超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

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第四十四話 気付いた思い

 単に教会の中で情報を纏めているだけだと思ったら、可能性の模索をしていた。わたし達が全く知らない内に、もう一つの可能性に至っていた。そして、教会の外…街のどこかにアルテューヌ達の拠点があるんだと思っていたら、実際には中でも外でもなく…教会の下に、拠点はあった。

 今回はありがたいけど、ここのところ予想外が多過ぎる。予想通り、想定通りに事が進まないからこそ、ここまで戦いが続いているんだ…って言えばそれまでだけども、こうも予想外の事ばかりが起こると、自信を持って動けなくなる。ただ…考えてみれば、それは向こうも同じかもしれない。互いが互いの想定を覆したり、土壇場で超えていたりするからこそ、今の状況となっているのかもしれない。そしてそれは…今も、そう。

 

『ネプテューヌ!』

 

 先を行くノワール達の声を聞きつつ、わたし達…後衛組も角を曲がる。今回は遠隔攻撃での支援と牽制に努める事、それが出来ないなら教会の外で待っていなさい、と厳命されたわたしはちょっと不服だったけど、怪我人が偉そうな事を言うのは違うか…と大人しく従う事にしていた。実際問題、まだ傷が完治していないわたしは、この中じゃ一番戦力として劣っている。さっき教会に突入した時は、冗談気味に文句を言ったりもしたけど、前に出るなという皆の声を拒絶出来るような立場じゃない事は、わたしが一番分かっていた。

 そして、角を曲がったわたしは目にする。通路の先、複雑そうな顔をしているネプテューヌと…その先の、瓦礫で入る事の出来なくなっている部屋を。

 

「ネプテューヌちゃん、だいじょーぶ!?」

「これって…まさか中は、完全に崩落を…?」

 

 ラムちゃんとユニの言葉に、ネプテューヌは頷く。見たところ、ネプテューヌに大きな怪我はなくて、立ち姿にもまだ余裕は見られる。だからわたし達は一安心し…ブランが、尋ねる。

 

「ネプテューヌも聞こえてたと思うが、くろめからインカムで経緯は聞いた。だからそれはいいとして…何があった?」

 

 教会の外にではなく、下に…地下に拠点がある。ネプテューヌが先行して突入した。それをインカム越しに聞いたわたし達は、教会前に急いで集合し、再度突入。くろめの案内でネプテューヌが文字通り切り開いた侵入経路を通って、この地下空間へとやってきた。

 何があった?というブランの問いにも、ネプテューヌは首肯を返す。そして、話してくれる。この先であった事を。何がどうして、部屋が瓦礫で埋もれているのかを。

 

「…わたしが退かない限り、きっとネプギアも、意地でも退こうとはしない。そう思ったからわたしは離脱して…すぐ後に、部屋は完全に崩れたわ。皆が来るまでに、この近くも見て回ったけど……」

「ネプギアちゃんの姿はなかったんですのね」

「じゃあネプギアちゃんは、もしかしてまだ……」

「いいや、大丈夫だと思うぞろむっち。何せぎあっちは頭が良いからな。だからきっと、自分の脱出の事も頭に入れて行動してた筈だ」

「だろうね。それにねぷっちだって、この地下空間の作りを熟知してる訳じゃないだろう?なら、ぱっと見じゃ分からない抜け道があったって、何もおかしい事はないよ」

「…えぇ、そうね。わたしもそう思うわ。だってネプギアだもの」

 

 意図してやった…訳じゃないんだろうけど、二人揃って同じ腕組みポーズをしつつ話すうずめとくろめの言葉に、ロムちゃんだけじゃなく、ネプテューヌも表情を緩める。…何かしらの意図があるんでしょうけど、だとしてもネプギアは離反して、アルテューヌの側に付いた。それなのに皆に気に掛けられて、きっとネプギアなら大丈夫だと信じてもらえてる辺り、ほんとネプギアは愛されてる…っていうか、信用されているのね。…まぁ、わたしも皆と同じ気持ちな訳だけど。

 

「…にしても、アルテューヌに対するネプギアの発言が気になるわね。記憶違いじゃないなら、チャンスとか、今やるべき事とかって言ったんでしょ?」

「確かに気になるわね。今ならまだ逃げるチャンスがある、今やるべきは逃げて立て直す事…って捉える事も出来るけど…そういう意味で言ったのかしら?」

 

 顎に親指と人差し指を当てつつ言うノワールに、わたしも同意を示す。そういう事だと思う?…と、皆へと問い掛ける。

 

「まあ、違ぇだろうな」

「元々何かをやろうとしていて、その事を指して言った…と見る方が自然だと思いますわね」

「そうよね、わたしもそう思うわ。そしてその為に、ネプギアは残った…単にアルテューヌ達を逃す為じゃなく、元々やろうとしていた事の為に、その邪魔になるネプテューヌやわたし達を足止めしようとした…って事じゃないかしら。まぁそうなると、じゃあその『やろうとしていた事』って何?って話になる訳だけど…」

 

 ブランとベール、二人の言葉に頷いて返す。あくまで予想に過ぎないけど、ただ逃げるだけ、その場を凌ぐだけなら、そんな前向きな言葉は出ない筈。もっと絶体絶命な…それこそわたし達全員に囲まれたとかなら、発破を掛ける為にそういう言葉選びをしたとも考えられるけど、ネプテューヌが突入した時点では、戦力的には向こうの方が有利だった筈だから、やっぱり別に目的があったんじゃないかと思う。

