超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

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第三十九話 心差す絆の光

 絶望と、諦観は違う。絶望は希望が失われた時、どうしようもないと思った時、どこを向いても暗闇しかない時…もうどこにも行けないと立ち竦んでしまった時に、心の中を包み込むもの。だけど、諦観は違う。諦観は、諦めてしまう気持ちは…絶望の、後にくるもの。座り込んで、蹲って、心を沈めてしまうもの。…わたしは、それを知る事になった。

 暗闇の底。立ち上がる気力が起きない、立ちあがろうとも思えない…もう前を向きたくない。…そう、思っていた時だった。わたしの部屋に、一方的に…ノワールが、来たのは。

 

「なんでカーテン閉めてるのよ…全く」

「…別に、閉めてる訳じゃないよ…ただ、開けてなかっただけ…」

「それはそれで良くないっての。相変わらず適当なんだから…」

 

 ずかずかと入ってきたノワールは、呆れた顔をしながらカーテンを開ける。もう段々夜が近付いてくる時間だけど、それでもまだ外から光が差し込んできて…部屋の中が、明るくなる。

 

「で、何やってたのよ」

「…何も……」

「…この状況で?」

 

 片手を腰に置いて、問い掛けてくるノワール。それにわたしは、目を逸らす。…分かっては、いるから。こんな事してる場合じゃないって。わたしは女神、パープルハートなんだから、やらなくちゃいけない事があるって。

 

「…ま、いいわ。ほら、部屋でうだうだしてないで皆の所に行くわよ。今はのんびりなんてしていられないんだから」

「…………」

「…ちょっと?真正面から声掛けてるのに無視だなんて、いい度胸じゃない」

「…無視してる訳じゃないよ…でも、わたしは行かない…。わたしが行っても、意味ないでしょ…」

 

 また問い詰めるノワールに、わたしはゆっくり首を横に振る。そうしてまた…目を、逸らす。

 

「意味ないって…そんな事ないわよ。確かに基本茶化してばっかりだけど、貴女だって偶にはプラスになる事も言うでしょ?」

「そんなの、偶々だよ…」

「何よ、普段なら前半に対して『なにをー!』って反論するか、後半に対して偉そうにするかなのに」

「…だって、事実じゃん…」

「あのねぇ…はぁ、うじうじしてる姿なんて、貴女には全く似合わないわよ?違和感が凄いだけだから、止めておきなさい」

 

 似合わない。違和感が凄い。ノワールはそう言う。わたしも、それを否定しようとは思わない。これまでのわたしは、確かにそういう振る舞いをしてきたから。

…そう。わたしはずっと、そうだった。ちゃらんぽらんで、適当で、気分だけで話してて…皆が真面目に、真剣に考えている時だって、何も考えずにふざけていた。これがわたしだからって、だからそれで良いって思っていた。…そんなの、いい訳なんかないのに。

 

「いいって…わたしなんかどーせ…」

「低予算なダンジョンに出てくる敵みたいな事言ってないで、さっさと……」

「だから、いいって…!」

 

 腕を掴んで、わたしをベットから立ち上がらせようとしたノワールの手を、振り払う。こんな形で、強引に拒絶したい訳じゃなかった。だけど反射的に、気付いたらそうしてしまっていて…次にわたしが見たのは、ノワールの驚いた顔。ノワールは目を見開いていて…それからゆっくりと、息を吐く。

 

「…少し、出掛けましょ」

「…なんでさ」

「なんでもよ。出掛けないってなら、ここでこのまま執拗に話し掛け続けるわよ?段々私もイライラしてくるかもしれないわよ?どっちがいい?」

 

 じっと見つめてくるノワール。その目は、怒ってる感じじゃなくて…だけど、この二択以外は受け付けないって雰囲気が籠もっていた。ノワールだったら、確かにその内わたしの事を腹立たしく思ってもおかしくない。…ううん、違う。ノワールに限らず、誰だってその内怒るか、呆れる筈。いつだって、わたしはそうなんだから。

 見つめられて、その視線から逃れられなくて、わたしは答える。それなら、出掛ける…って。それを聞いたノワールは小さく笑って、なら早速…と歩き出す。先に一人で部屋を出て…でもきっと、わたしが着いて行かなきゃ力尽くでも引っ張っていく。それは分かっていたから、わたしも後に続いて部屋を出る。

 

「ノワール、どこ行くつもり…?」

「それは今から考えるわ」

「えぇ…?」

 

 速攻で明らかになるノープラン。困惑するわたしとは対照的に、ノワールはどんどん歩いていく。わたしもその後に付いていって、外に出る。

 今から考えると言ったノワールだけど、その足取りに迷いはない。気付けば来たのはスーパーの前、そこにノワールは入っていって…買い物をしてから十数分後、わたしは女神の姿で空にいた。

 

(…ノワール、一体何を……)

 

 てっきりわたしは、ノワールはわたしへ喝でも入れに来たものだと思っていた。ノワールは優しいけど甘くはないから、外に出るのも「拳で伝える」とか、そういう事かもしれないと思っていたけど、ノワールが立ち寄ったのはスーパーで、今もノワールにそういう雰囲気はない。だからわたしには、ノワールの考えている事が全く分からなくて…暫く飛んだ末、空に上がって以降は無言だったノワールは口を開く。

