超次元ゲイムネプテューヌ Origins Unknown   作:シモツキ

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第四十七話 決戦の号砲

 思えばアルテューヌ…もう一人のわたし、過去のわたしは、武力以外の形で積極的に干渉してきた。わたし自身にもそうだし、ネプギアにも、イリゼやセイツにも、くろめにも…結果として戦闘になったもの含めて、アルテューヌにはただ力で勝とうとするのとは違う意図があった。策謀の一環だったり、味方を増やそうとする考えがあったりするんだろうけど…もしかすると、ただ勝てばいい、ただ叩き潰せばいいとは思っていなかったのかもしれない。搦め手ってだけじゃなくて、アルテューヌなりに目指す形っていうか、目的を果たす為の道にも色々思いがあったのかもしれない。

 でも…時空の歪みが発生してからは、アルテューヌからの動きがない。アルテューヌは、何もしてこない。多分それは、もう小細工なんて必要ない、今は制御に集中するのみ…って事なんだと思うけども…そうじゃないような、気もした。アルテューヌ自身も気付かない内に、自分の中で何かが変わったか、変わってしまったか…そんなような気も、わたしはした。

 

「…………」

 

 夜の、プラネタワーのバルコニー。気持ち良い風が吹いたり、髪が滅茶苦茶になりそうな強風が吹いたりするここで、わたしは考えていた。静かに、ゆっくり、頭と心で考えて……

 

「何してるです?ねぷねぷ」

「うわぁ!?」

 

 いきなり聞こえた声に、仰天した。それはもうびっくりして、飛び跳ねた。

 

「わわっ!?ね、ねぷねぷ大丈夫です!?」

「も、もー…急に後ろから声掛けないでよー。びっくりし過ぎてわたし、二段ジャンプとかしそうになっちゃったよ…」

「何で驚くと二段ジャンプするのよ。っていうか二段ジャンプ出来るの?」

「失礼な、わたしは女神だよ?二段ジャンプも二段階右折もわたしにかかればちょちょいのちょいだからね?」

 

 袖で額を拭うジェスチャーをしながら、わたしは振り返る。声で分かってはいたけど、呼び掛けてきたのはこんぱで、隣にはあいちゃんもいた。…実際二段ジャンプ出来るかって?んー…それは秘密です、なーんてね。

 

「でも実際、声掛けるタイミングは気を付けてね?ほら、わたし手摺りに手を掛けてたでしょ?バルコニーの端にいたでしょ?こんな状況で驚いたらわたし、転落のカルマに引かれて落っこちちゃうって事は覚えておいて」

「真面目な顔で何訳の分からない事言ってるのよねぷ子は…もっとシンプルに、驚いたら危なそうなタイミングでは声掛けないでね?…でいいじゃない」

「いいや駄目だね!当たり前の事を普通に言うなら誰でも出来る…おかしな事を堂々と言うからこそのわたしなんだよ!」

「確かに今の貴女は、おかしな事を堂々と言ってるわね…」

「ある意味ねぷねぷらしさに溢れてるですね…」

 

 両手を腰に当てて胸を張れば、返ってくるのは二人の呆れ声。それにわたしはあっはっはと笑って返して、それからこんぱの最初の声、わたしへの呼び掛けの内容を思い出す。

 

「で、えーっと…わたしが何をしてるか、だっけ?」

「あ、はいそうです。夕涼みをしていたところです?」

「んーん、ちょっと考え事…っていうか、頭の中でのシミュレーションかな」

『シミュレーション?』

「うん。アルテューヌと戦う時の、ね」

 

 首を傾げる二人に頷いて、答える。わたしだって、いつもふざけてたり、面白い事を考えてたりする訳じゃない。真面目に考える時だってあるし、戦いに向けて色々想定したり、プランを練ったりする事もある。

 それに相手はアルテューヌ。他でもない、わたし自身。だから、どんな相手よりもずっとしてくる動きが思い付く。けどそれも、前にくろめがしてくれたアドバイスのおかげ。…あ…それで言うと、あの時ネタバレしなきゃ良かったな…もしネタバレしなかったら、「自分だったら、って考えれば相手の考えが読める。だって相手も自分なんだから」…って考えをアルテューヌが持てなくて、その分わたしが有利になってたかもしれないし…。

 

「そうだったんだ…ごめんなさい、それなら邪魔しちゃったわね」

「大丈夫、大した事は思い付いてないから!」

「あ、それを自分で言っちゃうんですね…」

「常にオープンなわたしですから!ふふん!」

 

 別に隠す事でもないしね、とわたしは笑う。それよりわたしが正直に言う事であいちゃんの申し訳ないって気持ちが薄れてくれるなら、そっちの方がずっと嬉しい。

 

「じゃあ、ねぷ子。…勝てそう?」

「勿論!…と、言いたいところだけど…うーん、どうなんだろうね…」

「不安なんです…?」

「あ…ううん、そういう事じゃないよ。そうじゃなくて…勝ってはい終わり、で良いのかな…って思ってさ」

 

 ふるふるとこんぱの言葉に軽く首を横に振って、ずっと考えていた…っていうか、頭の中で引っ掛かっていた思いを口にする。

 負けてもいい訳じゃない。勝たなきゃいけない。だけど、勝ったらそれで万事解決かって言われると…それは違うような気がする。…まぁ、だからって「ならどうするの?」ってなったら、それはそれでうーん…って感じなんだけども。

 