 でも、これだけじゃ答えとしては不完全。何かやろうとしていたなら、その内容にも目を向けないと意味がない。

 

「…まさか、アタシ達女神が全員こっちに来てる状況を利用して、どこかの国に奇襲を仕掛ける…とか…?」

「ふむ…ないとは言い切れない、けどどうだろうね。アルテューヌの最終目標は、原天界帰。そして国を襲う事が、原天界帰に繋がるかというと…少なくとも、プラネテューヌ以外は薄いだろう。…いや、家族関係という意味で神生オデッセフィアも選択肢には挙がるか…」

 

 確かに仕掛けるチャンスではあるけど、果たしてそんな事をするだろうか、と返したのはくろめ。その見解には一理あって、更にそこでネプテューヌも言う。

 

「プラネテューヌや神生オデッセフィアも、『奇襲』って事なら恐らくないと思うわ。…だって、アルテューヌは女神である事を捨ててはいないもの。それに国民…人に被害が及ぶような事を考えているなら、ネプギアが危険を冒してまで足止めしようとする筈ないわ」

「…………」

「あ、くろめさんがダメージ受けてる」

「くろめさん、だいじょうぶ…?かいふく、する…?」

「はは…大丈夫さ、二人共…信次元に住む人皆を危機に陥れていながら、女神である事を捨ててはいないつもりだった前の自分に、ただただ呆れ果ててるだけだからね……」

「あ、あー…大丈夫よくろめ!アルテューヌだって、うちの軍の部隊を狙った事には変わりないわ!その時イリゼもいただとか、軍人と民間人は違うだとかって理由で仕掛ける事を肯定してたなら、アルテューヌも所詮はその程度って事だしね!」

「おーいせいっち、それはあんまりフォローになってねぇ気がするぞー」

 

 女神として、という観点から言ったネプテューヌの言葉で、話は更に深まる…かと思いきや、予想外のタイミングで、予想外の角度からくろめがダメージを負った事で、何だか変な雰囲気に。思わずわたしはフォローするも、今度はわたしが突っ込まれる。…言われてみると確かに、わたしはアルテューヌを腐しただけで、まるでフォローにはなってなかったわね…。

 

「…セイツって、結構女神には厳しいっていうか、遠慮ないわよね」

「アルテューヌに、レイに…イリゼや軍の事があったとはいえ、ネプテューヌにもそうでしたわね」

「その辺りはオリゼの娘って感じだよな。割と苛烈なところがあるのは、イリゼもだしよ」

 

 これは失敗だった、と内心で反省する中で何やら聞こえてくるやり取り。む、まさかノワール達三人にそんな事を思われていたとは…まあ、実際アルテューヌに良い感情は持ってないのは事実だけど。ましてレイに向ける為の遠慮なんて、初めから欠片も存在なんてしてないけど。

 

「こほん。具体的な事は分からないけど、一つはっきりしている事もあるわ」

『はっきりしてる事…?』

「またアルテューヌは何か企んでいる。だから野放しには出来ない、って事よ」

「ネプテューヌ…貴女それ、当然の事言ってるだけだからね?」

「それはまぁ、ね」

 

 咳払いで注意を集めたネプテューヌは、表情を引き締めると共に言う。その言葉にノワールは目を丸くして…その後、半眼で突っ込んでいた。ネプテューヌも自覚はあったのか、軽く肩を竦めていた。…何か、立ち直ってからのネプテューヌとノワールは、これまで以上に仲良くなったっていうか、距離が縮んだ感じあるわね。…ネプテューヌとノワールの間に距離なんてないだろ、って?…言われてみると、それもそうね。

 

「ともかくアルテューヌが何か企んでいるなら、すぐに追って…と言いたいところですけど、もう今から追い掛けようとしたところで、どこに行ったのかはさっぱりですわね…」

「その為にネプギアが足止めをしてたんですもんね。で、そのネプギアも今は姿が見えない訳で……」

「だったらよ、ぎあっちを探すのもそうだが、それ抜きにしてもここを調べてみるのはどうだ?向こうはねぷっちが来るまで逃げるつもりなんてなかったんだろうし、色々手掛かりが残ってるんじゃねぇか?」

 

 確かにそうだ、とわたし達は同意を示す。ベールの言う通り、ネプギアとの交戦から今は更に時間が経っちゃってる訳だし、今から追うのは非現実的。

 だからわたし達は、この地下空間の探索を開始。まだネプギアが隠れてるかもしれないという事で、数人ずつに別れて動く。

 

「うー、ん…ネプテューヌも見て回ったって話だけど、確かに『ここからネプギアは逃げたんじゃ?』…って感じの所はないわね…」

「…いいや、そうでもないみたいだ」

「ん?なんか見つけたのか?」

 

 うずめ及びくろめと崩れた部屋の周辺を調べていたわたしは、うずめと共にくろめが立っている場所へ駆け寄る。そしてくろめが見ている先、壁の崩れた場所を見やる。

 

