超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

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本編
プロローグ 新たな始まり


 信次元ゲイムギョウカイには、五つの国がある。プラネテューヌ、ラステイション、リーンボックス、ルウィー…四大国家と呼ばれる四つの国は、長い歴史を持ち、長年信次元はその四つの国が中心だった。けれどそれは、過去の話。少し前までの、信次元の在り方。

 四つの国に続く、もう一つの国。新たな、第五の国家、神生オデッセフィア。信次元最古にして、今に続く始まりの国となったオデッセフィアの名前を受け継ぐ、再臨せし原初の国。一つとなった四大陸の上空に浮かぶ、今の信次元の在り方の一つ。

 そして、各国に女神がいるように、神生オデッセフィアにも国を護り、導く女神がいる。──私が、いる。

 

「うん、うん…じゃあ、また後でね」

 

 通話を切り、携帯端末を仕舞う。んーっ…と一つ伸びをして、目の前の仕事に戻る。データで送られてきた企画書や報告書に目を通し、問題ないものは承認し、気になる点があるものはその旨を添えて送信する。情報端末や電子データっていうのは偉いもので、直接顔を合わせ、わざわざ資料を持っていくという手間を省いて業務を進められる。…まぁ、細かく確認したい事があったり、資料を作成した人の考えや想定、今後の計画なんかを訊きたい時には何度も電子上でやり取りするより直接会って話す方が手早く確実に理解出来るから、そこは世の中の大概の事と同じように、時と場合、内容に合わせて使い分けるのが一番なんだけど。

 

「…大分、慣れてきたな」

 

 デスクワークを進めながら、思考の片隅で私は思う。私が、オリジンハートが神生オデッセフィアの守護女神となってから、結構な時が経った。周りから色々教わったとはいえ、何もかも手探りで慌ただしかった…神生オデッセフィアの国民となってくれた皆と同じように、私自身も一歩一歩歩みを進めていた頃が、もう懐かしく感じる。…言う程慌ただしい感じはなかった?大々的な水着イベントしてたり、色んな次元や世界から友達を招いてたり、他にも色々日々を満喫してた気がする?…それを含めて慌ただしかったんだよ、うん。実際女神の務めの一環だったり、神生オデッセフィアや信次元にとって利となる一面があったりする事柄も多かった訳だし。

 ともかく、神生オデッセフィアの建国から結構な時が立ち、少しだけど私も国も落ち着いてきた。まだまだ国として安定してきたとは言えないし、先を進む四国家の遥か後方を懸命に追い掛けているような状況だけど、一つ前の段階には進んだと、そう思っている。

 

(けど、だからって気を緩めちゃ駄目だよね。イストワールさんがいれば、「慣れてきた時の油断は危険ですからね?(´・∀・`)」…って言うだろうし)

 

 二人いる自分の姉の内一人を思い出し、私は自分に言い聞かせる。気負いはしないけど、油断もしない。じゃなきゃ国民の皆を幸せに出来ないし…イストワールさんの信頼にも、応えられない。

 姉として、神生オデッセフィアの運営が軌道に乗るまでは側で支える。そう決めて、イストワールさんは一緒に神生オデッセフィアに来てくれていた。そのイストワールさんは、もういない。もう私も神生オデッセフィアも大丈夫だって、今の本来の務めであるプラネテューヌの教祖の仕事に…プラネテューヌに戻っていった。それは寂しい事だけど、ほんと凄く寂しいけど…私と神生オデッセフィアを認め、信じてくれたが故なんだから、私は女神としても妹としても応えたい。応える為に、私は…私達は、頑張るんだ。

 

「こっからまた、忙しくもなるんだし…ね」

 

 色々思いながらも、目も手も動かす。そうして今日、今の内に進めておきたいところまでは片付け…終わった事で、機器の電源を落とす。

 女神と言えど、当然疲れる。だから私は飲み物を淹れ、用意していたお菓子と共に一服をし…部屋を出る。デスクワークは済ませたけど、まだ今日の予定は残っている。

 

「お疲れ様です、イリゼ様」

「お出掛けですか?」

「うん、君達もお疲れ様。ちゃんと休憩取ってる?もしもの時に万全のパフォーマンスを発揮出来るように、適宜休憩を取ってくれなきゃ駄目だからね?」

 

 教会の警護を担当してくれている人達…私にとっては色んな意味で印象深い、私の初めの信仰者でもある二人に声を掛け、外へ。敷地内の裏手、人気のない場所で女神化をし、空へと舞い上がる。…自前で車両はおろか、航空機より早くて自在に移動出来る手段があるって凄く便利だよね。ほんと、女神としては今更な事だけど。

 

「本日も神生オデッセフィアに異常なし…っと」

 

 目的地へ向けて空を飛びながら、眼下の街並みを見回す。今の進路で見えるのは街の一部だけど、少なくとも今見えている場所に異常がない事は間違いない。

 向かう先は、神生オデッセフィアの生活圏外。街の中心から外側へと向け、加速していく。途中で飛行する輸送機と遭遇したり、コックピットに向けて手を振ったりしながら飛んでいき、生活圏外を出る。更に暫くの間飛行し…目的地、の前の待ち合わせ場所へと到着する。

 

「えー、っと…」

 

 降り立ったのは、生活圏外に設置されたキャンプの一つ。まだ本当に最低限の設備しかない、多人数で使用するような状態じゃないキャンプで…あ、キャンプってあれだよ?アウトドアの方じゃなくて、遠征先の拠点的な意味の方だよ?