「ふぅん…ま、ねぷ子らしいわね」

「ですね。これまでだって、ねぷねぷはそうだったんですから」

「でしょー?…けど、これまでとは違うんだ。確かにわたしは、マジェコンヌの時もくろめの時も、ただ倒すのとは違う道を探して、皆でそれを選んだけど…そういう事じゃ、ないの」

 

 またわたしは、そうじゃないと二人に返す。きょとんとする二人に向けて、言葉を続ける。

 

「わたしも上手く言えないんだけどさ、なんていうか……責任、みたいなのを感じてるんだ。だって、わたしの事だから。アルテューヌも、わたしだし…もしわたしが記憶を取り戻していたら、アルテューヌって存在が生まれる事も、戦いも起こらなかった筈だから」

 

 責任。自分で言葉にした事で、しっくりとくる。わたしはアルテューヌに、アルテューヌって存在に責任を感じているんだって、実感する。…これは、良いとか悪いとかじゃない。わたしの感じる、わたしの抱いた、自然な意識。

 

「…だから、この責任を取る…うん、そうだ。わたしは、わたしにとってアルテューヌとの戦いは、自分の選んだ道に対する責任と、それへの決着の戦いなんだよ。だから、アルテューヌはマジェコンヌやくろめとは違う。自分だからこそなのかもしれないけど…二人と同じようには、思えないかな」

「…ねぷねぷ…でも、それは……」

「ありがと、こんぱ。…大丈夫だよ。わたしは責任を感じてるけど、負い目とか、何が何でもわたしがやらなきゃ…!…的な風に感じてる訳じゃないから。自分の事は、ちゃんと自分でケリを付ける。むしろ、自分の事なんだから、他人任せにしたくない…そう思うのは、おかしな事じゃないでしょ?」

「そりゃ、そうだけど…結果論なのは、理解してる?確かに元を辿ればねぷ子の選択が原因なんでしょうけど、原因は原因であって、理由じゃないわ。お店で最後の一つを買ったからって、自分が買えなかった人から文句を言われる筋合いはないのと同じように、ね」

「だよね。だからこれは、納得の問題だよ。わたしが納得出来るかどうかの問題。ほら、言うでしょ?納得は全てに優先するぜッ‼︎って」

 

 こんぱもあいちゃんも、わたしを心配してくれる。直接言葉にはしないけど、責任を感じなくていい、自分のせいだなんて思う必要はない…そんな風に、思ってくれる。…嬉しい。そういう風に思ってくれる、気に掛けてくれる友達がいる事は。やっぱり持つべきものは友だよねって、心から思う。

 だけど、わたしの中にあるのはマイナスの気持ちじゃない。わたしが抱いているのは、自分の手で決着を付けたい、付けて前に進みたいっていう、プラスの気持ち。だからわたしは笑ってみせる。無理にじゃなくて、作るんでもなくて…気持ちをそのまま表すように、二人に向けてにっと笑う。

 

「…納得…ねぷねぷ、納得は出来そうです?」

「うーん…どうだろ。アルテューヌを倒して、ケリを付ける…これは譲れないけど、果たしたからって起きた事がなかった事になる訳じゃないし…でもだからって、だからまぁいっかー、とも思えないんだよね」

「ま、責任感ってそういうものだしね。…しっかし、ねぷ子の口からこんな殊勝で女神らしい言葉を聞く日がくるなんてねぇ」

「む、酷いなぁあいちゃんは…って言いたいところだけど…正直同感だったり」

「あはは、ねぷねぷ自身がそう思っちゃうんですね。…わたしもそう思うです。ちょっと前から、少し変わったかなって思ってたですけど…今はもっと、そう思うです」

 

 暫く前の、これまでのわたしだったら、こんなの言う事も、考える事もしなかった気がする。わたしはわたしらしくいるのが一番!…そんな自分に都合の良い考えを盾にして、盾にしてるって自覚すらしないまま、周りを頼っていた。嫌な事、面倒な事を、皆に押し付けていた。

 だけど、くろめの力で見た夢の中で、そんな自分に気付いて、変わろうと思った。大博覧会のプレオープンで、失敗を重ねて、皆から自分がどう思われているかも知って、漸く自分の現実が見えた。アルテューヌの存在は、わたしの…駄目なわたしそのものの否定な気がして、辛くて、苦しくて、絶望して…だけどノワールに、皆に支えられて、もう一度自分を信じる事が出来るようになった。諦めるんじゃない、開き直るんでもない、自分の駄目な部分は受け入れて、それを一つ一つ、少しずつ直していこうっていう、当たり前の事を考えられるようになった。…今だって、そう。女神の務め、女神の責任、女神としてやらなくちゃいけない事…そういうのを、理想とか熱意とかだけじゃなくて、もっと周りの事や先の事まで考えて見つめる事が出来るようになった……気がする。

 

(…って、それはまだ考え過ぎかな。…まだそれは、目標だよ。女神として目指す先で…そこに、一歩一歩進んでいくんだ。一歩一歩、一つ一つ、よく考えて進むしかないんだ)

 

 調子に乗りがちなのが、わたしの悪い癖。自分も周りもちゃんと見えていなかったのに、一気に大きく進もうとしたから、プレオープンでは失敗だらけになっちゃった。思いっ切り転んじゃった。高く跳びたいなら、跳ぶ為の身体作りと、ちゃんとした助走が必要…そんなの、ほんと当たり前の事なのにね。