 

「…ん、あそこなんて良さそうね」

 

 言うが早いか、ノワールは高度を落としていく。軽い足取りで着地して、わたしの方を振り向き見上げる。

 ノワールが降りたのは、小高い丘の頂点…よりは、少し低い場所。なだらかな坂にわたしも降りて、ノワールへ視線を向ける。

 

「ここで、何を…?」

「何って…貴女、わたしと一緒にスーパー入ったわよね?何買ったかも見てるわよね?それで分からないんだとしたら、察しが悪いにも程があるわよ?」

 

 そう言って、ノワールは買った物をわたしに見せる。卵とチョコ、二種類のプリンをわたしに差し出す。

 

「で、ネプテューヌはどっちがいい?因みに私はチョコプリンを食べるわ。だって買ったの私だし」

「じゃあわたしに選択肢ないじゃない…卵プリンを貰うわ…」

 

 冗談なのかそうじゃないのかもよく分からないやり取りを経て、わたしは卵プリンを受け取る。一緒にスプーンも受け取って…二人並んで、座る。

 

「頂きます、と」

「…頂きます」

 

 女神化を解いて、パッケージを開ける。スプーンをプリンに刺そうとして…気付く。

 

「あれ…ここって……」

「気付いた?適当に選んだ場所だけど、そこそこ似てるでしょ?」

 

 座れる位のなだらかな坂。よく見える空。そしてプリン。…前にも、こういう事があった。まだわたしが女神パープルハートだって事も分かっていなかった頃、記憶喪失なわたしにとっては初めてのラステイション来訪から少しした時…あの時もこうして、ノワールとプリンを食べた事があった。

 

「…なんでまた、急に……」

「プリンを開けたまま食べようともせず、私の意図の方を気にするなんて、ほんとに調子が狂ってるのね、貴女」

「そんな事は…どうでもいいよ…」

「良くないっての。ま、取り敢えず食べましょ」

 

 肩を竦めたノワールは、一口掬って口へ運ぶ。それから「ん〜♪」と、美味しそうな声を漏らす。それを見てから、わたしも同じように一口食べる。途端に口の中に優しい甘さが広がって…いつもの味だ、と自然に思う。

 

(…こんな時でも、美味しいんだ…美味しく、感じるんだ……)

 

 プリンを食べたい気持ちなんて、微塵もなかった。何も食べたくなかったし、お腹が空いたとも思っていなかった。…だけどそれでも、プリンは美味しい。いつもと同じように甘くて、いつもと同じようにぷるんとしていて…いつもと同じように、美味しかった。味も食感も舌触りも、全部同じ。違うのは…今は食べても、幸せな気持ちにならない事だけ。

 

「あれから、色々あったわよね。マジェコンヌ、犯罪神と犯罪組織、くろめ達のあれこれに、今度はアルテューヌ。全く、国の運営が山あり谷ありなのは当然だけど、大きい事態だけでも色々あり過ぎでしょ」

「…そうだね」

「ちょっとした事とか、次元の存亡レベルじゃないけどそれなりに大変な事とかも含めたら、ほんと数え切れない程色んな事があったし、もう苦労するとかのレベルじゃないわよね」

 

 二口目を食べたところで、ノワールはスプーンをぴっと軽く立てながら言う。そのままスプーンの先をくるくると回して、文句の様に言葉を続ける。それからプリンとスプーンを置くと、わたしの方を見て…嘆息。

 

「…ネプテューヌ。貴女は今、何を考えているの?」

「何、って…それはノワールの言葉を聞いて、そうだな…って…」

「呆れた。ここは冗談の一つでも言うか、その数々の戦いを勝利に導いてきたのがこのわたしなのだ!…とでも言うか、とにかくそういう事を考えるのが貴女でしょ?」

「…これまでは、そうだったかもしれないけど…もう、いいんだよ…」

「いい?一体何がいいのよ」

「全部だよ。…全部、全部……」

 

 確かに、これまではそうだったかもしれない。だけどもう、そんな気にはならない。そんな気には、なれない。

 悲しい訳じゃない。苦しい訳でもない。ただ…全部、もうよかった。もう何も、したくない。

 

「……そう。だったら、アルテューヌの事はどうするつもり?」

「…それは、皆で……」

「皆っていうのは、自分も含めた『皆』よね?自分以外の皆でだなんて、人任せな考えじゃないわよね?」

「…そんな、事は……」

「ま、それはいいわ。良くないけど、いいわ。…だったらイリゼの事はどうなの?イリゼの事、忘れた訳じゃないわよね?それに、何より…ネプギアの事は?」

「……っ…」

 

 声のトーンを落とし、落ち着いた…真剣な眼差しをしたノワールが、踏み込んでくる。触れない筈がない、言ってこない筈がない…ずっとそう思っていた言葉を、突き付けてくる。

 