「…これが、どうかしたの?」

「ここ、どうして崩れているんだろうね」

「どうしてって…そりゃ、戦闘の影響じゃねぇのか?丁度この壁の向こう側が、入れなくなってる部屋だしよ」

「あぁ、その可能性は十分にある。だがもし、この崩壊が全て戦闘によるものじゃなく、壁や天井が損傷によって支え切れなくなっただけだとしたら?戦闘の中で直接壊れたのはもっと狭い範囲で、穴が空いているような状態だったとしたら?」

「…そっか、この状態になる前は、部屋からの脱出に使える穴や亀裂になっていた。ネプギアが脱出を図った時点では、まだここまでの崩壊はしていなかった……かもしれない、って訳ね」

「そういう事さ。まあ、予想に過ぎないし、仮に合っていたとしても今更それが分かったところで…って話だけどね」

 

 身も蓋もない事を自分で言うくろめに、わたしとうずめは顔を見合わせ、苦笑し合う。確かにその予想が立てられたところで…って話ではあるけど、そもそも予想っていうのは見つけて、考えて、仮説を立てなきゃ出せないもの。無意味な予想になるかどうかは、予想を立てるところまでいかなくちゃ分からない訳で…だからここに着目したくろめの視点は、決して無駄なものじゃない…と、思う。

 ただ、この壁の崩壊を除けば、これといって気になるところは見当たっていないのもまた事実。一先ずここの調査は止めにして、他の所に行った方がいいか…そう考え始めた時、インカムにある声が響く。

 

「皆、場所を言うから急いで来て頂戴!」

(ノワール…?)

 

 明らかに何か…それものんびりとはしていられないようなものを見つけた様子のノワール。直後にノワールは場所を(と言っても初めて来た場所だからざっくりだけど)教えてくれて、わたし達はそこへ急行。ノワール、それに行動を共にしていたユニとわたし達は合流し…『それ』を目にする。

 

『これは……』

「アタシ達がこの部屋に来た時には、もっと小規模だったんです。けど、どんどん広がっていて……」

「わっ、おねえちゃん見て!」

「ここも、向こうとおんなじ…」

 

 二人が待っていたのはある部屋の前。その部屋を覗いたわたし達が見たのは…半壊した、部屋の内装。…ううん、この表現は正しくない。だって、半壊どころか、無くなっていたから。壊れたどころか、約半分が『消失』をしてしまっていたんだから。

 更に、わたし達が唖然とする中で、後ろから声が聞こえてくる。その言葉で、これがここだけの事態じゃないという事を知る。…って事は、まさか……。

 

「…一旦、ここから離れた方がいいかもしれねぇな」

 

 思案顔で呟いたブランに、わたし達は即座に頷く。ネプテューヌ達とも合流し、全会一致で一時退却する事を決定。原因不明の消失が、複数の場所で起こっている…こんなのどう考えても危な過ぎる。

 

(何か、アルテューヌ達が罠を仕掛けていたって事?それともアルテューヌ達にとっても想定外の事が起きているの…?)

 

 ごちゃごちゃと可能性を考えながら、素早くわたし達は引き返す。その道中でも、さっき見た部屋と同じように消失している場所があって、この現象が地下全体で起こっているんだと確信をする。そうしてネプテューヌが切り開いた穴の所まで到着したわたし達は、そこから脱出。教会の地下から、教会の中へと戻って……

 

『……え?』

 

 わたし達は、目にした。目にして、理解した。…地下と同じように、地下以上に、大規模に消失している教会の姿を。──消失が、教会全体…いや、この街全体で起こっている事を。

 直後、インカムに通信が、街の外で待っていた皆からの声が聞こえてくる。街の中と外では通じなかった筈の、通信が繋がる。それが示す事なんて一つ。…どこか、とかじゃない。消失しているのは…この空間、そのものだ。

 

 

 

 

 消えていく、天界の街。しかしそれは決して、消滅ではない。確かにそこから『失われて』はいるものの、街であったものが『無くなった』訳ではない。形を失った街は、街だったものは、吸い込まれるように、誘い込まれるように、新たに現出した空間の歪みへと向かっていく。その規模、その範囲を少しずつ広げていく歪みの中で…今一度、その形を成していく。

 

「ふ、ふふ…ふふふふふふ……」

 

 その街の中心、まだ朧げながら教会の形をした構造物が形成される場所。そこでアルテューヌは笑みを零していた。明らかに通常ではないこの空間の中で、しかし歓喜の声を上げていた。

 

「漸く、漸くだわ…まさかこんな形で、道が開けるだなんて…!ふふっ…流石は原初の女神の複製体、流石は原天界帰を編み出した存在が創った女神…その事にずっと着眼せず、ただの『いーすんの姉妹』としか見ていなかっただなんて、わたしもまだまだだわ」

 

 くるりと振り返ったアルテューヌは、イリゼの眠る結晶体へと触れる。感謝と敬意を込めて、結晶の表面を撫でる。

 一体ここで、何が起きているのか。空間の歪みの正体は何で、これが進めばどうなるのか。それを知る者はいない。アルテューヌも知らない。だが、知らずともアルテューヌは、感覚的に理解していた。分かっていた。その確信があった。

 そしてアルテューヌは、更に振り向く。もう一人の功労者へと、声を掛けようとする。

 