 そのキャンプへと降りた私は、女神化を解いてぐるりと見回す。ここで私は待ち合わせをしていて…数秒後、聞こえてきたのは待ち合わせ相手の声。

 

「イリゼ、お疲れ様」

「あ、セイツ。お待たせ」

 

 聞こえた声に振り向けば、そこにいたのはやっぱり待ち合わせ相手のセイツ。軽く手を挙げながらこっちに歩いてくるセイツに私も手を挙げ、私達は合流する。

 

「どうする?ちょっと休憩してから行く?」

「ううん、出る前に一休みしたから大丈夫。セイツこそ、外に出っ放しで疲れてない?」

「わたしはそれこそイリゼが来るまでここで休憩してたから問題ないわ。…じゃあ、早速出発する?」

 

 こくり、とセイツに頷いて、私達は歩き出す。今いるキャンプより更に生活圏外側…未開の地へと向かって歩く。

 

「セイツ、今日の夕飯は何がいいかな?」

「イリゼが作ってくれるものなら、辛くなければなんだっていいわ」

「もー、なんでもいいって言われても困るのは分かってるでしょ?」

「でも実際、なんでもいいんだもの。わたしとイリゼは食べ物の好みも大体一緒だから、イリゼが好んで作ってくれたものは大概満足出来るし」

「じゃあ、昨日と全く同じメニューでもいいと?」

「正直、嫌じゃないわよ?イリゼだってそうでしょ?」

 

 ちょっと意地悪な問いをしたつもりだったのに軽々返されて、逆に私の方が詰まってしまう。実際好きなものなら数日連続で食べたって飽きはしないから、言い返そうにも返せない。…はぁ…ほんと全部セイツの言う通りだし、毎日セイツは美味しいって言って笑顔で食べてくれるから、作り甲斐があるってものだけど…毎日のメニューを決めるのって、地味に大変だよね…。

 とまぁ何気ない会話をしている私達だけど、何も散歩をしに来た訳じゃない。神生オデッセフィア…というかこの浮遊大陸は、その成り立ちの関係から未開の地域が本当に多くて、初めはそれこそ『生活圏外は殆ど未開の地。何なら生活圏内でも未開の地域があったりする』なんてレベルだったし、生活圏内の整備・発展と並行して生活圏外の調査を進めてきた今も、まだ未開地域は結構ある。さっきまでいたキャンプは、この辺り一帯の調査を行うキャンプの内の最前線…つまり今現在の最大地点。

 そして当然、未開の地には様々な危険が伴う。情報がないって事は勿論、環境だったり遭難だったりにも気をつけなきゃいけないし、けど何より危険なのは……

 

「っと、イリゼ」

「うん、いるね」

 

 表情を変えたセイツと共に、足を止める。私も意識を切り替えて、木々の生い茂る周囲へと目を走らせる。

 意識は戦闘のそれに移行して、けど出来る限り自然体で…警戒を抱かせないような雰囲気を作って佇んでいた次の瞬間、茂みから飛び出してきたのは数体のモンスター。未開の地に棲む、単純且つ最も注意しなくちゃいけない危険。

 

『ふ……ッ!』

 

 左右から挟み込む形で飛び掛かってきたモンスターの群れに対し、私達は同時に得物を抜く。飛び掛かりに合わせる形で私はバスタードソードを、セイツは二振りの剣を振るい、叩き落とすようにして斬り裂く。諸に斬撃が入ったモンスターは地面に落ちると倒れ伏し、残りのモンスターは続いて出てきた個体共々二の足を踏むように私達から少し距離を取った状態で唸りを上げる。

 

「これで人を襲ってはいけない、と理解するなら良し。そうでないなら……」

 

 血糊を払うように軽く剣を振ったセイツが言い切るより早く、残りのモンスターが再び襲い掛かってくる。今度は残るモンスターの全てが、揃って喰らい付いてくる。

 ならば、と私達は左右に跳んで突進を躱す。脚を突き立てるように着地し、そのまま地面を蹴って、反復横跳びの様に元の位置へ。それと共にバスタードソードを突き出し、一番近いモンスターに突き立て、引き抜く勢いと共に回転を掛ける。回りつつ立ち位置も変え、回転斬りを別の個体に浴びせ薙ぐ。

 

「よ、っと。せぇいッ!」

 

 素早く周囲に視線を走らせ、短いステップを繰り返す事でモンスターを引き付けつつ木々の間を動き回る。木を遮蔽物にする事で包囲される事を回避し、尚且つ私自身は翻弄しつつ回り込む事で一体一体撃破していく。下手に動き回れば木に衝突する、そうでなくても木の根や地面の凹凸に脚を取られる可能性が十分にある森林の中…今いるのはそういう場で、けれど私達にとっては大した障害にはならない。それを示すように、着実にモンスターの数を減らしていき…戦闘開始から数分足らずで、全てのモンスターは消滅した。

 

「ふぅ、肩慣らしには丁度良かったかな」

「えぇ。この程度なら、障害になる事もなさそうね」

 

 戦いの中で服に付いていた葉っぱを払い、お互いの状態を確認して、また私達は歩き出す。

 調査に先行しての、危険の把握と排除。それが、私達の目的。わざわざ女神が出張っているのは、元々この地域は脅威度の高いモンスターの報告がこれまでも多かったからって事と…私達の、戦闘の勘を鈍らせない為。特に私の場合、特務監査官だった頃より戦闘の機会は減っているから、定期的にこういう機会を作っておきたいってもの。…まあ、有事ってなれば、望まなくたって向こうから戦闘の機会はやってくるけど…。

 

(ほんと、皆は凄いよなぁ…)

 

 元から凄いとは思っていたけど、やっぱり同じ立場になる事で、守護女神の皆の凄さが実感出来る。国の状態がまるで違う以上、単純比較は出来ないだろうけども、皆はずっと前から今の私と同じような日々を送りつつ、戦闘能力も落とさずにいた訳だから。…と、いうか…そこから更に、各々自分の趣味やら何やらの時間も確保しているんだから、ほんと凄過ぎる。