「責任の話をするつもりはないわ。だけど、イリゼの事もネプギアの事も、放ってなんておけないでしょ?」

「…わたしに、役目を果たせって言うの…?」

「だから、そういう話をするつもりはないって言ったでしょ。私が言っているのは、気持ちの話よ。…ネプテューヌ。貴女は二人の事を…友達の事も、妹の事も、放っておくなんて出来ない。貴女はそういう女神よ。少なくとも、私が知っているネプテューヌは、ね」

 

 じっとわたしの方を見たまま、ノワールは言葉を重ねる。そうでしょう?…と、わたしの心を覗くように。

…これまでのわたしなら、それに肯定を返していた。わたしはそういう女神だった。…でも……

 

「…それも、いいんだよもう…ノワールの知ってるネプテューヌは、そうだったのかもしれないけど…もう、わたしは…そうじゃない……」

「……っ、貴女……」

「…イリゼには、申し訳ないって思ってるよ…わたしのせいで、一番大変な目に遭ってるし、そのせいで皆にも迷惑掛けてる事だって分かってる…。だけど…わたしがいなくても、皆だったら何とかなるでしょ…?わたしがいなくたって、変わんないし…ネプギアだって、そうだよ。ネプギアも、もうわたしがいなくても…ううん、いない方が……」

 

 これがどれだけ身勝手な事かなんて分かっている。責任の話じゃないって言ってたけど…間違いなく、イリゼの事はわたしの責任なんだから。ネプギアの事だって…こんなんでも、『姉』って事になってるんだから。良くない。良い訳ない。…だけど、もう…もうわたしは、わたしに期待なんかしていない。わたしにはもう、何も懸けたくない。

 わたしは俯く。わたしの方から、ノワールの眼差しから逃げる。眼差しからも、何もかも。

 

「…それが、貴女の…ネプテューヌの本心なのね。それなら、仕方ないわ。貴女自身が、そう言うなら。心から、そう思っているなら」

 

 残念そうな、ノワールの声。…そんな声を出させてしまった事も、申し訳なかった。だからもう、何もしない。何もしなければ、わたしがわたしに期待しなければ、これ以上は……

 

「──なんて、言う訳ないでしょうがッ!」

「……ッ!」

 

 そう、思っている中でだった。これまでは落ち着いていたノワールが、爆ぜるように声を荒げたのは。わたしの言葉を、真っ向から跳ね除けたのは。

 思わずわたしは、顔を上げる。驚いて、顔を上げて、またノワールと目が合う。…怒った、本当に心からの怒りに満ちた、ノワールの目と。

 

「もういい?皆だったら何とかなる?いない方がいい?ふん、勝手な事言ってんじゃないわよ!諦めた風な格好しておいて言うのがそれなんて、他力本願甚だしいのよ!」

「た、他力本願って…わたしは、そんなつもりなんて……」

「ふぅん?けど貴女、皆や信次元がもうどうなったっていい、誰かが傷付いたり苦しんだりしてもいいとは思ってないんでしょ?だって、うだうだと情けない事言ってたけど、その中で『どうでもいい』とは一言も言っていなかったもの」

「それは……」

 

 どうでもいいとは言わなかった。そう言われて初めて、わたしも気付く。意図なんかしていない。言わなかったのは、偶々で…だけど、意識はしていなくても、無意識に『どうでもいい』って言葉は避けていたのかもしれない。…どうでもいいなんて、思っていないから。どうでもよくなんて、ないから。

 

「…もしどうでもいいなんて言っていたら、本当に許せなかったところだけど…流石に貴女もそこまでは落ちぶれてなかったみたいね。けど、ある意味ネプテューヌらしいじゃない。いっつも人任せで、適当な事言って面倒は避けようとする女神なんて、貴女位だもの」

「…そうだよ、わたしは…ずっと人任せで、楽ばっかりしてて…だから……」

「……気に食わないわね」

 

 肩を揺らして、挑発するようにノワールは言う。…うん、そう。きっとこれは、挑発。だけど…結局、その通り。間違いなんて、一つもない。ずっとわたしは、他力本願だった。これまでも…今も。

 でもそれに、そんなわたしに向けられる、気に食わないって言葉。わたしの反応なんか待たずに、ノワールは続ける。

 

「怒りなさいよ、言い返しなさいよ。そうだよなんて、認めてるんじゃないわよ!そんな訳ないでしょうが!貴女は仕事でも何でもしょっちゅう人任せにしてたけど、『いつも』なんて事はなかったでしょ!?」

「ちょっ…ど、どっちなのさ…そりゃ確かにわたしも、一回たりとも自分でやった事ないなんて事はないけど…自分のやるべき事をやるのは当然で、ちょっとやった位で胸を張るなんて……」

「だから…なんで不愉快な位うじうじしてる癖に、態度はそんなに殊勝なのよやり辛いわね!あーもうイライラしてきた、もう優しくするのなんて止めだわ止め!なんでわたしはこんな面倒臭い子に気を遣ってたのかしら!?」

「知らないよそんなの…っていうか、既に大分優しさどっか行ってた気が……」

「黙りなさい!大体貴女は、何をそこまで引き摺ってるのよ!何がそんなに辛いのよ!ただちょっと、ネプギアが独自行動してるだけでしょうが!」

「──ただ、ちょっと…?」

 

