、ゲーミングな感じに光ってる訳じゃないと思います。…光ってる時点で非常におかしい訳ですが。
・「〜〜卵黄小僧〜〜」
LIFE!〜人生に捧げるコント〜にて登場する、コント中のキャラの一人の事。流石に卵料理に卵黄掛けても…って話ですよね。…そういう問題ではないんですけども。
前後編、二話のコラボはこれにて終了となります。今回のコラボに参加して下さった皆様、このコラボも読んで下さった皆様、ありがとうございました。やっぱりコラボは楽しいものです。今後も不定期でやっていきたいものです。
そして、次話は本編…というか、OUのあとがきとなります。後少しだけ、OUにお付き合い頂けると幸いです。