 振り返れば振り返る程、わたしって駄目だなぁ、よくこれまで何とかなってたよなぁ…って思う。…だけど、気付けたんだから直せる。気持ちだけじゃなくて、しっかり何がどう駄目で、どうしていかなきゃいけないのか、考えてやれる。…そういう意味では、良い事じゃ全然ないけど…わたしの失敗も、アルテューヌの事も、無駄じゃない…よね。

 

「ね、こんぱ、あいちゃん。わたし、この戦いが終わったら、大博覧会の本番に全力を注ごうと思うんだ。わたしが始めた事を、投げ出さない為に。今も頑張ってる皆の思いが、その頑張りが、間違いなんかじゃないって証明する為に」

「…ねぷ子、あんたそれは……」

「思いっ切り、死亡フラグですぅ…」

「へ?あ、ほんとだ!?分かり易い死亡フラグじゃんこれ!え、わたし死ぬの!?ネプテューヌ死すでデュエルスタンバイなの!?」

「いや知らないわよ、言ったのはねぷ子なんだから…」

 

 まさかの無自覚死亡フラグに自分自身でぎょっとするわたし。こ、このわたしが死亡フラグ…しかもこんな分かり易いのを無自覚に言っちゃうだなんて…。…これまで「いやそれ死亡フラグじゃん!言ってる人気付こうよ!」…とかよく思ってたけど、実際に死亡フラグを立てちゃう人も、こうやって無自覚の内にやってるのかな…。

 

「でも、そういう考えは良いと思うです。病気や怪我も、それを治す事だけを考えるより、治った後にやりたい事、頑張りたい事を考える方が、前向きに頑張れるものですから」

「へぇ、コンパそうなの?」

「わたしが診てきた人の話ですっ」

「あぁ、統計的なデータがあるとかじゃないのね…けど、一理あるかも」

 

 ぐっ、と胸の前で両手を握るこんぱの自信満々さに、わたしとあいちゃんは苦笑い。でも確かに、それは本当な気がする。まあ、今のわたしは最初から前向きだけどね!

 

「ふぅ、ありがとね二人共。二人と話したおかげで自分の中にあったものが纏まったし、なんだかすっきりしたよ」

「ふふっ、それなら良かったです」

「えぇ、一人で黄昏れてるのかと思ったけど…思ってた以上に大丈夫そうね」

「…って事は、もしかして心配掛けちゃった?」

 

 あれ?と思って訊き返せば、二人は顔を見合わせて肩を竦める。どうもほんとに心配掛けちゃってたみたいで…まぁでもそうだよね。ちょっと前までわたし、キャラ崩壊レベルでアレな状態になってたし、今だってネプギアもイリゼもいない訳で…。…うん、だから今は、わたしにとっても取り戻す戦いなんだよね。アルテューヌにとっては、自分のものだった筈の未来を、わたしにとっては大切な『今』を、勝って取り戻す…その為の、戦いになる。

 

「こんぱ、あいちゃん。きっとまた、大変な戦いになると思う。何がどうなるか分からない部分も多いと思う。だけどわたし、頑張るから。わたしに出来る事を、精一杯やるから。だから……」

「はいです!」

「任せなさい」

「…んもう、まだ最後まで言ってないのに…えへへ」

 

 力を貸して。…そう言う前に、二人は答えてくれた。いつものように、いつもと同じ調子で…わたしに笑ってくれた。

 

(…ああ、そっか)

 

 そんな二人の笑顔で、わたしは気付く。こんぱもあいちゃんも、わたしを女神だと知らないまま、わたしと友達になってくれた。こんぱは元々『女神パープルハート』を信仰してくれてたらしいし、あいちゃんもわたしが変身…女神化出来るって知った時点でもしかしたらって思ってたらしいけど、二人共わたしをパープルハートとしてじゃなくて、『ネプテューヌ』としてずっと見てきてくれて…今も、友達でいてくれている。女神としての部分も、駄目駄目な部分も、あれから色んな姿を見せているけど…それでも変わらず、あの頃と同じように接してくれている。

…それで、良かったんだ。わたしは女神として、ネプギアの姉としてって色々考えて、自分の悪いところばっかり見ていたけど…最初からここに、ただのネプテューヌ、記憶喪失のわたしの歩みを知っている、今も一緒にいてくれる…こうして全部見てきた上で、変わらず力になってくれる友達がいたんだから。たったそれだけで、わたしは駄目駄目だけど、それだけじゃないんだって、気付けた筈なんだから。

 

「よーし、頑張るよー!エイ、サメ、マンター!」

「……?えぇと…えいえいおーじゃないそれは、何の掛け声です…?」

「なんか似てるよね四天王!」

「一種類足りなくない!?」

 

 気持ちの良い突っ込みを受けて、わたしはバルコニーの手摺りから離れる。へっへっへー、と気分良く笑う。

 アルテューヌとの戦いは、わたしにとって責任を取る、ケリを付ける戦いになる。多分勝ってすっきりする戦いにはならないし、満足のいく決着を付けられるかどうかも分からない。だけどわたしは勝つ。勝って、未来を掴んで…進むんだ。駄目駄目なわたしの、わたしなりの…一歩一歩、地面を踏み締めて歩く道を。

 

 

 

 

 朝の光が、神生オデッセフィアの大地を照らす。夜の闇から塗り替える、暖かな光が広がり大地を包んでいく。

 

「…すぅ…はぁ……」

 

 その光を感じながら、ゆっくりとわたしは深呼吸。手を握って、開いてを数度繰り返し…今の自分に、力が満ちているのを確かめる。

 