 一方的に言葉を叩き付けてくるノワール。こっちの都合も、自分のここまでの発言も殆ど顧みてないような、強引過ぎる言い方。

…けど、それは別によかった。ここまで一方的な事はそうそうなかったけども、ノワールに強引なところがあるのは知っていたから。そんなのはいい、それこそどうでもよくて……けれど、流せなかった。ただちょっと…そんな事で、そんな言葉で…片付けられる、事じゃない。

 

「ただちょっとって、何さ…何が、ただちょっとなのさ……」

「ネプギアの独自行動よ、今言ったばかりだし他に何があるのよ」

「それは、ただちょっと…なんて事じゃないよ…ちょっとした事なんかじゃ、絶対ない…」

「…そうね、ちょっとした事ではないわ。単身で、何の準備も無しに敵と行動を共にしてるんだもの、ネプギアのしてる事は相当な博打よ、大博打だわ」

「そういう事でも、ない…」

「だったらなんだって言うのよ。まさか、ネプギアと相対する事そのものを気にしてる訳?恥ずかしい話だけど、それなら前にもあったでしょ?今回はお互い正気だけど、だからどうしたって言うのよ。貴女まさか、姉妹喧嘩すらした事ない訳?」

「だから…だからっ、そういう事じゃないんだよっ!」

 

 ふつふつと、湧き上がってくる感情。全然分かっていない、外してばかりのノワールに耐えられなくなって、わたしは返す。言い返す。

 

「わたしはこれまで、ずっとネプギアのお姉ちゃんだった!大変な時も、そうじゃない時も、楽しい時も、苦しい時も、良い時も、悪い時も…ネプギアが生まれてからずっとずっと、わたしはお姉ちゃんだったんだよ!ネプギアのお姉ちゃんだって事は、辞めたくても辞められるものじゃなかったし、でも辞めたいなんて思う事はなかった!考えた事もなかった!だって、ネプギアは良い子だから!わたしには勿体無い位の、優しくて真面目でしっかりした、可愛い妹だったから!…そう、だったんだよ…!ネプギアはわたしの、自慢の妹だったんだよ…っ!」

 

 言いながら、わたしは気付く。わたしがどれだけ、ネプギアを思っていたのかに。わたしにとってネプギアの存在は、どれだけ大きかったのかって事に。

 本当にネプギアは、わたしには勿体無い位の子。かけがえのない、わたしの誇り。…だけど、だけど……。

 

「…だけどッ、もうネプギアは…ネプギアは、わたしの妹じゃない…!ネプギアはもう、わたしをお姉ちゃんと呼んでくれない…!ずっとわたしはネプギアのお姉ちゃんだったけど、もうそうじゃない…!」

「…貴女、何を……」

「だって、ネプギアがそう選んだから…!ネプギアがお姉ちゃんって呼ぶのはもう、わたしじゃなくて…アルテューヌなんだから…っ!」

 

 今でも耳にこびり付いている。アルテューヌをお姉ちゃんと呼ぶ声が、わたしをネプテューヌさんと呼ぶネプギアが、頭から、心から離れない。

 言葉は言葉。ただの音でしかないし、心にも思っていない事を、気持ちとは真逆の発言を口にする事だって、簡単に出来る。…でも、理由がある。ネプギアがそうする理由なんて、そうしたい理由なんて、幾らでもある。あるに、決まってる。

 

「それは、ネプギアの演技でしょう?アルテューヌを謀る為の演技で、貴女が騙されてどうするのよ」

「ノワールだったらそう思うだろうね、だってノワールは立派だもん!女神としても、お姉ちゃんとしても!けど、わたしはそうじゃない…!わたしはネプギアのお姉ちゃんだったけど、ネプギアのお姉ちゃんだけだったんだよ…!立派でも凄くもない、遊んでばっかりだらけてばっかりの、駄目なお姉ちゃんだったんだから…!『お姉ちゃん』じゃなければ、憧れる筈ない駄目駄目女神なんだから…!」

「…そんな事、ないでしょ。だって貴女は──」

「そんな事あるよッ!わたしは皆に迷惑を掛けてきた!大博覧会のプレオープンだって、ネプギアや皆が頑張ってくれたおかげで何とか形になっただけで、わたしは一人で調子に乗ってただけだった!アルテューヌの事も、わたしは状況を悪くするばっかりで、何にも役に立たなかった!これまでもずっとそうで、ずっとずっとそうで…今だってそうでしょ!?皆が先の事を考えている中で、わたしだけが引き籠もって、ノワールにも迷惑を掛けて…ッ!そんな、そんなわたしが…ネプギアに、『お姉ちゃん』である事抜きに慕われる訳、憧れられる訳ないじゃんッ!」

 

…酷い、八つ当たりだと思う。迷惑を掛けてるって言っておきながら、何も悪くないノワールに怒鳴って、ぐちゃぐちゃした気持ちをぶつけるなんて、それこそ迷惑でしかないのに。これじゃただただ、わたしが憧れるのに値しない、どうしようもない女神だって証明してるだけなのに。