 

「…あ」

「うん?何かあった?」

「あったわ、ほら」

 

 そんな事を私が思っていた中で、不意にセイツが足を止める。声音からして、危険な何かではないんだろうなと思いつつ私が訊けば、セイツはその場にしゃがみ込んである物を指差す。そして、指し示された先にあったのは…木の根元に咲いた花。

 花弁が赤く、中央が白寄りの黄色をした、数輪の花が咲いている。別に凄く大きいとかでなければ、滅多に見られない種類の花だったとかでもない、ほんとにただちょっと可愛くて綺麗なだけの、普通の花。…でも、和む。凄くないからこそ、純粋に心が和む。

 

「これ、もしかすると神生オデッセフィア以外にはない花かな?」

「どうかしら…一応、撮っておく?」

 

 とはいえ、本当にありふれた花かどうかは分からない。特殊な環境、現代へと再現された過去の大陸という存在であるこの浮遊大陸の中には、現代では絶滅している種が存在している場合があって、ひょっとするとこれもその一種かもしれない。そういう事柄も、調査の対象で…だから私は端末で写真を撮り、後で詳しい人に聞いてみる事にする。

 でもって、また歩く。数度モンスターと遭遇し、その全てを返り討ちにし…暫く歩き回ったところで、休憩を取る事にした。

 

「にしても、モンスターの事はほんと気になるね。飛行出来るタイプはともかく、どう見ても飛べない種類も結構いる訳だし」

「そうよねぇ。オリゼが意図的に発生させた、残しておいたって訳ではないと思うけど…」

 

 見晴らしが良く、休むのに丁度良さそうな場所で腰を下ろし、休憩しつつセイツと話す。風が気持ち良いし、楽しい会話をしたいところだけど…話題となるのは、モンスターの事。

 ここに至るまでに倒したモンスターは、多くが地上で生息するタイプだった。今以前に遭遇したモンスターや、報告を受けた事のあるモンスターの中にも、飛行能力を有しないモンスターは多くいる。他国であれば、それは普通の事だけど…神生オデッセフィアは、四大陸とは隔絶された遥か上空の浮遊大陸。飛行出来ないモンスターは、自力で四大陸からは当然移って来られない。

 つまり、神生オデッセフィアにいる非飛行型モンスターは全て、元からこの大陸にいた、或いはここが今の姿となってから生まれたモンスターだって事になる。そもそもモンスターは通常の動植物と違って『生まれる』だけじゃなく『発生する』形でも増えたりする(と思われる)以上、いるのはあり得ない、とまでは言わないけども、だとしても気になる。ここは思いの力、シェアの奇跡で以って形作られた…人を思い、どこまでも人の為に在ったオリゼが現代へ再現した大陸なのに、人に害を為すモンスターが存在しているその理由が。

 

「……別に確たる理由はなくて、案外あの時はそこまで考えてなかっただけだったりして…」

「いや、オリゼがそんな事……」

 

((…しそうだ……))

 

 無言となるセイツと私。お互い何も言っていない訳だけど、同じ事を考えている気がする。…だってほんと、オリゼってそういうところあるし…抜けてるっていうか、ものの見方や思考がまあまあ独特だったりするし…。

…それにあの時…《女神化》をした時のオリゼは、オリゼであってオリゼじゃない…人の思いに応え、人の願いを叶える女神であって、オリゼという個ではなくなっていたようにも思えるから、そして私も似たような経験を一度した事があるから、どちらにせよ「オリゼが形作った大陸なんだから、モンスターがいるのはおかしい」…と考えるのは早計かもしれない。

 

「ともかく、モンスターの調査は今後も優先的に行わないとね。何者かがモンスターを運んできている、発生させている…とは思いたくないけど、絶対ないとは言い切れないし、そうでなくてもモンスターの分布図を作る事が出来れば、調査全体の安全性も上がるんだしさ」

「…イリゼ、すっかり守護女神の立場や考え方が板に付いたわね。お姉ちゃん、嬉しいわ」

「もう、茶化さないでよね。第一人の安全を…ってのは、守護女神になる前から考えてたつもりだよ?」

「まあ、そうかもしれないけどね。でもただ安全をってだけじゃなく、国の利益や発展まで重んじた考えっていうのはやっぱり……」

 

 やっぱり。その言葉を最後に、セイツの声は一度途切れた。理由は簡単。その瞬間に、衝撃波が私達を襲ったから。

 直前に、本能的に察知した私達は、大きく跳躍する事で回避。一瞬前まで私達がいた場所を衝撃波が襲い、地面や草木が抉れ…その一撃で、私達は理解する。これは、ここまでのモンスターとは訳が違うと。

 

「今のは…あれの攻撃みたいね」

「大きいね…それに、取り巻きもそこそこ…これは、これまでと同じ調子ではいかないかな…」

 

 着地と同時に構えた私達が視認したのは、巨人の様なモンスター。鉱石で人を模したような、見るからにパワーとタフさがありそうな存在。

 気になるの点は二つ。一つはそのサイズで、見た目こそ見た事がある…倒した経験もある鉱石タイプのモンスターだけど、大きさは私が知っているタイプの数倍以上。それにこのタイプのモンスターは、地下とか洞窟を主な生息地にしているタイプで…それがある程度開けてるとはいえ、森林にいるのも引っ掛かる。その引っ掛かりが、気になる点の二つ目。

 

「戦闘の勘を、って事もあるし…ここは本気でいこうか、セイツ」

「そうね。少しの間、大きい個体を任せても良いかしら?その間に、取り巻きを蹴散らすわ」

「ふふ、ゆっくりでも良いよ?それならそれで、そのまま私が大きい方を仕留めるだけだから」

「言うじゃない、イリゼ。まぁ…やるとしましょ!」

 