「セイツ、肩はもう大丈夫?」

「見ての通り、ばっちりよ。万全万端、今なら激突ショルダーだって出来ちゃうわ」

「それは凄い…の、かしら……」

 

 反応に困るネプテューヌへ、冗談よと軽く笑って返す。実際、もう肩には何の痛みもないし、違和感皆無で動かせる。気持ちは勿論、体調としても今のわたしは遺憾無く全力を発揮出来る。それに、万全の状態なのはわたしだけじゃない。

 

「ロム、ラム、ちゃんと寝た?寝不足だったとしても、それを言い訳に雑な戦いをする事なんて出来ないわよ?」

「ん、だいじょうぶ。全力、出せるよ(ぎゅっ)」

「わたしだって、ぜんぜん何にももんだいないわ!」

 

 胸の前で右手を握るロムちゃんと、左手で自信満々に胸を叩くラムちゃん。どうやら万全万端ばっちりの状態なのは、女神候補生の三人にも同じなようで…うん、安心するわね。三人共、ネプギアの事を気にしていない…訳がないけど、その上で自分を万全の状態に整えられているのなら、それは単に万全の状態である以上に、頼もしい。

 当然、万全なのはネプテューヌ達守護女神組も同じ事。何なら怪我が完治するまで十分に動けていなかったわたしが、相対的に見れば一番コンディションが悪い可能性すらあったりする。

 

「それじゃあ、最終確認…は、もう既にやってるものね。だからこうして、皆女神化した状態で外に出てる訳だし」

「…なんか、説明口調だな」

「最終確認は既にやってる、なんて普通はわざわざ口にするまでもない言葉ですものね」

「きっとここでぱぱっと今の状況を表現したかったのよ、気にしないであげましょ」

「ちょっと!?そんな立て続けに突っ込んでこなくたっていいでしょう!?」

「セイツも段々イリゼみたいになってきたわね」

「ほんのり微笑みながらそんな事言わないでくれる!?」

 

 ブラン、ベール、ノワールによる立て続けの冷静な突っ込みと、フォローでも何でもないネプテューヌの追い討ち。その明らかな連携攻撃(?)に、思わず悲鳴じみた突っ込みをしてしまうわたし。くっ、くぅぅ…何なのこの敗北感は…!イリゼも仲間内じゃこういうポジションなの…!?……イリゼと一緒っていうのは、悪い気はしないけど…。…と、とにかく不服だわ…凄まじく不服だわ…!

 

 

……まぁ、神次元でもこんな事あったような気がするけど…そういう意味じゃこっちもあっちも大して変わらない可能性が高いけど…。

 

「…こ、こほんっ!そんな話はいいのよ、そんな話は。今はそれより、やるべき事があるんだから」

「まあ、そうね。…皆、いつもこういう地味な役回りを頼んじゃってごめんなさい。でも、わたしの…わたし達の国は、任せるわ」

 

 咳払いで無理矢理軌道修正をすれば、肩を竦めたネプテューヌがインカム…ではなく、映像通信で各国にいるパーティーの面々や、教祖や黄金の第三勢力(ゴールドサァド)の皆へと呼び掛ける。

 これからわたし達は、女神総出で突入をする。これまでと同じように、わたし達が留守の間は皆や各国の国防軍に国を任せる形になる。ネプテューヌは地味な役回りと言ったし、実際何もなければただ待機しているだけ、戦場から離れた場所で待つだけの、焦ったい役回りではあるけど…そもそも女神は人を、国を護るもの。それこそが、女神の本懐。だからこそ、皆は信頼のおける皆に国を任せているんだし…仲間の中では新参者のわたしも、もうどれだけ皆が頼りになるかって事を理解している。

 

「イストワール、クロワール、調子はどうだい?」

「問題ありません、いつでも出来ますd( ̄  ̄)」

「まぁ任せとけよ、こっちも十分打ち合わせはしてきてるからな」

「大きいねぷっちも頑張ってくれよ?」

「うん!何をどう頑張れば良いのかさっぱり分からないけど、大船に乗ったつもりで期待してて!」

 

 そして、ある意味一番重要な…最も代わりの効かない役目を担うイストワールとクロワールの二人も、準備は万端な様子。…そこからの大きいネプテューヌの発言は、それの一体どこに期待や安心を持てっていうの…って話だけど、実のところそんなに不安はない。何せ、大きいネプテューヌの役目は二人のサポート…もっと言えば、安定感皆無ながらも次元を渡る能力を得た大きいネプテューヌを『力の足し』にしようというクロワール発案の単純な話で、大きいネプテューヌはただいるだけ、その力をクロワールが勝手に活用するだけ…という事らしいから、恐らく気にする事はない…と、思う。

 

「皆も勿論、準備は……いいや、訊くまでもなかったわね。…イストワール、クロワール、始めて頂戴」

 

 最後に皆にも…そう思ったわたしは、言葉を途中で打ち切る。訊くまでもない、初めから訊く必要なんてない…そんな空気と雰囲気を感じ取ったからこそ、わたしは視線を二人へ向けて、頷いてみせる。

 二人もまた、頷きを返す。大きいネプテューヌも、びしっとピースサインを決めてみせる。そしてイストワールとクロワールは勿論、大きいネプテューヌも真剣そのものな表情になり…始まる。三人の、三人にしか出来ない、大仕事が。

 