 それでもわたしは止まらなかった。止められなかった。一度吐き出してしまったらもう、押さえる事が出来なかった。そうして言って、ぶつけて、吐き出して……視界が、歪む。

 

「…だから…だからもう、いいんだよ…やっぱりわたしは駄目だった…プレオープンで分かった通り、皆が思っていた通り…わたしは、期待出来るような女神じゃないんだよ…。だからもう、わたしはわたしに期待しない…期待するだけ、無駄だもん…期待したらまた失敗して、もっと皆に迷惑掛ける、だけだもん……」

 

 心の中にあった熱が、燃え尽きるように消えていく。吐き出して、空っぽになって、残るものは何もない。…今のわたしと同じ、中身なんてない無価値な空虚に沈んでいく。

 あぁ、そうだ。何もしなければ、何か失敗する事もない。何か生み出す事もないけど、何も失う事はない。少なくとも、わたしのせいで失われる事はない。…これは、責任放棄?…そうかもしれない。だけど、わたしがいなければ、何もしなければ、皆の努力を踏み躙る事もない。駄目なわたしが皆と一緒にいて失敗するより、ちゃんとしている皆で成功を掴んだ方が…ずっと、良い。

 

「ネプテューヌ……」

 

 わたしを見つめる、ノワールの瞳。さっきな怒りに染まっていた目に、今は違う思いが浮かんでいる。

 やっぱりまた、迷惑を掛けちゃった。ノワールに、気を遣わせちゃった。だからやっぱり、わたしは何もしない方が良い。最初はそれも皆に気を遣わせちゃうんだろうけど、それもその内慣れる。わたしがいない事が、普通になる。そしてそうなれば、それで全部──

 

 

 

 

 

 

「歯ぁ、食い縛りなさいッ!」

 

 次の瞬間、ノワールはわたしの肩を掴む。両肩を掴んで、わたしを身体ごとノワールの方へと向かせて…ノワールはわたしに、頭を打ち付ける。

 鈍い音が、額で響く。割れるような痛みが、頭から突き抜ける。ノワールのヘッドバットは、わたしの頭を強かに打って…わたし達は、悶える。

 

『い"ッ…たぁあぁぁぁぁぁぁ……ッ!』

 

 割れるような…じゃ収まらない、本当に頭が割れたんじゃないかと思う程の痛み。わたしは頭を押さえて蹲り……視界の端では、ノワールも同じように蹲っていた。

 

「ちょっ…何これいったぁ…!戦闘中の意識が全くない時にやるとこんなにも痛いとか、予想外過ぎる……」

「そ、そんなの当たり前でしょ…これで大怪我にでもなれば、逆に意識が切り替わるだろうけど、そうもならなかったからただただ痛いし……」

「この、石頭……」

「流石にそんな物言いするならはっ倒すよ…?」

 

 二人で蹲る事数十秒。起き上がったノワールはわたしを恨めしそうな目で見てきて、その理不尽にも程がある文句には流石にわたしも言い返す。それから段々と、痛みは引いていって…わたしは、言う。

 

「…何、するのさ…」

「引っ叩くかぶん殴るかしたかったけど、今はどっちも違う気がするから、仕方なしにこうしただけよ」

「なんで、そんな……」

「…分からない?本当に分からないっていうの?」

 

 本気で言っているのか。そんな風に尋ねてくるノワール。…理由が分かるなら、こんな事を訊かない。今更嘘を吐く理由なんてどこにもない。だからわたしは、何も言わずにただ頷く。ただ小さく、ノワールの

問いを肯定する為だけに頷いて…ノワールは、鼻を鳴らす。

 

「ふん、そういうところも良くないのよね。察しが悪くてにぶちんで、その癖察しなくていい事は察する上にそれを口にするんだから、受ける側からしたら堪ったもんじゃないわ。さっきの石頭っていうのは、そういうところも含めてなのよ」

「…それは、ごめん……」

「謝る割に反省してる節があまり見られない事ばっかりなのも困ったものね。我が儘だし、我が強いし、目立ちたがりの癖に準備は人任せにする事も多いし、すぐ周りを振り回すし、真面目さなんて欠けてるどころの騒ぎじゃないし、思い付きでばっかり行動するし、サボるし、真剣な場でもふざけようとするし、注意されてもしょっちゅう聞き流すし、問題大有りなのに妙に自信満々だし。それにそういう欠点を『それがわたしだから』って言って開き直るどころか、なんか正当化してるっぽい部分もあるのが本当にイラっとするわ。ほんっと、貴女の欠点なんて言い始めたらキリがないわよ。言っておくけど今言ったのは氷山の一角だからね?」

 

 言い返せない。あっという間に次から次へと文句を言われて、ちょっと言い過ぎじゃ…とも思ったけど、何一つ言い返す事が出来ない。全部、事実だから。これまでのわたしそのものだから。それをノワールが…皆が腹立たしく思うのも、当然の事だから。