 にやり、と笑い合った後に、私達は女神化。再び巨大な個体から放たれた衝撃波を真正面から斬り裂き、私はその個体へ、セイツは通常サイズの取り巻きへと向かっていく。

 向きは真っ直ぐ、高度は少しずつ上げていく形でモンスターに突進。肉薄する前にもう一度遠隔攻撃が放たれ、その瞬間私は一気に高度を上げる事によって躱しつつ巨大モンスターの上を取る。モンスターを見据え、そこから頭に向けて長剣を振り下ろす。

 

「……っ、思った以上に硬い…!」

 

 私の得物は深々と頭部に喰い込む…けど、両断には至らない。所々綺麗な色合い的に普通の岩ではないだろうし、もしかすると魔法的な強化が掛かっているのかもしれない。…もしそうなら、このモンスターの性質なのか、モンスター自身が意図して行った強化なのか、或いは何者かが付与したものなのか。

 何れにせよ、見た目もサイズも伊達じゃない事は確かで…手を合わせるようにして左右から巨大モンスターの腕が迫る中、私は長剣を引き抜き空に離脱。躱した直後に宙返りを掛け、再度突進を仕掛ける。次の狙いは、モンスターの肩口。

 

「これでッ!」

 

 巨体な分動作一つ一つが私からすれば大振りな巨大モンスターの追い討ちを潜り抜け、圧縮シェアエナジーの解放による加速を長剣の峰側に当てると共に肩口を斬り裂く。敢えて浅めに斬る事で、今度は完全に振り抜く。当然浅く斬ればダメージも傷口も浅くなるけど、関節部であれば動きに影響が……

 

「…っとぉ…!」

 

 抱き着くような、そのまま腕と胴で押し潰す事を狙ったらしい攻撃を、私は腋の下をすり抜けるようにしてギリギリ避ける。そこからある程度の距離を開けつつ、セイツに注意が向かないよう、巨大モンスターの正面に回り込む。

 関節狙いの目論見は完全に外れ。少なくとも深く斬り裂かないと動きには大した影響がないようだし、何なら関節が脆いって事もない。頭よりは脆かった気もするけど、関節を狙えば簡単…って事は全くない。

 

(…今回は、あんまり見立てが当たってないな……)

 

 一撃離脱戦法で攻撃と退避を繰り返し、巨大モンスターにダメージを与えながら引き付け続ける。欲を出さずに立ち回れば向こうの攻撃は十分避けられるし、機動力では圧勝だけど、こっちも今のところ有効打を与えられていない。

 相手の強度もそうだし、攻撃の見立てもそうだし、こっちの推測が連続して外れている。時にはこういう事もあるとはいえ、危惧していた勘の鈍りが既に起こり始めていたのか…と少し心配になってしまう。…まあ、でも…一番重要な見立ては多分当たっている。ここまでの攻防で、当たっているという感覚がある。

 

「そろそろ、本格的に……」

 

 突き出された拳の脇を擦り抜けるようにして接近し、腰に一太刀浴びせて後方へ。巨大モンスターが振り向く中、先んじて振り返った私は空中で構え直し、これまで以上の攻勢を…掛けようとしたところで、別方向からの斬撃が、振り向きつつあるモンスターに放たれた。そしてその斬撃の主は、そのまま宙を駆け…私の隣へ。

 

「ありがと、イリゼ。取り巻きは全部片付けたわ」

「…そっか。じゃあ……」

 

 小さく笑うセイツの方を向いて、私は一つ瞬きし…それから、頷く。残念、セイツが片付ける前にこっちも巨大モンスターを仕留める事は叶わなかった。

 だけど別に、これは競争じゃない。残念ではあるけど、それならそれでセイツと一緒に仕留めるまで。

 

「セイツ、取り巻きの方はどうだった?そっちも硬かった?」

「それなりにはね。けど、十分力押し出来るレベルだったわよ」

「ならやっぱり、この個体は特別硬い訳か…。このままじっくり、少しずつ削っていくのが無難かもしれないけど…少々特殊とはいえ、相手は所詮モンスター。一方こちらは神生オデッセフィアが誇る女神二人。ならば、私達が取るべき選択は一つ」

「えぇ、真っ正面から…打ち砕こうじゃないッ!」

 

 二人で一度別れて飛びながら、言葉を交わす。攻撃を速度で振り切り、軽く確認をして…そして再度宙で集まった私達は、見得を切る。言葉通り、巨大モンスターの正面で言い切り…踏み込む。

 叩き落とすような腕の振り抜きを、左右に分かれて躱す。そこから私達は、軌道を交差させるように鋭くモンスターへと接近し、私とセイツで胴を十字に斬り付ける。

 

「イリゼッ!」

「そこぉッ!」

 

 揃って懐から離脱する私達の背後へ繰り出される、巨大モンスターの拳。岩塊がそのまま飛んできているような一撃に対し、セイツは振り向き、縦連結で大剣形態へと変えた連結剣を叩き付ける。触れる瞬間、腕のプロセッサに搭載されたカートリッジ内の圧縮シェアエナジーを解放し、自分自身の膂力と合わせてモンスターの殴打を弾き返す。

 その瞬間、姿勢が崩れたモンスターへ向けて、反転した私は再接近を掛ける。一直線の突進から、勢いの全てを乗せた刺突をモンスターに叩き込む。狙う先は、一度斬撃を与えた肩口で…セイツと同じように、私も触れるタイミングで圧縮シェアエナジーの解放を行う。爆ぜる力を長剣の柄尻で受け、一気に刃を傷跡へ押し込む。

 さっきのとは違う、本気の一撃。刃は止まる事なく、根元まで突き刺さる。そして私は、そこから得物を強く握り締め、気合いと共に長剣を振り抜く。突き刺した位置から、下へと斬り裂き刃を抜き放つ。