「道筋は俺が開く。合わせろイストワール。ネプテューヌは…黙って俺に力を貸せ」

「えぇ、お願いします…!」

「ひゅぅ、クロちゃん今の台詞俺様系キャラみたいで格好良い!…わたしの負担なんて気にせず、持ってけるだけ持ってってくれて良いからね」

 

 半円状に設置された機材の内側で並んだイストワールとクロワールは、両手を前に出して目を閉じる。大きいネプテューヌは、クロワールの本に軽く触れる。そして全員が口を噤み…静寂が、訪れる。

 漂うのは緊張感。聞こえてくるのは、散発的に吹く風の音だけ。誰もが固唾を飲んで三人を見つめ…その三人の正面、何もない空間が歪み始める。

 

(やっているのは、これまでと似たような事。けど、やっぱり…見てるだけでも緊張するわね…)

 

 時空の歪みは文字通り時間も空間も歪んでいる、信次元の正常な状態とは噛み合わなくなってしまっているが故に、性質としては別次元…というより、次元の狭間の様な空間に近くなっている。だからこれまで天界の街から脱出する手段としてやっていた『一度別次元を経由してから戻る』という形を取る事なく、直通で繋げる事が出来る…というのは、クロワールの弁。完全に、本当にクロワールはわたし達の味方として立ち回っていて…もしここまでの事が全て策略で、開いた瞬間アルテューヌ達が強襲…となったら不味いけど、というより戦力を集結させているここへ仕掛けてくるならまだしも、この機に別の場所を狙われるとかの方が更に不味いけど…多分、そういう事はない。それは、そんな事があったら、クロワールは大きいネプテューヌと『楽しくいる』事なんて出来ないし…きっともうクロワールは、わたし達を裏切る事はあっても、大きいネプテューヌを裏切る事はない。今のクロワールからは、そう思えた。

 

「ここまでは予定通り…だが、大変なのはこっからだ。気張れよ…!」

 

 歪みは渦巻き、深まっていき、次元の扉の様になる。けれど、それはまだ完成じゃない。そう示すようにクロワールは鼓舞し、更に集中していく。…わたし達に出来る事は、何もない。集中を邪魔してしまう可能性を思えば、下手に応援の声を上げる事も出来ない。

…でも、大丈夫。きっと大丈夫。クロワールの経験値は伊達じゃないだろうし、大きいネプテューヌは…『ネプテューヌ』である事を思えばなんかちょっと期待出来る。そして何より、イストワールはわたしの姉なんだから。わたしとイリゼの、お姉ちゃんなんだから。だったら大丈夫。頼もしさしかない。

 だからわたしは、わたし達は見守る。見守り、待つ。三人を、広がっていく扉を見つめ……その瞬間は、訪れる。

 

『……っ…これは…』

 

 一気に拡大し、巨大なものとなった次元の扉。いっそ迫力すら感じるそれは…言うなれば、門。

 

「…出来ました。この先にあるのは、時空の歪み、その内側です」

「お疲れ様、イストワール。それに大きいネプテューヌと、クロワールもね」

 

 ゆっくり振り返り、はっきりと完成を口にしたイストワールの側へわたしが寄れば、イストワールは脱力する。その表情には、明らかに疲れの色が浮かんでいて…大きいネプテューヌも、緊張が解けた様子でその場にすとんと座り込んでいた。一方でクロワールはまだ余裕がある様子だけど、そんなクロワールも「ふぃー…」と、安堵したような吐息を漏らしていた。

 

「イストワールさん、ここを通る上で気を付けるべき事とかは……」

「特にはない…筈です。ですよね?(。-∀-)」

「そうだな。感覚的にゃ、普通の次元の扉と同じだ。…あぁいや、一つだけあったな」

「と、いうと?」

「準備は整えたとはいえ、これは結局のところ無理矢理開いてるだけだ。規模がデカい分、影響だって大きくなる。だから、そう長くは開いてられねぇんだよ」

「影響、か…俺には予想も付かねぇが、逆に言えば女神でもそういう専門家でもない俺には予想も付かない何かが起こりかねない…って事だよな」

 

 訊き返すノワールに向けて、クロワールは肩を竦める。開く事は出来た。通る上での問題もない。ただ、長時間の維持は出来ない、する訳にはいかないと、言い方は軽い調子ながら、真面目な表情を浮かべて言う。…確かにそれは、頭に入れておくべき情報ね。……でも。

 

「そういう事であれば、気にする必要はありませんわね」

「どっちにしろ長い間開いてなきゃいけねぇ理由なんざねぇし…今更躊躇う事もねぇ、って話だしな」

「ま、そうだわな。…んじゃ、俺の仕事はこれで終わりだ。後はじっくり、戦果の報告でも待たせてもらうぜ?」

「わたしは皆に着いて行くよ!…って言いたいところだけど、へろへろ過ぎてちょっと無理かも…だからクロちゃんと一緒に、待たせてもらうね」

「大きいねぷっちは元からこれの担当だったろ?自分のやるべき事はばっちり果たしたんだ、気にせず休んでてくれよな」

「オレ達には出来ない事をやったんだ。それだけで十分胸を張れると、オレは思うよ」

 

 そう。必要なのは次元の歪みの内側へ突入出来るようにする事であって、出入り口を維持する事じゃない。突入と…その前の『お膳立て』さえ出来れば、それで十分。だから、ここからは…わたし達の、仕事。

 