「クロワール、貴女も流石だわ。それと、掌を返すようだけど、謝らせて頂戴。理由はどうあれ恩のある貴女に対して、さっきは少し言い過ぎたわ。本当に、ごめんなさい」

「…別に、もういいさ。それよりも謝ってもらいたい事もあるしな」

「あぁ、相談もせず力を引き出した事?それも確かに、不義理だったわね。重ねて謝罪するわ」

 

 謝るアルテューヌの言葉を、煽るでも文句を返すでもなく、ただただクロワールは受け取る。クロワールが浮かべているのは、感情を読み取る事の出来ない表情。楽しんでいる訳でも、不快さを示している訳でもない…明るくはないが、さりとて真剣な面持ちという訳でもない、これまでアルテューヌには見せた事のないような顔。

 しかしそれについて、アルテューヌは触れない。それどころか、アルテューヌは気付いてすらいない。今起こっている事、これから起こり得る事…今のアルテューヌの頭にあるのは、その二つの事だけだった。

 

「後少し…まだ近くはないけど、これまでの事に比べれば遥かな進歩、進展だわ。一足飛びにここまで来られるなんて、これまでは微塵も思っていなかった…やっぱり挑戦はしてみるものね」

「さっきからずっと、あからさまに饒舌だな。…なら、一足飛びに進展したお前の、次の行動はなんだ?こっからお前は、どうするつもりだ?」

「勿論今は待つわ。こうなればもう急ぐ必要も、焦る必要もないし、むしろまだ不安定な今動くのは、自爆に繋がりかねないでしょう?」

「…まあ、な」

「だから今は…だから後は、安定するのを待つだけよ。そうすればその後には、貴女もきっと満足するようなものが見られる筈よ」

 

 最早これまでのように動く必要はない。むしろ下手に動くべきではない。そう返した上で、アルテューヌはクロワールの望む『面白いもの』もある筈だと言い…クロワールは、何も言わなかった。元からクロワールとはあまり会話が弾まないとはいえ、今の彼女は何か変だ…そんな風に思ったアルテューヌだったが、だからと言って訊く事もしない。力を引き出された事で疲労しているのかもしれないし、口にしないだけでやはり怒っているのかもしれない。ならば今はこれ以上触れないでおこう、どちらにせよ時間はあるのだから…そう結論付けて、ゆっくりと息を吐く。

 アルテューヌの中にあるのは、高揚感。これまでは、一歩一歩の前進だった。望む『過去』までの道は長く、直接姿を現してからは、思うようにいかない事も幾度となくあった。…それが今や、これまでの苦労が嘘の様に、悲願成就までの道が開けている。これまでは山あり谷ありだった道が、今や障害物などない、平坦な道に変わっている。そんな状況、急転直下の勝利が見えたとなれば、浮かれてしまうのも無理はなく…再びアルテューヌは、無意識の内に笑みを零しそうになる。だがその時、その直後…既に歪んでいた空間の一部が、更に歪む。

 

「……ッ!これは…何か、来る…!?」

 

 一瞬でそれまでの雰囲気を霧散させ、アルテューヌは臨戦態勢を取る。何が来るか分からない、ただそれだけで警戒をする理由は十分。

 更に歪んだ、宙の一部。逆巻くような更なる歪みは、その深さを増していき……

 

「……っ…!」

「……!ネプギア…!?」

 

 逆巻いた末、穴が穿たれるように開いた隙間から、姿を現す一人の女神。それは他でもない、ネプギアだった。

 歪みを開いて現れたネプギアの存在に、アルテューヌは目を見開く。内側へと飛び込んできたネプギアと、見上げるアルテューヌの視線が一瞬交錯し…しかし次の瞬間、ネプギアの身体から力が抜ける。女神化が解け……ふらりとそのまま、落下する。

 

 

 

 

 偶然か、それとも何か理由があるのかは分からないけど、天界に現れた空間の歪み…それを越えた先にいたのは、アルテューヌさんだった。

 

「ネプギア、大丈夫!?」

「お姉ちゃん…この空間は、一体……」

「それより貴女の事よ!見たところ大きな怪我はないようだけど、ネプギアこそ一体何があったの…!?まさか、戦いで……」

「ううん…ネプテューヌさんとの戦闘で消耗した後に、ここに強行突破を掛けたから、流石にちょっと疲れちゃっただけだよ…」

 

 消耗で女神化を維持し切れなくなって、降りる前に落下する。わたしは受け身の姿勢を取って…けれど私の身体を包んだのは、衝撃ではなく柔らかな感触。気付けば飛び立ったアルテューヌさんが受け止めてくれていて…そのままわたしは、抱えられた状態で降りる。

 まさか。その言葉に、わたしは首を横に振る。この場所には…空間の歪みの内側には、ただ進むだけじゃ入らなかった。だから、わたしはこじ開けた。中へ、内側へと飛び込む為の穴を。

 

「ちょっとって…いや、それ以前に…強行突破…?これは…ここは、次元の狭間…ううん、時空の狭間みたいなものなのよ?」

「そっか、やっぱりそういう空間なんだね…だけどこれの発生には、シェアエナジーとカオスエナジーが関わっている。そうだよね?」

 

 身体を起こして、アルテューヌさんに離してもらう。予想が当たっていた事、だから考えた通りに…って言ってもかなり無理をしたけど…抜ける事が出来たんだって、胸の中で納得を抱く。

 