 どうしてわたしはこんなにも欠点だらけなのに、そんな悪い自分を顧みなかったのか。…一つは、皆が助けてくれていたから。皆は優しくて、どうせわたしが一人じゃ失敗するって事も分かっていて、助けてくれていたから、これまでは何とかなっていた。何とかなってしまっていた。そしてもう一つは…それにすら気付かず、ノワールの言う通り『それがわたし』って言って自分をちゃんと見ていなかったから。いつもずっと、自分に都合の良いようにしか考えてなかったから。……だから、こうなった。だから…わたしは、自業自得で大切なものを失った。

…でももう、悲しいとは思わない。むしろもう、良かったとすら思える。こうしてはっきり口にしてくれた事が、真っ向から否定してくれた事が、もうわたしは要らない、いなくていいって事の証明。それすら周りにおんぶに抱っこなわたしは、本当に駄目で、情けなくて、そんなわたしに相応しいのは、誰にも…自分にも期待されない事で……

 

「──だけど、貴女は私を…私達守護女神を変えてくれた。分かり合う事を考えもしなかった私達が、手を取り合えるようにしてくれた。それだけじゃないわ。ネプテューヌはいつもお気楽だけど、それを良い方面に、皆を元気付ける為に使ってくれた事だって何度もあったでしょ?」

 

 だけど。その言葉を皮切りに、ノワールの声が変わる。そこからは、澄んだ声で言葉が紡がれる。それだけじゃないんだって、悪い事ばかりじゃないって、ノワールは言ってくれる。…けど、それだけで気持ちが変わる訳がない。変われる、筈がない。

 

「……そんな、事…そんなの、偶然上手くいっただけ…」

「偶然?この際だから言うけど、わたしは貴女にもベールにもブランにも、情なんて殆どなかったわよ?ベールだってブランだって、打ち倒すべき敵としか皆を見ていなかったと思うわよ?そんな私達が、本気で自分以外を潰そうとしていた私達が、今は協力し合って、同じ目的を抱いて、友達としても付き合っている…ここまでの変化を、偶然なんかで片付けられると思ってるの?」

「…わたしを買い被り過ぎだよ…皆が仲良くなれたのは、皆が優しいから…一人一人が、歩み寄ったからだよ。それは、間違いない」

「だとしても、その切っ掛けを作ったのは貴女でしょう?歩み寄る気なんかなかった、そもそもそんな考えすらなかったところに、『これまでの関係』っていう大きい溝がある中で、それを埋めて、手を引っ張ったのは…背中を押してくれたのは、やっぱり貴女、ネプテューヌなのよ。貴女自身はそう思ってないのかもしれないけど、変わる事になった私がそう感じているんだからね?」

 

 わたしは、そんな大それた事なんてしていない。わたしの成果なんかじゃない。だってわたしは、皆の優しさを、良さを、よく知っているから。…そんなわたしの言葉も、ノワールには返される。自分はそう感じているんだと、真っ直ぐな目で言ってくる。

 

「さっき私は貴女の欠点をばっと上げたし、まだまだ沢山思い付くけど、それだけが貴女の在り方だと思ったら大間違いよ?国民への思いとか、国と次元の護り手としての覚悟みたいなのは貴女だけに限った話じゃないから別にしても、貴女は意外と気遣い出来るタイプだし、その行動力の高さが行き詰まってた状況を変化させた事だってあったし、案外貴女は冷静っていうか、ちゃんと考えるべきところでは思考出来る訳だしね。…それに、何より…ネプテューヌは、誰かを、相手が誰だとしても、信じる事が出来る。だから敵対していた相手とも手を取り合えるし、皆を引っ張っていく事が出来る。誰よりもそれが出来るのは、その思いが強いのは、貴女よ」

「違う…違うよノワール…ノワールだって、出来る事だよ…イリゼの方が、ずっと出来てる事だよ……」

「分かってないわね、ネプテューヌ。私もイリゼも、貴女に影響されてそうなったのよ。少なくとも、私はそうだわ。もう一度言うわよ、ネプテューヌ。私達を…私を変えてくれたのは、ネプテューヌよ。他の誰でもない、ましてやアルテューヌなんかじゃない…ネプテューヌがいるから、今の私がいるの」

 

 信じる事が出来る。誰よりも、誰かを信じられる。そしてそれが、周りへと影響を与えている。…そう、ノワールは言う。あのノワールが、自分すら影響を受けていると、一瞬も目を離さずに…わたしに向けて、言ってくれる。

…もう、違うとは言えなかった。こんな事、嘘でも建前でも、ノワールが言う訳がない。ここまでの事を言ってくれるノワールの言葉を、否定したくない。…でも、それでも。

 

「…ありがとう、ノワール…だけど、それだけじゃ駄目なんだよ…それだけじゃ駄目だから、わたしは皆に迷惑を掛けちゃってるんだよ…それを他でもないネプギアが、一番側にいて一番わたしの良くないところを見てきたネプギアの行動が、わたしが駄目なんだって事を……」

「違うわ、ネプテューヌ。ネプギアは、そんな風に思ってなんかいない。貴女の妹は、貴女を…お姉ちゃんを、見限ってなんかいない」

「何を根拠に、そんな事言うのさ…!だったら、だったらなんでネプギアは…っ!」

「言ったのよ。──お姉ちゃんを、お願いしますって」

「え……?」

 