「…皆、念の為訊いておくわね。もう確認しておきたい事、準備し忘れたような事は、何もない?」

「ないわ、なーんにもね!」

「いつだって、行けるよ…!」

 

 臨戦態勢のラムちゃんとロムちゃんに続いて、皆もわたしからの問いに頷いて返す。そんな皆を見回して…わたしは、振り向く。軽く地面を蹴り、宙に上がって…インカムを起動させると共に、声を響かせる。

 

「皆、予め説明を受けていても尚、目の前の者が信じられない…そんな者もいるとは思うわ。けれどこれは、確かにここに存在している。そしてこの先にあるのは、別の空間…そこに神生オデッセフィアの守護女神、その身を呈して国民を守った、オリジンハートが囚われているわ!…いいや、違うわね。ただ囚われているんじゃない、今もオリジンハートは耐えているのよ!諦める事なく、折れる事なく、皆の思いに応える女神として懸命に踏み留まっている。そんなオリジンハートを取り戻すのは、このわたしレジストハートの、わたし達女神の務め?…まさか、違うわ。大違いよ。取り戻すのは、わたし達と…貴方達皆よ!オリジンハートの奪還は、貴方達の力があって初めて実現するわ!だから、わたしに力を貸して頂戴!わたしと共に、オリジンハートを…わたし達の守護女神を、取り戻しましょうッ!」

 

 わたしは告げる。呼び掛ける。女神の皆じゃない。イストワール達でもない。国民の皆…国防軍の皆へ向けて、わたしの思いを届ける。呼び掛け、求め……闘志と気合いに満ちた声が、無数の叫びが、答えとなって轟く。わたしの鼓膜を震わせる。

 当然、これは作戦行動。ここに集まった軍人は皆、軍務として、仕事としてここにいる。けれどそれだけじゃない、ただそれだけの為にここにいるんじゃない…轟いたのは、そんな声だった。そんな、思いだった。

 そしてそれは、その熱は、他でもないイリゼが築き、結び、掴んできたもの。姉としては誇らしく…同じ女神としては、少しだけ羨ましく悔しくもある、信仰の熱。

 

「ありがとう、皆!ならばまずは、道を切り開くわよ!どんな障害だろうと何だろうと薙ぎ倒して、オリジンハートへと繋がる道を!」

 

 左手と右手、両の手に二振りの得物を顕現させ、二つの剣を連結させる。正面に掲げ、門を…その先を見据える。

 

「わたしに、神生オデッセフィアが女神の一柱、レジストハートに続け!全艦、砲撃開始ッ!」

 

 高らかに響かせ、門へ向けて圧縮シェアエナジーの弾頭を放つ。不可視の砲弾、凝縮されたシェアエナジーの砲撃が門へと飛び込み…遥か後方から、光芒が駆け抜ける。電磁投射の砲弾が、噴射炎を靡かせるミサイルが、無数の艦砲と長距離攻撃兵装による砲火の掃射が飛来する。わたしの指示の下、わたしの宣言の下、神生オデッセフィア国防軍艦隊…人の技術と努力の結晶たる戦闘艦艇の大部隊から、鮮烈にして強烈な猛攻が叩き込まれる。

…人の叡智は、争う為のものじゃない。それだけの為に費やす程、人の有する可能性、進歩の力は矮小じゃない。それでもやっぱり…圧巻だった。人の持つ力の強大さ、女神の持つ高みへの可能性は、女神を生み出す人の可能性があってこそなんだと、わたしの心は感じていた。

 

「さぁて、行くわよ皆!わたしの国民は皆優秀よ、何も心配する事はないわ!」

「上機嫌ね、セイツ。…けど確かに、神生オデッセフィアの人達がこんな派手に送り出してくれてるんだもの、情けない姿は見せられないわね…!」

 

 得物を二振りの状態に戻し、斜め十時に振るって見栄を切ってから、わたしは門へと向かう。艦隊の砲火が彩る花道を進んで、門の先…時空の歪みの内側へと突入していく。

 わたしの後ろに、ネプテューヌが、皆が続く。けれど射線上にいるからって、艦隊が皆を撃ってしまうような事はない。だって、わたしとイリゼの国の国民は、誰もが優秀で聡明なんだもの!…とは勿論思っているけど、それだけじゃなくて、これはきっちり打ち合わせた上での事。ちゃんと砲撃の『穴』を作って、そこへ飛び込む形でわたし達は飛んでいる。だから、必要なのは恐れない事のみ。そしてその点において、わたしは何の準備も、心構えも必要ない。国民を、その腕を信じる事なんて、片時も忘れた事なんてないんだから。意識するまでもなく、自然で当たり前の事なんだから。

 

(皆の思いは、わたしが背負うわ。背負って、必ず…イリゼを、取り戻す)

 

 駆け抜け轟く砲撃と共に、わたしは門へ、その先へと突入する。それと共に、深く誓う。必ず取り戻すと。この思い、皆の思いを…わたし達が、イリゼへ届けると。

 

 

 

 

 時空の歪みの制御。それを得る為には、時空の歪みの在り方を知り、理解しなくちゃいけない。そして理解するという事は、何が出来て何が出来ないのか、どんな事が起きて、どんな事を起こせるのか…それも把握出来るという事。

 もしクロワールさんが離反をしなければ、把握しても、それをどうこうする事はなかったかもしれない。そんな事より、制御を得る事を第一に考えていたかもしれない。だけどクロワールさんの離反が、アルテューヌさんの意識を変えた。外とは隔絶された領域…ただそれだけじゃなくて、更に深いところにまで、アルテューヌさんの目を向けさせる事へと繋がった。