「…えぇ、そうよ。けど本当に、どうやって……」

「だからだよ。シェアエナジーは勿論だけど、カオスエナジーもお姉ちゃんの怪我の処置をした時、解析させてもらったからね。例えそれが空間の…次元の歪みだったとしても、そこにはっきりと存在しているなら、解析も出来るなら、わたしは干渉する事が出来る…なんて言ったら、流石に格好付け過ぎ…かな」

 

 自分で言っていて少し恥ずかしくなったわたしは、誤魔化すように軽く笑う。女神の姿を維持出来ていれば、恥ずかしく感じなかったのかもしれないけど…やっぱりこういう事を言うのは、女神の姿の方が向いてるなぁ…。

 

「…本当に、大したものね」

「結構無理をして、それで何とか…って感じなんだけど、ね。…今度は、わたしが訊かせて。ここは一体…なんなの?」

 

 一度肩を竦めて、それから表情を引き締める。問い掛けて、アルテューヌさんを見つめる。わたしからの視線を受けたアルテューヌさんは、さっきも一度言ったからか静かに一度頷いて…口を開く。

 

「さっきも言った通り、ここは時空の歪んだ領域。別次元とも違う、文字通り『時間』も『空間』も外とは隔絶した場所よ」

「どうしてそんな場所が…って、もしや……」

 

 わたしの呟きに、またアルテューヌさんは頷く。それが、答え。アルテューヌさんが行おうとしていた、擬似的な原天界帰の結果。

 

「じゃあ…成功、したって事…?」

「いいえ、そうじゃないわ。今は、まだね」

「今は…?」

「ここは、時間と空間、その両方の頸木に囚われない場所。時空のルールなんて通用しないどころか、そんなルールすら存在しない場所。だけどだからこそ、一筋縄ではいかない領域。特に今は不安定で…このままなら、天界は勿論、信次元全体が飲み込まれて、きっと次元としての在り方を失うわ」

「……っ…そんな、それじゃあ…」

「そう、それじゃあ成功とは言えないわ。だけど制御する事が出来れば、飲み込むんじゃなくて包み込む事が出来れば、信次元を塗り替えられる。擬似的なものじゃない、『過去』を『今』に上書きする原天界帰とも違う、本当に時間を過去へと戻す事が…この領域からなら、きっと出来る」

 

 静かな、だけど熱を持ったアルテューヌさんの言葉に、わたしは息を呑む。そもそも擬似原天界帰の時点で仮説の、試してみるの域を超えていないものだった以上、今アルテューヌさんが語った事も、推測に過ぎないんだろうけど…言葉からは、アルテューヌさんが確信を持っていると、確信を持てるだけの自信があるのだと伝わってくる。突破する時に歪みから感じたエネルギーも、その底知れない力の深さも、言葉の説得力を後押しする。

 

「そして極め付けは、ここが容易には…ううん、普通なら手を尽くしても侵入なんて出来ない事よ。そうでしょう?クロワール」

「…だろうな。今のところはまだ状態として『浅い』ようだが、こっから深まっていけば、もっと来るのが遅ければ、ネプギアも入る事は出来なかっただろうよ」

「だ、そうよ。今の段階でも難しいんだから、ここから更に進めばこの領域は、それそのものが難攻不落の要塞になる。制御には時間が必要だけど、普通は時間が掛かれば掛かる程攻め込まれる隙が広がるものだけど、ここにおいてはむしろ、時間が掛かれば掛かる程守りは強固になっていく。そしてこの領域をわたしが掌握すれば、それで全部が済んで終わる。…勝ったわ、ネプギア。この戦いは、わたし達の勝利よ」

 

 胸の前で右手を握って、アルテューヌさんは笑みを浮かべる。これまで見た事のない、高揚感に彩られた表情をわたしに見せる。

…まさか、こんな事になるとは思わなかった。正直…上手くいかないと、思っていた。ただでさえ確信があった訳じゃないところに、わたしが抜けて更に可能性としては低くなっていた筈だったから。それが、まさか…想像した以上の結果を生み出すだなんて。

 

「…制御、出来るの?」

「出来るわ。わたしは、してみせる。だって、制御さえ出来ればわたし達の勝ちだもの。失敗する事以外の負け筋なんて、もう無いも同然で…失敗すれば、信次元の何もかもが終わるんだもの。だから負ける訳がないし…失敗する訳にはいかない。この確実な、背水の陣…これ以上ない位の、絶好の舞台だわ」

 

 語るアルテューヌさんの声から、不安なんて感じない。口振りからして、上手くいく保証がある訳でもないようなのに、むしろ自信に満ちている。そして、きっと…アルテューヌさんは、成功させる。制御してみせる。だってそれが、『ネプテューヌ』だから。ここ一番ではばっちり決めるのが、わたしの知ってるお姉ちゃんだから。

 

(…不味い…これは本当に、不味い……)

 

 じわり、と心の中に広がる焦り。わたしの中にあるのは、今のわたしを動かしているのは、アルテューヌさんを支えたいっていう思い。わたしはアルテューヌさんに、悲しんでほしくない。浮かべる表情は、笑顔であってほしい。でも、だとしても……。

 