 こんなにもノワールが言ってくれるのなら、間違いじゃないのかもしれない。わたしは、駄目なだけじゃないのかもしれない。だけど、それだけじゃ…良いところもあるだけじゃ、何にも良くなんてない。

 だから、初めは信じられなかった。ネプギアの、思いが違うなんて事は。ノワールはわたしを、相手が誰だとしても信じられると言ってくれたけど、わたしだって何でも無条件に、鵜呑みにする訳じゃない。自分の中の思いが、見た事聞いた事感じた事が、そんな訳ないと否定をしていた。

 けれど、ノワールは言う。ノワールが、言う。ネプギアの言葉を。わたしの知らない、ネプギアの声を。

 

「ネプギアがアルテューヌと一緒に離脱する時、その直前に確かに言ったの。なんで私に言ったのか、単にその場にいたからなのか別の意図があるのかは分からないけど、そう言っていた事は間違いないわ」

「…なら、どうして今まで黙ってたの……?」

「言うまでもないと思っていたのよ。ネプギアがただ裏切った訳じゃない、そうじゃない可能性がある事はあの場で言ったし、ネプテューヌ個人に関する事なんだから、貴女以外には伝えてもって話だし…ネプテューヌに関しても、ネプギアを……ううん、違うわね。自分自身を信じられていたのなら、言わなくたって良かった筈よ。…それに第一、格好悪いじゃない。ネプギアから頼まれたから気に掛けるだなんて」

 

 そう言ってノワールは肩を竦める。一度表情を緩めて…そうしてまた、わたしを見つめる。

 

「ネプテューヌ。貴女は自分が駄目だから、皆に迷惑ばかり掛ける女神だから、もう何もしない、その方がいいって言ってたわね。そんな自分だから、ネプギアも憧れないって、そう思っているのよね?…だけど、それは違うわ。絶対に違う。今もネプギアは、貴女の事を…お姉ちゃんの事を、思っている。むしろネプギアは、お姉ちゃんに憧れているから…お姉ちゃんが大好きだからこそ、アルテューヌを敵と割り切る事が出来ないんじゃないかしら。ここ最近貴女の調子が悪い事をよく知っていながらも、そういう行動を取ったのだって…きっとお姉ちゃんなら大丈夫って、心の中で信じてるから…なのかもしれないわ」

「…言い切っては、くれないんだ……」

「当たり前じゃない、私はネプギアじゃないんだもの。ま、貴女にとっては唯一無二の妹でも、私にとってはあくまで他国の女神候補生。理解度は絶対貴女の方が上だろうし、貴女の認識通り見限っちゃったのかもしれないけどね」

 

 言い切ってほしかった…そんな思いから思わず出た言葉を聞いたノワールは、途端に発言を翻す。

 あぁ、そう、その通り。ノワールはノワールで、ネプギアはネプギア。本当の思いは本人じゃなきゃ分からないし、だからまるっきり勘違いしている事だってあり得る。ノワールの言葉を聞いた今だって、まだ本当にそうなのかどうか…不安な気持ちが、確かにある。そしてこれは、きっと…ずっと、消えない。このままじゃずっとずっと分からないままで…何も、変わらない。

 

「…ノワール…?」

 

 不意に、ノワールは立ち上がる。無言で立ち上がったノワールを、わたしは見つめて…振り返ったノワールは、言う。

 

「ネプテューヌ。貴女は今、どうしたい?貴女の本当の思いを、聞かせて頂戴」

「わたしの、本当の思い……」

 

 繰り返すように、わたしも言う。それにノワールは、何も言わない。ただ静かに、わたしの答えを待っている。

 もう、諦めていた。もう何もしたくなくて、何も見たくなかった。誰も期待しない、自分も期待していないわたしの事なんて、投げ出してしまいたかった。

 でも、だけど…本当に、そう?諦める事が、わたしの望み?自分に期待しないのが、わたしの願い?…ううん、違う。違う、違う…違う。

 

(皆に迷惑を掛けるのは、怖い…ネプギアに、お姉ちゃんとして否定される事は、怖くて怖くて堪らない…そんな事になる位なら、全部全部、見ないでいたい…けど……)

 

 自分がどれだけ駄目な存在なのかって事は、思い知った。ネプギアに愛想を尽かされるのも、当然だと思っていた。…だけどそれが、わたしの勝手な思いなら…怖くて、もうこれ以上辛い思いをしたくなくて、だからそう思っていた、そう決め付けてわたし自身が信じる事を止めていただけだったとしたら…わたしは、わたしは──

 

「……──ネプギアに、会いたい…会ってちゃんと、話したい…っ」

 

……気付けば、そんな言葉が零れていた。意識して言った言葉じゃない。気付いたら、そう言っていて…言ってから、聞こえてから、初めてそれがわたしの言葉なんだって…わたしの本当の気持ちなんだって、やっと分かった。