 

「…………」

 

 目を閉じ、静かに意識を集中させるアルテューヌさん。微動だにしないその姿は、隙だらけにも、寸分の隙もないように見えて…その必要なんかないのに、思わず見ているだけのわたしも緊張してしまう。ずっと見ていると、息が詰まりそうになる。

 

「…ネプギア、わたしの事は気にせず休んでいてもいいのよ?」

「あ…気付いてたんだね、わたしの事…」

「ずっと見られていれば、視線の一つや二つ感じるわ」

 

 分かってたんだ…とわたしが頬を掻けば、アルテューヌさんは小さく息を吐いて目を開ける。ふっ、と緊張感も消え去って…アルテューヌさんは、軽く手を振る。すると次の瞬間、振った先に何体ものカオスモンスターが姿を現す。

 

「……!これは……」

「この時空内の座標関係は大方掴めたわ。歪んでいる…ってクロワールは言っていたけど、実際には『形が定まっていない』と言うべき状態みたいね。だからこうして、わたしが影響を与えられる対象なら自在に転移させる事が出来るし、時間の流れ…経過にも干渉出来る。…不幸中の幸いって言えばいいのかしらね。それとも、怪我の功名って言った方がいいのかしら」

「…お姉ちゃん、クロワールさんの事は……」

「大丈夫よ。惜しいし向こうに付いたっていうなら厄介だけど、おかげでわたしはより万全の状態を整える事が出来た。それに…信用出来ていなかったのは、恐らくお互い様だもの」

 

 数度手を振って、その度にカオスモンスターを転移させたアルテューヌさんは、最後に消す。けど多分、消滅させたんじゃなくて、どこか別の場所に飛ばしただけ。

 それと共に語るアルテューヌさんの顔に、曇りはない。クロワールさんの事を知った時には驚いていたけど…今はもう、それを気にしているようには見えない。

 

(…悲しいな、それは……)

 

 もしそれが、言葉通りの理由なら、だから最初から「裏切り」の可能性を頭の隅で考えていたからなら、驚きはしても、ショックは受けないというのも理解出来る。…出来るけど、悲しかった。同じものを目指して、協力していた間柄なのに、お互いに信用出来ていなくて、だから裏切られる…離れていってしまう事も、可能性として考えていたなんて、そんなのは悲しい。

 だけど、アルテューヌさんに悲しむ様子はない。わたしの前だから、そういう態度を見せないようにしている…のかもしれないけど、本当に悲しんでいないのなら…そこは、お姉ちゃんとは違う。同じ『ネプテューヌ』なのに、はっきり違うと言えてしまう。そして…何となくだけど、分かる。記憶喪失になる前のお姉ちゃんは、そういう性格だった…訳じゃないって事は。カオスエナジーの影響かもしれない。記憶を取り戻さない事で、存在として否定された結果なのかもしれない。わたしには思い付かないような理由があるのかもしれない。理由は分からないけど…絶対に何かあるって、元からこうだった訳がないって、わたしには分かる。

 

「…ねぇ、お姉ちゃん」

「何かしら、ネプギア」

「お姉ちゃんがこのまま過去の改変に成功して、未来を変えられたとして…その先の事を、どんな風に思い描いてる?」

「その先?…そうね、それは……」

 

 わたしは問う。過去を変えた先の事、新たに描く未来の事。問われたアルテューヌさんは、少しの間考えて…それから、少し困ったような顔で言う。

 

「…思い付かないわ。勿論女神として、為すべき事を為すって思いはあるけど…ずっと存在しないものになってたからか、そんな事考える余地もなかったからか…考えても出てこないっていうのが、実際のところよ」

「…だったら、それは……」

「だけど、二つだけ譲れない事があるわ。もう一人のわたしから、『ネプテューヌ』を…わたしの未来を、取り戻す事よ」

「……っ…」

 

 何も思い付かない。はっきりとしたビジョンが…やりたい事や、叶えたい事がない。…だったらそれは、過去改変が成功する事が、アルテューヌさんの幸せにはならないんじゃないか。過去改変に成功した時点で、自分を取り戻した時点で、アルテューヌさんは燃え尽きてしまうんじゃないか…そんな風にわたしは思った。不安になった。…けれど、言えなかった。取り戻す事への、強い意思…執念の様にも感じる思いを、目の前で見てしまったから。或いは……怨念と言った方が、いいのかもしれない。存在を否定された、自分も未来も断たれたところから始まった『アルテューヌ』さんの思いを表す言葉は、もしかしたらそれが一番正しいのかもしれない…そんな風にすら、思えてしまった。…でも……

 

「…じゃあ、もう一つは……?」

「ふふっ、もう一つは…またネプギアと、プリンを食べる事よ。それも今度は、もっとゆっくり…ね」

(あ……)

 

 そう言って、アルテューヌさんは微笑む。自然に、わたしに笑ってくれる。数秒としない内にはっとした顔になって、誤魔化すようにこほんと咳払いをしてはいたけど…今のは絶対に、嘘じゃない。だから、だから……やっぱりわたしは、アルテューヌさんを見捨てられない。支えてあげたいし…助けて、あげたい。

 

「…ともかく、わたしの『その先』は、わたしを取り戻して初めて始まるの。まだわたしは、スタートラインに立ててすらいないの。だから……」

「…うん。わたしは、力になるよ。わたしは、わたしが最後まで…お姉ちゃんを、支えてみせる」

 