 

「セイツ、次ッ!」

「任せ、なさいッ!」

 

 肩口…腕の根本を深く斬り捌かれた巨大モンスターの腕は、今度こそ見立て通り動きが鈍る。その穴を突き、今度はセイツが攻撃を仕掛ける。

 連結剣を分離し双剣形態に戻したセイツは、動きの鈍った側の腕の後方へ。難なくセイツは回り込み、上体の捻りを加えて左手の剣を投げ放つ。一直線に飛んだ剣は肩口…私が斬り裂いたのとは反対側に突き刺さり、更にそこへセイツが突撃。打ち付けるようにして手元の右剣と刺さった左剣とを互い違いの双刃刀形態へと連結させ、その衝撃で左剣を喰い込ませつつ、私と同じように下へ振り抜く。尚且つセイツは双刃刀形態である事を活かし、左剣を下へ振り抜くと同時に、右剣で上から斬り付ける。

 

『せー…のッ!』

 

 前と後ろ、両方から深く斬り裂いた。幾ら巨大且つ堅固なモンスターと言えど、女神二人から前後両側へ受ければ軽傷で済む筈がない。そして私達の攻撃は、これで終わり…でもない。

 某武神の名を持つタッグよろしく声を合わせた私達は、上昇しながら二人同時に腕を引く。得物を片手で持ち、逆の手を引き…目一杯の力で、上から肩に掌底を打つ。その瞬間、激しく割れる音が響き…肩口から巨大モンスターの腕が脱落。片腕が完全に崩れ落ち、衝撃でモンスターも大きくよろめく。

 

「このまま一気に決めるわよッ!」

「当然ッ!」

 

 逃げる気はないという事なのか、よろめきながらも巨大モンスターはもう一本の腕を振るってくる。けれどただでさえ大振りなモンスターが、よろめいている状態で放つ打撃なんて、全くもって脅威じゃない。

 私は上を、セイツは下を抜くように避け、それぞれに遠隔攻撃を放つ。胴体、セイツと十字に斬り付けた位置へとまず私が精製した武器を圧縮シェアエナジーの解放で射出し、続けてセイツが連結剣を芯にしたバレルで放つ圧縮シェアエナジー弾をそこへ撃つ。突き立った武器を、圧縮シェアエナジー弾が押し込む。

 片腕を脱落させるという、大きなダメージを与えた。大ダメージでなくとも、布石となる傷はここまでに色々と刻んでいる。だから後は…仕留めるのみ。

 

「真巓解放……」

「……!させるものかッ!」

 

 大剣形態へと得物を組み替えたセイツが、脇構えの様に連結剣を下げる。その刀身にシェアエナジーが集まる中、巨大モンスターは突っ込んでくる。殴打でも衝撃波でもない、その巨体を活かした体当たりで溜めるセイツを跳ね飛ばそうとする。

 勿論、それを許す私じゃない。私は大楯を精製し、セイツの前でモンスターの体当たりを受け止める。翼を広げ、真っ向からモンスターの力とぶつかり合う。

 流石に巨体そのものをぶつけてくる体当たりを受け止めるのはキツい。でも、私は守護女神。この国を、人を守る女神であり…その私が、既に万全には程遠いモンスターの体当たり程度に押し切られる事なんて…ある、訳が…ないッ!

 

「でぇええいッ!」

 

 圧縮シェアエナジーの解放を翼に受け、全力で以って持ち堪えた私。そこから私は、巨大モンスターの力が緩んだ瞬間を突いて、逆に押し返す。

 さっきのセイツの様に、即座に弾き返さなかった理由は二つ。一つは身体全体で向かってきた分、即座の弾き返しは狙い通りにいくとは限らなかったから。そしてもう一つの理由は、セイツが準備を完了させるまでの時間を稼ぐ為。そうしてばっちりと時間を稼いだ私は、弾くと同時に上昇を掛け…セイツの一撃が、空を斬り裂く。

 

「──信頼ッ!」

 

 横に振り抜かれるのは、巨大な剣。巨体を持つモンスターが相手でも十分に、十二分に通用するような巨大剣で薙ぎ払い、モンスターの身体を引き裂き砕く。巨大モンスターは耐えようとする素振りを見せたけど、峰側から発動する圧縮シェアエナジー解放の加速もかかった斬撃は、容易くモンスターの胴を捌く。威力は勿論、ここまで与えた胴へのダメージも、この一撃による破壊へと繋がる。

 そうしてセイツが巨大剣を振り抜いた時、モンスターの胴体はズタズタに砕けていた。このままでも、胴から瓦解するかもしれない。だけど、それは待たない。待つ事も、期待する事もなく…私が、私の一撃で…決める!

 

「天舞漆式──鳳仙花ッ!」

 

 掌にシェアエナジーを集中させながら、全速力で肉薄をかける。もう巨大モンスターからの攻撃はない。だから一気に、ストレートにモンスターの眼前、頭部の正面に飛び込み…シェアエナジー諸共、掌底を突き出す。額を、初めに一太刀浴びせた場所を掴む様に突き出し、圧縮したシェアエナジーを超至近距離で解放し……吹き飛ばす。

 

「ふぅ、戦闘終了…っと」

 

 頭部が粉微塵になり、胴も砕けて落ちる巨大モンスターは、倒れると共に消滅していく。他にモンスターの気配はなく、私はゆっくりと着地をした後一息吐く。

 

「良い一撃だったわよ、イリゼ。あれなら某巨大可変MSも倒せるんじゃない?」

「いやまぁ、今回のモンスターも巨大だったし、頭に掌底打ち込んで破壊した訳だけど…」

 