「…良かったな。ネプギアの力は制御を掴むのにも役立つだろうし、お前にとっちゃ最大の味方なんだ。ここに来て圧倒的な優位に立つなんて、大したもんじゃねぇか」

「…そうね。このまま行けば、外からの邪魔なんて一切入らなくなる。だからこそ焦らず、無理せず、粛々と進めようじゃない。…あぁ、そうだ。クロワールは休んでいてくれても構わないわよ?今のところ、貴女に頼らなくちゃいけない事はなさそうだもの」

「そりゃ、好都合なこった」

 

 ひらひらと手を振って、クロワールさんは離れていく。…何かずっと、クロワールさんの雰囲気がこれまでと違う。もしかしたら、平気な顔をしているクロワールさんだけど、本当は物凄く消耗しているのかもしれない。想定していない形で時空の歪みなんてものを発生させたんだから、負担も相当なものだったのかもしれない。

…だとしたら、イリゼさんは?もしクロワールさんが多大な消耗を、負荷を抱えているんだとしたら、ただでさえギリギリの状態なイリゼさんは…まだ、大丈夫だなんて言える?

 

「……っ…お姉ちゃん、わたし…」

 

 不安に駆られて、イリゼさんの姿を見にいこうとした。この場所の近くに安置されている筈、そう思ったわたしは探しにいこうとして…けど、そこから言葉が続かない。一歩踏み出して…その脚から、力が抜ける。そのままわたしは、アルテューヌさんの方へ倒れ込む。

 

「あ、れ…?」

「ネプギア…?…自分で思っている以上に、消耗しているみたいね。全く…本当に、無茶するんだから…」

 

 言われてから、自分の消耗が自分で感じている以上のものなんだと理解するわたし。考えてみれば、お姉ちゃんとの戦いは体力は勿論、集中力の面でも凄く大変だったし…わたしは時空の歪みを強引に突破しただけだから、気付かない内に歪みからの反動みたいなものを、受けてしまっていたのかもしれない。…もし、アルテューヌさんが支えてくれなかったら、わたしは顔から思いっ切り倒れてたよね…気を付けないと……。

 

「ごめんね、お姉ちゃん…でも、大丈夫だよ。それ位消耗してるって分かれば、気を付ける事も出来るし」

「…………」

「…お姉ちゃん…?」

 

 そう言って、わたしはまた離れようとする。だけどさっきみたいには、アルテューヌさんは離してくれない。それどころかむしろ、わたしの肩を強く掴んでいて、無言になって……けれど数秒後、肩に掛かる力が消える。わたしを、離してくれる。

 

「気を付けなきゃ、駄目よ。貴女にはまだ、手伝ってもらいたいんだから」

「…うん」

 

 一度離れた手が、また肩に触れる。でも今度は掴むんじゃなくて、ぽん、と軽く置かれただけ。それと共に、アルテューヌさんはわたしを見つめて…わたしはそれに、小さく頷く。

……このままじゃ、いけない。このままアルテューヌさんが過去を変えて、何もかもをひっくり返しちゃうのは…たとえアルテューヌさん自身が望んでいる事だとしても、止めなくちゃいけない。わたしはアルテューヌさんを支えたい、笑顔でいてほしいからこそ…絶対に、いけない。…だとしたら、わたしに出来る事は──。

 

 

 

 

 歩いていくネプギアの背を、アルテューヌは見送る。リスクを冒して、無理をしてまで、自身に追い付いてきてくれたネプギアを。…まだ、本心を隠したままのネプギアを。きっと…最後は裏切るつもりの、ネプギアを。

 

(…あの時、間違いなくチャンスだった…もうもう一人のわたしや、他の女神達の事は気にしなくていい。ここからわたしが逆転される事があるとすれば、その可能性が一番大きいのはネプギア。この領域の『中』にいて…十分わたしに刃を届かせる事の出来る、『今』の女神)

 

 アルテューヌは既に、ネプギアの強さを理解している。単純な戦闘能力だけでなく、ビヨンドフォームの特異な力も、精神面での強さも、十分に見てきている。状況が状況だったとはいえ、怪我の治癒の際には、完全に優位に立たれてしまったという事も、認めている。

 だからこそ、アルテューヌは思う。そんなネプギアだからこそ、自分の脅威になると。今最も用心するべきは、ネプギアなのではないか、と。現に、ネプギアは時空の歪みを突破してきた。もしもネプギアが再び穴を空け、女神達を呼び込んだとすれば、今の圧倒的優勢は瓦解する。ネプギアは現状味方でありながら、何よりも警戒しなくてはいけない存在だと言っても過言ではない。

 

「…だというのに、どうしてわたしは……」

 

 そんなネプギアが見せた隙。明らかに消耗をした、無防備な姿。その姿を見た瞬間、アルテューヌは思った。…ネプギアを始末するなら、今だと。万全の状態のネプギアは、アルテューヌにとっても一筋縄ではいかない、確実に勝てるとは言えない相手だが、今ならばほぼ間違いなく勝てると。

 加えて、もう今のアルテューヌに、戦力はあるに越した事はないものの、必要不可欠ではない。歪みの制御においても、ネプギアの力は助けとなる可能性が高いが、必須ではない。どちらの面でも、今となっては『最悪なくても良い』のがネプギアなのであり…万が一の事がなければ崩れないであろう圧倒的優位の、『万が一』を起こし得るというリスクを背負ってまでネプギアをこのままにしておくのは、むしろ悪手ではないか…本気でアルテューヌは、そう思っていた。……だが、それは出来なかった。アルテューヌは、その意義も、必要性も確かに感じていながら…手を下す事が、出来なかった。