 言葉と共に、わたしは胸の前で拳を握る。きっと、アルテューヌさんがその思いを果たしても、その先で幸せにはなれない。だけど怨念にも似た思いがある限り、アルテューヌさんは止まらないだろうし、それをわたしや誰かが止めたところで、やっぱり幸せになんてなれる訳がない。それにわたしも女神として…守りたいもの、守らなきゃいけないものがある。

 だったら、どうしたら良いのか。大切なもの、支えたいもの、助けたいもの…全部に手を届かせるには、どうすれば良いのか。…きっと、それは…アルテューヌさんの始まりが、お姉ちゃんに存在と未来を奪われた…自分には何も出来ない状態で、不当に奪われてしまったという心から始まっているのだとしたら、やっぱり……。

 

「……!…ネプギア、貴女はフラグ建築士の才能があるかもしれないわね」

「へ?な、何の事?」

「…この時空内に、穴が開いたわ。それも、大きな穴が」

 

 突然の指摘に困惑する中、アルテューヌさんが発した言葉。それで、それだけで、わたしは全て理解する。今の状態、今のこの領域に穴を開けられる存在なんて、そのやり方を理解してる人なんて、一人しか思い付かない。そして、わたしの考えている通りなら…これから起こる事も、一つしかない。

 

「…お姉ちゃん、わたしが打って出るよ。いいよね?」

「…えぇ。ネプギアの事だもの、何か考えがあるんだろうし…ネプギアなりに、色々細工してるんでしょう?」

「…まぁ、ね」

「だったら、構わないわ。だけど、わたしも隠れたりはしない。クロワールに離反されて、気付いたもの。確かに安全な場所に籠ってるだけなんて、わたしらしくないって。わざわざ打って出るつもりはないけど…仕掛けてくるなら、全身全霊で迎え撃つ…ただ、それだけよ」

 

 アルテューヌさんと頷き合い、わたしは場所を聞いて飛び立つ。普通に戦えば、わたしの想定通りなら、まあまずわたしは勝てない。勝てないというか、勝負にならない。だからアルテューヌさんの言った通り…わたしも、策を用意してある。

 

(あれは……)

 

 聞いた場所に近付く中で、わたしは気付く。その場所に、巨大な次元の扉…の様なものがある事に。恐らくそれが、アルテューヌさんの言う『穴』である事に。更にそれを包囲する形で、無数のモンスターが…消えていった天界の街と共に引き寄せられていった、カオスモンスターが展開している事に。

 恐らくそれは、アルテューヌさんが迎撃戦力として展開したもの。配備したカオスモンスター部隊は、友軍としてわたしの支援にでも役立てて…って事かな。…これだと、わたしの到着前に壊滅しちゃうけど…。

……なんて、何気なくそんな事を思っていたわたし。けれど、すぐにわたしは思い出す。ついさっきわたしはアルテューヌさんから、「フラグ建築士」と言われたばかりだった事を。

 

「……え?」

 

 不意に、何の前触れもなく、巨大な扉のすぐ側にいたカオスモンスターが吹き飛ぶ。まだ距離のあったわたしには、何が起きたのか分からなくて…直後、扉から閃光が迸る。膨大なエネルギーを収束させた何条もの光芒が、カオスモンスターの大群を縦に切り裂いて…続いて現れた砲弾が、ミサイルが、カオスモンスターを蹴散らしていく。数え切れない程のカオスモンスターが、巨大な扉から駆け抜ける非常識な程の『力』によって、為す術なく消滅していく。

 それが兵器の…それも艦船クラスの攻撃である事は、すぐに分かった。一隻や二隻じゃない、艦隊の砲撃だって、すぐさま理解する事が出来た。あまりの砲撃に、火力に、それが作り出す爆炎によって、巨大な扉周辺はもう何がどうなっているかすら分からなくて…そんな中で、一際巨大な影が、姿を現す。

 

「……っ!これは、アルカディア級…それに、このカラーリングは……」

 

 その巨大で堂々と時空の歪みの中へ姿を現したのは、戦闘艦。それも軍に通常配備されている汎用艦じゃなくて、実質的な教会の、女神の直属である特装艦。そして、その艦を包む色は、描かれた国章は……神生オデッセフィアのものだった。




今回のパロディ解説

・それは秘密です
それは秘密です‼︎のパロディ。しかし「それは秘密」というワードだけだと、生徒会の一存シリーズにおける、定められた一言を思い出しますね。テンション上がってきたー!…も同時に思い出します。

・「〜〜納得は全てに優先するぜッ‼︎って」
ジョジョの奇妙な冒険 スティール・ボール・ランの主人公の一人、ジャイロ・ツェペリの代名詞的な台詞の一つの事。でも実際、全てに優先…とまではいかずとも、納得出来るか否かは重要ですよね。

・「〜〜ネプテューヌ死すでデュエルスタンバイ〜〜」
遊☆戯☆王のアニメ(一作目)における、第百二十八話のサブタイトル及び、前話の次回予告のパロディ。しかしこのネタは有名過ぎて、逆にパロネタとして使ったら生存フラグっぽくなりそうですね。

・「〜〜激突ショルダー〜〜」
ギャグマンガ日和シリーズに登場するキャラの一人、松尾芭蕉の技(?)の一つの事。彼が使う技…的なものの中では、一番まとも且つちゃんとダメージが入りそうですね。あくまで比較的ですが。
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