 じわり、と目元が熱くなる。その熱は、頬に移っていって…ぽろぽろと、流れる。ずっと出ていなかった、出ていない事にも気付いていなかった涙が、本当の気持ちと一緒に溢れ出す。

 

「だったら、やる事は一つじゃない。…信じなさいよ、ネプテューヌ。私を、皆を、ネプギアを…自分自身を!そうよ、貴女は駄目な女神よ!もうどうしようもない女神よ!だけどね、それでも貴女はプラネテューヌの守護女神、国民に、信仰者に望まれている存在なのよ!誰が何と言おうと、たとえ何があろうと、凄い女神なのよ!それを誰よりも、私が知っているんだから!私が信じているんだから!」

「……っ…出来る、かな…こんな駄目なわたしでも、それでも……」

「迷ってるんじゃないわよ!私がそう信じてるんだから、そうなのよ!不安も負い目も悪い実績も、全部知ったこっちゃないわ!私にここまで言わせたんだから、私を変えて、私に言いたいって思わせたのは貴女なんだから、責任取りなさい!私が信じる貴女を──私が好きなネプテューヌを、信じてみなさいよ、馬鹿っ!」

 

 頬を、心を張られたような気がした。目を覚ませって、自分を思い出せって、そんな風にノワールは言った。ノワールらしく、一方的に、高圧的に、自信満々に…凄く凄く、真っ直ぐに。

 ここまでの事をノワールは言ってくれる。ここまでわたしの事を思ってくれている。わたしを、信じてくれている。その気持ちが、優しく温かく、わたしの心を包み込んでくれる。わたしに、前を、向かせてくれる。

 もう、分かっている。諦めは望みじゃなくて、ただの結果だって。怖いから、立ち止まって、俯いていただけだって。本当の望みには、願いには気付いた。ここにはノワールが、わたし以上にわたしを信じてくれる人がいる。だったら…そうだ。やる事は……一つだ。

 

「……っ、ぅ…えへへ…こんなの、わたしらしくない…わたしだったら、ネプテューヌだったら、どんな時だって自分と皆を信じて、前を向いて…最高のハッピーエンドを目指さなきゃ…そうだよね、ノワール」

「全く…そんな当たり前の事を思い出すのに、どれだけ時間掛かってるのよ…。ほんと、貴女は世話が焼けるんだから」

 

 涙を拭ったわたしに差し出される、ノワールの手。いつの間にか夜になっていた、夜空を背にしたノワール。それはいつもの、ツンツンしてて頑固で厳しくて…だけどいつだって頼りになる、わたしの大切な友達の手で…わたしは、掴む。掴んで、立ち上がる。

 

「…ほんと、迷惑掛けてばっかりでごめんね。それと…ありがとね」

「そう思うなら、改善していってほしいものね。…けど、今はいいわ。今はそれより、やるべき事が…やりたい事が、あるでしょ?」

「うん。…ところで、さ…ノワールさっき、私が好きなネプテューヌって言ってたけど……」

「あ、あれは……。…あれは、貴女の思う通りに受け取ってくれればいいわ。私の思いは、ちゃんと伝えた…つもりだから」

「そっか…なら、ちゃんと受け取ったよ」

 

 顔を赤くして、ノワールはくるりと背を向ける。だけど声ははっきりとさせたまま、最後までしっかり答えてくれた。…貴女の思う通りになんて、ちょっと逃げた言い方な気もするけど…その方が、ノワールらしい。そんな風にも、わたしは思った。

 

(信じる…うん、そうだ。それがわたしの、一番の力だ。だから…今度こそちゃんと、今度こそ心から、信じよう。ネプギアの事も、皆の事も、自分の事も。信じて、前を向いて…もう一度、突き進むんだ)

 

 胸の前で、手を握る。もう迷いはない。駄目駄目だっていい。失敗ばかりのわたしでもいい。それで立ち止まらなければ。皆と一緒に、前に進む事が出来るなら。

 不安はあるけど、大丈夫。わたしにはノワールが…ううん、皆がいるから。今ならわたしの事も、信じられるから。そして…ネプギアの事も、信じるんだ。ネプギアも、ネプギアの気持ちも、信じ抜くんだ。それが、わたしってもので──お姉ちゃんって、ものだから。




今回のパロディ解説

・「〜〜わたしなんかどーせ…」「低予算なダンジョンに出てくる敵〜〜」
MOTHER2 ギーグの逆襲に登場するモンスターの一体、オレナンカドーセ及び、ダンジョンの一つであるていよさんダンジョンの事。モンスターもそうですが、ダンジョン名の方も大分思い切ってますよね。

・「……──ネプギアに、会いたい…〜〜」
ガンダムSEEDシリーズの主人公の一人、キラ・ヤマトの名台詞の一つのパロディ。別にネプテューヌはノワールにボコボコにされてたりはしません。ノワールに差し出された手を掴んではいますけどね。

・「〜〜私が信じる貴女を〜〜信じてみなさいよ、馬鹿っ!」
天元突破グレンラガンの主人公、シモン及び登場人物の一人であるカミナの名台詞の一つのパロディ。ただ、厳密には単なる台詞の一つというか、数パターンある台詞の一つというべきでしょう。
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