 

「……っ…まさか、本当に…本当にわたしが、絆されているっていうの…?ネプギアに、有用な力としてじゃなくて…個人として、いてほしいと思っているの…?」

 

 自分の胸に手を当て、その手をゆっくりと握り締めるアルテューヌ。まさか、そんなまさかとは思うものの…アルテューヌは、否定し切れなかった。これまでの事、クロワールに指摘された事は勿論、つい先程も、人の姿に戻ってしまって落下するネプギアを、演技でも何でもなく、反射的に抱えていた。その理由があるとすれば…考え得るのは、一つしかない。

 

(…けど…そう、そうよ。危険だからといって、自分に牙を剥く可能性があるからといって、だからって味方してくれる存在を排除するのは、女神のする事じゃないわ。それに万が一を起こし得るのは、ネプギアだけじゃない。どこにどんな見落としがあるか分からないし、絶対なんてものはそうそうない。もしもの事を考えるなら…むしろネプギアの存在は、何よりありがたい筈だわ)

 

 ゆっくりと首を横に振り、アルテューヌは自分に言い聞かせる。必須ではなくとも、そうする事が最善の選択肢だとも限らないと。それに考えてみれば、ネプギアが怪我の治癒をした際、実は、本当はそれ以外にも何かしたかもしれない…その可能性は、完全に否定出来た訳でもない。であれば本当に選ぶべきは、始末ではない…そう考えて、自分を納得させる。始末しない理由が、感情以外のところにも…合理的と言える理由があるのだと、自分の中で並べ立てる。

 

「だから、これでいい…これで、いいのよ……」

 

 言葉に出し、自分は納得してるのだと示すが如く、何度も頭を縦に振る。それ以上の事は、考えないようにする。だがそうしている時点で、そんな思考をしている時点で、もう心の中にある気持ちを否定など出来ていない…むしろそうした『言い訳』を並べ立てるしかないのだと、自分自身で認めているようなもの。…それすらも分かっていながら、アルテューヌは都合の良い『理由』を作り、本当の『思い』から目を逸らす。でなければ、揺らいでしまう…そんな気が、していたから。

 

 

 

 

 時空の歪みの中では、消失した街が再構成をされていった。元の、天界としての空間を塗り替えるように、変化していった。そしてその一角、ゆっくりと広がる歪みの端で…クロワールは一人、佇む。

 

「…はぁ…期待外れっつーか…散々思ったようにいかないっつーか……」

 

 ぼんやりと景色を眺めながらの、小さな呟き。怒りはない。恨みもない。…既に、冷めてしまっていたから。だからクロワールは…言う。

 

「なーんか…飽きちまったな」

 

 クロワールにとって、最優先となるのは「面白いか否か」。面白ければその内容は何でも良く、面白くなりそうならば、悪であろうとなんであろうと行い、加担する。より面白いものを見られそうならば、逆に悪と戦う者へ手を貸す事も躊躇わない。善も悪も、王道も邪道も、喜劇も悲劇も関係なく…ただ面白いと思えれば、それで良い。故にクロワールは、自分の正しさなど語るつもりもなければ、そもそも自分を正しいなどとも微塵も思っておらず…冷めてしまえば、飽きてしまえば、その心は急速に離れていく。

 それでもクロワールは、クロワールなりに義理を通していた。手を貸し、力を貸し、すぐに対価を求める事はせず、面白いものを見る為にと、危険も冒してきた。本人に義理を通すという意識はなく、面白いものを見る為…という意図であったのだが、結果としては同じ事。

 

「…止めるか、もう。何だかこれじゃ、このままいてもおもしれーもんを見られそうにないしよ」

 

 だからこそ、いとも簡単にそう思ってしまう。言えてしまう。勿論アルテューヌやネプギアの前では流石に言わないが…いるいないに関わらず、今の言葉は口にしなくてもよいもの。それを独り言とはいえ、わざわざ口にしたという事自体が、クロワールの中でその気持ちが固まっている事の証左であった。

 

「つかマジで、あいつは本当に『ネプテューヌ』なのか?そりゃ確かに女神の姿だからっつー部分はあるのかもしれねーが、それにしたって面白みがねぇっつーか、大胆さに欠けるっつかー…とにかく、狙ってる先はデカい癖に、やる事がいちいち地味ってか、湿っぽいってか、本当面白くねぇよな。あいつも、人間のネプテューヌですら一緒にいるだけでスリリング極まりねぇ事が次々と起こるってのに、女神がこれってどういう事だよ?……それともまさか…ここにいるのは、ネプテューヌじゃねぇのか…?実は自分が本物だと思ってるだけで、実際には音素的なので構成されている複製とか、プロジェクトNE.P.P.P的なので生み出された存在だとかなのか…?」

 

 決心してからは、途端に不満が爆発するクロワール。暫しクロワールは文句を口にし…途中でふと、根本的な部分を疑問に思う。まさか、と口元に手を当て…しかし、首を横に振る。

 

「って、んな訳ねぇか。これじゃそれこそネプテューヌ的思考だっつの。…どうすっかな、こっからは…取り敢えずは退散するにしても、その後は…そうだ、どっかに留まるんじゃなくて、色んな次元を巡るのも良いかもな。その時々でちょっかい出して、手当たり次第に手を貸してみて、大事や大騒動にも首突っ込んで、滅茶苦茶な経験して、けど偶にゃシンプルにのんびりしてみたりもして…んで、その都度馬鹿な話でなんだかんだ盛り上がって……」