 隣に着地したセイツの冗談に、頬を掻きながら私は答える。倒せる?って訊かれたら、そんなの分からないとしか言いようがない訳だけど、兎にも角にも完全勝利。女神の姿で戦うという目的も果たせたし、結局セイツと二人での形にはなっちゃったけど、一番重要な見立てである、『私なら勝てる』という感覚はやっぱり正解で……

 

「んふふ、やっぱりイリゼと一緒に戦うのは良いわ。可愛い妹の、女神としての意思が前面に出た感情を、すぐ側で感じる事が出来るんだもの♪」

「わわっ…ちょ、セイツ…!?」

 

 横からいきなり掛かる圧力。でも苦しくはない、温かくて柔らかい感覚。何かといえば、それはセイツの腕と胸で…何気なく、さも当然の事かのように、話しながらセイツは私を抱き締めてきた。首に腕を回されて、肩にがっつり胸が当たっていた。

 

「なーに?イリゼ」

「なーにも何も、いきなり抱き締められたら驚くって…」

「でも、嫌じゃないでしょ?」

「それはまぁ、そうだけども……」

 

 基本女神は女神化すると…本来の姿に戻ると人の姿の時より気分が高揚したり、交戦的になったりするもの。それはセイツも例外じゃなく、元々積極的なセイツの性格が、女神化すると更に増す。しかも今は戦闘直後、勝利直後な分余計気分が高揚しているのか、それはもう気分良さそうに私を抱き締め、「あぁ…このちょっと呆れてる、でも嫌がってはいない感情良いわ…!直接触れて感じる心、堪んない…♪」とか何とか言っている。…恥ずかしい…ほんと嫌ではないし、相手はセイツ…私の姉な訳だから、正直私もちょっと気分が良かったりはするんだけど…それはそれとして、恥ずかしい。

 

(…けど、そうだよね…セイツは私よりずっと、『一人』だったんだもんね…)

 

 私は自分が記憶喪失だと思っていた時、求めていた『過去』がないと知った時、辛かった。本当に、本当に辛かった。だけど私には、イストワールさんがいた。過去の記憶や繋がりはなくとも、姉と呼べる存在が…家族がいた。

 だけど、セイツは違う。きっとセイツは、私よりずっと長い間、一人だった。勿論友達や信仰してくれる人はいただろうけど、繋がりっていうのはそれぞれ違う。家族との繋がりは、他の繋がりで埋められるようなものじゃない。そしてそんなセイツだからこそ、漸く見つけた家族との繋がりに熱心になったとしてもおかしくはないし、私もそれを拒否なんて……

 

「はぁぁ…これだけ密着してるからこそ感じられる、もっともっと深い感情…温かくて、優しくて、何より親愛に満ちた思い…最っ高…♡」

「あ、う、うん…あの、セイツ…流石にちょっと近過ぎない…?首筋に吐息が掛かるレベルなんだけど…?というか、距離とか密着度が感じ取る事に影響するの…?」

「んはぁ…♡うんうん影響する、影響するわよ多分…甘くて、柔らかくて、ふんわりとしたシャンプーの香りもあって……」

「って、ちょっと!?か、嗅いでない!?匂い嗅ぐのは違うよね!?それは感情云々とは違うよねぇ!?」

 

 前言撤回、私は抗議した。抗議して、全力で引き剥がした。そ、それはそうでしょ!幾ら姉といえど、匂いまで感じられちゃ堪らないよ!もぉぉっ、ほんとセイツは女神化すると自制心がなくなるんだからぁぁぁぁ…ッ!

…という訳で、セイツを強引に引き剥がした私は女神化を解き、ずんずんと先に歩いていく。その時の私の感情にもまたセイツはテンションを上げていて…はぁ、何とかならないかな…何とかならないんだろうね……。

 

 

 

 

 予定していた調査のルートを一通り確認した私達は、教会へと戻った。危険に対する先行調査という目的は果たせたし、深く調査する価値のありそうな洞窟を見つける事も出来た。恐らく鉱物タイプのモンスターは、そこから出てきたもので…もしかすると、貴重な資源が眠っているかもしれない。モンスターの身体がただの岩じゃなかった訳だから、それに関しては期待が出来る。

 そんな調査を終えた私達は、今日の業務を終了した…と、言いたいところだけど、今日はまだ一つ仕事が残っている。凄く重要な仕事があって…それが、もうすぐ始まる。

 

「へぇ、それは大きな成果ね。うちも鉱物資源はそれなりに豊富だけど、やっぱり未開の地が沢山あるのは羨ましいわ。…まぁ、ラステイションだってこれまでそういう資源に手を付けてなかったら、もっと大量にあったでしょって言われたらそれまでだけど」

「羨ましいのは同意だけど、未開の地が多いのはほんと大変ね。今のところはプラスの要素の方が多いみたいだけど、未開っていうのは、逆に言えばまだとんでもない危険が眠ってるかもしれない…という事でもあるし」

「とはいえ、だからといって確かめない訳にもいきませんし、期待であろうと不安であろうと調査する他ないのは変わりませんわね。…ところでイリゼ、聞きましたわよ?何でもモンスターを撃破する際、闇の裁きを受けろにゃーと叫んでいたんだとか…」

「いやいや言ってない言ってない。言ってないし、仮にそうだったとしても耳が早過ぎるでしょ…」

 

 画面越しに、三人と…ノワール、ベール、ブランと話す。今はTV通話の最中で、今日行った調査について、雑談として私は三人と話していた。

 勿論、今は雑談の為に繋いでいる訳じゃない。これはれっきとした仕事の為の通話で…開始予定の時間までは、後少し。そして画面には後一つ…今はまだ黒い、もう一枠が映っている。で、もう一枠が誰の為のものかは…言うまでもないよね。

 