 

 腕を組み、クロワールが考えるのはこれからの事。どこに行くか、何をするか、どんな面白いものを経験するか…それを考えている内に、少しだけ楽しくなってくる。自然と頬は緩み、これまでの面白かったと思える出来事が思い浮かび……

 

「…なんだかんだ盛り上がって、って何だよ…それは、誰かと一緒にいる前提じゃねぇか…。それに俺は、何を思い浮かべてるんだよ…女神のネプテューヌを、誰と比較して考えてるんだよ…これじゃあ、まるで……」

 

 そして、気付く。あまりにも認めたくない、だが確かにあった、自分の中の気持ちに。気付き…困ったような顔をして、笑う。

 

「…なんだよ、そういう事かよ…はは、だったら満たされねぇ訳だ、真底おもしれーって思えねぇ訳だ。…ったく…いつの間にか、俺もどうにかなっちまってみたいだな…。…けど、そっか…それなら、俺は……」

 

 ぽつぽつと呟くように零れる声。呆れ混じりの、しかしどこか柔らかさも感じる、クロワールの声。それからクロワールは一度口を噤み…また開く。

 

「…俺は俺の楽しみを、俺が一番おもしれーって思う事を最優先する。それは、何があったって変わらねぇ。だったら…あぁ、難しく考える必要はねぇよな。……よし。とはいえ今は状況も状況だし、一先ずは別の……」

「──別の次元に、行くんですか?」

「……ッ!?」

 

 吹っ切れたような、開き直ったような…そんな気分となったクロワールは、次元の扉を開く。開こうとする。だが、その直後…一つの声が、クロワールを振り向かせる。

 

「…ネプギア……」

「クロワールさん、さっきから一人でやたら喋っていましたね。…大丈夫です…?」

「それは、まぁ…大丈夫じゃ、ねぇだろうな…。主に、それを聞かれてた、って意味でだが……」

 

 妙な方向での心配をする、人の姿のネプギアに、クロワールは返す。じわり、と浮かぶのは冷や汗。あまりにも迂闊だった自らの発言を内心後悔しつつ…努めて冷静さを装いながら、ネプギアの動きを伺う。

 

「まあ、それはともかく…これからクロワールさんは、どうするおつもりですか?」

「…聞いてたんなら、分かるだろ?」

「誤魔化しはしないんですね」

「とても誤魔化せる状況じゃねぇからな。…そっちこそ、どうする気だよ。アルテューヌに告げ口でもするか?それとも……」

 

 無論クロワールも、誤魔化す事は考えていた。どこまで聞かれていたかは分からない。故に、殆ど聞かれていない可能性もあるし、カマをかけている可能性もある。だが、そうはしなかった。これは誤魔化せない…直感的に、クロワールはそう感じていた。

 だからクロワールは、誤魔化すのではなく、全て聞かれていた前提でこの場を乗り切る方法を模索する。ネプギアの事を見やりながら、クロワールは思考を巡らせ……しかし次の瞬間、ネプギアは表情を緩める。

 

「構いませんよ?」

「……んぁ?いいって…何がだよ」

「邪魔はしない、って事です。…クロワールさんなら、まだ時空の歪みを超えて出ていけるんですよね?」

「…何のつもりだよ、お前…二心があるんだろうなとは思っていたが…お前は何を企んでやがる……」

「企みなんて、そんな…。…でも、お願いしたい事はあります。貴女に、クロワールさんに、頼みたい事が」

 

 想定外の、ネプギアの言葉。クロワールからすればありがたい…しかし、到底素直には受け止められない、ある意味で想定していた答えよりも恐ろしさを感じる返答。一体ネプギアは何を考えているのか。真の狙いは、どこにあるのか…そんな思考を言葉に滲ませる中、ネプギアは肩を竦め…表情を引き締める。真面目そのものな表情となり……ネプギアは、言った。




今回のパロディ解説

・ネプテューヌとノワールの〜〜なんかないだろ?
SYNDUALITY Noirの主人公、カナタの台詞の一つのパロディ。エリーに対して言った台詞ですね。しかしこれは分かり辛いですね。ほんと名台詞でもない台詞なので、活字媒体じゃなくても分かり辛そうです。

・「〜〜勝ったわ、ネプギア〜〜わたし達の、勝利よ」
Fate/Zeroに登場するキャラの一人、遠坂時臣の台詞の一つのパロディ。こんな事言うキャラって、サブカルの世界ではまあまず勝てませんよね。アルテューヌの場合は…さて、どうでしょう。

・「〜〜音素的なので構成されている複製〜〜」
テイルズオブジアビスに登場する要素の一つ、レプリカの事。クロワールって口調や態度自体は割と軽い調子のキャラなので、意外とパロネタを言わせ易いんですよね。

・「〜〜プロジェクトNE.P.P.P〜〜」
リリカルなのはシリーズに登場する用語の一つ、プロジェクトF.A.T.E(プロジェクトF)のパロディ。ただネタとしては、原作のVⅡ(R)におけるプロジェクト・ねぷぷぷも意識しています。
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