「にしても遅いわね…呼び掛けた当人が一番遅いって、何考えてるのよ…」

「まあまあ、気持ちは分かるけど予想出来た事だし…ね?」

 

 至極尤もな事を口にするノワールに苦笑しつつも、私は宥める。予想出来た事だし、という返しにまぁね…とノワールは呆れた顔をし、ベールとブランも苦笑いをする。

 まだ遅れてる訳じゃないし、仕事とはいえ公的なものじゃない…半私的なものだから、別にいいと言えばいいんだけど、まぁ「相変わらずだなぁ…」と思うのも事実。そしてそんな事を思っている内に、予定の時間になり……

 

「皆、集まってるかなー!?」

 

 完全にぴったり、狙い澄ましたようなタイミングで、最後の参加者…ネプテューヌが入ってきた。しかも何故か、コンサートみたいな呼び掛けと共に入ってきていた。

 

「集まってるかなー、って…ネプテューヌ貴女、わざと開始の時間まで入るのを待ってたわね?」

「まぁね!早めに来る事より、時間ぴったりに来る事の方がきっちりしてる感じあるでしょ?」

「また、とにかく早く来る事を良しとする価値観への風刺の様な事を言い出しますのね…」

 

 半眼で見るブランに対し、ネプテューヌは元気良く答える。その発言にはまぁ、確かにベールの言う通り、何となく深いものを感じないでもないけど…多分ネプテューヌの事だから、そんな意図なんてないと思う。

 ともかくこれで、五人揃った。画面越しではあるけど、信次元の守護女神五人が集まった。…公的でもプライベートでも、ちょいちょい集まったりするから、別にレアではないんだけども。

 

「こほん。まあそんな事はいいんだよ。今日は重要な話があって皆に集まってもらった訳だからね」

「それなら尚更、早めに入って開始と同時に本題に入れるようにしなきゃ駄目でしょ」

「むー、そういう正論はいいの!」

((あ、正論とは認める(んだ・のね・んですのね)…))

 

 ネプテューヌの言い返しに内心突っ込む私だけど、というか多分全員内心で突っ込んでるけど、言ったりはしない。だって、そこを突っ込んでいたらもっと本題に入るのが遅くなるから。

 そして何も言わない私達を見て私達の意図を感じ取ったのか、ふっ…とネプテューヌは真面目な顔になる。それから画面を、画面の向こう側にいる私達の事をじっと見て……言う。

 

「ふふーん!わたしが温めてきたとっておきの企画…新!新!信次元プラネテューヌ総合大博覧会の具体的な出展内容が、決定したよーっ!」

『お、おぉー…!』

 

 ぴょんっ、とわざわざ跳び上がり、拳を突き上げて言った(そのせいで画面にはパーカーワンピしか映ってなかった)ネプテューヌの発言に、私達は緩めの歓声を上げる。…いや、まあ…発言の内容自体は、「おぉっ!」ってなるものだった。遂にか!…って気持ちになるものだった。ただ、名前がちょっと…そんなリメイクの移植版の更に移植版みたいな名前だっけ…?前に聞いた時は、もっと普通の名前だった気がするんだけど…。

 

「待ってたよね?待ちに待ったよね?」

「それは、まぁ…。…一応確認しますけど、正式な決定ですのよね?まだ最終選考の途中なのに、ネプテューヌが勝手に決定扱いしてるとかではないんですわよね?」

「ちゃんとした決定だって。わたしがこの企画に本気なのは、皆も知ってるでしょ?」

 

 楽しそうに、でも真面目さも感じられる表情でネプテューヌは返す。それに対して、私達は頷く。

 私達は知っている。ネプテューヌは、本当に本気でこの企画を進めていた事を。ネプテューヌの中で意識の変化があったのか、積極的に各所へ働きかけていて…だからこそ、私達も期待をしていた。この企画が、どんなものになるのかを。どれ程のものになるのかを。

 一拍置いてから、ネプテューヌはデータを送ってくれる。私は早速端末でそのデータに目を通し…ぽつりぽつりと、声が上がる。

 

「…これは、中々凄いわね…」

「えぇ、文面だけでも期待の感情が湧き上がってきますわ」

「…楽しみね。本当にこの通りのものが公開されるのなら、じっくりと学ばさせてもらうわ」

「うん、私も期待させてもらうよ。プラネテューヌの技術、吸収させてもらうから」

 

 初めはノワール、次はベール、続けてブランと私が呟く。言いながら、私は本番の事を、博覧会で見られるものを想像する。

 この大博覧会は、ただプラネテューヌの技術を披露するだけのものじゃない。披露すると共に、その内側…即ち何がどうしてそうなっているのかを、全てではないにしろ公開してくれるという、凄まじく思い切ったコンセプトを持っている。しかも技術っていうのはプラネテューヌの持ち味である最先端の科学技術だけでなく、伝統的なものや文化的なものも出展内容に組み込まれている…謂わば今のプラネテューヌを盛大にお見せする、って感じのもの。こんなにも価値があるものが、楽しみでない筈がない。様々な技術において四ヶ国を追い掛ける立場である神生オデッセフィアにとって、これ程ありがたい行事というのもそうそうない。

 更に、ネプテューヌは言っていた。これをプラネテューヌだけで終わらせるんじゃなく、各国で順番にやっていってほしいと。そうして信次元全体が、これまで以上に手を取り合い、競い合い、凄い次元になってほしいと。そんな事を言われたら、皆が前向きにならない訳がないし…私も、頑張ろうって思える。神生オデッセフィアの番になった時に、皆を…四ヶ国を圧巻させられるようなものを出せるように。

 

「…良かったよ。皆が、『なーんだこんなものか』って反応じゃなくて」

「…もしかして、不安だったの?」

「あはは…実はちょっと、ね。勿論どの出展にも自信があるし、当然期待してくれるよね!…とも思ってたけど…いざ見せると不安になるのって、何なんだろう?」

「いやそんなの知らないわよ…って言いたいところだけど、分かるわ。…きっと、それだけネプテューヌが本気で取り組んでるからでしょうね」

 

 真面目だからこそ、真剣に取り組んでいるからこそ、どう思われるか気になるんだ、不安になるんだ。ネプテューヌに対するノワールの返しは納得が出来るもので、私達もそれぞれに首肯をした。するとネプテューヌは、ぱちくりと一つ瞬きをして…それからにっ、と笑みを浮かべる。

 

「そっか…じゃあこれは、武者震いみたいなものだよね!そう言われると、むしろ良いものだって思えるね!よぉし…ここから更に細かい部分を詰めなくっちゃ!」

「ほんとに今回のネプテューヌはやる気ね。…けど、今回の反応で満足しないで頂戴。本番では、今の期待を超えるようなものを見せてくれなくちゃ困るわ」

「そうだよネプテューヌ。女神としては勿論だけど…個人としても、友達としても、楽しみにしてるんだから」

 

 魔法技術が浸透している分科学技術は一歩遅れているルウィーの女神であるブランと、そもそも国自体が他国を追い掛ける形である神生オデッセフィアの女神である私。そんな私達二人は、特にこの企画を楽しみにしていて…私達からの言葉を受け取ったネプテューヌは、深く頷く。さっきは不安もあったと言っていたネプテューヌだけど…今表情に浮かんでいるのは、全力でそれに応えてみせるって言っているような、ネプテューヌらしい笑顔。

 

「勿論だよ!ブランもイリゼも、ノワールもベールも…目一杯期待しててよね!わたしは、プラネテューヌは、フルパワーでその期待を超えてみせるからっ!」

 

 また立ち上がり、ネプテューヌは言う。立ち上がったもんだから、また映ってるのはパーカーワンピのお腹辺りだけになっちゃって…私達は、肩を竦め合う。

 実のところ、この企画に対して不安がない訳じゃない。これまでにない企画だからっていうのは勿論だけど、ネプテューヌが大々的に企画する、プラネテューヌの行事っていう点でもまた、失礼な考え方だとわかってるけど…正直不安を抱いてしまう。

 でも同時に、期待もある。ネプテューヌが、送られてきた内容が、強く大きな期待も抱かせてくれる。だから、楽しみにするし…私も協力をしようと思う。企画そのものへの協力は出来なくとも、手伝える事、手を貸せる事は、沢山ある。

 

(…ネプテューヌは頑張ってる。だから私も、負けてられないよね。私にも目指すもの、頑張りたいものがあるんだから)

 

 自分の国を、皆を見る事で、未来を思う事で、やる気が湧いてくる。けどそれだけじゃない。同じように国を統べる、それぞれの形で進む女神の皆を見る事でも、活力が漲ってくる。ネプテューヌの言った、手を取り合い、競い合うっていうのは…こういう事でもある、のかもしれない。

 

「…皆、まだ時間大丈夫かな?私も皆と話したい事があるんだけど……」

 

 そうして私が切り出すのは、元々話すつもりはなかった…別の機会でいいかな、と思っていた話。だけど、ネプテューヌに触発された私は切り出し…予定より長く、予定より多く、私達は会話を交わす事になるのだった。

 

 

 

 

 プラネテューヌの、遥か上空。街並みの全てを見渡せる…夜の帳が降りても尚光煌めくプラネテューヌの姿をその瞳に収めながら、空に立つ女性は呟く。

 

「…綺麗ね。やっぱり、凄く綺麗だわ」

 

 静かな、落ち着いた響きのある女性の声。それは街並みに対してなのか、そこに住む人々の在り方に対してなのか、はたまた別の何かに対してなのかは分からない。ただ一つ、伝わってくるものがあるとすれば…そこに籠っているのは、純粋な思いだという事。

 

「確かに綺麗なもんだな、俺はそういうのに全然興味ねーけどよ」

「そう。やっぱり貴女、似てるのは見た目だけなのね」

「まぁな。んで、こっからどうするんだよ?壊すのか?それとも乗っ取るのか?」

「まさか。壊す訳ないし、乗っ取るっていうのも違うわ」

 

 傍らで浮かぶもう一人の声に対し、女性は肩を竦めて応える。そして女性は、ゆっくりとプラネテューヌを見回して…言う。

 

「──取り戻すのよ。わたしはわたしの、在るべきもの全てを。だから、これから始まるのは……取り戻す為の、戦いよ」

 

 強い、強い意思の籠った言葉。取り戻す戦いだと、女性は言い切り…楽しみだとばかりに、もう一人は笑う。

 何も阻むもののない、プラネテューヌの空を駆け抜ける風。その風に吹かれて……艶めきのある、女性の紫の髪が揺れた。




今回のパロディ解説

・某武神の名を持つタッグ
新日本プロレス所属のレスラー、後藤洋央紀さんとYOSHI-HASHIこと吉橋伸雄さんによるユニット、毘沙門の事。せーの、とはっきり言って攻撃する二人組というと、このタッグを連想します。

・「〜〜某巨大可変MS〜〜」
機動戦士ガンダムSEED destinyに登場するMSの一つ、デストロイの事。要は、そのデストロイの頭部をパルマ・フィオキーナで破壊したデスティニー(シン・アスカ)のパロディって感じですね。

・「〜〜闇の裁きを受けろにゃー〜〜」
僕らの雨いろプロトコルに登場するキャラの一人、長嶺流星の決め台詞の一つの事。というか、ネタ云々より彼の名前の格好良さは中々に驚きですよね。作中ではほぼダネコと呼ばれていて印象に残りませんし。
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